【臓  腑】


古代の解剖学に基づくもので、現代の臓腑と異なり機能などの概念も含まれる。義務教育で学んだ臓腑の役割と似通ったものがあり、一般には西洋医学の知識が基礎にあるため、漢方の臓腑の考え方は斬新又は荒唐無稽に思えるだろう。内臓器官である五臓六腑を臓腑と言い、五臓は心・肝・脾・肺・腎で六腑は胆・胃・小腸・大腸・膀胱・三焦である。臓は陰液と陽気を生成、貯蔵し、腑は飲食物の消化吸収と不要物の排泄を行うとされている。臓と腑には、心--小腸、肝--胆、脾--胃、肺--大腸、腎--膀胱・三焦などの密接な関係がある。腑の働きは臓の機能に含まれ、それほど重要な意味はもっていない。腑のうち小腸、胃、大腸は脾との関連性が強い。

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【心】

心臓の拍動に基ずく循環機能と、大脳新皮質を主とする高次精神神経機能や一部自律神経機能をいう。

【心の機能】

  1. 血脈を主る:心臓の拍動による血液の循環で栄養物の運搬と、人体の各部の新陳代謝や機能を維持する。「宗気」がこの機能を推進する。

  2. 心は神を主る:神は「神明」、「神志」ともいい、思考、分析、判断など高次の意識や思考活動を行う。

  3. 心は舌に開竅し、その華は面にあり、汗を主る:顔や舌には血管が多く分布し循環の状態を反映する。心の病変では発汗に異常が見られる。

【心気・心血・心陰・心陽】
心気、心陽は心臓の拍動による循環機能をいい、心陽はとくに気の温煦作用が中心になる。心血、心陰は大脳新皮質など高次神経系や心筋に対する滋潤作用や代謝をいい、心陰はとくに津液による滋潤が中心になる。心陰、心陽は心の機能の相互作用を意味することがあり、心陽を心の拍動亢進、大脳の興奮、心陰は拍動安定と脳の抑制をいう。

【心包系】
心の外面を包み保護する膜とされるが、生理的、病理的に心とほぼ同じ。

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【肝】

視床下部を含めた自律神経系、大脳辺縁系など情緒活動に関係する中枢神経系、運動神経系、肝臓、血液循環の調節機能、視覚系の一部、月経調節などの機能をいう。肝については西洋医学で知られているより、はるかに広範で実体を超えた機能が賦与されている。

【肝の機能】

  1. 肝は血を臓す:血の濡養と調節の2つの機能をいう。濡養とは栄養物質が門脈系を介し肝臓に入り、代謝、貯蔵され必要に応じ体に供給する。調節は自律神経系の働きで血管を収縮・弛緩させ血流量を保つ。女性では子宮に十分な血液を供給し、自律神経系を介しホルモン分泌の調節も行う。

  2. 肝は疏泄を主る:情緒を安定させ精神状態を快適に保つ。大脳辺縁系や新皮質の一部の機能に相当する。視床下部や自律神経系の機能で全身を円滑に調節する。肝臓の代謝、解毒作用や胆汁の分泌も含まれる。

  3. 肝は筋を主る:四肢、体の筋肉、腱、関節の運動を調節する。血流や運動神経系を通じて筋の運動を制御する。

  4. 肝は目に開竅し、その華は爪にある:目の栄養物質や血流、機能に対する自律神経系の関わりから、肝の機能は目に反映されやすい。血の濡養作用は爪の変化として現れる。

【肝気・肝血・肝陰・肝陽】
肝気、肝陽は主に疏泄をいい、情緒や自律神経系の働きに関与し、肝陽は気の温煦作用に重点を置く。肝血、肝陰は肝の蔵血をいい、肝血は濡養作用を、肝陰は血、津液を意味する。肝血、肝陰による血への物質的な濡養によって肝気、肝陽の疏泄作用を発現させ、それが逆に肝血、肝陰の濡養作用を円滑に行うという相互関係にある。肝の病理的特徴は「肝気、肝陽は常に有余し、肝血、肝陰は常に不足す」といわれる。つまり肝気、肝陽は升動しやすく、肝血、肝陰は不足しやすい性質がある。

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【脾】

消化器系全般の消化吸収、栄養代謝、体液調節の一部、免疫維持、止血機構の一部、門脈系やリンパ系の循環を含む機能系をいう。

【脾の機能】

  1. 脾は運化を主る:転化と運輸をいい、転化は飲食物を消化酵素で消化し栄養や水分を血中やリンパ管に送り、気、血、津液の源とする。運輸は吸収した栄養物や水分を門脈系、リンパ系を通じて全身に輸送する。主に門脈系から肺、心まで輸送し、全身に散布するのは心の推動と肺の宣散、粛降による。脾は生命活動に必要な栄養物質を産生、供給するので「後天の本」ともいう。

  2. 脾は統血する:脾の運化が順調であれば、気、血、津液が十分に生成され、気の固摂作用で血液は脈管外に流出することなく循行する。

  3. 脾は肌肉、四肢を主る:脾の運化によって栄養物質が四肢や体や内臓の筋肉を養う。

  4. 脾は口に開竅する:消化器系の機能状態は食欲や味覚に反映する。

【脾気・脾陽・中気・脾陰】
脾気、脾陽は脾の機能をいうが、脾陽はとくに気の温煦作用に重きをおく。脾は気の生成に直接関与するので気の充足状態は脾の機能によって決まる。気の防御作用は脾が免疫系に働くことによる。脾と胃の機能を含めた消化吸収機能全般を「中気」ということが多い。脾陰は胃陰ともいい、消化器全般の組織液で胃陰虚の状態を呈することが多い。

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【肺】

肺の呼吸機能、体液代謝の一部、体温調節、免疫機能の一部などを含む機能系をいう。

【肺の機能】

  1. 肺は気を主る:呼吸によって外界の清気(酸素)を吸入し体内の濁気(二酸化炭素)とのガス交換を行う。気の生成に関与し全身の様々な機能を発現させる。肺は心拍動と呼吸を推進する「宗気」、皮膚呼吸や汗腺・体温の調節を行う「衛気」と密接な関係がある。

  2. 肺は宣散、粛降を主り、水道を調節する:宣散とは、気、血、津液を全身くまなく散布し機能を発現させることをいう。とくに肺と皮膚の呼吸で津液を発散させ、末梢血管内外の浸透圧を調節し体液バランスを維持する。粛降とは、気道や呼吸のための筋肉を調節し、呼吸を順調に行なうこと。また津液を下方へ輸送し腎を通じて尿に変え膀胱から排泄する。宣散、粛降による体液調節を「水道を通調する」といい、体液調節全般である「三焦気化」のうち「上焦」に相当し、心の推動が必要である。

  3. 肺は皮毛を主り、鼻に開竅する:肺気の一部である衛気は汗孔の開閉、汗の分泌、立毛筋の調節を行い、末梢循環や体液のバランスを維持する。また病邪の侵入を防ぎ、病邪に抵抗し排除する免疫能を発揮する。血の濡養を基礎としている。鼻は気道の一部として肺に関係し、嗅覚も肺気によって維持される。

【肺気・肺陰】
肺の機能全般を肺気といい、とくに衛気との関連が深い。肺陰は、肺を滋潤し栄養を与える陰液をいい、肺や気道の分泌液や組織液を正常に保つ。

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【腎】

内分泌、泌尿生殖器系、中枢神経系の一部、免疫監視能を含めた機能系。

【腎の機能】

  1. 腎は精を蔵し、生長、発育、生殖を主る:腎が貯蔵する精は、生長、発育、生殖、生命活動を維持する物質的な基礎で、視床下部、下垂体、副腎系、性腺、甲状腺、松果体、上皮小体など内分泌系全般の機能と考えられる。とくに下垂体、副腎系との関連が深く免疫監視能に関与する。

  2. 腎は水液を主る:体液全般に対して調節を行う。主として副腎皮質や下垂体後葉ホルモンなどによって腎尿細管で水分の再吸収を調節する。電解質平衡や浸透圧の調節にも関与する。

  3. 腎は骨を主り、髄を生じ、脳に通じる:生長ホルモン、甲状腺ホルモン、グルココルチコイドなど内分泌系機能を通じ生長、発育、成熟、老化の全過程に関わる。知能、知覚、運動系の発達、維持に大きな役割を果たす。

  4. 腎は上は耳に開竅し、下は二陰に開竅し、その華は髪にある:腎精は老化に伴い充足度が低下し耳鳴、聴力減退、排尿異常、生殖能力低下、排便異常、白髪などが起こる。

  5. 腎は納気を主る:呼吸機能で、とくに吸気に腎が関与する。

【腎精・腎気・腎陰・腎陽】
生命活動の基本物質を腎精といい、腎陰と同じ意味である。腎精をもとに生じる生命活動を腎気という。腎陽は腎気と同じだが、とくに温煦作用を強調するときに使う。生命活動のもっとも基本であるため、腎陰を「元陰」「真陰」といい腎陽を「元陽」「真陽」「命門の火」ともいう。腎の陰陽の失調は全身の臓腑の失調を引き起こし、各臓器の陰陽の失調は腎の陰陽の失調を引き起こす。腎陽は免疫の亢進に、腎陰は抑制に関与し、両者の働きで免疫監視能を維持する。

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【脳】

脳は心と肝と腎の機能に分けられ、腎は発育、機能維持、老化の全過程、心は意識、思惟活動、肝は情緒活動、自律神経中枢の機能、運動系に属する。

【子宮】

女子胞、胞宮ともいわれ、月経、生殖、妊娠、胎児発育、分娩、閉経のすべての過程で性ホルモンを主とする内分泌系の調節を受けるため腎の機能にあたる。子宮への血液循環、栄養供給、ホルモンの運搬はすべて血液と関係し、心、肝、脾の機能にあたる。肝は自律神経系を介してホルモンや子宮の機能に関与するため「肝は婦人の先天」ともいわれる。

【臓と臓の関係】

心は血脈を主り、肺は気を主る。心は
血行を巡らせ、肺は宣散、粛降を主る。
循環器系と呼吸器系の相互関係をいう。水分
代謝について心はポンプ作用で肺の宣散、
粛降を推進し、体液のバランスを保つ。
心は血脈を主り、脾は運化を主り、統
血する。
脾は運化によって血の生成源を供給し、心
は血を循環させて脾の機能を維持し、脾は
固摂によって血液を脈管から漏らさない。
心は血脈を主り、肝は血を蔵す。心
は神を主り、肝は疏泄を主る。
循環系は心の拍動と肝の自律神経系を介
した血管運動で調節され、肝血は心によっ
て全身に輸送される。
心は神を主り、腎は精を蔵し、髄を生
ず。心は血脈を主り、腎は水液を主る。
脳循環と内分泌系を介して中枢神経系の
機能に関与する。心の拍動が腎の濾過や
水分の再吸収と尿生成に影響を及ぼす。
肺は気を主り宣散、粛降を主り、脾は
運化を主る。肺は貯痰の器、脾胃は
生痰の源である。
肺と脾は協力して気の生成に重要な役割
を果たし、津液の輸送、輸布、排泄に関与
する。
肺は宣散、粛降を主り、肝は疏泄を
主る。
肝は自律神経系を介して、呼吸、水分代謝
など肺の機能に影響を及ぼす。
肺は気を主り、腎は納気を主る。腎は
水を主り、肺は水道を通調する。
肺、腎は気の生成に関与し、呼吸運動にも
協調的に働く。ホルモン系を介した腎の水
分代謝と循環系や皮膚呼吸を通じた肺の
水分代謝とも関係する。
脾は統血し、肝は血を蔵す。脾は運
化を主り、肝は疏泄を主る。
肝は脾が運化した栄養を代謝、合成、貯蔵
し適宜全身に供給する。肝は血管運動神
経を介し循環を調節し、脾は血管壁を正常
に保ち血液の脈管外漏出を防ぐ。脾が運化
した気は肝の疏泄作用の基本となり、疏泄
によって脾や消化管を制御する。
脾は後天の本、腎は先天の本である。 生命の基本である精は、脾の運化した栄養
物で絶えず補充され、腎気は全身の機能
の基本として脾を助ける。脾は水液を吸収

輸送し、腎は代謝全般を調節する。
肝は血を蔵し、腎は精を蔵す。 肝血と腎精は陰液の基本で、互いに密接な
関係を持つ。肝血の不足は腎陰に、腎陰の
不足は肝陰に影響を及ぼすので「肝腎同
源」ともいう。

 


【胆】

胆嚢と中枢神経系の一部、又は肝の機能の一部と考えてよい。

【胆の機能】

  1. 胆は胆汁を蔵す:肝臓から分泌された胆汁を貯蔵し適宜排出する。肝の疏泄機能に含まれる。

  2. 胆は決断を主る:中枢神経系と関係があり、肝の疏泄機能に含まれる。

  3. 胆は奇恒の腑である:胆は腑に属し、飲食物の消化、吸収、排泄に関与するが、直接飲食物に接することなく胆汁を蔵するので、他の腑と区別し「奇恒」という。

【肝と胆の関係】
胆の機能はすべて肝に含まれるので肝の一部と考えられ、密接な関係があるため「表裏をなす」という。

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【胃】

西洋医学的な胃と同じ。

【胃の機能】

  • 胃は受納と水穀の腐熟を主る:飲食物を受け入れ貯留し、初期消化(腐熟)を行う。この機能を胃気ともいい、食欲と関連があるので食欲を胃気ということが多い。

【胃と脾の関係】
胃は受納と腐熟を主り、脾は運化を主る。胃は降濁を主り、脾は升清を主る。胃は潤を好み燥を嫌い、脾は燥を好み湿を嫌う:胃で初期消化された飲食物は幽門を経て下部消化管へ送られ(胃の降濁)、脾の運化で十分消化された栄養は門脈系を通じて上方へ輸送し生命活動を維持する(脾の升清)。脾の機能が低下すると津液の運輸が停滞し湿や痰を生じやすい(燥を好み湿を嫌う)。胃は熱邪の侵襲を受けやすく陰液が消耗されることが多い(潤を好み、燥を嫌う)。脾と胃は密接な関係があるため「表裏をなす」という。

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【小腸】

脾の運化機能の一部で、西洋医学的な小腸での吸収過程をいう。

【小腸の機能】

  • 小腸は清濁の分別を主り、液を主る:消化された飲食物の栄養や水分(清)を吸収し、残渣(濁)を大腸に送る。脾の運化作用の一部に含まれる。

【小腸と脾の関係】
脾の運化作用は、西洋医学的な小腸での消化吸収と同じ概念で、小腸は脾に含まれる。

【小腸と心の関係】
経絡では「表裏をなす」関係になっているが、具体的には不明。

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【大腸】

西洋医学的な大腸と同じ。

【大腸の機能】

  • 大腸は糟粕の伝化を主り、津を主る:小腸が分離した残渣(濁)を受け、残余水分の一部を吸収し、糟粕(糞便)を肛門から排出する。

【大腸と脾の関係】
糞便排出における便秘、下痢などが病変とされ、脾との関係で考える。

【大腸と肺の関係】
肺と大腸は水分代謝に関してわずかな関係があるが、表裏をなすほど密接な関係は明らかでない。

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【膀胱】

西洋医学的な膀胱と同じ。

【膀胱の機能】

  • 膀胱は尿液の貯留と排泄を主る:尿を貯留し適宜排泄する。

【腎と膀胱の関係】
腎による体液調節で生成された尿を貯留し、腎気の働きで排泄する。排尿異常などの病変は腎の機能に含まれ、密接な関係にあるため「表裏をなす」とされる。

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【三焦】

水分代謝全般を指す概念。

【三焦の機能】

  • 三焦は水液の通路である:飲食物として体内に取り入れられた水分は、胃の受納、腐熟と脾の運化によって肺まで運ばれ(中焦)、肺の宣散、粛降と心の推動で全身に散布され(上焦)、気道、体表、便、尿として排泄される。この過程全般が腎の気化作用で調節される(下焦)。

【部位としての概念】
胸部以上の部分と心・肺を上焦、胸以下臍以上の部分と脾・胃を中焦、臍以下の部分と肝・腎を下焦という。

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【腑と腑の関係】

腑は共同して栄養物や水分の消化、吸収、排泄に直接関与し、互いに密接に関わっている。

 

 

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