(DC・EX 影月)
深夜のとある病院の病室―ここにはある患者が入院させられている。黒い服の青年―アンノウンを統べると思しき者。
ベッドに腰掛け、虚ろな眼差しで空間を見つめていた青年は、ふとある気配に気付き窓の方を振り返った。
ザワッ・・・!外の木が一瞬ざわめいたかと思うと、一陣の風が青年の病室へと吹き込む。
風が止んだとき、青年の背後には先程まで居なかったはずの人影が立っていた。
「・・・まさか・・・また貴方に会えるとは・・・思っていませんでしたよ。」
背後を振り返りもしないのに、青年にはそれが誰であるか判っているようだ。
「世界を構成する5つのエルが一人・・・“生命”を司りし『木』・・・」
ゆっくりと立ち上がりながら、青年はその人物へと振り返る。
そこに立っていたのはこの世の者とは思えぬ美貌の、だがどこか危険な香りの漂う女性であった。
「未確認生命体B群1号―バラのタトゥの女」、かつてそう呼ばれた女性であった。
「あの時・・・アギトが私に闘いを挑んできた時・・・アギトに与し、私を封印した貴方です。
久しぶりの再会を喜ぶため・・・という訳でもないのでしょう・・・?」
対峙する青年とバラのタトゥの女―バルバ。
「一つ、忠告に来た。」
バルバはじっと青年を見据えながら口を開いた。
「アギトとクウガ・・・そして『選ばれざる者達』の闘い・・・手出しは無用。それだけだ。」
「・・・・・」
「・・・・・」
しばらく互いを牽制し合うかのように微動だにしなかった両者であったが、先に均衡を破ったのはバルバの方だった。
くるりと踵を返すと、バルバの周りに再び風が巻き上がっていく。
「尋ねたい事があります。」
青年の問いかけに、バルバを取り巻いていた風が止む。
「生命を司る貴方の能力によってその力を増幅したアギトによって、私とその腹心達は永き眠りを余儀なくされました。
ですが、力のほとんどを失いながらも辛うじて封印を免れたわずかな者もいました。
その者達の報告によれば、その後アギトは人間の娘と添い遂げたとか・・・なぜ貴方ではないのです?貴方はアギトのことを・・・」
「私が」
バルバが青年の言葉を遮る
「私が興味のあるものは『生命』。より強く生を欲する者・・・それだけだ。」
「・・・その為にアギトの力に似せた霊石を造り、ある時は動物に、またある時は対立する人間の種族に与えたのですか。
貴方が今『選ばれざる者達』と呼んだ者、好戦的な狩猟民族、他にも貴方が霊石を与えた様々な集団、
そしてクウガ・・・彼らの永き戦いの歴史を通じて霊石は確実にその力を進化させている。
貴方は・・・その先で一体何をしようと言うのですか?」
青年の問いかけに、バルバはフッとわずかに唇の端を歪め、そして・・・
「リント・・・いや、もうこの呼び方をする必要もないか・・・人間は、やがて我らと等しくなる・・・!」
その言葉に、青年はカッと目を剥き激昂する。
「・・・人は・・・人は人であればいい・・・!!」
その叫びに呼応するかのように青年の体から十数体の影・アンノウンが飛び出し、バルバ目掛け襲い掛かる!
ガキィ・・・ン!!
だが、その牙も爪もバルバに届く事は無かった。突如バルバを護るように一人の戦士が立ちはだかったかと思うと
銀と黒の甲冑のような体のその戦士が手にした赤い刀身の剣によって一瞬にして切り伏せられたのだ・・・!
青年は、その碧色の目で自分を見据える戦士の腰に光る、同じく碧色の霊石を見て驚愕の表情を見せた。
「その石・・・!では貴方も・・・!?」
「・・・永き戦いの歴史の中でも、ここまでの精度を備えた者はそう居ない。死なせるには惜しい、そう思った・・・」
戦士に代わってバルバが答える。
「もう一度言う。一切の手出しは無用だ。必要なのだ、この闘いはな・・・」
再びバルバの周りに旋風が巻き起こる。その間も銀色の戦士は青年を牽制している。
「行くぞ」
言うが早いか、旋風が銀色の戦士をも包み込んだかと思うと、次の瞬間には突然消失した。二人の姿と共に・・・
「・・・」
しばらく消えた二人が居た場所を見据えていた青年は、ふいに薫った花の香りに振り返った。
ベッドの枕元にある花瓶に、いつの間にか一輪の薔薇が挿されている。
薔薇は月明かりに照らされ、その影をベッドへと落していた。丁度青年が横になった時首筋にあたる辺りへと・・・
「・・・永遠を生きるが故に孤独な存在、そして・・・」
青年は窓から夜空を見上げる。哀しい程に銀色の光を湛えた月を・・・