(10)

G3・Xを解除するには科警研に戻る必要があるため、渋々別行動を了承した誠と別れ、
雄介と一条は一条が言う「心当たり」の場所に向かっていた。
信号待ちをしている間に一条は、隣の雄介にずっと気になっていた事を思い切って聞いてみることにした。
「五代・・・さっきは本当に助かった。改めて礼を言わせてくれ。」
「?どうしたんです一条さん?急に改まっちゃって・・・?」
「あの時・・・第0号を倒した時、君の戦いは終わったはずだ。今は警視庁の開発したG3システムもあるし、それに・・・」
「アギトもいるから、ですか?」
「あ?あ、ああ。未確認との戦いは、君にとっても苦い思い出のはずだ。肉体だけじゃなく、精神的にも。
まして争いを好まない君が・・・」
「・・・誰か他の人がやるから、自分はやらなくてもいい・・・そんなの寂しいじゃないですか。
自分にやれる事があるなら、やれる力があるんなら、精一杯やりたいんです。」
「だが、これ以上クウガの力を使えばベルトの神経組織が君の脳に到達して・・・!」
感情を押さえきれず、身を乗り出す一条。本気で自分の体を心配してくれている、それが雄介には嬉しかった。
「それに関しては、さっき椿さんに診てもらいました。・・・もう脳に到達しちゃってるそうです。」
「!!?」
愕然とする一条に、変わらぬ笑顔でサムズアップしてみせる雄介。
「心配しないでください。」
その時、信号が青に変わる。
「っと、それじゃその辺りの事情は行きながら話しますね。」
ビートチェイサーを発進させる雄介、遅れて一条もアクセルを踏む。

<雄介の回想>
科警研を後にした雄介は関東医大病院へとやって来た。受付で椿の所在を確認し、階段を昇る。
目的の階に着いて曲がり角にさしかかった時、奥から走ってきた人とぶつかってしまう。
「うわっととと!」
「すみません!今は急いでますので!」
ぶつかった人は申し訳なさそうに頭を何度も下げながら、急いで階段を駆け下っていった。
「はぁ、何かあったのかな?」
奥の方に視線を戻すと数人の看護婦が誰かを探している。
(ひょっとして、さっきの人を?)
そう思っていると、看護婦の一人が雄介に気付いて走ってきた。
「すみません!この辺で背の高い、スーツ姿の男性を見かけませんでした?」
「ええっと、その人かどうかわかりませんけど今すごい勢いで下に・・・」
「ありがとうございます!もぉ、本当なら安静にしてなきゃいけないのに・・・」
そう言いながら看護婦は階段に走っていく。
「無茶する人って、どこにでもいるんだなぁ・・・」
よく知っている男の顔を思い出し、苦笑しながら雄介は目的の部屋へ歩き出した。

「はぁー、ここも変わってないなぁ・・・よくお世話になったっけ。」
椿のいる部屋のドアの前に立ち、感慨にふける雄介であった。
「ととと、懐かしがってても仕方ない。」
ガチャ、ノブを回し、勢い良く部屋に入っていく。
「失礼しまっす!」
元気一杯に挨拶する雄介。椅子に座ってカルテに目を通していた椿が、椅子を回して向き直る。
「やっと捕まえたか。困りますよ・・・って・・・」
部屋に入ってきたのが自分が探して連れてくるように言った患者でない事と、予想だにしなかった男の突然の訪問で、
椿は一瞬何が起こったのか判らなかった。
「どうも!椿先生、ご無沙汰してましたっ!」
「???ご、五代・・・?五代、五代雄介!!?ホントに、本物の五代か!?」
「はいっ!」
グッ、とサムズアップ。見ると、うつむいた椿の肩がプルプルと震えている。
「あれ?椿さん・・・ひょっとして泣いて・・・?」
顔をのぞき込もうとした雄介、と、その頭がガッチリとヘッドロックされる。
「っこの野郎!人に散々心配かけさせやがって!!連絡の一つくらい、入・れ・ろ・よ・な!!」
雄介の頭をグリグリしながら怒鳴る椿だが、やはり言葉の端々には喜びが込められている。
「痛たたた・・・!ギブッ、ギブッすよ!」
パンパンと椿の腰を叩き、ようやくヘッドロックから開放される。
「まあ元気でやってるみたいだな・・・安心したよ。で?今日はどんな用件なんだ?帰国の挨拶って訳でもないんだろ?」
「はい、今俺の体がどうなってるか確認しとこうと思って・・・」

一通りの検査を終え、雄介の結果を見つめる椿
「・・・五代、結論から言わせてもらう。ベルトから伸びた神経組織は・・・お前の脳に到達している。もはや融合していると言っていい。
だが・・・お前には変わった風な処は無い、よな?『戦うだけの戦闘マシンになる』ってのは、俺の思い過ごしだったか。」
椿は安堵したように椅子の背もたれに寄りかかる。
「・・・俺、考えたんですけど。」
「ん?」
「ベルトの神経と脳が一つになるって事は・・・確かにベルトに支配されるとも考えられるけど、逆に言えば
『完全にベルトの力をコントロールできる』って事じゃないですか。
俺が0号との戦いで自分を失うことなく究極の戦士になれたのは・・・意思の力だと思うんです。
今まで金の力って電気ショックが原因で新しい力が発動したんだと思ってましたけど、ひょっとしてクウガの最初の姿は「黒い戦士」で、
なんか安全装置みたいなモノが働いてたのが俺の意思が霊石の意思にシンクロした時、それが解除されたんじゃないかって・・・。」
椿は黙って雄介の推測に聞き入っている。
「一回目の時も二回目の時も、俺は力を望んでました。もっと強い力を、皆を守れる力を!って。はは、なんか照れますね。
で・・・「凄まじき戦士」の幻を見た時っていうのは怒りで頭が一杯になってて未確認を、こう、ぶちのめす力を!って思ってたんです。
何かを壊すんじゃなくて、何かを守ろうと力を求めた時にだけ、ベルトが本来の力を解放してくれるんじゃないかって思うんです。」
「なるほどな・・・」
雄介のレントゲンを手に取り、椿は目を閉じる。そして意を決し雄介に告げる。
「脳と融合した、という事がどういう事か・・・判るな?もう手術による摘出は不可能だ。話によると例の遺跡にあったミイラも
ベルトが外されるまでは仮死状態だったと言う。お前は・・・お前の体は・・・!」
「・・・もう、普通の人間じゃない、戻れない、って事・・・ですよね?」
椿も雄介の性格は判っているつもりである。だが、この事実はやはり相当ショックのはずだ。しかし雄介のこの落ち着きは一体?
そんな椿の困惑を知ってか知らずか、雄介は言葉を続けた。
「0号と戦った直後の俺だったら、多分かなり凹んだと思います。でも、クウガになったからのう一度廻った世界で
今まで見れなかったモノが見れるようなって、聞けなかったものが聞けるようになって、
行けなかった場所にも行けるようになったんですよ。あ、言っときますけど危ない意味じゃないですからね?
・・・で、色んな人にも会いました。俺と良く似た、いや俺なんかよりずっと過酷な境遇でも決して諦めない、挫けない人達に・・・」
それを聞いた椿は椅子から立ち上がり、雄介に顔を押し付けるようにして聞き返す。
「お前と同じ境遇?どういう事だ?まさか同じような遺跡が世界中に!?」
「うーん、ちょっと違うんですけど。ま、とにかく、その人達に会って思ったんですよ。『なっちゃったモノは仕方ない』って。
それよりも自分に何ができるか、これからその力をどう役立てるか考えよう!って。」
どこか遠くを見つめながら、ガッツポーズを見せる雄介。ふぅっ、と鼻でため息をつきながら椿は椅子に戻る。
「まったく・・・お前らしいと言うか何と言うか。」

病院の駐車場、ビートチェイサーを始動させている雄介と見送りに出てきた椿がいる。
「これから何処に行くんだ?」
「とりあえず挨拶回りしようと思ってます。んー、とりあえずポレポレかな?」
「沢渡さんには、もう会ったのか?」
「あ、そうだ。桜子さんって今何処にいるのかな?もうとっくに卒業しちゃってるだろうし。椿さん、何か知りません?」
「いるよ。」
「え?」
「沢渡さんは、まだ城南大学の研究室にいるよ。誰かさんを待ってから、っていつも窓を開けてな。」
「え、それって・・・」
バシン!突然椿が雄介の背中を叩く。
「早く行ってやれ」
「っ痛―・・・・・。ハイ!」
雄介が発進しようとしたその時、入れっぱなしになっていた警察無線が緊急事態を告げる。
『・・・ガガ、本部より各車へ!・・・署にイレギュラーと思われる怪人が出現!対策班及びG3ユニットにも出動要請!繰り返す・・・!』
「イレギュラー?椿さん、イレギュラーって何です!?また未確認が!?」
「あ、。ああ。お前に余計な心配させまいと黙ってたが、また人間を襲う化け物が出没するようになっちまってな・・・」
「とにかく俺、現場に行ってみます!」
雄介は無線が告げた場所へ向けてビートチェイサーを発進させる。その背中を見送る椿。
「誰かのために・・・だがそれだけで本当に良いのか?五代・・・」

「そうか、そんな事が。」
「はい、それで現場に着いてみたら一条さんがいるわ襲われてるわで、ビックリしたなぁもう!でしたよ。」
「フ、それはお互い様だ。」
「ハハハ。あの、ところで一条さん、なんかこの道って俺すっごく良く知ってる気がするんですけど?」
「ああ、それはそうだろう。ほら、あそこが目的地だ。」
一条が指差す方を確認する雄介。そこにあったのは・・・
「え!?あれって!」
一条の言う目的地、そこは雄介が行こうとしていた店・・・『ポレポレ』であった。

(11)

昼尚暗い森の中、ひっそりと立つ主無き洋館。そこにイレギュラーのゲノム、そしてバゴーの姿があった。
「セルも復活し、いよいよ儀式にとりかかる時がきた。」
「だが、まだクウガを倒していない。儀式を行おうにもまた邪魔されるのではないのか?あの時のようにな。」
「ふむ、この前の戦いではアギトの姿もあったな。だがかえって好都合やも知れぬ。上手くすれば『アレ』が二つも手に入る。」
壁によりかかり腕組みしていたバゴーが、ゲノムの前に歩み寄る。
「アギトは任せる。だが、クウガを仕留めるのはこの俺だ!それは忘れるな。」
「心得ている。」
ふん、と鼻を鳴らしバゴーは部屋を見渡した。
「ところでセルと・・・ジュウザはどうした?気配も感じられんが?」
「2人共腹が減ったと言ってな。出て行ってしまったよ。」
「ちっ、気楽なモンだな。」
呆れたバゴーが窓から空を見上げる。相変わらずの曇り空だ。
「もうすぐだ。その時は存分に戦おうぞ・・・クウガ!」

その頃、赤い怪人・ジュウザはギルスから受けたダメージを回復すべく、女性を襲っていた。
「キャアアアァ!、ア!、ア!、ア、アァァァァァ・・・・・」
また一人、女性を吸収し、ジュウザのダメージは完全に回復した。
「あーもう、あの出来そこない、今度会ったらタダじゃ済まさないわ!とことんまで追い詰めて・・・殺す!」
バサバサバサ!
血塗られた真紅の翼が空に舞う。

次回予告

雄介と翔一、ついに素顔で相対する二人のライダー。そして涼も…
憎しみを露わにして迫るギルスにアギトは?そしてクウガはどう動くのか!?

第3章:『素(しろ)』

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