【雑記帳(食養)】


生産、加工、外食産業および普通の料理店まで、広がりをみせる食を巡る産業は巨大なマーケットといわれている。愉しみやファッションの域まで謳歌される「食」を考えると、このまま流れ流され漂流を続けてよいものか考えさせられる。

我々は食の情報を一体どこから得ているのか?テレビや雑誌などを通して巨大な食品産業のプロパガンダが行われ、連日膨大な量の食情報や食番組に溢れている。健康を扱った善意の情報と思っているとスポンサーが食品産業であったり、人気タレントがドラマの中で食べたものがスポンサーの扱う食品だったり、明に暗にプロパガンダの網は張り巡らされている。しかしときに善意の情報(企業のヒモ付でない)も流れる。企業の情報がダメというのではない、販売当事者の話は真実の説得力に乏しいことが多いのだ。圧倒的な力で席捲する業界の情報とは異なる決して忘れてはならない情報を紹介したい。少なくとも、私は、これらの事をいつまでも記憶に留めておきたい。

アクリルアミド
マグネシウム
アレルギー原因食品
動物的食感
抗生物質などの残留規制
牛乳に高濃度ダイオキシン
食 災
食材の変遷
遺伝子組換え作物

 


アクリルアミド

厚生労働省の02年10月の発表になるが、炭水化物を多く含むイモ類などを焼いたり揚げたりすることで人体に有害なアクリルアミドを生成すると言う。これは02年4月のスウェーデン政府による最初の発表を受けてのものである。炭水化物はヒトの主食として大切な栄養素なので気になるところである。問題になっているのはポテトチップスやポテトフライ、クッキーなどである。調理前のこれらの食材にはアクリルアミドは検出されていないが、100℃よりはるかに高い180℃ほどの油で揚げたり、オーブンの高熱に晒すことでアクリルアミドが発生した。これは炭水化物中のブドウ糖と穀物の蛋白質を構成するアスパラギンというアミノ酸が反応して生じるらしい。

アクリルアミドは紙の増強剤、合成樹脂、合成繊維、排水の沈殿物凝集剤、土壌改良剤、接着剤、塗料、土壌安定剤などの原料として利用される。その副作用としては短期的には眼、皮膚、気道を刺激し中枢神経系に影響を与えることがある。長期的には神経系に影響を与えたり、末梢神経を損傷することがあり、遺伝子損傷や発癌の恐れもあるという。

国際癌研究機関(IARCInternational Agency for Research on Cancer)による発癌性分類において、アクリルアミドは2A(人に対しておそらく発癌性がある)に分類されている。おそらくという事なので灰色ではあるが、危険性がゼロではない。

【参考】国際癌研究機関(IARC)による発癌性分類

分類

評価内容

人に対して発癌性がある コールタール、アスベスト、噛みタバコ、
カドミウム等
2A 人に対しておそらく発癌
性がある
アクリルアミド、ベンツピレン(肉・魚の焦げ)
クレオソート(木材の防腐剤)、ディーゼル
エンジンの排気ガス等
2B 人に対して発癌性を示
す可能性がある
クロロホルム、わらび、コーヒー等
人に対する発癌性に
ついては分類できない
カフェイン、お茶、コレステロール等
人に対しておそらく発癌
性がない
カプロラクタム(ナイロンの原料)等
 
新しい知見なので現在調査中であるが、厚生労働省の対策としては健康を害する恐れもあるため消費者に次のような注意を促している。
  1. 充分な果実、野菜を含む様々な食品をバランスよく取り、揚げ物
    や脂肪食の過度な摂取を控える。
  2. 炭水化物の多い食品を焼いたり、揚げたりする場合にはあまり
    長時間、高温で調理しないようにする。

ポテトチップスやフライドポテトなどは頻繁に沢山食べるようなものではなく、神経質になる必要もない。しかし、袋を抱えた若者や、大好物という人には注意を呼びかけたい。栄養的にも、油が染みて脂質のカロリーも高くなっている。このようなものを清涼飲料水や炭酸飲料水で流し込むような食生活は無論健全ではない。また、料理の途中でアクリルアミドが思い出されたならば、揚げ物の回数を減らしたり、煮物に変更したり、直火で焼くところを鉄板焼にするなどの対処でリスクの軽減が出来るのではないだろうか。

【参考】アクリルアミド濃度測定結果/最大値〜最小値(単位はμg/kg)

  国立衛研 海外5カ国
ポテトチップス 467〜3544 170〜2287
フレンチフライ 512〜784 <50〜3500
ビスケット、クラッカー 53〜302 <30〜3200
朝食用シリアル 113〜122 <30〜1346
とうもろこしチップス類 117〜535 34〜416
食パン、ロールパン <9〜<30 <30〜162
チョコレートパウダー 104〜141 <50〜100
コーヒーパウダー 151〜231 170〜230
ビール <3 <30
 

マグネシウム

カルシウムはあまりにも有名であるが、マグネシウムも大切なミネラルのひとつであるマグネシウムの不足はカルシウムの不足以上に深刻なものである。マグネシウムは体重1kgに500mg前後含まれ、体重60kgの人で30g位になる。調査の結果、日本人の摂取量は約200〜250mg/日という。マグネシウム研究者によるとカルシウムとの摂取比が1に近づくのが望ましく、カルシウムの1日摂取量に近い400〜500mgは摂りたいものである。

かつての日本は雑穀や野菜、海藻を中心とした食生活で、ほぼカルシウムとマグネシウムのバランスバランスが取れていたようだ。マグネシウムが不足すると、血管、心臓などの循環器系の疾患や、腎結石などの生活習慣病が増加する。

食品中のマグネシウムが不足するのは、精製することによって極端に減少する。

玄米→白米(83%減)
小麦→小麦粉(82%減)
トウモロコシ→コーンスターチ(97%減)

上記のような数字がある。例えば自然塩はマグネシウムが含まれているが、精製するとNaClのみ限りなく100%になる。塩など大量に使うものではないが、挾雑物の存在は味覚の点でも優れている。

カルシウムだけ必要性を叫ぶのは誰のためか?考えざるを得ない。カルシウムが必要なら貝殻や卵の殻を飲んだ方がまだ良い。問題は体を維持するためのバランスなのだマグネシウムの必要性もその要因のひとつである。参考までマグネシウム含有食品10種をあげて見る。

 

食品名

含有量(mg/100g)

1回使用量

  目安量(g) マグネシウム(mg)
玄米

120

50 

60

カキ(生)

84

60

50

39

100

39

キワダマグロ

47

80

38

納豆

73

50

37

茶ゴマ

390

35

カツオ

43

80

34

さつまいも

46

70

32

黒・白胡麻

350

31

ほうれん草

57

50

29

(おおむね、一回の食事の量を基準)

 

マグネシウムもカルシウムと同じく高蛋白・高脂肪食で尿中の排泄量が増加し流出してしまう。カキやキワダマグロ、カツオは正にそれに値する。これらを食べる時は更に多くの野菜や未精白の穀物、胡麻などを同時に摂取する必要がある。
 

アレルギー原因食品

2000年7月厚生省(当時)は急性で深刻なアレルギー症状を引き起こす可能性のある食品24品目に、食品衛生法に基づく原材料表示を義務付けることを決めた。原材料として販売されるものは表示を必要としないが、加工されたものへの表示を義務つけた訳である。表示対象となる食品原材料24品目、厚生省研究班の調査で深刻なアレルギーの原因とされた症例数を表にしてみる。
 
179 牛乳 161 小麦 99
ソバ 59 エビ 31 ピーナツ 19
大豆 14 キウイ 14 牛肉 12
チーズ 11 イクラ 10 サバ 9
イカ 9 豚肉 8 鶏肉 7
サケ 6 もも 6 カニ 5
オレンジ 5 クルミ 4 やまいも 4
りんご 4 まつたけ 4 あわび 4

 

こうして表にしてみると、栄養士が1日1個、1日1本と、お題目のように推奨する卵、牛乳が他を大きく引き離して、アレルギーのエキスパートであるといえる。私が言っているのではない、厚生省の研究班の報告なのだ。

アレルギーは極少量、前の調理の残渣が鍋に付着していただけでも誘発される。健康な人は何を食べても良い。とはいうもののアレルギーの発症機構を考えるなら発症しない健康な人にも、幾らかの負荷がかかる事は間違いない。異物を摂取することの防衛反応はどんなものでも起りうるが、人の食性から離れたものほど起り易いとはいえないだろうか?

卵、牛乳は優れた食材であるのかも知れない。しかしお題目のように、絶対推奨する食材ではないはずだ。栄養士が推奨すればするほど邪推したくなる食材のひとつである。この両横綱は他の食材との混合によってさらに強力なアレルギー反応を引き起こすといわれている。表は単独食材の症例であるが、混合した場合はもっと変化のある症状を引き起こすかも知れない。卵、牛乳はよくよく注意したい食材であり、決して浴びるように摂取してはならない食材でもある。

「うちの卵は有機・有性卵だから大丈夫。」という人がいる。このことはその様な養鶏に取り組んでいる人のセールスポイントでもある。これは間違いである。私は自宅農園で烏骨鶏を20羽まで増やし、有機・有性卵を食べていた事がある。(今はやめている)何故か烏骨鶏の卵を食べた時にかぎって蕁麻疹がでた。市販の卵で起きない事が有機・有性卵で起るのである。アレルギーに関しては健康に育ったものの卵が栄養も濃く誘発しやすいのではないか?というのがその時の結論だった。だから市販の卵が良いとは言わない。得体の知れない餌で育てられたものは、得体の知れない不安がある。

 

動物的食感

「食べたいと思うものは、体がそれを要求している。」という考えかたがある、またそれを信じて実践している人もいる。諸々の栄養学的実験で、この事がいかに危険であるか証明されている。知性の発達しない段階、あるいは発達していない動物の場合本能のおもむくまま食べればよい、しかし知性や感性の発達した人間の場合は違う。証拠に、食べずに栄養障害を起こした人や死に逝く人、食べ過ぎて肥満になり、そのため生活習慣病を引き起こしたり、食べ過ぎて栄養障害を起こした人も発生している。

また信仰食の人々に見られる、極度に敏感な食への感覚も気になるところである。例をあげてみる。「調理に塩1匙増やしたら体がだるくなった。」「いつも50回噛む玄米を20回でのみこんだら便通が悪くなった。」「添加物入りの食材を使ったらイライラして夜眠れなかった。」、、書き出せばきりがない。こんな相談を受ける事もたまにある。一体なんと答えたらよいのか?考え込みながら、気分を害しないよう答えるのに苦労する。一言で「気のせいです」とか「あまり神経質にならないように..」と決めつけるのも憚られるくらい、当人にとっては真剣なのだ。

一体信仰食の指導者はどのように答えるのか興味があり、食養のML(メーリングリスト)で勉強させてもらった。大概、こんな回答が寄せられていた。「栄養学などあてにせず歯の形状に従い自然な感性で食べましょう」「食材を煮込む時間を倍にしましょう」「噛む回数は35回くらいに増やしましょう」「砂糖は特に良くない、ゼロにしましょう」「塩をあと0.5杯減らしましょう」これでアトピーや癌やリウマチが治ると言うのだ。信じ難いが実際このような指導で体調の変化や改善の起る人が居るのだ。ひとつまみの自然塩や野菜の一皿で体が変わると信じている人にはそれが起りうるのである。

食欲や嗜好をもとにした飲食は危険である事はすでに述べた。しかし同じく信仰による飲食、観念による飲食はもっと危険である。

栄養学はアテにならない事もあるし、おかしな指導が行われる事もある。栄養学の不備を幾つか取りあげて、それを根拠に全否定する事は出来ない。やはり栄養学を基礎としなくてはならない。栄養学の知識は、第6番目の栄養素として欠かせないし欠かす訳には行かない。感覚や食物の嗜好に流されるばかりではなく、この知識に照らし合わせた食生活が大切であろう。食の偽装や、感覚や情緒に訴える宣伝によって、食と健康の本質を見失わない為にも。

 

抗生物質などの残留規制

抗生物質、合成抗菌剤、寄生虫駆除剤、ホルモン剤、これらの薬品は家畜や養殖魚に使われるものである。抗生物質、合成抗菌剤に関しては残留が禁止されていた。畜・水産食品である肉・牛乳・卵・養殖魚介類などに何らかの化学物質が残留しているだろうことは薄々気付いてはいた。この他にも環境汚染物質なども当然あるに違いない。禁止されているものは検出されてはならないのだが、そうであったのは1995年までで、厚生省(当時)はこの年を境に抗生物質の残留規制を緩和したのである。この記事は比較的大きく掲載された。消費者団体から強い反対の声もでていた。

寄生虫駆除剤、ホルモン剤に関しては、それまでも基準値は設けられていなかった。これらとともに抗生物質にも、ゼロ基準を設けるべきであるというのが消費者団体の主張である。抗生物質の使用は欧米でも残留規制が緩和されている。ところがホルモン剤に関しては米国・豪州が使用可、EUは使用禁止となっている。抗生物質の残留規制緩和に関しては米国などからの外圧によるものである。食品を輸入に頼っていると避けられない問題でもある。

休薬期間を設けるよう義務付けるとはいえ、そのチェックは誰が一体どのような方法で行うのか?果たして罰則はあるのか?近年騒がれている環境ホルモンはプールに1滴という極々微量で作用する。これを考えるとどうしてもゼロ基準は欲しいところである。たとえ1%でも、基準値や目標値を決めたとたん境界が曖昧になり蹂躙される。誤差の範囲だとか、検査のミスだとか、理屈はいくらでも作り出される。

大きな記事だったのに、大きく騒がれる事もなく忘れ去られてゆく。そして見る限り、何も変わっていない肉や牛乳や刺身を食べ続けている。

 

牛乳に高濃度ダイオキシン

ごみ焼却場から発生する強力な発癌物質を知らない人は居ないと思う。ごみ焼却場に近い牧場の乳牛から採った牛乳と、牛乳から抽出した乳脂肪から高濃度のダイオキシンが検出された。乳脂肪は1gあたり4.6ピコグラム(4.6g/1兆)、牛乳は0.2ピコグラム。乳脂肪に関しては、欧州各国の規制基準では廃棄処分される濃度に近く牛乳に関してもかなり問題のある数値であった。

焼却場から離れるとダイオキシン濃度は低くなり、牛乳の場合5km以内で0.2ピコグラム、10kmで0.1ピコグラム、20kmで0.05ピコグラム、30kmで0.04ピコグラムとなる。

日本には牛乳や乳製品のダイオキシン規制はなく0.2ピコグラムが検出された牛乳を2500ml飲んだ場合、ダイオキシンの摂取量が500ピコグラムになり体重50kgの人で、「1日に体重1kgあたり10ピコグラム」としている許容摂取量に達する。この基準は欧州各国に比べて甘いという。牛乳についての調査であるが、他の農産物も同時に汚染されているため食品全体で摂取される総量は当然増えてくる。

汚染された牧草を食べた牛はその汚染物質を体内で濃縮させる。そしてその分泌物である牛乳からは更に濃縮された汚染物質が検出される。食物連鎖の頂点に立つ「人間」に行き着く時には一体どれくらい濃縮されるのだろうか?

研究者がこうした数字をあげて規制や対策を提言しているというのに、厚生省のコメントは「市販、問題ない」と...かつてチェルノブイリ原発事故の時、放射線で汚染された食品が、規制の甘い日本へ直接、あるいは間接に流れ込んだという話がある。食物を自給できない国の不憫なところである。

 

食 災

最近の子供は、、とは昔からある決り文句ではあるが、これは極最近の子供の調査である。日本体育大・体育研究室1995年の「最近増えている体のおかしさ」という子供達の調査である。
 
 

症   状   (%)

幼稚園 1.アレルギー    74.8
2.すぐに「疲れた」 73.9
3.皮膚がカサカサ 68.7
4.背中ぐにゃ    56.5
5.ぜんそく      53.0
小学校 1.アレルギー    88.0
2.すぐに「疲れた」 77.6
3.視力が低い    76.6
4.皮膚がカサカサ 71.4
5.歯並びが悪い  70.8
中学校 1.アレルギー    87.6
2.視力が低い    84.3
3.すぐに「疲れた」 71.9
4.腹頭痛を訴える 71.1
5.平熱36度未満  70.2
高校 1.アレルギー    88.8
2.腰痛        80.4
3.腹頭痛を訴える 76.6
4.すぐに「疲れた」 74.8
5.首・肩の凝り   73.8
 
この調査結果は食の変化と対応させての考察がなされていた。豊かな食材が世界中から集まるグルメ王国日本で、現実には貧しい食生活が営まれているという皮肉な話である。家族バラバラの食事時間。中には朝食抜きの子供もいる。空腹を満たすため向かう先は、添加物の多いコンビ二の弁当や油脂たっぷりの食物と清涼飲料水である。これらは殆ど咀嚼する事もなく、飲み込むように摂取される。軟らかい食材が増え噛むことが減ると顎の筋肉が発達しない。その筋肉は眼の筋肉に連動し視力の低下をもたらすという説がある。また噛まない事により脳への刺激が減少し、知能の発達が遅れるケースもあるという。

この話は幼稚園児での経験が書かれた「牛乳は完全栄養食品ではない」岩佐京子著という本からであるが。殆ど噛まずに摂取される牛乳中心の食事をしている子供に言葉を喋れない子供が多いという。そこで牛乳をやめ噛む食事に切り替えたところ、喋れるようになったという話だ。牛乳がダメとは言わないが、もし完全栄養食と信じて水代わりに飲んでいる人は少し減らしてみませんかという報告であった。牛乳は極端な例であるが、食の軟化は人間の軟化でもある。顎に力の入らない喋り方をする若者を見てると、嘆かわしい。(歳老いた証拠かも知れないが..)

食材の変化は他の項目でも再三触れているが、食物の硬軟、食卓を囲む風景によっても体や心に変化をもたらす。箸の持ち方ひとつをとっても、そこで食をはじめ、社会で生きてゆくための訓練が自然に行われなければならい。まさか箸の持ち方まで学校で、、という親は居ないだろう。欲望や安楽な流れに抵抗してゆくことは勇気や決断がいる。しかしひとこと、「否」という事も必要ではないか?

なにも食だけが原因ではない、祖父母も含め家族全員で食卓を囲んでいた時代を懐古するつもりもないが、誰からともなく話が行き交う最小単位の平和が食によってもたらされるなら軽視する事は出来ない

 

食材の変遷

戦中戦後、極度の物資不足の時代を生き抜いた人の話では、とにかく食うものがない戦地では蛇や蛙の類さえ居なくなるほど食べ尽くしたらしい。とても想像はつかないが子供の頃、ミカン泥棒や柿泥棒、また畑のすいか泥棒で先生に怒られた事がある。今の子供は、こんなものに見向きもしない。たわわに実った柿を盗むものなど居ない。それよりTVゲームを見ながらのスナック菓子や清涼飲料水がよほど味覚に合うのだろう。少しでも飢えを経験した世代が、砂糖や脂にまみれた食物と思うものでも、今の子供には、これが当たり前の食物なのである。

【摂取量の変化の大きい食品群の年次推移】 ー単位:gー

  ’50 ’55 ’60 ’65 ’70 ’75 ’80 ’85 ’90 ’95
緑黄色野菜 75.6 61.3 39.0 49.0 50.2 48.2 51.0 73.9 77.2 94.0
調味嗜好飲料 32.0 42.4 55.2 87.8 126.7 119.7 109.4 113.4 137.4 190.2
牛乳・乳製品 6.8 14.2 32.9 57.4 78.9 103.6 115.2 116.7 130.1 144.4
肉 類 8.4 12.0 18.7 29.5 42.5 64.2 67.9 71.7 71.2 82.3
米 類 338.7 346.6 358.4 349.8 306.1 248.3 225.8 216.1 197.9 167.9
砂糖類 7.2 15.8 12.3 17.9 19.7 14.6 12.0 11.2 10.6 9.9
果実類 41.5 44.3 79.1 58.8 106.3 193.5 155.2 140.6 124.8 133.0
脂肪類 2.6 4.4 6.1 10.2 15.6 15.8 16.9 17.7 17.6 17.3

 

米類の摂取(1/2倍)が激減しているのに比べ、牛乳・乳製品の摂取(20倍)、調味嗜好飲料の摂取(6倍)、肉類(10倍)、脂肪類(7倍)増えている。調味嗜好飲料の中には砂糖類が含まれるので、砂糖類の摂取は更に多いものになる。50〜60年代、テレビが急速に普及し、インスタント食品の開発もはじまり、テレビでその宣伝が流されるようになる。60〜70年代は加工食品ブームがおこり、スーパーマーケットが急増しファーストフード、ファミリーレストランが流行りだす。そして70年代後半から健康志向の食品の開拓が始まる。この頃から飽食の時代が始まったのだろうと思われる。いよいよ食物を捨てたり、グルメや健康食を求める豊かな時代を謳歌するようになったのである。それに比べ食物の自給率はどんどん低下してゆく。いまや偽装しなければならないほど国産の食材が少なくなっている。

食材の変化は豊かさの変化でもある。手に入れたものに比べ、失ったものが大きすぎはしないかと考える事もある。厚生省「国民健康調査」によると('55→'81)を比較すると、糖尿病(26.5倍)、高血圧(22.3倍)、心臓疾患(9.3倍)、リウマチ・膠原病など(9.3倍)となっている。病院への受診率や検査方法の変遷もあるだろうけどこれらの数字は何を意味するのだろうか?ひとつ、食物や食生活に帰納する議論は拙速かも知れないが、どう考えても食との関係を思わざるを得ない。

食の安全や食による健康を取り戻すため、時間を戻す事は出来ない。突き進んできたものは行き着くところまで行き着くのだろうと諦めている。

 

遺伝子組換え作物

うちは有機無農薬だから大丈夫と思っていたら大間違い、今や何事も信じられない時代となった。特に雪印の牛乳事件以来、偽装、誤魔化し、隠蔽、責任逃れは食品業界の業務の一部かのようでもある。無許可・高濃度の残留農薬も恐ろしいが、遺伝子組換え作物は、人体に対する影響が明らかにされていないだけに更に恐ろしい。昆虫がその作物を食べたあと、ほどなく動きが鈍くなり、やがて死んでゆく写真を見ると、虫はイチコロ、人はジワリ、程度の差はあるにしても安全なわけがないと思ってしまう。

第一に利益を優先するのが企業の姿勢である。社会的使命とか道徳など利益の次の次に来るものであろう。またそれでこそ企業たりうるのかもしれない。お客様本位とは、たてまえであって、本音はどうなんだ、詫びつつも次の隠蔽を画策している企業の姿勢に憎悪が湧く。毎度「このようなことが二度と起こらぬように」とのコメントが出されるが、いつの間にか同じ事が繰り返される。どんなことでも、いつでも起こり得ると思っていなければならいのではないか?そして、起ったとき、それを回避し、被害を最小限に留めるため、どんな心構えが要るか位は考えておいた方が良い。棚に並べて供給される物を手に入れる時にも少し立ち止まって見よう、、、さらに食材の構成や調理、食べ方についても。

次の表は2000年、厚生省の食品衛生調査会常任委員会が表示を義務付けるべきだと報告した遺伝子組換え食品の一覧である。

 

 

加工食品

対象農産物
豆腐・油揚げ類 大豆
凍豆腐・おから・ゆば 大豆
納豆 大豆
豆乳類 大豆
みそ 大豆
大豆煮豆 大豆
大豆缶詰・大豆瓶詰 大豆
きな粉 大豆
大豆いり豆 大豆
10 1〜9までを主な原材料とするもの 大豆
11 大豆(調理用)を主な原材料とするもの 大豆
12 大豆粉を主な原材料とするもの 大豆
13 大豆蛋白を主な原材料とするもの 大豆
14 枝豆を主な原材料とするもの 枝豆
15 大豆モヤシを主な原材料とするもの 大豆モヤシ
16 コーンスナック菓子 トウモロコシ
17 コーンスターチ トウモロコシ
18 ポップコーン トウモロコシ
19 冷凍トウモロコシ トウモロコシ
20 トウモロコシ缶詰・トウモロコシ瓶詰 トウモロコシ
21 コーンフラワーを主な原材料とするもの トウモロコシ
22 コーングリッツを主な原材料とするもの
(コーンフレークを除く)
トウモロコシ
23 トウモロコシ(調理用)を主な原材料と
するもの
トウモロコシ
24 16〜20までに掲げるものを主な原材料
とするもの
トウモロコシ

 

遺伝子組換え作物が使用された場合、農産物そのものはもちろん、それを使った加工食品にも表示が義務付けられた。さらに遺伝子組換え作物が紛れ込む可能性がある場合で、そのチェックが出来ないときは「組換え不分別」の表示が必要となった。大豆を原材料とする味噌や醤油、安い美味いの宣伝で飛躍的に伸びた発泡酒のコーンなどがあるが、まだ表示のあるものを見たことがない。あまり買い物をしないから見あたらないのかも知れない。遺伝子組換えに対する危険性は、消費者団体などが散々指摘してきたので企業も当面は使用しないよう自粛しているのだろうと思われる。堂々と表示すればイメージダウンは避けられない。しかしこれで遺伝子組換え作物の使用が頓挫した訳ではない。企業側から見れば、一歩前進なのだ。曲がりなりにも遺伝子組換え作物が認知されたのである。

彼らは5年後、さらに10年後の食市場を見据えているのだ。「遺伝子組換え作物使用」
の文字が、横並びに一斉に表示される日が、いつ来るのかは解らないが、必ず来る。今はむしろ、表示義務のない「遺伝子組換え作物不使用」の表示が目立つ。これも営業戦略で、使っていないから安全ですよという売り込みを意味する表示なのだ。

有機やオーガニックの表示は、消費者に安心を与える。特に神経質な消費者は、その表示だけを頼りに入手していると言っても過言ではない。2002.8.29の新聞記事では、「有機食品として販売されている豆腐、納豆を農林水産省が抽出調査した結果、、76品目のうち25品目から、有機食品に使ってはならない遺伝子組換え大豆が検出された」

どんなことでも、いつでも起りうることが、今まさに起っているのだ。有機という善意の衣をまといつつ、こうして静かに、静かに、一歩ずつ遺伝子組換えの占有率を席巻してゆくのである。

 

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