(7)

都内の警察署、その前で白い怪人と警官隊のにらみ合いが続いていたが、見ると白い怪人の方が玄関を背にしている。
警官隊は通報を受けて駆けつけた救援であり、白い怪人は今署内で行われている、ある行為を邪魔されぬよう
立ちはだかっているのだった。
ある行為・・・それはあの青い石が人を喰らい、復活する事に他ならない。今、署内の警官は男女問わず次々と餌食とされていた。
「くそっ!このまま睨めっこしてたって埒が開かないぞ!こうしている間にも中のヤツラは・・・!」
だが、闇雲には突っ込めなかった。白い怪人から放たれる闘気が、見えない壁となって警官隊を牽制しているのだ。
どうすることも出来ない不甲斐無さに、杉田はが歯噛みした。
「俺もこんな仕事は好きではないんだがな・・・。悪く思うな。」
「!しゃべった!?日本語を話せるのか?」
かつて、未確認生命体は人間社会に潜伏している間に徐々に言葉を覚えていった。
だが、彼らイレギュラーは出現してからまだ日が浅い。それが何故・・・?
「俺達は、吸収した人間から自分達に有益な情報を引き出す能力を持っている。お前達の言葉を話せるのも、そういう訳だ。」
杉田の疑問を察したかのように、怪人は答える。付け加えると、吸収した数が多いほど話し方も普通になって行くのだ。
「お前達の目的は何だ!?まさか、またゲームなんて言うんじゃないだろうな!」
「ゲームだと?違うな。我らが人間を襲うのは単に『生きる』ためだ。お前達も他の生物を殺し食料とするだろう。我々も同じだ。
ただその標的がお前達人間だという事・・・それだけだ。」
「なっ・・・!?」
事も無げにそう答える怪人に、警官隊は全員が言葉を失う。

そこに杉田の連絡を受けた一条も到着した。
「杉田さん!」
「お、おう一条・・・」
呆然としていた杉田がはっと我に返り、駆け寄る一条の方にふり向いた、その時!
「たっ、助けてぇー!!」
署内から一人の婦人警官が玄関を目指して逃げ出して来ようとしていた。だが、あと一歩で外に出られるという瞬間、
背後から不定形の『モノ』が恐ろしい速さで近づいたかと思うと、先端が手のような形に変わり婦警の後頭部を鷲づかみにした。
「ダメ・ダヨ?モウ少シナンダカラ・・・」
婦警を捉えた『モノ』がそう言うと、婦警の体が『モノ』から放たれる光に包まれ始めた。
「いやぁー!誰か、助けてぇー!!」
悲鳴も虚しく婦警の全身は光に包まれ、次の瞬間には跡形も無く消え去った。これが先程白い怪人の言った「吸収」なのか。
婦警を吸収した『モノ』は徐々に人の型に固定され始めた。いや、人ではない。
固定し終わったその姿は龍を思わせる異形の青い怪人であった。
「フウ・・・トリアエズ・腹八分ッテトコ・カナ?」
青い怪人はそのまま玄関を抜け、外に出る。
「ネエ・食後ノ運動ッテヤツ・ヤッテイイカナ?」
まるで子どものように、白い怪人にそう尋ねる。白い怪人はチッと舌を鳴らし、
「好きにしろ。」
とはき捨てるように告げると、自分の仕事は終わったとばかりに踵を返した。
その言葉を待っていたかのように、青い怪人は舌なめずりしながら警官隊に向かって歩き出す。
「マタ・オ腹スイチャウ・カモネ。デモ・ソシタラ又食ベレバ・イイカ。」
警官隊はまるで蛇に睨まれた蛙のように動けない。勇猛で鳴らした杉田でさえ、手にしたマグナムが小刻みに震えている。
だが唯一人、一条だけが恐怖心に打ち勝ち、青い怪人に銃を向ける。
「ほう?」
そんな一条を、白い怪人が歩を留め興味深げに見つめるが、一条本人にそれに気付く余裕はなかった。
青い怪人は確実に近づいてくる。
「くっ!」
一条が引き金を握る指に力を入れようとした時、警察署に向かって走り込んでくるバイクがあった。
「変身!」
その声に合わせ、バイクと乗っている男の姿が変わる。それはベルトの感覚を頼りにやってきた翔一:アギトとマシントルネイダー!
アギトは青い怪人目掛けて突っ込み、寸前で自らは飛び降りる。
「ガッ!?」
トルネイダーの直撃を受け、署内へと吹き飛ばされる青い怪人。アギトはそのまま一条の目前に着地する。
「クウガ・・・?いや、違う。そうか、報告書にあったアギト・・・」
一条のもらした呟きに、白い怪人の耳がピクリと反応する。頭の中で一つの言葉が復唱されながら段々と増幅されて行く。
(ク・ウ・ガ・・・!)
「やっぱり刑事さんだったんですね。」
「!?」
「危ないですから、早く逃げてください!」
アギトは青い怪人に向かって走り出す。だが、つぶやくように言ったその一言を、一条は聞き逃さなかった。
「まさか・・・彼は・・・?。」
「うわぁぁぁっ!」
アギトの後姿を見つめながら何事か考えていた一条の背後から、警官隊の悲鳴が響く。
「ひとつ尋ねるが・・・。」
はっと一条が振り返ると、警官隊を一蹴した白い怪人がゆっくりと近づいてきていた。その奥では杉田たちが倒れている。
「杉田さん!」
「心配無用・・・。俺は腹も減っていない時に無駄な殺生はせん。それより今、『クウガ』、と言っていたな・・・?
知っているのか、奴を・・・?」
じりじりと迫る怪人と距離をとろうとする一条だったが、たちまち壁際に追い詰められてしまう。
「いけない!」
白い怪人に気付き引き返そうとするアギト、だが、突然何かが襲い掛かってきた。それは跳ね飛ばされた復讐に燃える青い怪人!
「ヨクモ・ヤッタナァァァ!!」
「な、なんて力だ!」
青い怪人は怒りに任せて喉元をギリギリと締め上げながら、アギトを一条のいる方とは逆に引きずって行く。
一条はまさに孤立無援となってしまった。
「答えろ!知っているのか、クウガを!奴もこの時代に復活しているのか!?言わねば貴様を殺す!!!」
先程までの冷静さが嘘のように、白い怪人は興奮状態だった。クウガ、その言葉が否応無く彼の感情を高ぶらせていた。
「例え知っていても・・・殺されることになろうとも・・・友を売るような真似はできない!」
一条は覚悟を決めた。例え今この場で果てる事になろうとも構わない、と。
彼にとっては、何時の日か帰るだろう友の笑顔を真っ直ぐ見れなくなる過ちを犯す事の方がはるかに堪えられなかったのだ。
キッと白い怪人を睨み返す一条。その瞳の決意を見て取った怪人は、冷静さを取り戻した。
「・・・先程一人だけ立ち向かおうとした勇気、命に換えて友を庇おうとする決意・・・貴様を武人と認め、相応の最期をくれてやろう。」
白い怪人の右手の爪が一回り大きく、鋭く変わる。その右腕が大きく振りかぶられ、今まさに一条目掛け振り下ろされる・・・!

フオオン・・・!!
それは一瞬の出来事だった。突如一台の銀色のバイクが怪人の前に走り込んで来たかと思うと、
そのまま急制動をかけて後輪を浮かせ怪人を跳ね飛ばしたのだ。
不意を突かれた怪人は宙を舞い、そばに置いてあった資材に突っ込む。
一条は突然現れたマシンと謎のライダーを見つめて呆然としていた。
覚えている・・・かつて、自ら託したそのマシンを。覚えている・・・かつて、お互いに預けあったその背中を。
謎のライダーはマシンを降りメットを取ると、起き上がろうとしている白い怪人の方へと向き直る。それは忘れられるはずがない顔。
かつて共に生死を架けた戦いをくぐりぬけ、仲間に勇気と、とびっきりの笑顔をくれた男・・・
その名は五代雄介!
雄介が両手を腹部にかざすと、変身ベルト・アークルが出現する。右手を突き出し、雄介が叫ぶ!
「変身!」

次回予告

激突する力と力。クウガとアギト、2人の仮面ライダーの邂逅は何をもたらすのか?
そして涼もまた、否応無く戦いの渦の中に巻き込まれて行く。

第2章:『碧(みどり)』

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