キン肉マン2000
第3回超人オリンピック編
第8話 再会の完璧超人の巻

ここは東京湾−キン肉マンは再び東京に戻っていた。今日は超人オリンピック第三次予選と最終予選の開催日だったからだ。夢の東京湾横断道路・るりかけすに隣接しているジオ・スタジアムは今回のオリンピックのために建造された水上スタジアムで、つい3日前に落成を迎えていた。それはジオ・スタジアム前広場での出来事だった。

「王子が月まで飛ばされた時にはどうなるかと思いましたよ。」

「まあ、いいじゃないの。ちゃんと戻ってこれたわけだし。ん、あそこにおるのは…」

「テリーとノーティーですね。おーい!」

向こうではテリーとノーティーが小さなテントのようなものに向き合っていた。テントの中にいる誰かと話し込んでいるようだ。

近づくキン肉マンとミート。テントの中では占い師が絵の描かれたカードを並べている。俗にタロットカードと呼ばれているものだ。よく見ると占い師はまだ若い男のようだ。

「どうしたんじゃ。」

ぬっ…と顔を突き出すキン肉マン。

「何だ、キン肉マンか。いいから黙って見ているんだ。」

テリーとノーティーは食い入るようにそのカード捌きを見ている。ミートも背伸びをしてその様子を見ていたが、キン肉マンは訳が分からず、かと言って何をするというわけでもないので、取り敢えず様子を見ていた。

「さあ、出ましたよ。金髪のあなた…少し運気が悪いですね。勝負事は控えた方が良いでしょう。そこのお若い方は…」

占い師は淡々と結果を告げる。当事者であるテリーとノーティーは神妙な顔つきでそれを受け入れる。

「…大きな運の分かれ目ですね。よく考え抜いて、軽率な行動に出ない方がよろしいかと… ですが、わたしが告げたのは一つの結果に過ぎません。運命の扉を開く鍵は…あなた達の行動に隠されています。」

占い師の言葉が終わっても、しばらく沈黙が続いた。彼らを現実に引き戻したのはミートの声だった。

「あっ、そろそろ時間だ。早く行かないと…!」

こんな事をしている間にも予選開始までの時間は迫っていた。占い師はキン肉マンたちの去り際に言葉を残した。

「申し遅れましたが…わたしの名はテリング・フォーチュン。以後お見知りおきを…」

キン肉マンたちは急いで会場に向かった。

「ところでテリー、なぜあんな所にいたんだ?」

「オレにも分からん…だが、ノーティー共々あそこに引き寄せられるような感覚がして…気がついたら、占いをさせられていたんだ。」

「先生…あんな占いなんて気にしたらあかんて。あんなん、適当な事を言っとるだけや。結局具体的な事は何も言うとらんし…」

ノーティーはテリーに告げられた結果が思わしくないのを心配していた。

「気にはしていないが…どうして…あそこに引き寄せられたのか…」

「テリー…」

「いや、何でもない。オレはオレのベストを尽くすだけだ…」

キン肉マンたちはスタジアムの中に消えていった。


「ヤツら…行ったようだな。どうだ、手応えは…」

テントの陰からその男は出てきた。まるでキン肉マンたちが消えるのを待ってたかのように。その、やや痩せ型の男はさっきから一連のやり取りを聞いていたようだ。

「さあ…こればかりは実際に手合わせをしてみないとな…」

「デッキ…お前らしくもない…」

痩せ型の男はテリング・フォーチュンと名乗った男にそう呼びかける。

「フフフ…何分にも彼らは正義超人の中でも不確定要素が多すぎる。ラーメンマンやウォーズマンよりもはるかにね… それはキミにだって感じ取れるだろう…」

「なるほど、そういうことか。」

テリング・フォーチュンはタロットをシャッフルし始めた。そしてシャッフルが終わると、そのカードはマジックでもかかったかのように別の図柄のカードに変わっていた。彼らはその場から風のようにテントごと消え去った…


ここで第三次予選に続く最終予選の傾向を見てみよう。現在の委員長ハラボテ・マッスルは第20回超人オリンピック…俗に言う第1回超人オリンピックから委員長職に就いているが、前2回のオリンピックの両方とも最終予選は「月への往復マラソン」、「ローラーゲーム」とレース型のものだ。今回も最終予選は何らかのレース型であると考えられる。それを見越してか、今回は特に脚力を鍛えている超人が多くなっていた。

キン肉マンとテリー、ノーティーとミートは会場に入った。その矢先…

「まさか、あんたが参加しているとは…!」

という声が飛び込んできた。誰あろう、声の主はザ・サイキョー超人の一人、爆裂のハードパンチャーであるギャラクティカだった。そしてその相手は…

「ゲーッ!」

キン肉マンもその目を疑った。男の正体が、かつて正悪や感情を越えた第4勢力・完璧超人…その首領格であったネプチューンマンだったからだ。

「確かにネプチューンマン…し、しかし…今まで気付かないはずが…」

テリーの言うのももっともだ。ネプチューンマン程の実力者が今の今まで何の注目も浴びずにいたなんて信じ難い。

「今日までは名と姿を変えて参加していたからな。わたしも自分の実力を再び試すためにこうして舞い戻ってきた。特にロビン…貴様との真の決着をつけるために…」

ネプチューンマンはその場に居合わせたロビンに指を突きつけた。

「面白い、私も望むところだ。だが、お前がこうして出てきたという事は…あの時の言葉通り、お前と五分にわたりあえる強者が出てきたということか。」

「まあ、そんなところだ。」

「首領(ドン)!!」

ロビンとネプチューンの会話に嘴を入れたのはギャラクティカだった。

「フフ…誰かと思えばギャラクティカか。かつてはスクリュー・キッドと切り込み隊長の座を争ったお前の事だ。そのケンカっ早さは変わってないようだな。」

かつて自分が喧嘩男と名乗っていたのを棚に上げてよく言えたものだが、それよりもギャラクティカの過去がこれで明らかにされた。驚愕する正義超人たち。

「ギャラクティカが元完璧超人…それならばあの強さも納得いくな…」

思わず言葉を漏らすブロッケン。

「だが、弱点も変わってないとみえる…」

ネプチューンマンは含みを持たせた言葉を残したまま背を向けた。

「待て、首領(ドン)! オレは首領(ドン)が人狼煙で爆発してからも修行を続けてきた。以前のオレとは何もかもが違う!!」

「わたしの言葉が本当かどうかは実際に戦ってみれば明らかになる。それまで勝ち上がって来い。もっとも…わたしが優勝してもキン肉星の王座は返上してやるがな。ハハハハ…!」

ネプチューンマンは高々と右腕を上げると、そのまま人混みに消えていった。その場にはやりきれない表情をしたギャラクティカと絶句したキン肉マンが残った。

しばらくしてその騒ぎを知る由もない委員長が現れ、種目の発表が行われた。

「第三次予選…種目は…」

固唾を飲む一同。

「バトルロイヤルじゃ!」

その言葉が終わった途端、スタジアムの真ん中に張られた柵の部分が開いた。そしてその下の海中から円形の足場が現れ、カメラのシャッターの様に広がっていった。ちょうど参加超人が全員入るくらいの広さだろうか。

「諸君たちにはこのリングの上で一斉に戦ってもらう。ただし、3カウントやギブアップはナシじゃ。失格の条件はただ一つ…リングアウトだけだ!」

柵が撤去され、300人の超人たちは渡された板から続々とリングインした。リングとは言っても、足場のみでロープも何もない。一歩足を踏み外すと海中にリングアウトし失格となってしまう。さらにこのリングは浮島状になっているため、実際に戦う超人達は観客席から見ている以上に揺れを感じる。これで戦いが始まると揺れはこんなものでは済まないだろう。そこで不安を抱く者はなるべくリングの中央に寄っていった。だが、真ん中に寄ると余計に周囲に気が回りかねる。逆にリングの端で敵を待ち受けるロビンのような玄人もいるが、それは少数だ。全員が入りきったところで渡し板が外された。

「全員とも、覚悟はいいようじゃのう。このリングは時間が経つにつれて段々と狭くなっていき、最後には予選通過者の30人しか立っていられないようになる。くれぐれも気をつけたまえ。」

その頃、VIPルームでは…

「フフフ…バトルロイヤルの一番の怖さ、スグルも分かっていような…」

何者かがワイングラスを片手に激闘直前のリングを見下ろしていた。ボーッとしているキン肉マンの周りには殺気が渦巻いている。

カァン!

『さあ、戦いのゴングが鳴ったーっ!』

「狙え〜っ!!!」

周りの超人が一斉にキン肉マンに向かって飛びかかった。ダメ超人と言われて久しいキン肉マンだが、今や大会中で一番怖い超人だという事は皆の認めるところだ。しかし、いかにキン肉マンとは言えこれだけの数を一度に相手にするのは無謀に近い。

「そう来ると思っていたぜ…」

キン肉マンはニヤリと微笑うと、待ってましたとばかりに呟いた。そして隣にいたオイルマンに…

「頭を借りるぜーっ! グローバル・ブレーン・スピン!」

オイルマンの頭に両手で乗ると、あん馬の要領で回転を始めた。キン肉マンに群がる超人が次々と薙ぎ倒されてゆく。まるで竜巻のようだ。さらに足場の揺れも回転による重心の安定によって解消されている。まさに一石二鳥の作戦だ。

「う…うまい!」

「さすがキン肉マンはんや!」

お互いを背にして両面の敵を相手しているテリーとノーティーは思わず驚嘆の声を上げる。

周りではそれぞれの超人たちがそれぞれの持ち味を活かして戦っていた。

「竜巻地獄!」

キン肉マンと同じようだが、本当に竜巻を起こしている者…

「うおりゃああっ! どすこーい!!」

投げや張り手をかますマワシ姿が二人…

「喧嘩ボンバー!!」

圧倒的なパワーで3人を一度に吹き飛ばす者…

「ムヒョヒョヒョヒョ…」

あまりに体が軽すぎるため、空中にフワフワと浮いて攻撃が当たらない者…

海中に吸い込まれるように超人が落ちてゆき、デジタル表示された残り人数がその数を減らしていく。50人を切ったところでアナウンサーのカウントダウンがかかり始めた。

『50!』

『45!』

『40!…』

◇白熱の第三次予選! 生き残るのは…
キン肉マン2000
第3回超人オリンピック編
第8話
…/おわり
次号、遂に最終予選へ突入!
『フィーリングカップル』を待て!!

巻末言
更新が思いっきりキツいので隔週刊
にしてみます。このまま続けるか月
刊化にするか迷った末の選択………

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