【ハーブ・スパイスの利用】


ハーブ・スパイスは漢方薬で「気剤」として位置付けられています。五行五味の肺金辛の分類になります。気とは、体の構成成分の一つである血や水を運ぶ働きをするもので死体と生体を峻別する機能ともいえます。気の巡りが順調に行われないと、気滞、気鬱気逆などの病証が発生し、それに伴い血行障害や痛みがおこり、気が不足すると気虚による血滞や水滞が起こります。それらの不調の改善に用いる薬を気剤といいます。漢方薬に限らず、新薬でも食物でも気剤の働きをするものがある訳です。 

日本は四季折々の食材が豊富にあり、こと食物に関しては資源大国だと言っても過言ではないでしょう。肉食のため、多様なスパイスを必要としてきた民族とは幾らか違った様相を呈しています。日本でよく使われるのは、生姜、山椒、芥子、わさび、唐がらし、麻の実、柚子、胡麻、クチナシ、ラッキョウ.. また、あしらいの野菜として、しその葉ミョウガ、ねぎ、せり、ミツバ、大根.. これらも広い意味でスパイスといえるかも知れません。穀菜食を中心として魚や鳥などの小動物を蛋白源としてきた日本では多様なスパイスは必要なかったのかも知れません。

蛋白質は窒素化合物で、腐敗すると毒性を呈します。その防腐剤としてスパイスは欠かせないものです。伝統食の復権が叫ばれるほど、わが国の食は多国籍化していますが、肉料理を食べる割には、それほどスパイスを使っているとは思われません。第一、食卓にどれほどのスパイスがあるのかも疑問です。

生姜、ニンニク、唐がらし、黒胡椒、わさび、芥子.. これくらいあれば良いほうかも知れません。

奈良時代に輸入されたペッパー、クローブ、シナモンはそれほど普及せず、漢方薬として使われるのみ、江戸時代はサフランやナツメッグなど多くのスパイスが輸入されているけど料理には殆ど使われていません。しかし16世紀後半に伝えられた唐がらしは早く普及しています。これは七味唐がらしなどの主成分で、日本では大変馴染みの深いスパイスのNO1ですが、スパイスの中でも辛味が強烈で、これだけは推奨できません。使い方、使う量ともに注意を喚起したい。使いすぎて痔になった人は多いものです。ペッパーも要注意ですが、唐がらしほどではありません。

ハーブは室内香、浴用、化粧品として利用されますが、スパイスは肉・魚などの蛋白質の防腐剤として、あるいは味覚や香りを増し、調理効果を高めるために使われます。

最近はこれをアロマセラピーとして病気の治療に応用されていますが、もともと漢方の気剤の発想です。気剤の効能と効力の限界を考えると、何にでも効果があるようで、実はそれほど多様な効果や効力はありません。漢方で、気剤だけ配合する処方はそれほど多く見当たりません。

日本のスパイスで推奨できるNO1は、なんと言っても生姜、これは漢方処方の繁用薬でもあり、その応用範囲も広く、便利で安全なスパイス。多少の使いすぎでも、それほど害はありません。生を一つ常備しておけば、台所の薬物として便利です。生をすりおろし湯を注ぎ、蜂蜜を入れた生姜湯は、胃腸の働きを助け、吐き気や眩暈にも効果的です。体を暖めるので、風邪(風寒)の初期の発汗剤や、寒性の下痢などにも使います。

もちろん、煮込み料理や、肉、魚、豆腐など、蛋白食のスパイスとしても優れたものです。この他、山椒、スターアニス、ナツメグ、バジル、ローレルなどあれば、料理も楽しくなるかもしれません。

バジルは1本植えておくとフレシュハーブとして応用範囲も広く、栽培の手間もかかりません。他のハーブ類も好みで植えておくと乾燥したものより、香りが高く、生活に愉しみと豊かさをもたらしてくれますが、気持ちの豊かさや、安らぎ以上の効果は望めません。考え方によっては「安らぎこそが、最高の治療効果」といえなくもありません。

 


 

品 名

芳香

辛味

矯臭

着色

効 能 ・ 応 用

麻の実

       

緩下作用・七味唐辛子の薬味のひとつ

安息香

     

陽性の鎮痛剤・泌尿器系・呼吸器系
粘膜に対して著しい効果/香料

カモミール

 

 

健胃作用・鎮痛・鎮静作用・肝機能促進・駆風
/茶剤・浴剤

カルダモン

     

消化促進・解熱・精力増進/菓子・コーヒー

クミン

 

健胃・整腸・駆風/菓子・ピクルス・スープ

クローブ

 

健胃・興奮性媚薬・歯痛・精力減退/肉料理
デザート・シチュー・リキュール

コリアンダー

     

催淫剤/ピクルスに欠かせない・菓子・リキュール

サフラン

     

婦人病・鎮痛・鎮静作用/スープ・米料理

山椒

   

冷え症・寒性下痢・駆虫・魚毒/葉は吸い物・酢物
実はうなぎ料理

シナモン     健胃・利尿・頭痛・発汗解熱/紅茶・リキュール・
菓子
ジャスミン     冷え症・婦人病・皮膚・呼吸器系/茶剤
ジンジャー   胃腸・嘔吐・めまい・冷え症/吸い物・煮物・魚の
臭み消し
スターアニス     健胃・駆虫・駆風/豚肉の煮込み・デザート
スペアミント       食欲不振・胃痛・腹部脹満/菓子・歯磨き・外用
セージ     強壮・咽喉炎・胃腸/肉料理・茶剤
ターメリック   消化剤(油脂)胃・胆のう・駆風/漬物・カレー
ピラフ・ピクルス
タイム   悪酔い・利尿・消化・婦人病/ソーセージ・ソース
陳皮       食滞・健胃/七味唐辛子の薬味のひとつ
ディル     乳汁分泌・利尿・嘔吐・冷え症/サラダ・ソース
らい麦パン・ピクルス
ナツメグ   下痢・腹痛・消化不良・乳汁分泌/肉料理・ハン
バーグ・ソース・菓子
乳香       咳・息切れ・脇部疾患・鎮静/香料
バジル       憂鬱症・去痰・健胃・解毒(蛇)/ピザソース
スパゲティ・ドレッシング
白檀       鎮静・強壮・鎮痙/香料
フェンネル     乳汁分泌・婦人病・利尿・健胃・整腸/魚料理
パン・ピクルス・菓子
ペパー   駆風・健胃・整腸/肉料理・スープ・サラダ・ラー
メン・スパゲティ
マジョラム     冷え症・鎮静・駆風・鎮痙/野菜・チーズ料理
ソーセージ・スープ
没薬       美肌・婦人病・創傷・去痰/香料・外用
ラベンダー     頭痛・鎮静・強壮・抑鬱/香料
レモングラス     健胃・食欲不振・駆風・食滞/茶剤
ローズマリー     記憶力減退・物忘れ・心臓/肉料理・スープ
シチュー
ローレル     健胃・駆風・鎮痛/煮込み料理・ピクルス・ソース
【参考図書】
アロマテラピー 高山林太郎 訳 /スパイスの話 斎藤 浩 /健康食品百科 西崎 統
薬膳のための漢方スパイス40 根本幸夫 監修 

 

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