【臓腑弁証】


五蔵六腑(脾胃腸肝胆腎膀胱)の生理・病理的特性に基づき病変の部位や状態を弁別する。八綱弁証、気血弁証を経て、より精密な判断と治療に不可欠のもので中医学の主軸をなす。臓腑は互いに密接な関係を持ち、臓腑、組織、器官に及ぶため部分だけでなく総体として把握する。これは特別、中医学に限ったことではない。

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(1)心の病証
「血脈を主る」「神を主る」機能を有し、心拍動に起因する循環器や中枢神経系の異常が見られる。

心の病証(虚証)

心気虚 動悸・息切れ・胸苦しい・不安感・目まい・
汗かき・顔色淡白又蒼白・舌質淡白・脈
遅細数又結代。
治法)補益心気、処方)炙甘草湯
心の陽気不足による症状で一般的な気虚
陽虚の他に循環障害・心拍異常・中枢神
経の亢奮低下が起こる。全身的衰弱・神
経衰弱・心臓神経症・不整脈・冠不全・
狭心症などの心疾患で見られる。

炙甘草・人参・党参・黄耆などの補気薬、
桂皮・附子などの温陽薬を主とし、丹参・
酸棗仁・遠志などの養血安神薬を加える
血於には蒲黄・丹参・紅花。痰には瓜呂
仁・薤白・半夏。

心陽虚 心気虚の症状の他、四肢冷・寒気・チア
ノーゼなど伴う。舌質は胖大又青紫・脈
細弱又結代
治法)温通心陽、処方)保元湯

同 上

心肺気虚 心気虚の症状とともに咳嗽・呼吸困難な
どが見られる。
治法)補益心肺、処方)炙甘草湯
慢性気管支炎・気管支拡張症・肺結核で
見られる。補益心気とともに蛤介・胡桃
など補肺の薬物を配合する。
心腎陽虚 心陽虚の症状とともに浮腫・尿量減少な
どが見られる。
治法)温補心腎、処方)真武湯
心不全に相当する重症で寒気、四肢の
冷えが顕著で循環障害による血於も見ら
れる。白朮・茯苓など利水薬を配合。
心血虚 寝付き悪い・不眠・夢をみる・驚きやすい
不安・健忘・目まい・動悸・舌質やや
淡白・脈細数
治法)補血安神、処方)四物湯・酸棗仁
湯・帰脾湯・甘麦大棗湯
心の陰液不足で起り、精神不安定と心拍
動異常を伴う。栄養不良・貧血症・自律神
経失調症・甲状腺機能亢進・心筋障害・
頻脈・不整脈で見られる。

丹参・熟地黄・当帰・竜眼肉などの補血薬
小麦・柏子仁・百合・麦門冬などの補陰薬
を主にし、鎮静効果のある酸棗仁・遠志・
夜交藤などの補血安神薬や磁石・真珠
などの重鎮安神薬を補助的に加える。
党参・黄耆などの補気薬を少量加える
と効果が良い。熱証があれば黄連・山梔子
・知母など清熱薬を加える。

心陰虚 心血虚の症状の他、のぼせ・イライラ
手足のほてり・咽のかわき・寝汗・舌質
紅で乾燥・脈細数
治法)滋陰安神、処方)天王補心丹

同 上

心脾両虚 心血虚の症状とともに、易疲労・息切れ
食欲不振・泥状便・出血など見られる。
治法)気血双補、処方)帰脾湯
神経衰弱・貧血・血小板減少性紫斑病・
不正性器出血などに見られる。脾胃気虚
・脾不統血の症状も見られる。
心腎陰虚 心陰虚の症状の他、耳鳴・腰膝のだるさ
夢精などみられる。
治法)滋陰安神、処方)天王補心丹
地黄・別甲・亀板・阿膠などの補陰薬を
加えるか増量する。

心の病証(実証又は虚実挟雑)

心火旺
(心火
  上炎)
不眠・多夢・顔面紅潮・イライラ・口渇・
口内炎、甚だしいときは狂躁・精神異常
舌質紅・脈数
治法)清心瀉火、処方)三黄瀉心湯
中枢神経系亢奮・自律神経系の過亢進・
異化作用亢進・副腎髄質機能亢進によ
って生じ、激しい熱証を呈する。自律神経
失調症・口内炎・不眠症・精神病・神経症
などに見られ虚証の症状はない。排尿痛
血尿・濃尿など伴うことがある。

黄連・連翹・竹葉・知母・木通など清心瀉
火薬を用いる。

心肝火旺 心火旺の症状の他、頭痛・目の充血
易怒などが見られる。
治法)清心瀉火・清肝瀉火、処方)心火
旺の処方に山梔子・牡丹皮を加える。

同 上

心腎不交 心火旺の症状とともに、頭のふらつき・
耳鳴・腰膝だるく無力・夢精・寝汗・舌質
紅で乾燥無苔・脈細数
治法)交通心腎・滋陰降下、処方)天王
補心丹・知柏地黄丸・黄連阿膠湯
心火(陽気)と腎水(陰液)の交流が失調
して起る。慢性病・疲労・性生活の不節制
などで腎陰虚が生じ陰虚火旺になるもの
と精神的緊張やストレスが続き心火旺か
ら陰液を消耗し腎陰虚になるものがある。
不眠症・自律神経失調症・甲状腺機能亢
進症・更年期障害・高血圧症などで見ら
れる。

清心瀉火の薬物と地黄・天門冬・阿膠・
女貞子・別甲などの補陰薬、養神安神薬
重鎮安神薬を配合する。滋陰が不可欠。

胸 痺
(心痺)
心臓部の疼痛・胸内苦悶・動悸・冷汗・
舌質暗紫・脈微細又は渋か結代。
心気虚・心陽虚・心血虚・心陰虚が原因
になる。
治法)宣通心陽・活血化於・辛香化痰
処方)瓜樓薤白半夏湯
心の陽気と陰液が不足し血脈が十分通じ
ない。特に陽気が不足し血於・痰が関係
する。冠不全・狭心症・心筋梗塞に見られ
る。発作時に心臓部の疼痛・チアノーゼ・
動悸・胸内苦悶・呼吸困難・意識障害・
冷汗などのショック状態となり甚だしいとき
は死に至る。

宣通心陽に瓜呂仁・薤白・桂枝。活血化於
に蒲黄・丹参・紅花・田七・山査子。辛香
化痰に降香・菖蒲・鬱金・半夏。ショック時
は独参湯・参附湯

痰迷心竅 ひとりごと・認知症・行動異常・情緒不
安定・意識喪失・運動麻痺・知覚麻痺
・多痰・舌質胖大淡紅・舌苔白膩・脈沈
弦滑
治法)滌痰開竅、処方)蘇合香丸
肝気鬱結で脾の津液の代謝が障害され
痰を生じ、心竅が塞がれて起こる。動脈
硬化症・脳梗塞・脳軟化・精神病などに
見られる。

麝香・菖蒲など温性の芳香開竅薬に半夏
天南星・附子などの温性の化痰薬と白檀
沈香・丁子・木香・香附子などの理気薬を
加える。

痰火擾心 頭痛・不眠・イライラ・口渇・目の充血・
息荒い・狂躁又は意識喪失しうわごと・
痙攣・舌質紅・舌苔黄膩・脈弦滑数
治法)清心瀉火・滌痰開竅、処方)安宮
牛黄丸・至宝丹
痰迷心竅とほぼ同じ。肝鬱化火で熱痰が
生じるものと、熱邪による津液の濃縮で
生じるものがあり、熱痰が心竅を阻害して
起こる。

清心瀉火薬に貝母・天南星・蒙石・竹如
などの寒涼性化痰薬や牛黄・龍脳などの
清熱開竅薬を配合する。

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(2)肺の病証
「宣散・粛降を主る」「気を主る」機能を有し、呼吸器系や水分代謝の障害が見られる。

肺の病証(虚証又は虚実挟雑)

肺気虚 汗をかきやすい・寒け・風邪ひきやすい・
咳嗽・息切れ・易疲労・顔色白・薄痰・舌
質淡白・舌苔白・脈虚又は弱
治法)補肺益気・固表・去痰定喘、処方)
玉屏風散・補肺湯
肺の陽気不足で呼吸器系の機能低下が
起る。水分代謝が障害され痰が多量に出
る。全身的な気虚は脾肺気虚、心に及ぶ
と心肺気虚、腎に及ぶと肺腎気虚。慢性気
管支炎・肺結核・肺気腫で見られる。

黄耆・党参・白朮などの補気薬を主とし、
半夏・紫蘇子・紫苑などの止咳薬を配合す
る。血於があれば三稜・莪朮・紅花を、汗
が多い時は牡蠣・麻黄根などを加える。

肺脾気虚 肺気虚の症状に、食欲不振・腹部膨満
・泥状便など脾気虚が見られる。
治法)健脾益肺・燥湿化痰、処方)六君子
湯加黄耆・参苓白朮散

同 上

肺陰虚 乾咳・無痰又は少量の粘痰・嗄声・咽乾
・口乾・寝汗・痩せ・舌質紅〜深紅・舌苔
少ない・脈細数
治法)滋陰潤肺・清熱化痰、処方)麦門冬
湯・百合固金湯

疾病が長期化すると肺気虚と肺陰虚の
両方の症状が見られる。

肺の陰液不足で気管支の粘液分泌不足・
炎症や自律神経系の過亢進が起こる。
津液の消耗・乾燥した環境での居住や労働
で生じ、腎に及ぶと肺腎陰虚となり、さらに
体力を消耗して気陰両虚が起こる。慢性気
管支炎・気管支拡張症・肺結核・肺炎・熱
性疾患の回復期に見られる。

滋潤・消炎・鎮静作用のある沙參・麦門冬・
百合・地黄・石膏などの滋陰薬を主とし、
貝母・瓜呂根などの去痰薬を配合する。熱証
の強い時は知母・黄柏・黄今を、痰湿には
陳皮・半夏など加える。

肺腎陰虚 肺陰虚の症状に、腰膝だるく無力・手足
のほてり・夢精など腎陰虚を伴う
治法)滋補肺腎・滋陰降火、処方)味麦
地黄丸・滋陰降火湯
肺陰虚の症状が進むと腎陰虚から陰虚火旺
になることが多い。

天門冬・玄参・阿膠・亀板など滋陰薬を加
える。

肺の病証(実証又は虚実挟雑):肺失宣粛といい、病邪で肺の宣散・粛降が障害され、主症状は
咳嗽・喀痰である。

風寒束表 悪寒・頭痛・くしゃみ・鼻水・身体痛・脈
浮緊など表寒の症状が見られる。
治法)辛温解表、処方)麻黄湯・桂枝湯
寒邪の侵襲による肺の障害で表寒を伴うも
のが風寒束表、表証なく肺の寒証だけを
寒邪犯肺という。この症状が続くと肺気虚に
なる。風寒束表は体表血管の反射性収縮と
汗腺閉塞によるもので、寒邪犯肺は気管上
皮の血管収縮とそれにともなう血管透過性
の亢進によると考えられる。感冒・インフル
エンザ・咽喉炎・扁桃炎・気管支炎・肺炎
などで見られる。

表証があるときは、麻黄・桂皮・紫蘇葉・
荊芥・細辛・生姜などの辛温解表薬に杏仁
蘇子・半夏・紫苑などの温性去痰止咳薬を
配合する。

寒邪犯肺 咳嗽・呼吸困難・薄痰・胸苦しい・舌苔白
脈緊
治法)宣肺散寒、処方)杏蘇散・華蓋散

同 上

風熱犯肺 軽い悪寒又は熱感・咽痛・黄鼻汁・頭痛
舌質紅・脈数
治法)辛涼解表、処方)銀翹散
熱邪の侵襲による肺の障害で表熱を伴うも
のが風熱犯肺、表証が消失し肺熱だけの
ものを熱邪犯肺という。熱邪が痰と結びつ
き痰熱から膿瘍になると肺癰。感冒・インフ
ルエンザ・咽喉炎・扁桃炎・気管支炎・肺炎
肺化膿症などで見られる。

薄荷・牛蒡子・蝉退・菊花・葛根などの辛涼
解表薬、石膏・知母・山梔子・金銀花・連翹
板藍根などの清熱解毒薬、貝母・蒲公英・
桔梗などの去痰排膿薬、杏仁・桑白皮・枇杷
葉などの止咳平喘薬を配合する。肺癰には
清熱解毒排膿。

熱邪犯肺 咳嗽・呼吸困難・息荒い・黄色粘痰・咽痛
口渇・舌質紅・脈数
治法)清熱宣肺・止咳止喘、処方)麻杏
甘石湯・定喘湯

同 上

肺癰 胸痛・発熱・血液混じりの悪臭痰・舌苔黄
脈滑数
治法)清熱解毒・排膿、処方)千金葦茎湯

同 上

燥邪犯肺 乾咳・少量の粘痰・鼻や口の乾燥・咽痛
皮膚の乾燥・舌質紅乾燥・舌苔薄く乾燥
脈細数
治法)清肺潤燥、処方)杏蘇散
燥邪による肺の障害で秋季や乾燥した環境
で見られる。乾燥による皮膚・粘膜の急性の
脱水と炎症。感冒・インフルエンザ・気管支
炎などで見られる。悪寒・脈浮緊のものを涼
燥、熱感・口渇・脈浮数のものを温燥という。

発汗力の弱い桑葉・淡豆鼓などの辛涼解表
薬、紫蘇葉などの辛温解表薬、杏仁・貝母
桑白皮などの清熱・滋潤の化痰薬、沙參・
玉竹・麦門冬などの滋陰薬を配合する。

痰飲伏肺 咳嗽・多量の薄痰・胸苦しい・寒け・舌質
淡白・舌苔白膩・脈弦滑又は軟
治法)燥湿化痰、処方)二陳湯・苓桂朮
甘湯・小青竜湯
痰飲による肺の障害で外感病を繰り返し、肺
の宣散粛降が十分できなくなったり肺気虚
のため津液が停滞し痰飲が発生する。慢性
気管支炎・喘息・肺気腫・気管支拡張症で
見られる。風邪をひくと症状が激しくなる。

蘇子・紫苑・款冬花・半夏・陳皮などの止咳
燥湿化痰の薬物と白朮・茯苓などの淡滲利
湿薬を配合し、必要に応じて乾姜・細辛・白
止など温肺薬を加える。

風水相搏 急に発生する全身浮腫・尿量減少・発熱
悪風・咽痛・舌苔薄白・脈浮
治法)疏風宣肺・利水、処方)越婢加朮湯
防已黄耆湯
風邪によって肺の宣散粛降が阻害され水道
の通調がうまくいかず浮腫を生じる。この水
腫を陽水といい、脾腎陽虚によるものを陰水
という。腎炎の初期に見られる。

麻黄・防風・紫蘇葉・桂皮などの解表薬に
茯苓・沢瀉・猪苓などの淡滲利水薬を配合
する。口渇など裏熱があれば石膏・桑白皮
芦根などを、衛気虚には黄耆・白朮などを
加える。

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(3)脾及び胃・腸の病証
脾は「運化を主る」、胃は「受納と腐熟を主る」、小腸は「水液を主る」、大腸は「伝化を主る」機能を有し、飲食物の消化・吸収・輸送・排泄に関係するので、消化器系や水分代謝の異常が見られる。

脾及び胃・腸の病証(虚証)

脾気虚
(脾失健運)
食欲不振・小食・味がない・腹脹・便秘・
泥状便・息切れ・元気がない・易疲労
舌質淡白・舌苔白・脈軟、治法)健脾益気
処方)四君子湯
脾の陽気が不足し運化が低下すると消化
能力・津液輸送の障害が起り、筋肉の緊
張減衰や栄養障害が現れる。長びくと全
身的な栄養不良となり血虚の症状から気
血両虚となったり、腎へ及び脾腎両虚が生
じる。飲食の不節制・ストレス・病気の長期
化・先天性の虚弱によって起る。消化不良
慢性胃炎・慢性腸炎・胃腸神経症・消化
性潰瘍・慢性肝炎・貧血・ネフローゼなど
で見られる。

党参・人参・黄耆などの補気薬、白朮・山薬
白扁豆などの補脾薬を主とし、茯苓・蒼朮
などの利水薬、陳皮・半夏・縮砂などの理
気化湿薬を配合する。

脾陽虚
(脾失健運)
脾気虚の症状の他、不消化下痢・よだれ
腹冷痛・寒がり・四肢冷・舌質淡白胖大
舌苔白・脈沈弱、治法)健脾益気・温陽
助運、処方)理中湯
脾気虚が進み同化作用の低下・循環不良
などにより寒証を伴う。浮腫が発生し脾腎
陽虚となりやすい。

附子・乾姜・桂皮・呉茱萸などの温裏去寒
薬を配合する。

中気下陥
(脾失健運)
脾気虚又は脾陽虚の症状の他、手足の
だるさ・立ちくらみ・腹部下墜感・慢性の
下痢又は便秘・胃下垂・遊走腎・脱肛・
子宮脱など伴う。治法)健脾補中・升陽
益気、処方)補中益気湯
脾気虚・脾陽虚で升精機能が減弱し、筋肉
の緊張低下が起こる。

柴胡・升麻・葛根などの升提薬を加える。

脾不統血
(気不摂血)
脾失健運の症状の他、鼻出血・皮下の
点状出血や紫斑・血尿・血便・月経過多
不正性器出血、治法)益気摂血、処方)
帰脾湯・黄土湯
気の固摂作用が減弱して出血が起こる。
血管平滑筋の弛緩・血小板無力症・血小板
減少・血液凝固因子の欠乏が考えられる。
少量持続性の出血を漏、大量一時的なも
のを崩という。長期化で血於が発生する。
血小板減少性紫斑病・血友病・不正性器
出血・痔出血・慢性鼻出血などで見られる。

伏竜肝・艾葉・白及などの温性又は収渋性
の止血薬を配合する。血虚に熟地黄・阿膠
酸棗仁・遠志などの補血薬、血於に当帰・
鶏血藤・田七・紅花などの活血化於薬を
加える。

胃虚寒 上腹部冷え痛み・温めるか押さえるかで
軽減し、食べることで楽になる。よだれ・
曖気・嘔吐・四肢の冷え・舌質淡白・舌苔
白滑・脈濡、治法)温胃建中、処方)小建
中湯・黄耆建中湯
胃の陽気が不足することで、胃蠕動運動
減弱・循環不良・溜飲が起こる。飲食の不
節制・生ものや冷飲食・ストレスが原因と
考えられ、胃十二指腸潰瘍・神経性胃炎・
胃拡張・胃酸過多などで見られる。

膠飴・甘草・大棗などの健胃薬を主とし、黄
耆・党参などの補気薬、桂皮・乾姜・良姜
などの温裏薬、香附子・木香・陳皮・延胡索
などの理気止痛薬、芍薬などの鎮痙薬、
胃酸過多には牡蠣・烏賊甲などの制酸薬
を加える。

胃陰虚 食欲不振・腹は減るが食べたくない・口
乾・乾嘔・吃逆・上腹部不快感・胸焼け
便秘・濃尿・舌質紅乾燥・舌苔少〜無・
脈細数、治法)滋養胃陰、処方)麦門冬
湯・養胃湯
胃の陰液不足により、胃粘膜の分泌不足・
粘膜の委縮・慢性の炎症が起こる。熱性病
による脱水・慢性病による津液消耗・老化
などが原因で、慢性胃炎・胃潰瘍・舌炎・
神経性胃炎・糖尿病で見られる。

麦門冬・石斛・沙参・瓜呂根・地黄などの
滋陰薬を用いる。

腸虚滑脱 脾陽虚の症状の他、慢性下痢・大便失禁
脱肛・舌質淡白・脈細弱、治法)渋腸固
脱、処方)桃花湯
慢性の下痢で、腸管の循環不良にともなう
吸収障害や筋緊張の低下によって起る。

補気・温陽・升提などを基礎に、赤石脂・
石榴実皮・訶子・肉豆冠などの収渋薬を
配合すると良い。

脾及び胃・腸の病証(実証又は虚実挟雑)

寒湿困脾 食欲不振・悪心・上腹部膨満感・口粘・
体だるく重い・しめつけるような頭重感・
腹痛・軟便・水様便・舌苔白厚膩・脈濡
治法)運脾化湿、処方)胃苓湯・霍香正
気散
湿邪によって脾胃の運化機能が障害され
たもので、生冷飲食の過剰・潮湿の環境・
雨に濡れるなどで発生する。脾胃虚弱の
人に急性に起る水分代謝障害と胃腸機能
障害で、カタル性胃腸炎・慢性胃炎・慢性
肝炎などで見られる。

霍香・蒼朮・厚朴・半夏などの芳香化湿薬
と茯苓・猪苓・意苡仁などの淡滲利水薬を
配合し白朮・白扁豆などの補脾薬を適宜
加える。

脾胃湿熱 食欲不振・悪心・上腹部のつかえや膨満
疼痛・口粘・口苦・口渇・体だるい・濃尿
下痢・黄疸・掻痒・舌質紅・舌苔黄膩・脈
濡数、治法)清熱利湿、処方)茵陳蒿湯
湿熱の邪による脾胃の障害で熱証が特徴
である。胃腸障害・水分代謝障害に炎症を
伴う。感染・脂っこい美食の過多・酒などで
発生し急性胃腸炎・肝炎・膵炎・胆嚢炎で
見られる。

茵陳蒿・猪苓・沢瀉・滑石・赤小豆などの
清熱裏湿薬を主とし黄連・黄今・山梔子な
どの清熱薬、蒼朮・厚朴・霍香などの芳香
性化湿薬を配合する。

胃寒(寒痛) 急激な上腹部痛・冷えると痛み温めると
軽減する・水様性嘔吐・便秘・水様便・
舌質淡白暗色・舌苔白滑・脈沈弦緊遅
治法)散寒止痛、処方)理中湯
胃の陽気の障害によって生じ、胃部の冷
感と疼痛を主とする。胃平滑筋痙攣・副交
感神経過亢進が関連し寒邪の侵襲による
実寒と陽気不足による虚寒がある。一般
には脾胃虚寒のうえに寒邪を感受し虚実
挟雑の症状を呈する。寒冷の環境や冷飲
食で急激に発症し、急性胃炎・胃痙攣な
どを引き起こす。

桂皮・呉茱萸・乾姜・良姜・丁子・附子など
の温裏薬を用い、人参・党参・白朮などの
補気薬を加える。

胃熱(胃火) 上腹部灼熱感・食べると痛み増強・口臭
口苦・胸焼け・悪心・嘔吐・呑酸・口渇・
多飲・飢餓感・便秘・歯齦の腫脹疼痛・
舌質紅・舌苔黄・脈滑数、治法)清胃瀉
火、処方)白虎湯・調胃承気湯・清胃散
熱邪による胃の障害(実熱)と胃陰虚によ
る虚熱がある。熱邪が急激に陰液を消耗
するので実・虚が挟雑した症状を呈するも
のも少なくない。刺激物、粘膩の食物の
過食・ストレスによって生じる消火器の炎
症と自律神経系の過亢進で、胃炎・神経
性胃炎・胃十二指腸潰瘍・糖尿病・口内
炎・歯齦炎などで見られる。

石膏・知母・地黄・黄連・山梔子などの清
熱瀉火薬を主とし、大黄・芒硝などの瀉下
薬、麦門冬・石斛などの滋陰薬を配合する

傷食
(食滞胃完)
暴飲暴食による悪心・腹部膨満・疼痛・
腐敗臭のある曖気・下痢・舌苔厚膩又は
黄膩・脈滑又は滑数、治法)消食導滞
処方)保和丸
飲食の不節制による消化不良で消化管内
に食物が停滞する。軽度のものを「傷食」
といい、やや重いものを「腸胃積滞」という
脾胃が本来虚弱なため普通に飲食しても
食滞が発生することを「脾虚挟食」という。
急性慢性消化不良・急性慢性胃炎・胃拡
張などで見られる。

消化酵素を含む神麹・山査子・麦芽などの
消導薬に枳実・檳榔子・木香などの理気
薬、大黄・芒硝などの攻下薬を配合する。

腸胃積滞
(食滞胃完)
傷食の症状の他、腹部腫瘤・圧痛・膨満
裏急後重・すっきりしない下痢、治法)消
食導滞・攻下、処方)枳実導滞丸

同 上

脾虚挟食
(食滞胃完)
慢性の消化不良・食欲不振・食後の膨
満感・泥状便・不消化便、治法)消食導
滞・健脾益気、処方)参苓白朮散

同 上

胃寒(虚・実)
(胃気上逆)
悪心・嘔吐・曖気・吃逆・顔色淡白・水様
性嘔吐・舌質淡白・舌苔白、治法)
和胃
降逆
・温胃、処方)呉茱萸湯
「降濁を主る」胃機能の異常で胃の蠕動低
下・逆蠕動・食停滞・溜飲・横隔膜痙攣・
嘔吐などが起こる。寒・熱・暑湿・気滞・食
滞・痰など原因は非常に多い。

半夏・陳皮・呉茱萸・生姜などの理気降逆
薬を用い、病因に応じ温胃・清熱・解暑化
湿・理気・消導・化痰などで対処する。

胃熱(虚・実)
(胃気上逆)
悪心・嘔吐・曖気・吃逆・口苦・口渇・黄
色の苦い嘔吐・食べてすぐ吐く・舌質紅
舌苔黄、治法)
和胃降逆・清熱、処方)
左金丸

同 上

暑湿
(胃気上逆)
悪心・嘔吐・曖気・吃逆・夏季に発生・
頭痛・腹痛・吐きたいが吐けない、治法)
和胃降逆・解暑化湿、処方)霍香正気散

同 上

気滞
(胃気上逆)
悪心・嘔吐・曖気・吃逆・上腹部膨満感
つかえ・遊走性腹痛、治法)
和胃降逆
下気降逆、処方)旋覆花代赭石湯

同 上

食滞
(胃気上逆)
悪心・嘔吐・曖気・吃逆・腐敗臭ある曖気
舌苔厚膩・脈滑、治法)
和胃降逆・消導
処方)保和丸

同 上

痰飲
(胃気上逆)
悪心・嘔吐・曖気・吃逆・めまい・よだれ
舌苔膩、治法)
和胃降逆・化痰、処方)
小半夏加茯苓湯

同 上

大腸湿熱 下腹痛・痛み灼熱感のある下痢・裏急後
重・膿や粘血のある便・悪臭強い・発熱
口渇・舌苔黄膩・脈数、治法)清熱解毒・
利湿、処方)葛根黄連黄今湯
大腸の「糟糠の伝化を主る」機能の障害
細菌性の腸管炎症で細菌性下痢・赤痢
などに見られる。

秦皮・黄連・黄柏・地楡などの清熱解毒利
湿薬を用い木香・檳榔子・枳殻などの理
気薬や大黄などの瀉下薬を加える。

実熱燥結
(腸燥便秘)
便秘・腹部膨満・腹痛・圧痛・悪心・嘔吐
口渇・舌質紅・舌苔黄膩又は黄乾燥・脈
数又は沈実、治法)清熱通便、処方)
大承気湯・大黄牡丹皮湯
熱邪による便秘で炎症に伴う脱水・腸管
麻痺・自律神経系の過亢進による異化
作用亢進や蠕動失調が考えられる。感染
性の発熱疾患・腸閉塞・虫垂炎で見られる

大黄・芒硝などの瀉下薬を主とし、厚朴・
枳実・木香・檳榔子などの理気薬を配合
する。

陰虚燥結
(腸燥便秘)
慢性便秘・兎糞状少量の排便・皮膚乾
燥・痩せ・舌質紅・舌苔乾燥・脈沈細
無力、治法)潤腸通便、処方)潤腸湯・
麻子仁丸
全身の陰液不足による便秘で、腸粘液分
泌不足・水分の過吸収・蠕動不足が考え
られる。習慣性便秘・老人性便秘・産後・
慢性病又は熱性病の回復期に見られる

何首烏・地黄・麦門冬・肉従容・当帰・麻子
仁・桃仁など油脂成分を豊富に含む滋陰
薬を主とし、少量の理気薬と攻下薬を配合
する。

................................................................................................

(4)肝及び胆の病証
肝は「血を蔵す」、「疏泄を主る」、「筋を主る」、「目に開竅する」機能を有し、情緒の変動・自律神経系の失調・循環障害・運動系の異常・目の障害などが見られる。

肝及び胆の病証(虚証又は虚実挟雑)

肝血虚 皮膚や毛髮につやがない・爪がもろい・目
が疲れやすい・目がかすむ・目の乾燥・
眩しい・眠り浅い・手足のしびれ・筋肉の
ひきつり・筋肉痙攣・月経不順・舌質や
や淡白・脈細、治法)滋補肝腎、処方)
四物湯・黒逍遥散
肝血の不足により、栄養障害・視覚系や運動
系や月経の異常が見られる。栄養障害に起
因する自律神経系・末梢循環・運動神経系
・内分泌系などの失調と考えられる。急性又
は慢性疾患又は出血による血の消耗・消化
吸収障害によって起る。自律神経失調症・
栄養不良・貧血・末梢神経炎・月経不順・慢
性肝炎・眼病・老化・産後で見られる。

当帰・芍薬・地黄・阿膠・枸杞子などの補血薬
に川弓・鶏血藤・赤芍などの活血薬や白朮
党参・山薬などの補脾薬を加える。

肝陽上亢
(肝陰虚)
肝血虚の症状の他、頭痛・目の充血・口
渇・咽乾・口苦・のぼせ・イライラ・易怒・
不眠・耳鳴り・舌質紅〜深紅で乾燥・舌
苔少〜無・脈弦細数、治法)滋陰平肝
処方)加味逍遙散・七物降下湯
肝の陰液不足で相対的に肝陽が亢進する。
肝陰虚・肝腎陰虚による陰虚火旺(虚熱)が
生じ顔面・頭部に現れる。脳の抑制過程の
減弱による興奮性増大・自律神経系の興奮
・ホルモン失調・異化作用亢進が関係すると
考えられる。急性又は慢性疾患による陰液
の消耗・肝鬱化火で起り、高血圧症・脳動脈
硬化症・自律神経失調症・更年期障害・慢性
肝炎・慢性腎炎・甲状腺機能亢進・不眠症で
見られる。熱証の軽いのが肝陰虚で、激しい
のが陰虚陽亢。肝腎陰虚を伴うことが多い。

滋補肝血の薬物に玄参・地黄・麦門冬・女
貞子・別甲などの滋陰薬を配合し、鎮静・鎮
痙・解熱の釣藤鈎・天麻・疾藜子・石決明・
牡蠣・竜骨などの平肝潜陽薬又は菊花・山
梔子・牡丹皮・知母・黄柏・地骨皮などの清
熱薬を加える。

肝腎陰虚 肝陽上亢の症状の他、腰膝だるく無力
・手足のほてり・寝汗・頭のふらつき
舌乾燥裂紋又は鏡面舌、治法)滋補肝
腎・潜陽、処方)杞菊地黄丸

同 上

肝陽化風
(肝風内動)
意識障害・痙攣・肝陽上亢の症状の他
激しい頭痛・手や舌のふるえ・ろれつ回
らず・頭の揺れ運動麻痺・舌質紅・舌苔
少なく乾燥・脈弦細数、治法)滋陰平肝
熄風、処方)鎮肝熄風湯
肝陰が消耗し肝陽が過度に亢進すると痙攣
・眩暈が起る。中枢神経系の過度の興奮又
は脳血管の収縮によると考えられる。肝陽
上亢が過度になれば「肝陽化風」、発熱が続
き陰液を消耗して起るものを「熱極生風」、肝
血虚の症状とともに起るものを「血虚生風」と
いい、脳動脈硬化症・高血圧性脳症・脳卒
中・脳炎・熱性痙攣などで見られる。

天麻・釣藤鈎・地黄・全蠍・白強蚕など虫類
を含む熄風薬を用い鎮痙・鎮静し補血・滋陰
薬を配合する。熱極生風には牛黄・黄連・
山梔子などの清熱薬を加える。

熱極生風
(肝風内動)
意識障害・痙攣・高熱・激しい口渇・項部
強直・両眼上視・舌質紅乾燥・舌苔黄・
脈弦数、治法)清熱平肝熄風、処方)
安宮牛黄丸

同 上

血虚生風
(肝風内動)
意識障害・痙攣・肝血虚の症状の他、頭
のふらつき・目のくらみ・四肢ひきつり・
舌質淡紅・脈細、治法)養血熄風、
処方)阿膠鶏子黄湯

同 上

肝及び胆の病証(実証又は虚実挟雑)

肝気鬱結 憂鬱感・情緒不安定・ヒステリー反応・
ため息・胸脇苦満・排便すっきりしない
便秘下痢交互・月経時に乳房が脹る・
月経痛・月経不順・無月経・舌質淡紅又
は帯青・舌苔白・脈弦、治法)疏肝解鬱
処方)四逆散・逍遥散
肝の疏泄機能の障害によって起り、自律神
経系の過緊張が主となる。精神的ストレス・
病邪の侵襲・陰陽失調などで生じ肝気鬱結
が続くと肝火上炎に移行することが多く、血
於・痰飲・陰虚を引き起こす。自律神経失調
・更年期障害・鬱病・神経症・消化管潰瘍
肝炎・胆嚢炎・胃腸神経症・月経困難症・
甲状腺腫・乳腺腫など多くの疾患に見られる

柴胡・青皮・枳殻・香附子・延胡索などの疎
肝解鬱理気薬を用いる。これらの生薬は燥
性が強く陰液を消耗するので芍薬・当帰・地
黄・枸杞子などの補血薬を配合する。痰を
伴えば化痰薬を、血於ならば活血化於薬を
配合する。

気厥
(肝気逆)
肝気鬱結の症状に伴い意識消失・四肢
冷・歯をくいしばり手を握り締める・息が
詰まる・脈沈弦又は伏、治法)疏肝解鬱
破気降気、処方)五磨飲子
肝気鬱結が極まり意識消失をきたす。激し
い怒り・悲しみなど精神的ショックで起る。

疎肝解鬱薬に沈香・檳榔子などの破気・降
気の生薬を配合する。

肝胃不和
(肝気横逆)
肝気鬱結・肝火上火の症状の他、上腹
部膨満感・曖気・呑酸・吃逆・悪心・嘔吐
口苦・胸焼け・舌質紅又は帯青・舌苔薄
黄・脈弦、治法)疎肝和胃、処方)柴胡
疎肝散
肝気鬱結又は肝鬱化火によって消化器障害
を起こす。自律神経系の過緊張・過亢進に
より胃腸の蠕動運動が障害される。胃の降
濁を主る機能が失調したもので、肝火旺に
よる熱証(胃熱)を呈する。慢性胃炎・胃十二
指腸潰瘍・神経性胃炎・肝炎・胆嚢炎で見ら
れる。

疎肝解鬱の薬物に半夏・厚朴・陳皮・黄連・
呉茱萸・生姜など和胃止嘔の生薬を加える。
呉茱萸・生姜など温性薬を配合する際は寒
涼薬を加え温熱を調節する。

肝脾不和
(肝気横逆)
肝気鬱結・肝火上火の症状の他、食欲
不振・腹部膨満・腹鳴疼痛を伴う下痢・
排ガス・舌苔白又は黄・脈弦、治法)
疎肝健脾、処方)痛瀉要方・逍遥散
肝気鬱結により脾の運化を主る機能が失調
する。過敏性結腸症・胃腸神経症・慢性肝炎
などで見られる。下痢は精神的ストレス伴い
日に何度も起る。

疎肝解鬱薬に白朮・党参・黄耆などの補脾
薬を配合する。

肝火上炎
(肝火旺)
イライラ・易怒・不眠・激しい頭痛・めまい
耳鳴・突発性難聴・顔面紅潮・目充血
目ヤニ・口苦・胸脇苦満・濃尿・便秘・
月経早い・月経過多・舌質紅・舌苔黄乾
燥・脈弦細、治法)清肝瀉火、処方)
竜胆瀉肝湯
肝の陽気の過亢進によるもので虚証の症状
は見られない。自律神経系の過亢進・中枢
神経系亢奮・異化作用亢進・炎症などの症
状と考えられる。肝気鬱結が続いて肝鬱化
火になることが多いが、情緒変動で突然発
症することもある。肝火上炎が続けば陰液を
消耗し肝陽上亢に移行したり血熱妄行し出
血を生じることがある。高血圧・神経症・結膜
炎・頭痛・肝炎・胆嚢炎で見られる。

竜胆・山梔子・夏枯草・菊花・決明子・黄連
などの清熱薬に疎肝解鬱薬を配合する。出
血には地黄・牡丹皮・赤芍・茅根などの清熱
涼血薬や側柏葉・大小薊・地楡などの止血
薬を配合する。沈香・代赭石などの降気薬を
加えることもある。便秘には大黄・芒硝を適
宜加減する。

肝火犯肺 肝火上炎の症状の他、発作性の咳嗽
呼吸困難・血痰、治法)清肝瀉肺、
処方)竜胆瀉肝湯
肝火上炎が肺に及び肺熱を生じたもので自
律神経系の過亢進で起る気管支痙攣や気
道の炎症と考えられる。気管支炎・喘息で
見られる。
肝胆湿熱 胸脇苦満・口苦・口渇・水分欲しない・
呑酸・悪心・嘔吐・腹部膨満・イライラ・
濃尿・便秘又は下痢・黄疸・発熱、治法)
清熱利湿・疎肝利胆、処方)茵陳蒿湯・
大柴胡湯
湿熱の邪で肝胆の疏泄作用が障害される。
肝臓・胆道系の炎症により胆汁排泄障害・
自律神経失調・水分代謝障害が起こる。
湿邪の感受・刺激物や酒類や美食の摂取
過多が原因と考えられ急性肝炎・胆嚢炎・
胆石症で見られる。

茵陳蒿・沢瀉・木通・滑石・猪苓などの清熱
利湿薬を主とし竜胆・山梔子・黄柏などの
清熱薬、柴胡・青皮・枳実などの疎肝解鬱
薬、大黄・芒硝などの瀉下薬を加える。

寒滞肝脈
(寒疝)
冷えて下腹部痛、温めて軽減・舌質潤
舌苔白・脈沈弦又は遅、治法)温肝散寒
理気止痛、処方)天台烏薬散
肝の経絡に沿って冷えを伴う疼痛が起こる。
寒邪の侵襲による血管収縮・筋肉緊張・平
滑筋痙攣が原因と考えられ鼠径ヘルニア・
股ヘルニア・陰嚢水腫・腸管癒着などで見
られる。

呉茱萸・小茴香・桂皮・良姜・乾姜などの温
裏去寒薬に烏薬・木香・檳榔子・青皮などの
理気薬を配合する。

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(5)腎及び膀胱の病証
腎は「精を蔵す」、「水液を主る」、「骨を主り髄を生ず」、「生長・発育を主る」、「二陰に開竅する」機能を有し、身体や知能の生長・発育・維持における異常・泌尿器系の異常・水分代謝障害・内分泌系の異常などが見られる。

腎は先天の本と考えられ、人体の物質的構成と機能の基本とされている。腎陰と腎陽の過不足は他臓器へ波及し、逆に他臓気からの影響は腎に及ぶ。脾胃の運化によって生じた「水穀の気」は腎精を涵養し全身の機能を保つことから、脾腎陽虚が生じやすくなる。次に肝血と腎精は互いに補いあうことから肝腎陰虚が生じやすい。

腎陰(腎精)を基礎に発現する機能が腎陽で、逆に腎陰は腎陽による物質転化で補充される関係にある。一方の不足がもう一方の不足を生じることを、陰損及陽・陽損及陰といい、治法は腎陰を補うと同時に腎陽も補い、腎陽を補うときは腎陰も補う。

腎及び膀胱の病証(虚証又は虚実挟雑)

腎精不足
(腎虚)
めまい・耳鳴・脱毛・歯動揺・知能減退・健
忘・動作緩慢・腰膝だるく無力・性機能減
退・小児で(泉門の閉鎖遅延・発育遅い・
動作鈍い)女性で(無月経・不妊)、
治法)補益腎精、処方)左帰丸・右帰丸
体格・知力・運動能力などの発達不良や減退
・性機能減衰を主症状とし、下垂体-副腎系・
甲状腺・性腺など内分泌機能低下による生
長・発育・生殖・栄養代謝・神経機能などの
機能減退と考えられる。先天性虚弱・栄養不
良・性生活不節制・慢性病による消耗・老化
などで発生し、甲状腺機能低下症・下垂体
副腎皮質機能低下症・糖尿病・先天性虚弱
症・老化に伴う認知症などで見られる。

地黄・山茱萸・杜仲・肉従容・兎絲子・枸杞子
などの補益腎精薬を用いるが動物薬の紫荷
車・鹿茸・亀板なども使う。

腎気不固
(腎気虚)
腎虚の症状の他、頻尿・多尿・尿失禁・夜
尿・余瀝・夢精・滑精・早漏・勃起不全
治法)補腎固摂、処方)桑票蛸散
腎気の固摂作用の不足により泌尿生殖器系
の異常が現れる。副交感神経系の機能低下
と考えられる。老化による機能衰弱・幼児の
神経機能未熟・早婚又は性不節制による消
耗によって生じ、小児夜尿症・老人尿失禁・
インポテンツ・早漏などで見られる。

補腎益精を基礎とし、欠実・金桜子・竜骨・牡
蠣・山薬・桑票蛸などの収渋薬を配合する。

腎陽虚 腎虚・腎気不固の症状の他、顔色白・元
気がない・眠い・寒がり・四肢冷・夜間多
尿・五更瀉・舌質淡白胖大・舌苔白滑
脈沈遅無力、治法)温補腎陽、処方)
八味丸
腎虚の程度がすすむと「温煦作用」が減退し
寒証(虚寒)が現れる。内分泌機能の低下
で同化作用減弱・循環不良・脳亢奮性低下
が起こったと考えられる。先天的虚弱・老化
性生活不節制・慢性病による消耗で発生す
る。腎陽虚は他臓器への影響が大きく脾腎
陽虚・肺腎陽虚・心腎陽虚など引き起こす。
甲状腺機能低下症・下垂体機能低下症・
副腎皮質機能低下症・慢性腎炎・ネフローゼ
症候群・肝硬変・脳動脈硬化症など多くの
慢性病の末期に見られる。

附子・桂皮・補骨脂・益智・巴戟天・鹿茸な
どの補陽薬を主とし、地黄・当帰・枸杞子・杜
仲・山茱萸などの滋陰薬を加える。

腎虚水泛 腎陽虚の症状の他、とくに下半身に浮腫
尿量減少又は乏尿・腹水・肺水腫・舌質
淡白胖大・舌苔白滑・脈沈細、治法)温
陽利水、処方)真武湯・実脾飲
腎陽虚の症状の他、浮腫がみられ、循環不
良による腎糸球体濾過圧減少が原因と考
えられる。脾に障害が及び低タンパク血症を
呈すると浮腫は顕著になり脾腎陽虚という。
心臓性浮腫・ネフローゼ症候群・甲状腺機能
低下症・慢性腎炎などで見られる。

白朮・茯苓・車前子・ヨクイニンなどの利水薬
に附子・乾姜などの温裏薬を配合する。

腎不納気 腎陽虚の症状の他、吸気性の呼吸困難
・咳嗽・舌質淡白・脈虚弱、治法)補腎
納気、処方)八味丸合参介散
腎陽虚に肺気虚の症状を伴い、腎から肺へ、
肺から腎へのケースがある。腎の「納気を
主る」機能の低下で肺気の障害を引き起こ

し、呼吸機能の低下・気道の通過障害・脳
の呼息中枢の亢奮性減弱が原因と考えられ
る。肺気腫・喘息などで見られる。

温陽補腎を基礎に、蛤介・冬虫夏草・胡桃肉
などの補肺平喘薬を配合する。

腎陰虚
(陰虚陽亢)
腎虚の症状の他、体の熱感・のぼせ・手
足裏のほてり・口咽乾・イライラ・寝汗・
濃尿・硬大便・舌質深紅〜紅乾燥・舌苔
小又は無・脈細数、治法)滋補腎陰・
滋陰降火、処方)六味丸・知柏地黄丸
腎の陰液不足により陽気が相対的に亢進し
熱証(虚熱)を呈するとされるが、実際は体
内の基礎物質の不足による代償性の異化
作用亢進とそれに伴う、内分泌機能亢進・
自律神経機能亢進・脳の抑制過程減弱に
よる症状と考えられる。慢性病による消耗・
性生活不節制・発汗出血下痢による陰液の
消耗・精神的ストレスなどで生じる。腎陰虚
が続くと他臓器へも波及し、肝腎陰虚・肺腎
陰虚・心腎陰虚など引き起こし、さらに腎陽
を損じると陰陽両虚へ移行する。甲状腺機
能亢進症・下垂体機能亢進症・副腎皮質機
能亢進症・高血圧症・慢性肝炎・慢性腎炎・
糖尿病・神経症など多くの慢性病で見られる

地黄・天門冬・玄参・何首烏・山茱萸・女貞子
亀板などの滋陰薬に知母・黄柏・地骨皮など
の清虚熱薬や牡丹皮・山梔子・黄連などの
清熱薬を加える。

腎及び膀胱の病証(実証)

膀胱湿熱 頻尿・尿意促迫・排尿痛・排尿困難・残尿
感・尿混濁・血尿・結石・舌質紅・舌苔黄
脈数、治法)清熱利湿、処方)猪苓湯
湿熱の邪による膀胱の排尿障害で炎症・結
石が原因となり、膀胱炎・尿道炎・尿管結
石などで見られる。

滑石・猪苓・沢瀉・車前子・木通・金銭草など
の清熱利湿薬を主とし、山梔子・黄柏・竜胆
などの清熱薬、大小薊・側柏葉などの止血
薬を配合する。

 

 

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