【外感熱病弁証】
病邪が体内に侵入して起る発熱を主症状とする全身疾患をいい、八綱弁証・気血弁証・臓腑弁証・病邪弁証のすべてが含まれるが、とくに病邪弁証との関係が深い。外感熱病は主に細菌・ウイルスなど病原微生物の感染症に相当し、他に寒冷・暑熱・潮湿などの要因で発生する疾病も含まれる。現代医学的には気道感染・インフルエンザ・日本脳炎・ポリオ・流行性脳脊髄膜炎・耳下腺炎・伝染性肝炎など様々な疾患が考えられる。 外感熱病弁証は漢時代の「傷寒論」が基礎となり、これを発展させた「温病学」が清時代に完成したとされている。 ....................................................................................................... (1)外感熱病の特徴 【発熱】外感熱病における主症状で、邪正闘争による病理反応のひとつと考えられる。発熱の状態から正気と病邪の力関係を知ることができる。
【疾病の経過】病邪と正気の力関係で発病期・熱盛期・回復期の3段階に分けられる。
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....................................................................................................... (2)外感熱病の経過と治法 |
【邪盛正実】病邪に対して正気の抵抗が激しく、邪も正気も衰えていない。場合によっては正気が 邪を駆逐できる段階である。治法は攻法が主となる。 |
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(発病初期)発病初期の数日間に現れる症状で発熱・頭痛・悪寒・身体痛・脈浮などの表証が見 られ治法は解表。以後は次第に裏熱へ移行する。表熱と表寒の移行型や曖昧なものは辛温辛 涼両解表法を組み合わせる。(太陽病表証・衛分証) |
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風寒表証 | 悪寒・悪風・頭痛・関節痛が強く、発熱軽度 くしゃみ・鼻水・咳嗽・舌苔薄白潤・脈浮緊 又は浮緩、治法)辛温解表、処方)麻黄湯 桂枝湯 |
秋・冬によく発生し、感冒・上気道炎・気管 支炎・肺炎・インフルエンザなどの初期に 見られる。(表寒) |
風温表証 | 熱感又は軽い悪寒・高熱・頭痛・汗ばむ 口乾・咽喉痛・咽発赤・舌質尖辺やや紅 舌苔微黄又は白薄でやや乾・脈浮数、 治法)辛涼解表、処方)銀翹散 |
春・秋によく発生し、感冒・扁桃腺炎・気管 支炎・肺炎・インフルエンザ・耳下腺炎・急 性結膜炎などの初期に見られる。 (表熱・風熱表証) |
暑温表証 | 発熱・頭痛・体が重だるい・胸苦しい・無汗 又は微汗・舌苔白膩・舌質紅・脈軟数、 治法)解表清暑、処方)新加香需飲 |
夏によく発生し、感冒・日本脳炎・流行性 脳脊髄膜炎などの初期に見られる。 |
湿温表証 | 熱感・体表部は熱が感じられない・頭脹り 重い・体が重だるい・関節だるく痛い・舌苔 白膩・脈軟緩、治法)解表化湿、処方) 霍朴夏苓湯 |
雨季や湿気の多い気候でよく発生し、感 冒・インフルエンザ・関節リウマチ・伝染性 肝炎・尿路感染症などの初期に見られる |
秋燥表証 | 発熱・鼻や口乾燥・咽の乾燥と痛み・乾咳 舌苔薄白乾・脈浮数・悪寒強く脈浮緊は 涼燥・熱感強く口渇し脈浮数は温燥、 治法)宣肺潤燥、処方)杏蘇散・桑杏湯 |
秋や乾燥期によく発生し、感冒・ジフテリア ・ポリオなどの初期に見られる。 |
(熱盛)熱性病の極期に相当し、病邪との闘いが激烈で高熱・発汗・口渇・熱感など裏実熱の症状 が見られる。悪寒はなく表証も消失する。(陽明病・気分証) |
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気分初熱 | 熱感・胸暑苦しい・口渇・舌質紅・舌苔微黄 脈数、治法)清熱透表、処方)梔子鼓湯 |
表証から裏証へ移行し感染症の中期に見 られる。 |
肺胃熱盛 | 高熱・咳嗽・黄痰・咽喉痛・呼吸促迫・口渇 舌質紅・舌苔黄・脈数、治法)清熱宣肺、 処方)麻杏甘石湯 |
急性気管支炎・肺炎・扁桃炎で見られる。 |
気分熱盛 | 高熱・悪熱・発汗・口渇し冷水を多く飲む イライラ・顔面紅潮・口唇乾燥・舌質紅乾 舌苔黄乾・脈洪大、治法)清熱生津、 処方)白虎湯 |
全身的な炎症とともに脱水を来す。主薬は 石膏・知母で気虚があれば党参・人参を 少量加える。 (気分大熱・陽明病経証) |
腸胃熱結 | 高熱(午後上がる)・腹痛・腹部膨満・圧痛 強い・便秘が主で口渇・イライラ・顔面紅潮 意識喪失・うわごと・裏急後重・少量頻回 の下痢・粘液の混入した血性便・舌質紅 舌苔黄厚乾・脈沈有力、治法)清熱瀉下 処方)大承気湯・小承気湯 |
全身的な炎症又は消化管の炎症で、炎症 性の腸管麻痺と糞便の停滞が見られる。 熱結を瀉下によって除く。(陽明病腑証) |
気分湿熱 | 持続起伏性の発熱・発汗・胸苦しい・口渇 するが水欲せず・悪心・嘔吐・食欲なし・ しめつけるような頭痛・四肢だるい・尿量減 舌質紅・舌苔微黄膩・脈濡数・進行すると 下痢又は便秘・悪臭便・腹部膨満・舌苔 黄膩又は類乾苔・脈沈滑数、治法)清熱 化湿、処方)甘露消毒丹・三仁湯 |
消化器症状を伴う感染症で、胆道感染症 肝炎・インフルエンザなどで見られる。 湿邪と熱邪の強さで化湿と清熱の比率を 変える。(湿熱留恋三焦) |
半表半裏証 | 往来寒熱・発熱・胸脇苦満・悪心・食欲不振 口苦・咽乾・舌苔白又は白厚膩・脈弦又は 弦数、治法)和解、処方)小柴胡湯 |
表証から裏証への移行段階で、インフル エンザ・胆道疾患・肝炎・マラリア・腎盂炎 などで見られる。(少陽病・邪在膜原) |
【邪盛正虚】熱性病の極期から後期。病邪の勢いは強く、正気が衰弱しつつあり機能低下・脱水・ 物質的消耗が見られる。治法は攻法と補法を併せて行う。 |
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営分証 | 持続性高熱(夜間高く朝解熱)・熱感・口渇 あるが水欲せず・イライラ・不安・うわごと・ 不眠・軽度の発疹・舌質深紅乾・無苔・脈 細数、治法)清熱涼血生津、処方)清営湯 |
炎症に伴う脱水が顕著になった時期で、 インフルエンザ・日本脳炎・流行性脳脊髄 膜炎などの経過に見られる。 |
血分証 | 営分証に発疹・皮下出血・吐血・喀血・鼻 出血・歯齦出血・血尿・血便などを伴う。 治法)清熱涼血解毒・滋陰、処方)犀角 地黄湯 |
炎症に伴う出血傾向で、腸チフス・敗血症 で見られる。 |
熱入心包 | 営分証に無欲状・発語障害・反応性鈍麻・ 幻聴・幻視・うわごと・尿や大便失禁・意識 喪失・舌質深紅・無苔・脈滑細数、治法) 清営泄熱・清心開竅、処方)安宮牛黄丸 |
炎症に意識障害を伴い、脳炎・脳膜炎・肺 炎・敗血症・熱射病などで見られる。 |
熱極生風 | 高熱・痙攣・項部強直・後弓反張・舌質紅 〜深紅・脈弦数、治法)清熱熄風、処方) 羚羊釣藤湯・安宮牛黄丸 |
熱性痙攣に相当し、各種炎症で見られる 意識障害を伴うことが多い。 |
【邪衰正虚】病邪の勢いは弱くなるが残存し、正気も消耗した後期〜末期。治法は補法が主となり、 補助的に攻法兼施する。 |
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傷陰 | 微熱又は平熱・体のほてり・手足のほてり 口渇・咽乾・疲労感・腰膝だるい・舌質紅〜 暗紅乾・裂紋や鏡面舌・無苔・脈細数又は 孔細、治法)滋陰生津を主とし補助に清熱 処方)加減復脈湯・清暑益気湯 |
炎症・高熱・発汗などに伴い、脱水・物質的 消耗が主となる。筋肉のひきつり・手足の 筋痙攣・全身の痙攣など肝陽化風が見ら れる。 |
脾気虚・ 脾陽虚 |
発熱なしか微熱・食欲不振・腹部膨満・腹 痛・水様便・口渇なし・寒気・四肢冷・舌質 淡白・舌苔白・脈軟弱、治法)益気健脾を 主に温中散寒、処方)理中湯 |
体の衰弱にともない機能低下・エネルギー 代謝の低下が生じて起る。気虚・陽虚の 体質の元で感染症や誤治療が原因になる ことが多い。(太陰病) |
心腎陽虚 | 元気がない・動きたがらず・疲労感・横臥を 好む・嗜眠・寒がり・四肢冷・舌質淡白・舌 苔白・脈微細、治法)補陽益気を主に温中 散寒、処方)四逆湯・参附湯 |
甚だしいときはショックに陥る。 (少陰病) |
【邪去正復】熱性病の回復期で、病邪は消失し正気が回復する。熱性病では炎症によって脱水・物質 的消耗・機能低下などが起こるので、病理反応が消失しても気陰両虚の症状を呈する。 |
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疲労・無力感・元気がない・口数少・頭のふらつき(気虚)/熱感・口乾・咽のかわき(陰虚) 舌質紅乾・舌苔少・脈虚無力、処方)生脈散・清暑益気湯 |
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(3)六経弁証 外感熱病の弁証は張仲景が《傷寒論》に「六経弁証」として提示したのが始まりになる。以降、多数の医家の経験を経て新たな展開を見た。文化圏が南方に広がり、人口の集中などで伝染病が多発するようになると《傷寒論》だけでは対応しきれず、新たに《温病》の概念が取り入れられ治療法にも変化が起る。葉天子は温病学の原典といわれる「衛気営血弁証」を提唱したが、傷寒学派との論争が巻き起こり互いに非難し合う時代もあった。傷寒論は主として「寒邪傷陽」の経過を、温病学は「熱邪傷陰」の経過を分析したもので、現在、温病学は傷寒論を発展させ補足する弁証と考えられている。両者の長所を生かし、短所を補う弁証が好ましい。《傷寒論》は日本で独自の発展を遂げた。とくに古方派は聖典とまで崇め病態と処方を結びつけた「証」という概念で運用し、外感熱病だけでなく慢性病一般にまで応用される。 六経とは、外感熱病の病状の推移に沿って太陽病・少陽病・陽明病・太陰病・少陰病・厥陰病の6経に分ける。太陽病は表寒・少陽病は半表半裏・陽明病は裏熱でこれらを3陽病といい、太陰病は脾虚の裏虚寒・少陰病は心腎の虚証で裏虚寒と裏虚熱・厥陰病は寒熱挟雑の虚証でこれらを3陰病という。 |
三 陽 病 |
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太陽病 | 傷寒 (表実) |
(経証)風寒表証・悪寒又は悪風・頭痛・ 身体痛・脈浮・発熱・無汗・悪寒・脈浮緊 治法)辛温解表、処方)麻黄湯 |
外感熱病の初期に見られる表証。発熱は 軽度で寒証が明らか。傷寒には麻黄を 中風には桂皮を、中間型には両方を様々 に組み合わせる。 |
中風 (表虚) |
(経証)風寒表証・悪寒又は悪風・頭痛・ 身体痛・脈浮・発熱・自汗・悪風・脈浮緩 治法)辛温解表、処方)桂枝湯 |
同 上 |
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蓄水 | (腑証)表寒蓄水・発熱・悪風・尿量減少 口渇・飲むとすぐ嘔吐・下腹部脹・脈浮 治法)通陽利水、処方)五苓散 |
表証が治癒せず、病邪が膀胱に侵入。 | |
蓄血 | (腑証)下焦蓄血・下腹部痛・発熱・尿 量正常・血尿・下血・不正性器出血・ 狂燥・意識障害・脈沈渋 治法)破血下於、処方)桃核承気湯 |
同 上 |
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少陽病 | 半表半 裏 |
往来寒熱・胸脇苦満・口苦・悪心・嘔吐 脈弦、治法)和解半表半裏、処方) 小柴胡湯 |
表証でも裏証でもない特有の症状で半 表半裏証という。寒邪の化熱・正気の軽 度な消耗・胃失和降などの症状が見ら れる。腹部膨満・便秘など裏証を伴うも のを少陽陽明合病という。表証を伴えば 柴胡桂枝湯、裏証を伴えば大柴胡湯 |
陽明病 | 経証 (裏熱) |
胃腸熱盛・高熱・熱感・口渇・多飲・発汗 舌質紅乾・脈洪大、治法)清熱生津、 処方)白虎湯 |
寒邪が完全に化熱し裏に入り裏実熱を 呈する。外感熱病の熱盛期(極期) 熱邪が盛んで津液の消耗が見られる。 |
腑証 (裏実) |
胃腸熱盛・経証の症状の他、高熱(午後 に上昇)・腹部膨満・腹痛・圧痛が強い・ 便秘・舌苔黄褐色・脈沈実、 治法)清熱瀉下、処方)大承気湯 |
陽明病経証が進み、高度の炎症や腸管 麻痺を呈する。熱邪が食滞・糞便などと 結びつき「熱結」又は「裏実」という。 |
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三 陰 病 |
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太陰病 | 脾陽虚 | 食欲不振・腹部膨満・消化悪い・腹痛 嘔吐・泥状〜水様便・口渇なし・舌質 淡白・舌苔白・脈濡弱、治法)温中散寒 健脾益気、処方)理中湯 |
脾陽虚による裏寒で、主に太陽病・少陽 病に誤って瀉下法を用いたり、陽明病に 寒涼薬や瀉下薬を過剰に投与して起こる 脾胃気虚のものが寒邪を感受して起る のを「直中太陰」という。 |
少陰病 | 寒化証 | (心腎陽虚)・元気なし・動かない・嗜眠 寒がり・四肢冷・尿量過多・舌質淡白 舌苔白・脈微細、治法)回陽救逆、 処方)四逆湯 |
心腎の虚証で抵抗力が衰弱し危急の状 況になる。心腎陽虚により虚寒を呈し、 少陰病で多く見られる。陽虚のものが新 たに寒邪を受けることを双感(両感)とい う。双感には麻黄附子細辛湯を用いる。 |
熱化証 | (心腎陰虚)・熱感・イライラ・寝つき悪い 多夢・口乾・舌質深紅乾・舌苔少 脈細数、治法)滋陰清熱、処方)黄連 阿膠湯 |
心腎陰虚による虚熱の症状。少陰病の 変証で稀である。 |
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厥陰病 | 裏虚・ 寒熱 挟雑 |
激しい口渇・気上衝心・胸が暑苦しい・ 飢餓感・食べたくない・四肢冷、治法) 補虚・温清併用、処方)烏梅丸 |
裏虚で寒熱挟雑の症状。厥陰病は六経 の最後の段階とされるが、症状はそれほ ど重篤でなく記載内容は不明確で処方 も十分ではない。厥陰病は存在しないと 考える人も居る。 |
六経弁証は外感熱病を経過に沿って表裏・寒熱・虚実で分類し検討する。疾病の初期から極期までの三陽病では、正気は顕著な消耗がなく、症状は抵抗力を備え熱証・実証が主となる。後期から末期までの三陰病では、正気が衰弱し抵抗力は弱まり寒証・虚証が主となる。通常、寒邪にによる外感熱病は太陽病として発症し、以下のように他の病証へと移行する。 |
ー→ | 太陰病 | |||
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ー→ | 陽明病- | | | ||
| | ↑ |
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太陽病- | | | | |
ー→ | 少陰病 |
| | | |
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ー→ | 少陽病- | ー→ | 厥陰病 |
【六経病の伝経】
三陽病では伝経がほぼ決まっているが、三陰病には決まった伝経がない。しかし、実際は正気の強弱や病邪との関係で様々な伝経をとり、同時に数経の症状が見られることがある。三陽病のうち二つの病証が同時に見られることを「合病」といい、三陽病と三陰病のいずれかの病証が同時に見られることを「双感」「両感」という。陽明病・少陽病は太陽病から伝変するが、陽明病・少陽病として発症することを「本経自病(自発)」といい、三陰病から発症することを「直中」という。表から裏へ、陽病から陰病へと病が移行するのは悪化し衰弱しつつあることを示し、裏から表へ、陰病から陽病へと移行するのは病が好転し正気が回復しつつあることを示している。 |
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(4)衛気営血弁証 温病学は多種の病邪による外感熱病の経過を分析するものであるが、主として熱邪による陰液消耗の経過を弁証する。風温(風熱)・湿温(湿熱)・温熱など熱邪による陰液の消耗過程は、傷寒の寒邪による陽気の消耗と異なり、非常に重篤で経過も早いので陰液を保護することに注意が払われる。衛気営血とは以下の意味で、弁証では病邪の部位・深浅・疾病の軽重・緩急を表現する手段としている。衛分証は表証、気分証・営分証・血分証は裏証に相当する。
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【衛分証】 |
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風温表証 (表熱) |
熱寒又は軽度悪寒・発熱・頭痛・汗ばむ 口乾・咽痛・舌苔微黄・脈浮数、治法)辛 涼解表、処方)銀翹散 |
発病初期で、温病ではこの時期は非常に 短く、すぐに気分証へ変化する。表熱の 症状を呈し、風温が最も多く、経過は暑 湿が最も早く風温・湿温・秋燥がこれに 次ぐ。 |
暑温表証 | 発熱・頭痛・体が重だるい・胸苦・無汗 又は微汗・舌質紅・舌苔黄膩・脈軟数 治法)解表清暑、処方)新加香需飲 |
同 上 |
湿温表証 | 熱感あるが体表に熱なし・頭が脹り重い 体が重だるい・関節だるく痛い・舌苔白 膩・脈軟緩、治法)解表化湿、処方) 霍朴夏苓湯 |
同 上 |
秋燥表証 | 発熱・鼻や口乾燥・咽痛・乾咳・舌苔 薄白乾・脈浮、治法)宣肺潤燥、処方) 杏蘇散 |
同 上 |
【気分証】 |
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(温熱) 気分初熱 |
熱感・口渇・胸暑苦しい・舌質紅・舌苔 やや黄・脈数、治法)清熱透表、処方) 梔子鼓湯 |
外感熱病の極期・熱盛型で衛分証での 病邪はほとんど熱邪に変化し裏に入る。 主に熱盛と湿熱が見られ、熱盛は風温の 気分証で、湿熱は湿温の気分証に相当 する。風温の気分証には気分初熱・肺胃 熱盛・気分熱盛・腸胃熱結があり、湿温 の気分証には湿熱留恋三焦・邪在膜原 がある。衛分証が残ったまま気分証が 発生することを衛気同病という。 |
(温熱) 肺胃熱盛 |
高熱・咳嗽・黄痰・咽喉痛・呼吸促迫・ 口渇・舌質紅・舌苔黄・脈数、治法) 清熱宣肺、処方)麻杏甘石湯 |
同 上 |
(温熱) 気分熱盛 (気分大熱) |
高熱・悪熱・口渇・多飲・発汗・舌質紅乾 舌苔乾黄・脈洪大、治法)清熱生津、 処方)白虎湯 |
同 上 |
(温熱) 腸胃熱結 |
気分熱盛の他、午後高熱・腹部膨満・ 腹痛・便秘・意識障害・うわごと・舌質紅 乾・舌苔乾黄厚・脈沈実、治法)清熱 瀉下、処方)大承気湯 |
同 上 |
(湿熱) 湿熱留恋 三焦(気 分湿熱) |
持続性の起伏熱・口渇するが飲まない 悪心・嘔吐・食欲不振・しめつける頭痛 四肢だるい・尿量減少・舌質紅・舌苔 微量で膩・脈濡数、治法)清熱化湿、 処方)甘露消毒丹・三仁湯 |
同 上 |
(湿熱) 邪在膜原 |
往来寒熱・発熱・胸脇苦満・食欲不振 口苦・悪心・舌苔黄膩・脈弦数、治法) 関達膜原、処方)達原飲 |
同 上 |
【営分証】 | 高熱(夜間高く朝下がる)・イライラ・口渇 不安・うわごと・舌質深紅乾・無苔・脈 細数・意識障害、治法)清熱涼血・生津 処方)清営湯 |
熱盛に伴い脱水が生じ、衛分証か気分証 から転化して生じる。治療が適切であれ ば気分証へ転化できるが、進行し心を犯 せば熱入心包(心包証)を、肝を犯すと 熱極生風を呈する。 |
【血分証】 | 営分証の他、吐血・喀血・鼻出血・血尿 血便・皮下出血・舌質深紅・無苔・脈細 数、治法)清熱解毒涼血・滋陰、処方) 犀角地黄湯・加減復脈湯 ※表裏熱毒:熱邪の勢いが強く、衛・気・ |
営分証が一歩進むと陰液の消耗が激しく 出血傾向を生じ、危急段階になる。熱盛 が主で陰液の消耗は少なく発症までの 経過が短いものと、傷陰が主で熱証は弱 く発症までの経過が長いものがある。 熱盛が主であれば清熱解毒涼血に重点を |
【心包証】意識障害が生じたもので、主に営分証・血分証で見られる。熱邪によって生じる「熱入心包」と痰湿の邪による「痰迷心竅」に分けられ、熱結腸胃(陽明病腑証)に見られる意識障害も「胃熱乗心」といい熱入心包の一種になる。症状は意識朦朧・うわごと・発狂状態又は意識喪失を呈する。外感熱病で激しいイライラ・嗜眠・舌の震えなどが見られたときは、心包証の前兆なので注意が要る。以下の表は鑑別点で、治法は開竅を主とする。熱入心包の前兆があれば、該当する処方に菖蒲・鬱金などを加え泄濁開竅し、意識喪失には芳香開竅薬、熱入心包には清熱薬を配合した涼開法を用い、痰迷心竅には化湿薬を配合した温開法、胃熱乗心には清熱瀉下法に涼開法を併用する。 |
熱入心包 | 胃熱乗心 | 痰迷心竅 | |
病邪 | 熱邪 | 熱邪 | 痰・湿邪 |
意識 | 意識喪失・痙攣が多い | うわごと・体動多い | 朦朧状態・意識喪失 |
発熱 | 高熱・夜間高い | 高熱・日中高い | 微熱・体表部に熱感なし |
大便 | 変化なし | 便秘又は悪臭下痢 | 変化なし又は水様便 |
腹部 | 変化なし | 腹部膨満・腹痛・圧痛強い | 変化なし |
舌質 | 深紅で乾燥 | 紅・芒刺あり | 淡紅 |
舌苔 | 少苔乾又は無苔・鏡面舌 | 黄で乾又は黄厚膩乾 | 白膩又は垢膩 |
治法 | 涼開 | 清熱瀉下・涼開を併用 | 温開 |
処方 | 安宮牛黄丸 | 承気湯類 | 蘇合香丸 |
温病は衛分証→気分証→営分証→血分証の順に進行するが、抵抗力・病邪の種類・治療の適否によって様々な経過を辿る。衛分から直接営分に伝入することを「逆伝」といい治療によって止めることができる。湿熱の邪の多くは気分に執拗に留まるため「留恋」ともいわれる。治則で「衛にあれば汗すべきなり、気にいたりてはじめて清気すべきなり、営に入りてはなお透熱し気に転じるべきなり、血に入れば耗血動血を恐れただちに涼血散血すべし」とされる。しかし、衛分証では発汗しすぎないように、気分証では早期に瀉下法を行い、湿邪の症状が見られないときは温燥の化湿薬を用いない。熱邪による陰液の消耗に注意を払う。気分証で口渇・舌苔乾燥・脈数など脱水の症状が見られたときは芦根・瓜呂根などの生津薬を加え、発熱が終息しても口乾・乾咳・舌乾などあれば養胃湯や沙参麦門冬湯で津液を補う。程度が進み、やせる・手足のほてり・口や咽のかわき・腰のだるさなど陰虚の症状が見られたら加減復脈湯などの滋陰の方剤を加える。 |