プロジェクトG4・異聞《ガードランサー》

 陸上自衛隊八王子駐屯地に拠点を置く特殊部隊に所属する水城史郎三尉は、自身が配属されたとき既にラインアウトしていた特殊装甲
 強化服・開発コード「G4」の戦闘スペックに潜む問題点に直面していた。
 G4システムは元々警視庁が未確認生命体鎮圧用に開発した強化服・G3システムの強化案のひとつとして設計されたものであったが、
 搭載されたAIが「敵」の殲滅を最優先するあまり装着員への身体負荷を考慮せず、長時間運用した場合生命維持システムが機能不足となり、
 装着した者の生命を奪う恐れがあることから、設計者である小沢澄子本人の手により封印されたはずのものであった。
 そのG4がなぜ陸自において完成されたか、その経緯については水木も聞き及んでいたが、それは彼にとって関心事ではなかった。

 警護していた研究機関がアンノウンの脅威にさらされ壊滅した時、成す術もなく倒され敗残兵となって以来、水城は「死を背負わなければ
 克服できない国防の壁」を感じ、その危うい思想に惹き込まれて行く自分と、否定しようとする自分と葛藤に苛まれていた。
 死を背負う覚悟。それは水城にとっては論理の導き出した結論であったが、心の中で迷いがなかったわけではない。
 論理が導き出した思想といっても、あの惨劇はあまりにもそれまでの水城の日常と現実を超越していたのだ。

 アンノウン。それは人にあらざるもの。人間の存在をはるかに凌駕する力を持つ敵に対し、あまりにもぜい弱な己の肉体と精神・・・
 恐怖は判断を狂わせる。そう、あのとき自分は強大すぎる敵に恐怖し、最後まで闘い抜くことができなかった。
 死にたくない、生き延びたい衝動が全てを狂わせたと、水城は感じていた。

 だからこそ死を背負う覚悟が必要なのだ。そしてG4システムは、水城のその覚悟を試そうとしていた。
 だが装着実験の度に同僚や、まだ自分より若い者達が命を落としていく光景は、水城の目を逸らさせてしまった。
 自分は覚悟を決めている、それでいい。だが若い隊員たちは、水城とは異なる感覚でシステムに接していた。
 危険への、もしもの覚悟はあったであろう。それは死を背負うこととは違う。彼らは死ぬ覚悟でG4を装着したわけではない。

 彼らに自分と同じ覚悟を抱かせることはない。「G4の負荷を軽減する支援機器があれば・・・」
 そう思い至った水城は、セクションリーダー・深海理沙一尉のデータファイルから、あらためて「Gシステム」の概要を検索し、
 警視庁の運用マニュアルによるG3と、支援機器であるガードチェイサーの存在、その開発過程を読み解いた。
 もともとGシステムの開発では国内数社の異種産業が研究交流を図っていたが、これが特殊装甲強化服・G3として結実する以前は
 AI制御による戦闘システム(G2)等、様々な方法が模索されていたが、常に重視されていたのが未確認生命体第4号の存在と
 彼に供与された特殊車輌・チェイサーシリーズの開発ノウハウだった。

 チェイサーシリーズは警視庁独自の特殊白バイ開発計画だったが、プロトタイプとして当時の警視庁特別救急警察隊に配備された
 通称ウインチェイサーには、実際に使用こそされなかったもののオプションとしてロケットランチャーが搭載可能となっており、
 その火器管制システム開発には防衛庁も関与していた。その細い糸をたぐるように、水城はG4用特殊車輌の開発を提案、作業を急いだが、
 急場しのぎの車輌制作という環境から、現用車輌をベースにG4専用火器の搭載、それに必要な補強が中心の作業となった。

 G4がバックパックとしてオプション装備する予定だった超小型ジェネレーターを2基搭載し、「G4単独では運用に難あり」とされていた
 荷電粒子ビーム銃2門を車体前部に装備することに成功した。その結果、異様なほどにフロントヘビーとなった車体バランスは、G4自らが
 バラストとなることで安定を確保。アサルトナイフ、ハンドガンGM01改などは、カウリングスリットに押し込む形でホールドする。
 問題は、G4バックアップとなる生命維持支援機能の調整で、生き残っている隊員全員の生体パターンを入力・管理しなければならなかった。
 そのために、車両側のメモリを大容量用意しなければならず、火器管制システム類のソフトペイロードはG4本体に委ねることとなった。

 開発は時間を必要としながらも順調に進み「ガードランサー」と名付けられた特殊バイクは、鍛えぬかれたレンジャー出身の隊員達でさえ
 生身のままでは制御しきれず、文字どおりG4との人車一体によるコンビネーションで初めて、その恐るべきスペックを再現する事ができた。
 完成の夜、G4ハンガーでは水城を含めた4人の隊員たちの間で、自分たちの相棒の誕生を祝って密かな祝杯が上げられていた。
 この時、水城は「何かに没頭すること、仲間と共に何かを成し遂げること」で一度は見失いかけた『生きる喜び』を取り戻し、
 時には大声をあげて笑い合うまでに、傷ついたその心を回復させつつあった。

 だが、不運は再び巡ってきた。その夜更け、G4ハンガーを突如、アンノウンが襲撃してきたのだ。

 水城達には知らされていなかったが、深海はG4システムの強化策として、超能力による戦闘指揮機能を与えようとしていた。
 アンノウンは深海の計画に基づいて登用されていた超能力保有の隊員を抹殺すべく、あの時と同じように水城の前に現れたのだ。
 隊員達の懸命な抵抗により何とかG4を装着することに成功し、アンノウンを撃退した水城だったが、その目の前に広がっていたのは、
 炎上するハンガーと、命を賭してG4とガードランサーを護ろうとした同僚達の亡骸だけであった。

 「誰だって生きていたいんだっ!生きようとすることが、何の罪になるというんだ!!」

 水城は声を絞りつくして吠えた。その怒りはアンノウンに向かって放たれ、そして自分自身に跳ね返ってくる。
 水城は同僚たちの変わり果てた姿を脳裏に焼き付け、炎に浮かび上がる幽鬼のように立ち上がった。足元に横たわる同僚の手に、
 予備のGM01改が握り締められていた。水城はそれをもぎ取った。マガジンは装填されていたが、安全装置はかかったままだった。
 水城の中に暗く静かな闇が生まれ、彼に何かをささやいた。水城、G4は安全装置を外してフルトリガーモードに切り替えると、
 固定されていたガードランサーに向けて発砲した。着弾した弾丸は積載された弾薬に引火し、一気に爆発した。
 G4は炎に消えていくガードランサーを、ただ冷ややかに見つめていた。自らが手がけた鋼鉄の馬、生き残るための相棒となるはずだった
 マシンは、もはや彼にとって不要のものだったのだ。

 「生にすがる奴にG4を纏う資格は無い」そう、G4とは死をも超越する完全なるワンマンアーミーなのだから・・・

(設定・モデリング・撮影=嵐田雷蔵さん)

現存する数少ない資料映像より
上方視点からG4との対比
合成によるガードチェイサーとの比較
正式な製造認可が降りた訳ではない為
所属を示すマークなどは無い
荷電粒子ビーム砲。ビームの威力もさる事ながらバレルの高い強度を活かし、
敵を引っ掛け移送したり、障害物の突貫にも使用可能だったようだ
GM−01改収納スリット
足回り。重量的にはガードチェイサー以上なのであるが、高出力エンジンの
搭載と強化タイヤによりトライチェイサークラスの走破性能を誇る。
だが、今やその全ては闇の彼方である・・・
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