良心回路は成功し得たのか?

まず、最初に「ロボット」とは・・・

「robot(ロボット)」という言葉を世に送り出したのは、旧チェコスロバキアの作家カレル・チャペック(1890-1938)です。
彼が1920年に発表した『ロッスムのユニバーサルロボット(通称『ロボット』)』という戯曲で使われました。
名付け親は兄のヨゼフです。
「長い間の人間の夢であった“人間が人間を造りだし、人間にとって煩わしい仕事を、その造られた人間に代行させる”」
というのが、この戯曲の筋書きです。
作品を書く際、彼らが「人工的に作られた労働者」の呼び名として考え名づけたのは、チェコ語の「robota」(賦役、強制労働)
という言葉から発想された「robot」でした。

この歴史的事実を尊重するもしないも、後世のロボット兵器開発者の好きずきですが、
「ロボットが人工の労働として人間の福祉に尽くす」という命題を確実に満たさせる為に、
アメリカのSF作家アイザック・アシモフは、彼の短編集『われはロボット』(1950年)の中で
ロボットの思考原理となる『ロボット(工学)三原則』を考え出しました。

原作版キカイダーの冒頭にも引用されているロボット三原則とは、以下の3箇条です。

第1条

 ロボットは人間に危害を加えてはならない。
 また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

第2条
 ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。
 ただし、与えられた命令が第1条に反する場合は、この限りではない。

第3条
 ロボットは前掲第1条および第2条に反する恐れのない限り、自己を護らなければならない。

これは「アシモフコード」とも呼ばれる、ロボットをロボットたらしめる呪詛でもあります。
保守的な言い方をすれば、
「これが打ち込まれていなければ、それは単なる機械の塊であり、ロボットではない」
近代革新的に切り返せば、
「これがなくとも高性能であればロボット。高性能ゆえに、人工労働者の域を越えている。だからこそ“スーパーロボット”なのだ」

アシモフコードを基本原理として開発されたのが、キカイダー02・ジローに組み込まれた「良心回路」でした。
こう断定は出来ませんが、コミックを見ていくと、キカイダー・ジローを観察に現れたギル教授に対して、
教授の笛によって狂わされながらも、ジローは教授を殺害するには至りませんでした。
このことをギル教授は、「光明寺が奴にアシモフのロボット三原則を組み込んでくれていたおかげで助かった」
と語っていますから、三原則を組み込む場所は良心回路内のプログラムではないかと想像しています。

良心回路。悪い命令には絶対に従わない、ロボットの“良心”を創り出そうとした、光明寺博士の世紀の発明です。
しかしプロトタイプ(テレビ版ではゴールドウルフ、コミック版ではゴールデンバット)、成果品(ジロー)とも不完全で、
キカイダー02・ジローは、己の中に生じた善と悪の心の葛藤に常に苦しめられる事になるのです。
それに対し彼を破壊しようとするダークの人造人間(よくよく考えてみれば、ダークには人間型のアンドロイドは
いませんでしたね。雑兵を除けば)は、「命令された事柄を忠実に守るのみ」という意味で、良心回路どころか
アシモフコードも組み込まれていない、機械人形に過ぎないシロモノです。

これは嵐田の考えですが、アシモフコードはロボットの心には成り得ない。ロボットの行動原理を抑制する呪詛の言葉だと思います。
これをもとに、良心回路を設計したことが、光明寺博士のそもそもの間違い。
仮に完成していたとしても服従と自立(自律ではない)が拮抗し、回路が正常に作動しなくなるのは目に見えています。
キカイダー02・ジローはロボットであることを強要されつつも、そこからの自立も促され、
結局ハーフチェンジのあの姿になってしまった事でしょう。

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