【よく使われる動物生薬(2)】


ゴウカイ     スイテツ
ジャコウ     ボウチュウ
ロクジョウ     シャチュウ
カイバ     ゼンカツ
ゴオウ     リュウコツ
シカシャ     ドベッコウ

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スイテツ(水蛭)

現在ではヒルそのものを見かけなくなった。佐賀は田園地帯で子供の頃はクラスの殆どが農家であった。ゴールデンウイークは茶摘の手伝い、それが終わり6月には田植えが控えていた。その時期は「農繁休」といって数日に渡って学校は休みだった。水田に裸足で入って手伝っていると、どこからともなくヒルが集まりそれが足の周りに何匹も吸い付く、痒くなって気づくと血が流れだす。吸い付いたヒルは執拗に離れず嫌な思いをした。このヒルはせいぜい5cm程度、しかし、時には10〜15cmもあるヒルが居た。このヒルが薬用になるウマビルである。ヒルはヨーロッパで古くから薬用として使われ、1929年までは各国の薬局方に収載されていた。生きているヒルを患部の皮膚に吸い付かせ血液を吸収させる瀉血療法に用い、主に脳溢血、急性緑色色盲、角膜疼痛に応用された。打撲などの内出血で暗紫色になった部分にヒルを置いて吸着させると正常な皮膚の色に回復する。ヒルの唾液は抗凝血作用があるため、ヒルが離れた後の血はしばらく止血しない。このような観察から薬として利用されるに至ったものと考えられる。

新鮮なヒルの唾液腺にはhirudinという抗凝血素や凝血抗素ヘパリン、抗血栓素などを含む。hirudinを家兎に注射すると血液は長時間流動性を保ち、これから分離された血漿、血球、thrombinなどはこれにfibrinogenを添加しても凝固しない。この血液凝固抑制と溶血作用から血病を治す要薬として応用する。血滞閉経、オケツ、硬結、腫瘤、打撲による内出血、癰腫など。オケツの中でも、とくに陳旧性の頑難なものに用いる。溶血作用があるため内服の場合、妊婦は禁忌である。癌などオケツのはなはだしい病態に使用するが、なにぶんヒルを粉にして服用する為、味覚や気持ちの上で克服すべき問題がある。自家製造の丸剤を分けて頂いて用いていたが現在では入手困難になった。

ボウチュウ(虻虫)

ヒルが血を吸うならアブも吸う...ならば同様な働きは備えているはず。確かにそのとうりで、ヒルと同じような病態に使う。牛馬の血を吸うが人も刺す。「じく〜っ」とした痛みを覚えるとアブが止まっている。これを採集するのは血を吸ったものが好ましいといわれる。捕獲するとき叩き潰してはならない。日乾か陰乾し、頭、脚、翅を取り除き、生のままか炒って用いる。ひと夏で数十匹ほど採集したことがあるが、保存しているうちに虫が発生しボロボロになり使用に耐えなかった。軽いため、まとまった量を集めるのは大変な根気と時間を要する。「蚊」も同じように利用できるかも知れない。

有効成分は未詳だがアルコールや水性エキスには血液凝固阻止作用や溶血作用がある。「婦人の月水不通、積聚、賊血(オケツ)の胸、腹、五蔵にあるものを治し、喉痺の結塞を除く」働きから駆オケツ薬として用いる。ヒル同様、強い破血効果があるため堕胎を目的に使われることもある。したがって妊婦には禁忌である。血行障害による無月経・腹腔内腫瘤、打撲外傷の腫脹・疼痛など。

シャチュウ(庶虫)

ゴキブリといっても家に出没するものとは異なる。薬用とするものは幾種かあり、ゲンゴロウもシャチュウとして用いる。写真はサツマゴキブリで中国南部、香港、日本に分布し木の葉や樹液などを食物とする。北限地の薩摩にまとまって棲息するためこの名がついている。南方の戦地に赴いた方の話では、食糧が欠乏したとき油で炒め蛋白源ともなった。ヒル、アブと似た薬効があり、一緒に配合して用いることが多い。

成分は未詳で血液凝固阻止作用、溶血作用が報告されているが、追試実験を行うと明確な作用として確認できない。「産後の血積、負傷時のオケツを去り、舌下の膿腫、鵝口瘡、小児の腹痛、夜啼きを治す」という。小児夜啼きには民間薬で孫太郎虫というトンボの幼虫が知られている。おそらく、夜啼き、疳の虫の原因を蛋白質などの栄養不足に求めたのであろう。この点でも動物生薬の存在意義がある。駆オケツ作用のほか鎮痛作用もある。血行障害による無月経・腹腔内腫瘤、打撲外傷の腫脹・疼痛、口内炎、乳汁不通などに応用される。

ゼンカツ(全蝎)

キョクトウサソリと言い、マムシやムカデなどと同じく毒をもつ動物生薬の一つである。まだこの生薬を用いた経験がない。いままで数人の方が買い求められた程度である。これを入荷したとき、すぐに封を開けた。名状しがたい激しい臭気に思わず封を閉じる。それもそのはず、捕らえたものをまず真水か食塩水に入れ、死ぬのを待つ、鍋に入れ食塩を加え、ゴザと木の板で蓋をし水がなくなる寸前まで3〜4時間煮て仕上げる。臭いのが納得される。欧州では昔広く用いられ、その適用は膀胱結石、各種の咬毒、黄疸、痛風、炎症、伝染病の治療、外用として坐骨神経痛などであった。

サソリ毒は蛋白質で一種の麻酔毒といわれている。薬物で痙攣を誘発したマウスに投与して痙攣抑制効果が認められた。また血管運動中枢を抑制することによる血圧降下作用、鎮静作用がある。しかし、サソリ毒は血管を収縮したり心臓を興奮させ、血圧を上昇させる。毒蛇の神経毒と類似しているが作用は一時的である。蛋白質なので内服では胃酸により失活する。漢方には六淫「風・寒・熱・湿・暑・燥」という病因の考え方があり、そのうち「風」には風邪などをひきおこす外界からのものと、体内の生理機能の失調による痙攣、震え、半身不随、顔面麻痺、眩暈などをひきおこす「内風」がある。サソリは専らこの内風を鎮める効能を持つ。鎮痙薬として、ひきつけ、破傷風などに、鎮痛薬として、関節痛、頭痛、瘡腫に、解毒散結の効があるので瘡瘍腫痛にも用いる。

リュウコツ(龍骨)

龍骨とはいえ龍の骨ではない。骨の大きさなどから龍の骨を想像させたのであろう。実はマンモスなど古代哺乳動物の骨や歯の化石なのだ。骨に比べ歯はさらに希少なため「五色の龍の歯」と名づけられたものもある。産地は中国、インド、南アフリカなどがあげられ、日本では瀬戸内海沿岸地方で頻繁に発見された。龍骨が象の化石であることを最初に唱えた人は平賀源内である。化石化しているので硬そうではあるが容易に破砕され粉末状になる。これらの化石から古代に書かれた甲骨文字が発見された。

主成分は炭酸カルシウム46〜82%で、そのほかSi、St、Zr、Rb、K、Ti、Al、Zn、Mn、Cu、S、Cl、Cr、Fe、U、I、As、Y、などの元素が検出されている。また化石化の段階で周囲の肉質が骨に浸透し、微量のアミノ酸が含有されるものと思われる。カルシウムとして精神安定作用があり、ノイローゼ、ヒステリー、失眠、驚癇、頭暈、目眩に、また収渋作用があるので遺精、崩漏、虚汗、泄瀉、帯下に用いる。陸のカルシウムが「龍骨」ならば、海のカルシウムは「牡蛎」である。この2つの生薬の効能はよく似ており共に用いられる事が多い。しいて違いを述べるなら龍骨は鎮驚に勝り、牡蛎は軟堅、消核の効に勝っている。

ドペッコウ(土別甲)

スッポンは精力増強を狙って料理に供せられる。生き血をワインで割った食前酒から、刺身、てんぷら、鍋もの...等々がフルコースとしてある。やや疲れを見せ始めた男性は、これでスッポンのパワーを頂いたような気になるのだろう。女性が好んで食べる話はあまり聞かないので、おそらく男性特有の願望を満たす料理と言ってもよい。しかし甲羅は女性特有の子宮筋腫という病気に繁用する。甲羅には硬くなった子宮の瘤を軟らかくする作用がある。漢方では甲羅を専らとするが、古くは頭、肉、脂、血すべてを補薬として用いた。スッポンの黒焼きとして丸ごと用いる例がないわけではないが、普通は甲羅のみを利用している。

成分や薬理作用は未詳であるが、陰を益し、熱を除き、能く結を散じ、堅を軟らかくする効がある。このことから解熱、強壮、駆オケツ薬として、肺結核、マラリアなどの発熱、肋下の痞硬、硬結、経閉時の腹痛、腰痛などに用いる。ちなみにクサガメの甲羅は亀板といい、補血、止血の作用があり月経過多、崩漏、帯下など、相反する効能になっている。

 

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