キン肉マン2000
第3回超人オリンピック編
第3話 乱闘の果てに…の巻

ギィ…
店のドアが開いた。

「どわっ!」

ドアに寄りかかっていたテリーがすっ転ぶ。

「ギャハハハハハ…オワーハハハ…!」

腹を抱えて笑い転げるキン肉マン。こうなったらもう収拾がつかない。

「キン肉マン、いくらユーとミーの仲だからって笑い過ぎだぞ。」

「にゃにおーっ!」

キン肉マンとテリーマンは取っ組み合いのケンカを始めてしまった。

「先生… ブタとケンカしよる場合かいな!」

その声がしたのは双方に程良くタンコブができた頃だった。そこにはまだ少年の面影を残した青年超人が立っていた。

「ノ…ノーティー…」

「だ…誰がブタじゃ。大体、何なんだこいつは?」

「だから言っただろう、キン肉マン。テキサス超人学校のホープ、ノーティー・ブラットだ。ほら、ノーティー…挨拶するんだ。」

「おう。テキサス超人学校のノーティー・ブラットや、よろしゅうな。」

ノーティーはインチキっぽい関西弁で挨拶をした。彼は人なつっこい笑みを浮かべると 右手を差し出した。握手を求めているようだ。

「はっはっは。かわいいもんだのう。わたしに握手を求めようとは… 痛たーっ!!」

キン肉マンの掌に激痛が走った。何とノーティーの右手には画鋲が張り付けてあったのだ。こんな子供じみたイタズラは、仕掛ける方も引っ掛かる方も相当にくだらない。

「やーい、やーい、ひっかかった、ひっかかったーっ!」

「このーっ!」

「ノーティー!!!」

テリーが一喝する。瞬間、ノーティーは縮み上がった。その拍子抜けさにキン肉マンは振り上げかけた拳を引っ込めてしまった。

「キン肉マンに謝るんだ。」

「へーい…ごめんなさーい。」

いい加減な謝り方だが、テリーも仕方ないなという顔をしてそれ以上は咎めたりしなかった。ノーティーのこのような行動は日常茶飯事なのだろう。あるいは、さっきのキン肉マンとの取っ組み合いを繰り広げた張本人にさほどの説得力が無いのを自覚していたのかもしれない。

「まあ、そういうことで許してやってくれ。」

「ああ…だがな、テリー…こんなヤツが本当にホープなのか?」

ヒソヒソ話ながら、キン肉マンはあからさまに疑惑の表情でノーティーを見て言った。だが、テリーは不敵な笑みでこう返す。

「フフフ…最初は誰でもそう思うだろう。だがキン肉マン、こいつをナメない方がいい。ノーティーはこう見えても北米新人超人選手権のチャンピオン、さらにエキシビジョン・マッチではあのカナディアンマンを破っているほどだ。」

「そうは…見えんが…」

『出場受付をまだ済ませていない方は、お早めに済ませて下さい! あと5分で締め切ります!』

場内アナウンスが流れる。

「おっと、こんな事をしてる場合じゃなかったな。キン肉マン、急げ。」

「お、おう。」

キン肉マンは出場受付に向かった。

「一つ言い忘れた。キン肉マン、ノーティーがイタズラを仕掛けるのは相当に気に入った者だけだ。」

「へへへ…そういうことや。」

「コラ、調子に乗るな。」

キン肉マンはテリー師弟に見送られた。


「えーと、これを受付に見せれば…おわっ!」

キン肉マンが何者かの影に突き飛ばされた。

「この野郎、気をつけ…ゲーッ、お、お前は…」

「ん? 何だ、キン肉マンか。今こそ真の決着をつける時がきたようだな。」

その男とはバーベキュー族の若き雄、シシカバ・ブーだった。キン肉マンはかつてこの男と戦い、非公式ながら敗れていたのだ。だが、二人の間には憎むでもベタベタするでない奇妙な友情があった。差詰め、テリーマンがキン肉マンの表のライバルならばシシカバは裏のライバルといった関係かもしれない。

二人は同時に受付を済ませ、そこで別れた。だが、二人は知らない。これから先に大きな運命の分かれ道に立たされる事を…

キン肉マンとテリーマン、そしてノーティーの3人はグラウンドに移動した。

「おーい、キン肉マン!」

人混み…いや、超人混みの中で3人を呼んだのはウルフマンだった。この大混雑の中でも彼のデカ声はよく響く。キン肉マン達が声のした所に向かうと、そこにはウルフマンの他にロビンマスク、そしてブロッケンJr.の姿もあった。

「3人ともこんな所にいたのか。」

「いやあ、さっきそこで偶然に会ってな。お、そこにいるのはテリーが話していたノーティー・ブラットだな。」

「ノーティーでええわ、ブロッケンはん。」

ノーティーは最初からそこにいたかのように溶け込んでいる。

「これでラーメンマンはんとウォーズマンはんの2人が揃っとったら、7人の正義超人の勢揃いやったけどな。」

「…………………………………………」

ノーティーの一言で、一同の間に沈黙が流れる。ノーティーは軽く言ったつもりだったが、彼らにとってはこの話題は触れてはいけないものだったのだ。

「そうだよな。今度こそラーメンマンと戦って勝ちたかったな…」

「確かに… ウォーズマンとの師弟対決もまた一興と思っていたが。」

「先生…オイラ…」

ガラにもなく、シュンとするノーティー。

「気にするな。お前がいなくてもこの話題には自然と行き着いていたよ。ただ早いか遅いかだ。むしろ、お前の一言は何となく閉じこもりがちだった皆の気持ちを開いてくれたようだ。」

そう言っている間に別の超人の一団が近づいてきたようだ。

「…まったくだぜ。オレもウォーズマンとの戦いを楽しみにしていたのによ。」

「まあ、そう言うなギャラクティカ。これもわたしのトランプ占いに出ていた結果通りだからな。」

「本当かよ。」

そう言いながらやってきたのは、ギャラクティカとワイルド・ジョーカー、そして彼らを擁するザ・サイキョー超人軍団だった。当時キン肉アタルに率いられ、正義超人たちと互角の戦いを繰り広げた彼らも今やすっかり仲良しになってしまっていたのだ。

「なんだ、お前らも参加するのか。」

「悪いかよ。」

「ところでジョーカー… ウォーズマンたちへの闇討ち事件は政治的犯行とも見られているようだが…どう思う。」

「確かに… 王座を狙ってオリンピックに参加している者も少なくないとの噂もある。」

「ま、心配するな。オレたちは戦う事しか興味がないからな。このうちの誰かが優勝しても王座だけはキン肉マンに返上するぜ。」

「わたしたちもそのつもりだ。」

「何だか素直に喜べんのう…」

「グヘヘ…腕が鳴るのう。この手でまた何人押し倒せるか楽しみじゃ。」

「そうはいかないぜ、バケモノ。このウルフマンがいる限りな。」

「ワーハハハハ…!!」

ウルフマンとサイキョー超人の一人・暗黒横綱バケモノは肩を組んで笑い合う。

「おっ…いたいた。探したぜ、キン肉マン。」

また超人の一団がキン肉マン達に近づいてきた。バッファローマン率いる7人の悪魔超人たちだ。

「お前達も参加していたのか。」

「この大会から悪魔超人にも参加枠が与えられたからな。キン肉マン、この日のためにお前を倒す技も開発しているのだ!」

ブラックホールがキン肉マンにビシッと人差し指を突きつけた。

「はっはっは、いくらやっても結果は同じじゃ。えーと、たくさんいすぎて誰が誰だか分からなくなってきたぞ。まずはバッファローマンに、そこにいるブラックホール、カーメンにアトランティスに魔雲天、それからスプリングマン。これで全部か。」

「コラーッ、キン肉マン。オレがいるだろ、オレが。」

そう言ったのは存在をすっかり忘れられているステカセキングだった。キン肉マンの場合はネタではなく、本当に忘れている場合がほとんどなので余計始末に負えない。

「わたしたちも忘れてもらっちゃ困るぜ。」

6本腕の超人と直方体を組み合わせた超人…アシュラマンにサンシャインだ。

「拙者もここにいるぞ。」

瞬間移動でザ・ニンジャも現れた。

昔は敵味方に分かれていた超人たちが仲良く会話する…前回の大会では考えられなかった事だ。これも全てキン肉マンに出会い、変わっていったからだろう。リング上の戦いという決して器用ではないコミュニケート手段を使って…

だが、これだけの超人がいれば必ずイザコザが起きるものだ。正義超人はいざ知らず、初顔合わせとなる悪魔超人とサイキョー超人の間にはどことない堅さがあった。事件は図らずも起きてしまった。

「まさか、こんなフザけた格好のヤツも参加するんじゃないだろうな!?」

「それはケンカとやらを売っているのですか?」

会話の主はバッファローマンとワイルド・ジョーカーだ。バッファローマンの目には、一見ピエロ風のジョーカーの姿が異様に映ったのだろう。

「おい、バッファローマンやめないか。」

ブロッケンが止めにかかる。

「どうも、こいつのいけ好かない顔を見てると言いがかりの一つもつけたくなるんだ。」

実はバッファローマンが荒れている理由は別にあった。盟友でもあったラーメンマンの欠場である。そのニュースを聞いてからのバッファローマンはトレーニングも今一つ身が入らなくなっていたのだ。自分の力がどれだけラーメンマンの技に通用するのか…それが今回の大会でのバッファローマンの一番の楽しみであったのに… だが、そんな事で言いがかりをつけられるジョーカーもとんだ災難だ。

さて、サイキョー超人側では、バッファローマンの挑発に対してけしかけるでもなく、止めるでもなく、ジョーカーの意志判断に任せている。あるいは、それだけジョーカーの実力を信じているということなのか…

「だったら、どうするというのですか。」

ジョーカーは完全にバッファローマンなど眼中に無いように振る舞っている。

「こうするまでだ!」

バッファローマンは頭のツノ・ロングホーンを突き出しながら猛然とジョーカーに突進してきた。必殺のハリケーンミキサーだ。

「フフフ…やはり、そうきましたか。ならば…」

ロングホーンがジョーカーの心臓を貫かんとしたその瞬間…

バサァ…!

バッファローマンの頭にジョーカーのマントが被さり、視界を塞いだ。当のジョーカーはジャンプ一番、紙一重でハリケーンミキサーをかわしている。まるでマタドールのようだ。ジョーカーはそのまま、両足でバッファローマンの頭を挟み込むと、軽く腰をひねった。レッグシザースでバッファローマンを投げ飛ばしたのだ。

前回のシリーズでは早くにリタイヤしたため印象が薄かったが、やはりワイルド・ジョーカーもサイキョー超人の名に恥じない実力を持っていたのだ。

頭を振り、起き上がるバッファローマン。再び対峙する二人。勝負はこれからのようだ。

その時だった。ステージの下から委員長用のボックスがせり上がり、中から委員長が姿を現した。別にこっそりやったわけではないが、これに気付いた者は誰もいない。

えー、只今より開会式を始める…

委員長が場内にアナウンスするが、15万もの超人の耳には全く届いていない。さながら成人式の会場前で話し込み、いつまでも会場に入らない新成人のようだ。

えー、只今より開会式を始める…

少しは声を張り上げているようだが、それでもまだ聞こえない。

えー、只今より開会式を始める…

何人かの超人が委員長の方を振り向いたが、また雑談に戻った。

「うぬぬぬ…こいつら…!」

委員長は手元のコンソールを操作した。何処からともなくハンマーを持った巨大な手が現れ、場内の超人に無差別に攻撃を加えていった。

5分後…

かくて、あれだけ雑然としていた超人達は一糸乱れぬ隊列を組んで整列していた。理由は述べる必要もないだろう。最後にキン肉マンとテリーマンのタンコブがまた増えたことだけは追記しておかねばなるまい。

☆委員長の秘密兵器登場! 超人たちに鉄槌だ!!
キン肉マン2000
第3回超人オリンピック編
第3話
…/おわり
気になる一次予選の内容は…
次号、『二者択一の死闘!』

巻末言
2月29日(今日)生まれの人って
誕生日の人って平年はいつ誕生
パーティーをするのか疑問…?

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