キン肉マン21
第3回超人オリンピック編
第4話 戦慄! コールサック殺法の巻

ついに始まった第3回超人オリンピック決勝トーナメント。1回戦第1試合は我らがキン肉マンVSブラックホールという好カード。果たしてどのような結末が我々を待ち受けているのか…

『さあ、リング上ではキン肉マンとブラックホールが互いの出方を伺っております。』

しばらく睨み合っていた両者だったが、先に仕掛けたのはキン肉マンだ。ブラックホールを抱え上げると、ボディスラムを食らわした。そして追い打ちをかけるようにニードロップを落とす。

『あーっと、ニードロップ自爆ーっ!』

ブラックホールは素早く身を捻ってかわした。いや、ブラックホールが素早いのではなく…

「どうやら本当に体調を落としているようだな。」

「おわ〜っ!」

膝を抱えてマットを転げ回るキン肉マン。ブラックホールの言う通りキン肉マンの調子は目に見えて悪い。その後も果敢に攻撃を仕掛けようとするキン肉マンだったが、ブラックホールにいいようにあしらわれてしまう。

「王子ーっ、もっと相手をよく見て戦うんですよ!」

「わかっておるわい!!」

そう、キン肉マンも分かってはいるのだ。だが、体が言うことをきかないのだ…

「フン、こんな弱小超人にマトモに勝負する必要はない。次元の彼方に葬り去ってくれる! 吸引、ブラックホール!!」

ブラックホールの顔の穴から凄まじい重力波が放射される。そしてその周りにある物体が穴に向かって吸い込まれていく。ジュース、ポップコーン、カツラ…まるで超人ポリバケツだ。そしてキン肉マンの体も吸引にかかった。

『あーっと、キン肉マン…ジェロニモ、ジェシー・メイビアに続いてブラックホールに吸い込まれるのかーっ!?』

(そ…そうだ。ジェロ…ジェシー…この2人はブラックホールに吸い込まれたままだった。わたしがブラックホールを倒して助けなくては… 助けなくては!)

「こなくそ〜っ!!」

キン肉マンはロープに掴まって激しい吸引に耐えている。

「く…こ…小癪な…」

ブラックホールも必死に吸引力を上げる。さらに耐えるキン肉マン。そして一瞬…ブラックホールの集中力が切れた。

「今だ!」

機を悟ったキン肉マンはロープを離して右腕を大きく振りかぶった。凄まじい吸引力がキン肉マンのダッシュに加速をつける。

「火事場の…ローリングエルボー!!」

『あーっと、キン肉マン逆転のエルボー! これは強烈だーっ!!』

「そうだ、スグルよ。いい勝負勘だ。」

VIPルームのアタルは眼下で繰り広げられる戦いを悠々と眺めていた。ちなみにVIPルームには個々に大画面モニター、リング近傍の音を拾うマイクによる臨場感溢れるサウンドが流れるスピーカーと、至れり尽くせりの設備が施されている。

「くそっ! やはり次元葬などという安易な方法で地獄送りにしたところでホワイトホールで脱出されるのがオチだ。こうなれば…」

やっと立ち上がったブラックホール。キン肉マンの一発はブラックホールにダメージを与えただけでなく、彼の闘志にも火をつけたようだ。

「王子ーっ! ブラックホールはまた何かをやらかすつもりです。早めにつぶさないと!」

「チッ…やかましいチビ助め。」

歯がみするブラックホール。それだけミートの指示が的確だということだ。

「ミートよ、言われなくても…そのつもりだ!」

「ククク…だが、もう遅い!」

「何だと!?」

ブラックホールは大股を広げ、両腕で大きな円の形を作り、両手を頭に突き立てた。俗に言う「なーんちゃって」ポーズにほとんど近い。言うなれば「なんちゃって『なーんちゃって』ポーズ」だろう。果たしてこの冗談極まりないポーズに何の意味があるのか…

「グラビティ・ネット!!」

ブラックホールがそう叫んだ瞬間、キン肉マンはガターンと膝をつき、俯せに倒れ込んでしまった。

『あーっと、これは一体どうしたのでしょうかーっ! ブラックホールのかけ声と共にキン肉マン、ダウンだーっ! さあ、ダウンカウントが入ります! ワン…! ツー…!』

話は中断するがこの大会にはリング上にレフェリーがいない。リング上の選手の状態は全てリング周辺のセンサによって計測される。このようなカウントの類も公正を期すために正確に刻まれているのだ。

「おっと、カウントは無用だ。」

『あーっと、ブラックホールのカウント拒否だ。私にはブラックホールの意図が全く分かりません。』

「フフフ…キン肉マンよ。お前には通常の100倍の重力がかかっている。お前はこのまま楽にKO負けにさせはしない。この重力の網に押し潰され、苦悶のうちに死んでいくがいい…」

「な…んだと…」

キン肉マンには猛烈な重力の中で何とか顔を上げた。

「ぬうう〜っ、火事場のクソ力〜っ!」

キン肉マンは膝をつき、骨を軋ませながらも立ち上がった。

「まだ…動けるのか。ならば、一気に最大出力の1000倍だ!」

「おわっ!」

「王子ーっ! 何とか立ち上がって下さい。そうしなければ勝機は見えませんよ。」

「そ…そんな事言われても…」

「王子、アタルさまとの甲冑特訓を思い出して下さい。あれはこの時のための特訓だったのですよ。」

そう…キン肉マンはこの日までに1週間、総重量50トンもの甲冑を身につける特訓を行ってきたのだ。

(王子にはできる! だって王子は…最初は動くこともできなかったけど、最後にはまがりなりにもアタルさまとスパーリングをするほどまでに甲冑の重さを自分の力に変えていったんだ。)

その様子を見ながら、VIPルームのアタルは呟く。

「さすがはミート。あの特訓の意味は確かにそれもある。だが、さしものお前でももう一つの目的にはまだ気づかないようだな。」

「そ…そう言われるとあまり辛くない… あの甲冑特訓の成果か。」

キン肉マンの体はアタルの特訓によって慣らされていたのだ。少しずつではあるが、キン肉マンは確実にブラックホールに近づいていく。

「な…何だと。この重力場の中で動けるとは…」

ブラックホールは動こうにも動けなかった。術を続けるには「なんちゃって『なーんちゃって』ポーズ」を維持するしかない。しかし、このままではキン肉マンの反撃をくらってしまう。圧倒的優位の中にも関わらず、今度はブラックホールが追いつめられる事態に陥った。

「火事場の…牛歩戦術〜っ!!」

キン肉マンは体を預けるようにブラックホールにしがみついた。今までキン肉マン自身にかかっていたすさまじい重力がブラックホールの体を襲う。

「ギャアアーッ!」

『あーっと! これは形勢逆転!! キン肉マン、重力殺法を逆手にとってブラックホールにボディアタックだーっ!』

キン肉マンがかぶさり、ようやくブラックホールの体勢が崩れた。ブラックホールのこの戦法は一歩間違えれば自分も地獄に陥る諸刃の剣だったようだ。

「さあブラックホール、試合はまだこれからだ!」

ブラックホールの戦法をことごとく破り、得意満面のキン肉マン。疲労困憊の身体でも主導権は完全に掌握しつつあった。相手の戦法を封じ、逆転勝利をもぎ取る。決まりきった戦法を持たないキン肉マンだが、敢えて言えばこれがキン肉マン流の戦法だろう。

「これからだと… 残念ながらキン肉マンよ、お前にもうこれからなどない。それは…これがわたしの最後にして最強の戦法になるからだ!」

「ブラック…あれを…あれを使うというのか… や、やめろ! キン肉マンを本当に殺すつもりか!?」

ブラックホールの最終兵器開放発言に相棒とも言えるペンタゴンはガタガタと身震いを起こした。

「ペンタゴン、ブラックホールは何をしようとしているんだ!? それほど恐ろしいことなのか!!」

選手席で一緒に観戦しているブロッケンが尋ねた。

「あの戦法は…あの戦法は回避不能だ。あれを使えばキン肉マンは確実に殺される。悪い事は言わん。わたしは今のうちにキン肉マンへの試合放棄を勧告する!」

「何だと!?」

「落ち着け、ブロッケン!」

「ロビン…」

「確かにブラックホールが何を仕掛けてくるかは分からん。しかしキン肉マンは今までどんな不可能でも可能にしてきた奇跡の男だ。決してブラックホールの思惑通りにはいかないだろう。」

「お…お前ら…本当にどうなっても…知らんぞ…」

ペンタゴンは頭を抱え込んだ。話は再びリング上に戻る。

「へっ、面白え。見せてもらおうじゃねえか。その最強の戦法ってやつを。」

「そう急かさずとも、もう始まっている。これがブラックホール最大の奥義・コールサック殺法だ!!」

「な、何ィ!?」

ブラックホールの体から黒い闇が徐々に吹き出した。ゆっくりではあったが、それは彼の周りを確実に包み込み、その姿を隠していった。

『あーっと、ブラックホールの体から吹き出すガス状の物体はリングを覆い隠してしまいましたーっ! そしてこの放送席も…見えなく…なって…』

そうこう言っているうちに、闇はジオ・スタジアム中を満たしてしまった。もちろん、ジオ・スタジアムはナイター設備も完備している。闇からスッポリ首を出している感じで立っている照明灯に自動で明かりが点る。しかし、その光は闇の中を突き進むことはなく、闇の表面で完全に遮断されてしまっている。そう、この闇は夜の闇とは全く訳が違う。まるで黒い固体の中にいるかのような闇なのだ。

「コールサック…それは宇宙に漂うガスともチリともつかない物体だ。そしてそれに包まれたものは一切見えなくなってしまう。この状態がまさにそう…わたしが作り出す闇に包まれるとわたし以外の者は一切闇の中を見通せなくなるのだ。なぜわたしがここまで喋るのかと思うだろう? それは…この技を破る術などないからだ。このわたしを倒さない限りな…」

「な、何だと…」

「とくと見よ、コールサック殺法の恐ろしさを!」

とは言っても会場内は何も見えなくなってしまっている。

「ぐわっ!」

キン肉マンは突如、背後から打撃を受けた。だが、ダメージはさほどない。

「おわっ!」

今度もだ。だが、目の前にかざす自分の掌さえも見えない闇の中だ。視覚に頼るのはもはや絶望的と言ってもいい。

「ぐっ、どわっ!」

ブラックホールのヒット&アウェイは少しずつだが確実にキン肉マンの体力を奪っていく。

『あーっと、リング上では何が起こっているのか分かりません。ただ、攻撃が当たる音と同時にキン肉マンの声が聞こえるだけです。これは…キン肉マンが一方的に攻撃を受けているのでしょうか?』

実はその通りだった。一方的に攻撃を加えることができ、相手は手出しができない。単純だがこれほど確実に勝てる戦法は他にない。キン肉マンはこの戦法にまんまとかかってしまったのだった。

■絶体絶命…! 逆転の光明はあるのか!?
キン肉マン21
第3回超人オリンピック編
第4話
…/おわり
追いつめられたキン肉マン。
そして… 次号、「闘気VS闘気」だ!

巻末言
前言撤回。親知らずを抜く事態
に。術後の腫れは今年一番だと
先生から不名誉な言葉を頂く。


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