人事担当

・・・何故か人事担当に。公務員とは何か?を考える時が来た!・・・
 平成5年春、突然の人事異動。

辞 令 書
事務吏員  逸太郎
 
総務部総務課○○係勤務を命ずる
 
平成5年4月1日
X市長 □□ □□ 


何で異動なの? 何故人事担当なの?
◎ 突然の異動 

 全く想像もしない、突然の異動であった。
 考古学をやっていたから採用されたはず(と思い込んでいた)なのに、僅か2年で異動になるとは夢にも思っていなかった。ましてや異動先は、誰もが敬遠している人事担当係である。一人で担当していた発掘現場は終了のメドすら立っておらず、どうしたらよいのか目の前が真っ暗になった。とりあえず「あと1ヶ月は現場作業が残っているから」との言い訳で、上司に頼み込んで異動先での勤務を10日ほど免除してもらった。

 後で聞いた話だが、私が異動した理由は「パソコンができること」だったらしい。
 その頃はWindowsが普及する前で、PCを扱える職員も少なかった。また、職員のデータ管理を本格的にPCでやろうという時期でもあったため、一応、経験のある私に白羽の矢が立ったという。さらに、一般事務職ではあるが、考古学専攻の職員が新たに採用されたことも、私の異動の障壁を無くした一因でもあったようだ。


◎ 充 実

 総務課での仕事はまず来客の多さに面食らった。総務課は何でも屋であり、私の係以外の2係も、文書、自治会、防災、契約などを担当しており、陳情やら業者の挨拶回りなどで、事務所内にはいつも部外者が入室していた。常に周囲に気を配らなくてはならず、どうにも落ち着かなかった。また、私の係も職員の担当係だけあって、扶養の手続や共済の貸付、手当の支給などに関する相談がやたらと多く、いつも電話がひっきりなしで、とてもジックリ仕事ができる環境ではない。
 とても慣れそうにないなと感じたが、人間と言うのは恐ろしいもので1ヶ月もしないうちに同化してしまった。

 異動してまず学んだ事は、本を読むことであった。それまで興味のある考古学関係の本や論文は数多く読んでいたが、法律や条例などという全然面白くない本を読んだ経験はなかった。それでも読まなければ仕事にならず、法律特有の()書きに悪戦苦闘した。我が係の例規集は庁内で最も傷みがひどく、とにかく例規集を開く機会が多いのでボロボロになっていた。先輩諸氏の勉強の結果だと思うと、さらにお先真っ暗になった。

 人事担当としての仕事は、毎日バタバタであったが充実していた。
 職員の顔や名前、性格など、教育委員会では何十年もかかるようなことを僅か数月で覚えることができた。時には知らなくても良いことまで知ってしまうのだが、もともと私は何にでも興味を持つ性格であり、「自分だけが知っている」ということに変な優越感さえ覚えた。また、PCでのデータ管理も一任されていたので、アイディアを即実行できたのも、やる気を喚起するに十分な環境であった。更に、やる気のある上司・同僚に恵まれたことも幸運であった。
 しかし、嫌な思いをしたことも数多かった。
 住民からの職員に関する苦情処理は仕方のないことだが、異動発令後の人事批判などは耐えられなかった。特に、人事異動の前後1・2ヶ月は、地元では飲まないことにしていた。楽しく飲んでいても、先輩連中と会うと必ず文句を言われるためである。文句があれば然るべき立場の人に言えば良いものを、その度胸はなく、また熱弁も根拠に乏しいため、目下の私達に愚痴が殺到するのである。私も言いたいことは山ほどあるのだが、酒が入っているの人は厄介なため、「さわらぬ神に祟りなし」として避けるように心掛けていた。

 人事担当係として7年間勤務したのだが、最も役に立ったのは「自分に厳しく」を実践できたことであったと思う。
 職員への指導を行うためには、自分が指導されるようなことはできない。1度やってしまうと、自分の言葉や行動に説得力が無くなってしまう。時には、先輩から悪い誘いもあったのだが、職務を理由としてキッパリと断ることができるのも心強かった。
 今の自分があるのは、自分の努力ではなく、人事担当としての経験によるところが大きい。将来、人事担当として戻ることがあるかどうかは分からないが、この経験だけは絶対に忘れずに、これからの公務員人生に生かして行きたいと思っている。


◎ 父の死

 2000年1月、62歳の父がこの世を去った。
 屈強な人であったが、悪性の病気には勝てなかった。
 若い頃から苦労に苦労を重ね、やっと経営が安定した時期のことであった。
 葬儀には、私の想像を遙に超える、驚くほど多くの人が参列してくれた。
 要職にあった訳でもない一人の農民の死を、私の知らない数多くの人達が悲しんでくれる姿を目の当たりにし、改めて父の偉大さを実感した。
 私は思った。
 父に負けない人間になりたい。
 たとえ出世しなくとも、人に頼られる人間になりたい。 と・・・。


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