キン肉マン2000
第3回超人オリンピック編
第4話 さらばシシカバ!の巻

「ぷくく…しかし、二人ともよくお似合いッスね。」

ノーティーはキン肉マンとテリーマンにさらにできたタンコブを見ながら笑いを抑えきれずにいる。

「やかましいわい。」

「ノーティー、黙ってろ。演説中だぞ。」

だが、そんなテリーに説得力なんてなかった。二人揃ってタンコブを山盛り作れば、そりゃね… ともかく、委員長の演説は1時間の大台にさしかかろうとしていた。ノーティーならずとも、雑談の一つでもしたいものだ。だが、15万人の超人たちは帰るわけにもいかず、かと言って文句を垂れるわけにもいかない。委員長には先程の必殺兵器があるのだから… そんな中、キン肉マンはその場に寝そべって、どこから持ってきたのかポップコーンを頬張っている。

「えー…というわけだ。」

パチパチパチパチ…

やっと委員長の演説が終わった。かいつまんで言うならば…挨拶から始まり、最近のゴルフのスコアの話、テレビ番組の話、おすすめマッサージ師の話…と、ほとんど委員長自身の世間話だったのだ。必要な話は、実質5分ほどだろう。

「さて諸君、二次予選に行きたいか!!」

「オーッ!」

「罰ゲームは怖くないか!!」

「オーッ!」

委員長のいきなりのこの台詞に超人たちはついノリで答えてしまったが、このやり取りは何なのだ。

「フォフォフォ…覚悟はいいようだな。第一次予選の種目はこれじゃ!!」

オーロラビジョンに『第一次予選−○×クイズ』という文字が映し出された。

「ゲーッ!!」

観客席からは歓声が上がり、グラウンドの超人たちからは怒号が上がる。

「ふざけるな、そんなもんで勝ち負けを決められてたまるか!」

「オレ達は委員長のお遊びにつきあわされるためにここに来たんじゃないぜ!」

委員長が再び無言でコンソールを操作し始めた。またもやハンマーを持った巨大な手・ハンマーハンドが何処からともなく現れる。と…その瞬間、超人たちの怒号はピタッと止まった。

「どうやら文句はないようじゃな。それではルールを説明するぞ。このオーロラビジョンにクイズが出題される。諸君らはその答について○か×のゾーンに移動してもらう。」

そう言った途端、グラウンド全体に敷いてあったシートに「ボワ〜」と巨大な○と×の記号が浮かび上がる。

「このうち、正解者だけが次のクイズに進める。外れた者はその場で失格じゃ。これを第二次予選進出者1000人になるまで続ける。」

「いくぞ、問題… ワシの名前はハラボテ・マッスルである。○か×か?」

超人たちが一斉にバラける。答は言わずと知れた「○」だ。しかし、意外と認識率が低いのか○と×のゾーンには、ほぼ半々の超人が集結している。

「○のみんな、自信はあるかーっ!!」

「おぉーっ!!」

「×のみんな、本当にこれでいいのかーっ!!」

「おぉーっ!!」

「正解は…これだーっ!」

オーロラビジョンに大きく「○」の文字が映し出される。歓喜の声が上がる○のゾーンと落胆の声の上がる×のゾーン。実に対照的だ。そして、委員長席の委員長は…不機嫌だった。

「この問題に限っては…不正解者に罰ゲームを与える。」

そう言うと、委員長は×のゾーン目がけてハンマーハンドを振り下ろした。余程、この結果が気に入らなかったらしい。×のゾーンからはクモのコチラス…失礼…蜘蛛の子を散らすように超人たちが四散する。

(テリーたちについていって助かったわい。わたしはてっきりサンダンバラ・マッスルと思っていたからのう…)

×のゾーンの地獄絵図を横目に冷や汗タラタラのキン肉マンであった。

一方、観客席で困った顔をしているのはミートである。

「まいったな…王子にクイズだなんて… だけど、アドバイスしたら反則になっちゃうし…」

「委員長もアジな事を考えたな。」

その声にミートはハッとして振り返った。スーツ姿にソルジャーマスクを被った超人、キン肉アタルだ。マスクとスーツというミスマッチだが、アタルの渋味がそこに加わり、何とも言えない風格を漂わせている。その横には銀髪の女性が控えている。前回のシリーズでサイキョー超人の一人としてビビンバと戦ったレッドバロンだ。現在アタルは副大王として国内の政務の元締めを担当しており、レッドバロンは秘書としてアタルを支えているのだ。こちらも、目に刺さるような真っ赤なスーツがバシッと決まっている。

「ア…アタルさま! どうしてここに!? あなたも出場なされていると思っていたのに。」

「フフフ…わたしが出るわけにはいかないさ。キン肉族の中でキン肉星の大王になるのはスグル一人…と決まっている。他のキン肉族の者…そう、例えばフェニックスも今回の大会に出場できる権利がありながら出場を辞退している。それがキン肉族全体のスグルに対する忠誠の証なのだ。」

「それにね…ミートくん。大王さまが王位継承権と超人オリンピックチャンピオンのタイトルを一つにしたのは理由があるのよ。」

「え…」

「レッド!」

何かを言いかけたレッドにアタルが釘を刺す。

「そこから先はひ・み・つ…」

レッドバロンは誤魔化すようにミートの『にく』と書かれたおでこを「つん」と指で突いた。

「話を戻すとしよう。超人にとって知力は重要なものだ。現にスグルを最も苦しめたフェニックスが何でのし上がったかは、よもや忘れてはおるまい。」

「た、確かに…」

アタルのその一言で、目からウロコが落ちたミートだった。

「それを試す意味でも、このクイズは栄えある超人オリンピックの予選として実に相応しい種目と言える。名将ハラボテ・マッスル…老いてはいるが、父上を苦しめた超人界きっての頭脳派の頭のキレはまだ衰えてないと見える…」

グラウンド上では、間違えばそこで終わりという緊張感の中、超人たちの悲喜交々(ひきこもごも)が繰り広げられていた。

「このわたしにそのような問題を出すとは…なめられたものだな。」

さすがに正義超人養成機関ヘラクレス・アカデミーで主席をとったロビンだ。ここまで見事に自力で勝ち残っている。

「オイラはテリー先生の後についていけば大丈夫っと…」

人に頼るちゃっかり者もいる。

「ど…どこじゃ、テリーにロビンは? ええーい、こっちじゃ!」

それさえも見失い、取り敢えずカンに頼る者…問題の解き方もそれぞれだ。

………………………………………………………………………………

『現在までの人数は…1315人だーっ! さあ、大分絞られてきましたーっ!』

吉貝アナが相変わらず気合いの入ったアナウンスで現在の状況を説明する。ここまで残るとある程度安心ができる。ここから先は答が外れても予選通過者が1000人を越えない限り勝ち残れる可能性が高くなるからだ。

観客席のミートはグラウンドの中を見渡した。100分の1以下にも人数が減ると、随分見やすくなる。

「王子は…えーと、いた…!」

「さすがはスグルだな。運だけでここまで残れるとはさすがだ。だが、ここからが正念場だぞ。こんな所で安心しているようだと残れるものも残れなくなる…」

アタルの意味深な一言にミートはドキッとさせられた。

『…さあ、正解は×だーっ!! おめでとう、キミ達は予選突破だーっ!』

そうこうしてるうちに、予選突破者が出てしまった。×を選んだ超人達はバンザイをしたり、ガッツポーズをしたり、中には当然とばかりに腕組みのままスカしてる者までいる。

「…ああ、王子は…○にいる…」

ミートは○のエリアの中にいるキン肉マンを見つけた。だが、まだ予選突破者は800人弱…チャンスはある。今度は○のエリアにいる者たちに問題が出された。

………………………………………………………………………………

その後も出題は繰り返され、次々と予選通過者は決まっていった。だが、その中にキン肉マンの姿はなかった。だが、予選落ちしたわけではない。何とか残りのイスを獲得すべく、挑戦者サイドにしぶとく居座っていたのだ。

『…さあ、走れーっ!』

アナウンサーの声が響く中、キン肉マンは×のゾーンにいた。だが、○のゾーンから、一人の超人が走ってきた。

「…やっぱりこっちにしよっと。」

「ゲーッ、お前は!?」

『そこまでーっ!』

「正解は、これだーっ!」

オーロラビジョンに×の文字が映し出される。

『さあ、999人目の通過者が決まりました。残ったのは…二人だけだ…一人はキン肉マンと、もう一人は…』

「こうも早く真の決着をつける時がくるとはな…」

この台詞…そう、受付でキン肉マンと会ったシシカバ・ブーである。

キン肉マンとこうして予選通過の残り一つのイスを争うとは、何と皮肉なことだろうか。

「一番会いたくないヤツに会ってしまったわい…」

「何だとーっ!」

「あー、二人とも、ケンカやめい。」

委員長が二人を静める。そして、二人には○と×のプラカードが配られた。

「二人にはこれで決着をつけてもらうぞ。」

委員長は二人に対して問題を出した。だが…
二人が出した答は両方とも同じものだったのだ。これでは答合わせする以前の問題だ。そうこうするうちに、100問も用意してあった問題も、すっかり底をついた。

「問題もなくなったが…こういう場合にはどう対処したものか… もう999人もいることだし、残り一人がいないくらい、運営に支障はないしのう…」

「コラコラコラーッ!!」

キン肉マンとシシカバが同時にツッコミを入れる。

クイズの答といい、こういう息の合わせ方はピッタリだ。意識はしてないが、互いに似た性質を持っている二人…タッグを組ませたら意外と息のあったプレイを見せてくれるかもしれない。

「冗談じゃ、冗談じゃ。そう青スジ立てんでもええやねん。仕方ない、こうなったら二人ともジャンケンで決めい。」

「まったく…またジャンケンで勝負を決めるとは思わなかったわい。」

「あ、そーれ…ジャンケンポ〜ン!」

キン肉マンが出したのはグー… シシカバもグー…

「あいこでしょ、あいこでしょ、あいこでしょ、あいこでしょ…」

予想はしていたが、キン肉マンとシシカバは鏡とジャンケンをするように際限なくあいこを繰り返していった。ここまで一緒だと、二人が仕組んで委員長をからかっているとしか思えない。だが、当の二人はいたって真剣だった。

「貴様、ワシをからかっておるのかーっ!!」

「落ち着いて下さい、委員長!」

進行が思うようにいかず、遂にキレ出した委員長。眼鏡をかけた部下が必死になって止める。

「…委員長、一つ問題が浮かびました。」

「何じゃ?」

「ヒソヒソヒソヒソ…」

「だがのう…」

「いけませんか?」

「仕方ない、無いよりマシか…」

依然、決着がつかないジャンケンをしているキン肉マンとシシカバに対し、委員長が呼びかけた。

「二人とも…ジャンケンでも勝負がつかんなら、最後のこのクイズで決着をつけてもらう。それでもダメな時は…今度こそ二人とも予選落ちじゃ。」

委員長の最後の決断だった。

「それでは、分かった方が挙手をして答えてもらう。いくぞ、問題。山本山を逆からよむと!?」

「ハイ!」

いち早く手を挙げたのはシシカバだ。

「逆からよんでも山本山!」

「残念、違う!」

キン肉マンが手を挙げて答える。

「逆からよむとマヤトモマヤ!」

「正解!!」

この瞬間、キン肉マンの予選突破とシシカバの予選落ちが決まってしまった。完全に手放しで喜ぶキン肉マンとガックリと肩を落とすシシカバ。だが、シシカバはキン肉マンの方に寄ると…

「わたしの負けだ。今度はリングで戦えると思っていたのにな。必ず優勝しろよ!」

そう言って握手を求めてきた。濃い顔ながら、引き際は実に爽やかだ。

「ああ…わかった。もし優勝した時に『この大会で一番苦しんだ相手は誰ですか?』と訊かれたら、真っ先にお前の名前を挙げるさ。」

ガッチリと握手をする二人。会場中からは拍手の嵐が巻起こった。

「あの時のクイズ番組が役に立ってよかった…」

ミートが言っていたクイズ番組とはかつて、金欠時(そう言っても、いつも金欠だが…)に賞金目当てで参加した「100万円クイズ」という番組のことだった。この時は100万円を目前にしながら、さっきと同じ問題で賞金をキン骨マンとイワオの怪人ペアに持ち去られていたことは読者の皆さんにも記憶があるだろう。

「だけど、あんな問題のどこが格闘技の役に立つんでしょうね? アタルさま…」

「………………………………………………………」

もはや、だんまりを決め込むしかないアタルだった。

▼何とか予選突破のキン肉マン 次の試練は…?
キン肉マン2000
第3回超人オリンピック編
第4話
…/おわり
第二次予選開始! 次号、
『屋台の街の怪奇現象!?』

巻末言
最近頭が疲れ気味。ネット生活
のリズムが体に染みついてます。
早く普通の生活に戻らなきゃ…

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