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焼いた鉄を叩いてつくったものを、英語では ロートアイアン (Wrought Iron) と言い、鍛鉄とか錬鉄などと呼ばれている。
例えば、下記の参考文によると、


ロート・アイアンのスペルは Wrought Iron と書きます。 「Wrought」 は、今ではあまり使われなくなった 「Work」 の
過去、過去完了形の古い動詞です。
 ”Wrought Iron” そこには、人間が肉体の労働でもって鉄に働きかけ、いろいろな形や品物を力強く、造り出していくイメージ
があり、英語には珍しい文学的な表現の言葉です。(南沢弘 著「ロート・アイアン読本」より)



と、ある。
鉄を扱う職種や作品全般にあっては、アイアンワーク ( Iron Work) というが、ロートアイアンは工芸的雰囲気を持ち、参考文にあるように素晴らしい表現をもった言葉だと思う。
物心着いた頃から我が家の仕事場は、小規模ながら幾つかの機械が敷設してあり、これらは父が時間を掛けて少しずつ揃えてきたものだ。
帰郷し鍛冶修行を始めたときから、当然のようにそれらを使うことが出来た訳であるが、設備が無い場合どうやって制作するかなどとは、一度も考えたことがなかった。
鍛冶業について3年が過ぎた頃、イタリアの鍛鉄マエストロ (名人) から教わる機会を得た。
最高の期待を胸に現地入りしたのだが、私のために用意された作業場には、手動式のブロアー付きの鞴(ふいご)と、アンビル(金床)、縦バイス(万力)のみ。あとは金鎚、火鋏、ポンチが各数本あるだけ。
「これじゃ中世の鍛冶屋だ」とマエストロは笑ったが、どうやら私の技術レベルを試すということらしい。
氏の判断は正しかったのか、私はハンマー使いが全くと言っていいほど駄目で、1.4kg程度のものを振るのに半日ともたず、右肩や胸が裂けんばかりにパンパンに張った状態。
「何をしにここまで来たのか」と、あまりの実力の無さに茫然自失。乾燥した秋空が夕焼けで真っ赤に染まっている。ほんの先程まで燃え盛るコークスの火と、その中で熱された鉄の棒。どれもが真っ赤で、息がつまりそうだ。
しかし、落ち込んでいてもどうしようもない。意を決して日々合格が出るまで、同じ作業を繰り返し続けた。
どうにかコツを掴み、1日中振れるようになり、強弱や角度の調節で様々な表情を生み出せるようになった。
シンプルな道具で作業をするこにより、手で叩くことの本当の意味や魅力が開眼した瞬間だった。
またそれにより、改めて機械の重要性も再認識できた。
中世だろうが現代であろうが、設備の有無などの問題ではない。
人が鉄に働きかけるロートアイアンのプリミティブな本質、精神性には何ら変わりはないのだから。
 02
 
鉄に働きかける



Essay