【四 診】


中医における診察法で望診聞診問診切診の4つをいう。中医、日本漢方、西洋医学を問わず診察という行為の基本的なものだ。これに医療機器による検査を加え五診と言ってもよいが、薬局レベルでは望・聞・問までが限度である。まず診察という言葉を使ってはならない。診察は医師の専権事項であり、薬局又は治療家は相談という控えめな言葉を使用する。鍼灸師などボディーワーク系の治療家は体に触れる事が許されるので、資格を得て脈診、腹診を行う薬局もある。逆に鍼灸師が医薬品販売の許可を得て鍼灸と漢方薬の治療にあたることもある。「望・聞・問・切」いずれに偏ることなく、すべての情報を総合的に分析し、正確な弁証を行うことは言うまでもない。しかし、実際は得意不得意、治療家の感性や性格が反映し、バイアスが生じることは避けられない。

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【望 診】

視覚による診察法で、患者の全身、局所、分泌・排泄物などから病状を捉える。精神・意識状態、色沢、形態などを見る。なかでも舌を観察する舌診が重要な意味を持つ。

(1)精神・意識
患者の顔色、表情、動作、姿勢、会話などから意識や精神状態を判断する。中医では「神」の望診(望神)といい、五感の他、六感も関与することになる。

得 神 精神状態良好、意識晴明、目に力と輝きがあり言語明瞭で力がある。
正気が衰えておらず病状は軽く予後良好。
失 神 精神状態委縮、顔色不良、無欲無気力、目に光なく、言語不明瞭で
力なし。正気が衰弱し病状重く、予後不良。危急の症状がなくても
注意が必要。さらにすすむと、言語錯乱、意識障害、昏迷などの危急
状態に陥る。
仮 神 もともと口数が少なく、音声も低く途切れがちだった人が、急に多弁
になったり、顔色不良の人の両頬が紅潮するなど、病状不一致の
変化は急変・悪化の症候なので注意を要する。

 

(2)形態・動態
発育・栄養状態良好、皮膚にうるおいがあり血色がよいのは、体質が強壮で、発育・栄養状態不良で皮膚につやがなく血色が悪いのは身体虚弱。肥満気味で色白、皮膚はきめ細かく筋肉が柔らかいが元気が不足し、息切れや多汗は気虚・陰虚が多く、痰飲や湿盛を伴う。痩せて皮膚の色が悪くつやがなく乾燥しているのは血虚・陰虚が多い。普通に活動ができるのは病状軽く、自力で活動や体位変換が出来ないのは極度の衰弱である。
熱証・実証 横になっても手足を動かし、布団・衣服をはぎ、イライラ、多弁
・不安状態。
寒証・虚証 暗い方向に向い体を縮めて寝る、口数少、布団・衣服を重ね
体位を変えにくい。
肝風内動 舌・手指の震え、頭の揺れ、口唇・顔面・四肢の筋肉がピク
ピク収縮。
肝陽化風
(血虚生風)
微力で力のない痙攣をいい、高熱で激しい痙攣は熱極生風
という。
亡 陽 無欲状態で冷汗、顔面蒼白。

 

(3)色 沢
色つやをいい、とくに顔面を重視し、全身や手指の皮膚や指紋も観察する。

顔 色

白 色 顔面蒼白で浮腫があれば陽虚・気虚。痩せてつやのないものは
血虚。突然顔色蒼白になり冷汗が出るのは亡陽のショック。
悪寒・頭痛・腹痛を伴えば表寒や裏実証。
青紫色 小児の熱性痙攣やてんかん発作で起りやすい。風寒の頭痛や
裏寒の腹痛で顔面蒼白になる。顔色青く口唇が青紫は血於。
紅 色 顔面紅く目が充血するのは表熱・心火旺・肝火旺。顔面紅潮し
多汗・口渇・便秘をともなうのは裏実熱。顔に艶がなく午後に
両頬が紅潮するのは陰虚火旺の虚熱。
黄 色 眼や全身の皮膚の黄染は黄疸で、鮮明な黄色は湿熱による
陽黄、黒ずんだ黄色は寒湿による陰黄。皮膚がかすかに黄色
でカサカサ又はむくみ、口唇蒼白で眼に黄染がないのは気血
両虚や寄生虫による脾胃の損傷によるもので萎黄。
黒 色 慢性病による腎虚や陳旧性血於では顔色がどす黒く、又は紫黒
色を呈する。

皮 膚

斑・疹 皮下出血・発疹を斑・疹といい、営分・血分に入った熱邪を、正気が
体表部に駆出していることを示す。斑・疹が多数出るの病邪の勢
い強く、出ないのは病邪が身体内部に籠っている。斑疹の色沢は
紅潤が良く、どす黒いのは予後が悪い。反復し出現する紫紅色の
皮下出血は脾不統血又は気虚血於。
白バイ 白色の小水疱で汗とともに出現する。湿熱によって生じ、邪を駆出
できたことを示す。透き通ったものが良く、白色不透明で液のない
ものは津液が消耗し予後が悪い。
血 管 腹壁静脈の怒脹、下肢静脈瘤、糸状血管、くも状血管などは血於。
皮 膚 乾燥し粗造で光沢がなく、又は魚鱗状を呈するのは陳旧性血於。

指 紋:3歳以下の小児のみに行われ、人差し指を数回擦り、静脈血管の
形と色を観察する。

薄 色 淡紫色が正常で、薄いのは虚証、寒証。
紫 紅 熱証
青 色 風寒、疼痛、熱性痙攣。
黒 色 血於

 

(4)舌 診
中医学では舌診を重視し、舌体と舌苔の観察により、陰液と陽気の状態、病邪の深浅、病状の進退、疾病の寒熱などを診断する。外感病や脾胃の疾病では舌象に変化が現れることが多く、弁証の拠り所となるが舌象がアテにならない疾患もあるので四診合算して検討する。
  • 舌質は色沢・形態・運動、舌苔は色沢・性状を観察する。
  • 舌質・舌苔の色調を誤認しないように、充分明るい自然光の下で観察し、夜間は明るい照明を用いる。
  • 飲食物・嗜好品・色素添加物・薬物など舌苔を染めることがあるので問診で除外する。
  • 舌を出すとき力が入らないように、舌を緩めてゆっくり伸ばす。

舌 質

形態 胖 大 舌体大きく腫れぼったい:淡白色・湿潤は気虚・陽虚。淡紅色・舌苔膩
は湿盛。紅色で腫れて痛むのは胃熱・心熱。
痩へつ 舌体薄く痩せている:淡白色は気陰両虚・陰陽両虚。紅色〜深紅色
は熱盛傷津。
点 刺 舌尖・舌辺に見られる紅色の点又はとげ状の隆起:熱盛
列 紋 様々な方向へ伸びる溝:乾燥したものは津液不足。乾燥した深紅色
は熱盛傷津・陰虚火旺。
光 滑 光舌・鏡面舌、舌苔がなく舌面が平滑・乾燥・光沢:淡紅色は気陰
両虚。深紅色は肝風内動。
運動 強 硬 舌の運動が悪くろれつが回らない:淡紅色・膩舌苔は痰迷心竅。
深紅色は肝風内動・熱盛傷津。
萎 軟 舌が弛緩し運動無力:淡白色は気血両虚。紅色〜深紅色は熱盛傷
津。陰虚火旺。
顫 動 舌が震顫(しんせん)する:紅色〜深紅色は肝陽上亢・熱極生風。
淡白色は気虚。
短 縮 舌体が短縮し口外へ出せない:淡白色で湿潤は寒盛・陽虚。
深紅色で乾燥は熱盛傷津・肝陽化風・熱極生風。
弄 舌 口腔内で絶えず舌を動かしたり、唇を舐める:心熱・胃熱
色沢 淡白色 胖大でないのは気虚・血虚。胖大で柔らかいのは陽虚。
紅 色 鮮紅色は熱盛。暗紅色は陰虚。
紫 色 紅紫色で乾燥したものは血於で熱盛。青紫色で湿潤したものは
血於で陽虚・気虚・寒盛。

 

舌 苔

 質 有 根 舌苔が舌体にしっかり付着し一体化している:実熱・熱証
無 根 舌苔厚く容易に剥離できる:虚証・寒証
薄 苔 舌苔が薄い:病邪衰退
厚 苔 舌苔が厚い:病邪盛・正気強
滑 苔 舌苔の湿潤度が強く、透明〜半透明の液で覆われている:湿痰・寒痰
乾 苔 乾燥した舌苔で、触れてざらざらするのは造苔:熱盛
類乾苔 乾燥して見えるが触れると湿潤:湿熱・痰飲
裂紋苔 舌苔に亀裂:津液不足
腐 苔 豆腐のおから状で厚い:熱証(食積・湿熱・胃陰虚)
膩 苔 舌苔厚く、粘稠な物質で覆われ顆粒が消失:湿・痰・食積
剥 苔 舌苔の一部が剥離し、跡が光滑で無苔:陰虚・胃気虚
色沢 白 色 薄苔で湿潤は表寒又は正常。薄苔で乾燥し舌質やや紅は表熱。
滑苔で薄いものは表寒・陽虚。滑苔で厚いものは寒湿・寒痰・食積。
乾苔で薄いものは寒邪化熱・外燥・表熱・津液不足。乾苔で厚いも
のは湿邪の化燥。乾苔で積粉苔は湿鬱熱伏。厚膩の舌苔は痰湿。
裂紋・造苔は津液不足。半戴(苔有と苔無に分離)は陰虚。
黄 色 微黄で薄いのは寒邪の化熱。乾苔で薄いものは熱邪傷津。乾苔で
厚いものは熱盛。深黄・黄黒で乾燥したものは裏実熱。膩苔は湿熱
黒 色 灰黒で薄い滑苔は陽虚・寒湿。灰黒〜黒の滑膩苔は寒湿。乾燥し
ざらざら、舌質が紅〜深紅は湿熱・熱盛傷津。

 

舌象の変化はすべて淡紅舌・薄白苔から始まり、外感病の表寒では変化はないが、進行すると白苔が厚くなる。寒邪が化熱すると黄色に変化し、裏熱では黄乾苔・紅舌となる。湿・痰・食積が加わると黄膩苔が生じ進行すると黒苔となり舌質も深紅を呈する。風熱では舌尖・舌辺が紅色を呈し、比較的早期に紅〜深紅色へと移行する。熱邪が強まると舌苔が黄乾苔・黄黒苔・黄造苔・黄裂紋苔に変化する。燥邪では薄白乾苔が現れ、津液を消耗すると白乾苔〜黄苔が生じる。湿邪の寒湿では厚白滑苔、湿熱では黄滑苔が見られ食積を伴えば黄膩苔となる。湿熱のばあいは熱証であっても舌苔は湿潤しているが、熱邪で津液が消耗すると類乾苔を生じる。

血虚の舌質は淡紅で、陰虚の初期は少し紅舌を呈するが津液が消耗し虚熱が生じると紅舌〜深紅舌に変化する。陰虚が長期に続き程度が強くなると深紅舌・光滑舌となり、部分から全舌へ及び鏡面舌を呈する。痰・湿・食積を伴えば舌の中央が紅色〜深紅色無苔で、周辺に白苔、舌根部は紅色〜深紅色無苔で舌尖部に白苔・半戴白苔などの舌象が出現する。

気虚・陽虚では淡白舌胖大で舌苔は薄白苔や淡黄乾苔が見られ、湿痰を伴えば滑苔となる。寒証が強まると淡白舌から青白舌に変わり、白苔から黒苔へ変化する。

 

(5)顔面・頭部の形態と色沢
  • 頭:小児の頭が大きすぎたり小さすぎるのは腎精不足あるいは痰飲を伴う。泉門の陥没は津虚・陰虚、高く隆起しているのは熱盛。頭蓋縫合が閉じず首がすわらないのは腎精不足。
  • 頭髪:中年以降に頭髪が薄く白くなるのは正常な現象で、青年の白髪も一般には病態ではない。頭髪がまばらでつやがないのは腎虚あるいは気虚・血虚。
  • 眼:目に光彩があり動きの正常なものは軽症か予後が良い。光彩がなく動き緩慢で瞼を閉じ目をあけたがらないものは重症のことが多い。上方凝視・共同偏視・凝視などは肝風内動。瞳孔散大は死が近い。眼の結膜や強膜が充血し目ヤニが出るのは風熱あるいは心火・肝火。結膜が淡白なのは気血両虚が多い。角膜が腫脹し痛むのは肝火。強膜の黄染は黄疸で湿熱が多く、寒湿は稀。眼の周辺がどす黒いのは腎虚あるいは血於。眼窩が陥凹しているのは津液の消耗。眼窩の腫れは水腫の初期。老人は腎気が衰え下眼瞼に軽度の腫れが生じるが、正常である。
  • 鼻:鼻翼呼吸は肺熱、鼻腔の乾燥は肺熱あるいは外燥、乾燥して黒いのは熱盛。小児の鼻根部に静脈が透けて見えるのは体質虚弱・臓腑虚弱で、疾病の経過中に見られると熱性痙攣の前兆。麻疹で鼻翼の両側に発疹が少ないときは熱邪を十分駆出できていない。
  • 唇・歯・咽喉:口唇が淡白なのは気血両虚、青紫色は血於か寒証、乾燥するのは津液・血の不足。睡眠中に口角からよだれが出るのは脾虚か胃熱。歯が乾燥しているのは熱盛による津液の消耗か腎陰虚。歯齦が発赤・腫脹・疼痛・びらんし出血するのは胃熱が多い。歯齦が腫れてぐらぐらするのは腎虚。睡眠中の歯ぎしりは胃熱・肝気鬱結・寄生虫。咽喉部や扁桃に発赤・腫脹・熱感・疼痛があるのは肺熱・胃熱で、膿が付着しているのは熱盛。咽喉が発赤・疼痛し乾燥してやや腫れるのは陰虚火旺に多い。咽痛だけで発赤なく淡紅色を呈するのは陽虚による虚陽浮越。
  • 耳:慢性病や重病で耳輪や耳垂がやせ細るのは気血の衰弱で危険。
  • 頸部:甲状腺腫・リンパ節腫脹・しこりなどは痰気鬱結や気滞血於によるものが多い。外頸動脈の拍動がはっきりわかり、咳嗽・呼吸困難・浮腫が見られるものは心肺気虚・心腎陽虚。

 

(6)分泌物・排泄物
  • 喀痰:痰が白色透明で薄いのは寒証、黄色または白色で粘稠なのは熱証。痰多く喀出しやすいのは湿証、膿性で悪臭のあるものは肺膿瘍で熱毒。痰に血が混じるか鮮血を喀出するのは肺熱か陰虚火旺、喀血の色が紫黒色なら血於を伴う。
  • 鼻汁・涙:うすい鼻汁が出て鼻閉するのは肺気不宣で表寒に多い。うすい鼻汁が黄色粘稠になるのは感冒が治癒しつつある。黄色粘稠の鼻汁は熱証。涙が多いのは水湿・痰飲。小児で泣いても涙が出ないのは津液の消耗が強く病状重篤。
  • 吐物:水様性嘔吐は胃に痰飲があり、寒証・脾虚。吐物に食物が混じるが酸臭のないものは虚寒あるいは肝脾不和、酸臭のあるものは食積・胃熱・肝胆湿熱。黄色で苦い吐物は肝胆湿熱。
  • 糞便:黄色下痢で悪臭、頻回少量の軟便で血液や粘液の混じるものは湿熱が多い。水様の不消化便あるいは泥状便は寒湿あるいは脾虚。便が硬く出にくく兎糞状のものは熱証あるいは津液不足。便が細いか切れ切れに出るのは肝気鬱結・気滞。
  • 尿:尿の色が薄く量が多いのは寒証、量が少なく色が濃いのは熱証。尿が濃く頻尿・尿意促迫・排尿痛・残尿感があるのは湿熱が多い。混濁尿を放置すると澄んだり、澄んだ尿を放置して混濁するのは正常だが、排尿時も放置後も混濁するものは膏淋といい湿熱か腎虚。

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【聞 診】

聴覚・嗅覚による診察法。

(1)音声

  • 発音:声弱くかすれ、とぎれがちで聞き分けにくいのは肺気虚あるいは全身の気虚。声かすれ粗いのは外邪による肺気不宣。嗄声は肺燥あるいは陰虚が多いが、湿証もある。
  • 言語:話の辻褄が合わず、応答が錯乱するのは心の病変。声大きく力のあるものは実証、小さくて力のないものは虚証。発熱性疾患の経過中みられるうわごとで、声が大きく力のあるものを譫語といい、実証に多く、声が小さく繰り返すものを鄭声といい、虚証が多い。
  • 呼吸:呼吸微弱で息切れするのは肺気虚か全身の気虚。呼吸が粗いのは病邪による肺の実証。呼吸困難で、長く粗く呼出すると楽なものは実証、短く途切れ吸気で楽なものは虚証。吸気性呼吸困難は腎不納気のことが多い。
  • 咳嗽:痰がからみゴロゴロ音がするのは肺の寒飲・痰飲。空咳で痰が出ないのは肺燥か肺陰虚。咳嗽が無力で音が小さいのは肺気虚か肺陰虚。
  • 吃逆:たまに出るのは特に意味はないが、慢性病や重病では注意が必要。胃気上逆によるもので声が大きく強く短いのは実熱、小さく弱く長いのは虚寒。

(2)臭気

  • 身体臭:口臭は胃熱・食積。曖気(あいき・げっぷ)に腐臭や酸臭があるのは食積。肝性昏睡では肝臭と呼ばれる異常な悪臭を発し、熱盛。
  • 分泌・排泄物臭:喀痰・膿汁・大便・尿に強い悪臭があるのは湿熱・熱性が多く、生臭いが強く臭わないのは虚寒が多い。

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【問 診】

質問することで、疾病の発生・経過などの情報を得て診断したり、治療の効果を検討する。望診・聞診・切診は治療家による客観的な症候の把握になるが、問診は患者の主観的な愁訴や思考・感覚が反映する。検査機器のなかった時代に成立した医療なので、患者の訴える症状は弁証に際して大きな部分を占める。しかし、患者の訴えと治療家の知りたい情報とは齟齬が生じやすく、時間の制約のなかで苦慮することもしばしばだ。慣れると、雑談の中からも様々な情報を得ることができる。問診は会話の成り立たない患者では難しい。可能な場合でも患者と治療家の個性や感情が絡むので錯誤が生じやすく、そのまま見当違いの弁証に至ることもある。にもかかわらず、治ったり愁訴が改善することがあるので自然治癒力やプラシーボ効果の存在は否定できない。

(1)家族歴
両親・兄弟姉妹・祖父母・親族などの疾病や死因から、遺伝的・体質的な傾向を把握する。

(2)既往歴
過去の疾病が現在の疾病にどのように関っているのかを知る。

  • 出産:安産・難産・早産などや、妊娠時の母体の異常の有無。
  • 過去の疾病:伝染病・熱性疾患・性病・外傷・アレルギー疾患・分娩異常・手術の有無など、必要に応じて当時の症状や病気の経過や使用薬物などを聞く。
  • 婚姻:未婚・既婚・結婚年齢・子供の数など。
  • 生活・職業・嗜好:居住地の状況・飲食の習慣・酒や煙草の嗜好・労働状況など。

(3)現病歴
現在の疾病の発生と進行状況を聞く。

(4)主訴
患者が最も苦痛としている症状。

(5)自覚症(現症)
中医学で最も重視するもののひとつで、全身にわたって適確に詳細に問診し検討する。詳細すぎて弁証に迷いが生じることもあり、教科書どうりにはいかない。治療家が経験によって得たパターンに則り、効率よく問診を行うのが現実だろう。

  • 寒熱:疾病の初期に見られる悪寒・発熱は表証。悪寒が強く体温上昇が軽度なのは表寒、わずかな悪寒又は熱感があり高熱がでるのは表熱。悪寒と熱感が交互に現れ熱感とともに体温上昇するのは往来寒熱といい半表半裏証(少陽病)に見られる。高熱が続き悪熱するだけで悪寒がないのは裏実熱。高熱が起伏しながら持続し、ときに悪寒し発汗しても解熱しないのは熱盛で正気が衰弱し重症。毎日一定の時間に熱感と発熱が現れるのは潮熱といい、夕方に熱が上昇するのは日哺潮熱で熱結腸胃に見られる。午後・夕方に微熱・頬部の紅潮・手掌や足のほてり・体の熱感が現れ、夜半・早朝になると汗が出て熱感がなくなるのを骨蒸潮熱といい陰虚に見られる。熱感はあるが微熱か体温正常又は微熱が続き寝汗をかくものは陰虚。微熱が出たりひいたり持続し倦怠無力は気虚。悪寒するが発熱ないものは陽虚又は裏実熱。疾病の経過中、突然体温が低下し冷汗が出るのは亡陽のショックである。悪寒の軽度のものを悪風といい、ふるえをともなう悪寒を悪寒戦慄(寒戦)という。熱感が強いものを悪熱。胸中・手掌・足裏のほてりを五心煩熱といい陰虚の特徴とされる。
  • 汗:陰液が変化して生じ、衛気によって分泌が調節される。日中よく汗をかき、少し動いただけで汗が出るのを自汗といい、衛気虚の症候で気虚・陽虚に見られる。日中ほとんど汗をかかず夜間睡眠中に汗をかくのを盗汗(ねあせ)といい陰虚に多い。発熱・悪寒して汗が出ないのは、病邪によって衛気が阻害され汗腺が閉塞したもので、表寒表実。陰虚・血虚・津虚では汗の生成源が不足して汗が出ないことがある。発熱し発汗しても解熱しないのは営衛不和と裏実熱で見られる。大量に発汗し、解熱して身体爽快・脈平静になるのは正気が病邪を駆逐し回復したことを示す。突然油のような汗が出て止まらないのは亡陽によるショック。
  • 口渇・水分補給:口渇なく又は口渇しても熱い飲物を少量しか飲まないのは寒証。口渇し冷い飲物を欲し大量に飲むのは熱証。口渇があっても飲みたくない又は少量しか飲まないのは痰飲・湿熱・血於が多く、飲んですぐ吐くのは痰飲。口乾・咽喉部や唇の乾燥は陰虚・津虚。大量に水を飲み、渇き止まず尿量も多いのは消渇証(糖尿病)。
  • 摂食・味覚:慢性病や重症でよく食べるのは胃気があり予後良好、食欲不振が続くのは予後不良。食欲なく、食事量少なく、食べると腹が張るのは脾胃気虚又は脾胃湿困。良く食べるが消化の悪いのは胃強脾弱。食べてもすぐに腹が空き、食後胸焼けして不快なものは胃熱。上腹部が痛み、食べると和らぐのは虚証で、痛みが強くなるのは実証。味の濃いものや脂っこいものを偏食すると痰湿が生じやすい。異物を好んで食べるものは寄生虫を疑う。病気でも味覚に変化がないものは口中和といい熱証がない。口が苦いのは熱証で胃熱・肝火・肝胆湿熱に多く、口が甘い・粘る・味が薄いなどの味覚は湿困脾胃又は脾虚生湿。口の中で酸味や腐った味がするのは食積。呑酸は肝胃不和・胃熱。
  • 睡眠:不眠又は眠りが浅く夢を良くみて動悸を伴うのは心血虚・肝血虚。寝付き悪く熱感がありひどいときは一晩中眠れないのは陰虚火旺。重症の不眠で腎虚の症状があれば心腎不交。就寝前の飲食物摂取や、脾胃気虚で消化不良のとき不眠を生じることが多い。カフェイン含有飲食物の午後からの摂取は特に注意する。(緑茶・コーヒ・紅茶・烏龍茶・ココア・チョコレート..)血於でも寝つきが悪く熟睡できないことが多い。横になるとすぐに寝つき、よく目が覚めるものや食事をすると眠くなるのは気虚・中気下陥・陽虚。
  • 大便:便秘・硬便は実証・熱証が多い。発熱性疾患で便秘・腹痛・腹部膨満があるのは熱秘で腸胃熱結・陽明腑実・熱結ともいわれ、腸管麻痺による症候である。腸管麻痺までは至らないが、発熱・発汗による津液不足で便が硬くなり便秘することもある。血虚・陰虚で腸液の分泌が不足又は水分の吸収が過多になると腹痛・膨満感がなく便は兎糞状の腸燥便秘を起こす。左下腹部に連結した便塊を触れることが多い。気虚で腸管の運動が低下し起る便秘は気秘、寒証を伴えば寒秘という。腸燥便秘・気秘・寒秘はいずれも虚証の便秘なのでまとめて虚秘という。
    下痢あるいは泥状・水様便は虚証・湿証が多い。急激で痛みを伴うのは実証、慢性でくり返すのは虚証・虚実挟雑。下痢頻回で排便量は少なく、裏急後重や肛門部灼熱感があるのは大腸湿熱。腹痛を伴い下痢し、下痢したあと痛みが減るのは食積。精神的緊張や情緒変動で腹痛・下痢し、下痢しても痛みが減らないのは肝脾不和。泥状便・水様便で痛みを伴わないのは虚証が多い。食事後、軟便や水様便が出るのは脾胃気虚。水様便・大便の失禁又は脱肛を伴うのは腸虚滑脱といい、中気下陥・陽虚にみられる。毎日、夜明け前や早朝に下痢するのは五更瀉といい脾腎陽虚。
  • 尿:尿量が多いのは寒証、少なく濃いのは熱証。夜間の尿量過多は腎陽虚。尿量少で濃く、甚だしきは無尿のものは津虚・陰虚で尿の生成源不足。腎陽虚で気化作用が減退しても乏尿が起るが同時に浮腫が見られる。尿が膀胱に貯留しているが排尿し難いのは気滞による尿閉。尿線に勢いがなく排尿後に余瀝が出るのは中気下陥・腎陽虚に多い。頻尿・尿混濁・尿量少・排尿痛・残尿感は膀胱湿熱。夜尿・尿失禁は腎虚・中気下陥・虚寒。
  • 頭部・顔面:急に生じる頭痛は外感によるものが多く、慢性的にくり返すものは内傷が多い。激しい頭痛は実証、鈍痛は虚証。風にあたったり寒いと増悪するのは表寒。頭が重い・しめつけられる感じ・身体がだるいなどの症状を伴うのは風湿による表証。頭が割れるような頭痛に顔面紅潮・目の充血を伴うのは肝陽上亢で湿熱で増悪する。頭痛にめまい・頭のふらつき・耳鳴・腰膝のだるさを伴うのは腎虚。軽度の頭痛がくり返し続き時間的に増減し、動悸や疲労感を伴うのは気血両虚。固定性の頑固な頭痛は血於。前額部の痛みは陽明頭痛、両こめかみは少陽頭痛、頂部は太陽頭痛、頭頂部は厥陰頭痛と言われ臓腑経絡と関係が深い。めまいがして船の中に座わっているようで歩行に差し支えるのは肝陽上亢。回転性のめまいで悪心・嘔吐を伴うのは痰濁上擾が多い。めまい・ふらつき・目のかすみ・顔色淡白・疲れやすい・立ちくらみなどあるものは気虚・血虚。目がくらむ・目の充血・いらいら・のぼせは肝陽上亢・肝腎陰虚。目がかすむ・目がしょぼつく・目の乾燥感は血虚・陰虚。聴力減退・耳鳴は気虚・腎虚によく見られる。加齢とともに起こる聴力減退や耳鳴は腎虚で、突然、起こるのは肝火が多い。
  • 胸部・腹部:胸部がつかえて脹り又は痛むものは心・肺に関連する。胸苦しい・胸痛・咳嗽・発熱などは肺の実熱。痰が黄色く粘稠・舌苔黄膩は熱痰。胸苦しく咳嗽・多痰・胸痛は寒痰が多い。胸苦しく息切れ・無力な咳嗽を伴うのは肺気虚。胸内苦悶・胸痛・冷汗などは胸痺。胸脇部が脹って苦しくときに痛みを伴うのは肝気鬱結・肝胆湿熱。腹部が痛み押さえると楽になるのは虚証、圧痛が増すのは実証。温めて痛みが軽減するのは寒証、冷やして軽減するのは熱証。腹痛が時間的に変化し痛む部位も遊走性のものは気滞。固定性の刺痛又は切り裂くような痛みは血於・腸癰(虫垂炎など)。腹部膨満感があり排ガスや曖気で軽減し食欲がないのは気滞・食積。腹部膨満が持続し便秘するのは実証、脹ったり軽減したり便が軟らかいのは虚証。
  • 四肢・腰部・その他:悪寒・発熱とともに全身の関節が痛むのは表証、関節がしびれ痛むのは痺証、固定性の激痛は血於。四肢がだるく身体が重いのは湿証。手足がしびれ軽度の痛みを伴うのは血虚。腰や下肢に力が入らずだるく痛むのは腎虚。
  • 月経・妊娠・分娩:月経周期が短く経血量多く色が紅いのは血熱、量が多く色が淡紅色でサラサラしたものは気虚。周期が長く経血量少なく暗紅色のものは寒証、量が少なく淡紅色は血虚。月経周期不定で月経痛を伴うのは肝気鬱結、経血量が少なく淡紅色は腎虚。月経過多で色が薄いのは気虚、粘稠で紅いのは血熱が多く、月経過少は血虚。経血に凝血塊が混じり青紫色を呈するものは血於、月経時に痛みを伴うのは気滞。分娩回数が多いと気虚・血虚・血於を生じやすく、早産・流産・難産は気血不足・肝虚腎虚を考慮する。妊娠中に使用してはならない薬物があるので女性には妊娠の有無を聞く必要がある。

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【切 診】

触覚による診察法で、患者に触れることで病状を把握する。中医では脈診を重視し、日本漢方の古方派は腹診を重視する。

(1)脈診
血管は血液が循環する通路で、気血が循行する。血管の拍動状態は心機能・血管壁の状態・血液の性状・血管運動神経の機能・精神状態・外部環境などの要因で変化する。中医学では血管の拍動状態を観察することで人体の正気の状態・病邪の性質・疾病の予後などを判断する。

  • 脈診の方法:外界の影響を受けにくい早朝が良いとされるが、患者と治療家が互いに平静な環境の下で行う。少なくとも1〜2分かけ注意を集中し正確な脈象を得るよう努める。
  • 脈診の部位:両側の橈骨動脈の拍動部を寸・間・尺の3部に分け、各々第2指・第3指・第4指で押して診察する。脈は部位によって下表のように身体部分と臓腑が配当されるが、臓腑については流派によって見解が異なる。

   

寸 脈 横隔膜より上の疾病

間 脈 横隔膜から臍部までの疾病 肝・胆 脾・胃
尺 脈 臍以下の疾病

腎・膀胱

 

  • 体位:患者を正座もしくは仰臥させ、腕を心臓と同じ高さにし手掌を上に向ける。手掌関節の下に柔らかい敷物を当て支える。
  • 平息:治療家は呼吸を整え、ひと呼吸ごとの脈拍数を正確に数えられるようにする。
  • 指法:指を当てる間隔は患者の身体に応じ、体が大きいときは間隔を広げ、小さいときは狭める。乳幼児は一指で診察する。3本の指は高さをそろえ、指先が均等に脈に触れるようにする。指の力の入れ方によって脈象がどのように変化するか観察する。軽く触れて診ることを「拳」・「浮取」、力を入れて診ることを「按」・「沈取」、両者の中間を「中取」という。また指をわずかに移動させたり、押さえる力を様々に変えて仔細に診ることを「尋」という。

脈診して感じられる脈拍の形象を脈象といい、数・拍動力の強弱・形の大小・リズム・血流の状況・拍動の長短などがある。正常脈を平脈ともいい、一息で4、毎分60〜75くらいでゆったりとして規則正しい。平脈は3つの特徴がある。「有神」ゆったりして力がある。「有胃」胃気があるともいい浮・沈・数・遅のいずれでもなく、ひとつひとつの脈拍が平均して規則的なリズムを示す。「有根」沈取しても一定の力があり、又は尺脈が充分有力である。このほか年齢・性別・体格・体質などでやや変化が見られる。小児は軟で速く、女性は男性より軟でやや速く、肥えた人はやや細で沈、痩せた人はやや大、スポーツマンは緩、妊婦は滑でやや数などいずれも正常範囲の変動である。平脈でないものを病脈といい、脈位の深浅・脈拍の遅速・拍動の強弱・脈の大小長短・脈拍の形状・リズムなどに基づいて28種の脈象に分類される。ある中医の話によれば臨床で診る脈は常見脈といい、浮・沈・遅・数・弦・細・滑・洪・微・促・結・代の12種くらいになる。

脈位の深浅

浮取で力があり、中取・沈取で弱くなる 表証
浮取・中取では触れず、沈取して触れる 裏証(肝気鬱結・気滞血於でも見られる)

脈拍の遅数

一息3以下、一分間50前後 寒証(実寒・虚寒)
一息6以上、一分間90以上 熱証(実熱・虚熱)

脈拍の強弱

無力・浮取で触れ、強く押さえるほど
減弱。脈形大
虚証(無力脈の総称)
有力・浮中沈取すべて充実 実証(有力脈の総称)

脈の大小(細)

脈形がゆったりと大きい 大で有力は邪盛、大で無力は虚証
軟らかい、脈形が細い 気血不足・陰陽両虚・血虚・陰虚

脈の長短

脈形が長い 熱証・実証(長脈だけの時は正常)
脈形が短い 気血不足・痰・気滞

脈形の変化

去来早く、なめらかで盆に球を転がす
ような触感
痰飲・食積・実熱・妊娠時にも見られる
脈拍なめらかで長く、小刀で竹を削る
ような触感
血虚・血於
やや有力、脈形長くまっすぐで琴の弦
を押さえるような触感
肝胆の疾病・疼痛・痰飲

脈拍のリズム

一息6以上、一分間90以上、脈拍が
不規則に欠落する
実熱に気滞・血於・痰飲を伴う
一息4以下、一分間60以下、脈拍が
不規則に欠落する
心気虚に気滞・血於・痰飲を伴う
脈拍が規則的に欠落する 心気虚

合併した脈象

一息3以上4以下、一分間50〜60
やや無力・大でも細でもない
実熱あるいは虚寒(一般に平脈をあら
わす)
実脈と大脈を兼ねる、来盛去衰 裏実熱
非常に弱い、非常に細く、あるなしが
明確でない
陽虚
一息6以上、一分間90以上、有力、弦・
数・有力なもので、脈が左右に揺れる
寒証・疼痛
やや弱い、浮・軟・細 気血不足・湿証
無力、沈・軟・細 陽気不足
浮取で弦硬、沈取で中空 気虚・腎精不足(孔脈とほぼ同じ)
沈取で有力、浮中取で触れず、沈取で
弦・大・長
頑固な疾病(沈弦・沈実)
一息6以上、一分間90以上、滑・数・短
で、豆のような形
疼痛・高熱・妊娠
沈脈よりさらに沈 激痛・邪盛・亡陽
弱い、浮大で中取・沈取ともに空虚 心腎陽虚・亡陽
弱い、浮大で中取で空虚、沈取でやや
触れる、葱の管を押さえるような触感
失血・津液の消耗

 

脈診は重視するが絶対のものではない。疾病によっては、脈象に現れないものや、仮象が見られることがあるので四診を十分検討し脈象の捨拾を決定する。脈証と症候が合致しないのは「一方が真象でもう一方が仮象」、「両方真象で、疾病が虚実挟雑」の2通りが考えられる。たとえば、腹痛・圧痛強・便秘・舌苔は黄厚乾で胃腸実熱の症候が見られるとき脈が遅細で虚寒を呈するなら、この脈は炎症性疼痛による迷走神経緊張や表在血管の反射性収縮によるもので、実際の病理現象とは逆で仮象と考えられる。このときは「脈捨従証」で実熱を瀉下によって除く。逆に脈沈数・裏熱を呈し、四肢の冷えなど虚寒の症状があれば「捨証従脈」で対処する。疾病の虚実挟雑の例では、腹水で邪実・脈微弱無力・虚証を呈するとき、正気の虚とそれに伴って生じた邪実とが虚実挟雑でいずれも真象と考えられる。このとき四診合算し邪実と正虚の軽重を判断し「捨脈従証」で先攻後補か「捨証従脈」で先補後攻するが、一般的には攻補兼施の方法をとる。

(2)触診
体表各部の寒・温・湿・燥・腫脹・疼痛や筋緊張又は押さえたときの反応などを調べる。

  • 皮膚:寒温は体温の高低、汗は潤燥の多少を反映する。疾病の初期、皮膚が熱く乾いているのは表実、湿潤しているのは表虚又は表熱が多い。湿って冷たいのは気虚の自汗又は発熱がひいて治癒途中にある。皮膚が冷たく冷汗が多いのは亡陽のショック。皮膚が乾燥しシワがあるのは津虚又は気陰両虚。乾燥し粃糠状の粉がふきだすものは血虚・陰虚。慢性病で皮膚が非常に乾燥し、触れると手を刺すようなものは肌膚甲錯といい、陳旧性於血・血虚にみられる。皮膚を押さえると陥凹し、すぐに戻らないのは水腫。
  • 四肢:冷たいのは陽虚が多い。手のひら・足の裏に熱があるものは陰虚。
  • 胸部:心尖拍動に注意する。肥満したものでは弱く、痩せたものではやや強いが、これは正常である。拍動が非常に弱いか明らかに強いのは心気虚。
  • 腹部:部位・筋緊張・圧痛・腫瘤などに注意し、西洋医学的な診察と合わせて判断する。腹筋の緊張が強いのは肝気鬱結・気滞又は腹腔内の炎症など実証が多く、弱いのは虚証が多い。腹痛や腹部膨満感があり圧痛が強いのは熱証・実証が多く、圧すると痛みが楽になり膨満感も軽減するのは寒証・虚証又は気滞。腹部が膨満し叩くと鼓を打つような音がするのは気滞、ボチャボチャと振水音がするのは胃内の溜飲(痰飲)、叩いても音がせず硬く脹っているのは腹水。腹部に腫瘤があり硬く触れるのは実質腫瘤で「徴(ちょう)」「積」ともいい血於・痰飲が関係する。腫瘤が見えるが触れると消失するのは「假(か)」「聚(しゅう)」といい、多くは腸内のガス貯留によるもので気滞。上腹部に盆のような硬い腫瘤を触れるのは痰飲。中医では腹診をさほど重視しないが、日本では独自の発展を遂げ腹証を薬方と対比させ、○△湯の腹証、□×○湯の腹証などと表現し重視する。
  • 経穴:臓腑の病変は対応する経絡や経穴に圧痛・過敏・陥凹又は知覚低下・隆起などして現れることがある。

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「患者の訴えに細大漏らさず耳を傾け、あらゆる情報を合算し診断・治療を行う」とは言え、細大漏らさず耳を傾けていると時間もかかり、得た情報は肥大化し、迷いや錯誤をもたらすことがある。治療家が経験と学習で得たパターンに則り効率よく行うのが現実であろう。漢方は古代の医療技術であり、当時は四診で得た情報を最大限生かすことが治療に直結した。冒頭で医療機器の検査を加えて五診と書いたが、現代の漢方診療において西洋医学的診断は不可欠のものだ。患者側も西洋医学の知識が基本にあるため、気血水・陰陽虚実の説明は説得力に乏しい。可能な限り西洋医学の知識に翻訳することが求められる。

 

 

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