(1)
美杉家の朝、いつものように朝食の準備をしている翔一。配膳が終わると二階に向かって叫ぶ。
「真魚ちゃーん!朝ご飯の準備できたよー!!」
しばらくして、まだ眠いのか欠伸をしながらのそのそと真魚がやってきた。
「ふわぁぁぁ・・・。おはよ、翔一くん・・・」
「おっ!おはよう真魚ちゃん。今日はちゃんと一回で起きれたね。」
「やだ、それじゃいつも私が寝坊ばっかりしてるみたいじゃない!」
反論しているものの、目はまだ焦点が合っていない。
「あ、そーだ真魚ちゃん。昨日も言ったけどオレ今日からバイトだから帰り少し遅くなるよ。」
真魚の朝食を装いながら翔一はそう告げた。
「え?バイトって今日からだったっけ?。・・・んー・・・あれ?おじさんは学会で出張してるし、
太一もキャンプで明後日までいないって言ってたよね。夜ご飯どうするの?まさか、あたしが作るの!?」
自分が作ったものなんて自慢じゃないけど食べられない、真魚の顔はそう訴えていた。
「だーいじょうぶ。帰ってきてからオレがやるよ。」
「そっか、なら安心。でバイトって何やるんだったっけ?」
安堵し翔一がついでくれた味噌汁をすすりながら、真魚は洗い物をしている翔一に尋ねた。
「喫茶店。親戚の女の子が手伝ってたらしいんだけど、その子が忙しくなって続けられなくなったんだって。
で、面接に行ったらなんかそこのマスターと話が合ってさ。一気にイキイキ、意気投合ってやつ。」
ピタッ、と味噌汁をすする真魚の動きが止まる。
「・・・。」
「で、明日からでも来てくれ、ってね。」
「ふ、ふーん・・・。」
焼き魚をほぐしながら真魚は適当に相槌をうった。
「おっと、もうこんな時間か。ごめん真魚ちゃん。じゃあオレ行って来るね。」
洗い物を終えてふと時計を見た翔一が、慌てて駆け出す。
「え、もう?なんでそんな早いのよ。」
手早く出発の準備を整え、翔一が戻ってくる。
「仕込みとかがあるんだよ。あ、それとコレが店の住所と電話番号。何かあったら連絡して。じゃ!」
メモらしきものを机に置き、出て行く翔一。バイクを発進させる音を聞きながら真魚は嘆息した。
「うーん、それにしても翔一くんが喫茶店なんて勤まるのかなぁ。お客さんにヘンな冗談言わなきゃいいけど。」
ふとさっき翔一の置いたメモが目に留まる。ひょいっと拾い上げ目を通すが・・・
「・・・?何て書いてあるの、これ・・・」
しばらく真魚はミミズがはったような翔一の殴り書きと格闘していたが、遂に諦めた。
「ま、まぁ電話番号は判別できるし、良しとしよう・・・。」
そう自分に言い聞かせる真魚であった。
(2)
昼尚暗い森のさらにその奥、今や主無きはずの古い洋館の一室に、ゆらめく影があった。
「サテ・・・ヨウヤク、コイツモ復活ノ準備ガ整ッタナ。」
それは何かを見つめるあの黒い怪人。そして同じ部屋の中には赤と白の怪人の姿も見える。
「ソレモイイガ、戦士ヲ探ス方ハドウナッテイルノダ?」
白い怪人は苛立ちを抑えながら、黒い怪人に問いかけた。
「慌テルナ。ソチラモ同時ニ進メラレル上手イ方法ガアル。『一石二鳥』トイウ奴ダ。」
「ヘェ、ドンナ方法?」
そう言った赤い怪人だが、さほど興味はなさげである。
「今、コノ世界デ争イ事ヲ治メテイルノハ、『警察』トイウモノラシイ。私ガ喰ッタ男ノ記憶デハ
最近、戦士ノモノト思ワレル争イガアッタラシイ。
『警察』ヲ襲イ、コイツニ吸収サセレバ戦士ニ関スル情報モ手ニ入ルハズダ・・・」
そう言って黒い怪人は先程から見つめていたもの・・・例の青い石を手にとった。
「ヨカロウ・・・ソノ任、俺ガ引キ受ケタ!」
白い怪人は黒い怪人から青い石を掴み取ると、部屋を後にしていった。
「珍シイネェ、アイツガ自分カラ名乗リ出ルナンテ?」
「・・・戦士ニ一番恨ミガアルノハ、アイツダロウカラナ。『臥薪嘗胆』トイウ奴カ・・・」
「アンタノ難シイ言葉好キモ、相変ワラズダネェ・・・」
森の中を、疾風のように駆け抜ける白い怪人。
「・・・待ッテイロ、コノ左眼ノ借リ・・・アノ屈辱、忘レハセン・・・待ッテイロ!戦士!!」
その隻眼がまだ見ぬ獲物を求め光る。
グオオオオー!
白い怪人の雄叫びが、深い森に木霊していた。