キン肉マン特別編
ザ・サイキョー超人の挑戦
第6話「レッド・バロンの華麗なる正体」
これまでのあらすじ
正義超人VSサイキョー超人シリーズ第3戦。ラーメンマンはジムナスマンの軟体殺法に苦戦しながらも、テリーマンの機転で軟体殺法を封鎖。見事に勝利を収め、対戦成績を五分に戻した。
「うおーい、ラーメンマン。カッコよかったぞい。」
王子はラーメンマンの背中をバシバシと叩いた。まるで自分の勝利であるかのような喜びようだ。
「ハハハ…」
照れくさそうに笑うラーメンマン。
「く…ジムナスが敗れるとは…」
一方、サイキョー超人サイドではジムナスマンの実力に絶対の自信を持っていたのか、ドラゴフェニックスが信じられないような表情を見せていた。とは言っても仮面で顔が見えないが…
「軍師、わたしが出よう。」
ドラゴフェニックスの後ろに控えていたサイキョー超人の一人がスッ…と立ち上がった。
「レッド・バロンか。今日はいけるか。」
「ええ。」
「フフフ…正義超人たちは絶対にレッド・バロンには勝てない。なぜならレッド・バロンは…」
レッドバロンがベールを脱ぐと西洋風の鎧を着込んだ超人が現れた。鎧…と言えば、こちらの正義超人サイドにもロビンマスクという鎧を着た超人がいるが、彼の鎧の色は青…対してレッドバロンの鎧の色はその名の通り真紅と言ってもいいくらいの赤い色をしていた。
「フフフ…レッドバロンはその鎧の色から別名・クリムゾン・ナイトとも呼ばれているのだよ。その鎧は最初は銀色をしていたが、対戦相手の返り血を浴びて、そのような色になったらしい。」
ドラゴフェニックスは自信たっぷりに言った。それが真実なら今度の戦いは大流血が容易に想像される。
「こ、こわ〜。」
王子が布団をかぶった。
「王子、次はあなたが戦うんでしょう。たくー、せっかく目立てるチャンスじゃないですか。」
王子は、自分が作ったアミダくじによって4番目に戦うようになっていたのだ。
「そんな事言ったって、コワイもんはコワイ。」
と、その時レッドバロンがこちらのリングサイドに歩み寄った。その動きにボクは妙な違和感を感じた。
「さあ、キン肉マン。わたしと戦え。わたしはどんな戦いでも恐れはしない。」
そう言うと、レッドバロンが兜を脱いだ。
そこには…腰までの長さの髪をした女性の姿があった。
『おーっと、驚きました!! レッドバロンの正体は女性でしたー。』
鎧の上から感じられた妙な違和感はこれだったのだ。自分の華奢な体を鎧で隠しても、その動きまでは誤魔化せない。女性の体格では、どうしても鎧を着用して動くには不自然な動きをするしかないのだ。
「鎧を脱いでも戦わないのか! 腰抜けめ。」
レッドバロンは胴体のパーツを外した。
「うわっ!!」
ボクは目を塞いだ。だって…
『これは…レッドバロンが鎧を脱ぐと、真っ赤なレオタードを着たナイスバディが現れました。』
「ウオオオオオオオ…」
「いいぞ、姉ちゃん。」
「もっと見せろ!」
僕は目を閉じてるからよく分からないが、観客席は色めきたっている。これまでムサい男だけの試合を見せられているだけに、その反動は大きかったのだろう。だが、そうも思っていられない。ボクは心を鎮めなければならなかったのだ。
「ウヒヒヒ…カワイコちゃーん…」
僕はようやく心が鎮まり目を開けた。そこにはすっかり戦闘体勢になった王子の姿が映った。まったく王子ったら。思わずズッコケちゃったじゃないですか…
「キン肉マンよ。ようやく戦う気になったか。」
「うんうん、ボク、戦っちゃうもんね。」
王子はすっかり鼻の下をのばし、だらしない表情になっている。相手がサイキョー超人の一人だということをすっかり忘れているようだ。ボクが王子をたしなめようとした時…
「スグルさまーっ! 戦っちゃダメー。」
スタンド後方から黄色い声がしてきた。この声はボクにも聞き覚えがある。
「ビ…ビビンバ。」
そう、その声の主は王子の許嫁のビビンバさんだった。
「そんな女に見とれるくらいだったらわたしを見て!」
ビビンバさんは裸エプロン姿で正義超人側のベンチに駆け寄ってきたのだ。観客席は再び色めき立った。
「わ、わーったから何か着ろい!」
王子は恥ずかしそうに自分のマントを裸エプロンのビビンバさんに被せた。何だかんだ言っても、王子はビビンバさんのことが好きなのだ。恋愛に対して人一倍照れ屋の王子はビビンバさんになかなかその気持ちを伝えることはしないが、ビビンバさんはその気持ちを誰よりも深く感じていた。王子は王子で、満場の観客にビビンバさんのあられもない格好を晒したくはなかったんだろう。
「だがな…どうするんだ。わたしが戦えないなら誰が戦うんだ。」
「キン肉マン、わたしはあのようなかよわいレディと戦う気はないぜ。」
テリーマンが言った。口ではあんな事を言ってるが、戦おうとすればナツコさんの往復ビンタの洗礼を受けることは容易に想像がつく。ナツコさんの戦闘力は時によって王子やテリーを凌駕するものがある。
「わたしも戦いたいのはヤマヤマだが…婦女子を相手に戦うことは騎士道に背くことになる。」
ロビンマスクがキョロキョロと観客席を見回した。ボクは一瞬にしてロビンの考えを見抜いた。ロビンはきっと戦いたいに違いない…と。観客席を見回したのはアリサさんが見ているかどうかをチェックしているのだろう。他の超人は騙せてもリングサイドでたくさんの超人の無言の駆け引きを見てきたボクの目は誤魔化せない。超人レスラーはその強靭な肉体とは裏腹に女性に対してはかなり尻に敷かれる傾向にあるようだ。ボクも将来気をつけなきゃ…
そして、女日照りのウォーズマンとラーメンマンに至っては論外だ。二人はレッドバロンを直視することさえできないのだ。特にウォーズマンは戦ってもいないのに既に肩からケムリが出ているのだ。…と、そのショート寸前のウォーズマンが口を開いた。
「だが、どうする。このままではオレたちの不戦敗になってしまうぞ。ラーメンマンはさっき戦ったばかりだし、オレが氷の精神をインプットして戦えばできないこともないが…」
いや、そんなことは作者が許さないだろう。何しろ氷の精神で戦えば台詞を全て丸ゴシック体にしなくてはならないからだ。
「ねえ、わたしじゃダメなの?」
「え?」
全員が一斉にビビンバさんの方を振り返った。ビビンバさんはうつむきかけて、やや恥ずかしそうに皆に言った。
「わたしだってホルモン族に伝わる格闘術はおとっつぁんから一通り伝授されてるのよ。それに……わたしもスグルさまのお役に立ちたいもの。」
「だがな…ビビンバ。」
王子はどうやら気が進まないようだ。だが、ビビンバさんは王子にすがりついて言った。
「お願い! スグルさま。わたしをリングに上げて! わたし…いつもスグルさまがリングで戦い、傷つく度に…心が引き裂かれそうな気持ちになるの。それがどれほどツラいことか… わたしがいつもどんな気持ちでいるのかスグルさまにも分かってほしいの!」
「ビ…ビビンバ……」
王子はしばらく目を閉じると、ゆっくりとこう言った。
「わかった… だが、必ず生きて帰ってくるんだ。ビビンバ…お前はわたしの…」
そう言うと、王子はビビンバさんの額にキスをした。照れ屋の王子にできる最大の愛情表現だろう。
「スグルさま……」
ビビンバさんは輝くような笑顔を浮かべると、素早くレオタードに着替えリングに立った。
『さあ、どうやらビビンバVSレッド・バロンという美女対決が実現した模様です。』
「ウオオオオォォォォォ…!!」
歓声はさらに大きくなった。
『セコンドアウト、セコンドアウト!!』
「スグルさま、見てて。」
ビビンバさんは王子にウインクをした。
カーン!
「やあっ!」
ビビンバさんが得意のソバットを繰り出した。ラーメンマンほどではないが、なかなかのものだ。レッドバロンはそのまま避けずにビビンバさんの足をとった。そしてグラウンドでの寝技にもっていった。
「く…くぅ…」
「ふふふ…そんなソバットじゃわたしは倒せなくってよ。」
主にスタンディングでの打撃で攻めるビビンバさんに対し、レッドバロンはあくまで寝技でじわじわと攻めていった。きっといつもは相手が男性だから、こういう密着した戦法で…そのぅ…悩殺させるのが有効だったのだろう。
30分が経った…
結局、ビビンバさんの立ち攻撃と地味な寝技の応酬がダラダラと続いて時間切れ引き分けに終わったのだった。だが、観客は十分に満足したようだ。その理由は…言わなくてもわかるだろう。それにしても、この試合でドラゴフェニックスはまた計算違いをしたに違いない。男ばかりの正義超人軍団を悩殺させるはずが、ビビンバさんの登場で引き分けに持ち込まされたのだから…
「なかなかやるわね。わたしの寝技がここまで通用しなかったのはお前が初めてだ。」
「あなたこそね。」
二人は健闘を称え合うとガッチリ握手をした。ボクはリングを降りるレッド・バロンに尋ねた。
「あの… ドラゴフェニックスはあんな事を言ってたけど、鎧を脱いで戦うのにどうして鎧に返り血を浴びるんですか?」
「あ…あれか…軍師のクセなんだ。あの方は、ああいう勿体ぶったエピソードを考えるのが好きで…わたしもいつも困ってるんだが…」
「そ…そうですか。」
だが、観客席は別の意味で大流血だった。ドラゴフェニックスの言う事も強(あなが)ち嘘ではないようだ。
あとがき
うーむ、今回はちょっとラブコメ入ったかな〜って感じ。こんなの書くの初めてだったんで皆さんの感想がコワい気がします。最後は結局、女の友情を芽生えさせる…というお約束の展開でしたし。レッドバロンについてはもう少し伏線を張るつもりだったけど、いいアイディアが思い浮かびませんでした。しかし前回といい、今回といい、何か半分キン肉マンから逸脱してるような気がします。一応、今回ビビンバを出すというのはこのシリーズ構想当初から考えていたのです。だけど戦闘シーン(特にグラウンドでの展開)は字にも書くのが恥ずかしかったのでムリヤリ割愛した感があります。それを見事にビジュアル化してくれたローラ・ゴンザレスさんの挿絵、相変わらず見事な出来です。もう本懐を遂げた…って感じです。別に描けとは言ってなかったのですが、まさに僕が描かせたかったのはそこだったんです。ここは、シャイな僕の僕の気持ちを汲んでこの挿絵を描いてくれたローラさんに親指を立ててアイコンタクトですね。それに比べると本編の余りにもダメダメなこと… ごめんなさい。もうしません。次からはマジメに書きます。
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