(10)
ポレポレの店内に3人のライダーが集った、だが、その表情は三者三様・悲喜こもごもであった。
困惑の表情でそわそわと落ち着きの無い翔一、その翔一を穏やかな微笑を浮かべて見つめる雄介、そして…
「そ、そんな!?つっ、津上さんが、津上さんがア、アギッ、アギトォーっ!?!?!?!?」
驚きのあまりパニックに陥る誠。一条と桜子はそれを必死になだめていた。
「えっと、あの、いや…それはその…」
答に窮する翔一の横で、真魚はじっと初対面の三人を見つめその真意を見定めようとしていた。
人間にはいわゆる「第六感」と呼ばれる超感覚が存在する。超能力者である真魚はそれが並外れて鋭い。
以前、翔一がアギトに変身する事実を目の当たりにした時、彼女は意外な程すんなりとそれを受け入れた。
風谷家で共に過ごした時間の成せる業であるという向きもあるだろうが、彼女の直感が彼の本質を見抜き
邪なる者ではないと判断させたのである。今また真魚は目の前の三人の本質を見極めようとしていた。
(長身の男の人…さっき聞いた話だと氷川さんと同じ刑事さんは…炎…でも、暴力的な炎じゃない。
闇を照らし出し、獣を退ける…強い信念に支えられ、揺るぎなく、見ていると勇気付けられる炎。
隣の女の人は…風、かな?春のそよ風みたいな暖かさを感じる人。そして…)
雄介に向き直った真魚は、そこに見たビジョンに言葉を失った。
抜けるようにどこまでも青く澄み渡り、見ているだけで吸い込まれそうな空。それが雄介の心だった。
「…翔一君…この人たちは信用できるよ。大丈夫。」
確信を持ってそう助言する真魚に、翔一も意を決する。
「真魚ちゃん…わかったよ。えっと五代、雄介さん…でしたよね…そうです。俺が…」
朝食を済ませアパートを出た涼とみのりも、涼のバイクで昨日約束した店・ポレポレへと向かっていた。
途中何度か涼は説得を試みたのだが、ことごとく却下されていた。
(俺には客商売なんて無理だってのに…まぁ行くだけ行ってそのマスターに言えば良いか…)
「あっ、芦原さん!そこの交差点を右へ!そしたらもうお店が見えますから!!」
みのりの的確なナビのおかげで、迷うこともなく二人は目的地へ到着した。
「はい着きました。このお店なんですけど…って、あれ…?あのバイク…」
みのりの視線は駐車場の端に留められた1台のバイクに釘付けになった。
見間違えるはずも無い、忘れる筈も無い銀地にブルーラインのそのマシンの持ち主は…
反射的に店内を見渡す。奥の席に座る「その人」を見つけると、みのりの目から涙が零れ落ちた。
「帰って…来たんだ…お兄ちゃん…」
みのりの言葉に、涼も店内・奥の席を覗き込む。
「ん?あいつは…」
みのりの兄らしい男の前の席。そこには涼の見知った男が腰掛けていた。色々あって、涼はその男が苦手だった。
まずいな…と後ずさる涼の背中をみのりが留める。振り返ると、さっきまで泣いていた筈の顔は悪戯っぽい笑顔に変わっていた。
一瞬、涼の頭に嫌な予感が走り、それは的中する。
「芦原さん、私良い事考え付いちゃいました。今お店の中にしばらく会ってなかった私の知人がいるんですよ。」
「ああ、なぜか俺の知ってる奴も居る…はっ!?」
そこまで言って「しまった!」と思った涼だが時既に遅し。更に瞳を輝かせてみのりは言う。
「そうなんですか!?じゃあ好都合ですね。こっそり入って行って脅かしちゃいましょうよ!」
言うが早いか、みのりは涼の手を取り音を立てないように入り口へと向かう。
ドアの鈴を鳴らさないようにそっと開き、中に入る。死角となる奥の席に居るのが幸いし気付かれてはいない。
膝を付き、そろそろとみのりは進んでいく。その後に渋々続いた涼はその時、思いがけない言葉を耳にする―
「…そうです。俺が…俺が『アギト』です」
ドクン!!その瞬間、涼は心臓の鼓動が早鐘のように高鳴るのを感じた。
(11)
無我夢中だった。気がつくと飛び出し、翔一の胸倉を掴み引きづるように立ち上がらせていた。
「っぐ・・・あ、貴方は!?」
翔一は当然物陰から現れ、今自分を締め上げている男に見覚えがあった。
「お前が・・・お前がアギト!?なら・・・お前が亜紀をッ・・・!!!」
明らかに殺意の込められた力で涼が翔一を締め上げる。ここに到って、急展開に呆けていた雄介達も慌てて制止に
入ろうとするが、涼は近付く事を許さない。更に翔一の首を絞める腕に力を込めようとした、その時・・・!
「芦原さんっ!!!!」
飛び出したみのりが精一杯に声を荒げながら涼にしがみ付いた。涼はハッとして一瞬みのりを見たが、すぐに目を逸し・・・
「・・・来いっ!!」
みのりを軽く振りほどき、翔一の服を引っつかむようにしてポレポレから飛び出していく涼。
「みのり!」
「みのりちゃん大丈夫?」
雄介と桜子が駆け寄り、みのりを抱き起こす。
「今の彼は一体・・・?」
「あ、私あの人見たことあります!」
「私も、何度か見かけたことが。殴られたことも・・・」
「それよりっ!早く後追いかけないと!!」
誠の言葉を遮ってみのりが一早く駆け出す。それに雄介、一条、桜子、真魚も続く。
「あ・・・」
「氷川さん!早く!!」
話の腰を折られ硬直していた誠を真魚がせかす。
「え?あ?は、はい!!」
「うわっ!」
抵抗しながらもずるずる涼に引きずられた翔一は、近くにあった公園の芝生に投げ出された。
「ゲホッゲホッ・・・なんでこんな事を・・・?」
「なんで・・・だと!?お前の胸に聞いてみろ!!」
「えぇっ!?え〜っと・・・?」
胸に手を当てて真剣に心当たりがないか考え始める翔一を無視して、涼はゆっくりと体制を整える。
「お前の殺した榊亜紀の仇・・・!今ここで晴らしてやるッ!!」
「えっ!亜紀さん!?亜紀さんを・・・俺が殺した!?!?」
突然かけられた冤罪の言葉に驚く翔一。だが、真に驚くのはこの後だった。
「変身!!」
翔一にとっては聞き慣れた、だが本来ありえない筈のキーワードを涼が放ったのだ。
そして、遅れて駆けつけた雄介達も目撃した。涼の体がギルスへと変わるその光景を。
「行くぞ!!」
「くっ・・・!」
ギルスの突進をかろうじてかわした翔一の腰に変身ベルト・オルタリングが出現する。
「変身!!」
変身ポーズをとり、翔一がアギトへと変身すると、2人のライダーは真っ向から組み合った。
「氷川君あれは・・・!確か報告書にあったアギトとは別のアンノウンと戦う謎の生命体じゃあ・・・?」
「は、はい!ですがアギトと違い我々警察に対しても危害を加えた事があるため、味方とは認識されていません!」
情報を整理しようとする一条と誠を他所に、桜子は別の部位に着目していた。
「桜子さん?どうしたの?」
「・・・五代君、あの緑色の戦士・・・かな?のベルトのところ。五代君のと似てない?」
「そう言われてみれば・・・でもそれがどうしたの・・・?」
「ほらさっきの五代君の話にあった『火の長の姿、力模せし者』の力を秘めた『珠』!
その完成形が五代君の霊石だけど、その過程にはいくつもの試作品があったはずでしょ?
中には未確認とか今度のイレギュラー達の元になったのもあって、彼らはその性質ゆえに封印されたけど、
もし遺伝子的にそれを引き継いだ人がいて、何らかの形でそれが発現したとしたら…」
「先祖還り…という奴ですか?」
一条の指摘に桜子も同意を示すようにうなづく。
「でもその力は五代君のそれとは違って制御しきれていない不安定なもののはずです。使い続けていたら体が…」
桜子の言葉に聞き入っていたみのるの顔からさっと血の気が引く。
(そんな…芦原さん!)
ぎゅっと雄介の腕にすがり付くみのり。その手が小刻みに震えている。
「みのり…?」
ゆっくりと上げられたその瞳には、大粒の涙が浮かんでいる。
「お兄ちゃん…お兄ちゃんお願い…あのニ人を止めて…芦原さんを助けてあげて…!」
みのりの手にそっと雄介の手が重ねられる。大きくて暖かく、優しい手。小さい頃から、みのりの大好きな兄の手だ。
「…大丈夫!」
安心させるように固くみのりの手を握りながら、もう一方の手でみのりにサムズアップする雄介。
そして戦う二人の元へ駆け出しながらポーズをとる。アークル出現!
「変身!!」
(12)
戦いの匂いを嗅ぎ付け、異形の獣たちもまた、その場所を目指していた。
一体は極上のご馳走を目の前にしたにも関らず、ギルスに邪魔をされた紅い怪人・ジュウザ。
「フフ…感じるわ。アイツがいるわね。そして…あの可愛い子猫ちゃんも…」
一体は復活の悦びに浸っていた処をアギトに水を注され、手傷まで負わされた怒りに燃える蒼い怪人・セル。
「見つけた…!不完全だったとはいえ、この僕に傷をつけたヤツ!絶対に許すもんか…!!」
そしてもう一体は、クウガ打倒に異常な執着を見せる白い怪人・バゴー。
「………」
と突然、3体の頭に直接声が響き、全員立ち止まる。それはこの場にいない黒い怪人・ゲノムのものだった。
(三人とも、ちょっと待ってくれないか…?)
「なんだいゲノム、野暮用なら後にしてくれないかい?」
毒づくジュウウザを無視してゲノムは言葉を続ける。
(今君達が向かっている先…霊石の波動のある場所に何か別の力を感じる。もしや『巫女』の器たる者やもしれん。
捕らえてきて欲しいのだ。丁重に、な…)
それだけ言うとゲノムの声は聞こえなくなった。
「巫女…?儀式をより上質のものにする事ができるっていうあれかい?」
「たしか…『力』と『叡智』、それと…」
「『慈愛』だ」
「そう、それそれ。で?お目当ての霊石の他にその巫女がおあつらえ向きに居るって訳?」
「らしいな…」
「いいじゃないか。憎たらしい連中を痛めつけるついでに、かっさらっちまおうよ!」
「よぉ〜っし!待ってやがれ!!」
意気あがるジュウザとセルを尻目に、バゴーはちっと舌打ちをする。
(ふん、くだらん…俺が望むのはあくまでクウガ唯一人!奴と最高の戦いができればそれで良いのだ!!)
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