キン肉マン特別編
ザ・サイキョー超人の挑戦
第9話「最終決戦の幕開け」
これまでのあらすじ
正義超人VSザ・サイキョー超人シリーズの第5戦。ロビンマスク、ワイルド・ジョーカーが共に倒れ、ウォーズマンとギャラクティカの一騎討ちとなった。ギャラクティカの超パワーに対抗すべくリミッターを解除したウォーズマン。最後は3億パワー・スクリュードライバーがギャラクティカ必殺のマグナード・ファントムを完全粉砕してウォーズマンが勝利する。
「だははは、やったやった!」
王子はまるで自分の勝利のように喜んでいる。ちょっとはしゃぎ過ぎという気もするが… そこにロビンがウォーズマンを抱き上げたままリングを降りてきた。
「キン肉マン、わたしは医務室にウォーズマンを運んで来る。命に別状はなかったが、応急修理が必要なのでな。」
「あ、ああ…頼むぞロビン。」
ウォーズマンを仮設医務室のキン肉ハウスに連れて行くロビン。だが、そのロビンもさっきの試合のダメージで、どこか足取りが重い。さっきまで騒いでいた王子は心配そうにロビンを見送った。
「キン肉マン、わたしがロビンに付き添ってやろう。これでも、ドクター・ボンベに外科治療の一通りの手解きは受けている。」
「おお、ラーメンマン。お前が行ってくれるのなら心強い。ロビンのバカ野郎め…ああやって気丈なフリをしているが、自分だってギャラクティカの攻撃を受けまくってたくせに…」
悪態をついてるようだが、王子なりの心配だということはボクにもよく分かる。
ここで、この仮設医務室の状況を説明しよう。今回の正義超人VSサイキョー超人シリーズは、当日に急きょ開催されたもので今回の会場は王子の住んでいる美波理(ビバリー)公園になったのだが、医務室を作る時間が無かったので王子の家であるキン肉ハウスを仮設医務室として使うことになったのだ。
(ロビンやウォーズマン…他の正義超人があれほど苦戦するサイキョー超人…)
ボクは今までの試合を振り返ってみた。試合成績こそ2勝1敗2分でリードはしているものの、勝った試合でも首の皮一枚ほどの勝利だったことを考えれば、サイキョー超人は正にその名に恥じない実力を持った超人だということが言える。果して、その大将格とも言えるドラゴフェニックスの実力はどのくらいのものだろうか。
…と、その間にも次の試合の準備が整った。
リング上では既にテキサス・ブロンコの異名をとるテリーマンがスタンバイしている。左手を上げて歓声に応える様は見事なまでに絵になっている。
「テリー、がんばってや〜」
背後のプレス席でカメラのフラッシュを焚くナツコさんの姿が見えた。
「ヘイ、ナツコ! Go for breakでいくぜ!」
何を言ってるか分からないが、意気込みだけは感じられる一言だ。さしずめ王子の「屁のつっぱりは〜」みたいなものだろう。最初にテリーと会った頃は一匹狼風でどことなくカッコよかったが、今ではそんな様子は微塵も感じられない。いい意味でも悪い意味でも王子に感化してしまったテリーが、今ここにいる。
「キン肉マン、このままだとユーの出番はなさそうだぜ。」
テリーはベンチでポップコーンを食べている王子に親指を立てて言った。
「そうだといいのう。」
相変わらずの王子の無気力な発言だ。だが、その言葉には無気力さが感じられなかった。何か気にかけている…そんな様子が言葉の端から感じられるのだ。そして、リングの向こう側ではドラゴフェニックスがリングインの準備をしていた。
彼が鎧を外す度に鎧のパーツが落ちる重い音が響く。この大歓声とは全く異質な音だ。
「フフフ…わたしが宇宙中から集めた精鋭たちと互角以上の戦いをするとは大したものだ。その奮闘ぶりにはわたしも敬意を表しよう。だが、それもこれで終わりだ。わたしがリングに上がれば…」
ドラゴフェニックスは鎧を外し終わり、紺色のボディースーツ姿となった。
「全てひっくり返る!!」
ドラゴフェニックスは兜を脱ぎ捨てた。だが、兜を外したその下にも仮面があり、正体は分からない。
その頃医務室では―――
「ククク…遂にドラゴフェニックスさま直々のご登場か。」
ロビンスペシャルをくらって重傷を負っていたワイルド・ジョーカーが不敵な笑みを浮かべていた。
「ボクたちの仇を討って下さるのか。だが、敵とはいえあの超人…テリーマンにも同情したくなるよ。何せ満場の観衆の中でドラゴフェニックスさまから一方的にいたぶられるのは、おはスタが視聴率30%突破することより確実だからね。」
「何だと!? 貴様、今の発言を取り消せ!!」
ジムナスマンの発言にウルフマンが激昂した。
「スモウマン、お前の気持ちも分からなくはない。だが…」
「オレはウルフマンだ! …ったく、この派手ヤロウめ…」
エレガントマンの言葉にウルフマンがツッコミを入れる。
「だが…何なんだ、エレガントマン?」
たった今、ウォーズマンと共に医務室送りになったロビンが尋ねる。
「あの方の実力は我々サイキョー超人が束になっても敵わないくらいなのさ。」
「!!」
正義超人たちの中を戦慄が駆け抜けた。
「そ…そんなとんでもないヤツなんているわけねえ!!」
ブロッケンが叫んだ。ギャラクティカがそれに返す。
「信じられないのもムリはねえ。だが、お頭の実力は実際に一度戦ったオレたちが人一倍身に染みて知っている… まぁ、お頭の正体を知ったらお前らも納得するだろうがな。なぜなら、お頭の正体はお前たちもよく知っている男だからだ。」
「そ…れは………?」
ウォーズマンがか細い声を出した。
「フッ…とりあえず、じっと見ていろよ。黒ずくめのダンナ。」
ギャラクティカの一言に一同はじっとモニター代わりの白黒テレビに目をやった。どうでもいいが、こんな狭い家の中で超人が8人もいるのはむさ苦しいことこの上ない… ここにすぐ、ラーメンマンも入ってくるとなると…
カーン!
ゴングが鳴った。
ゴングとほぼ同時にテリーがナックルパートパンチを放つ。一気に先手を取るテリーお得意の速攻だ。それに対し、ドラゴフェニックスはガードが精一杯のようだ。
「なかなかいいパンチだ。さすがはテキサス・ブロンコ・テリーマンだな。」
ドラゴフェニックスはガードを固めたままテリーに話しかける。
「話をする余裕なんてあるのか。」
「あるさ…それが証拠にテリーマン、お前のラッシュはそこから一歩も進んでいないではないか。」
た…確かにテリーは一方的にパンチを打ち込んではいるが、そこからは一歩として進んでいない。まるでドラゴフェニックスのガードに威力が全て吸収されるかのように…
「ぬかせーっ!!」
テリーが左腕を回した。
「そのパンチは研究済だ! デス・グレネード!」
ガシィィィィ…!!
テリーとドラゴフェニックスのパンチのぶつかり合いだ。だが、打ち勝ったのはドラゴフェニックスだった。テリーの左ストレートはすれすれでかわされ、その代わりにドラゴフェニックスの左のカウンターがテリーの右頬に入ったのだ。
膝を折って倒れるテリー。ドラゴフェニックスはテリーの首筋を右手で掴むと、そのまま高々と上げた。
「今、実力の違いを見せつけてやる!」
ドラゴフェニックスの左拳が赤く輝いた。その左腕を振りかぶったかと思うと…
「ガトリング・レイダー!」
テリーのボディーに目にも止まらないほどのパンチが打ち込まれた。その名の通り、無数の弾を乱射するガトリング砲のように…
「ゲホッ!」
口から血を吐くテリー。ドラゴフェニックスはテリーの後ろに回ると…
「デュランダール・ドロップ!!」
垂直落下式のバックドロップが決まった。敵ながら、これほど見事な曲線を描くバックドロップを王子以外にボクは見た事がない。
ダウンしたテリーにカウントが入る。
『ワーン…ツー…』
「テリーッ!!」
プレス席で写真を撮っていたナツコさんの声がスタジアム内に響いた。
そして今までの様子を無言のまま、食い入るように見つめていた王子は突然リングに駆け寄った。
「ガンバレ、テリー!!」
王子がテリーの応援を始めた。
『エイトー!』
「もう少しじゃ、テリー!!」
王子がマットをバンバンと叩く。それに応えるかのごとく、テリーは起き上がろうとしている。
『ナイーン!』
「かませ犬じゃ、テリー!!」
ズルッ…
『テン!!』
カンカンカンカンカンカンカンカン!!
王子の言ったギャグでテリーがコケてしまい、そこに10カウントが入ってしまった。王子、あなたって人はこんな大事な時に…
『あーっと、10カウントが入り、ドラゴフェニックスが勝ちましたー! これで対戦成績は両軍共に2勝2敗2分とまったくの互角です。』
リングサイドではリングを降りたテリーが王子に激しくクレームをつけていた。
「キン肉マン、一体何のつもりであんな事を言ったんだ。ユーがコケるようなことを言わなければオレは立っていたんだ。」
背後のプレス席の方からナツコさんが、静かにこっちの方ににやってきた。
「キンちゃん…」
ナツコさんは俯(うつむ)いたままワナワナと震えている。や…やばい! どんな敵よりも恐ろしいナツコさんの折檻が…
「…ありがとう。」
……え? これはどうしたことだ。
「ナ…ナツコ…どうしたんだ。」
ナツコさんはまだ俯いたままでテリーに語りかけた。
「テリーはキンちゃんの気持ちがまだ分からへんの。確かにキンちゃんがあないな事を言わんかったら、テリーは立てたかもしれへんけど…それでも…あなたに勝てる見込みはあったの!」
「そ…それは…」
テリーは口ごもった。ナツコさんの言う通り、今の戦況を見てる限りだとテリーに全く勝ち目はない。それを見越していたとしたら、王子がテリーをワザと負けさせたのは…
「キン肉マン、オレが悪かった… このままやっても勝ち目が無いのは戦ってるオレが一番分かっていた。だけど…」
「ドラゴフェニックスの戦い方をわたしに見せようと思ったのだろう。」
「そこまで分かっていながら、なぜ…」
「もう充分だ、テリー。あいつの戦い方はよく分かったぜ。だからお前をリングから降ろしたんだ。それに何となく見えてきたぜ、あいつの正体が…」
「キン肉マン…」
一見バカな事と思っていた王子の行動の裏にこんな配慮があったなんて… ボクは王子への反省と、感動とで目頭が熱くなった。
「さあてと、やっぱりトリはわたしが務めないといかんようだのう。」
王子は自信あり気に笑みを浮かべると、リングに向かった。リングからベンチに下がるテリーと、これからリングに上がる王子。どちらも右手を高々と上げると、すれ違い様にお互いの掌をはたき合った。
パァン!
甲高い音がスタジアム全体に響き渡り、一瞬…歓声が止んだ。まさに水を打ったかのように…
『さあ、テリーマンに代わってキン肉マンがリングに立ちます。泣いても笑っても、これが最終戦です。』
アナウンサーの声が、一瞬の静寂を現実へと引き戻した。
「キンちゃーん、がんばってや。テリーの戦いを無駄にしたらあかんでー!」
ナツコさんが陽気に応援する。この底抜けの明るさがナツコさんの最大の魅力だ。
ふと横を見ると、ビビンバさんが胸の前で手を組み、食い入るような視線でじっとリングを見つめていた。
「スグルさま、がんばって… わたしはここで見ていることしかできないけど… せめて、あなたの帰る場所になれたら…」
ビビンバさん…
リングインする王子にドラゴフェニックスが口を開いた。
「何も言葉を交わさぬままリングに向かうとは… いいのか? 仲間との永遠の別れになるかもしれんのだぞ。」
「言葉は…交わしたさ。これがわたしたち、正義超人の言葉だ!」
王子は左腕を左上に、右腕を右下にしてサッと身構えた。既に臨戦体勢になっている。
「言葉が無くとも行動だけで通じ合える。フフフ…それがお前の答えか。いいだろう。それならばわたしも…」
ドラゴフェニックスは王子と同じように身構えた。向こうも臨戦体勢だ。
『さあ、今、最後の決戦のゴングが鳴らされます…』
カーン!
両者とも上半身の体勢を変えないまま摺足でリング中央に寄っていく。そして…動いた!
「ヌオーッ!」
「グオーッ!」
二人ともリング中央で力比べを始めた。だが、王子はその力を逆手に取って、スルッとドラゴフェニックスの股の下をスライディングで滑り込んだ。
「ドラゴフェニックスさんよ。マスクを二つもつけていると、相当視界が悪くなるんじゃないのか…」
ドラゴフェニックスの背後に回り込んだ王子は、すかさずスリーパーホールドにとった。
「あのガード方法、左を中心とした攻撃。そしてあのバックドロップ。わたしにはあんたの正体が完全に分かったぜ…」
ドラゴフェニックスは肘打ちで抵抗するが、王子も必死に耐える。
「そうだろう…」
王子はドラゴフェニックスの仮面に手をかけると、そのまま力まかせにはぎ取った。その下から現れたのは…
「アタル兄さん!」
ソルジャーマスクをかぶったキン肉スグルの兄・キン肉アタル、その人であった。
あとがき
さあ、遂に夢の兄弟対決となりましたが…えっ、コテコテの展開だって? それは多分気のせいでしょう。だけど、ここまであからさまに噛ませ犬扱いされたテリーって、完全に原作離れしています。テリーファンの皆さん、袋叩きなら甘んじて受けますので許して下さい。一応フォローしときますけど、あれはテリーが弱いのではなくてアタル兄さんが強すぎるのです。あ、ちなみにドラゴフェニックスの語源は竜と鳳凰からきています。ほら、いるじゃないですか三国志に。竜と鳳凰の雅号を持つ軍師が。それなんですよ。技の名前は一応、兵器系の名前をつけてみましたがどうだったでしょうか。さーて、さんざんひっぱってきましたこの特別編も次回で最終話となりますが、まだオチを考えてないんですよね。どうしよっかな… それにしても医務室の連中は案外仲良しになりそうだな(やっぱりコテコテ)…
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