(6)

バゴーが立ち去った後、変身を解きゆっくりと振り返る雄介、それを見つめる一条。
かけたい言葉は山ほどある。だが、口にする事ができない。万感の思いで胸が一杯で、何と声をかければいいのか解らない。
ようやく導き出した言葉、それは実に彼らしいもの、
「「遅いぞ五代!」」
正確にハモる二つの声。呆気にとられる一条に、雄介はしてやったりと、いたずらな笑顔を見せる。
「・・・でしょ?一条さん。五代雄介、帰ってきました!」
そしてビシッと敬礼する。そんな雄介を見て、怒る気力も無く、ただ苦笑するしかない一条であった。
「あ、そうだ。オレ一条さんに御礼言わなきゃいけませんでした。」
「御礼?」
突然の言葉に不思議そうな顔をする一条に微笑むと、雄介は傍らに停めていたバイクをぽんぽんと叩く。
「こいつですよ。科警研の人たちに頼んでくれたんでしょ?オレが帰ってくるまで預かっててほしい、って。」
「ああ・・・」
照れ臭そうに指で頬をポリポリと掻く一条。雄介と共に戦場を駆けた愛車・ビートチェイサー2000。
未確認対策班の解散に伴って長野へと帰る一条にとって唯一心残りだったのは、主人を無くしたマシンの処遇であった。
一時は廃棄処分も検討されたが、一条をはじめ関係者の熱意によって科警研にて保存する決定を勝ち得たのだ。
「いやー、日本に帰ってきたのはいいんですけど足が無いと色々不便じゃないですか。
それでもしかしてーとか思って科警研に行ってみたら・・・

<雄介の回想>
「2年振りかぁ・・・懐かしいなぁ。榎田さん、まだ居るかな?案外ジャンと再婚して辞めちゃてたりして・・・」
雄介が科警研の前でぶつぶつ言いながら想い出に浸っていると、それに気付いた所員の一人が怪訝な顔で窓から顔を覗かせた。
雄介もまた、その所員に気付いた。
「あっ、柏原さん!お久しぶりです!!」
にっこり笑ってサムズアップする雄介。名前を呼ばれた当の柏原は、一瞬何が起こっているのかわからなかった。
だが次の瞬間、驚きと喜びが一度に押し寄せて来た。緊張で口が上手くまわらない。
「ご、ごごご、五代さん!帰ってきたんですね!!」
その勢いに、今度は雄介がタジタジになる。
「あ、はいっ。えっと・・・榎田さん、いらっしゃいますか?」
「おいっ!榎田さんは!?」
柏原は、帰ってきた雄介を一目見ようと同じく窓に身を乗り出していた椎名に尋ねる。
「え?えーっと、来客中で今は確かハンガーの方に・・・」
「五代さん、中に入って待っててください!今呼んで来ますから!!」
興奮した柏原は雄介にそう言いながら部屋を飛び出して行く。
「榎田さーん!お客さんですよー!!」
廊下に響く柏原の大声に、顔を見合わせ苦笑する雄介と椎名であった・・・。

しばらくして、柏原から事情を聞いたひかりが、息を切らせながら雄介の待つ応接室へと走り込んできた。
「はぁはぁ・・・うわーホントに五代くんだ・・・」
「ご無沙汰してました。でも、良かったんですか?お客さんいらしてたそうですけど?」
「ああ、いいのいいの。もう用事は済んでて雑談してたトコだったからね。」
ソファーに腰掛け、テーブルに出されていたコーヒーを一口飲んで落ち着いたひかりは、改めて雄介の顔を見つめる。
「・・・おかえり。」
そう言ってにっこり微笑むひかりに、雄介もとびっきりの笑顔を返す。

「あはは、君らしいわねー。」
雄介から科警研に来た理由を聞かされたひかりは、半ば呆れたような顔をしながら雄介を伴って再びハンガーへと向かっていた。
「すいません・・・。あっ!コレもしかしてG3システムってヤツですか?」
ハンガーに置いてあるガードチェイサーやG3・Xに興味を示す雄介。
「ああ、君が0号を倒したに開発されたのよ。君に頼ってばっかじゃいけない、戦う力を手に入れるんだーってね。
結構外国の新聞とかニュースでもやってたの?日本に居なかった君が知ってるくらいなんだから。」
「やっぱり気になりますからね。・・・戦う為の力、か・・・」
そう言った雄介の顔は、どこか寂しげであった、が、ひかりが気付く事は無かった。
二人はハンガーの更に奥、サムズアップマークの扉の前にやって来た。
「この扉のマークって・・・」
「そりゃー、君の為の部屋なんだから。一発でそれと解かるように、ね?」
得意気にそう言うひかりに、苦笑する雄介。ロックが解除されると、扉が静かに開いて行く。
パチッ、ひかりが部屋の電気をつける。一瞬、眩しそうなに目を細めた雄介の顔が、次の瞬間ほころぶ。
「おおっ!」
そこに並んでいるのは、雄介・クウガの鋼の脚となり戦場を駆けた2台のマシン。
トライチェイサー2000と、その後継機ビートチェイサー2000であった。
そしてその奥に、もう一つの影・・・クウガのしもべ、装甲機ゴウラム。
「久しぶり、みんな元気そうだな。ピカピカにしてもらってるし。」
1台1台を優しくなでながら、声をかけていく雄介。
「一条君がね」
不意にひかりが口を開く。
「一条君が上層部に掛け合ってくれたのよ。いつか君が帰ってくる時のために残しておいて欲しいってね。」
ひかりからマシンが科警研で保管される経緯を聞かされ、雄介はもう一度愛しそうにマシン達を眺めた。
「そっかぁ、一条さん・・・」

「これからどうするの?もう少しゆっくりして行けばいいのに。」
ビートチェイサーに跨りエンジンをかけている雄介に、名残惜しそうにひかりが言う。
「すみません。これから挨拶廻りでもしようと思ってるんです。まずは椿さんトコから。」
ヘルメットを被りながら申し訳なさそうに頭を下げる。
「うん、わかった。でも又来てよね!もしかしたら一条・・・」
「え?」
「あ、ううん。何でもない。絶対よ!約束したからね!」
「ハイ!」
そう言ってサムズアップする雄介に、ひかりもまたサムズアップを返す。
走り去るビートチェイサーを見送りながら、ひかりはさっき口にしかけた言葉を思い返した。
「一条君がまたこっちに来る理由・・・五代君には言えないよね・・・彼はもう充分戦ってくれたんだもん。」

(7)

一方のアギトとG3・X。
怪人の去った後、まだ腹部にダメージの残るアギトは肩で息をしながら、精神波でマシントルネイダーを呼ぶ。
その時、こちらへやって来る雄介と一条に気付く。アギトの姿を見つけ、雄介は少し驚いた顔をして隣の一条に尋ねる。
「一条さん、向こうの青い人は科警研で見たんですけど、こっちの人も警視庁の開発したスーツかなんかなんですか!?」
「いや・・・おそらくレポートにあった『アギト』と呼ばれる存在だろう。」
真っ直ぐにアギトを見つめる一条、思わず目をそらしてしまうアギト。
(うわ!あの刑事さん、こっち見てるよー。まさか俺の正体に気付いたとか!?いやまさか・・・
でも氷川さんと違って有能そうな人だし・・・)
「あ、あの、もしかして!」
少々困惑気味のアギトの横から、大いに興奮気味のG3・Xが身を乗り出す。
「以前未確認対策班でご活躍されていた、一条刑事でいらっしゃいませんでございましょうか!?」
興奮のあまり敬語が滅茶苦茶になっている・・・
「あ、ああ、そうです・・・」
G3・Xを装着したまま迫る誠の迫力に押され、身じろぎする一条。
「やっぱり!ボク、尊敬しているんです!一条刑事の勇気!行動力!射撃!それに、それに・・・!!」
「す、すまないが、せめてマスクを外してくれないか・・・?」
「!?あ、す、すすす、すみません!失礼しました!」
慌ててヘッドパーツを外そうとする誠だが、急ぐあまり手元が狂って中々外せない。
(ふぅ、ホントに不器用なんだから氷川さん・・・)
「アギト、って言うんだ。」
誠のふきっちょ加減を半ば呆れながらも見つめていたアギトは、突然呼びかけた声の方を振り向く。
そこにはアギトをじっと見つめる雄介の姿があった。
その瞳は仲間を得た喜び、その境遇の辛さを知る者としての同情など複雑な色を写している。
雄介は胸ポケットから一枚の名刺を取り出し、アギトに差し出す。
そこに『夢を追う男・2000と51の技を持つ男・五代雄介』と書かれている。
「俺は五代雄介。またの名はクウガ!警察の人には『第4号』とか呼ばれてたけど。」
「2年前の活躍はホントに・・・よ、4号!?」
あっけらかんとそう言う雄介に、一条に一方的にまくし立てていた誠が過剰に反応する。
「4号って・・・対策班に協力して未確認を倒し、消息が不明になってるあの4号ですかっ!?」
「あ、は・・はい。その4号ですけど・・・」
「そんな・・・だって4号と言えば雄々しく、孤高で、・・」
誠の中で一条と同じ位英雄視されているクウガと、目の前にいる雄介ではよほどギャップがあるのか、パニックになっている。
「本当だよ。それに君が思っているような奴では未確認との戦いは続けていられなかったろう。彼だからこそ、やり抜けたんだ。」
そんな誠を一条が優しく諭す。
苦笑しながら、改めてアギトの方を向く雄介。しかしアギトは到着したトルネイダーに乗るや、一目散に駆け出した。
「あ、ちょ、ちょっと待って!」
「すみません!俺の正体はまだ言えないんです!」
制止しようとする雄介に詫びながら、走り去るアギト。
「ああああ・・・・」
虚しく空を切った手を持て余す雄介、その肩を一条が叩く。
「この後付き合えるか?アギトに関しては・・・心当たりがある。」
「あ、はい。」
二人がそんな会話をしているとは、未だパニックから立ち直らない誠は知る由も無かった・・・

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