十、ウンコ

 
 
 
  独り

プッと尻から放屁
フッと口から独り笑い

逆だったかもしれない

 
 
 
  計りかねて

好意のつもりなら
少々的(まと)が外れております
的をずらしたのは私(わたくし)ですが

心配のつもりなら
少々押し売りに似ております
心配させたのは私ですが

同情のつもりなら もう
どこかで虫唾(むしず)が走ります
虫唾も固唾(かたず)も
呑(の)んだのは私ですが

あなたが悪いわけではありません
できることをしたのだ
という聖句もあります

残ってしまった拙(つたな)さ脆(もろ)さが
贈られた文字列のように
何もお返しできないだけなのです

 
 
 
  無学

真空にもエネルギーがあるという
空(くう)には様々の
エネルギーが飛び交(か)っているだろう
人は真空を持つだろうか
完璧な真空は持てないにしても
エネルギーを持たないものは
ないということだ
それはあるいはしばしば
対(つい)をなしているのかもしれない

対をなしている染色体の
対をなしているDNA
デオキシリボ核酸
の二重螺旋は核にあるが
遺伝情報は核だけではないとも聞く

原子核の周りを回る電子は
不確定性の確率の雲
の原理で
神様が骰子(さいころ)を振るように
核の連鎖反応
熾(おこ)って欲しくはないものだ

人が謎を解明すると
神の摂理は
さらなる謎を用意している
謎は物に限らず人に限らず
ウソとホント プラスとマイナス
?と? 対をなして
連鎖のように待機していて
いくらエネルギーを費やしても
弱い心の情報は拡散する
核か対かも弁(わきま)えぬ方向へ

 
 
 
  できることを・・・

善かれと思って
できることをしたのだ
としても
怒りや嘲(あざけ)り・誹謗中傷
を返されることもあるでしょう
しかしそれは全く
受け手の意思に任されていて
もし悪意をもって受け取れば
結局それなりのものしか返っては来ない
ということに過ぎません
少しでも成熟した人間として
心にショック・アブソーバー
を持っているならば
求めていないものを施されても
求めてなどいないと言うことよりも
無償の施しをした送り手の意思を
決して無視することはできないでしょう
だからたとえ幾ばくかの優しさにしても
それは厳しさから生まれるのです
と心がけても中々うまくいかないことは
認めざるを得ないのですけれど・・・

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関連→「計りかねて」

 
 
 
  怒りとリラックス

苛々(いらいら)したり
怒りたくなるときほど
自分の弱さが身に沁(し)みる
どれくらい効用があるか知らないが
祈りという手段がある
どれくらい効用があるか知らないが
少し背筋を伸ばして座って
何か飲み物を手に取って
肩の力を抜いて
できるだけゆっくり飲む
一口飲み込んだら溜め息のように
鼻でゆっくり
ゆっくり深呼吸をしてみる

一生に一度くらいは
本気で怒ることがあるかもしれない
しかしその場合は
肉体的・精神的・社会的・何的であれ
命を捨てて掛かるときであり
なおかつその怒りは
コントロールされていなければならない
間違っても
怒りにコントロールされたくはないものだ

 
 
 
  挫折

捻(ねじ)れた火の玉である
守ろうとすればするほど
疼(うず)いて返される炎である
誰からとも知れず無作為に
ばらまかれる如何(いかが)わしいメールを
送られてくるたびに削除する程度の
勇気があればよいのだ
飛ぶこともできず枝の上で
跳ねているだけの手負いか病の小鳥の
指で抓(つま)んでも折れてしまいそうな
脚(あし)よりも細く
垂れて弛(たる)んでいる脂肪の中に
隠れている細い筋に
頼るほどに倒れそうな歩みのうちに
まるで罪滅ぼしでもするかのように
罪を滅ぼすことなどできない
と分かっているのに
今は自らの踝(くるぶし)を
挫(くじ)けるだけ挫いている

 
 
 
  欲しいもの

車を買った
新車である
しかも増車である
さらに外車である
といっても軽自動車である
大きい車体と大排気量で
ステータスを欲しがる人に
それを売ってくれる外車メーカーが
戯れのように試みに作った
無駄なスペースがなく
必要なスペースも足りない玩具?
この小さい車でステータスを気取れば
笑われるだけでなく
車を2台も持っているなんてと
顰蹙(ひんしゅく)も買うことになる
買わずに残しておけば
半年〜一年暮らせる金額
今持っている車が壊れてから
次に国産なら
チャージャー付きのフル装備の
上級グレードの軽自動車が買えるが

というものが五体満足で
運転できる神経を持った状態で
はたして私にあるだろうか
欲しい物があり
それが軽よりも小さい軽であり
買うお金が今はあるから
買った
ただそれだけのこと
いつ終わるか先のことなど
わからない寿命・余命
については無視した
ただそれだけのことだが
経済的寿命と肉体的寿命
同期してくれたら・・・?
本当に欲しいものは他にある
と我慢しているものも
あるにはあるのだ
走行距離約千五百キロの
慣らし運転を終えて平均燃費は
リッター二四・五キロメートル
楽しめる贅沢(ぜいたく)な玩具は
剽軽(ひょうきん)なマスクをして
家の前に居座り
私を無視も注視もしない

 
 
 
  利口な風

弄(まさぐ)る肌より
解(と)け合う心
二十代大学生だった私は
君を抱きたかった
よりも先に
君とじっくり話をしたかった
あのお別れの二十分では話せないことを
読書好きの君と
学問・芸術・学びと遊びについて
贈ることのできるものは
あまりにも少ないだろうが
多くを受けることができただろう
君は理科系を目指していたようだが
文科系の方が向いている
大学に進むべきだ
今からでも遅くはない
笑顔で話し込む二人の姿を
何度も夢想したものだ
しかし君は利口な人
結婚という
ごく普通の道を選んだ
私が最初で最後に告白した人
君は利口な女(ひと)
私の欠点を既に見抜いていた
今も詩を書いているのだろうか
どこかで名を上げているのだろうか
フッと解(ほど)けない心で笑う
三十年も昔のことではないか
独りで乗ってきた車を降りて
自動販売機へ向かう白髪の
男の背中から
海風は体液を奪い
体質だけを残していった

 
 
 
  トンネル

初めて通る広い道路
快適なドライブの先には
田舎町の センターラインのない
狭い道が待っていた
そこをバスが来る
慌てて脇へ寄せて止める
軽自動車で来てよかった
道の途中にパーキングを見つけて
引き返そうと入り込めば
誰もいない寂しい所だが
海が見え
自販機が一つだけあり
小奇麗なトイレがあり
猫も一匹いて
後をついて来る さらに前に回って
こちらを見てニャーと鳴く
腹が減っているのか
あいにく缶コーヒーは飲み干してしまった
歩いて通るトンネルがあって
鯛夢だったか??
仮名で「たいむ」と振ってあって
たいむトンネルと洒落(しゃれ)ている
有名かどうかは知らないが
一応ここは観光地であるということだ
田舎の細い道の先に少しばかり
お気に入りのスポットを見つけた気分
雨と霧で視界がよくない
帰りは夜になりそうだ
トンネルへの旅は復(また)の機会にして
帰路に就(つ)く
猫はどこかへ行ってしまった
タイムトンネルへ消えたか
それとも密(ひそ)かにタイムトンネルへ
消えてゆく奴を見送っているのか

 
 
 
  彷彿

ワイパーが水滴と一緒に
視界を拭(ぬぐ)い去る向こうに
道はあるとアクセルを踏むから
車は暗がりを轢(ひ)いてゆく

ときに所々の街の灯(ひ)が
一瞬だけ信号に見えたりするから
ブレーキは早めの後ろから
大型トラックがぴったりついて来る

進めばよいのか止まればよいのか
後退でもすればよいのか
最初から出かけなければよい
飛ぶこと以外望まないのなら

空色の信号が浮かんでいる
そこでもチェックは厳重だ
拭い去れないものを火が乾かす
拒めば落ちてゆくことだけには限りがない
明るい人も大地も星も
水天彷彿(ほうふつ)皆落ち続けている

 
 
 
  狼狽える顔

老醜へ向かえば向かうほど
いやもっと若くても
悪知恵をつければつけるほど
面の皮は厚くなり
鼻の皮は硬くなり
鼻の穴は黒くなる
腹の中が黒くなるように
という繰り言で
鏡に向かうと
見えない
老眼と結膜炎だ
狼狽(うろた)えて眼を洗い
しばらくするとピントが合ってくる
みんな当たっているのだが
加之(しかのみならず)
面の皮は荒れており
鼻の皮は脂ぎり
鼻の穴から洟(はな)が垂れている
顔全体が垂れて弛(たる)んで
今にも流れてしまいそう
目と鼻と口の位置は
昨日と同じだろうか
あわわ・・・

鼻の穴が黒くなりました
毛穴という毛穴も
黒く開いて没没没・・・
二十歳過ぎたら
顔は自分の責任です

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※「没没没・・・」は敢えて誤用です。

 
 
 
  夢の花

好きな花は
ヒヤシンス
というより
好きな花の名は
風信子(ヒヤシンス)
風(かぜ)信子(のぶこ)さんではない
好きな名は
むしろ「ふうしんし」「ふうしんす」
と呼びたいくらい
風媒花でもないのに
風信子
子供でもないのに
風信子
ヒヤシンスに当てられた漢字
それは叶(かな)わぬ夢
風の子になって
風の便りを伝えたい
風に乗って
信じられる通信の
飾らない素子になりたい

 
 
 
  遭遇

?前にも言ったような
がデジャブではなく
物忘れの繰り言になるとき
言うのをやめる
ことを覚えるだろうか
記憶を
とりわけ記銘(きめい)を失うことは
日常をそっくり
超常の異土に変えてしまうが
経過の道のりが
日常であるか超常であるかは
経過させるものに任されており
足元から世界までをジャメブの
底知れぬ不安と不穏に落とし入れる喪失も
遭遇から終焉に至るまで
出会(でくわ)す有象無象と有情非情によっては
穢土(えど)から冥土(めいど)への旅も
安堵から浄土までの邂逅(かいこう)である
?これも前に言ったような

 
 
 
  虚々・日々

大学を出たところで手に入れたのは
医師免許だけだったのだから
医者が医者をやめれば何者でもなくなる
という事実だけが残る虚無へと
志向するかのように老いてゆきながら
実は虚数のような実があり
肉体と空腹は生きていて
日々は流れ
風通しを拒みながらも
ときに遊びさえする
実益や価値とは無縁なことばかり
何かやっている日はまだ増しなうち
に宿る時間は
自分のものであるべきだろうか
肉体よ
この日お前を外へ駆り立てたのは
流れ費(つい)える日々の惰性か
それともお前に残された情性か
暑い
春の異常な陽気に
汗を滲(にじ)ませ
濡れた額を何故か恥じて
絡み付いてくる前髪を
手を以(もっ)て汗ごと撥ね上げても
肉体よ
濡れた手で拭える実体があろうか
取って返すように虚しく
塒(ねぐら)へ向かえば
肉体を微かに掠めて過ぎる風の時

 
 
 
  陰・陽

木陰(こかげ)から
雲雀(ひばり)が飛ぶ
雲雀と気付かれぬまま何も告げずに
脇侍(きょうじ)を務(つと)めるのは
寂寞を捏(こ)ねる四十年(よそとせ)の落魄
白紙の涅槃(ねはん)を装丁する
風の産土(うぶすな)をたずねるように
ゆえに折れる木は燃える前から
当然として折れるであろう
表裏一体の巡る日の下で
遠く雷は感電して
細い折れ線を自らに向けるに過ぎず
砂塵よりも大量に散乱する光に打たれ
爬虫は狼狽(ろうばい)となって類を呼び
蠢(うごめ)くものは既に顕れており
たとえ雲が山陰に隠れても
木陰が木陰である間
惜しみなく
陰にも陽は射している

 
 
 
  失楽園

緑児(みどりご)は自ら進んで
血糊(ちのり)を見せることはない
大人はときに血糊を
見せざるを得なかったり
見て欲しくなったりする
失楽園
善かれ悪しかれ
知恵をつけた結果である
生きて楽園へ戻る道は
もはや何処にもないが
心有る人々には
姿なき幼児(おさなご)が
ときおり問いかけてくる
あなたはだれ?
なにしているの?
楽園の住人に問われても
楽園を追われ
忘れてしまった大人たちは
それゆえそのとき
むしろ悩んだり悔いたりする
血糊が減ることはないのである
一方で人々はしばしば
血糊に因縁話を付け加えながら
地上の楽園を探し求めて
赤児(あかご)を自慢の腕に抱き
善かれ悪しかれ
やがて知恵を吹き込んでゆく
いずれにせよ
血糊が減ることはないのである

 
 
 
  父の死

数日というもの
寝たり起きたりが続いて
窓もカーテンも閉め切った部屋の
吐く息まで黒いかのような
暗がりのどん底で
消えた火の蝋涙(ろうるい)のように
固まってしまいたい夕刻近く
電話のベルが突然鳴った
母の声「落ち着いて聞いて・・・
お父さんが死んだのよ」
私は「できるだけ早く行くから
元気出して」(出るわけないだろ
とは後で思ったこと)
そう答えて受話器を置いたのに
私はしばらく煙草を吸い
荷物を一つ二つバッグに押し込んでは
また煙草一服を繰り返す
ぼうっとした抑うつ気分の上で
ぼうっと(急げ)と(落ち着け)が
鬩(せめ)ぎ合っていたのだろうか

父が先に死んでしまったのだから
最悪の事態ではない(※)
耳が遠くなり目は白内障で
背中が曲がり年々痩せてきて
胸に動脈瘤があると聞かされてからは
破裂したら終わりと覚悟
までしていたかどうか
実家では酒をかなり飲むのだが
家では飲まなかったのは正解だった
車で行ける が
母も背中が曲がっている不整脈もある
心労が重なって
母が死んだらどうする
とりとめもなく・・・

間の抜けた空間をさまようように
ようやく荷物をまとめて
車に乗り夜の高速を走る
またしても
自分が先に死なない限り
いつかは起こることだった
来るべき時が来たのだ 落ち着け
と自分に言い聞かせながら
急く気持ちの間で
前を走る車のテールライトが
近づいたり遠ざかったりした

口と鼻に綿を詰めた父の顔
急速に意識を失い
心肺停止に至ったらしい
母は「苦しまずに済んだから・・・
やさしいきれいな顔で・・・」
と自分を落ち着かせるように言う
私は私のやり方で(死に顔を
美しいと思ったことはない)
そして「苦しいかどうかなんて
死んでみなけりゃ・・・」と
やはり落ち着きを装っていた

今夜は仮通夜
明日が通夜
明後日が葬儀
母は泣いていなかった
私も泣いていなかった
相続・手続き関係は
葬儀の後になるわけだが
私は辺りを見まわして
火を消したまま灰皿の上に置いてある
吸いかけの煙草を早々と相続した
その日の父の唾液である

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※関連→「反りが合わない父と息子」

 
 
 
  父の死・違和感

焼かれた父の骨は全身の骨格が
意外なほど原形をとどめていた
もはや父とは思えなかったが・・・
ずっと昔のことだが祖母の火葬のときは
ほとんど粉々に近い状態だった
疎遠であったこともあるが
まだ若い医者の卵だった私は
わずかに識別できた大腿骨を
しげしげと眺めていたものだ
父の骨は形もだが
血か肉か骨髄の名残か何かだろうか
濃い赤紫色の付着が所々見られて
悲しいというよりホラー映画のように
少々不気味であった

私は未だ泣いていない
母は父が焼かれる前
最後のお別れに父の顔を見たとき
堪(こら)えきれずに泣いた

我が家は代々日蓮宗である
もちろん葬儀は仏教形式
私はキリスト教の洗礼を受けている
今もそのつもりでいるのだが
読経を畏(かしこ)まって聞き
焼香して合掌・・・?
汝の父母を敬え
とは聖書にもあるが・・・

それにしても悲しみ以上に
葬儀が終わるまで
違和感だらけの三日間だった

 
 
 
  父の死・ぽっくり

父は公務員として働き
母との間に私と兄の二人の子を儲(もう)け
真っ当な人生を過ごし
平均寿命以上まで生きて
ぽっくり死んだ
私も死ぬときは同じようにぽっくり病死
と願いたいくらい理想的といえば理想的な
死に方だったかもしれない

我が家の直系は私の代で絶える
ということは
亡き父を含め我が家4人は
棺桶(かんおけ)合戦 ?
つまり最後まで生き残った者が
誰の助けもなく独り
故人を偲(しの)ぶ余裕もなく
死に伴う儀式と手続きなどの
煩わしい世事に追われる羽目になる
そして年齢から言えば
順番の最後は私である

順序通りではあるが
いちばん法律・手続き関係に詳しい父が
いちばん先にぽっくり逝った
父を責めるわけではないが
母は手続きより前にその準備に追われ
落ち着かない日々を過ごし
私は戸籍謄本の不備があって
実家から本籍のある
この地にまた戻ってきている
ぽっくり父が逝ったあと
ゴールデンウィークを挟(はさ)んで
我が家の営みは
ぽっかり空いたままである

 
 
 
  父の死・狡い

父が死んだ日も私は狡(ずる)かった
乗物は4台ある
スクーター・オートバイのバイク2台と
普通乗用車・二人乗りの軽自動車
高速道路を走らなければならない
バイクは論外
バイクで高速を走ったのは遥か昔
もはや体力も気力もない
高速走行なら普通車といきたいところだが
私は軽自動車を選んだ
普通車は買って8年目
軽は買って間もない
慣らし運転も済んで
高速走行を試してもよい時期
時価にして一番高いのは軽
今回は長く留守にする可能性が大である
一番高価な物を家に残しておきたくない
それと軽自動車は普通車より
高速料金が安かったはず
故障の確率・盗難時の損害・経済性
という三つの打算が
父の死という非常時に
しっかり働いていた

約3時間の高速走行を経て実家へ
あとで高速料金の領収書を見ると
しっかり間違えて普通と書いてあった

 
 
 
  父の死・「パソコンする」

手紙・ハガキ作成から
家計簿も出来ると勧めて
実家に置いてある私の
旧式のコンピューターを
何度か母に教えようとしたことがある
基本ソフト・OS
応用ソフト・アプリケーション
フォルダ、アイコン、ファイル
といった概念
マウスでクリック・ドラッグ
キーボードで入力
カット・コピー&ペースト
といった操作
どれも「難しい」「わからない」
というよりコンピューターそのものに
恐怖感でもあるのか
アレルギー・拒否反応
と言ってもいいくらい
気が向かないらしい
電源ボタンを押すことはできても
ソフトから終了させるということが
理解できない様子なのである
亡き父も同様だった
カラープリンタで奇麗に印刷した絵に
最初は興味を持ったようだったが
しまいにはプリンタを持って帰れと
怒り出す始末であった
ついていけないのだろう
もし下手に続けて
たまにフリーズしたり
エラーが出たりしたらパニックだろう

どちらも私が持ってきたのだが実家に
もう1台コンピューターがある
フロッピーディスクベースの
つまりFDD2ドライブだけで
HDDのない大昔のコンピューター
その旧い古いコンピューター用の
一つのゲームソフトだけ気に入って
暇潰しと老化防止に愛用していた
ネットでもワープロでもなく
そのゲームをすることを実家では
父も母も「パソコンする」と言った
それで「パソコンやってます」なんて
他の人に言わないようにと母に言った
父も母も「これだけは感謝している」
と喜んでくれるのだった
しかしハードもソフトも古いものは
いずれ劣化し故障するのである
第1ドライブは書き込みができない
読み込めるからゲームは遊べるが
第2ドライブはどちらも壊れていて
実家ではFDのコピーができない
私の家にはその互換機があるので
クラッシュしたFDソフトは
バックアップコピーがあるが 実家の
古いハードの機能は4分の1しかない
父はもう機能しない

父の死によって
来年の賀状は出さないことになるが
父死亡のハガキは今年中に
出さないといけないだろう
印刷屋にでも頼むのだろうか
パソコンはせずに

家に戻って来てちょっと気になる
私も最近のハード・ソフトの流れには
ついていけなくなってきている
クラッシュしたら買い換えか
さらにちょっと気になる 私も
そのゲームに嵌(はま)りつつある
いずれ劣化し故障するのである
古い心身ともに

 
 
 
  父の死・思い出す

通夜の日
焼かれる肉と化した父の
横たわる部屋の隣で
泣きもせずテレビを見ていた鈍感さ
昔から「冷血漢」「お前は鈍やから」
はては「生ける屍」とも言われた
言えていた当たっていた

母・父・私の順で実家の風呂に
入っていたことを思い出す
難聴のせいで大きく怒鳴り声に近い
父の「サトシ!
(風呂から)上がったぞ!」
次はお前が入れという意味だが
父親として
中年の息子に対して
最後の権威を示すかのようで
煩わしかったはずの声も
もう聞くことはない
夜更かしを注意されることもないが
母が風呂から上がると
なぜか早く入らねばと気が急く
私の家では平気で夜更かしするのに
実家で夜十二時ごろになると
眠れそうになくても
居間から実家での私の部屋に
引っ込んで寝ようとする
はいはい分かりましたよ
と呟いて自分で驚いたりする

私がまだ物心つく前
海水浴で母が足を取られ
私を落とし
拾い上げた父がまた足を取られ
私は二度溺れかけた
という話を唐突に思い出す

いつ想い出に変わるのだろうか
悲しみと言える感情も湧かないのだが
変な思い出し方をする記憶の中から
父はたびたび登場しそうである

 
 
 
  記憶よ

わが身の出生の記憶
わが身の死没の記憶
生きとし生けるものの死の記憶
を持ち得ぬまま
宇宙と時空の中で
限りなく無に近く
あまりにも微小で
あまりにも玉響(たまゆら)に過ぎる
生存の揺らぎ
わずかに残る生と死の記憶よ
空色のように儚(はかな)い形
奥行き
深み
体のない
肉親の死は
記憶となり得ているか

 
 
 
  父の死・残された家族

死ぬのには何の手続きも要らないが
もう既にこの世にいない父が
この世にいなくなるためには
この世では数々の手続きが必要になる
残された家族が少なく弱いほど
残された家族の心身の負担は重くなる
母の不整脈は
胸苦しい発作のようになり
息子の気鬱は
倦怠と麻痺のようになって
死活の門を閉ざしたくなる
死か活か
どちらを閉ざすのだろう

もう既に父はこの世ならぬ門を通って
天国か極楽浄土か
知る由もないが
この世ならぬ世界に
ご先祖たちと一緒にいるのだろうか
何の手続きも要らずに

ストレスで落ち着かないのか
上ずった母の声に
息子は電話口で言う
一応優先順位を決めて
今日その気になったことをやる
明日のことは明日考える
慌てずのんびり気が向くのを待つ
あとは成り行き任せでいいのです
と自分に言い聞かせるように言う
父よ あなたの息子は
気が向かないことは
しないように出来ている
そのようにしか出来ていない
死に対しても生に対しても
結果はなるようになる
自分に言い聞かせながら

温和な笑顔を浮かべた父の遺影
実際以上に「やさしいおじいさん」が
もはや何も言わず
何もしない人になっても
すべての手続きが無事に終了して
あらゆる書類の上で
父が「死んだ人」になっても
残された家族にとって
死んだ父が
見たこともないあの世の住人になって
この世から完璧に消滅することなど
少なくとも家族が生きている間は
あり得ないことだと分かっているのに

 
 
 
  消滅のベクトル

味方も仲間もいないことが
自分というものなのだと
細くなり薄くなり掠(かす)れるように
座標から消え失(う)せるベクトルの先を
何によって見ようとしている

贅沢病だと言われれば
そうでないことを証明するには
死んでみせなければならないだろうか

遠ざかるものが
遠ざかることによって
殺しにかかるなら
黙って殺されてあげようか

しかし何の土産(みやげ)もない
天に
何の宝も
未だ積んではいないというに

荒廃から崩壊へ
喪失から消滅への
方向しか持たないベクトルに
長さを問う儚(はかな)さよ

 
 
 
  べき

来るべきものが来ない
有るべきものが無い
来る約束も
有るという保証も無かった
身勝手な「べき」
身から出た「べき」だと気付いたら
外に向かって振りまわすな
誰にも見せず言わず
身に深くしまっておくか
割ってしまえ折ってしまえ
べきべきべき・・・
それでもまだ
為すべきことを為していないと
身に「べき」を重ねる乗せる累々と
あっという間に膨大な「べき」に
押しつぶされそうになりながら
べきべきべき・・・

 
 
 
  送り・過ごし

いったい幾度の別れを
幾人の死を
送別・告別の礼を見過ごしながら
見送るのだろう
名も無き送り
名も無き過ごし
尊い人々
私の死を見送る者はいない
私は死にながら
生きながらにして見過ごされるのだ
無名と無礼とウソに
日々を年月を送り過ごして
過ちという過ちに送り出されて

 
 
 
  よいしょ

よいしょ
で担ぐものは
もちろん物だけではない
立つとき座るとき
動き出すとき休むとき
よいしょ
よっこらしょ
で担ぐものは
片付けた何か?
整理してしまいたい何か?
済んだことにしたい何か?
景気付け・元気付け
で軽くしたいもの? それとも
生きてきた年月であろうか
背負ってゆく年月であろうか
自分自身であろうか

よいしょで出世する奴もいれば
よいしょも言えず難渋する人もいる
言えるだけ仕合せというもの
まだ生きているということだ
自らの測れない軽さ・重さを背負って
私も立ち上がる
うんこ
 らしょっ・・・と

 
 
 
  父の死・因縁付け一

父の書斎に入ろうとすると
いきなり柱時計が鳴り出す
この発条(ぜんまい)仕掛の
小形の柱時計は
私が子供の頃からあって
今も書斎の柱に掛けられているのだが
もう疾(と)っくの昔に止まっていて
螺子(ねじ)も巻き直していないから
振り子も止まったままなのである
驚いて母に告げると
母は「不思議ね」と笑って
母はそれで済んだ様子だが
私は内心穏やかではない

母は見た目には
少なくとも私よりは元気になった
食事の前には仏壇の方を向いて
父に向かって「頂きます」
を言うのが習慣になっているが
あれもこれもと今は寧(むし)ろ
片付け物に気持ちが向いているらしく
父が生前しようとしなかった畳替えを
自分で業者を呼んで済ませて
新しい青畳の匂いに満足そうである
その関係で実家の私の部屋は
一時的な物置になって
私は片付くまで
父の書斎で寝ることになる
夜蒲団を敷いた父の書斎で
柱時計を見つめる
ポルターガイストも
霊に纏(まつ)わる様々な話も
テレビなどで見聞きしただけ
信じているわけではない
しかし
(この逆接は成り立たないのだが)
いわれもなく父に
因縁を吹っ掛ける
この親不孝の息子に
何か心残りか御不満か恨みでもおありでしたら
連れてけ
と心に一喝して明りを消す

 
 
 
  父の死・因縁付け二

実家から戻ると
和室の隅の畳の上に
小さい鼠が死んでいる
目を近づけて見る
ちょっとかわいい顔をしているが
これは確かに死んでいる
翌日見るとやっぱり死んでいる
(当たり前だ)
何日経ってもずっと死んでいる
(片付けていないから当たり前だ)
勝手に家に上がりこんで
断りもなく死におって
いつまで死んでるつもりだ
(理不尽な話である)
やっぱり庭にでも埋めてやろうか
でもこの頃になると何となく
お名残惜しいような・・・
腐って異臭を放つようになるか
あるいは干乾(ひから)びるまで
このままにしておこうかと・・・
それゆえまた
(この順接は成り立たないのだが)
いわれもなく父に因縁を付ける
自分はこのように死んだと
おっしゃりたいので?
はいはい私もこのように
死ぬるでありましょう

 
 
 
  接続

今使っているコンピューターは
オーダーメイドで買ってから4年経つ
恐らくバルク品で組み立てられていて
とりわけモデムは調子が悪く
ピポパポガーガーの後
回線がビジーというわけでもないのに
しばしば奇怪な音を立てたあげく
接続が確立しません
とエラーメッセージを表示する
ときには fatal error
とまで表示される
それでもお構いなしにトライを繰り返し
数回から十回くらいで繋(つな)がるか
ひどいときは二十回くらい試みて
辛うじて繋がることがある
繋がるからまだ使っている
成立しない接続がある
因果応報に
理由もなく結末もなく
独り善がり・思い込み
怖いのか気味が悪いのか
名残惜しさ?未練?
負い目?悔い!?
ただ狂っているだけ?
うっかりすると崩れそう
うっかりしなくても壊れそう
もうすぐ駄目になる
もうすぐ駄目になる
成立しない接続がある
順接・逆接 いわれもなく
また使ってしまう

 
 
 
  森の叫び

霧の酸を散らし
薬の雨を浴びる
森の叫びよ
かつて空気を水を浄化した
森の面影よ
迷い込んで途方に暮れて
蹲(うずくま)る旅人に告げよ
この地は最早(もはや)
旅人を癒す泉も潤いも持たず
刹那の益に流された血と汗と油と
股間を擦(す)り抜けた風の
腐敗の住処(すみか)になるのだと
砂塵を防いだ森林は
砂塵によって妨げられる
変わり果てる色彩は声よりも叫ぶ
滅びゆく森の最後の叫びは
乾いた砂の咽喉から病んでゆき
木々は虫食いの古文書に記(しる)され
果実は偽りの花押となって落ちてゆき
古びた墓碑が
眠らない屍の埋もれる砂の中に倒れていると

 
 
 
  陳腐な骨

水底(みなぞこ)にいかなる死が巡っていても
水面(みなも)しか見てはいない
陳腐な骨よ
古く脆(もろ)い骨格に細い筋を絡ませ
弛(たる)んだ脂(あぶら)を巻き付け
皮を被(かぶ)った人の形に佇めば
意識はあまりにも浅い
底に深く沈む死は
いずれ意識も肉体も
滅するために顕(あらわ)れるのだが
その顕現に対面することはない
死に臨んでいくら肉体が放尿し射精し
脱糞し流涎(りゅうえん)したとしても
意識は夢のようなもの?
しかし夢の中でも
明証性を持った意識がある
その意識はしばしば奇妙だが
奇妙と知るのは目覚めて
夢を覚えているときだけ
夢の中でも人は人、体は体で真剣だ
だから夢を見るたびに人は溺れ
死に一歩近づき
覚めればまた一歩近づくというに
今すぐ死ぬとは思っていない
意識の浅はかさとは・・・
水面よ
その深みに骨を沈めるとき
死が浮かび顕れ
骨が人々の、また肉体の
一切の柵(しがらみ)を断って沈むとき
水底に巡るものを見るだろうか
死人は夢を見ないのだろうか

 
 
 
  だであるかかも

だである

である
だろう
であろう
だろうか
であろうか
かもしれない
かも知れない
かも知らない
かは知らない

なんて知らない
なんて
いかがなものかと

 
 
 
  美しい表情

人間の表情の中で一番美しいのは
笑顔だと思っていたことがある
しかし愛想笑い・軽薄な笑いや
悪意に満ちた笑みもある
嘲笑や
謀(はかりごと)がうまくいったときの
ほくそ笑み

どんな無益なことでもいい
仕事・学術・研究と呼ばれなくてもいい
何かに夢中になって
興味と
苦悩の色さえ入り交(ま)じった
一途なときの表情が
今は一番美しいと思っている
大真面目な漫画の落書き
誰にも読まれない滅裂な文章を書く夜
血が上り巡り巡る孤独な机上の空想は
冷血の川下へ寒く流されて
賽(さい)の河原の石積みに崩れながら
なおも求めつづける熱意によって
直(ひた)向きに凍り続ける顔

本当の楽しみは
誰からも与えられず
誰にも見えないもの
冷血の俎(そ)上において燃え上がり
常同行為のうちに焼け落ちる作業場だ

 
 
 
  つらいこと

生きている 肉体だけが
しかし壊れることはあったとしても
精神は死んではいない 何故なら
生きている 肉体だけが
と考えているではないか
もっと奥底から試みのように
賜物(たまもの)のように
心を痛めつけているものがあるのだ
生きているのは罪なのか
生きているのは罰なのかと
きっと自分を守れない以上に
人を許せない以上に
人を守れないような
自分を許せないような
よっぽどつらいことがあったのだろう

------------------------------------
関連→危険思想→「崩壊」

 
 
 
  好きです

悔いが作らせるような
哀しい歌が好きでした

自分を責めることのできる人が好きです
過ちを悔いることのできる人が好きです
それは近寄ってくる人々からの
賞賛の笑みも報酬も
勝ち取ることはできないかもしれない
わからない けれど
利得による関係は人間関係ではありません
論理による関係は人間関係ではありません
ときには他者を激しく憎み
しばしば社会に馴染(なじ)めず
何よりも自分を好きになれない
矛盾だらけでも
そういう人は好きです
悔いる者は幸いなり
彼らは人の国を受け継ぐであろう
と不遜にも言いたくなるくらい
好きなものは好きなのです

小さく弾(はじ)ける孤独な叫びが
最後に身を投じる暗い静寂(しじま)の潜熱のような
悲しい歌が今も好きです

 
 
 
  私

銀河系に生まれて
太陽系に育(はぐく)まれて
地球で育って
惜しみなく恵みを受け
失い 多くを失い
あるいは奪われながら
地球上に この世界に
私の前にも後にも
後にも先にも
私はいないというのに
お日様に向かえば絵空事(えそらごと)
天の川に向かえば御伽噺(おとぎばなし)
今此処(ここ)にいる私が私なんて
向かえば此処は刻々あまりにも
かけ離れる今の隔たりに
私は立ち尽くしている
私だけが見えない世界を目の前にして

 
 
 
  数える

いつまでも人がこの世のものではないように
いつまでもこの世は人のものではない
昔々
指が十本あるからだろうか
数えるのに十進法が選ばれた
すでにデジタルである
分けたり測量したりするために
小数や分数やグラフが考え出された
かなりアナログである
さらに数も計算も複雑になった
まさに数学はロジックでありながら
同時に感覚的・感性的理解を要求する
十本の指を使って
一本の指は伸ばすか曲げるかだけとして
十進法では少なくとも99まで数えられる
二進法では1023(十進数)まで数えられる
数えられる数える数えられる
数にうんざりして死を選ぶ人がいる
無に返る?
0でも負でも虚数でもない
いつまで数は人のものなのだろう
いつまで人は数のものなのだろう

 
 
 
  夏の命

ヒショヒショヒショヒショで始まって
周(ぐるり)を取り囲みながら必死に
声を扱(しご)くように蝉(セミ)が鳴く
十年の土の眠りから覚めても
彼らの今日は数少ないのだ

今日と呼んだ数多(あまた)の日々を
惰眠のうちに貪(むさぼ)って
蝉の鳴き声に目覚めて
滲んでは流れる汗を
片道60kmの山の上で
2ヶ月ぶりのオートバイの上で
風に吹かれて乾かしても
山を下りて帰って来れば
また汗はだらだら噴(ふ)き出してきて
じっとり濡れた脂身が横たわるだけ

灯(あか)りもない山上の道や草原で
集められる気化熱は
昼の下界の焼かれ具合など
ひそひそ話もそこそこに
明日に生まれ生き残る数多の命の
終(つい)の住処(すみか)を拵(こしら)える夜だ

 
 
 
  ぶっつけ問答

企みや謀(はかりごと)に対しては

人となりを見る そして

倶(とも)に天を戴(いただ)かず
血の果てまで続く復讐は
百代祟(たた)りて余り有る可し

これほどの憎しみを
そっくり神に委ねようというのだ

でも言ってしまった

鼬(いたち)の最後っ屁として
負け犬の遠吠えとして

今一番つらいことは?
眠りから覚めることだ

今一番後悔していることは?
生まれてきたことだ

生まれる前に戻りたいと?
戻れはしない既に生まれたのだから

ではどうしたいと?
今どうするわけではない しかし
いずれ最大の罪と知りながら
最大の罪を犯すことになるか
あるいは耐えるだけ耐えて
遊べるだけ遊んで学べるだけ学んで
糧食尽き果てて息絶えるか

委ねたお方に任せるのでは?
任せたいが肉体が弱すぎる

まだ信じてはいると?
信じていると思ってはもらえまい
しかしまだ拘(こだわ)ってはいる

では聞くが自らの憎しみに対しては?
ゆえに知る
罪があれば裁きがあり
いずれ罰が下ると

自らの悲しみに対しては?
ゆえに知る
一縷(いちる)の憐れみの絆あらば
いずれ覚めることのない眠りを賜(たまわ)るであろうと

 
 
 
  顔と肉体

私が狭い管の中を
身を捩(よじ)られ回されながら
押し出され引き出されて
濡れてぬるぬるになって
逆さに吊るされたり叩かれたり
揺られたりして
くしゃくしゃの顔で泣き出したとき
あなたは未だ私を知らなかった
おぎゃあ〜〜〜〜
あなたが物心ついて私を知り
知恵をつけ始めた頃
初めて吐(つ)いた嘘
私は覚えているけれど
あなたは覚えていないでしょうね
記憶の底に眠らせてしまって・・・
あなたが初めて髭(ひげ)や
体と心の変化に気付いたのち
満たされない欲望に悶々としていた頃
悔しさに呆然としていたとき
あなたの顔の中に一つずつ
しかめっ面が加わったのです
試験に合格したり
初めて給料をもらったときの
喜びは束の間に過ぎて
いつのまにか腹や胸に
飼い馴らされた黒い虫と
蒼い後ろ影の鬩(せめ)ぎ合いに
あなたが苛(いら)つき
失敗を重ねては独り傷つきながら
悔いても改めることのできない
取り返しのつかない罪に苦しむたびに
あなたの顔の中には幾つもの
しかめっ面が増えていって
増えれば増えるほど
あなたの表情は
却(かえ)って乏しくなるのでした
隠すことを覚えたのか
強張(こわば)ってしまったのか
力が抜けてしまったのか
私が懸命に生きようとしたのに
あなたは死を願ったのです
それを止めさせたのは何か
今まだ生きているのは何故なのかは
あなたの問題だけれど
ごく稀(まれ)に
動物や植物が生きている姿や
似たような孤独に出会ったときに
あなたの表情が少しだけ
少しだけ和(やわ)らぐのを
私は知っています
何かを庇(かば)うように

----------------------------
※言うまでもないことのようで恐縮ですが、「私」は「肉体」を指しているつもりで書いています。

 
 
 
  異性のこと

夫としての快楽も苦痛もなかった
父親としての楽しみも苦しみもなかった

家系を絶やす
直系の血筋を絶やす
先祖はお怒りであろうか

いかなる事情があったにせよ
思春期に始まる性の問題を
卒業できないまま枯れる男は
自慰と自虐の反芻に凝ってゆく
心は傷つけたかもしれないが
体は傷つけなかった  結局

誰にも悪い籤(くじ)は引かせなかった

それだけだ
と思い込もうとしている

 
 
 
  蜘蛛

ハンドル周りの蜘蛛(クモ)の巣を払い
殺虫剤をざっとスプレーしてまで
久し振りにオートバイに乗る
地を掃(はら)えばいい何もかも

山上のパーキングでバイクから降りるとき
手に絡みつきぶら下がる
蜘蛛
手を振って地面に落とす
生きていたのか ここまで
バイクにしがみついてきたのか
ヘルメットを脱いで抱えた小脇に
すっぽり抜けた俺の首

帰り道バイクを走らせながら
ふと古い傷口から糸のように
ぴゅっと細く噴き出す出血の痛み
殺した殺そうとした置き去りにした
ぴりぴりと折節に
覚えのある痛みだった

玄関に入ろうとすると
顔に引っ掛かる
蜘蛛の糸
揺れている蜘蛛を見上げながら
も少し上に張れ
と呟いて以来 出入りの際に
はっと首を竦(すく)める習いが続いている

 
 
 
  募る遊び

「つもり」がいっぱい積もっている
「つもり」が「積もる」から来ているのなら
「募る」から「つのり」へ行って遊びましょ
よくもまあ数だけはこんなに沢山うんこみたいな文章書いたものだな
はい一応詩のつもりのつのりです

 
 
 
  おかしな後悔

天才で美男子だという自惚(うぬぼ)れの強い男
あるとき鏡を見ながら言っている
失われた美貌をどうすればよいのだ
うろたえるように繰り返す様子である
何事にも自信の持てない別の男
失われたものがあるとすれば若さだろう
美貌というほどのものでもあるまいに
ふ・・・可笑(おか)し・・・でも
自分は顔にも自信はないから
そういう後悔はしなくて済むはずなのだが
なにかいつかどこか
声には出さずとも
似たような場面があったような気がしている

 
 
 
  卓上の空論

聖×正=戦
貧×聖=自爆
富×正=誤爆
爆×報→ホロコースト
罪も悪も自らは認めることなく
卓×戦=種+火種
いかなる微分?
卓=話×益
益=富―貧
火種の積分=戦
悲=聖×正
聖と正ばかり
いつまで続けたら
=平和
が導き出されるのでしょう

 
 
 
  慙

沸沸と込み上げてくる
筋を切り道を荒らし押しのけて
辻褄(つじつま)を引き裂きながら

胸を叩き頬を打ち
(過ぎた幸運は転落のための落差だ)
乱れた髪を何度も何度も
掻き毟(むし)るように掴(つか)む
疲れ頽(くずお)れて
眠る

暗い部屋に座して
項垂(うなだ)れている黒い影は
黒い雫(しずく)を落とす
涙でも汗でもない
影の雫を落としながら
毀(こぼ)れてゆく

自分の頬を自分の手で思いきり引っ叩(ぱた)いたことありますか

 
 
 
  惑いの台詞

わかっているさ
が繙(ひもと)こうとしているのは
解けない帙(ちつ)の夥(おびただ)しい中味

勝手だろ
が映し出す姿は
儘(まま)ならぬこの世の物事に
圧倒されている詰めの甘い自分

ほっといてくれ
が教えることは
ほっとかれて為し得る事の乏しさ

詰まるところの惑い
まだ団居(まどい)を求めているか
中身のある談笑を信じたいか

 
 
 
  弱虫

明るく見えても
穏やかに見えても
やさしそうに見えていても
ときおり激しさや険しさや苦悩を覗かせるのは
押し潰されそうになりながら
消え入りそうになりながら
懸命に重たいものを支えているのかもしれない
常にプラスの方を向いていなければ
常に前向きでいなければ生きられぬ
というほどに
だとすれば
暗さを暗いまま
激しさを激しいまま
腐肉を腐肉のまま押し出してしまうのは
すでに認めざるを得ないのだが 改めて
不治の弱虫だと
ある日ふるえるように 思う

 
 
 
  弱虫ノドチンコ

ついに弱虫 ないた
泣かずに鳴いた
チロチロでもリリリンでもなく
奇声に過ぎない雄叫(おたけ)びを上げた
弱虫がたくさん
それぞれの声で鳴いた
咽(のど)をふるわせ鳴いた鳴いた
聞いたか聞いたか 虫ではない
人間の鳴き声
鬼気迫る弱音
以来赤く膨れてぶら下がったノドチンコ
飲門(のんど)の奥に
鵜呑みはならぬと逆さに開(はだか)る

 
 
 
  スイッチ

今死に果てれば未来が見えぬ
生き果(おお)せる間は過去が消えぬ
身を捨てて苦楽の時を消すか
身に沁みて苦悩の時を見るか
独りの 時は本当に消せるのだろうか
独りの 時は見られることがあっただろうか
いずれいかなる時も消え失せるとしても
自分で触らない限り
スイッチは「生」のまま
今はまだ召される時を待っている時
時に踊り
時に沈む
時の果(はか)に任せて

----------------------------
※ 「果(はか)」は辞書によって違いますが、「はかどり」「進み具合」といった意味で使ってみたつもりです。

 
 
 
  衰える繰り言

衰えは隠せない
年を取れば
耳は遠くなるだろう聾(ろう)に向かって
目は薄くなるだろう盲(もう)に向かって
ついには沈黙と暗闇の中で
頭は更に呆けて想念も飛ばなくなるだろう
繰り言ばかりが増えるだろう
そんな歳まで生きていたくない
もう言葉も・・・眠らせて・・・
そんなとき不意にエンジン音を響かせて
弱き身を支えんと目を覚ます一つの不安と
不穏、不穏不穏!
黙(しじま)はあまりにも遠く
果てしなく響く叫び
聞かれるのを待っている
闇はあまりにも薄く
広がりすぎた光の世界
見られるのを待っている
それが身をもって分かれば
またも繰り言なれど
死んでもいい生きてもいいと何故言えぬ
言葉は要らないなんて
決して言えない決して言わない
どんなに遠くどんなに薄くても
叫びも光も言葉を求めるだろう
黙に聞き入る耳と
闇を睨み続ける目がある間は

 
 
 
  もういい

電柱に凭(よ)り掛かり
地べたに腰を下ろして
膝を抱えて坐っている
ときに項垂(うなだ)れ
ときに遠くを
暮れ泥(なず)む空を見遣(みや)りながら
少し脹(ふく)れっ面の疲れた様子で
ジーパン姿の若さのまま
書きかけて止(や)めた文章の
最終行に背を向けて
もういい は いつも坐っている

 
 
 
  祈り・目覚め

また嫌なものを見てしまった
という気分で目が覚める
まだ生きてるの 頑張るねー
という呟きで自嘲する それでも
最後の眠りが未だ訪れていないように
一番大切な目覚めは まだなのですから
欲しがっていてもいいですか 目覚め
欲しがるだけで終わりそうですけれど・・・
まるで神様に保証を求めているようだな
と呟いてまた自嘲して
人目をできるだけ避ける暮らしでも
人々の間に自らを曝してゆく
見られる嫌なものになって
去らせてゆく

 
 
 
  螺旋階段

狭く細い螺旋階段では
休む場所がない
安らぐ場所がない
踊り場もない
動く気もしない
下に何があったか覚えていない
上に何を求めていたか忘れた
上れば息が上がる死にそうだ
下れば転ぶ落ちそうだ
どちらにしても目が回る
動く気にもならない
狭く細い一日の
中途にいつも立たされることになるのだが
不安な未知に向かって
這ってでも上る人は多くても
飛び下りる人は稀であり
なぜかその稀な人のほうが
気になって気になって仕方がないから
上ろうともせず下ろうともせず
動かないのに目を回している昨今

 
 
 
  薄い

薄い
あまりにも薄い
ネットにおける匿名の関係
しかし利害でも理屈でもなく集うとき
薄い
最も薄い
目蓋の皮膚
だから目の
最も近くにある

 
 
 
  甘栗

甘栗を噛む
ぱりっと音がする
指で殻を割る
ころりと栗の実が顔を出す
今度はうまくいったと口に放り込む
手に残った小さな殻
ふと内側を覗(のぞ)く
しばらく見入ってしまう
一粒の小さな実を結ぶということ

 
 
 
挨拶の距離

会うときの挨拶は
歩み寄りの合図だが
歩み寄りの距離はここまでだ
という合図でもあり
距離を保てる人間同士において成立する
別れるときの挨拶は
ときに実際永遠であったりするから
さらに距離を意識させるが
印象や記憶の距離が絡むとき
さて、どちらが遠いだろう

 
 
 
  祈り・潜熱の循環

冷たい熱に
まだ温もりがあるならば祝福を

真空にエネルギーがあるように
虚空には潜熱がある
保存則を守りながら
やがて諦観となって灯火を揺らす
諦めとしての灯火と
諦めと裏腹な灯火と
どちらが燃え上がるでもなく
対をなして虚空を漂う
いつか再び温もりとしてこの胸に
還ることがあるでしょうか

クリスマスに何のお手伝いもできず
凍りついた無為のまま
震えて過ごした冷たい熱に
まだ生きて祝福を賜るならば温もりを

内に秘めた温もりを
人々の間に灯す術を知らず
潜熱として閉じ込めて
冷たい空へ解き放つ
冷たい空は冷たいままだ
身は熱を奪われてますます冷たい
何も伝わらなかった
何も伝えることができなかった
と次の潜熱が疼き始める

 
 
 
  ね

文節を見分けるために
昔「ね」を挿んでみることを習った
きょうはいしゃにいく
きょうね はいしゃにね いくね
今日歯医者に行く
きょうはね いしゃにね いくね
今日は医者に行く
という卑近な例もあるように
しかし「ね」はもともと
根っから押しつけがましい
と今さら反省する
付けなくても分かるものは分かるし
付けても分からないものは分からないのに
念を押し付ける
息の圧力
そう気付いたので
独り善がりは独り善がりに終始させて
できるだけ「ね」は控えるように
するね

 
 
 
  何やら扉

人は扉を開けると
何やら進んだ気分になったり
何やらほっと安心したり
何やら沈んだ気持ちになったり
何やら引き締まった気になったり
何やら元気になったりもするらしい
とにかく開けなければ始まらないと
人は数限りなく扉を開けてきた
そのたびに人は忘れ物をする
しばしばとても大切なものを忘れる
ときには忘れ物をしたことさえ忘れる
開けた扉は閉じられる
扉は大方オートロックである

 
 
 
  いい

いい
もういい
まあいい
いいんだこれで
いい加減の
いい?
思い切れぬまま
何かを受け容れ
何かを得て
何かを失い
何かを切り捨てる
それはいい
とは違う
分別され過ぎた
いい

 
 
 
  不眠の点滅

星が煌(きら)めく夜
煌めかせる闇にも
星の間の星が
どこかで煌めいている
遠い過去から
人の未来のように
意味も価値も遠いところで
もう明日の目覚めなど・・・
と思う人さえ乗せて
もう明日が今日になっている
信号は点滅し続ける
赤と黄色
青がない
夜は眠っていない
灯りを点けては消し
また点ける

 
 
 
  右に左に

ハンドルを回す
右に左に
道の湾曲に合わせて
ときに屈曲に慌てて
車は傾き体は横に押されながら
ハンドルを切る
右に左に
いつも寄るパーキングに行く予定が
見知らぬ空き地に駐車している
目的がないということは
流離(さすら)っているということ
景色を眺めるのも束の間
見知らぬ土地の怪しげな人になって
人影に怯える
いつもそうだった
いつも寄るパーキングには
いつも見知らぬ人がいる
車を止めるスペースが
そこにあるというだけの場所
そこからハンドルを目一杯切って
帰途に就く
右に左に
眼差しを切りながら
切り刻まれた時間に
帰り道を探すことになるのだが・・・

 
 
 
  ルナティク・顔

世馴れした顔が気軽に友と呼び
話す語尾の後にハ行とも?行とも
濁音とも清音とも
撥音とも促音ともつかぬ笑いを付けて
きっぱりと冷たい締めを弛ませる
世馴れできない洟(はな)垂れ顔は
やりきれなくて夜独りああ〜と笑う
二つ目の「あ」に濁点をつけて
ときに強勢を付け語尾を上げてまで
それは血迷いの狂(ふ)れ姿か
少なくとも装うのではなく
自己の在るべき領域が崩れゆくとき
隠せなくなった濁りも澱(おり)も灰汁(あく)も
何もかもが締まりなく流れ出しているのだ
それで少しでも楽になるなら
目一杯溜められるだけ溜めてきた生ゴミの
袋の破れ目から液汁は流れるだろう
(それで少しでも楽になるなら)
人に物に風景にまで
蔑(さげす)まれ責められるかのようなとき
夜ふらりと外に出て空を眺めれば
手に受けようとする白い息を散らせ
顔を刺すような寒気の向こう彼方に
月も星も冷たくきっぱりと無関係
どうしようもなく有り難く無関係
光り輝く無関係
泣くことを忘れた顔に
目汁鼻汁冬の夜

 
 
 
  ただ

無料=ロハ=只の ただ
無駄・普通=徒の ただ
唯一の ただ
あるいは責任逃れの但し書き
利用条件
保証内容
そんな自信も確信もないことだから
つい付け加えてしまう ただ
守ろうとして
捨て去っていることに
まるで気付かない
ただ は ただ
まだ気付かないでいるものがあることを
告げながら 教えてはくれない

 
 
 
  t軸の空間

点を見ることはできない
点を考えている
線を見ることはできない
幅のないものを
網膜も手も足も捉(とら)えない
線を考えている
そして面を立体を
実世界と結びつける
考えるのは自由である
等速円運動をする点の軌跡は
立体空間においても円である
立体空間の3本の軸に
考えるのは自由だから都合のいい方向に
時間のt軸を加えて
考えるのは自由であるから
それを4次元の空間と見なせば
等速円運動の軌跡ではなく
等速円運動そのものが螺旋になる
実世界では無に等しい点が
こんな思考の中で立体に
しかも忌まわしい螺旋になるなんて
と暫く動けない私は
丸みも撓(たわ)みも失って
どんどんt軸方向へ間延びしてゆく
思考は激しく揺れているのに
もうどこまでも時間がない

 
 
 
  漕いでみます

広さを狭さを
高さを低さを
長さを幅を奥行きを
空気を漕いでいます
少しも進みません
わかっているのです
当たり前のことだと
時間を漕いでいます
加速も減速もしません
進んでいる感触もありません
いや実は感じることがあるのです
ときに呆然とするほどに
でも大方それらは意に反していて
わかっているのです当たり前のことだと
何を為すところもなく
何を為すときもないまま
無為に過ごせば
経過においては
永遠のように長く苦しく
結果においては
まるで無かったかのように空しい
だから横になったり
坐ったり立ったりしながら
空しく且つ無いものを
もうしばらく漕いでみます
自分を漕ぐことが
当たり前のように進ませることが
できないから

 
 
 
  嘘です

メタファ
メチャクチャと誉めた話の間だ
リリック
ライラックの読み違いリラの花だ
リリシズム
凛々(りり)しさを旨とする思想傾向だ
凛(りん)としたものが好まれるのだ
でれぇ〜っとしていると一番嫌われる
ポエム
誰かが言い間違えたのだ
微笑(ほほえ)むをぽえむと
一説には吠(ほ)えるをぽえむと
だから本当の微笑みも
人間の遠吠えも叫びも伝わらなくなって
それらはポエムの仕事になった

 
 
 
  並木道

並木の桜が咲いた
花鳥風月不感症の
結膜炎の鱗(うろこ)の眼には
紙切れのように咲いて
紙切れのように褪(あ)せて
紙切れのように散るのだ
桜は散って命を残す
紙切れは命を持たない
役に立たなくなった紙切れ
使い捨てたティッシュ・ちり紙
人に見られたくないメモ?
リサイクルに回らない紙は
捨てられ焼かれる
今日も無数の紙切れが捨てられてゆく
不可抗力・やむを得ないと弁明され
犠牲にされる命のように果てしなく
紙切れは捨てられ続ける

並木の桜が散った

 
 
 
  希死

さく はなも
 といきのごとく すぎさらん
さだめは されど さだめえぬもの

再び目覚めることがなければ
何も言うことも書くこともない

死人を描く詩
詩に描く死人
死人
歩いている
細道を
書こうとすればするほど
詩人になれない

わかちえず
 よるべなき みに そこはかと
ばくたる きしの かなた こなた

 
 
 
  くだり

だらしなく垂れるウンコである
催し始めると
止めることができないのである
中で動いている間はまだ増しなのだが
纏(まと)まってくると激しくて
実は纏まってなどいないのだが
我慢できないのである
いくら紙を汚しても切りがない
未消化の壊れゆくままに
よろよろとうろつき紙を汚してはまた
だらしなく滲(にじ)むインクである

 
 
 
  一周忌

プラグを差し込まれたまま
故障して使われていない
いくつかの家電
コードは繋がっているが
電流は流れない

躑躅(つつじ)祭りが始まりますね
とタクシーの運転手の話に
父が死んだのはそういう季節だったのかと
改めて気付くことに驚いている

桜も躑躅も毎年咲く
命日も毎年巡って来るわけだが
この世に差し残されたまま
命と呼べるもの
命の呼べるもの
命を呼べるもの
生と死が境界を越えて
同居している空間について
墓参りは済ませたのに
今更のように
移ろう巡り
無限ループがフェードしてゆく
桜が散って躑躅が咲き始める頃

 
 
 
  鬱と滅び

目が覚めた
呆然として うんざりして
鬱陶(うっとう)しく目が覚めた
また今日一日滅びるということだ
滅びゆく定め 心も体も
魂は滅びず 時が来れば
天に召されるのかもしれないが
その時を知ることはできない
物心ついて知恵をつけてから
ずっと滅びつづけてきた
かつての元気も幸福も
滅びの一つの現れに過ぎない
与えられる死よりも前に
滅びを与えられることなく
召されることはない だから
まるで気付きのように
どん底の今 一瞬を見つめる
これが与えられた滅びだ
今味わうべき滅びなのだ
空腹は滅びだ
飲食は滅びだ
排泄は滅びだ
テレビをぼうっと見るのも滅びだ
ふと気が向いて
めずらしく(@!?)顔を洗ったり
髪を洗ったりするのも滅びだ
味わうべき滅びなのだ
もう久しく
日常の友になって付き纏(まと)い
普段着になって身に纏(まと)う
滅び
ほろび
遂には愛すべきパートナーのように
ほろびぃ
HOROBY
HORROR・BY
ではちょっと怪しいか でも
投げられ降り来る礫(つぶて)によって
希死と自殺へ向かう心を引きとめようと
最後の秘密を守るための防衛反応
ホロビィは心を密(ひそ)やかに揺らす
変われる時まで
召される時まで
安らかに滅びていなさい
今日一日の滅びのうちに
できることなど聞かなくていい
必要なときは何もしなくても
そっと動かしてあげる と
だから
食う
出す
寝る
大方それだけ繰り返し
滅びる
滅び続ける
大いに滅び続ける
祈りはとても単純になった
すべてをご存知です 拝

 
 
 
  楽な痛み

何もしない日
何かしている
楽しくはない
ぴりぴりと痛む
楽だが
気楽ではないこと
後頭部だろうか
ずっとぴりぴり
ピリオドが打てない

 
 
 
  覚えない

日々の営みは死ぬまで続いてゆく
私はいつも同一であると信じて疑わず
私はいつ云々…と平気で言うのだが
寝付いた時刻のように
覚えることができない
生まれた時
死んだ時
生死は数限りなく繰り返されるが
個々の私はいつ云々…と言えない
他にもいっぱい
言える時間のほうが遥かに少ない
見える空間を殆ど覚えていないように
どこで云々…?

 
 
 
  失意

失意の意思を想う
外を見るための窓は
視野を四角に区切り制限している
その死角の向こうを
実は補って見ている外
失意の狭窄に補える
円(まど)かなる空と雲のような
意思があるなら 失意よ
もはや緩急はなく
寒暖は滅却され
沈めるために空を見たい

 
 
 
  無精髭

死にたい…
死にたくない…
短い髭(ひげ)に指を当て
爪で挟んで引き抜く
プッチクッ…プッチクッ…
爪も指も怠(だる)くなって
うんざりしながら続けている
死にたい…死にたくない…
プッチクッ…プッチクッ…
召されて与えられる死なら
何を言うこともないが

髭は伸び
毛根がしっかりしてきて
引き抜くと痛い
痛いのは嫌だ
シェービングフォームを塗り
希死も希生も泡(あぶく)と一緒に
ごっそり剃り落とす
肌荒れか深剃りしすぎたのか
点々と血が滲む
さらに唇を切ったらしい
ぽたりぽたりと滴り落ちる
滴る血は怖い
流れる血は怖い
うろたえて気を静めようとする
大した傷ではない
命に別状はない…
……?
死にたい……の男が
命に別状…が心配か
しばらくタオルを当てる
ぽたりぽたりはなくなったが
すぐには止まらない
部屋に戻ってティッシュを当てる
すぐには止まらない
やめた
やがて固まって
瘡蓋(かさぶた)になり
剥げ落ちてゆく
顎を撫でると
ざらざらという感触
希死も希生も
また伸び始める
召しませ召しませ
死にたい…
死にたくない…

 
 
 
  滅却狂

滅却は重く固い
だのに中身は空っぽだ
だのに熱を帯びている
だのに小鳥が止まる
鳴いている
ケラケラケラ
だから遮断
だから短い間
だからなくなるとき
通るところにある
抜けたか滅却
沈めたか
空が見えたとき
見ようとしなかった
まだまだだ
重い
だからやめておけ
だのにさせてくれ
やめておけ
させてくれ
やめて・・・

 
 
 
  気分

いつから厭(いや)になった
世捨て人の気分でも
この世のお世話になって生きている
世俗を離れた気分でも
俗は欲と一緒についてまわる
いつから嫌(いや)になった
勝つことができなくなって
自分自身にさえ負けてばかりだから
惜しみなく勝ちは譲る気分でも
勝ち負けそのものが分からなくなった
いつから柔(やわ)になった
善し悪しも弁(わきま)えず
まさに今そういう気分
いつから今になった
ずっと気分だよ
今以外に何かあったか

 
 
 
  病める「べき」

「べき」は頭が痛い
到達点や目標は気が遠くなりそうだ
苦痛にしかならない重荷だ
何の癒しにも励みにもならない
暇は腐るほどあって
そのまま腐らせている
「べき」にも無数のステップがある
今日のステップ
今のステップ
短く低い身近なステップ
暇は腐るほどある
それはよろしい
そのままを何か
読み書き
一章あるいは一節
一頁あるいは一行
祈り
小声あるいは内語
思いの丈(たけ)あるいは一言
「べき」のステップほんのちょっと踏んで
休んでいる
暇は腐るほどあって
大方腐らせている

 
 
 
  アンビバ…烈

嘲(あざ)笑いの顔
侮(あなど)りの口
俯(うつむ)いた身を見下ろして
氷を当てて舐(な)め上げる冷たい視線
あるとき世辞
皮肉
頼みもしない評価

の一蹴
無視
何事もなかったかのように
過ぎ去ったそれら
向けられた者には
癒えない傷を残して
しかし向けたことはなかったか
向けたことは
なかったとは言えないはずだ
と癒えない傷が疼(うず)く
自らの目が赤いと感じる
兎の目か
鬼の目か

自らの存続から
人類の存続の是非までを
ときに激しく神に問いかけ
自ら慙愧(ざんき)のうちに切々と祈り
強烈なる厭世をもってなお
烈々とこの世を愛さねばならぬ

 
 
 
  薄情者

昔見た喜劇かホームドラマ
お金のことか何かで
悩みを打ち明けられた友人が
「気を落とすなよ
 明日からは何もかも
 うまくいくさ」と言いながら
そそくさと帰ってゆく
薄っぺら・薄情
言わない方が増しだったろ
と笑っていた私は傍観者
散々悪態ついて人を傷つけてから
「いえいえですから君は
 清く正しく生きなさい」
と諭したつもりの自分を思い浮かべる
それはしないだろう
と心で笑って否定したものの
恵みや癒しや許しに
甘えてばかりではいけないけれど
施す側に立つことが
行いで示すということが
いかに難しいか
人生の総てを捧げることはもちろん
何分の一かを分け与えることさえ
どうせ偽善者か怠け者
言わない方が増しだった者さ
薄情者め
おおSOLLENみよ
恐れ見よ
SEINです

 
 
 
  蛍光灯

蛍光灯が沈黙の時を降らせる下で
小さく発熱する土も泥も泥濘(ぬかるみ)も
冷気のような光を受けながら
未来は限られているのに
切りがないかのような重さで
押さえつけられている

今日の苦しみは今日だけで・・・
明日は明日が思い煩う・・・

蛍光灯の光は白くない
夜のあいだだけ明白だが
白く見せているだけだ
光線は目に見えない
昼の光に比べれば消え入りそうな光を
浴びる泥濘もさらに消え入りそうな
冷やかな熱を帯びるだろう
それは明日の真昼日の光によって
試されるだろう
今さっきまで明日だった日が
もう今日になっている
時は降り続く
光も降り続く
総ての苦しみの上に降り注ぐ

 
 
 
  知情意無残

知が恵まれ
情が感じて
意が欲するとき
人は動く
知情意は連動し
分かれてはいない
むしろ一つである

知が引き起こす諍(いさか)いの情
情に絡んで引き合わされる知
唾を飛ばすくらいの意

知の涙
情の汗
意の息

水と空気

 
 
 
  知情意無残・U

ぱっぱらぱー
知は落ちてゆくばかり
情は鈍くなるばかり
意は脆くなるばかり
分けられないたったひとつの
心のバランスはもうバラバラ
狂気が今日もキョロキョロ
狂う隙間を狙ってクルクル
回る回るよ薄い目が
恵まれることから
始まるしかない一日が

 
 
 
  水と空気

ときに無常
ときに空しさ

形の定まらないもの
汚染されやすいもの
汚染されているかどうか
わかりにくいもの

しばしば意識されないが
無いと生きてゆけないもの
わかりにくいけれど
必要不可欠

水と空気のような
知・情・意
分けられない心の中から

汗、涙、唾、息、……

 
 
 
  快適な運転環境

今の車は話題の環境性能の他に
以前より乗り心地の良さ
居住性・静粛性
快適なイージードライブを目指してきた
オートマチックは確かに便利だ
急発進もエンストも
坂道逆行もしなくて済む
ハンドル・アクセル・ブレーキ
大方それだけで運転できる
しばしば意識せずに運転している
ときに意識すべきものまで意識せずに…

ときに退屈になって
オーディオのボリュームを上げる
眠気覚ましのガムを噛む
ウィンドウを開けて風を受ける
忘れてはいけない
静かで心地良い室内
それは最も睡眠に適した環境である

人が作った快適さは
人が作ったリスクを伴なう

 
 
 
  母と息子

好みの番組だけだが
母はよく独りでテレビを観る
私がいるときでさえ
母は耳が遠いことを気にしてか
リビングのテレビではなく
自分の部屋のテレビを観ている
イヤホーンをつけて
ボリュームを大きくして
音声を聞いているのだろう
スポーツを観て拍手したり
「あ〜あぁ残念」と言ったりする
それはまだいいのだが
ときにニュースか何かを観ながら
「何を言っとるか!」
などと突然テレビに向かって
怒鳴ったりするので
びっくりしたり
夜などちょっと異様な感じ?
電話も殆ど掛けて遣(よこ)さず
それで寂しくないのだろうか
気持ちだけは元気なのが
却って妙に心配

そういう私も自宅に戻れば独りだ
ネットや読書をしないときも
テレビを見ることは多い
討論番組など
メールを受け付ける番組もあるが
メールで意見を述べる知識もないし
そういう性格でもない
相変わらず議論は苦手だ
にもかかわらず
「それは違うだろう」
「そういう問題じゃないだろう」
などとテレビに向かって
呟(つぶや)くことがあって
あとで何をバカなこと
独りで言ってたんだと
また独り言している男

母と息子
母はテレビや新聞や仏壇と
私はテレビやコンピュータと
(祈りは別としても)
どちらも届かない相手と独り言で
同居しているような
それぞれの独り暮らし

 
 
 
  ロングドライブ

夜明け前に出発した
山間の国道
深夜は殆ど渋滞がない
稼ぎ時とばかり次から次へと
大型トラックが走る
ハイビームは使えない
後ろの車に押されるように
ロービームの届かない
数十メートル先の
闇に向かって突っ込んでゆく
同時に対向車線の
ランプだらけのトラックに
目を眩(くら)ませながら
光の中を突っ込んでゆく
前方の流れに追いつくと
前を走る車の背部下端に
ヘッドライトが届く程度に
車間を保つ
あやふやな記憶のロードマップで
しばらくはカーブの多い道
それから峠を越えて
下りのカーブが続く…

所々に置いてある自動販売機
ひっそりと道に向けた
青白い光の領域を
しばしば打ち消されながら
道に向かって立っている
この辺り この時刻
不思議というほどではないが
人影が立ってコインを入れる姿を
まだ一度も見たことがない
何度も通り過ぎた道沿いに
水分・ミネラル・ビタミン・糖分
など栄養の端くれを
懐(ふところ)に抱えて
立っているだけだ
待っているだけだ
用済みになって
トラックの荷台に載せられるまで

車からの見えにくい
昼とは全く違う夜の
景色とも言えないような
流れゆく様(さま)とはいえ
いつのまにか下りのカーブに
緊張してハンドルを切っている
それほど高い山ではないが
いつ峠を越えたのか…?!

危うい視野と
弱々しい領域を誰かに向けて
糧(かて)の端くれでも懐に抱えて
打ち消されて なお
信じて待っている
だけの在り様(よう)で
生きたことがあっただろうか

峠…峠は…と思い返しているうちに
夜が明け始めた
枯れ木のルフラン
見覚えのある街並み
ちらほらと朝の人影
まだ先は長い ロングドライブ
路面上で褪(あ)せて
無力になったヘッドライトを
ポジションランプに切り替える
朝のラッシュの峠に向かって

 
 
 
  リストカット

右手に刃物を握ったとき
いちばん近くにあって
手を伸ばしやすい位置にあるのが左手
しかも手首は脈を測る所
脈が触れやすいということは
動脈が浅い所
皮膚に近い所にあるということだ
ドラマなどでも見かける場面だからか
いたたまれない感情に加えて
周囲の無理解や孤独感から
希死の実行または表現の手段として
しばしば選ばれる
リストカット
切られてしまうのは
傷を残すのは恐らく
手首だけではあるまい
本人だけではあるまい
傷が癒されるのも・・・

人間失格といわれても仕方のない
ウンコみたいな詩を書く人
元は医者
希死はあるが手首は切らない
人間の急所ひとつも弁えぬうちに
人体の急所を知り過ぎてしまった
いかなる縁かも分からないまま
さらに信仰が引き留めている
いたたまれない感情の発散のために
詩のようなものを
書こうとする心の傾向を
神はお与えになったのであろうか
下手な詩であっても
ウンコと言ってしまうのは
乱暴であり自虐的だが
その感性は元々脆弱であり
意欲とともに衰えるばかりだ
幾度か自分の手で自分の横面を
思い切り引っぱたいたことがある
それで晴れるものなど何もなかった
結局は祈りしかない
繰り返した不遜の祈り
希死の願い駄々の罪
告白
繰り返した
「時が理解できません」
「お許しください」
今は理解できない時であっても
神が定めたその時だけ
そしてその時には必ず
生きて人は我を忘れ
死んで人は我を失うのだ
人をも自分をも
人が壊してはならない
人は神のものである

 
 
 
  かなしいことに

自分を責めてしまいがちな人がいる
自分を責めることをしない人がいる
前者は弱さを認めざるを得ず
自分の頼りなさを痛感する
後者は弱さを最も嫌い
自分の力のみによる強さを疑わない
前者は慎みをもって
限りない祝福を願う
後者は手段を選ばず
限りない成功を求める
前者も後者も失敗すれば反省するが
前者は悔い改めを伴う
後者は作戦の練り直しに過ぎない
前者は責任逃れをしない
然りは然り否は否と言い
口に恐れを持ち
嘘を吐(つ)かない
後者は責任を認めず
人の責任ばかりを追及し
保身に汲々として
嘘を吐く
前者は傷つきやすく
壊れやすく壊されやすい
後者は傷つけ壊し
気づかぬうちに自分を壊している
前者が滅びれば終末だ
後者が滅びれば再臨だ
しかし一人の人間の中に
かなしいことにしばしば
前者と後者が同居している
終末も再臨も近くて遠い
責める
責めない
悔いる
悔いない
改める
改めない
対象が違う
目的が違う
中味が違う
間違う
鬩(せめ)ぎ合う
この世では前者も後者も
いずれ滅びゆく定めである
終末も再臨も遠くて近い

 
 
 
  相対性情緒

討論会というものにおいて
喧々囂々(けんけんごうごう)の論争を経ても
一定の結論に達することが殆どないのは
それぞれが異なった譲れない一線を
結界のように引き直し引き直し
自らのベクトルに乗っていながら
しかも語ろうとしているのは
絶対的な速度の源についてであるから
そこで起こり語られる
あらゆる現象も事物も時間も空間も
知識や論理さえ
多様に歪み変形し展開するために
絶対的な真理を見出すよりは
相対的な誤りを見逃すほうが
はるかに容易(たやす)く
すれ違う脈絡の渦の中で
感情の起伏は激しく波打つのに
論者は知性と理性をもって語るように
振舞うことが義務付けられているから
討論会は結論を出すことが
目的でもなければ期待でもなく
論争があるということを示す
統一されない場にならざるを得ず
よって周りで見ている人々は自らの
自転する思考に乗って公転するように
目を回しながら注目し
サラウンドしながらラウンドする
ノイズのような声に聞き耳を立てている

 
 
 
  涙の定め

売れない役者の嘘の涙
売れる役者から買った涙
忘れたくないのは
演じることのできない
孤独な舞台に立たされて
売ることも買うこともできない涙
を受け止める器(うつわ)において
忘れたはずの涙も
今流している涙も
隠して耐えることをしなくても
いずれ必ず乾く定めを持っており
元々涙は売ることも
買うこともできないということだ

 
 
 
  プロ野球

薬を飲んだ
ヨーグルト飲んだ
テレビでプロ野球を見た
両手に軟球と硬球を持ってみる
硬球はずっしり重いかと思ったら
それほど重さの違いを感じない
ひょいと上げて額に当ててみる
軟球は痛くない
硬球はゴツンと当たって痛い
やはり全く違う
ヘルメットを被(かぶ)るわけだ
プロテクターを着けるわけだ
デッドボール(ヒット・バイ・ピッチ)
が痛いわけだ
プロは硬球を使う
プロは生活が懸かっているのだ
怪我(けが)したら
痛いだけでは済まないのだ

痒(かゆ)いだけで痛くない
と必ずしも言えないのだが
プロと呼べる何ものも持たない
軟球の暮らし
ヨーグルトの整腸作用
ガスもよく出る
ときに自分でも驚くような
奇妙な音を立てて出る
お腹から出る
頭から?
頭の中は軟球か
しかも破れた軟球かゴム毬(まり)か
昔の中身が発酵いや腐敗して
だらしなくガスが出る
口から尻から
衰えた頭とお腹から
それでもお腹は
叩けばぽんぽん
膨(ふく)らんでいる
頭の中は空気が重い
溜(たま)っている
ときどきグルグル動いている
たまに破裂しそうだ
まだ出たいのか
出し足りないのか
プロと呼べる何ものも持たない
衰えるアマタよ

 
 
 
  独楽(こま)

しばらくは凛(りん)として
悠然(ゆうぜん)と立ち回るが
やがて首を振り始め
ついには頭から足元まで
ふらふらに蹌踉(よろ)めいて
トトトトコココココロコロコロー〜と
予測できない曲線の方向へ転がってゆく
独りではあまり楽しくない
数が多いとぶつかり合う
喧嘩?剣か?拳か?
交わり過ぎるといけない
謙虚に虚心で
誰かに回されて
虚空を舞う
空の舞いから
地を転がる
作られた玩具の
ひとときを
遠く思い出している
独り遊びが問いかける
楽しくなかったのなら
そんなに苦しいだけだったかと

 
 
 
  雲母

おもいでは きららのごとく
うすく かさなり はがれて
かよう みちも とだえて
わかれてしまいそうな もろさに
おもわず つづきを おいもとめ
けられてもいないのに
ふわふわと ころがる
みかげ の いし

 
 
 
  母と息子の想い

母は強い人である
よく笑い、よく怒り
よく泣くことで苦労を乗り越えてきた
母は気の強い人である
かなりミーハーで詩心はない
鬱(うつ)についての理解は乏しい
かくして息子の鬱は
機嫌が悪いということになり
それによって母の機嫌も
悪くなったり良くなったりする
ときに「こっちが憂鬱になる」などと
鬱の人にとっては
やや殺人的なことを言ったりもする
息子はマザコンではないつもりだが
母はマザー・メアリーではないので
息子の病は理解されないが
息子のことを心配してくれる
息子の想いは通じないが
息子に愛情を傾ける

 
 
 
  夢たち

叶(かな)うことも
知られることも
問われることもないままに
散っていった夢たちよ
いかなる心のうちに
温(あたた)められていたのか
もはや知る由(よし)もなく
最初から無かったかのように
消え去って戻らないのか
それとも再び会う日を待つかのように
ただ隠れているだけなのか
そこはもう冷たくて
温められることもないのだろうか
それとも永遠の懐(ふところ)に移されて
深く秘められた温もりのうちに
ひっそりと微睡(まどろ)みかけているのか
少しは微笑(ほほえ)みかけてもいるのだろうか
夢たちよ
羞(はじら)いのように

 
 
 
  夢見る頃

若き日の夢見る頃と違って
老いゆく者の見る夢は
病の幻覚に近くなる
生臭い?血腥(ちなまぐさ)い?
肉がキラキラと星のよう?
肉にチカチカと刺す光?
肉の生き血が滲(にじ)ませるのは
出るものなのか入るものなのか
奪われるものなのか
恵まれるものなのか
かまうものかと合掌・礼讃(らいさん)
飛びゆく夢は虚空を駈(か)けては
荒野(あらの)に呼ばわる

日々の起臥(きが)において
夢見るのは追って届かぬ虹
文字通り架空である

 
 
 
  うつろ

沈みゆく小舟が
沈んだ小舟にならない
死にたいと思うとき
この世の志は何処(どこ)にもないのに
生きていたくないと思いながら
肉体は虚(うつ)ろな目で
テレビの箱の中で動いている
異国のニュースを眺めている
目が虚ろ
と心に写るとき
あらゆる体は
立位を保持できていない
姿勢のない明け暮れ
希望は生きるためにあるのだが
生きることから離れた希望に生きている

 
 
 
  「そうか」だけ?

ボケ防止の頭の体操
と言えば聞こえはよいが
要は道楽
小・中学校〜高校数学の
置き去りにした課題

Aを直角の頂点とし
BCを底辺=斜辺とする直角三角形
BCと同じ長さを
一辺とする正方形を
BCの上に描く
正方形のどちらかの頂点から
直角を挟む
長いほうの辺に垂線を下ろす
その垂線に向かって
もう一方の頂点から垂線を下ろす
その垂線に向かって
短いほうの辺の延長線を引く
すると正方形の内部に
三角形ABCと合同な
三角形が4つと
真ん中に一辺が
直角を挟む2辺の差に等しい
正方形ができるので計算する
あるいは
AからBCに垂線を下ろし
交点をHとすると三角形の相似から
BH/AB=AB/BC
CH/AC=AC/BC
BC=BH+CHから計算する
どちらもピタゴラスの定理

長いこと疑問に感じていた
錐体の体積は何故
柱体の体積の3分の1なのか
高さHの錐体を考える
底面は有限〜無限個の三角形の
集まりと見なすことができる(?)
Xにおける断面は
底面と相似で比はX/Hになる
それぞれの三角形の底辺がX/H
高さもX/Hだから面積は
底面積の(X/H)の2乗になる
Xを変数として
0からHまで積分する
Xの2乗を積分することになるから
(1/3)×(Xの3乗)と
3分の1が係数として付いてくる

独り善がりの独り納得の
幾つもの「そうか」があった
数学嫌いや苦手の人には
わからないと言われるだけ
数学を知っている人には
当たり前と笑われるだけ
どちらも無視されるだけ
知人への手紙に認(したた)めて
送ったことがあるが
返事は来るけれどレスポンスはない

もっと大切な置き去りにした課題は
何も解決していない

クリスチャンのMLに参加している
昨今では聖霊体験なるものを
重視するのが主流らしいが
聖霊と友だちのように
直接交わる体験の記事に
抵抗を覚えてしまう
父・子・御霊(みたま)という神格
即ち神様とキリストと聖霊のうち
人格となって語られ
人間の永遠の友でありうるのは
イエス・キリストだけではないのか
キリスト教はいつから
聖霊教になったのか
キリストはいつから教義上の
贖罪仲介者になってしまったのか
神と聖霊は恐れ多い御方であり
神の導きや聖霊の働きは
聖なる領域からの
秘められた賜物(たまもの)であり
もっと心に恐れを
口に慎(つつし)みを
持ちたいと思うのだが…
キリストの神格について
わかっているわけではないし
これも独り善がりの独り納得の
信仰観に過ぎないのだろうか

嘆息よ
レスポンスのない
置き去りにした課題
何ひとつ解決していない

 
 
 
  蜘蛛を殺さなくなった

木造の家にはしばしばいる
あの大きな蜘蛛(くも)だ
巣を張る様子も見かけず
天井や壁や床に
じっとしていたり
這っていたりする
昔は殺虫剤をぶっ掛けて
丸くなるまで殺していた
気持ち悪さに鈍感になったのか
それどころではない気持ちでもあるのか
ある日玄関のドアを開けると
内側の壁に張り付いて
こちらを向いている
至近距離
そっと軽く足に触れてみる
数歩は素早く後退(あとずさ)りしたが
それ以上逃げようとしない
生まれて初めて蜘蛛に自分から触った
なめられているのか
馴染(なじ)まれているのか
ひょっとして眠っているあいだ
顔中を這い回っているのでは・・・!?
洗うたびに赤くなる顔
剃刀(かみそり)や
電気シェーバーにさえ気触(かぶ)れて
髭を剃るたびに出血して
爛れる口の周り
荒れて硬く脆くなった皮膚
いっそぐるぐる巻きにして
血を吸ってみよ
毒でも入れてみよ
と思い切ったときから
大きいのも小さいのも
蜘蛛を殺さなくなった

 
 
 
  風を追う

来し方を振り返れば
風を追うようなものだ
行く末を眺めれば
風を追うようなものだ
今日一日を大切に・・・といっても
今日一日がいちばん近くて
今日一日がいちばん身に沁みて
今日一日がいちばん辛(つら)くて
危なくはないのか
(だからこそ・・・GOTO5行目)
という狭いループを抜け出して
少しく広い息
いずれ滅びることは分かっている
塵(ちり)に帰ることも知っている
犯した過ちは訂正できないのに
逝った人は戻って来ないのに
いつどこでどうなるかなんて
まるで分からないのに
独り姥捨山(うばすてやま)に坐って
どうして此処(ここ)に居るのかと
首を傾(かし)げるように
何ゆえか悔い
何ごとか案じて
風に追討ちを食らっている
気息奄々(きそくえんえん)
誰の吐息か
誰の呼気か
今吸い込んでいるのは
どこから恵まれた風か

 
 
 
  風に開く

風はひととき息になって
わずかの冷気を与え
わずかの熱を奪い
失意の胸を過ぎて
街角をさまよう
風は善し悪しを知らない
風はどれだけの人が
身を任せているかを知らない
風にとって自然に開く扉はないから
閉じられた扉の前で
風は乱れ分かれ
町を過ぎて
波の上を
川を過ぎて
森の中を
針葉樹のあいだを
連山の尾根に
吹き上げ
吹き下ろす
風は扉になって
自然に向かって開かれてゆく

 
 
 
  すべての一つ

地球が自転しなかったら
一日は一年?
昼は昼の国
暑さはすべての理想を焦がし尽くす
夜は夜の国
寒さはすべての猥褻(わいせつ)を凍らせる
けれど一日は一日
それぞれの昼と夜
それゆえ人は身を焦がし
一つを欲し一つを望み
すべて一つの
一つを求めて耐え忍ぶ

 
 
 
  弱気の塊

弱気の固まり?
弱気は固くなれないから
弱気の垂れ・流れ
垂れ流しの趣(おもむ)くままに
川を下る
下る傾向は持っている
遡(さかのぼ)ること
くよくよと辿(たど)ることはあっても
決して上ることはない
石を積む子供らはいるか
積んで崩れた石だけで
子供らのいない河原はあるか
コロイドでもヘドロでもいいが
海へ出て拡散して
海の塩になれるだろうか
時間の量子と波動のように
弁別も理解もできない川下へ
樹木は動かず
枝は揺れず
草は靡(なび)かず
波は風を呼ばない
波は寄せるが
水は水としての形を持たない
その水よりも弱く
在って在り続けよ
水は命を育(はぐく)み
ときに命を奪う
一滴の水にさえ
寿命は勝てないのだ

 
 
 
  夢の時

その内にある間
世界の全てであり
覚めてしまえば
影も形もない
もはや御伽噺(おとぎばなし)のように
浦島太郎
柄(え)は朽(く)ちるとも
邯鄲(かんたん)の夢
失う箱を持ち
失う斧(おの)を持ち
失う枕を持ち
形なき水よりも
手の施しようのない
形なき時に
限られた時まで
形なき命を浮かべて
肉体という形を持って
あまりに簡単に過ぎる
邯鄲の歩み

 
 
 
  母を見るとき

車のハンドルを握りながら
実家から遠く離れた町で
知っている人など誰もいない街角の
歩道を行く高齢の女性に
母の後ろ姿を見てしまうとき
ひととき失われる場所と時間は
母の曲がった背中のように
あまりにも脆(もろ)く
儚(はかな)く過ぎて
あとには彼方(かなた)に残したまま
見捨ててきたかのような
小さな水たまりが揺らいでいる

 
 
 
  病み袋

睦月(むつき)無為
如月(きさらぎ)気鬱(きうつ)
病み袋
弥生(やよひ)病気(やまひけ)
卯月(うづき)倦(う)む有為(うゐ)

病み袋
寒さ許(ばか)りに
感(かま)け居て
五十路(いそぢ)を抉(ゑぐ)る
螺旋(ねぢ)に惑(まど)ひぬ

一月陰気
二月忍耐
三月惨憺(さんたん)
四月死地にて長閑(のどか)なり

 
 
 
  時間の向き

時間は螺子(ねじ)のようにぐりぐりと
後ろから押してくる
あるいは前から拒まれているのかも
上から押さえつけられているのかも
下から突き上げられているのかも
横からかもしれない
・・・・・・・・・・?
そう何処からでもないさ
時間は空からも海からも
河からも川からも生まれてはいない
おぼろげな学習に従って
時間の向きは前と後ろ
ということに大方なっているだけ
時間は記憶から生まれている
もともと時間は押したり
追い詰めたりはしないのに
おぼろげなのに切迫して
生み出される圧力は
時間ではなく怯(おび)えている自分だ
だからいつまでも時間に向いていない

 
 
 
  怖気づいたドライブ

まっすぐ行けばよいと思っていた
左折しなければならなかった
Uターンして戻ればよいものを
左方向へ走れば着くだろうと
高(たか)を括(くく)った
山の中へ迷い込んだ
左は迫る崖
右は落ちる崖
でこぼこ道の葛(つづら)折り
車1台なら通れる
対向車が来なければの話だ
ようやく道が広くなって
海が見えたとき
対向車が走ってきた
それで怖気(おじけ)づいて
スピード違反で更に怖気づいて
長いこと母を乗せなかった
どういう風の吹きまわしか
久しぶりにその気になって
母とドライブ
適当に撮ってくれと渡したカメラの
使い方が母には分からない
耳の遠い母に
大声で説明しながら運転
そのせいでもあるまいが
工事中片側通行の道を通りかけて
交通整理の人に止められた
またやってしまった
バックして止まる
何とか事故は起こさず
ショッピングと
レストランで食事
母は喜んでくれた
ますます運転が下手になる
今はもう
よく知っている広い道
しか走らないのに
どちらも崖の葛折り
走り続けて奥山の
果てに何が待っているのか
知る由もなくのろのろと
ずっと走り続けている気がする

 
 
 
  セーバー

深夜にわかに思い立って
起きてPCのワープロに向かう
最近ますます薄くなった目で
なかなかピントの合わない視力で
目を近づけたり細くしたり
逆に大きく開いてみたり
ディスプレイに並ぶ
小さい文字を読んでいると
スクリーンが焼きつくより
網膜が焼きついてしまいそうだ
何事か考えあぐねては
寝ぼけ頭で絞り出すように
何とか文書作成して
印刷にアップロードに
バックアップコピーまで
数時間かけて
やっと済んだと思ったら
間違い発見または
どうしても納得がいかない箇所
泣こうごたある
また最初からやり直し
無益だと分かっているのに
疲れを感じているのに
やめようとしない
このまま死んでも構わない
というよりそれが理想だ
好きなこと
気の向いたことをしながら
倒れてそのまま死ぬ
こんな快楽があるだろうか
これこそ救いのセーバーだ
スクリーンセーバーは8分に設定
画面が暗くなって
アニメーションが映る
網膜と命のセーバーは
一度も起動しないまま
五十年を過ぎてしまった
何年に設定されている
起動したら暗くなるのか
別世界模様でも見えるのか
起動しない間
それこそがセーバー
と言えなくもないのだが・・・

 
 
 
  主観

今が一番幸福なのかもしれない
と考えることがある
過去そして人生は大方
現在によって評価される
今が不幸なら
過去のいかなる幸運も
転落のための落差に過ぎない
今が幸福なら
過去のいかなる不運も
懐かしい思い出になる
未来だけでなく
過去も変わるのだ

未来はもちろん変わりうるものだが
どこへ向かおうとしても
門があり玄関があり
守衛か受付が居て
冷淡に丁重に
断られ拒まれそうな現在に在って
ただ自分にとって大切な
一片の希望を捨てない限り
未来も現在も
それゆえ過去も変わる

底の薄い小舟
揺れる細い吊り橋
踏めば破れそうな床
進むしかない
希望よりも見通しの利かない
過去の移ろいへ

今が一番幸福なのかもしれない

 
 
 
  日本語余談

「行なう」ではなく「行う」なのか
「表わす」ではなく「表す」なのか
終止形では「表す」は「あらわす」
「表する」が「ひょうする」ではあるのだが
単語としては
「行った」は「いった」とも「おこなった」とも読める
「表して」は「ひょうして」とも「あらわして」とも読める
語法と文脈で判断しろということだろう
「かの地へ行って、それを行った」
「敬意を表して、それを言葉に表す」
判断できないわけではない
しかし気になって心に引っ掛かっているのは
紛らわしかったという経験でもあるのかな…
辞書によっては
「行(な)う」「表(わ)す」と表されている

辞書に学ぶことは大切だが
言葉を言葉で説明することは
厳密には不可能だ
一つの言葉には
その言葉しか持ち得ない語感というものがある
説明は類語を用いて近似しているに過ぎない
「憮然」は辞書を引いても失望・落胆の意だが
「憮然として席を立つ」とき
失望+「納得はしていないぞ」
という不満を含んでいないかな…
使い方にもよる
「失望しています」と
「君には失望させられたよ」では
後者は後が怖そうだ…?
語源を学ぶことは大切だが
語源辞典を読むと
もうそれ以上は遡れない言葉があって
それは凡そ馴染みのない言葉で
「そこから転じて…の意となり…
さらに転じて…」という記事が多い
言語は常に変化・転化して行く途上にある
誤用が慣用となった例もある
いつ誤用が慣用になったのか
オーソリティーではないから知る由もない
一生懸命やれば堪能できるのだろうか…

 
 
 
  人間がいる

ギター演奏
キュッ
体操競技平均台
ふらつく体と顔
フィギュアスケートのジャンプ
揺れて着地
しりもちからの動作

ついに耐え切れず
泣き叫ぶように
吐かれる言葉
ついに耐えられなくなった怒りから
返す言葉もなく音もなく
だんだん遠く置かれる距離

自分を責めることができる
という属性は人間の条件
と言ってもよいくらい長所であるのに
自分を責め続けるという欠点が
いやというほど身に沁みるとき

パフォーマンスよりも能力よりも
ヒトではなく人間がいる

 
 
 
  解せぬ

自殺同好会
ではないはずだ
三途の川みんなで渡れば怖くない
なんてこともないはずだ
孤独ならば
なぜ集まることができる
集まったとき
いったいどんな顔を互いに向ける
鬱(ふさ)ぎこんだ顔のまま
向き合うことさえしなかったか
自らに向ける強烈な殺意によって
無言の約束だけが固く
冷たく凍りついていただけなのか
集まることができるなら
なぜせっかく集まった
者たちだけで・・・生きる
ことを考える人が
一人もいなかったか
お互い知ることは僅(わず)かなのに
なぜそれぞれが経てきた生き様や
経緯(いきさつ)について
生と死と死後について
話そうとしなかったか
あるいは話した上でのことか
それぞれが皆
苦しみぬいた末の結論に今さら
迷いを訴えることが憚(はばか)られたか
怖がりなら弱虫なら
人間関係を求めるはずだ
死ぬことだけを
助け合う集団・・・?
彼らは最後の最後に
なにゆえ強くあり過ぎたか

 
 
 
  呆けの心配

午後十一時ごろ実家の居間で
私がテレビを見ていると
母が部屋から出て来て言う
「ばかに暗いね・・・
 朝ごはん食べた?」
驚いた私は
「・・・夜の十一時!」
今度は母が驚いた様子で
「え・・・あれ?・・・
 居眠りしていたのかしら
 ・・・じゃ晩ごはんは何を?」
あとで母は気づいたらしく
「昼と夜を勘違いしていたみたい」
と言ったけれど
ただの勘違いか寝ぼけならよいが
認知症・痴呆の初期症状だったら
どうしよう・・・一番困るのは私だ
・・・一番困るのは母だ
晩ごはんは何を?だなんて
・・・・・・?
私は思い出せないのであった

 
 
 
  よりによって

今年八十二歳の
母は旅行だ
旅行好きだ
青森の弘前へ
まだ寒かろう
よりによってそんなときに
雪国ではないか
何が楽しみで
何を見に行くのか聞かなかった
貸して欲しいと言うので
デジタルカメラを渡した
使い方は教えた
電源の入れ方と
シャッターボタン
3年前に買ったカメラだ
昼間は液晶が見えないから
昔のカメラのように
ファインダーを覗(のぞ)いて
撮ることだけ
バッテリーは持つだろうか
メモリーカードが
いっぱいになったら
など他の機能について
いろいろ言っても
母は混乱するだけだ
雨の降る早朝
よりによってそんなときに
母は急(せ)くように出ていった
よりによってそんなときに
まもなく地震
ここも揺れた
テレビで速報
よりによってそんなときに
しばらくして母から電話
うろたえるような声で
汽車が動かない
様子を見て駄目なら帰ると
前途多難か
それから連絡がない
無事に行ったのだろう
と思うしかない
よりによってそんなときに
こちらから連絡しようがない
旅行の日程
詳しく聞いていなかった
今年五十一歳の息子は
旅行に行かない
旅行好きではない
留守番することにした
のんびり読書でもして帰りを待つ
なんて思うようにはいかない
落ち着かない
手に付かない
そのくせ有る物を食って寝る
開けたままだった仏間の
カーテンを閉めに
よりによってそんなときに
仏壇の父の写真が
やさしげに不気味だ

 
 
 
  深夜ふと

それでは駄目だと思わなければ
何も始まらないぞ

髭は剃らない
顔は洗わない
風呂には入らない
原始の生命に戻る
食えば眠る
突然目覚める
(目覚めはいつも突然だ)

日干しになりかけた
雀の雛
拾って
夢中で餌をやった
腹が減ると鳴く
食えば眠る
一九九七夏
無力な命と向き合った日々
不器用な慈愛が痛かった

ああ深夜
それでもいいと思わなければ
何も生まれてはこないぞ

 
 
 
  ずっとそうして

老いぼれは風呂に入った
顔も体も髪も洗った
髭も剃った
それがどうした
大事だよ
おおごとだよ
うまくいかないのなら
うまくいかないことを歌うんだ
ずっとそうして
そうするしかなかった
足が萎(な)えてしまったか
腰が砕けてしまったか
モチーフが見つからないのなら
モチーフがないことをモチーフに
歌うんだ歌うんだ
飛べなくなったか
翼が折れてしまったか
元々翼など持っていなかったか
何故
を考えてみる
無能はもとより

を考えてみる
訳が分からないのなら
分からないということを歌うんだ
モチーフがない
なんてことがあるものか
ないというならずっと
足はなかった
腰もなかった
翼もなかった
飛んでなどいなかった
もっともらしいものなど何も
モチーフもテーマもなかった
ずっとそうして
泥濘(ぬかるみ)から
土に帰ることを祈ってきただけだ

順境も逆境もありませんでした
「空の空・・・」
 と「伝道の書(旧約聖書)」
 を引用して
 よく分かりもせずに
 嘯(うそぶ)いておく
必ず死にます
何時(いつ)かは分かりません
必ず行きます
と祈りを捧げた
その御方が定められた時に
必ず逝きます
風の便りも届かないだろうが
その時には
キリスト者なら
祈ってくださいませ
キリスト者でないのならせめて
くそ食らえとでも言ってくれ

それがいつも
初めの日の終わりであり
終わりの日の初めであると
言っただろう
モチーフがないなんてことが
あるものか

 
 
 
  正気への警告

夜見る夢も昼見る夢も
ただれた眼で見ている
おぼろげな幻想に過ぎないが
よい夢も悪い夢もあるのに
目覚めてみれば
現実も幻想に満ちている
夢とは違って
幻滅という必然が待っているから
よい幻想はほとんどない
さらなる幻想に逃げようとすれば
死は幻想を保証しないのだから
正気を失うしかない

耐え難い重荷が限度を超えたとき
正気を失うということが
肉体を守るための
防衛反応に思えてならないことがある

例えば鏡に映る顔が
生き生きした何ものもなくて
気持ちと全然一致していないとき
心神は残る力を振り絞って
限界に注意を喚起し警告を発している
鬱(うつ)による意欲低下は
これ以上の無理は無理と
心身を休ませるため
さらに感情の麻痺や鈍麻は
重さを感じなくて済むように?

それがわずかに残された
正気の辺縁をめぐる
ただれた眼の日常となって久しい

 
 
 
  摂理という名の

流れゆくものは みな
先の変化など知りはしない
形状・状況・境遇 そして
呼ばれ付けられる名前さえ
しかし何かの力によって
地熱の惑星からか
灼熱の恒星からか
引かれるように 流れ
導かれるように 運ばれ
過ぎてゆく
全てを統(す)べる大いなる力よ
草木が揺れ 肌に触れ
風を知り 風と呼ぶ
しかし風を追うことはできない
摂理に連なるものを
究(きわ)めることはできない
知らないことが当然であっても
知らないとは言わないことがある
そういう曖昧(あいまい)な
間(あわい)に在って問い続ける
全てが明らかになる時まで
何ゆゑ我を造り給ひしか
大禍ある可(べ)し されど
祝福もまた ある可しと願う
知らないことが多すぎる
という知識も恵まれることを知る
その知恵によって

 
 
 
  前へ進め

嫌いだと言ってしまえば
自分をいちばん嫌っている自分
に出会うことになるだろう
気持ち悪いと言ってしまえば
成長していくものたちの間にいて
自分の気持ち悪さを
嫌というほど思い知るだろう
大したことはないと軽んじるなら
いつのまにか派手な花々の
妙に重々しく厳粛な列に並んでいて
膨張し痙攣し硬直したまま
突っ立っているだけの
蚯蚓(ミミズ)の化け物になって
訝(いぶか)しげな視線を
吐物のように浴びせられるだろう

嫌というほど
悔いに悔いても今さら
恐れても遅いのが結果というものだ
それでもまだ捨てきれない気持ちなら
身を低くして
消え入りそうな低みに礎(いしずえ)を持ち
あらゆる視線と無視を受け入れ
一歩退いたのち
自らをも暴(あば)きながら
悔いて恐れず前へ進め

 
 
 
  三の形

ABC‐DEF
=E‐ABC+
A‐DEF(=E‐ADF)
+E‐FCA
これは
底面積と高さが等しければ
体積は等しい
という直観的理解を前提として
三角柱は
体積の等しい3つの三角錐に
分割される
つまり積分によって証明されるべき
柱体の体積=3×錐体の体積
を視覚的に示す方法である

それにしてもこんなことを
今ごろ気づくなんて・・・
円でもなく四角でもなく
結局やはり三角形か
図形の基本は三角形
物事の本質も三角ではないのか
などと空想してしまう

聖書にも七や十二と並んで
三という数は多く登場する
「三日目によみがえる」
「三度
 わたしを知らない
 と言うであろう」等々

三に纏(まつ)わる言葉
トライアングル
トリオ
トリロジー
トリニティ
三位一体
父・子・御霊
神・キリスト・聖霊
について知るところは少ないが
信仰と希望と愛
に囲まれて仰ぐ
三の形の頂点
三角ピラミッドから
視覚的柱体の
さらに上なる
いつか永遠の天上へ

 
 
 
 命の殻

さあっと擬音の豆粒の
音もなく潮は引いてゆき
引いたまま
再び満ちてくることがなかったので
代わりに失われる時が来て
残された潟は
大方腐ってしまったが
殻(から)を開けて
肉を曝(さら)した二枚貝や
泳ぐことも跳ねることも
眼を閉じることもできない小魚の
じめじめした異臭の後
殻や骨や無機質の
乾いた表面が
干割れてしまうにせよ
恵まれて潤いの地底から
光合成に支えられた
絶えることのない命の
殻 おから 卯の花
雪花菜(きらず) 切らず
殻を 空(から)を 嫌うという




  嵐の沼

口を開かない子供と
手本を示せない大人の
胸の中を飲み込む底なしの沼
表には血を噴く嵐の波
また子供が溺れた
また大人が沈んだ
血を吸い血を飲み込む澱(おり)の沼
口を閉ざす
口を閉ざす
生まれてきた理由と
生きている理由と
死にゆく理由を問い
答えではなく問いだけが
独りの中を谺(こだま)する
何かを抱きしめようとするように

 
 
 
  んなわけ・・・

自宅
玄関に蜘蛛(クモ)が巣を張っている
数本の糸を払って戸を開ける
(玄関前に張るんじゃねえ!)
と蜘蛛を見上げ睨(にら)みつける
別の日 戸を開けて出ようとすると
いきなり顔に巣が貼りつく
ちょっとパニック
獲物と思ったか蜘蛛が下りてくる
(ここに張るなっつったろ!)
激しく糸を払い巣を払う
今度は蜘蛛がパニック?
慌てるように上のほうに逃げてゆく
(つったろ!つったって
 蜘蛛が相手じゃしょうがないな)
実家
昨夜からの雷雨
こんな日はPCもネットも
やらないほうがいい
コンセントのスイッチも切っておいた
深夜目覚める 横になったまま
枕もとの揺り椅子(いす)の
脚(あし)を片手で握っている
何かに縋(すが)りたいか
自分が頼りないか
(揺り椅子のある部屋 親父の遺品だ)
蜘蛛の糸・・・まだですか
とぶっきらぼうに呟(つぶや)く
そのとき父は
天空にネットを張った巨大な蜘蛛の御姿
(んなわけないだろ 寝ぼけ!)
また雷鳴が轟(とどろ)く
まだ捕えてくれない
神様のWEB

 
 
 
  退却型

写真を見ている
写真が見ている
互いに存在を拒むかのように

亡父の書斎に
学生の頃の写真
それなりに若い
顔も体も細い
父は懐かしく眺めていたのか
ひ弱で気弱で
実際より素直そうな青年を
わが息子と

生きた父から
死んだ父から
だけでなく
いかなるノウハウからも
何も蓄えないまま
引いてきた
退(ひ)いてきた
気づかれない方向へ
いつからだろう
もう若くない
と呟(つぶや)いた頃か
それはいつ?
いつからそんなに嫌になった
人から見られることが

外を見ている
外からは見えないだろう
と昼間の網戸越しに
狭い部屋から
広い町並みを
覗(のぞ)いている?




  言い回し

「理解できない」が
「わからない」ではなく
「そんなことあるものか」
という否定を伝えることがある

安心させるための物言いが
不安を掻き立てたり
見捨てられたような
失格を言い渡されたような
絶望さえ与えることがある

やさしい軽さ
さりげない断定
一側面の一般化

口にも筆にも
慎みと恐れを持つことは
思いのほか難しく
異なる経験から
それぞれの思い込み
そのように作られ
人間は傷つけ合うのである




  枯れ木の骨

枯れ木に花は咲(さ)かないのに
骨が咲(わら)う
骨に筋(すじ)は生(な)らない
肉は生らない
皮は生らないのに
枯れ木に花は咲かないのに
骨が嗤(わら)う
皮・肉・筋・骨
焼かれるときはこの順序だ

聖書
エゼキエル書三十七章を読みながら
逆に息が詰まるなんて
枯れ木は死んではいないのに
枯れ木は命を宿しているのに
枯れ木と骨は違うのに
皮肉な話
皮・肉・骨・髄
達磨(だるま)大師
手も足も出ない




  曲がった怖気

母は荷物を抱えて出かけた
月一度行くことになっている
兄のいる病院へ
バスを乗り継いで行くのだろう
若いころ父を乗せて
車で行ったことがある
母を車に乗せて行けば
母は助かるだろうな

オートバイは危なくてやめた
スクーターは近距離だけ
兄の病院までの道のり
別のルートもあるようだが
少しややこしい
父の死後
母を乗せて数回ドライブに行った
ヒヤッとしたり道に迷ったり
人を乗せて不慣れな道を
運転する気になれなくなった
実家に帰る度に
独りで運転してルートを確かめて
母を乗せようかと・・・
今回も果たせなかった

母をお守りください
何度祈りを繰り返しても
父よ母を連れてゆくな
何度呪いを繰り返しても
時が来れば人は必ず死ぬ
蒲団の中とは限らない

心臓に不整脈という爆弾を抱えて
八十二歳の母は
十二月の空の下へ
出かけていった
いってしまった

寒かろう
外は曇り
母の背中
曲がった背中
呟いて立ってみれば
同じように曲がった背中
曲がった心と体
曲がったハンドル
曲がった道
バックできない息子の
悔いとも不安とも
罪悪感とも付かぬ気持ちが
母が鍵を差し込み
玄関のドアを開ける音が聞えるまで
続いた日




  動物園

壁と柵に囲まれた岩山の上に
老いた猿は坐って外を眺めている
人は柵の中の猿を
ひととき眺めて通り過ぎてゆく
老いた猿は傍らの小猿に
語りかけるように呟く
「見てごらん。
 次から次に通り過ぎてゆくよ。
 向こうの方まで続いている。
 広い柵なのじゃろう。
 子供が何か食べている。
 運よく餌を見つけたようじゃ。
 わしは長いこと此処に暮らしておるが
 彼らが餌を与えられる姿を
 まだ一度も見たことがない。
 彼らは餌を求めて広い柵の中を
 さまよい続けているのじゃ。」
柵の中が地獄なのか天国なのか
柵の外が地獄なのか天国なのか
どちらが中なのか外なのか
「わしの命はもう長くはない。
 先人たちがそうであったように
 時が来れば黙って召されてゆこう。
 彼らは何故あのように
 さまよい続けているのか。」
人は柵の中の動物を見ている
動物は柵の中の人を見ている
「立場」という名の動物園である




  生死の拠りどころ

生きることが
死ぬことよりも怖くなるときでも
そうではないときでも
いちばん怖いものは
死ではない だから
いちばん大切なものは
生ではない
生よりも大切なことがある
だからといって それは
死でもない
それは生きることの
拠(よ)りどころとしているもの
と それに関わるすべてのもの
例えば信仰について
例えば詩のようなものを
書いている時間は
生よりも大切だ だから
その時間に事切れても
たとえ未完のまま息絶えても
その死ではなく
その生でもなく
その結実でもなく
その時間は
永らえるためにでも
けっして惜しんではならない
生よりも大切な命の時間だ




  夢の予告

目の前に丸い太い
ぶ厚い重い輪が
ぎらぎら毒々しく光る
これは経験から明らかに
(夢の中で経験が生きる?)
持病の偏頭痛の前兆だ
というところで目が覚めた
視野の中心から広がる
いびつな三角形の閃輝暗点
今度は紛れもなく経験から
偏頭痛の前兆だ
急いで頭痛薬を飲む
起きてしばらくすると
頭の左半分に軽い頭重感
痛みというほどではない
薬は効いている
夢が予告した?
網膜と神経に生じた異変を
浅い眠りの
夢の乱れた思考が
取り込んで表現したのか
肉体に対する警告
とても稀な
夢と現実の接触




  夢の傾き

飛んでいたのか
何かに乗っていたのか
景色は流れていた
木があったようだ
草も生えていたようだ
人工の物も
黒い柱か棒のような物が・・・何か
何か考えようとしていた
聖書の一節? あるいは
理系の定理のようなもの?
個人的な心配事?
目覚めて後も
考えようとするが
問いがはっきりしないのに
答えが分かるはずもない
こんなとき うっかり
テレビのスイッチを入れれば
次から次へと入り込んでくる
ニュース・現実・音声が
ますます問いも答えも
かき消してゆく
夢の 間違いだらけの
ばらばらな多重積分が残した
(本当に覚醒しているのか)
小さく遠ざかる偏微分
今日の傾きに呑み込まれ
紛れてゆく
本当に覚醒していたのか?
本当に夢を見ていたのか?




  おとな

たぶん穏やかな
よそ行きの顔を持つこと
ウソだけではなく
自我の壁だけでもなく
気配りだけでもなく
傷つかないために
傷つけないために
自然に身について来る
はずだったが…

もうそれだけで
にわかに騒ぎ立つ胸
顔にもなれず
よそにも行けなかった
いっせいに飛び立ち
翼も脚もなく
駆けめぐる欠片(かけら)たち




  尺度

冒険の旅は営みを犠牲にする
営みに根を下ろせば一所を越えて動くことは許されない
水の自由は流されることによって軸を失う
日常に往復があれば一所の境界が時をも限る
仮に働くことによって失うものが
怠けることによって失うものより小さいとしても
怠惰には根も葉もない
勤労の尺度は悍(おぞま)しい
怠惰の尺度は無力に過ぎる
懸命に働くことによって得るものは
懸命に怠けることによって得るものを測れない
欠けるところのない喪失の日まで
一時一時に懸命であり得るならば
根も葉もないものを測ってはならない




  霊になりたい

悪霊にはなりたくない
聖霊とまではいかなくても
霊になりたい
名前は何でもよい
欲はなく感じもしない
痛みもなく感じもしない
実体はあってもよい
見ることができる
浮遊することができる
幽霊ということか でも
この世からは見えないものだ
力もないものだ
足はあってもよい
歩くことも佇むこともできる
御使いのようなものか
使命や役割はあってもよい
あったほうがよいかもしれないが
こだわりはない
そういうものなら永遠でもよい
この世の永遠は最悪だ
まっぴらごめんだが
永遠に存在する霊のようなものなら?
喝!
命に付きまとう肉体が嫌で嫌で
欲や痛みから逃げ出したくて
もっと静かなものになりたがって
却って迷いの中に徒に苦悩している
今が亡霊だ




  悲観と厭世

世を捨てるゆえに
御国を望み
よって世を生きる

とはいえ
世を捨てる前に
世に捨てられたようなものだが

もともと
生まれる世を
間違えたようなものだが

捨てた世に
捨てられた世に
拾うもの

改まるはずもなく

生きるとは
間違い探しである




  時の川

秒を刻む時計の音は
一秒前の音を教えてはいない
故人も生きとし生けるものも
命でありうるのは時間ではなく
覚えることを忘れるまで
多くの欠落に悩みながら流れている
通過できない細いせせらぎに
独り手を入れ手に掬い
手を濡らし滴り落ちる痛みとともに
いかなる時計にも拠らず
悔いに濡れていとおしむ時間




  引き継がれるもの

明日(あした)は来た例(ためし)がない
来たとき既に明日とは呼ばない
でも明日はある
昨日(きのう)もある
今日(きょう)のために

なぜ今日はあり
なぜ常に来ている
昨日と明日を変えるために
だから今日のために
を繰り返す
ため息を繰り返すように

明日はある
明後日(あさって)もある
明々後日(しあさって)もある
いつか僕がいなくなっても




  奇妙な僕

いつか私は死んで
必ずいなくなるのだが

僕がいなくなる
私ではなく僕と言いたいのは
昇天するときには
子供のような
素直な存在に戻りたいのか

僕がいなくなる
見聞きするものが無くなるのではなく
見聞きする自分がいなくなる
永遠の意識不明に時間はない
未知の不明は不安
天国でも地獄でも
奇妙な僕の不在




  言葉を抱く

いつか今日のパンもなくなって
あるいは食欲もなくなって
床に臥(ふ)して
いよいよ臨終を迎えるとき
聖書と詩集と
どちらを抱きしめているだろう
甲斐なくみえて死ぬるとき
死が抱くもの?

その時には
どちらも抱きはしないだろう
詩集を抱いても救いにならない
聖書を抱いても信仰にならない
病める悔いの告白が
薄れゆく意識とともに
譫言(うわごと)に変わりながら
ついに裸のまま
帰るのだ
心行く
時へ




  数学・断片

こんな簡単に
けりがつく
そこに至るまでの
複雑な道を
見た目だけでも
簡単にしようと
見かけ倒しの徒労
  *
この世は三角
トライアングル
トリニティよ
高さは径に
辺は周に
円は
三角形の最も美しい姿だ
  *
臍(へそ)を曲げて
ひねくれた見方をしてみる
別の角度、別の道、別の並び
から でも結局たどり着くのは
元と同じ
行き止まりだと分かっているのに
  *
今なぜ生きていると問うて
あの時、あの時、そしてあの時と
さかのぼれば結局いつも
なぜ生まれたか
という問いだけが残ってしまう
  *
元と同じ
掛けても何も変わらない
数字の1のようなもの
面白くないから
ちょいと悪戯(いたずら)して
逆さまにして掛けてやった
道理で 老いて
年を経るごとに幼稚になってゆく
  *
収斂(しゅうれん)
それは
最も微小なもののみが
無限に出会うということ
  *
ほんの少しでも
解ると世界が広がる
と同時に不安定な励起は
広がった世界で遊んでみたくなる
無意味で無益な邪道に過ぎなくても
取るに足らない付け焼刃だから
邪道かどうかも分かってはいない
分からないまま解った世界に遊び
わかっているのかいないのかさえ
わからない深みに嵌(はま)って
独り深夜に狂い咲き
じりじりと焦げついて
焼け落ちるまで踏む踏鞴(たたら)である
  *
衰えながら
まっすぐに愚直に進む
この道は近道ではない
他にもっと簡単な
近道があると知りながら
まっすぐに進むのは
むしろ回り道だ
しかしこの道を選んだ
道行きが如何に虚しくても
ほろほろと・・・
この道を行く
  *
より一般的に
より一般的に
そうすることによって
やっとの思いで手に入れたはずの知恵は
すでに昨日の知恵になって
ふらつくような誤謬や健忘の
不眠とともに
消え去るのではなく
今日の知恵に紛れながら
包含されてゆくような
生き方もあるだろう




  IとEの公式

無理な帽子から
アイを追い出したときから
感覚から乖離(かいり)した世界は
遠くかけ離れてしまったのに

人類にとって
どんなに偉大な至宝だとしても
地の果ての片隅に
求めた実りも得られぬまま
有るか無きかに存(ながら)えている
小さな土くれにとって
今さら何の関わりがあろう

忘れかけた世界は土くれに
土の器を作るかのように
虚と実の織り成す場へと
思わぬ広がりを与えてくれた
それだけが遊びと学びの世界からの
絶えて久しかった音信として
白くやさしい眼差しに円く率いられ
むかし追い出されたままの
アイでいいと囁(ささや)いて
はるかな世界と土くれを
かすかに細く繋いでいる




  居所

コマーシャル・メッセージが
金を出せ
なくなるまで使え
と繰り返される煽り
にしか聞こえないほど
虫の居所が悪い日でも
無限と戯れていた
実際は自らの
無能と戯れていたに過ぎないが・・・
周りは・・・
他は群れていた
お笑い・娯楽・テレビ・ネット
WWWドット・・・ドットコム日本
群れて蒸れて熱い暑い
@何某は削除するばかりで
@自分は何処にも存在せず
ww7・・・
ダブルダブリューセブンだぜ・・・
と・・・(虚無の擬音だ)
ふざけてみるほど
虫の居所が悪い日
虫にすら居所が無い




  幸不幸・例えば失恋

君も私も それぞれの
父と母の精子と卵子の
約3億分の1の受精の確率で生まれ
さらに希少な確率で私は君に
奇(く)しくも出会ったわけだが
君の卵子と私の精子が
出合うことはなかった
つまるところ縁はなかった
(それぞれ 父と母の出会いと縁、
祖父と祖母の縁、先祖の、…遡れば
気の遠くなるような何という確率!
であるのに)

トラウマと言えるかどうか
あのときの別れ以後の
私の心情と経緯(いきさつ)
それは私にとって十分に不幸だった
何ゆえ よりによって
1つの精子が私に生(な)り 私の
すべての精子を殺す羽目になったか

しかし一方で縁がなかったことは
あのころからの 私の
有様を省(かえり)みると
むしろ幸いであったかもしれない
下手に未熟な縁によって
もし結ばれていたら
より酷(むご)く 二人の
こじれた交わりの果てに いっそう
見苦しい別れを味わっていた…?

私は君から
隔てられた
そうなることによってのみ
私は君から
守られた…?

君は私から
隔てられた
そうなることによってのみ
君は私から
守られた…?

不幸中の幸いは ときに
不幸よりも残酷な屍を曝し
幸いよりも安らかな嘆息を漏らして
ままならぬ擬態を過ごしている




  さりげなく

立ち止まって見つめれば
彩りも深みもあるのに
さりげなく与えられた風景を
さりげなく見過ごしてしまうから
覚えることも考えることもない
見てきたというだけの
空っぽが帰ってくる
そこでまた
さりげなく見過ごしてしまうから
かなしみやよろこびの
大切さを置き去りにして
ある日ふと
心の空洞を見てしまう
罪深さの果てしない
底知れぬ虚空に戦(おのの)く




  後ろ向き

無数の敷石が順序よく並んでいる
全ての敷石を踏まなければならない
一歩ずつ踏んで前に進むのが正道だ
しかし
飛び飛びに踏んだあとで
それぞれの既に踏んだ敷石から逆に
後ろに一歩ずつ踏んで進み
1つ前の既に踏んだ敷石までを
踏むことができるなら
やはり全ての敷石を踏んだことになる
だから
前に進んでいるつもりでも
後悔も積極的な反省も
振り向きながら・・・だから
前に進むということは
後ろを向くことなのかもしれない




  次元に遊ぶ

上下を見ることができない虫が
白い紙の上を這(は)っている
そこに指を置くと虫にとっては突然
障害物が現れることになる
指を離すと虫にとっては突然
障害物が消えることになる
2次元の平面にとって
3次元からの動作は
神出鬼没でありうる
指を置き続けると
虫には指の向こうが見えない
3次元空間からは白い紙の続きが見える
透視のようなものだ
虫を押したり弾(はじ)いたり・・・
2次元から見れば
念力のようなものだ しかし
3次元からでも1秒後の虫の位置を
行動半径の推測はできても
正確に予知することはできない
3次元は2次元の時間を支配できない
2次元+時間は3次元空間ではない
2次元にとっても3次元にとっても
時間は時間だ だから
3次元空間+時間は4次元空間ではない
3次元空間に時間を加えた
4次元時空ではなく もし
4次元空間というものがあったら
その4次元からの動作は
3次元においては神出鬼没で
透視も念力も可能なのかもしれない
では予知能力は・・・?
時間軸を覗(のぞ)くことは・・・?
できないことは何一つない
と言えば信仰の話になる




  空気

遠くで諍いでもあったらしい
少し空気が乱れている
争っているのはきっと人間だな
人間だな
涙は乾いたかな
こぼれたのかな
周りの空気はまるで読めないのに
空気のスクリーンを通して
遠くから
違う国から
別の世界から眺めていて
かすかに伝わる波の質量は
あれは人間だな
ほんの少し痛む空気の傷も
あれは人間かな
それとも動物かしら
遠くで落ちて死にそうな吐息
少し空気が重たく震えるのを
周りの空気はまるで読めないのに
遠くからほんの少し
気づかれている?




  老骨に

老骨に鞭打て
老いた胸を打ち
古い衣を引き裂け
しばしば失禁し
しばしば礼を失し
しばしば誤解される
頑な頭
固くなる頭
老骨に無知
しばしば間違い
しばしば脆弱な鬼面
さらにしばしば誤解する
ひねくれ陳(ひ)ねくれた
へなちょこ頭を打て
脳髄を打て
頭蓋を打て
老骨を打て
折れ・・・オレオレオレ
と頽(くずお)れて
死んでもいい
と見当違いを繰り返す
老骨に鞭打て
骨は神様が拾わない
拾われるのは別のものだ
皆等しく
別のものだ




  未処理

泣けない悲しみは治癒しない
泣かない悲しみは治癒しない
悲しみの種が過ぎ去ったとしても
悲しみとして適切に
処理されなかった悲しみは
心に齟齬(そご)の痕(あと)を残し
そこを通る入出力は
自覚の有無を問わず
適切ではないことを示し続ける
未処理であることを示し続ける
泣けない悲しみ
耐え難い苦痛
泣かない悲しみ
嫌悪や怒りに変えて
癒えることのない悲しみに
数々の痕とともに
人格は形成され続けるのである




  病と意識

意識があると苦しいから
できるだけ意識不明の状態で
過ごそうと思っていたのに
珍しく朝7時に目が覚めた
しかも今日は日曜日
しかもクリスマス・イブだ
まともなクリスチャンなら
クリスマス日曜礼拝に行くのに
ちょうどよい目覚めだが
教会から離れている身に
何をしろとおっしゃるので?
など何やらぶつぶつ
祈りともつかぬことを呟きながら
シートからぷちっと押し出して
抗うつ薬を飲む
鎮痛剤を痛み止めという
抗炎症剤を炎症止めという
抗うつ薬は自殺止めということか
気分をよくする薬では長すぎる
抗うつ薬で自殺は止められるのか
鎮痛剤で止まらない
痛みがあるように
抗うつ薬で和らげることのできない
気分もあるだろう
でも意識的に服薬を控えると
調子が悪くなったことがあるから
この薬それなりに効いていたのだ
意識的というのはよくない
意識は苦しい
と循環する思考は薄く
しかも鬱気分に包まれていて
目覚めていると言えるのか
これは本当に明証性なのか
呟きは祈りになっているのか
虚ろに映る外界の移り
明るくなってゆく窓辺の光の中で
ぷちっぷちっと
シートから押し出して
今度は2種類の抗不安薬を飲む
今さらのように聖書をめくって
懐かしい聖句が
どこにあったかを探している
メリー・クリスマス・・・
今日はイブ・・・
飾りもなく
ああ何て小さい
意識上に枝分かれ
揺れているツリーよ




  ある知性に

痛みで壊してしまいそうな
あなたの言葉は分からない
わかる
という答えを拒んでいるのか
怠さで潰れてしまいそうな
わたしの言葉は分からない
わかる
という答えを拒んでいるのか
まわりの楽しさは
鬱から死への道行きなのに
まわりの悲しさは
鬱から死への道行きなのだ
ほとばしるような
あなたの言葉は分からない
ひきこもるような
わたしの言葉は分からない
心の痛みが背負うものは
痛む心だ
傷む心だ
わかる
という答えを拒んでいるのか
わたしが佇んでいるところから
あなたが走っているところまでの
無知と知性の
はてしない距離を
傷で癒してくれそうな
はかない希望の
あの詩(うた)は
どこへ行ってしまったの?




  論理と情緒

論理も議論も苦手なのに
知識も乏しいのに
情緒的な書き方しかできないのに
しかもそれさえも下手なのに
無知が哲学の議論に参加した
無謀だが 他人事ではない
自殺がテーマだったから

自殺論からキリスト論になり
哲学者や仏教系の論客の中で
情緒的なことばかり書きまくる
論理の深さとは
情緒の深さとは
主観と客観とは
手に負えない深みに這い回る

理解は情緒的な享受である
という唯一の接点において
共感を求めていた

ほぼ時を同じくして
何日も考えて
解らなかった整数方程式の
漸化式と行列を用いた解き方が
それなりに少し理解できた
稚拙でささやかな それでも
ああ(理解)体験

どちらも深いはずだが
浅すぎる頭と心の小さい器で
論理と情緒 相反することなのか
まるで同質のように考えている




  弱気の癖

はじめから
がっかりしてもらったほうがいい
あとでがっかりされると
けっこう応える
期待や賞賛って
教祖みたいなもんにでも
ならないかぎり
幻滅が待っているだけだろう
けなされて
けなされて
死ぬ前に
すこしだけ
ほめられるほうがいい

死ぬ前は知らないが
今まさに
けなされるか
無視されるかだけじゃないか
・・・・・・
それにしても口癖みたいな
ちょっと言ってみただけさ
・・・って
ちょっと言ってみただけか




  自殺の小路

死ぬのは一瞬で済む
生きることは持続だ
死ぬためには
一瞬のエネルギーがあればよい
生きるためには
持続するエネルギーが必要だ
死ぬほうが楽にも見えてくる
しかしそれは妄想か思い込み
あるいは一種の狂信である
死ぬことが一瞬のエネルギーで済む
と考えるのは現世の思考に過ぎない
今見えている現世の思考を
底知れない現世の外に適用する
という安易さへ追い詰めるのは
絶望と恐怖が駆り立てる視野狭窄だ
自殺念慮が切迫しないうちに
「死」と「自殺」について
よくよく眺めてみるべきだ
足元が底なしに抜けてゆく
見る物がなくなるのではなく
見ている自分が永遠に
見ている主体である自分が
永遠にいなくなるという闇に
色も味もつけようがない
主体が無くなるという
決して見ることのできない
永遠の底なしの闇を見よ
切迫した衝動が思考を奪い
袋小路に嵌る前に




  転落の幸運

善意が騙ること
実話が偽ること
慈悲の非情
憎悪が懐かしむもの
病が癒すもの
無為の行い
失意の志
無欲の欲
無名の名
無言の言
無力の力
生きて逝くところ
死が生きるところ

無知は知り
無情は泣いている
非情の慈悲
空転する風車
風を追う便箋
崖っ縁
降り頻る幸




  暖冬

問わず語らず疑わず
安らかな感謝と賛美に
凝り固まろうと
もがいている
悟りの微笑よ
起きていることが
目覚めとは限らないのに
眠りを
眠らせるのか
暖かくなった冬が過ぎて
居眠りが大好きなこの季節に
似つかわしくない一枚の枯葉に
似つかわしく散った一枚の花びらに問う
いつどこでどのように
なにゆえ
舞い落ちたと思っている




  反復

軽きがゆえの転覆だ
小さきがゆえの反覆だ
立ち直らなければよいのに
虚しく消えうせると分かっていて
諦めればよいのに
気持ちだけ
また立ち直る
ゆえに知れ
虚しさは唐突に立ち
消失は不意に巡って
我ならぬ定めによって
元の皆無へと直される




  問われる叫び

いつもあなたはさけびのなかにいる
しかしあなたはさけばない
さけびのないせかいをしらないから
しずかで
うたがうものも
とうものもないと
あなたがさけばないぶん
いつもさけびはあなたのなかにいて
あなたをえぐりつづける
あなたがさけびになって
だれかのまわりをつつむまで




  使い古し

ミスプリントの裏を
二つ折りにした紙の上に
止まりそこねた風は
苦痛と苛立ちを
残してゆくのか
持ってくるのか
耐え難いこと
ありがたいこと
表すべき何ものかがあり
そのために
苦しむということ
苛立つということ
行間さえもすり抜けて

とどめ得なかったもののために
二つ折りにした紙があり
元の表を忘れるほどに
使い古しのペンが
動いたり止まったり
ふるえたりするということ




  返らない力

手応えがない
薄いカーテンの向こうは
まだ見えない
最後に一度くらいは
触れて見たいものだが
布切れ一枚も
越えることのできない
先の見えない明け暮れを恥じ
おびえる心に揺らぎながら
他にはないと
まだ信じているか
暖簾(のれん)に
風に
空気に腕を
熱く押し当てる力を




  小さな器

坩堝(るつぼ)に居ます
小さな坩堝に
わずかに流動しています
これではいけない
交わらなければ
けれど線にも面にもならないのに
どうして交わるのでしょう
混じるものと言えば不純物ばかり
小さくても焼けた器に
誰が触れてくれるというのでしょう
内も坩堝
外も坩堝
外は激しく流動しています
やはり不純でも
ひっくり返されて
混じり合うしかないのでしょうか
小さい熱と激しい流れ
受け入れるか
呑み込まれるか
いずれ坩堝にいます
もはや形を失っても
溶解も混合も拒みながら




  幻と命

机上の陽気な景気は
蜃気楼への逃げ水だから
命は飛んで火に入り
あとは焼けた屍を見渡して
ざっと数えられたら数えるだけの
夢の残骸のようなものだ

火の玉になって飛び出すぞ

肉は焼けるが
魂(たましい)は火の魂(たま)に
あらゆる魂になって飛び出すだろう
夢でも幻でも残骸でもなく
ときとして永遠に迫るものを
残ったものに遺してゆく
命とはそういうものだ




  自殺と今

自殺を考えるとき
今を生きていない
今は確かに生きているのに
今しか生きられないのに
今を生きていない
欠片だらけの記憶という過去や
不確かな想像だらけの未来に
あたかも既知であるかのように
怯えて絶望する

今の今を生きるとき
得るものも失うものもない
今さえ作り物ではないのか
これが今だ
と誰が指し示すことができようか
誰が今を保存できるだろうか
今というファイルは存在しない
在るのは思いだけだ

自殺を考えるとき
思いが過去と未来という苦しくも
滅裂なものに隷属を強いられている
ということに気づかないまま
楽になりたいと自由を夢想する

自由は隷属を拒否することだが
自殺を考えるとき
その拒否の対象ではなく
拒否の拠りどころが
皮肉にも隷属に他ならないのだ




  実体と存在

実体がないといえば
抽象的なものには全て空間的実体はない
愛とか憎しみとか・・・しかし
それらを存在しないとは言わないだろう

現象一般に実体がない
という考え方もあるようだが・・・
また存在するのは自らの思いだけ
という考え方もあるようだが・・・

少なくとも
「時間」も「数」も
「神」も
空間的実体ではないのに
あたかも具象的存在のように
当たり前のように思ってしまうから
しばしば人は思い込みの奴隷になる
だから
これらの存在について
あえて言わなければならない

今は捉えがたい
過去と未来は定かでない
数は頭脳にしか存在しない
神がもし空間的実体なら
信じる必要はないのであって
あくまでも
神は信仰の対象として存在する




  目撃で渡る世間

天災であれ人災であれ
安全な所から
災害を見た目撃者が語る様子に
悲しみではなく何か
わくわくしているような表情
を垣間見ることは珍しくない

一人の酷い死体を
突然見たときには
忘れられそうにない悲惨な光景が
気持ち悪さとともに
目撃者から笑顔を奪うかもしれない
皮肉なことに
災害が大きいほど
屍の数が多ければ多いほど
屍が直接見えないほどに距離が
適度に遠ければ遠いほど
悲惨と感じる共感は薄れてゆく
わくわく・・・どころか
ときには目撃者が
嬉々として語ることだってある
それはもはや悲劇の共感ではなく
珍しいものや面白いものや
すごいものを見たという
興味と好奇と
興奮にさえなっている
肉親か大切な人が一人でも
犠牲者に含まれていたら
そんな顔は出来ないだろうに・・・

そう言う自分も
テレビに映る災害の悲劇を
あたかも映画を見る観客のように
傍観していることがある

他人の不幸は蜜の味・・・?
人の性(さが)や常(つね)だ
と言って済ませてよいのだろうか
そういう心が集まって
渡る世間も社会も出来ているのだ

感覚がもたらす感情を警戒して
意識して注意をもって知覚し
内省を繰り返すこと
を怠っていると
自らの心のうちに
渡る世間より怖い鬼も
悪魔もモンスターも棲んでいて
それらの内なる残酷な心性が
共感というものを麻痺させようと
人間的感情を奪おうと
常に狙っている




  演じる

自分らしさを意識しなくても
あるがままのつもりでも
人間は自分を演じるように出来ている
知性を演じ
感情を演じ
意欲を演じ
無意識のうちにも
意識的にも
人間は
人間を演じる動物だ
人間を人間たらしめているのは
演じる能力を持ち
その多少にかかわらず
演じてしまうことだ

それが出来なくなるか
やめてしまうとき
あらゆる迷彩を剥ぎ取ってしまえば
みんな似たようなものになるだろう

あるがままの素顔は装い
世間という舞台で演じる
素顔の裏に血みどろの
奇声のような悲鳴を隠しながら

ルナティクな世にあって
他人の演技は蔓延(はびこ)るが
人間として自分として生きるための
演技はますます難しくなる




  移ろいのギフト

生きている間は五体満足で
意識清明で普通の思考が
出来るようでありたい
と願っている老人は
すでに意識も思考も移ろい
変容している自分に気づかない
気づいていたものに
今は気づかないでいる自分や
考えていたことを
今は考えないでいる自分に気づかない
変容した意識は変容を知るはずもなく
欠落した思考は欠落を知るはずもない
変容した自分は
変容する前の自分を知るはずもない
変容した自分が
今は自分であるのだから
周りが変わったと思うことがあっても
自分が変わったと思うことがあっても
本当に変わったものに気づくことはない
悲しいことも楽しいことも
移ろい変容してゆく自分から見ていて
主体は変容する
それが常であるなら
見るものも聞くものも考えることも
限りあるギフトとして
変わり続けるものを
自分自身をも
受け取り続けるしかないだろう
信じるならば
ひとつの収斂に向かって




  静けさ

心静かに
静かな夜に眠れない
心静かに・・・
それは
暇人にも追い詰められるような
瑣事や心配事は
いろいろあるのだけれど
眠れない夜に
不安がいっぱい周りで騒いでいるけれど
負えない荷物に潰れてしまいそうなのに
重さは別のところにあって
ぽつんと独りの
しかも眠れない夜にあるのだ
もう将来と呼べるものもないのに
自らの死と
肉親の死に狼狽すること
しか待ってはいないのに
やけっぱちでも投げやりでもなく
あきらめでも達観でもなく
とても無さそうな時と所に
眠れない夜
苛立ちとは別に
経過してゆくのだ




  戻る

転落というより
上って下りて
元々あるべきところに
戻りつつあるのだ
それは
その程度の男だった
という嘆息を伴うが
「転落の人生」に
目を回し
目を剥くよりは
ましだろう
心安らかに下りてゆきます
嘆息とともに戻ってゆきます
とはいえ
あるべきところを
知る由もなく・・・




  臨終の夢

この俗物根性では
無理だろうけれど
その時に
言えたらなあ・・・

お金がなくなり
食べ物がなくなり
それを得る術もなくなりました
ふさぎこんだまま
死の床に就いています
水は飲んでいます
すでに数日を経て
空腹は覚えなくなりました
痩せた体のあちこちに
発疹や吹出物が見られます
お腹に水が溜まって
少し膨れてきました
できれば自殺はしたくない
飢渇からの病死を望みます
病による死を望みます
それは苦しみだろうか
苦しみだろうか
死の床で夢見ているのは
死でも闇でもないのです




  老いた脳の歌

目が覚めて
夢を見たような気分で
ゆっくり起きて椅子に腰掛ける
煙草を取ろうとして
手に力が入りにくい
指を一本ずつ使って
結んで開いて・・・おいおい
薬指と小指の力が弱い
脳の一部の
細い血流が途絶えたか
途絶えつつあるのか
結んで開いて・・・ノーノー

血流が途絶えて
あるいは夜のうちに老化して
死んだ脳細胞を
生き残った細胞のネットワークが
補おうとしているのか
まだ死に続けているのか

目覚めて起きたときには
指を動かすことから始めてみよう
結んで開いて・・・ひとりシナソ♪
夢を見たようだが
どんな夢だった?
覚えていたつもりでも
忘れ続ける無数の夢と
途絶えて久しい音信

結んで開いて・・・!




  腐脳漫遊

年甲斐も性懲りも
ないのだが・・・(?)
伊達や酔狂で
年を取っているもので・・・(?)
適応能力などは
とうの昔に消えうせた
発想も連想も飛ばない
詩想も涸れたぁ・・・(悲)
なのに腐った脳ミソが
奇妙なところで
はしゃいでいる
ときどき
ああ・・・ほおお・・・
と泣きとも笑いともつかぬ
小さい奇声を発しながら
そぞろに遊んでいる




  私のきらい

人を避けながら求めている
それが
世渡りが下手で人間嫌いの
末路なのかもしれない
かかわりというものに
うんざりしながら
その「うんざり」なしには
生きられない
と溜息をつく
しかし
逆に私は
自分がうんざりされている
ということに
どれほど気づいているだろうか
私が「人に」うんざりする以上に
人は「私に」うんざりしているのだ
そうして私は私にも
うんざりしているのだ
そういう「うんざり」を
ひっくるめて私の
きらいが出来ているのに




  デジタル

フルハイビジョンでなくても
ハイビジョンでなくても
デジタル放送はきれいだ
にじんだりしない
二重に映ったりしない
輪郭や表面がはっきりして・・・
でも人のプロフィールって
こんなに
はっきり見えるものなの?
はっきり見えるように
見えているだけなの?
よく見れば少し
色が鮮やか過ぎるような
一瞬だが一部
階段状のギザギザが見えたり
送受信が乱れると
変な四角形が踊って
飛んだり止まったりする
デジタルは数
アナログは量
目には分からなくても
量を数に置き換えると
つまるところ連続しなくなるから
完璧な質を求めようとすれば
永久に際限なく
数の数を
増やしていくしかないのだろう
と考えている人の思考も
神経細胞から原子までの
デジタル活動?




  リンクに寄せて

リンクにもリンク以外にも
目を通すブログが増えてきた
いろんなところから
ときに穏やかに
ときに小さく
ときに激しく
伝えたい思いが跳ねているのだ
十MB制限を気にしながらの
テキストだけのHPなどは
もともと少なかったし
もう時代遅れなのだろう
画像でも貼り付けるか
きれいな色とりどりの
レイアウトでも考えてみるか
ブログにするか?
とはいえ今さら改めようもなく
たまにしか書かないし書けないから
いやいや
跳ねてくる思いを
できるだけ汲み取りながら
たまにでもいい
終わりならそれでもよいが
誰にも届かなくても
もともとそれは分かっていたはずだ
もし書けたら書いて私も
できるものなら
こだわりもなくテキストの
でっかいフォントのまま
ちっちゃく跳ねたり飛んだり
してやろうとは思っているさ




  ひとひねり

整数の四則演算は簡単だ
しかしひとひねりして
または見方を変えて例えば
(ネットで見つけた問題)
5□4□3□2□1□0
□には×,÷,+,−,=を
1回ずつ入れるとなると考えてしまう
数や数式よりも言葉はさらに厄介だ
伝わっているかなどよく考えもせずに
当たり前のように使っているからだろう
例えば「御霊」「救い」・・・等々
一般用語と宗教用語と
別の宗教用語とでは意味が違ってくる
そういう異なる分野だけでなく
見方・視点が違うのに同じ言葉を使うと
話しは噛み合わなくなる
そうでなくてもひとりひとりが
ひとひねりを重ねてきているのだ
人の言葉は不完全で危うい
(真意は伝わるものなのだろうか)
かといって沈黙すれば
沈黙が伝えてしまうものがある
真意の一部でも伝えたい願いを込めて
使わざるを得ない言葉
そこでひとひねり
できればよいのだが・・・
ちなみに先ほどの数式パズルなら答えは
5−4×3÷2+1=0
5=4×3÷2−1+0と
はっきり出してもらえるのに




  勝負・生きる

生きておれば否応なしに
清濁併せ呑むことになる
人と人との間のみならず
自らの心のうちにおいても
それゆえ清を求める者には
葛藤が生まれ苦悩を育む
生きる希望が欲望に
さらに勝つ欲望に変われば
勝負師でもないのに
ルールのない勝負に
命を賭けることにもなろう
人生はゲームだとか言って
ロシアンルーレットの引き金を
死ぬまで引き続けるのだ
だから清濁を合わせれば濁
まれでしかない束の間の
勝ちを求め続けることになる
少しでも清を求めるならば
生きる価値基準を
勝ち負けに求めてはいけない
清を求めて命を懸ける勝負は
生涯に一度あるかないかだ
それが一瞬であるか
長期にわたるかは様々だが
いずれ勝負は他者よりも
自らに向けられる闘いになる
その結果が生であるか死であるかは
完全な清を知り得ない人間の
定めるところではない
それが清濁の清の限りである
闘う者に祝福を




  日数

残り少ない日数(ひかず)を数えて
実は過ぎ去った日々を思い出している
いつまでの残り少なさ?
折に触れて多くの・・・
でもそれは過ぎたこと
終わるまでの日数など分かりはしない

過ぎ去ることに追い詰められて
呼気が少し濡れて
深く緩く伸びて
霧中の遠景に求めても
残り少ない日数を数えるとき
数えている数えられないもの

名ばかりの名もない
過去でも未来でもない
歩めない分と
不安を静めようとする不安に
残り少ない日数を胸に
一歩一歩の足音か呼びかけか
進まない歩幅を小さく踏んだ




  病に学ぶ

病を持つことは
病まなければ出来ないはずの
経験と学習の機会を与えられること

頭が回転しない
考えが進まない
寝るべき時に眠ることさえ出来ない
幾度も幾度も
いや日常的に味わってきた
どん底あるいは沈没
でもまだ没してはいない

出来ることから始めましょう
なんて当たり前だ
出来ることが何もないから・・・
でもそれは一種の無思考
思考が進まない以外に
自分で拒否している
分かっていてそうなってしまう?
見る・読む・書く・聞く・悩む
まだ没していない証拠のそれらから
開かれる先に
道標がないとどうして言えよう
ぼろぼろの自分を認める
時を待てば物事は変化する
分かっているはず・・・

大発明を作り出すことより
教科書を暗記することより
病める者にとって
どうしようもないような
至難の経験において
耐え忍ぶこと以上に偉大な
仕事もなければ学習もない

まれにしか与えられない機会を得て
小さい収穫に向かって
君は付き合い方を過ごし方を
病に学ぶ細道を歩んでいる
動かなくても動けなくても
気づいていてもいなくても必ず
既に歩んでいる道の途中だ

世の友が一人も評価しないなら
人知を超えた所からの評価
信仰の話になる




  かなしみのジャンクション

ときは いつも わたしをうらぎるので
わたしは ときに ぼうぜんとして
しんらいしない しんじない
ところは いつも
そこではないと いいつづけるので
わたしは いることも あることも
きまったところがあるなんて
おもえずに こばんでいる

かなしみの いろが
むなしさのかたちに
あなたの のこした あとを
しずかにそめてゆくばかり

かおが わたしを わらったときから
わたしの かおは わらわない
なみだが わたしを こぼしたときから
わたしはなみだをこぼさない




  おとなのにおい

くやしかった
きみが おとなの においに ひかれて
いってしまうのが
二十さい わたしは たおれながら
ころがりながら
こどもごころを のこすことにした
そしたら どうだ
こどもごころは くさってしまうのに
おとなの におい どころか
おとなごころが そだたなかった
こころも からだも おとろえて
四十さい また たおれた
それから 十三ねん
あれから 三十三ねん
かんれき 六十さいまでには
また たおれるとおもう




  青の先

テレビで 写真から俳句を作る
という番組を放送していた
その中に 青い葉の先に
水滴が付いている写真があった
それで私も下手なりに幾つか試みた

落ちそびれ まだ濡れている 青の先
(季語がない。「青葉」なら夏、
「露(の玉)」なら秋だが)
落ちそびれ まだ濡れている 露の玉
(「どこで」が表現できていない)
落ちそびれ まだ濡れる秋 青の先
(季語の「秋」が無理やりな感じ?)
落ちそびれ 青葉の先に 濡れており
(「青の先」には何故か
 こだわってしまうので・・・今度は
「濡れている→涙」の連想を削って)
露の命 落ちそびれるや 青の先
(「青い葉の先」に加えて
「青」→「ブルー」→「憂鬱」の先
 を込めたつもりだが
 やはり私には俳句も難しい)

風邪を引いた インフルエンザか・・・
咳と吃逆(しゃっくり)が止まらない
吃逆 それは急激な吸気
ときにヒクッと変な音声を伴うのに
呼気には声がない 何か言いたい?
何か言いたりない?
青の先




  刹那

たれもが なにものかに
ころされるときまで
きりもなく
じったい の ない
とらえがたい じかん の なかを
その な を よんだとき
すでに すぎさっている
いま という
せつな を
せつなくも いきているのだ
もったい なくとも
もとめるように




  でも独り思い

簡単なはずだ でもそれが分からない
そのうちAh!体験を伴って
レベルは低くても
理解を得られるかもしれない
でも今は何度考えても分からないのだ
苦し紛れに理屈をつける
話をつなぎ 筋を通したつもり
でも何かちょっとしたことを
忘れているような気がしてならない
そのちょっとした
簡単なことさえ分かれば Uh・・・
大きな思路がすっぽり抜けて
無理やり通る回り道
道なき道・・・?
道とは言えないところを通って
突っ立っているだけか
ふと昔言われた嫌なことを
思い出すのは こんなとき
誰のせいでもない 愚かな
似たようなこと 何度も何度も
独りの道楽 独り思い
忘れてぱぁ・・・ でもまた独り
くるくるくるくる 独楽(こま)のよう




  逃げます

はっきり見えるものから
はっきり見えないものを描く
目に見えるものから
目に見えないものを描く

描けないときは物に帰る
それが原点ではなかったか!

晴れているらしい外の
暗さも明るさも見ていない夜
カーテンに仕切られた
部屋の中で 静かではなく
騒めく耳鳴りと
蛍光灯の 静かに
降り注ぐ光の響きを聞きながら
この世に ただ独り

帰るというより
逃げています ときどき

また戻ってくるのか
わかりません




  水と光

体も心も魂も
内燃機関が燃え盛る炎で
焦がし焼き尽くして
焼き付かせてしまったから
思うように働いてもくれず
動いてもくれなくなったまま
残された命は 命たることを
主張することさえ
やめると小さく主張して
小さな水滴のように
素直でありたいと願う
あるいは水のように
体を失いたいと願う
その動き方も 動くかどうかさえ
手に負うことを拒みたい
いかようにも姿を変えて
朝露のように跡形もなく
朝霧のように散り去って
消え失せる様の水であっても
水滴がいかに小さくても
水滴が水滴であるあいだ
人目には白でも灰色でも
見えなくても
光を受けるだけで在りたい
光 受ける 水
全てが始まったところから
もはや二度と朝霧よりも上に立ち
雲海も何も
見下ろすことはないだろう

見上げる
受ける
映す

始まりにあらゆる巡り
水になれるものなら
こぼれたり落ちたり
体を失って流れたり
見えなくなって消えたとしても
何かを 誰かを
見下ろすことなどしないのだ




  やましさのおもちゃばこ

残ってしまったのは
罪深さと疚しさだけが
生きているようなもので
肉体だけが業の深さで
死なずにいるような
「なら早よ死ね」という声が
聞こえてきそうな世の中だが
「あんたに言われて死にたかねえよ」
とでも言い返しておけばいい
どうってことはない
この生きにくい世の中を
すいすい渡ってゆける連中を
うらやむこともあるまいよ
生きにくさを背負い過ぎて
死にたいと思う人ほど本当は
生きたい願いは強いのだろう
平気で「死ね」と言える奴ほど
生きにくさにうんざりしているのさ
傷だらけのままひっくり返された
玩具箱の兵隊たち




  コンパスの時

コンパスは
とうの昔なくしたのに・・・
定規とコンパスは偉大だ
図を描くことによって
いろいろなことを教えてくれる

とうの昔なくした人生のコンパスは
何も教えてくれそうにないのに・・・

年のせいか
頭が固くなり
穴だらけになったらしい
簡単なことに気づかない

 年をとり
 人も鬆(す)が立つ
 薹(とう)が立つ

戻ろうとしても
逆をたどろうとしても
できなかったが
近道でも回り道でもなく
遊びでも学びでもある道は
時を待てば与えられることもある




  おかしなタイムマシン

仮にタイムマシンがあったとして
過去に戻り
過去の自分を殺したとしよう
そのとき今の自分は消え失せる
他殺による自殺の完成・・・?
というわけにはいかない
歴史を変えてはいけない
・・・という話ではない
過去の自分を殺したとき
消え失せるのは今の自分だけではない
殺したとき以降の全ての自分だ
したがって過去に戻り
過去の自分を殺す自分も消え失せる
つまり過去の自分を殺すことは出来ない
過去の自分を殺したら
過去の自分を殺すことが出来ない
という空想タイムマシン遊びの
パラドックスというより矛盾だろう

いくら憎んでも懐かしんでも
やり直しの利かない過去なのだから
欠け目と穴だらけの
継ぎ接ぎだらけの
フィクションのような記憶から
遊びと学びと病?から
さらに継いで接(は)いで
未来が今に
今が過去になり続ける
迎え送るしかない
留まることの出来ない今である

これも遊びに過ぎなかったが・・・
過去に接(つ)ぎ穂は出来ないのだ




  むりょく

こえてはならない
さかいを こえて
こわれ こわされて
もはや もとの すがたを
たもつこと かなわず
いかなる おもさも かるさも
ささえきれない
もっとも うすい まく の ように
あわく あおく
おともなく
ひきさかれてゆく さだめを
すごしている ゆらぎ
ゆらぎ




  捨て書き

汗まみれで目覚めて
思い出す夢路は
名残惜しく
臨死のように生々しく迫りながら
意識を少し変えてゆくから
乾いた欠片(かけら)か粉のように
意識の風に跡形もない
気づかぬまま変わる悍(おぞま)しさ

変わることが怖いのか
耳鳴り
誰の声か乱れ散る
眩暈(めまい)
溺れる底のない傾き
頭痛
押さえつける目蓋の裏で張り裂ける
無きに等しい世界の出来事

遊びでない学びがあっただろうか

死に近づかない命がないように
命に近づかない死はない
祈った空しい願いの数だけ
願わくは
人知れず気を失い
この肉体
もはや二度と
この地上に生まれたくない




  訃報に

もう天におられるのなら
そこから余すところなく
見えるでしょう
いかに私が冷血の怠け者で
見るに堪えないほど醜く
いやらしく卑しい
獣(けだもの)であるか

いかに隠そうとしても
天からは
メールの遣り取りではないのだから
見えてしまっているでしょう

そこに私が召されてゆく時と
その時に至るまでに
この卑怯な愚か者は
あなたに対して何を
恥ずかしくて隠そうと
空しく試みるのでしょう




  風景のない心

夜明けから孤独までの
あるいは黄昏から墓場までの
寂しい風景の趣などは
彼の目には映らない
人あるいは若者あるいは子供
風景に接しても
アイドルを見ても
スポーツに接しても
隣人を見ても
関わりの中に晴れるものを見出せず
裏切りの味覚しか持ち得なかった彼の
心には風景がない
突きつけられた刃が
現実であっても架空であっても
やせ細った彼の心に
受けて収める懐はなく
復讐と消滅への道が燃えるばかり
彼には偶像がない
彼には実像もない
そして際限もなく
気晴らしの出来ない気晴らしのために
風景が焼け落ちる風景さえも
見えない場を歩み疲れる炎である




  あるコメント1

「内観」は好ましいことのように思いますが、
あまり思いつめると、私のように、
妄想の世界の漬物になってしまいます。
「原子爆弾」は、私の妄想の中のように、
物騒です、穏やかではありません。
最後は否定で、「しない」わけですから、めでたし
なんて言えません。
私は今、よく生きていられるなぁ・・・という
明け暮れですが、それでよい、それではいけないけど
を繰り返して、祈り続けます。




  へん(もじり)

ひとのいうことが わたしは へんにおもえる
なんておかしなことを いうんだろ
でも わるいのは いちいち わたしになる
わたしのいうことが ひとは へんにおもえる
みんなへんで みんなおかしい




  母とマットレス

老いたる母がいて
まだ生きている
ROM化したルーチンのように
毎日買い物に出かける
そこそこ元気だ
母は腰掛け付きのコタツテーブルを買った
私は予測もし注意もしたが
椅子のほうが立ち上がりやすいのも事実だ
母は年老いたのである
予測どおり母は居眠りして
時々椅子から落ちる
ドッテンと落ちる
母が居眠りをしていることに気づいたら
マットレスを折りたたんで
椅子の横に敷くことにした
母は椅子を肘掛け付きに変えた
なおもマットレスは必要だ
今度は椅子ごと倒れると予想している




  こぴぺ

つめたくなでられる
ネガになる
みやすい
やすやすと
きえる
あらわれる
けされる
はられる
もどせる
としをとらない
でんし
おぼえる
わすれる
としをとる
ひと
ネガになる
もどせない
きかない もう・・・
フリーズ




  恥ずかしいとき
 
タバコの火が
水を入れた灰皿の中で
ジュッと消えるように
とても恥ずかしくて
消えたいとき
タバコやめればーと
乱暴に絡(から)んでくる禁煙は
生まれてこなければよかった
と結びついて
灰の質量にさえ
いともたやすく落ち込むことのほうに
耐えがたいとき
恥じらいの水という水は
すでに今に取って代わられた過去を
いつか昇華するために
しばらくは人目を避けて
閉じた瞼に温められている




  若者の知恵
 
若者は気を使う
衝突はしたくない
こすれあってもいけない
空気にさえ気を使う
雰囲気は人が作るもの
空気はどこにでも自然にあるもの
 
気を使わなくなると
いじめの世界だ
気を使わなくなると流行(はや)りやすい
どろどろ ねちねち べたべた
密着を強いられる
 
できることはする
できないことはできない!じゃなくて
できないことはムリ(無理)
距離を保つために
空気を壊さないために
相手のために自分のために
若者は若者らしく気を使う
だから「明るく、あっさり冷たい」
生活の知恵なのである



 
  読書嫌い
 
私は読書嫌いです。
1頁にぎっしり文字が詰まっているだけでうんざりします。
恐らく黙読が極端に遅い→苦手→嫌いとなったようです。
 
私が唯一読んだ長編小説は
パールバックの「大地」でした。
中学の頃でした。
3世代にわたる大河小説で、面白かった。
しかし読みながら、切りのいい所まで
あとどれくらいか先の頁をめくっていました。
面白いが苦しい感じが伴っていました。
だから全部読み終わったときには
私としては並々ならぬ達成感があって
「全部読んだよ!」と母に自慢げに言ったのです。
母はあっさり「続きが読めなくて残念ね」
え?・・・そうか、読書の好きな人は
そういうふうに思うのか。
それが最初の印象的かつ衝撃的な体験。
 
小説を読むのに1時間100頁読めるという人、
さらにもっと速読できる人もいるでしょう。
 
詩とかは、他には数学とかもですが、
「詩?私、分からないから・・・」
「数学?だめだめ、全然ダメ、興味ない」
という具合に好みがはっきり分かれるもの。
 
私が詩を好きになったのは
もちろん詩を読んで感動したからですが、
詩であれば、1作読むのに1日かかろうが
1ヶ月かかろうが、それほど変に思われない。
 
また私が簡単な数学つまみ食いを趣味としているのも
時間をかけて熟読と熟考が出来るからのようです。
だから問題をひらめきで短時間で解く
というのは苦手です。
だから高校のときは大変でした。
学問をやっているという意識は乏しく、
ひたすら数と式と図形のパズルをやっている感じだった。
 
高校の勉強というのは、
ある程度、範囲が限定されていて
教科書も参考書も問題集も適当な厚さで
熟読が可能だったけれど、
大学となるとそうはいかない。
8年かかったけれど、よく
卒業できたものだと思っています。
前に書いたけれど
失恋で、かなり鬱になって引きずって
鬱は思考にブレーキをかけるから、
あの頃は1行読んで次の1行読むと、もう
前の1行を忘れているという体験があります。
黙読しても頭に入ってこない。
 
読字障害・読書障害というのがあるそうです。
私と同じように黙読が出来ない障害だそうです。
私はそういう障害なのか、単なる怠け者なのか、
はっきり白黒付けようとは思いません。
どちらであっても、怖いし、また
何も変わらないから・・・若者は別でしょうけれど。
 
読書嫌いは社会においては、
怠け者と思われるから、辛いことが多いでしょう。
しかし私は今のままでも、もう人生残り少ないだろうし、
感じること、感動すること、考えることは
今も昔も好きだから・・・。
 
辛いという字は幸いという字に似てます
・・・関係ないか・・・失礼。
 

 

  幻
 
まぼろしは いと ではない
まぼろしは かたなでも ちからでもない
もういっぽん かきそうになる
もっと かきたいのに かいてはいけない
なにか ものたりない じれったい かんじ
つけるようで つけてはいけない
つくようで つかない
どんなに うでを みがいても
いとのようには ぬえない
かたなのようには あつかえない
ちからは ままならない
できそうなのに できない
まどわされる かわりやすい
あるようで ない
だから まぼろし か・・・
 
(2010年10月27日)


 
 
  灯火の道

堪忍の業を煮やす坩堝(るつぼ)に
乏(とも)しめる熱よ
愁眉を開く手遅れの遣り水は
労(いたわ)しい入魂である
燥(はしゃ)ぐように積み重なる
見る影もない火宅の郵便受けから
選んで見ては失念を繰り返す
懇(ねんご)ろに繰り返す
遠くからの音信
祈り以外に捧げるものがない
されど祈り願えば
成就よ それは
この娑婆(しゃば)では
与(あずか)れない収穫の
出会いの賜物(たまもの)
やり取りの窓の割れたガラスの
細かい欠片(かけら)とともに
煌(きらめ)く鮮血の滴(しずく)
受け取り しばし竦(すく)み
不確かな波を返し合いながら
どちらからとも知れず
いずれ途絶えてゆく定め
灯火(ともしび)の道と知りながら