キン肉マン以前
ラーメンマン−闘将、最後の戦い(後編)


「ランボー、どうやらここのようだ。」

「確かに血の跡がこの洞窟の中まで続いてるな…」

ここが玉王のアジトに違いなかった。それは洞窟に続いている血痕からだけでなく、内部から邪悪な闘気が満ちみちていたからだ。それは正義の戦士が最も敏感に感じ取れるものだ。

二人は洞窟の中に足を踏み入れた。中は意外と広いが、曲がりくねっているため先が知れない。どんな罠が仕掛けられているやも分からない。だが、悠長にしてもいられない。二人は焦りと慎重さの妥協点の速度で歩を進めるしかなかった。

「ランボー…」

「何だ、ラーメンマン。」

「もしわたしが倒されることがあるなら、シューマイを連れて逃げてくれ。」

ラーメンマンの後向きともとれる発言にランボーは激昂した。

「何て事を言うんだ! いつものお前らしくないぜ。それともまだ殴り足りないのか!?」

「しかし…あれから考えてみたんだ。どうすれば紫電龍を倒せるかを… だが、わたしにはどうやっても策が思い浮かばないのだ。そんな時、何を優先させるべきか…」

「…………………………」

ランボーには返すべき言葉がなかった。ラーメンマンから紫電龍の戦い振りを聞かされ、自分なりに策を考えてみたが、手の打ち様がなかったのはランボーも同じだったからだ。

『待っていたぞ!!』

玉王の声がした。何処かにスピーカーが仕掛けられているのだろう。この様子だと、玉王がラーメンマンたちの進入に気付いたのも今しがたのことではない筈だ。

『そのまま進んでいきたまえ… 取引はそこで行おう… フフフ…』

このままだと洞窟内の会話も筒抜けになっていると考えた方がいい。二人は会話を交わすことなく自然とその結論に辿り着いた。

(ラーメンマン、どうする?)

(こうなったら、進んでいくしかない。おそらく、激突は免れまい。)

(そうだな。オレもその考えだ。)

二人は唇だけで会話を交わす。そして、何も言わぬまま歩き出した。

数分すると、何の罠にも出くわさず鉄扉のある行き止まりに着いた。一瞬、二人の動きが止まった。九割方、扉の向こうが玉王のアジトであることは間違いない。

「ランボー…本当に後悔しないのだな。」

「くどいぜ…」

「いくぞ…」

「ああ…」

二人は拳に力を込めた。

ガシャアッ!!

最強の拳法家が二人も揃っているのだ。鉄扉など何の障害でもない。紙屑のように吹き飛んだ。

「ようこそ… 二人とも。」

ラーメンマン達の前に機器類の並ぶ部屋が現れた。中は意外と広い。総本山の小武闘殿くらいの広さはあるだろう。存分に暴れられる程に…

そしてその部屋の真ん中には玉王がいた。その後に控えしはラーメンマンに苦渋を嘗めさせた紫電龍が…

「おや、ランボーくんも一緒かね。これは歓迎のしがいがあるよ。」

「シューマイを返してもらおう。」

「フフフ…紫電龍…」

紫電龍に目配せをする玉王。

「ほらよ…悪かったな!」

紫電龍はラーメンマンに向かって気を失ったままのシューマイを放り投げた。少し申し訳なさそうに見えたのは気のせいだろうか。ラーメンマンはシューマイを無事に受け止め、足下に寝かせた。

「さあ、今度はわたしの番だ。お前が着ている昇龍胴着を渡してもらおうか。」

「イヤだと言ったら…」

「やはりその答えか。フフフ…いいだろう。」

「ラーメンマン、このまま帰させてはくれねえようだな。」

「戦いは避けられんか…」

ラーメンマンとランボーは身構えた。

「紫電龍…ランボーはわたしに任せろ。お前はラーメンマンに専念するんだ。」

「オレは二人がかりでもいけるが…」

「無理はするな。」

「玉王さまこそ…」

「フフフ…」

「おい、聞こえたぜ玉王。」

玉王と紫電龍の二人言に割って入ったのはランボーだ。

「お前なんかにオレが足止めできると思っているのか。だが、玉王…思えばオレは元々あんたに作り出された。言わばオレ達は親子だ。だから、あんたの始末も子であるオレの手でするのが道理!」

「フフフ…お前にわたしを倒すことなどできるかな…?」

玉王は不敵な笑みを崩さない。

「ラーメンマン、すまねえな。しばらく一人で戦ってもらうことになるが… 玉王とのカタをすぐつけるからよ。それまで持ち堪えてくれ。」

「気にするな。」

「ラーメンマン、こっちだ!」

紫電龍は部屋の奥に飛び退いた。ラーメンマンもそれについて行った。一対一の構図が二つ出来上がった。

「そらそら、いくぜ! 今度は手加減無しだ。」

紫電龍は早速ラーメンマンに拳打を繰り出す。重さと速さを兼ね備えた拳の前にラーメンマンは受け止めるのが精一杯だ。

「く…やはり実力が違いすぎるか…」

「ラーメンマン!」

玉王と対峙しているランボーがラーメンマンの方を見て叫ぶ。

「余所見は死を招くと思え。」

ドバァッ!!

「な…何だ、これは!? う…く…」

玉王の銃から発射された液体を浴びたランボーは激痛に襲われ始めた。

「こんな事もあろうかとお前を作り出した時、特別な薬品に反応するように体質を設定しておいたのだ。お前の体は次第にその薬に侵されていき、最後には跡形も無くなってしまうのだ。」

「き…汚いっ! 玉王、お前と言うヤツはあまりにも…」

「フフフ… 少しでも長生きしたければこれ以上は足掻かない方がいい。動けば動くほどお前の体は死に至るのだぞ。」

ランボーは激痛に耐えかね、その場に蹲(うずくま)った。だが、このままジッとしていても、ランボーの身体は徐々に溶解していく。

「ラ、ランボー…!!」

「お前も人の心配をしている時ではないということは分かってるだろうな!」

紫電龍は攻撃を増してきた。両腕に巻かれている八紋金鎖が体内の闘気を電気エネルギーに変換しているのだろう、ラーメンマンは攻撃を受ける度にビリビリとした衝撃を感じるようになった。

「打穴三点くずし!」

ラーメンマンは何とか紫電龍の隙を見つけて攻撃を繰り出した。だが、その攻撃も両腕でガッチリとブロックされては何の意味もなかった。今や攻撃、防御共に死角のない紫電龍にラーメンマンは少しずつだが、戦意を喪失しつつあった。

「ラーメンマン、最後まであきらめるなーっ!」

ランボーが動かない体でラーメンマンの激励をする。

「ケッ…へらず口を…」

玉王は蹲ったままのランボーにストンピングを加える。

「あいつ…ランボーとか言ったかな…あいつもダメのようだな。これで一気に決めてやるぜ!」

紫電龍はラーメンマンとの間合いを急激に詰めていった。そして…

「紫電卍(しでんまんじ)!」

今までは打撃技のみだった紫電龍が組み技を仕掛けてきた。

「こ…こんなものが…効くか…」

確かに紫電龍が掛けた技はただの卍固めだ。

「へっ…そう思うか。だが、本番はこれからだぜ!」

紫電龍の体が淡い光を放ち始めた。その光は徐々に強くなって電撃となってラーメンマンの体を走り抜ける。

「うわーっ!!」

「いいぞ、紫電龍! このままラーメンマンの体力を奪っていけば、あと数分で力尽きるぞーっ!」

玉王の攻撃の手が一瞬緩んだ。その隙をランボーは見逃さなかった。残り少ない力を振り絞り、玉王の足をすくう。

「うわっ。」

転倒する玉王。ランボーは動かないはずの体を起こすと猛然と紫電龍に向かってタックルを敢行する。

「うおおーっ!」

ドカッ!!

ラーメンマンと紫電龍の体がようやく離れた。

「ランボー!」

ランボーの側に駆け寄るラーメンマン。もはや取り返しがつかない程にランボーの体は溶解していた。胴体は無く、残すは頭だけになってしまっている。

「ラーメンマンよ。玉王に操られていたとはいえオレは罪のない人々を殺しすぎた… その報いが今になって返ってきたようだな…」

「もういい。これ以上しゃべるなーっ!!」

「ラーメンマン、諦めるな。命ある限り最後ま…で…闘…え…」

最後のランボーの頭が溶解した。ラーメンマンの手元には彼が着ていた胴着だけが残った。

「ランボーっ!!!」

だが、ラーメンマンに悲しんでいる暇(いとま)は無かった。ラーメンマンには倒すべき敵が二人も残っているのだから…

「来い! 紫電龍よ!!」

「フン…言われなくても来るぜ!」

激闘が再開された。しかし、ランボーの心意気を受け取ったとはいえ、ラーメンマンの劣勢が覆ることはなかった。紫電龍がラーメンマンを攻め立てる音が洞窟内に響き渡った。

…………………………………………………………

「ラーメンマン…」

シューマイが目を覚ました。その目の前には紫電龍に大苦戦をするラーメンマンの姿があった。

「ど…どうしよう… おいらが出てきてもラーメンマンの助けにはなれないし…」

シューマイも紫電龍の雷撃殺法にやられ、その強さは身にしみて分かっていたのだ。相手の強さを正確に把握する…シューマイも一人前の拳法家の仲間入りをしようとしていた。だが…

「ケッ… お前の強さもそこまでかい。せっかく遠慮なく戦えるようにしてやったのによ。」

紫電龍の突きがラーメンマンのに命中した。ラーメンマンはどうと倒れ込む。

「閃脚萬雷…」

「身体鋼化(フルメタルジャケット)!」

シューマイが二人の間に割って入った。何時の間に覚えたのだろう…超人一○二芸の一つ、「身体鋼化」を使って。雷は金属に落ちる。鋼の塊と化したシューマイに紫電龍の必殺技が吸い寄せられるように炸裂する。

ガガガガガガガガ…ガシャアン!

ドンという鈍い音とともに落下するシューマイ。そしてトンという軽い音で着地する紫電龍。

ラーメンマンは鋼化から解け始めるシューマイを抱えた。

「へ…へへ… いつもラーメンマンの足を引っ張ってばっかりのおいらだったけど、今度は役に立ったね…」

「シューマイ、いつも言っておいただろう。闘龍極意書を盗み見てはいけないと…!」

「ひどいや…ラーメンマン…こんな時も…お小言なんて…」

それ以上、シューマイの言葉が続くことはなかった。シューマイの体は冷たくなり始めていた。しかし、シューマイの顔はうっすらと微笑んでいた。

「チッ…後味悪りィぜ。ガキを手にかけちまうとはよォ。」

「紫電龍よ… お前に恨みはない。今のも事故にすぎないだろう。だが、わたしはお前を許しておけない…」

ラーメンマンは顔を伏せたままブツブツと呟(つぶや)いた。

「闘将乱舞!!!」

そう叫ぶと、ラーメンマンは鬼のような形相で見えないほどの蹴撃と拳打を紫電龍に叩き込んだ。紫電龍はガードも間に合わず、為すがままにされる。いや、例えガードをしていたとしても八紋金鎖が巻かれた両腕さえ粉々に砕かれていただろう。ひとしきり攻撃を終えたラーメンマンは猿のように玉王に飛びかかった。そのまま玉王の上半身に飛びつくと、その頭を抱えた。

「な、何をする… 放せ! ぐっ…」

玉王は言葉を詰まらせた。ラーメンマンがそのまま力任せに体を後ろに反らせ始めたからだ。

「ひゃはははははははは…!」

ラーメンマンは狂気の声を喚げながら、玉王の体を頭ごとヘシ折りにかかった。これは…ラーメンマンが超人一○二芸の一○三番目として編み出した『機矢滅留・苦落血(キャメル・クラッチ)』だ。

玉王の機械の体がミシミシと音を立てる。頼みの紫電龍の救援はない。ラーメンマンの闘将乱舞ですっかり戦闘能力を失ってしまっている。あるいは既に事切れているのか…

「ギャアアアーッ!!」

玉王が断末魔を喚げた。玉王の体が完全に真っ二つになったのだ。

その時、超人拳法総本山では寝たきりだった陳老師が突然跳ね起きていた。

「ラーメンマン…行くのか…」

僧室の窓からは、一筋の流れ星が流れていくのが見えた。陳老師は理由もなく、ただ涙を流し続けていた。

ここで異変が起こった。玉王の体がボウッっと光を放つと、そこから眼鏡をかけた人の顔のような物体が飛び去っていったのだ。それは闘気でもなく、幽霊でもない。あるいは… 
その物体が飛び去った後の玉王の顔は隈取りが取れ、およそ悪の権化とは思えないほど安らかな顔をしていた。今までの悪行の数々が誰かに操られて行われたかのような…

ラーメンマンから荒々しい息づかいが消えようとしていた。ラーメンマンはシューマイの亡骸とランボーの胴着を抱えると、そのまま外に向かってゆっくりと歩き出した。

「ラ…ラーメンマン…お前は…どこ…へ…行…くん…」

その言葉を発したのは紫電龍だった。間もなく紫電龍も物言わぬ体となった。

ラーメンマンはシューマイとランボーの胴着の埋葬を終えた。その間、終始無言だった。ラーメンマンの目からは既に涙が枯れ果て、血の涙に変わっていた。

それ以来、ラーメンマンは昇龍道着を封印して超人拳法界から姿を消した。
間もなく、残虐超人・ラーメンマンの名が超人格闘界を揺るがすことになる。
超人オリンピックでキン肉マンと出会う1年前の出来事だった…

あとがき

後編は更新が遅れてしまいましたが、いかがだったでしょうか。この終わり方には賛否両論あるでしょうが、ラーメンマンが全てを捨てて残虐超人となっていった過程を自分なりに描いたつもりです。思うに、残虐超人時代は超人拳法の秘術を封印していたんじゃないかと… それがキン肉マンと出会うことによって少しずつ封印が解け始め…モンゴルマンになった事がある意味そのキッカケにもなっていると思います。小説としてその模様を描くつもりはないですが、王位争奪編でラーメンマンとして復活するにあたって最後の封印とも言える昇龍胴着装着に踏み切ったのではないでしょうか。その時、ラーメンマンは「闘将」シリーズ以上の力を初めて持ったのだと…

ノベルリストに戻る