【風邪の民間療法】
「風邪は万病のもと」あるいは「風邪は百病のもと」。これは黄帝内経素問(B.C.206〜7成立の中国古典医書)の出典と言われている。過労やストレス、不節制が続くと風邪がきっかけとなって体調を崩すもとになる。薬局や医療機関を訪れる急性の病気の中でも風邪はかなりの数を占めている。医療機関へ行く前に、薬を服む前に、何か対策がないのか?うまくいけばそのまま治ってしまう事も多い。容易に医師に診せられなかったり、薬もなかった時代、身近にある物で対策を講じた経験的遺産が民間療法である。おびただしい数の療法の中で風邪の民間療法は群を抜いている。それだけに決定的なものがないとも言える。 【みかん】
【お茶・番茶】 【梅干】 【卵酒】 【しょうが】 【ねぎ・ニンニク】 【くず湯】 【大根】 【スイカズラ】 【金柑・南天】 【タンポポ】 他に外用として湿布やツボ療法など様々な方法があるが、変わったものでは「あわびの殻」を家の軒先につるして風邪を予防する。とか「畳の合わせ目に寝ない」ことで風邪を予防する、、などがある。 風邪については中医病因説で六因の邪として述べられている。風、寒、暑、湿、燥、火という六気は自然界の気候変化にあたるもので、この過不足によって引き起こされる疾病因子としてそれぞれ風邪、寒邪、暑邪、湿邪、燥邪、火邪と呼ばれる。風は春に良く吹くので春の主気といわれるが、四季を通して現れる。風と寒、風と湿、風と燥、風と火は合併して病邪となる。発病する時期と症状は、どの疾病因子と合併するか、またその比率によっても異なってくる。ここでは民間療法を取りあげているので大きく三分類して話をすすめる。風邪は寒と結びついた「風寒」、熱や燥と結びついた「風熱」、湿と結びついた「風湿」のパターンが考えられる。 |
【風邪の中医学的分類】
病 因 |
症 状 |
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風寒 | 風と寒により体表や肺の 機能が犯される。 |
冬など寒い季節にみられるが、夏の冷房によ って起る場合もある。冷えの症状が見られる。 寒気、悪寒、鼻水(薄)、頭痛、筋肉痛、関節痛、 悪寒と発熱が起る。 |
風熱 | 風と熱により咽喉や肺の 機能が犯される。 |
夏など温暖な季節にみられるが、冬の暖房に よって起る場合もある。のどの痛みと腫れ、副鼻 腔の乾燥や炎症、口渇、鼻水(濃)、痰(濃) 悪寒少なく発熱が起る。 |
風湿 | 暑さと湿気で肺や脾胃の 機能が犯される。 |
気温や湿気の高い夏季にみられる。頭重、全身 のだるさ、吐き気、嘔吐、腹満、食欲減退など の胃腸症状。冷飲食が過ぎると季節を問わず 起る場合がある。 |
【風邪の治療原則】
治療原則 |
食 物・薬 草 |
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風寒 | 辛温性のもので、寒邪を 体表から発散させる。 |
しょうが、ねぎ、ニンニク、シソの葉、酒、みかん の皮、桂皮 |
風熱 | 辛味で熱を体表から発散 させ、かつ涼性で体を冷 やす。 |
大根、ナシの皮、白菜の根、ごぼう、味噌、葛粉 菊花、スイカズラ、薄荷 |
風湿 | 暑気を払い、湿気を除く。 |
にがうり、すいか、緑豆、薄荷、スイカズラ |
上のように分類してみると、民間療法にも一定のパターンが見えてくる。寒気や悪寒の対策に、ネギ、ニンニク、卵酒などの加温法。そして咳やのどの痛みの対策に大根スイカズラ、金柑、南天、タンポポなどの加温を兼ねた涼熱法。そして夏バテ対策と言われるものが風湿の風邪に該当する。風湿の風邪(いわゆる暑気あたり)の民間療法として知られているのに次のようなものがある。 【びわ茶】 【しそ茶】 【しょうが】 【みかんの皮】 【梅】 【フジバカマ】 暑い夏でも温かい物を飲むことが肝要である。胃腸を冷やすと、たちまち胃腸が冷え食物や水分の停滞を招き、胃腸の機能が低下する。体を冷やす性質を持つ食物や薬草を熱くして飲むと温性に傾く。また温める性質のものを冷やして飲むと冷性に傾く。このことを理解しておけば、微寒の食物や薬草を熱くして飲むことで風寒の風邪に、微温のものを冷まして風熱の風邪に応用することができる。寒気を受けて起る風邪には辛味(香辛料)に分類されるものを多く用いるが、炎症や腫れなどの熱に使うとその温性で熱を助長する事になる。悪寒して発熱する熱とは区別されなければならない。病位の浅いところの炎症は発散させ解消する。このときは辛味を利用するが病位が深いと発散できないので苦味で炎症を冷ます。 初発の風邪は対策次第で容易に解決できる。しかし、この時期をやり過ごしてしまうと「こじれた風邪」に進んで行く。午後から夕方にかけてだるくなったり、微熱が出たり食欲が落ち、軽い吐き気、胃や背中の痛み、咳や痰がなかなか取れない。このような症状がみられる。病院では延々と解熱鎮痛薬、鎮咳薬、去痰薬、胃腸薬の類が処方されるが、回復の兆しはみられず病気との根気くらべとなる。感染症でもない限りもはや新薬で打つ手はない。薬をきっぱり止めて自然治癒力を頼みにするほうがより賢明である。このとき、民間療法がいくらかでも治癒までの期間を短くしてくれるかもしれない。食物に近いものを用いる限り体への負荷も軽く、副作用などの心配も少ない。痰や咳に金柑や南天、食欲不振にしょうがや梅干、微熱にスイカズラやタンポポ、疲労回復のためにくず粉や蜂蜜を利用しても良い。 民間療法には、長い時を経て培われてきた病者に対する思いやりや優しさ、そして治癒への切実な祈りが込められている。このような表現は本意ではないが、治癒に働きかける要素の一つでもある。 |
【参考図書】 中医食療方 瀬尾、宗形、稲田 /ことわざ東洋医学 山本徳子 /中医学の基礎 日中共同 |