4
「…そういうコト言う人って、嫌われちゃいますよ?」
場違いなほど澄んだ声が響く。その場にいた全員が声の方に振り返る。
そこには焔と同じく倉庫を見つめていた少女と、少女を守るように立つ少年の姿があった。
「あん?何だテメエら?いっしょにヤラレてえのか!?」
行為を邪魔され、おまけに少女にバカにされた指揮官が不機嫌そうに2人を睨む。
パチン、と指を鳴らすと、それを合図に焔を囲んでいた男達が2人に襲い掛かる。
「…お兄ちゃん、あのお姉ちゃん助けてあげて。」
少女は驚きもせず、兄と呼んだ少年を見上げる。
「…」
コクリ、少年は無言で頷くと、迫り来る男達に向かって走り出す。
「ハッ、バカが!生身の人間がソイツらに敵うわけ…んなっ!?」
黒ずくめの男達は絶妙なコンビネーションとスピ?ドで少年に攻撃を繰り出す。
が、少年はそれを上回る速さでかわしながら、逆に次々と男達をなぎ倒していく。
「なっ、バ、バカなっ!タイプ1とはいえミキサーをこうまでアッサリと!?
!…ま、まさかコイツが?うおっ!」
男の一人が指揮官目掛け吹き飛ばされくる。虚を突かれ、避けられずにいっしょに
後方へとはじき飛ばされてしまう。
「な、何…何なの!?」
展開に取り残され困惑している焔に、少女が駆け寄り、心配そうに声をかける。
「お姉ちゃん、大丈夫?ケガとかしてない?」
「え?あ、ありがとう。…大丈夫…だよ。えっ…と、あなた…は?」
「私ですか?私は氷室(ひむろ)つららって言います。そしてあっちは私のお兄ちゃん。
名前は、氷室雹(ひむろひょう)って言います。」
つららに合わせて焔も雹の方へと向き直る。雹も気付いてこちらを振り向く。
「あ…けっこう好みかも…」
「はい?」
…こんな状況でもこんなセリフを言えるのが焔である。
一瞬、場が和んだ(?)かに思われた、その時
「うがぁあああああああ!」
上に乗っていた部下を弾き飛ばし、指揮官が腹立たしげに起き上がる。
「テンメエェェェ、よくもやってくれたやがったなぁ!
だが!このオレ様を、こいつらタイプ1と同じだと思うなよ!ムンッ!!」
そう言って指揮官が腰を落とし力を込め始めると、その体に変化が起こり始めた。
口は裂け、腕が鎌状に変わる。服がちぎれ飛び昆虫を思わせるボディが現れた。
「カハァァァ…見たか!これがオレ様の真の姿、D2・カマキリミキサーよ!!」
カマキリミキサーは自分の力を誇示するように腕の鎌を振り回す。
「なっ、何?何なのあれは!?」
再びパニックになりかける焔を尻目に、つららは平然としている。
「ふーん、タイプ2だったんですね。でも、D2ってことはまだまだ下っ端なんですね。」
「んなっ…!?」
言ったつらら本人には悪意はない。
しかし、出世欲にかられた男に現状を再認識させる言葉は禁句であった。
「こむすめぇー!まずはテメエからだぁあ!」
つらら目掛け飛び掛るカマキリミキサー。その行く手を雹が塞ぐ。
「ジャマだぁ!」
鎌が振り下ろされる、が、雹はそれをかろうじて受け止めた。
「ホォ、なるほどな。この力ならタイプ1じゃ歯が立たんか。だが!」
強烈な回し蹴りを腹に喰らい、雹は壁に吹き飛ばされる。
「…がっ!」
「オレ様をやつらと同じだと思うなと言ったろうが。さぁて、後2人か…」
5
「安心しな、痛みを感じる暇もなく殺してやるからよぉ。ヘッヘッヘッ…」
ゆっくりとつらら達に歩み寄るカマキリミキサー。
恐怖のあまり悲鳴をあげることもできずにいる焔とは対照的に、つららは
微笑みすら浮かべている。それがまたカマキリミキサーの神経を逆撫でする。
「チィッ、気にいらねぇガキだぜ!なにが可笑しい!」
「だって、お兄ちゃんが貴方に負ける訳ないですよ。ほら。」
そう言ってつららが指差す方向には、ゆっくりと立ち上がる雹の姿があった。
「バカな!オレ様の蹴りをマトモに喰らって?テメエ、人間じゃねえのか!?」
雹はそれに答えず、精神を集中させるように息を整える。そして…
「ウォォッ!」
気合と共に、雹の姿が変わっていく。人を超えた、超人の姿に。
だがその変化は、どこかカマキリミキサーに酷似しているようにも思える。
「キサマ、何者だっ!」
戸惑うカマキリミキサーに、つららが代わって答える。
「もちろん、貴方のような悪人たちをやっつける正義の味方ですよ。」
「チッ!フザけるなぁー!」
変身した雹に向かって、再び両腕の鎌を振り下ろすカマキリミキサー。
だが、雹は身じろぎ一つしない。鎌が直撃するかと思われたその刹那…
シュンッ!一瞬の風切り音と共に、雹の手刀が2つの鎌を切り飛ばした。
「グ…ギャアアア!オレの、オレ様の腕がぁ!」
無くなった両腕に当惑するカマキリミキサーに、雹が歩み寄る。
「ヒッ!く、来るなぁ!来るんじゃねえぇ!!」
雹が右拳を硬く握り締めると、その拳が青白く発光していく。
「…消去。」
雹の繰り出したパンチがカマキリミキサーの眉間にヒットし、吹き飛ばす。
「…グッ、ガ、ア、アァァァ!」
カマキリミキサーの額から青白い光が全身に広がっていく。やがて全身が
光に包まれ一瞬その輝きが増したかと思うと、後型もなく消え去った。
6
「…」
大きく口を開けて成り行きを呆然と眺めていた焔の顔をつららが覗き込む。
「お姉ちゃん?終わったよ。」
そう言ってにっこりと微笑むつららを見て、焔はようやく我に還った。
「あ、あなた達は…一体!?」
超人の姿の雹が振り返る。
これが、これから長き闘いを共にする3人の初めての出会いであった。
<つづく>
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