キン肉マン以前
キン肉真弓−伝説の王者

第10回超人オリンピック決勝戦――

キン肉真弓、25歳。
超人オリンピック初出場にして決勝まで勝ち進む。
エントリー・日本。
若い頃からホルモン族との戦役で武勲を挙げ、
格闘界では向かうところ敵無しのパワーファイター。

ハラボテ・マッスル、同じく25歳。
こちらも超人オリンピック初出場にして決勝まで勝ち進む。
エントリー・同じく日本。
太めの外見に似合わず身軽で、空中技や関節技を得意とする
格闘界きっての技巧派超人。

二人とも修行時代は
正義超人養成機関ヘラクレス・ファクトリーで主席を争ったほどだ。
こちらの勝負の方は、スパーリングでハラボテが僅差で真弓を差し切って
主席の座を奪っていた。

そういうわけで、二人のライバル関係は超人界では既に有名だったが
公式戦では一度も戦ったことはなく、
それだけに、この一戦には宇宙中から観客が集まった。
決勝戦の観戦ツアーを企画していた旅行会社は
予想外のツアー申込者の数に、嬉しい悲鳴を上げていた。
また、旅行会社とチケット販売業者との食い違いから
十分な数のチケットが回らず、チケット確保に東奔西走する会社も少なくなかった。

こうして事の内外にわたり、真弓VSハラボテ戦は世間の注目を浴びていた。
旅行会社とチケット会社の提携が当り前となった現在では、このような騒ぎは
起こらなくなったが、それを差し引いてもこの事件は十分に異例だったと言える。

世紀の一戦のゴングが鳴った――

ゴングと同時にハラボテ得意のドロップキックが炸裂!
だが、ハラボテの奇襲にも真弓はダウンしなかった。

「フフ…やるな、真弓くん… この程度の奇襲など通用せんのか…」

「ムダ口叩いとる場合ではないんじゃないか、ハラボテ。」

そう言うと、両者はリング中央でガッチリと組合い、力比べを始めた。
パワーに勝る真弓はハラボテの体をサーフボードにとると、彼をロープにふった。
真弓得意のラリアート、マッスルボンバーへの必勝パターンだ。
だが、ハラボテはジャンプ一番かわすと、
そのまま真弓が突き出している右腕に飛び乗る。
そのまま二人はもつれるようにして倒れた。
ハラボテはすかさず真弓の右腕をキーロックに固める。
ハラボテの流れるような関節技を食らい、真弓は苦悶の表情を浮かべる。

「真弓くん、早いうちにギブアップした方が身のためだぞ。右腕をヘシ折られない前にな。」

「フン、誰がギブアップなど…」

そう言うと、真弓は右腕をキーロックされた状態からハラボテごと持ち上げて立ち上がった。そして左腕でハラボテの動きを封じ込め、変形のバックドロップを放つ。

「どうだ、ハラボテよ。お前の技など効かぬわ。」

「真弓くん、やるのう。」

ハラボテは受身をとっていたようだ。
真弓のバックドロップも、一歩間違えば右腕が折れる程の荒技だ。

序盤戦から激しい技の応酬に観客は嫌が応にも沸き立つ。


試合の流れが変わったのは、ようやく30分が過ぎたあたりだった。
真弓のアイアンクローがハラボテにガッチリと決まった。
ハラボテのスタミナがどんどん失われていく。
だが、真弓はハラボテを突然放した。
意識朦朧で立ち上がったハラボテには、背後から迫る影に気付くわけがなかった。
ハラボテが殺気に気付いて振り返った瞬間、真弓のマッスルボンバーが炸裂した。
文字通りもんどり打って倒れるハラボテ。
この瞬間、試合の勝者が決まったのは誰の目にも明らかだった。
真弓はハラボテの体に覆いかぶさる。
レフェリーの3カウントが入ったが、この試合にはそれは野暮というものだろう。


「フフフ、ハラボテよ。今回の勝負はワシの勝ちだな…」

「フン、あの時のスパーリングの貸しを使ったまでのことよ。」

「次の対決の場は来年の宇宙超人カーニバルじゃのう。」

二人は鳴り止まぬ歓声の中で再戦を誓い、握手をした。


だが、その一月後、ハラボテの開いた緊急記者会見は
超人格闘界を震撼させるものとなった。

ハラボテが選手生活から引退し、宇宙超人委員会入りすることになったのだ。

「ハラボテさん、宇宙超人委員会の書記に就任されるそうですが、キッカケは?」

「先月の超人オリンピックで選手生命に関わるケガをしたというウワサは、やはり本当なんですか?」

「いえ、キン肉真弓さんに負けたショックでリングに立てなくなったとお聞きしましたが…」

「バナナはおやつに入るんですか!!」

真弓のラッシュにも勝るとも劣らない記者団の質問攻めを前に、ハラボテはタジタジとなった。

「あー、それについては…」

その頃、超人オリンピックも終わり、真弓はキン肉星のマッスルガム宮殿で
休養の日々を送っていた。

好きなワイドショーを観ながら
これまた好物の牛とじ丼を食べていた真弓は
思わず丼を落としそうになった。

「ハ、ハラボテ…」

真弓は思わずTVをひっ掴んでいた。

「ハラボテ、これは一体どういう了見だ! ワシとの再戦を忘れおったのかー!!」

「ま、真弓くん…!?」

ハラボテが驚くのも無理はない。
キン肉星で休養していたはずの真弓が
いきなり記者会見場のモニターテレビから現れたのだから…
しかも右手に箸、左手に牛とじ丼の丼を持って。

「貴様、ワシとの対決から逃げる気か!?」

「ち、違う、真弓くん。ワシの話を…」

「ええい、聞く耳持たん!!」

「ワシは今後の事を考えて、若い超人が格闘に打ち込めるような超人界を作ろうと思っとるんだ。」

真弓はハラボテに背を向けたまま、耳を貸そうとしない。
すると、そこに制服姿の男が2人、真弓を片腕ずつ掴んだ。

「いくら、キン肉星の次期大王といえども記者会見場に乱入は許されません。退場願います。」

SPが真弓を制止にかかったのだ。

「ああ、いいんだ。そのまま、そのまま。」

ハラボテの言葉で、真弓の腕を掴んでいたSPが後ろに下る。
真弓はハラボテの方を振り返った。

「ハラボテ、貴様が決めた道がそういうことなら、もうワシは何も言わん。だがな、これだけは…」

真弓はそう言うと、ハラボテに殴りかかった。
ハラボテは軽く10メートルは飛んでいく。

「これ以上の狼籍は許さん!」

SPの怒りは頂点に高まった。

「やめい!!」

起き上がったハラボテがSPを止める。
ハラボテは真弓のところに歩み寄った。
真弓の目の前に立ったハラボテも真弓に殴りかかった…かに見えたが、
ハラボテの方は寸止めに終わった。

「真弓くん、いつの日かまた戦えたらいいのう。」

ハラボテは笑みを浮かべる。

「フン…」

真弓はそのまま振り返らずに記者会見場から去っていった…

…が、
真弓は帰りの交通費を持ち合わせていなかったために
結局、記者会見の終わったハラボテから金を借りることになる。
TV画面通り抜けは気持ちが昂ぶった時にしかできない大技らしい…


三十数年後…
宇宙超人委員長に就任したハラボテ・マッスルは
自ら宇宙警察と10万人の超人を指揮し、
7人の悪魔超人たちを超人ホイホイに捕らえることに成功する。


そして第20回超人オリンピック決勝――
そのリングで再び真弓とハラボテは対峙することとなる。
但し前座だが…

「あの時の約束をようやくはたせそうじゃぞ、真弓くん。」

「委員長、今度もワシの勝ちじゃ。」

試合が始まる。

「早く決勝戦はじめろーっ!!」

「おいぼれの試合をみにきたんじゃねえぞォ!!」

観客のブーイングも何のその、二人は時間を超えた戦いをいつしか楽しんでいた。

「近代オリンピックはそんなにあまかねえぜ!!」

「ドラゴン・ロケットみせろー!!」

ブーイングはさらにひどくなる…
二人は結局、30分の時間切れまで戦い抜いた。

観客は怒りのあまり、手当り次第に持っていた物を投げつけた。
二人は頭を抱えて避けながらもこういう会話をかわしたという。

「真弓くん、次もやるぞい。」

「望むところよ。」

あとがき

今回は、真弓編です。これまた勝手に真弓の決勝の対戦相手としてハラボテを登場させていますし、身軽な技巧派という設定にしています。これは、実際に真弓にキーロックをかけていたのと、超人オリンピックでコマネチも真っ青のウルトラCをやっていた(決めそこなったけど…)ことをもとにしてあります。あの体型ではミスマッチですけどね。試合の展開も基本的に両超人オリンピック決勝の前座試合をもとにしています。本当なら、終盤に真弓をピンチにさせておいて「火事場のクソ力」や「業火のクソ力」よりも元祖の「〜のクソ力」なるものを発動させて勝つという展開にしたかったのですが、いいネーミングが浮かばずに没にしてしまいました。マッスル・ボンバーが関の山です、はい。

話は前作に比べると短いですが、本来はこのくらいの長さにするつもりだったんです。このシリーズは。むしろ前作は力が入り過ぎて、長くなってしまったのです。というわけで、次回もこのくらいの長さでいくつもりです。あくまで予定ですが…
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