【服用法Q&A】
(含:煎じ方)


「この病気にはどんな薬草や漢方薬が良いでしょうか?」この相談が断然多い。漢方相談薬局を標榜する以上、当然のことです。しかし実際は、ある程度学習しているお客様もあれば、漢方薬は全く始めてのお客様もあります。マニュアルを準備して一様に説明するわけには行きません。

次に多いのが薬草や漢方薬の服用法です。漢方エキスの顆粒や錠剤ならば、ただ指示時間に服みさえすれば一応の目的は達成できますが、煎じ薬はその前に調製が必要となります。現在は医療機関や薬局で煎じ、それをパック詰めするところもあり便利になって来ました。しかし、まだ一般的ではありません。

漢方薬の服用法は、漢方に馴染みの深い方でも誤解があったりします。三度の食事を摂取するほどに日常的ではないのが薬の服用です。Q&Aの形式に囚われずに、まずはこの相談を幾つか取上げて見ます。>>薬草の煎じ方

 

漢方薬の服用(1)
(一般的な服用法)
漢方薬の服用(2) 
(特殊な服用法)
漢方薬の服用温度
漢方薬の服用回数
漢方薬の服用期間
漢方薬と他の薬草との併用
漢方薬の煎じ方(1) 
(数日分まとめて煎じてよいか)
漢方薬の煎じ方(2) 
(煎じる道具について)
漢方薬の煎じ方(3) 
(お茶パックを使ってよいか)
漢方薬の煎じ方(4) 
(水の量について)
漢方薬の煎じ方(5) 
(お湯から煎じてよいか)
漢方薬の煎じ方(6) 
(生薬末を煎じてよいか)
漢方薬の煎じ方(7) 
(2番煎じについて)
漢方薬の煎じ方(8) 
(小児薬用量)
漢方薬の煎じ方(9) 
(煎じる時間)
漢方薬の臭いと味
漢方薬の保管

 


漢方薬の服用(1)
(一般的な服用法)
医療機関で処方される新薬や一般用の薬は殆どが、食後になっています。これは新薬による胃腸障害などの副作用を緩和するのと、服み忘れを防止する為です。

逆に漢方薬は食間の服用が殆どです。生薬は元々作用が緩和なので吸収を良くするために食間に服用します。食間とは空腹時ですが、概ね食事の30分ほど前、食後であれば2時間後を目安にします。そこで食間又は食前服用と指示される事もあります。

食前服用した場合、漢方薬の味が残ったり、その水分が胃に停滞し食事に影響を及ぼす事も考えられますので、その際は食後2時間くらいに服用します。必ずしも2時間に拘る必要はなく、服み忘れ防止のためなら食後や食後30分〜1時間くらいに服んでも構いません。

地黄、石膏、附子など配合された漢方薬は胃にもたれる事があるので、食後早い時間に服用します。

風邪薬など発汗によって効果を発揮させるものは、2〜3時間くらいの間隔を置いて発汗の状況を見ながら服用します。

便秘薬は人によって効果の発現時間が違います。これは各人の経験で都合の良い時排便が出来るよう服用の時間を選びます。通常は就寝前に服んで、朝排便というパターンですが、人によっては昼頃、夕方さらに翌日とズレてくる場合もあります。

不眠の漢方薬はもちろん就寝前に服用します。漢方薬の効果は空腹時に服むと、おおよそ15〜25分で効果が見られます。したがって就寝の30分〜1時間前に服用します。その時、お茶などカフェイン含有飲料での服用は避けてください。麻黄などの配合された漢方薬はエフェドリンの興奮作用で眠れなくなる事があります。代表的なものに風邪や鼻炎に用いる葛根湯や小青竜湯などがあります。

漢方薬の服用(2)
(特殊な服用法)

医療機関や調剤薬局で渡される漢方エキス製剤、または一般用の漢方薬を購入するときは、殆ど水か白湯で服むようにと指示されます。これは清酒で服用して下さいと指示するところは稀であろうと思います。体質や年齢、病気によっては酒を勧められない事があります。

しかし、少量の酒(10〜15ml)に浸して服用できる人や病状なら、酒で服用するほうが効果的な漢方薬があります。たとえば、八味丸、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、、など生薬末そのものが配合されているので、アルコールでその中の油脂成分を溶かし込んで吸収率を上げる為とも言われ、また酒の働きで胃腸へのもたれを防ぐ為とも言われます。比較してみると酒服しないときの2倍近い効果が得られます。

酒は清酒程度のアルコール度数(15〜17%)があれば最適です。他に蒸留酒やワインや薬酒で服用しても構いませんが、ビールでは薄すぎます。少量を盃に注ぎ、丸剤や散剤をしばらく浸したり、溶かしたりして酒ごと服用します。

エキス顆粒や錠剤は製造行程上油脂成分の抽出量が不足しています。このため丸剤、散剤で服む利点があります。しかしエキス顆粒や錠剤であっても原典に酒服の指示が為されているものは、出来るだけ酒で服用すると良いでしょう。

他に重湯で服む五苓散、四逆散などがあります。これは消化管に漢方薬を長く留めて置くためのものと思われます。

漢方薬の服用温度

煎じ終わった直後は熱いので、体温程度に冷まして服用します。残りの薬液は冬季なら室温で保管しますが、夏季は変敗の恐れがあるため冷蔵庫で保管します。そして服用時に電子レンジやこん炉で体温程度に温めて服用します。

冷えたままであれば胃腸を冷やすため、胃にもたれたり薬の吸収が遅れたりしますしかし、服みにくい薬や、吐き気があって服みにくいときは冷やして服用しても構いません。出血時に用いる漢方薬で三黄瀉心湯などは冷やして服用する特別な例です。

寒冷によって起る病気。例えば風邪や冷飲食による下痢などは温度が薬効を大きく左右します。冷服を避け出来るだけ熱い温度で服用します。薬草から立ち上る香りは揮発性の成分なので、温かくして服むのはアロマセラピーの効用もあります。鼻炎や鼻風邪のときは温かい湯液を服んでたちどころに軽快する事もあります。

漢方薬のエキス顆粒や錠剤もこれに習って、できれば一度、お湯に溶いて服用することをお勧めします。しかし、服み易さと便利だからという理由で利用されているならば、そのままでも仕方がありません。

漢方薬の服用回数

食間という時間が思うように取れない人が多く、忘れる事もしばしばあります。急性病で症状も激しい時には、きちんと服みますが慢性病になると服用の効果が目に見えて現れません。

薬効成分の血中濃度を保つためには1日3回程度が好ましいのですができれば1日2回程度は服んで下さい。そのときは1回の分量を幾分多めにして下さい。

体調を維持するためや便秘、鎮痛などが目的の場合は1日1回または頓服でも構いません。

煎じ薬の場合、夜煎じて就寝前に服用し、残り半分を起床時に温めて服用すると、持ち歩いてまで服用しなくても済みます。

漢方薬の服用期間

「漢方薬は長く服用しないと効かない」「漢方薬は徐々に効いてくる」「漢方薬だから即効性はない」、、このような話はしばしば聞かれます。風邪が長く服用しないと効かないでは困る訳です。鎮痛薬に即効性がなければ、それは鎮痛薬とは言いません。漢方薬も新薬同様、即効性のあるものがあります。風邪薬、腹痛、出血、筋肉痛など愁訴や苦痛を和らげるものは即効性がなくては話になりません。

そして、長く服用しなければ効かない漢方薬もあります。同じく、長く服用しなければ効かない新薬もあります。また、長く服用しても症状を抑えるだけでしかない漢方薬もあります。同じく、長く服用しても症状を抑えるだけでしかない新薬もあります。漢方薬だからと区別される理由はありません。

長期に渡るとき、新薬の副作用やその蓄積性、習慣性は見逃す事ができません。もう一つ、あるいは二つと、病気を作ってしまう恐れがあります。このようなとき有効な漢方薬があれば便利です。

また複数の疾患や苦痛があるとき、その一つ一つに対応する新薬を服用するより、多成分の生薬をさらに幾種も配合した漢方薬なら、一つで多くの目的を達成できます。

症状の改善が目に見えて感じられない疾患、検査の数値や画像診断によってしか検証できない疾患は漢方薬を服用していても効果を実感出来ません。しかし、幾つかの症状や愁訴を証として病態を捉える為注意して観察すると何らかの細かな変化は感じられるはずです。その期間は服用後間もなく、あるいは数日のうちに見られますが、短期に症状の改善がみられても、治癒とは言えない場合もあります。

慢性病に関しては症状の改善が治癒には繋がりません。一定の服用期間を経て治癒する病気もありますが、治癒の判断は難しい所です。薬だけ延々と続けても、解決されない問題もあります。このため、一度服用を中止してみるのも良いかと思っています。たいした不具合もないのに予防の為にと説得し、服用を勧めるメリットは一体どちらの側にあるのでしょうか?

漢方薬は長く服まないと効かない、即効性はない、という一般常識を逆手にとって、病態に適合しない漢方薬を継続して勧める漢方家もあります。1〜2週間指示どうりに服用して何ら変化のみられないものは、薬の不適合か分量不足の場合があります。相当熟練していても一回で正鵠を射抜くことは至難の業です。

ある漢方の大先生が症状の改善がみられないにも関わらず、「この漢方薬に間違いがない」と変更もせず、1年以上も同じ薬の投与を続けたという話があります。すると不思議にも1年後に見事に治癒したとの事。このような神業は話になるくらい珍しい事です。たまたま1年かかって
自然治癒したと言えなくもありません。

漢方薬と他の薬草との併用

薬草の薬効によって具体的に検討しないといけませんが、おおよそ一般的に使われている薬草ならば問題はありません。例えばドクダミ茶、ゲンノショウコ、柿の葉、ヨモギ、ハブ茶、はと麦茶..

しかし、煎じる時、漢方薬は30分以上煎じますが、葉っぱ類の薬草は長く煎じません。煎じ終わる5分前に投入して下さい。あるいは別に煎じて、服む時に薬液を混ぜても良いです。一緒に煎じる時、葉っぱ類は水分を沢山吸収するので多めの水で煎じて下さい。

またエキス顆粒や錠剤などを薬草茶で服む事も問題ありません。皮膚病の漢方薬をドクダミ茶やハトムギ茶で服用するのであれば、むしろ推奨したい位です。

漢方薬の煎じ方(1)
(数日分まとめて煎じてよいか)

原則として避けてください。特に夏季は保管場所によっては傷みが早くなります。冷蔵庫で保管しても、2日ほど経てば沈殿物や粘液性の物質が発生する事がありますそれが有害と言う訳ではありませんが、化学変化が起こっている事も考えられます。-君子危うきに近寄らず-

薄めの薬草茶であれば2日程度は容認できますが、濃厚な漢方薬では避けたいところです。面倒でも毎日煎じ、24時間以内に服んで下さい。

煎じるのが面倒であれば、エキス顆粒や錠剤もあります。薄く、正確に証に合わせられないという批判はあるものの、服まないよりかは利益があると思います。

どうしてもまとめて煎じたいときは、湯液を冷凍保存してください。氷にする訳です。これなら相当長期に保存が可能です。しかし、服用時、溶解するのに煎じる時間以上の手間がかかるという欠点があります。

漢方薬の煎じ方(2)
(煎じる道具について)

一般に土瓶、土鍋を用いますが、割れるので扱いに慎重を要するし、空焚き破損の恐れもあります。ほかにステンレスホーロー、耐熱ガラスなどを用いても構いません。鉄や銅は薬草中のタンニンなどの成分と反応するので避けます。

ホーローは陶器のコーティングの剥げた部分の鉄がむきだしになって好ましくないと考える人もありますが、わずかなものなので無視して良いと思います。

土瓶は注ぎ口の目が詰り掃除が面倒なので、私はステンレス鍋を用いています。煎じ終わったら、5分ほど蒸らした後、上澄み液を茶漉しを通して別の器に移します。

電気を使う自動煎じ機などもありますが、費用、電気代など考慮にいれ最も有益な方法で煎じて下さい。

また冬、ストーブなど炊くとき、その上で煎じると便利です。

煎じ薬を服みたいのだが、煎じると臭いがして、家族のものが嫌がるという相談も寄せられます。病人にとっては嫌な臭いが快く感じられ、それは漢方薬の証が合っている証拠だと言いますが、必ずしもそうではありません。薬を好きになると治癒を助けますが、嫌いな薬を服みたくないために起る治癒もあります。

漢方薬の煎じ方(3)
(お茶パックを使ってよいか)

煎じ終わったら、滓を捨てるのに便利なので使いたくなりますが、あれは紙ではなくてビニールなのです。ビニールを煎じると体に良くない成分まで抽出されます。それによる肝障害の報告もあります。薬酒を作るとき用いるとビニールの成分がアルコールに溶出します。

ガーゼや専用の布袋に入れる方法もありますが、実際は袋が膨らみ鍋に浮いて、薬草の成分は思うように抽出されません。バラで煎じた方が鍋の中を万遍なく対流します。

漢方薬の煎じ方(4)
(水の量について)

出来る限り多量の水で煎じた方が抽出量(溶解率)は高くなります。しかし、人が1日に飲む事のできる水分量は限界があるため、野放図に多くというわけには行きません。冬は水分摂取量は少なめで、夏は多くなります。また、利尿作用を期待する漢方薬では幾分多めの水分を摂る方が好ましいと思います。

煎じ薬は日本漢方で、1日分が30g〜50gくらいになると思われます。中医ではこの2〜3倍の量を処方します。

30g〜40gに対して水は3〜4合(500〜700ml)を目安とします。葉っぱ類の薬草が配合された場合は適宜増やします。水は厳密に計る必要はありません。30分ほど煎じると、生薬が吸い込む水分と蒸発する水分で、おおよそ半分位になると思われます。薬草がゆっくり対流する程の弱火で煎じますが、火加減では濃厚になりすぎたり、時には焦げ付いたりする事もあります。一度、煎じてみれば勘がつかめます。

そこで、出来上がりの薬液が1.5〜2合(300〜400ml)になるくらいに調節します。濃くなり過ぎるようであれば、別途沸かしたお湯を追加します。出来上がった薬液を1日分として2〜3回に分けて服用します。

漢方薬の種類によっては長く煎じても薄いものや、逆に濃厚に抽出されるものがあります。濃厚なものは胃にもたれることがあるので適宜薄めて下さい。

漢方薬の煎じ方(5)
(お湯から煎じてよいか)

基本的には水から煎じて下さい。お湯を注ぐと生薬中のデンプン質や蛋白質が凝固して抽出を妨害する事があります。振り出しや茶剤として抽出するものはこの限りではありませんが、特に皮や根、木部、種子などは芯まで水が浸透するのに時間がかかるため注意が要ります。1時間ほど水に浸漬したあと煎じると抽出効率が上がります。

種子など油脂成分の多いものは水で煎じても抽出され難いので、一度フライパンなどで焦げ目が付く程度焙じてから煎じる方法もあります。

漢方薬の煎じ方(6)
(生薬末を煎じてよいか)

抽出効率は抜群です。抜群だから良いというのではありません。良すぎて困った事も起ります。生薬は多種の成分から成り立っています。その成分は有益なものばかりではありません。体にとって有害な成分や薬効に必要な量以上の成分が抽出されたり、本来殆ど抽出される事のない成分同士の化学反応がおこる可能性も考えられます。効率のよさの持つ負の面です。それが危険かどうかはさておいて、刻み生薬を煎じて得られる湯液とは異質のものになるかも知れません。

古くから生薬の調製法と薬効の関係が経験によって伝えられています。粗切、細切、角切、砕、輪切、薄切、、、細切するほど抽出率は良くなりますが、さらにそれ以上の細かな調製は配慮が要ります。ある程度、経験的に伝えられている方法を守っても良いと思います。

漢方薬の煎じ方(7)
(2番煎じについて)

1番煎じで有効成分の60〜70%が抽出されるといいます。2番煎じで残りの20%程度、3番煎じで5〜10%程度、、それ以上の煎じはあまり意味がないような気がします。同じ日であれば、2、3番、4番煎じても構いませんが、薬効の保障は出来ません。

煎じた滓を天日で乾燥させ、色が出なくなるまで繰り返し煎じる人もあります。笑い話ではなく、実際に時々見受けられます。

水を吸い込んだ滓を2日以上に渡って煎じる事は避けてください。変敗や変質の恐れがあります。中医では朝煎じた滓を、昼の処方と合わせて煎じる場合もしばしばあります。この時は、しかるべき指示に従って服用して下さい。

ドクダミなど、皮膚病の薬草を2番煎じにして、外用する方法もあります。このときは、いくぶん長い時間煎じて用います。ドクダミでは、1番煎じで5〜10分、2番煎じで15〜25分。しかし、2番煎じの服用は避けてください。

漢方薬の煎じ方(8)
(小児薬用量)

出産直後に服ませる胎毒下しの「マクリ」など、案外簡単に服ませられますが、やがて味覚の発達と共になかなか漢方薬を服んでくれません。錠剤を服める年齢は小学校入学時頃とされているので、それまではエキス顆粒や煎じ薬を工夫して服ませます。しかし、極度に嫌うようでは強要も出来ません。薄めに煎じたり、臭いや味の気にならない薬草茶を用いる方法もあります。

服用するだけの利益があれば、エキス顆粒をジュースと一緒に、またアイスクリームやゼリーなどに混ぜて服用させることも出来ます。

小児の薬用量は大人の量をもとに次の数字を目安に用います。

0〜1才 1/4以下
1〜4才 1/3
4〜7才 1/2
7〜15才 2/3

他に体重や症状を考慮にいれて判断します。漢方薬は新薬ほど厳密に用いるものは少なく、乳幼児であれば、大人の1/4、小学校入学までの子供なら1/3、そして小学生なら1/2として、中学生以上であれば大人の分量を用います。煎じる水の量は数字をきちんと守る必要もなく、出来上がりが子供の1日で服める量に調整します。老人で体重の軽い人の場合も薬用量に注意を払います。

服用法とは別に、子供の病気は治癒が早く、進行も早いので、急性病のときは医師の診察を仰ぐ必要もあります。

漢方薬の煎じ方(9)
(煎じる時間)

概ね30分としています。漢方家によっては40分、60分もあるようです。現在は、ガスこん炉で煎じる事が多く、ほぼ5分位で沸騰し始めます。ふきこぼれるので沸騰したら火を弱くします。薬草がゆっくり対流するくらいの火加減にして、それから30分煎じます。蓋は少しずらす程度にしておきます。

薬草には容易に抽出されるものと、そうでないものがあります。一般的に葉っぱ類や薄く削いだり、細かく刻んだものは短時間で抽出されます。とくに葉っぱ類は5〜
10分、あるいは沸騰したらすぐ火を止めます。また、中火で短時間に煎じる方法もあります。これに比べると木部や根は長い時間煎じる必要があります。種子類は油脂成分が多く、硬い殻に包まれ更に抽出が困難なため、焙じたり刻んだりして煎じます。

牡蠣、竜骨、石膏、その他鉱物類は抽出に最も時間がかかります。これらの薬草が配合されたときは、あらかじめ長く煎じたあと次々に他の薬草を投入して、最後の5〜10分で葉っぱ類を煎じて終了するのが好ましいのですが、手間をかけたほど薬効に影響はないだろうと考え、一括して煎じているのが現状です。

劇薬の附子は加熱により毒性が低下するので、附子の配合された漢方薬は30分以上40分は必ず煎じます。

大黄は長時間煎じるとタンニンが抽出され止瀉作用が強くなります。下剤として用いるときは最後の5分位に投入し軽く煎じます。また、釣藤鉤は加熱によって失活するため、これも短時間で煎じるか粉末にして煎液と一緒に服用します。

忙しくて30分の煎じる時間も惜しいという場合、あらかじめミキサーなどで薬草を細かく砕いておくと抽出効率がよくなり、10〜15分程の時間で済ませることが出来ます。また湯を注ぐだけでもある程度抽出されます。しかし、30分煎じたものと同じという訳には行きません。

漢方薬の臭いと味

薬局に入って来て、渾然一体となった薬草の香りを好む人と、不快感を示す人がいます。香りが嫌いな人にとっては「臭い」と表現すべきものかもしれません。おおかた、客の連れや、親に連れられた子供が多く、外で待つ人もあります。きっと、生涯漢方とはお付き合い頂けないのだと思います。

漢方に限らず薬を苦もなく服める人と、そうでない人がいるようです。嗅いで気にならない臭いも咽喉を通過するとき、むせたり、奇妙な味覚をもたらす事があります。苦いのがまだ服みやすい。甘すぎて吐き気がする。無味無臭なので反って服み難いなど多様な訴えがあります。

漢方薬は食物の甘味や旨味ほど心地よくありません。概して薬は苦いのが多いものです。炎症を治したり血流を改善する漢方薬は苦味の薬草が多く用いられます。それに比べ脾胃の薬は薄味で幾らか甘味もあります。味覚も薬効のうちで、苦いと言って甘味を加えたら、薬効も甘くなります。

そこで、服みにくい時は薬液を冷やして服用して下さい。香り(臭い)も浮き上がってこないので幾らかマシだと思います。さらにストローを使うと舌に直接触れる量が少なくなります。

漢方薬の保管

縄文時代の木の実が発芽したり、1000年以上も前の正倉院の薬物(やくもつ)が今も使用に耐えると言います。薬草は保管状態が良好であれば相当安定したものです。

しかし、賞味期限というのはありそうな気がします。正確なデータがある訳ではありませんが、5〜10年は大丈夫だろうと思います。冷凍保管すればさらに賞味期限は延長されます。香り成分の多い薬草や葉っぱ類は劣化が早く、1年〜数年で香りが落ちたり、褐色に変化することがあります。しかし全く薬効がなくなる訳ではありません葉っぱ類に比べると木部や種子、根などは安定的で、鉱物類の生薬は半永久的に品質が保たれます。

薬草が嫌うのは光と、温度と湿度の上昇、それに伴って発生する虫、カビによる変質です。夏季を乗り切れば、後はそれほど管理に手間を要しません。完璧な保管を期するなら夏季、冷蔵庫(野菜室程度で可)に入れておけば大丈夫です。冬は日当りの良い部屋や湿度の高い場所を避ければ何処に保管しても問題はありません。冷凍庫で保管すれば「100年は使えますよ」と言うと、「人間の方が持ちません」と笑われます。

もしカビが発生したり、カビ臭さを感じたら、ためらわず廃棄して下さい。虫が発生したときは、わずかであれば、虫を取り除いて、あるいは気にならなければそのまま煎じても問題はありません。ただし、虫に喰われ著しく傷んでいるなら廃棄して下さい。

 

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