キン肉マン2000
第3回超人オリンピック編
第10話 波乱のタッグマッチの巻
「ゲーッ!!」
ゴンドラに乗っていたのは現・第57代キン肉星大王にして第10回超人オリンピックの覇者・キン肉真弓だった。
特別シード選手がなぜ真弓なのか…超人たちは敢えてそこにツッコまなかった。委員長の独断で押し通されているというのは誰の目にも明らかだったからだ。
「あぶれた1組とはワシと真弓くんのタッグチームと戦ってもらう。もちろんワシらが勝てば、キミたちの代わりに決勝トーナメントへと進出することになる。ところで…余りに意外な人選なもんで声を失っておるようじゃの、真弓くん。」
「ワシらに勝てる気がしないもんで絶望してるようだな。」
互いに顔を近づけ合ってヒソヒソ声で談笑する二人。
「しかし委員長…いくら往年の達人とはいえ、このご老体では少し荷が重すぎるのでは…」
ロビンが二人の思惑に全く反した言葉を発する。勿論、他の超人も絶望なんかしていなかった。むしろ逆であることは、賢明なる読者諸君も察するところだろう。だが、委員長も負けてはいない。
「フォフォフォ…我々も随分見くびられたようだ、のう真弓ちゃん。」
「その通りだな、委員長。ワシもこの日のためにトレーニングを欠かさず積んできたのだ。おかげで全盛期の頃のパワーが戻ってきたような気分じゃ。」
「全盛期か…懐かしいのう。当時の人気たるや、真弓ちゃんがテリーでワシがロビンみたいなもんじゃったからのう…」
「テリーに…」
「ロビン…!?」
超人たちの視線が一瞬で疑念に変わる。そして次の瞬間…
「ウソだ!!」
「ウソだ!!」
「ウソだ!!」
「ウソだ!!」
「ウソじゃ!!」
一斉に追及の声が挙がる。
「ほ、本当じゃ!」
ムキになって否定する二人だった。
「気を取り直して組み合わせを発表する。」
何とか騒ぎも収まって委員長は早速組み合わせを発表し始めた。
「第1試合…ジェシー・メイビア&ジェロニモVSブラックホール&ペンタゴン! 第2試合…アシュラマン&サンシャインVSカナディアンマン&スペシャルマン! 以降は試合終了後に発表する。」
「委員長、質問があるズラ!」
「何だね、ジェロニモ。」
「ジェシーとのコンビは別に何の文句もないが、コンビの選考はどうなっているのか教えてほしいズラ。」
「本来は秘密なのだが、選考が不透明だと何かとクレームも多いだろう。よろしい…教えてしんぜよう。実は…選考の基準となったのは先程キミらに書いてもらったアンケート用紙だ。」
「しかし、あれはプレス用の資料だったのでは…?」
「キミらをダマしたのは悪かったが、実は架空の誌名をでっち上げたのじゃ。そのデータから最も相性のいい組み合わせを選び、ランダムに対戦相手を選んだというわけだ。」
委員長の考えが明かされた。アンケートの記入内容が極秘というのも、そのためだったのだ。間もなく、委員長に呼ばれた4組のタッグは選手控室へ、その他は試合場脇に設けられた選手用ウェイティングボックスへ移動した。
試合が開始されたのはそれから10分ほど経ってからだ。第1試合はAリングで、第2試合は同時にBリングで行われる。
『さあ、Bリングでは早くも殺気立っています。それもそのはず、宇宙超人タッグトーナメントの開会セレモニーでカナディアンマン&スペシャルマンのビッグ・ボンバーズがアシュラマン&サンシャインのはぐれ悪魔超人コンビの手によってリタイアさせられているのです。』
「こうして公式のリングで決着がつけられるとは、委員長もイキな計らいをしてくれたもんだ。あの時の屈辱は倍にして返してやるぜ。」
「カーカカカ、確かにイキな計らいだ。これで合法的にお前たちをじっくりといたぶれるわけだからな。」
「グォッフォッフォ… 超人墓場から戻ってきたばかりで体が鈍(なま)っているわ。お前らごときが準備運動程度になればいいがな…」
「何をーっ!」
「落ち着け、スペシャルマン! 冷静になればこいつらなどオレたちの敵じゃない。」
「ならば、試してみるか…?」
Bリングでは舌戦の火花が散っていた。
『一方…Aリングではジェロニモ&ジェシー・メイビアのグレート・ハワイアンズもブラックホール&ペンタゴンの四次元殺法コンビも落ち着いて試合の時を待っています。さあ…間もなくゴングです。』
カァン!
AリングとBリングで同時に試合が始まった。奇襲を仕掛けたのはAリングの四次元殺法コンビからだ。ペンタゴンの空中からの高角度ミサイルキックがジェロニモに炸裂する。
「グハッ…!」
「決勝トーナメントへのチケットはこの四次元殺法コンビがもらったぜ!」
ペンタゴンは翼を利して空中からのヒット&アウェイ戦法でジェロニモを攻め立てる。
「ジェロニモ、取り敢えずガードするんだ。そこから突破の糸口を掴め!」
「よ、ようし…」
ジェシーのアドバイスでジェロニモは頑なにガードを固めた。ダメージは格段に軽くなり、ジェロニモも平常心が戻ってきたようだ。
「一か八か…この技に賭けてみるズラ…アパッチのおたけびーっ!」
ウララァァァァ…!!
『あーっと、会場に大音響が響き渡ったーっ! ジェロニモのアパッチのおたけびの振動が放送席まで伝わってきそうだーっ!!』
アパッチのおたけびは空気の振動と突風を呼び起こし、たちまちにしてペンタゴンの翼を捉える。自由を奪われたペンタゴンはバランスを崩して墜落してしまった。
「ウ〜ララ〜ッ!!」
『そしてジェロニモ必殺のトマホーク・チョップが炸裂したーっ!』
「こんなチンケな技ごときで…!」
ペンタゴンは再度ジェロニモに向かっていった。だが、アパッチのおたけびに気圧され、進むこともままならない。
「ペンタゴン、タッチだ!」
『さあ、四次元殺法コンビはチームリーダーのブラックホールにタッチだ!』
「誰が来ても同じズラ! アパッチのおたけびーっ!」
確かにジェロニモの言う通り、翼を持たないブラックホールでさえもアパッチのおたけびによって前に進めないでいる。
「かかったな…」
「何!?」
その時だった。ブラックホールの顔にあいた穴からもの凄い重力波が放射された。それはアパッチのおたけびさえもその中に吸い込み、完全に無効化してしまったのだ。
「ま、まさか?」
呆気にとられているジェロニモにブラックホールの陰からペンタゴンがスライディングキックでジェロニモの足をすくった。すかさずニードロップを落とすブラックホール。
「ジェシー…タッチずら…」
少しダメージが蓄積されてきたジェロニモ。ここは絶妙のタイミングだろう。
「よし、ジェロニモ…後は任せてくれ。」
「くらえ! スペースシャトル!」
「その技は研究済みだ! それっ!!」
『あーっと! ジェシー・メイビア、ミサイルキックを仕掛けるペンタゴンの足をとってジャイアントスイングだーっ!』
「そうはさせるか!」
『あーっと、ブラックホールがカットに出ますが…ジェシーが振り回しているペンタゴンをぶつけましたーっ!』
「さあ、ここからはわたしたちのショータイムだ。」
グレート・ハワイアンズの反撃が始まった。ジェシーの返し技のみならず、ジェロニモとの見事なコンビネーション…とても即席タッグとは思えない程だ。だが…
『あーっと、ブラックホールのサイドスープレックスを返したジェシー、そのままヘッドロックに捉えたーっ!』
その時、ブラックホールがペンタゴンに親指を立てて合図を送った。ペンタゴンはコクと頷く。
「クロノス・チェーンジ!!」
ペンタゴンが顔の星印を回すとブラックホールとジェシーの体勢が入れ替わった。そのまま首投げにもっていくブラックホール。
「お前は自分の返し技に自信を持っているようだが、タッグにおいてはペンタゴンのクロノス・チェンジの方がはるかに上だ。嘘だと思うのなら試してみるがいい。」
『あーっと! ブラックホール、そのままキャンバスに大の字になったーっ!!』
「な、なめるのもいい加減にしろーっ!! ジェロ!」
自分の得意戦法をバカにされ、激怒するジェシー。彼に呼応してジェロニモがリングインする。ジェロニモは無防備なブラックホールを羽交い締めにするとコーナーに寄りかかった。
「ハワイアン・クラーッシュ!!」
ジェシーの助走をつけてのジャンピング・ニーパットだ。今、まさにそれがブラックホールに突き刺さろうとした瞬間…
「クロノス・チェーンジ!」
ブラックホールとジェロニモの体勢が入れ替わった。
「し、しまった…」
だが、もう遅い。ジェロニモにジェシーのハワイアン・クラッシュが突き刺さってしまった。
「ゲホッ!!」
「ジェローッ!! す、すまない。わたしが挑発に乗ってしまったばかりに…」
「余所見は禁物だぜ…」
背後からブラックホールのアームスマッシュが袈裟懸けに決まる。体勢を崩すジェシー。
「さらに…さしものお前でもこれは返せまい!」
『あーっと!! ブラックホール、再び吸引を始めたーっ!』
ブラックホールが顔の穴から吸引を始める。その中にある無限とも言える空間に吸い込まれてしまったが最後、抜け出すのは困難を絶する。その場に踏みとどまろうとするが、ブラックホールの吸引力にじりじりとジェシーの体が引き寄せられていく。
「ジェシー、がんばるズラ! オラも…がんばるけん…」
「ジェロ…」
ジェロニモがジェシーを抱き止める。その片方の腕はしっかりとコーナーポストを掴んでいる。ブラックホールの体力が尽きるのが先か、二人の体力が尽きるのが先か…しかし、事態は思わぬ方向に動く。
「クロノス・チェーンジ!!」
たちまちブラックホールとハワイアンズの位置が入れ替わる。突然拠り所を失った二人はなす術もなくブラックホールに吸い込まれていった。
ズズ…ズズズズズ…
『あーっと、またもやペンタゴンのクロノス・チェンジが炸裂ーっ! グレート・ハワイアンズが吸い込まれましたーっ!!』
吸い込まれたハワイアンズに対してリングアウト・カウントが入る。
「ククク…そんなカウントなど、ムダだ。」
ブラックホールの言う通りだった。無情にも20カウントが入り、四次元殺法コンビの勝利が決定した。
★タッグ戦始まる 決勝トーナメントに進むのは誰だ!?
キン肉マン2000 第3回超人オリンピック編
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| 第10話 …/おわり
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Bリングの勝負の行方は?
次号、『砂の迷宮』!!
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巻末言
麦茶と間違えて天つゆを飲んで
悶絶。嘘みたいだけど、ポット
に入っていて本当に紛らわしい。
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