キン肉マン21
第3回超人オリンピック編
第6話 完全無欠の完璧超人の巻


第3回超人オリンピック1回戦第1試合、キン肉マンVSブラックホール戦。食い下がるキン肉マンにブラックホールの最大最強の奥義・コールサック殺法が炸裂。しかし、極限状態に追いつめられたキン肉マンは筋肉闘気を再発動。闇をかき消し逆転勝利をもぎ取った!

闇がすっかり晴れ、リング上にはキン肉マンと昏倒したブラックホールが存在していた。リングに仕掛けられたAJS(自動判定システム)がブラックホールの戦闘不能を判定し、電光掲示板にはキン肉マンの勝利が表示された。

『あーっと、閃光と共に闇が晴れたと思ったら、キン肉マンの逆転勝利が宣告されましたーっ!! これは…よく分かりませんが何が起こったのでしょうか!?…』

「キン肉マン!」

「王子ーっ! やりましたねーっ!!」

「やったで、キン肉マンはん!」

テリーたちが歓喜のあまりリングに上がり込む。しかし…

「待つんだ、みんな!」

キン肉マンがシリアスな顔で3人を制した。ブラックホールの体に異常が起こっていたのだ。

「ブラックホールの体が…」

「震えている…」

「何かヤバいんとちゃうか。」

連中が覗き込むと、ブラックホールの顔の穴から何か大きな物体が2つ飛び出した。

『あーっと、これはリング上に異変が…この人影は…ゲエーッ! 最終予選でブラックホールに吸い込まれたジェシー・メイビアとジェロニモだーっ!』

ブラックホールが倒されたことで体内の四次元空間に歪みが生じ、2人が吐き出されたのだろう。それにしては2人ともピンピンしている。最終予選からは3週間近く経っているのに…

「ここは…どこデスか…」

「どうやらブラックホールの中から出られたようタイ。」

「ジェロ…ジェシー!」

「テリー! どうしたんだ。まだ最終予選の最中なのに着替えてしまっていて…」

「?……お前…まさか…!?」

そう…ブラックホールの体内では時空が歪められている。外では3週間経っているが、体内では3分しか経っていなかったり3年も経っていたりするのだ。ジェロとジェシーの様子からして、幸いにも大した時間は経っていなかったようだ。

「それにしても恐ろしい敵でしたね。」

再会もさておき、ミートはキン肉マンをこれまでにないほど苦しめた強敵を見やった。

「う…うう…」

それに呼応するかのようにブラックホールが正気に戻ったようだ。くどいようだが、穴の空いた顔からは分からないが…どこか晴れやかな顔をしている。

「ブラックホール…」

「キン肉マン…」

キン肉マンが手を差し伸べるとブラックホールはそれを受けるように握手をして立ち上がった。思わず観客から雨のような拍手が起こる。

「何だか不思議な気持ちだ…キン肉マン。お前にはあれほど憎悪の炎を燃やしていたというのに…お前の光に触れてから、わたしの心の闇は何事も無かったかのように晴れてしまった。お前と戦った者はこうやって何かに目覚めていったのかもしれん。わたしは3回目になってやっとだったが…」

「ブラックホール…」

「教えてくれ…キン肉マン! あの光は、あの光は何だったのだ。何者も拒まない…何者も包み込むあの光は…」

そう言いかけてブラックホールは首を振った。

「いや、もう何も言うまい。キン肉マン、お前の優勝を心から願っているぞ。」

そう言うと、ブラックホールは握手した手にもう片方の手を重ねた。一層大きな拍手が巻き起こり、1回戦第1試合は何か訳の分からない感動のうちに幕を下ろした。だが、ミートはその感動の場面もそっちのけで思索に耽っていた。キン肉マンの逆転劇はミートのこれまでの疑問を一気に解決させるカギとなっていたのだ。そして…扉が開いた。

「ハッ…もしかして、アタルさまは…」

(あの特訓は王子の力を短期間で上げるためだけではなく、王子を極限状態にわざと追い込み、あの光を顕現させる意味もあったのでは!? そしてアタルさまはブラックホールの力もあらかじめ予見して…)

ミートの考えはここでようやくアタルの考えに行き着いた。アタルの洞察力には恐ろしさすら感じる。

「ブラックホールがあのような力を持つことは分かっていた。組み合わせ抽選会ではブラックホールが最も早く暗闇に順応し、敵を仕留めていたからな。少々荒療治だったが筋肉闘気特訓の成果も出たようだ。まずは合格点だな。兄から…おめでとうと言わせてもらうぞ。」

当のアタルは…VIPルームでワイングラス片手に一人呟いていた。何か気持ち良さそうなので、今はそっとしておいてあげよう。

しばしの休憩の後、次のカードが発表された。オープニングマッチでもあり、Aブロック最初の試合であるキン肉マンVSブラックホールが終わり、以降はリングを2箇所に設置し、両ブロックの試合を同時進行で行うことになる。

『さあ、1回戦第2・第3試合も目が離せません。まずBブロック最初の試合はネプチューンマンVSサンシャインという好カードです。かつてこの2人は宇宙超人タッグトーナメントで結託していましたが、サンシャインが敗れたことによってネプチューンマンから制裁を受け、サンシャインは1度命を落としているのです。試合前の下馬評ではネプチューンマンの圧倒的優位と出ていますが、サンシャインの雪辱なるか…そして…』

「ノーティー…いよいよお前の出番だ。変身超人のエレガントマン…相手にとっては何の不足もない。だが、気負うこともない。遠慮なくあの技をぶちかましてやれ!」

「へっへっへ! もちろん分かっとるで、先生!!」

Aブロックの第2試合はテリーマンの弟子であるノーティー・ブラットと、かつて正義超人と熱戦を繰り広げたザ・サイキョー超人の一人であるエレガントマンである。第2次予選で怪力を見せつけたノーティーと華麗なる変身によって相手を翻弄するエレガントマン…どういう戦いになるのか…こちらも目が離せない。

カァン!

2試合同時にゴングが鳴った。早くも試合が動いたのはネプチューンマンVSサンシャイン戦だ。

『あーっと、サンシャイン…意表を突くコンクリートプレスーっ!』

しかし、ネプチューンマンは冷静だ。あっさりとこれをかわし、サンシャインの奇襲は自爆に終わった。ネプチューンマンはすかさず俯せになったサンシャインの肩口に足を掛け、その足を太股にフック…そして反対側の腕を締め上げる…ネプチューンマン得意の関節技・喧嘩(クオーラル)スペシャルだ!

「サンシャイン、お前もこれまでだ。体がバラバラにならないうちにギブアップするんだな。」

ネプチューンマンの降伏勧告も珍しいが、サンシャインの対応はもっと珍しかった。

「グォッフォッフォッフォ…ギブアップだと…」

サンシャインはニターッと笑いの表情を浮かべた。ただのやせ我慢か、それとも… 次の瞬間、ネプチューンマンは体の力が抜けた感覚になった。技を掛けられているサンシャインの体がサーッと砂と化していこうとしているのだ。サンシャインは笑いの表情のまま頭さえも砂と化していき、まんまと喧嘩スペシャルを脱出。ネプチューンマンは体勢が崩れ、ガックリと膝を着いた。

「ネプチューンマンよ、余所見は禁物だぜーっ!」

キョロキョロとしているネプチューンマンの背後で、腕を構えたまま実体化していくサンシャイン。重量感ある一撃がネプチューンマンに炸裂した。

「ぐわっ!」

『あーっと! サンシャイン、ネプチューンマンの喧嘩スペシャルをスルリと抜けてアームスマッシュだーっ!』

「グォッフォッフォッフォ…どうだ、ネプチューンマン。貴様の技などオレの体には通じん。」

「フッ…折角チャンスをくれてやったというのに、今の一撃でわたしをKOできんとは。」

攻撃をくらっても余裕の表情のネプチューンマン。サンシャインは怒り心頭だ。

「ぬかせ、チャンスはいくらでもある。まずはそのへらず口を塞いでやる!」

「やはり…言っても分からんようだな。それならばお前の甘っちょろいディフェンスを打ち破ってやろう。」

「グォッフォッフォッフォ…サンド・ディフェンスの恐ろしさ、とくと味わわせてやる!」

『あーっと、ネプチューンマン、サンシャインに猛然と突進! これはーっ!?』

「喧嘩(クオーラル)ボンバーっ!!」

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さて、もう一方のノーティー・ブラットVSエレガントマンの試合も動き始めようとしていた。

「そろそろわたしたちも動こうではないか。このままジッとしているのはお前のスタイルでないのでは?」

「へっ、そうはいかんで。あんたに迂闊に突っ込んでいったら何をされるか分からんって、テリー先生からも言われとるからなー。」

「優秀な師匠を持ったものだな。おー、怖い怖い。そっちが来ないのならわたしからいかせてもらおう、この姿でな! アチョーッ!!」

エレガントマンはラーメンマンの姿でジャンプキックを放った。

「待っとったで、この瞬間を! そりゃっ!」

ノーティーは片手で軽々とラーメンマン…いや、ラーメンマンに変身したエレガントマンの足の裏をとった。

「くそっ、放せ! このバカ力め!」

エレガントマンはジャンプキックの体勢のまま、足を動かせないでいる。ノーティーの握力はそれほど凄まじいのだ。外見はそれ程力強さは感じない並の超人に見えるのだが、やはりカナディアンマンをパワーでねじ伏せるだけはある。

「えっ、放してもえーんか? そんじゃ、おーらよっと!」

「うわああーっ!」

ノーティーはエレガントマンの体を軽々と投げ上げた。そのまま落ちてくるところを狙いすまそうとするが…

「…やってくれるやないの。」

頭上で羽音が聞こえる。エレガントマンは空中でペンタゴンに変身して体勢を立て直していたのだ。さて、話を戻そう。

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『あーっと、ネプチューンマン三度目の喧嘩ボンバーも自爆ーっ!! またもコーナーポストを破壊してしまいましたーっ!』

サンシャインの言った通り、ネプチューンマンの喧嘩ボンバーはサンド・ディフェンスによって無効化されてしまった。まさに…暖簾に腕押し、糠に釘、サンシャインに喧嘩ボンバーである。

「グオッフォッフォッフォ…無駄なことを。体調さえベストならばこの砂の体に通じる技などないのだ。」

「喧嘩ボンバーっ!!」

『あーっと、ネプチューンマン四度目の喧嘩ボンバーを敢行ーっ! しかしまたもコーナーポストに激突だーっ!』

「かつての完璧超人も墜ちたものだ。いくら気張っても、クリーンヒットしなければ意味がないんだぜ。」

「クックックック…」

「な、何がおかしい!?」

「やはりお前は下等超人だ。わたしが何の策もなく、バカの一つ覚えみたいに喧嘩ボンバーを失敗させたと思っているのか。」

「ま、まさか…」

サンシャインは周囲を見回した。四方のコーナーポストはことごとく砕け散り、中に詰められていた砂が散らばっていた。サンシャインは何やら底知れぬ恐ろしさを感じ始めていた。

「やっと気づいたようだな。知っての通りコーナーポストに詰まっている砂は砂鉄だ。それはお前が体を砂に変えて喧嘩ボンバーをかわす度に、お前の体の中に入り込んでいたのだ。」

ネプチューンマンは高々と左腕を振りかざした。

「マグネット・パワーっ!!」

ネプチューンマンから凄まじい磁力が照射され、砂鉄を含んだサンシャインの体は吸い寄せられていった。

「ぐおっ!」

ネプチューンマンはサンシャインの両股を持ち上げた。ご存じネプ投げ…もとい、ダブルレッグスープレックスの体勢だ。

『あーっと、ネプチューンマン最大の個人技、ダブルレッグスープレックスが炸裂ーっ!』

「ネ…ネプチューンマン、地球の力を借りず独力でマグネットパワーを…」

「アシュラマン…だが、ネプチューンマンの力ならそれも可能だろう。あいつの強さはわたしが一番痛感している。」

ネプチューンマンのライバルでもあり、最大の理解者であるロビンマスクの味わい深い一言だ。

それからは、ネプチューンマンの独壇場だった。逃げようにもマグネット・パワーの前ではそれもままならない。そして体を砂にしてかわそうにも、なぜか体が言うことをきかないのだ。

「な…なぜだ…なぜ技をかわせない…」

「教えてやろう。お前の体に入った砂鉄はわたしのマグネットパワーで操られていることによって砂同士を結合させる働きももっている。よって、頼みのサンドディフェンスも完全に機能しなくなっているのだ。」

「!!」

『さあネプチューンマン、サンシャインをロープにふったーっ! そして今度こそ正真正銘の…』

「喧嘩ボンバーっ!!」

サンシャインは空中を一回転して大きくダウンした。ネプチューンマンのKO勝ちが決まった。

『やはり…やはり強い、ネプチューンマン。圧倒的な強さでサンシャインを下し2回戦進出決定だーっ!』

「く…くそう。お前が相手でなければここで敗れることもなかったろうに…」

「違うな。サンドディフェンスに頼り切っていた時点で相手が誰であろうとも貴様の敗北は決まっていた。貴様の甘えこそが最大の敵だったのだ。」

「う…ぐうう…」

「首領…予想通り勝ちあがってきたな。あんたはこんな所で負けるような男じゃないことは分かっていたからな。だが、それも次で終わりだ!」

このまま勝ち上がれば2回戦でネプチューンマンと対戦する…元・完璧超人ギャラクティカの不敵な挑戦は果たして通るのだろうか…

ネプチューンマン完全勝利! そしてサンシャインは…
キン肉マン21
第3回超人オリンピック編
第6話
…/おわり
次号、エレガントマンの意外な変身を前に
ノーティーの必殺技炸裂!?

巻末言
休みがとれ、やっと劇場版を観
賞。中学生とサバを読み、マス
クを手に入れる。まったく……


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