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 今年(2006年)8月に個展を開いた。
約3年振りとあって正直緊張もしたが、それよりも況して自作の品を誰かに観てもらえる期待感で胸が高鳴った。
高校卒業と同時に山の中の田舎を飛び出し、社会に揉まれながらも、常にどこか自分を表現できる場を求めていたが、
それが何で、何処にあるのかさえ全く分からぬ手探りの状態、希望よりも不安のほうが圧倒的に強かったのを覚えている。
 実家は祖父の代から農具などをつくる”野鍛冶”で、周りからは一人息子のあととりと言われ育ってきたが、
アナクロで斜陽産業のこの仕事に、十代の若者が将来の展望を見出すことなど出来るはずがない。
月日が流れ30歳を迎えた頃、あることから鍛冶の仕事を再認識したのを切掛けに、この道に飛び込んだ。
一番近くにあった家業が最も遠い存在で、気付くのに長い道のりを歩いてきた。
しかし、これらの寄り道は今日のものづくりにおいて、重要な要素になっていると思う。
これらの要素を反映した表現とするためには、第一に鍛冶技術力を高めることが最優先課題とし、日々邁進してきたが、
今回それを感じとって頂いた沢山の方々と出会えた。
さまざまな課題も見えてきたが、揺ぎ無い自信に繋がるとても充実した個展となった。
会期最終日に高校の美術を教わった恩師と20年振りに再開した。
現在はキュレーターとして美術館に勤務されているということや、同級生や部活のことなど、時空を行ったり来たりしながら、
懐かしく楽しい時間を過ごした。
それから私の作品を一点一点観察されて、ご批評を頂くことも出来た。
後日お礼状を送り、数日して返事が届いた。「元気で何より」といった内容で文は進み、励ましの言葉が続く。
そして結びの言葉に、「鉄に体全体で向き合っているのが良い」と書かれていた。
あたかも作業風景を見られていたかのようなその言葉は、20年前美術室で全身を石膏で真っ白になりながら、
等身大の彫刻と向き合われていたからこそ分かる、生の声なのかもしれない。
 01
 
鉄と向き合う



Essay