キン肉マン21
第3回超人オリンピック編
第3話 執念の男の巻
ジオ・スタジアム…東京湾上に造られた総合格闘場では第3回超人オリンピック決勝トーナメントの組み合わせ抽選会から1週間が経ち、1回戦が開催されることとなった。
「キ…キン肉マン…一体どうしたんだ!?」
最終予選の負傷も完治し、ノーティーのセコンドとして付き添いに来たテリー。彼はミートに支えられて選手控え室に入ってきたキン肉マンを見るなりそう言った。
「どうしたもこうしたも…まったく、アタル兄さんめ…」
「まるでボロゾーキンやな。」
あまりの疲労にキン肉マンは反論する元気さえない。
「そう言えば、キン肉マンのコーチにはキン肉アタルがついたと聞いたが…まさかここまで猛特訓をするなんて… だが、これはやり過ぎだ。コンディションを崩してしまっては元も子もない。彼がそんな初歩的なミスをするとは思えない…」
確かにテリーマンならずとも、アタルのような戦略家が無計画な特訓内容を課すとは考えられないだろう。
「キン肉マン、できれば教えてくれないか。どんな特訓をしたのかを…」
キン肉マンの記憶は1週間前に飛んだ。
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「そら、立つんだスグル。お前の力はそこまでか…」
「ど…どうして…」
「アタル様が…」
「どうしてあんなに強いのに…兄さんはオリンピックに出場しなかったんだ…」
ブタ小屋前の仮設リングでは、キン肉マンとアタルのスパーリングが繰り広げられていた。しかし、キン肉マンはアタルの前にマットを嘗めさせられるだけで手も足も出ない。
「言わなかったか、スグル。わたしではキン肉星の大王になる資格などない。いや、もし出られたとしても…わたしでは…優勝できん。これが最大の理由だ。」
「!!」
「だが、兄さんが優勝できないほどの超人相手となるとわたしでは…」
「だからこうしてお前に特訓をつけているのではないか。わたしが使ったナパーム・ストレッチ、デス・グレネード、ガトリング・レイダー、そしてデュランダール・ドロップ…これらはカイザーコマンドーの技の数々なのだ。わたしも父上も、かつてこれを身につけるために血ヘドを吐くような特訓をしたものだ。だが、スグルよ…だからと言って尻込みすることはない。カイザーコマンドーは実はキン肉族三大奥義へのステップとして開発された格闘術なのだから。」
「ということは…」
「既にマッスル・スパークを身につけているお前にはその素質は十分にあるということなのだ。そしてこのカイザーコマンドーは肉のカーテンと同じくキン肉族にしか使えん。キン肉族独特の肉体構造を持つ者でないとな。」
「もし、それ以外の者が使えばどうなるんですか。」
ミートは恐る恐るアタルに尋ねる。
「そうだな…カイザーコマンドーの力を引き出せないどころか…肉体はいずれ崩壊していくだろう。それ程カイザーコマンドーの力は絶大だということだ。しかしわたしは信じている。スグルがカイザーコマンドーを身につけ、わたし以上の強さを得る事を…」
「兄さん…」
「そのためには特訓あるのみだ。」
アタルは持参してきたスーツケースの中から見覚えのある物体をガチャガチャと取り出した。地面にそれが落ちるたびにズシィンという音が響く。そう、それはアタルがザ・サイキョー超人の軍師・ドラゴフェニックスに扮していた時に装着していた鎧だったのだ。
「アタル兄さん、それは…もしかして…」
「お前には今日からこれを着けて特訓をしてもらう。」
「ヌオ〜ッ…兄さん、これは…なかなか持ち上がらんぞい…」
キン肉マンは腰を据え、顎を上げて肩のパーツらしきものをやっとの思いで持ち上げた。
「それは総重量で50トンを超える。扱いには気をつける事だ。」
仰向けで肩のパーツに押し潰され悶えるキン肉マンであった。
それから1週間…タダでさえハードなアタルとのスパーリングに鎧を着けての特訓が朝ともなく夜ともなく続いたのだった。ところで…鎧の入っていたスーツケースが何で出来ていたのか…それは言わない約束だろう。
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「な…なんて凄まじい特訓なんだ…」
「ふーん、そんなもんなんか。」
驚くテリーとあっけらかんなノーティー。ノーティーの場合、理解してないのか本気なのかはよく分からない。
「う…思い出しただけでも吐き気が…」
すかさず洗面器を差し出すミート。その手慣れたタイミングの良さからして、このシーンは一度だけではないのだろう。
「スグルは無事に来ているようだな。」
控え室に唐突に当のアタルが入ってきた。無事とは言っても、既に半病人みたいなものだが…
「アタルさま…王子がこんな調子で本当に勝てるんでしょうか?」
ミートでなくともこんな調子のキン肉マンでは1回戦突破さえも危ういと思うのは当然だろう。ミートの責めるような視線がアタルに突き刺さる。だが、アタルはそれをすかしてじっと疲弊しきっているキン肉マンを見つめて…言った。
「スグルよ…わたしを信じろ…」
そのままアタルは背を向けて控え室を去っていった。
「何や、あの兄ちゃんは。キン肉マンはんをあないにボロボロにしといて、信じろやなんて。」
「だが、アタル様のあの目は…心配と同時に何かを確信していた目だ。ノーティー、このトーナメント…荒れるぞ。」
「先生…」
コツコツコツコツ… 靴音が響く。その音の主はキン肉アタルだった。
(スグルの仕上がりはまあ、こんなところか…だが…時間がない…あとはあの二人が予定通り動いてくれれば…)
アタルはVIPルームへ向かう間、思索を巡らせていた。彼の中にある計画とは何か。そしてあの二人とは。それは後になって語られることになるが…
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『…いよいよ始まりました。第3回超人オリンピック決勝トーナメント! キン肉マンのタイトル失効により開催されたこの大会…優勝者には世界超人タイトルのベルトのみならず、何とキン肉星の王位継承権も与えられるのです。さあ、只今より選手入場です!』
超満員の観衆が見守る中、いよいよ決勝トーナメントの選手入場が始まった。
『まず先頭を飾りますのはフランス代表のゾナーマンとエレガントマン。続いてドイツ代表ブロッケンJr.です。そして魔界出身、エントリーはインドのアシュラマン。日本代表はご存じキン肉マンとキン骨マン、そしてギャラクティカだ。行進はメキシコ代表のマイナーラスク、ペルー代表のサンシャイン、スペイン代表のバッファローマンと続きます。イギリス代表のブラックホール、ネプチューンマン、そしてロビンマスク。アメリカ代表はペンタゴン、デッキマスター、ノーティー・ブラットだ!』
激戦を勝ち抜いてきただけあって威風堂々とした選手たちは威風堂々としている。その中にあって、キン肉マンは疲労の色をありありと出していた。
「キン肉マンよ、そのダラけぶりは敵を油断させる常套手段か? それとも… フッ…どちらにせよ、わたしの技は破れないがな。」
自信満々に呟くのはキン肉マンの1回戦の対戦相手・ブラックホールである。
(わたしは誓った…お前にはこれ以上負けないと… 優勝などいらない。お前を倒すことさえできればな!)
間もなく1回戦第1試合が開始された。キン肉マンVSブラックホール、シングル・タッグ通じて今回が3度目の対戦だ。
◎不気味なBH、新必殺技の全貌は…?
キン肉マン21
第3回超人オリンピック編
第3話
…/おわり
BHの猛攻に早くもピンチ!
出るか、特訓の成果!?
巻末言
歯も完治して、ようやく一息。
休みがちなノベルだけど7月は
強化月間でパワーアップ予定?
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