キン肉マン2000
第3回超人オリンピック編
第7話 出た!プルート・スローの巻

「ハッ…」

ノーティーは興奮の余りキン肉マンごとUFOをブン投げてしまったが、今頃になってやっと我に返ったようだ。

「すげーぜ、ノーティー!」

「宇宙一の怪力ーっ!!」

「ヨッ、大統領!」

ノーティーは取り敢えず観客席から沸き立つ声に応えるが、何やら様子がおかしい事に気付いた。

「そういや先生…キン肉マンはんはどうしたんや…?」

「…お前は勝負事に燃えると前後の見境が無くなるクセが、まだ治ってないようだな。」

テリーは仕方なさそうにノーティーに言った。ノーティーは今の一言で全てを悟ったようだ。

「ゲーッ! オイラ…どないしよう…」

「起こってしまったものは仕方ない。それにキン肉マンは天才的な悪運の持ち主だ。きっと帰って来るだろう。心配するな。」

「先生…」

ノーティーは改めて、テリーのキン肉マンに対する信頼を思い知った。キン肉マンがどんな目に遭おうとも、それを必ず乗り越えると確信しているのだ。

しかし、ノーティーは背後にもの凄い視線を感じ取った。そう…それは観客席にいたミートの無言の怒りだった。

「ミ…ミー坊…かんにんな…」

顔中を冷や汗だらけにしてノーティーは呟いた。ミートの眼力はノーティーを完全に押さえつけ、彼にこれ以上後ろを振り向かせなかった。

それはさておき、ノーティーの試技を皮切りに、キン肉マンを除いた全員の試技が行われ始めた。

………………………………………………………………………

『さあ、注目のバッファローマン。一体飛距離はどこまで伸びるのでしょうか。 …あーっと、記録は36万キロだーっ!』

「チッ… あの小僧の記録に足りなかったか…!」

すごい記録が飛び出したがノーティーの記録に届かなかったバッファローマンは不機嫌な顔だ。バッファローマンはこの手の種目には無類の強さを誇るだけに合格は当然であり、彼にとって後はどこまで記録を伸ばすかが大事だったのだ。

(フフフ…バッファローマンよ、この競技はただパワーがあればいいというものではない。下半身の安定、腰のひねり、腕の振り、手首のスナップ…全てが揃ってこそいい記録が出せるものだ。それに…予選ではこれから先に備えてパワーをセーブしておくものだ。ムダに力を見せる事もないだろう。もっともノーティーは力八分のようだったが…)

テリーマンはバッファローマンの記録を見ても大して驚かず、別の事に考えを巡らせていた。

(全選手がUFOを投げ終わるまでまだ時間があるが… それまでに戻って来なければ失格になるぞ、キン肉マン…!!)

ノーティーに責任を感じさせないためにあんな事を言ったが、やはり内心は心配だったのだ。テリーはただ中空を仰ぎ見ていた。

『あーっと、ベンキマンの記録は12万キロだーっ! これは厳しい…』

会場では試技が淡々と続けられていた。

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「まったく、ノーティーのバカ力め。あんな所までブン投げおって… UFOが完全にブッ壊れたではないか。おまけに、作者休筆のため2ヶ月以上も宇宙空間に放っぽり出しやがって。うらむぜ、ダイナポン・フリークのヤロー!!」

その頃、キン肉マンは訳の分からない事を呟きながら、ノーティーが月までブン投げたUFOを脱出して地球を目指していた。

グアァァ…!

「ん…あれは…おわーっ!!」

地球の方から何かがもの凄い勢いでキン肉マンの方に向かって来たが、キン肉マンは何とか間一髪でかわした。それは月の手前で止まると地球に向かって戻り始めた。それはバッファローマンが投げたUFOだったのだ。UFOはキン肉マンの横をすり抜けてしまい、見えなくなった。

「おお…あれはUFOではないか。これからはUFOがどんどん飛んでいくから気をつけんといかんな。」

舞台は再び会場に戻る。


『さあ、次の挑戦者は…キン骨マンだーっ!』

「キン骨マン…あいつもこの大会に参加していたのか…」

テリーは驚きを隠せなかった。確かに今回のオリンピックは種別を問わないオープン参加だったが…

「先生、キン骨マンってまさか…」

「ああ…オレの左脚を奪った男だ。」

「やっぱりそうなんか! アイツ、一発ドツいたるわ!!」

激昂して競技スペースに入ろうとするノーティー。

「やめろ!」

「せやけど…」

「もう昔の事だ。それに…このケガから立ち直った事が、オレに不屈の闘志を呼び覚ましてくれた。今はむしろヤツに感謝してるくらいさ。」

「先生…」

キン骨マンの試技が始まった。

『おーっと、これはキン骨マン…あの体でUFOを持ち上げたぞーっ!!』

骨ばかりの図体でパワーのかけらも感じさせないキン骨マン。それでUFOを持ち上げたのは驚嘆に値する。

「ムヒョヒョォォォ…!」

キン骨マンは回転もせず、か弱い奇声を発し、UFOをそのまま押し出すように投げた。

『キン骨マン、UFOを辛うじて投げる事はできましたが…全く勢いがありません。』

UFOはフワリと浮き上がったが、ドームを出ることもなく墜落しそうなほど微弱な勢いだ。

「ムヒョヒョ… 勝負はこれからだわいな。」

キン骨マンがそう呟いた時だ。UFOが突然勢いを増して月に向かって飛び始めた。観客がどよめく中、UFOは月まで達すると今度はフワリと着陸した。まるで人が乗ってるかのようだ。

『あーっと、キン骨マンの記録は二人目の月面到達、38万キロだーっ!!』

「オオオオォォォォ…!」

キン骨マンの怪記録は満場の観客を唸らせた。

『しかし、これはどうしたことでしょう。何やら不思議な飛び方でしたが…キン骨マンの投げには何かコツでもあったのでしょうか。』

説明しよう。昨夜の事件でドームに忍び込んだのはキン肉マンだけではなかった。ドームに消えたUFOに何かを感じ取ったキン骨マンは部下のイワオと共にドームに忍び込み、UFOのコントロールを乗っ取ってイワオをUFO内に潜入させておいたのだ。後はイワオがキン骨マンの試技中にUFOを月に向けて飛ばすだけで良かったのだ。要するに先程の言葉通り、本当に人が乗っていたのだ。

そして再び宇宙空間。
キン肉マンはゆっくりとだが地球に帰還していた。が、キン肉マンのスピードでは全員の試技が終了する前に会場に戻るのはかなり難しい。と、そこへ…

「おお…あのUFOだけはゆっくりと戻ってきている。しめた…」

確かにそのUFOだけはゆっくりと地球に戻っていた。他のものは触ることができないくらい速く動いていたというのに… キン肉マンは何か作戦を思いついたようだ。

………………………………………………………………………

「これでうまくいったわさ。先生にはどんな手を使ってでも優勝してもらって、怪人の市民権を世間に認めさせてやるわいな。」

無事に月に到達してイワオはのんびりと地球に帰還していた。と…その時、コックピットのアラートサインがその安堵感をかき消した。

「一体何事…ゲッ、キン肉マン!」

モニターに映し出されたのはUFOの後方にへばりついているキン肉マンだった。

「ウシシシ…これで楽に地球に帰れるぞい。」

「放せ、放せ!」

イワオはUFOのテールを振ってキン肉マンを払い落とそうとした。しかし、まだ冷静な心を持ってのだろうか、思いとどまった。要らぬ騒ぎを起こしてカラクリが知れては元も子も無いからだ。

「うーむ…しかしこれでも遅いような気がするのう。仕方ない。」

キン肉マンはニンニクを口に含んだ。

「ちと臭うが、ターボエンジンをかけるか… むむ…!」

ブオン…!!

何の音かは敢えて言及しないでおこう。

地上では…

『さあ、スペシャルマンの試技が終わりました。これで…ドーム内にいる選手は既に全員試技が終わった事になります。キン肉マンが戻ってこないようですが、これ以上待ってもムダなようなので、これにて予選を締め切らせて…』

「ちょっと待った!!」

アナウンサーの言葉を遮るようにして何者かの声がした。上空には月から戻ってきたUFOが浮かんでいる。その陰からだった。

「とうっ!」

その人影が颯爽とUFOから飛び降りた。そして、見事に…「どぎゃ」と鼻から着地した。言うまでもなく、それはキン肉マンだった。

「お、王子ーっ! ボクは信じてましたよーっ!!」

ミートは涙を溢れさせて感激している。キン肉マンは鼻血を出しながらも両手にピースサインで観衆に自分をアピールする。さり気にハンカチを差し出すテリー。

「キン肉マン、済まない。オレの弟子が…」

「フン… わたしの華麗な投げを見せてやるわい。」

キン肉マンはテリーマンに背を向けて言い放つ。ぶっきらぼうなようだが、キン肉マン流のドンマイの合図だ。

キン肉マンはテリーに背を向けたままで競技スペースに入った。キン肉マンはそのまま上空にジャンプすると、さっきまで自分がしがみついていた、イワオが乗っているUFOを掴み上げた。

『さあ、キン肉マンの試技に入りました。』

(カメハメ師匠…いまこそあなたに教えてもらったこの技を、本当に使う時が来たようだぜ…) 「48の殺人技のNo.1・プルート・スロー!!」

キン肉マンがそう叫んだ瞬間、UFOは風を切って、ただ月へ向かって一直線に飛んでいった。最初にノーティーが投げた時よりも遙かに勢いがある。UFOは月に激突すると、木っ端微塵に砕け散った。月の方も心なしか形が変わっているような気がする。

「チッ…冥王星までぶん投げてやろうと思ったのによ… 月がじゃましやがったぜ………」


そして月では…イワオがのびていた…

☆やったぜキン肉マン、奇跡の復活で二次予選突破!
キン肉マン2000
第3回超人オリンピック編
第7話
…/おわり
第三次予選の正体は!?
次号、『バランスパニック』

巻末言
新生活で電話とモデムを買ってやっと
復活。相変わらず遅筆ですが、最後
までキッチリやります。応援よろしく。

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