キン肉マン特別編
ザ・サイキョー超人の挑戦
第1話「懐かしの二人組」
それはある昼下がりの午後、ボクが王子たちと一緒に吉野家からの帰り道を歩いてる時でした。
「いやー、牛丼はやっぱり吉野家に限るのう。」
王子…いえ、次期大王のスグル様は背伸びをすると、満足気な顔をしている。王子は2ヵ月前に行われた「キン肉星王位継承サバイバルマッチ」で見事、次期大王の座を勝ち取ったのだ。そして、王子は真弓大王が隠居するまでの残り少ない王子生活をこの日本で過ごすことを自ら望んだのだ。王子は今まで貧乏時代を乗り切ったこの日本に少しでも長くいたかったんだろう。ボクにはそう思えた。
「王子、今度からはキチンとワリカンにしましょうよ。」
次期大王と呼ばなくてはいけないのに、僕もついいつものクセでそう呼んでしまう。
「せやせや、いつもキンちゃんの分まで払わされてるミート君がかわいそうや。」
そう言ったのは週刊HEROの女性記者・翔野ナツコさんだ。彼女はアメリカ超人・ザ・テリーマンとお付き合いをしている、関西弁を巧みにあやつるとても気っ風のいい女性だ。今日、吉野家に牛丼を食べに行こうと誘ったのも彼女だったのだ。
「わかった、わかった。」
王子はそう言ったが、ボクはその言葉を全く信用していなかった。王子…そしてボクたちにとって、このやりとりはもはや日常的なものだったからだ。ボクは王子が自分の分をキチンと払ったのを見た事がない。一人で食べに行く時もボクあてのツケにしてしまう程だ。でも、ボクは王子の牛丼の食いっぷりを見る度についついサイフのヒモが緩んでしまう。王子はいつも幸せそうな顔をして牛丼を食べるから… それに、大王になったらおいそれと吉野家や養老の滝に牛丼を食べにも行けなくなるから、王子にはせめて今のうちに思う存分牛丼を食べさせてあげたかったのだ。
ボクたちは談笑しながら田園調布の住宅地を歩いていたが、その時…
ウォン…ウォン…ウォン…ウォン…
と、上空から音がしてきた。上を見上げると、そこには巨大なUFOが…
辺りには住宅地が広がるだけで、他には誰もいない。明らかにボクたちに何か用があるつもりだ。
「キン肉フラッシュ!!」
王子は腕を交差させて、かつて幾多もの怪獣を葬ってきた必殺技をUFOに向けて発射しようとした…が、何も起きなかった。
「おわー、一体どうしたのだ。フラッシュが出ないではないかー!!」
うろたえる王子。たく、しょうがないな。
「きっとサビついて出ないんですよ。大分使ってませんでしたから。」
「キンちゃん、何か話しかけてみたらどう?」
ナツコさんが提案する。その通りだ。UFOだからっていきなり攻撃するなんて、次期大王のすることじゃない。
「王子、ボクもその意見に賛成です。ただ単に王子にサインを貰いにはるばる宇宙からやって来たファンかもしれないじゃないですか。」
「たく…ちゃんと事務所を通せ、と言ってあるのに…仕方が無い。」
王子は訳の分からない事を言いながらUFOに向かって声を張り上げた。
「おーい、わたしのファンとやら。サインが欲しいなら書いてやるからこっちに降りて来ーい!!」
間もなく、UFOの下から光の帯が降りてくると、そこに2つの人影が映った。一人は痩せたシルエット、もう一人はがっしりとしたシルエットだ。その人影はまっすぐボクたちの方に歩いてきた。
「ああ!」
ボクたちは驚きの声を上げた。それは、彼らがボクたちのよく知っている人物だったからだ。
「ムヒョヒョヒョヒョ… 久し振りだわさ、キン肉マン。」
「ムヒョヒョヒョヒョ… 久し振り…」
ガン!
「マネせんでええ。」
岩石怪人のボケに鋭くツッコむ骸骨怪人…彼らは指名手配中の怪人、キン骨マンとイワオだ。かつて王子と激しいバトルを何度も繰り広げてきたくされ縁コンビだ。
「いや〜、本当に二人とも久し振りやわ。」
「何じゃ、お前らだったのか。道理で見たことのある宇宙船だと思ったわい。」
王子もナツコさんもすっかり懐かしがっている。二人は王子が大阪城で戦っている時にネプチューン・メッセージを受けて駆けつけてくれたが、試合が終わるといつの間にかいなくなってしまっていたのだ。
「ムヒョヒョヒョ… キン肉マン、懐かしがっている場合じゃないだわさ。お前にはこれから死が待ってるわいな。」
「わいな。」
彼らはまだ、王子を倒すことに命をかけていたのだ。二人の打倒・王子に対する執念には時折頭が下がるものがある。だが、カメハメ殺法100手を伝授されて最強の超人となった王子にとって、二人が100人になっても秒殺されるのがオチだろう。
「おもしれえ、食後のハラごなしに軽くひねってやろうじゃねえか。」
王子は手を組むと指をポキポキ鳴らし始めた。一体何処でこんなクセを身につけたのか…
「キンちゃんがんばってや。」
「待った、戦うのはわちき達じゃないだわさ。」
「先生、そろそろ大先生たちを…」
イワオが意味深な発言をした。これには何かウラがありそうだ。
「分かっただわさ。大先生達、出て来て下さーい!!」
キン骨マンが叫ぶとUFOから七本の光の帯が降り注ぎ、ベールを被った七人の超人が現れた。
「軟体超人・ジムナスマン!!」
「超魔術・ワイルド・ジョーカー!!」
「七つの顔のエレガントマン!!」
「真紅の戦士・レッドバロン」
「暗黒相撲横綱・バケモノ」
「掟破りのギャラクティカ!!」
「そして…軍師・ドラゴフェニックス!!」
「我ら、ザ・サイキョー超人軍団!!」
ザ・サイキョー超人と名乗った彼らは王子たちに詰め寄った。そして、真ん中に立っていた超人がベールを脱ぐと、中国風の鎧を着けた超人に変わった。
「我こそは軍師ドラゴフェニックス。ザ・サイコー超人軍団はキン肉マン、お前に挑戦する。勝負を受けよ。」
兜に隠れて素顔は見えないが、その奥からはただならない迫力が漂っていた。もし、王子がこんなのと戦ったら、本当に勝てるんだろうか… ボクの心の中に不安がよぎった。ボクは王子の方を振り返った。が…
「王子、何をやってるんですか。」
何と王子は、ほっかむりをして逃げだそうとしていたのだ。新しい敵を見ると逃げ出すのは何時になっても治らないのか… やれやれ。
「キンちゃん、逃げ出さんと… 戻ってきてや! せっかくのスクープやのに。」
実は今日ナツコさんが王子のところに来た本当の目的は、大会が終わっての本音トーク記事のためで、決して牛丼を食べるためだけではなかった。「王位争奪サバイバルマッチ」が終わって、スポーツ誌は話題に飢えていたのだ。本音トーク企画も王子と親しいナツコさんならではの企画だ。そんな折、このサイキョー超人たちの王子への挑戦はスポーツ誌業界にとって、渡りに船だったのだ。
「だって、『王位争奪サバイバルマッチ』もやっと終わって、テレビで漫才も見たいし牛丼屋のハシゴもしたいから、こんな奴らと遊んどるヒマはないんじゃ。」
「今時漫才なんて流行っとらんわ。それに牛丼なら、さっきたらふく食べたやろ!」
ナツコさんは王子にハッパをかけた。ボクは正直言って、王子にこれ以上戦いを勧めるのは気がひけた。今まで長い間、悪の超人たちと戦い続けた王子をゆっくり休ませてあげたかったからだ。しかし、敵に背を向けるのはキン肉族として恥ずべき行為だ。ボクは心を鬼にして王子に言った。
「王子、あなたはこれからキン肉星の大王となられるお方です。それが敵に背を向けるなんて恥ずかしくはないのですか。どうしても戦いたくないのなら、ボクを倒してからにして下さい。」
「ミートよ… 分かった。」
腕を広げて王子の行く手を塞いでいたボクの前に立ち尽くしていた王子は、自分に言いきかせるようにその言葉をつぶやいた。どうやらボクの言うことを分かってくれたようだ。
あとがき
特別編、遂に始まりました。次回作はコメディー路線と書きましたが、全然コメディーじゃないですね。でも、「王者三部作」よりは柔らかいタッチになってるんじゃないでしょうか。しかも生意気にミートの一人称という形式です。ロビンメモにも書きましたが、これは一応アニメのオリジナルストーリーのパクリをコンセプトにしてあります。枕言葉というか、冠詞というか前フリにはどことなく怪しいテイストを込めたつもりです。彼らが正義超人たちとどんな戦いをするか楽しみにして下さい(展開バラシてるって)。ところで、「ザ・サイキョー超人軍団」にはそれぞれに元ネタがあるので、分かった方はロビンメモなり、メールなりで「正体を見破ったぞ!」と書いてみるのも一興でしょう。当たっても何も出ませんが、書いてくれれば管理人が嬉しがります。それだけっす。
第2話へ|ノベルリストに戻る