(3)

科警研に向かう車の中で、氷川誠は今朝の対策会議を思い出していた。
「・・・アンノウンとも未確認生命体とも違う新たなる敵、か・・・」
「人間を捕食する・・・確かに今までの敵には見られない行動ではあるな。」
「うむ、人類にとってはある意味最も恐ろしい存在と言えるな。天敵、と言うべきか。」
「しかし、アンノウンだけでも手を焼いているのに、この上更に新しい脅威が現れるとは・・・」
「小沢さんは我々にとって『イレギュラー』な敵だ、と言っていました。」
上層部の議論が続く中、誠が一言口を挟む。
「イレギュラーか。まさにその通りだ。よし、今よりこの新たなる敵の総称を『イレギュラー』とする。」
「アンノウン絡みと思われる事件がこの所発生していないのは不幸中の幸いでしたな。対策班である
G3ユニットが事実上壊滅状態なのですからな。」
「それに関しては小沢管理官らが回復し現場に復帰するまでの間の暫定処置であるが、かつての未確認生命体
対策班の中から選りすぐったメンバーで新たなチームを編成する事になった。敵の能力が未知数である以上、
実戦経験があるというのは大きいからな。選出したメンバーには既に召集もかけてある。もちろん、氷川主任には
G3・X装着員としてそこに加わってもらう事になる。いいな、氷川君?」
「は、はい!」
未確認生命体対策班。今や伝説となりつつある戦士・通称「4号」と協力し、ゲームと称した連続殺人を繰り返す
脅威の怪人たちに立ち向かい、これを打ち倒した者たち。一連の事件が終結し解散となった後も、誰一人として
4号の正体を口外する者が居ないという事実は、彼らの結束の強さと4号への信頼の深さを何より雄弁に物語る。
警察内では一種憧れの存在となっており、誠もまたそんな彼らを尊敬していた。

科警研に到着した誠は、責任者である榎田ひかりの元に通されていた。
「キミが氷川くんね。私は榎田ひかり。澄子ちゃん・・・と、小沢管理官が復帰するまでG3・Xのメンテとかをする事に
なったから。よろしくね。」
「は、はい。こちらこそ、よろしくお願いします!」
緊張している誠に、榎田は苦笑する。
「そーんな堅くなる事ないって。Gトレーラーは急ピッチで修理中だけど、まだしばらく時間がかかりそうなのよ。
それまでは不便だけど、ここまで来て装着してもらう事になるんだけど・・・いい?」
「あ、構いません。」
いちいち真面目に返答する誠を見ているうちに、榎田は一人の刑事の姿を思い出していた。
(彼も、最初はこんな風に真面目一徹だったっけなぁ。もう一人の「彼」に出会うまでは・・・)
「敵が現れない事を祈るけどね。あ、G3・Xの方は修理終わってるから、ちょっと見ていく?」
「お願いします。」
部屋を出て、ハンガーへ向かう二人。

「どう?新品同然にピッカピカでしょ。」
「はい!ありがとうございます。」
誠の目の前にあるG3・Xはまさに言葉どおり傷一つ付いていない完全な状態に修理されていた。
と、ハンガールームの奥に目が行く。ガードチェイサーも置いてある。それは判るが、その奥にあるのは・・・
「G3?」
誠の視線の先にあるものに気付いた榎田が答える。
「ああ、あれね。以前キミが使ってた奴よ。回収して修復してあるの。G3・Xが完成してお払い箱になったから
捨てられるトコだったのを、ウチで実験用にもらったのよ。」
「そうだったんですか。」
思いがけない再会に、誠は少し嬉しかった。てっきり廃棄されたものだとばかり思っていたのだ。そして嬉しさの余り、
ハンガールームの更に奥、扉に親指を立てたマークの書かれた部屋の存在には気づかなかったのだった。
と、そこに所員が駆けてきた。
「榎田さーん!お客さんです!」
「あ、はーい!とと、氷川くん、どうする?」
「あ、僕ならお構いなく。これから病院と、あと行く所がありますから、これで失礼します。」
「そっか。お見舞いね。よろしく言っといて。じゃあね!」
所員の方へ走っていく榎田に軽く一礼し、誠は科警研を後にした。

(4)

誠は小沢たちが入院している関東医大病院に来ていた。
「すいません氷川さん。こんな大変な時にリタイアしちゃって・・・」
尾室はそう言ってすまなさそうに誠に頭を下げた。
「いいえ、大した事が無くて良かったですよ。気にしないで、今はゆっくり体を休めてください。」
「ホントにすみません。それで氷川さん、あの怪物はどうなりました?」
「Gトレーラー、そして各地の研究所を襲撃した一連の怪物たちにはついては、今後はかつて未確認対策班に
所属されていた方達と協力して捜査にあたる事になりました。」
「未確認対策班!?あ、あの未確認対策班ですか!いいなぁ、僕あの人達と一緒に仕事するの夢なんですよぉ。
羨ましいなぁ氷川さん!あ、痛てて・・・」
まだ安静にしていなければならないのに興奮して起き上がろうとしたため、全身に激痛が走り尾室はうめいた。
「ほら、まだ寝てないと駄目ですよ。」
誠にベッドに寝かせてもらいながら、尾室は小沢のことを思い出していた。
「僕より小沢さんの方が酷かったんでしょ?あの人の事ですから大丈夫だとは思いますけど・・・」
「小沢さんなら、目を醒ました途端に勝手に抜け出そうとして見つかって暴れたらしくて・・・。今は鎮静剤を
投与してもらってぐっすり眠ってますよ。」
誠は苦笑していた。その時の光景が目に浮かぶようだった。
「ハハ、小沢さんらしいや。あ、そう言えば忘れてた。北條さんはどうなったんです?」
「北條さんはココとは別の病院に搬送されたそうです。頭を強く打ってるらしくて・・・」
「はぁ、僕がこのぐらいで済んだのはラッキーだったんですね。って、そうだ!氷川さんは大丈夫なんですか?」
一瞬、表情が曇りかけた誠だったが、すぐに笑顔で答える。
「私なら全然平気ですよ。G3・Xを装着してましたからね。」
「そうですか。やっぱりスゴいですね!G3・Xって。」
「ええ、ですから後は任せて、ゆっくり眠っててください。」
そう言いながら、ガッツポーズをとってみせる誠。その姿に安心したように、ゆっくり目を閉じる尾室。
尾室が寝息をたて始めたのを確認すると、誠は大きな音をたてないようにしながら病室を後にした。

「っく・・・」
病室のドアを閉めると、誠は壁にもたれながら胸を押さえた。息が荒くなり、脂汗がにじむ。
しばらく誠が痛みの治まるの待っていると、一人の看護婦が声をかけてきた。
「あ、居た居た。さきほど検査を受けられた方ですよね?先生が話があるからとおっしゃってます。」
話の内容は見当がつく。だが、今その内容を聞き入れる訳にはいかなかった。
「すみません。今から行く所がありますので。」
誠は看護婦の逆方向に駆け出した。
「あ、ちょっと!待ってください!!」
制止する看護婦を振り切った誠だったが、勢い余って前から歩いて来た人にぶつかってしまう。
「うわっととと!」
「すみません!今は急いでますので!!」
気が引けるが、今捕まるわけにはいかない。やらねばならない事があると、誠は自分に言い聞かせた。
車に乗り込み、誠は次なる目的地へと向かう。『イレギュラー』の出現を予言していたと言う女性の居る
城南大学・考古学研究室へ、と。

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