【今月のコラム】
【香附子】 |
国民の違和感は9割正しい 堤 未果 PHP新書 |
2年前のNHKの調査によると、ほぼ同数の男女3000人への質問で世代は20代〜70代。各世代ごと13〜19%とムラのない回答を得た。政治の現状に満足かどうか聞いたところ、大変満足・ある程度満足が24%、あまり満足していない・まったく満足していないが75%だった。政治に関心があるかどうかの質問では関心がない・まったく関心がないが37%だった。有権者の半分は選挙へいかず、つまり投票権を放棄している。投票へいかない理由は様々あるが、自分の一票で政治は変わらないと答えた人が13%だ。政治に関する情報は8割がテレビ・新聞が占め、ニュースサイトやネットが続く。関心がない・まったく関心がない人々はたぶん読みも見もしない。関心があってもほぼ8割がテレビ・新聞なので、そこから得た情報で世の中を見ていることになる。本を読む、少し深く調べる人は引き算で2割ほど。著者はその一人ということになる。しかし、9割の国民が違和感を覚えるものがあればそうでないものもある。 2023年10月、パレスチナ武装勢力(ハマス)がイスラエル市民1200人を殺害し、240人を人質としてガザ地区に連れ去ってから、イスラエル軍の報復とその応酬が続き、その報道は見るに堪えないものだ。この地域は中東の火薬庫といわれ、イスラエルによるパレスチナの土地への侵攻から始まり、長い歴史と複雑な政治情勢が絡む。困ったことに世界の警察、アメリカの支持を得たイスラエルの暴虐は止まらない。倍返しどころか攻撃に容赦はない。EU26カ国は150万人が住むラファ地区への爆撃を止めるように声明を出し、南アフリカはイスラエルの行為を「ジェノサイド(集団虐殺)」として国際司法裁判所に提訴し、裁判所は「ジェノサイドをやめるように」とイスラエルに命じた。
最初、アメリカは停戦決議に堂々と反対し、イギリスは棄権した。後に賛成に変わったが、バイデン政権はすでに2兆円の巨額支援をし、ドイツはイスラエルへの軍事支援を今後10倍に増やすという。中東地域の専門家は歴史・宗教・思想の違いによる民族対立として解決の困難さを語るが、イギリスもエジプトもアメリカも、ガザにある宝の山を狙っているのだ。1999年、イギリスのBG(British Gas)がガザ沖36キロ、水深603メートルのガザマリン油田にある天然ガスを発見した。最大で約200億立方メートルにもなり、発電所の燃料を石油から天然ガスに切り替えることでパレスチナのエネルギー自給率は高まり、経済的な自立が可能となる。早速、パレスチナ自治区政府とパレスチナ系企業、BGの3者はガスの探査と開発の25年契約を結んだ。周囲を対立国に囲まれたイスラエルにとっても自前のエネルギーは必要で国家存亡にかかわる問題であった。そこでパレスチナ人がガス田に近づけないように、封鎖していたガザ地区沿岸の立ち入り禁止区域を拡大した。これが新たな争いの始まりとなり、2006年ガザの選挙でハマスが勝利すると、イスラエルは軍事力で海を封鎖しガス開発を阻止した。2008年、この海域でさらに大きなガス田が見つかると、イスラエルはガザに侵攻し3週間爆撃を続け、ガザ海域の主権を一方的に宣言した。
戦争は金の流れと出口を見れば一目瞭然だという。国際社会から「虐殺」と非難され各地からも非難の声は高まるが、利権という欲望に囚われた者に人道も慈悲もなく、流血をみても絵空事だ。ここで、イスラエルの紛争にかき消されるようにニュースの脇に追いやられたウクライナ紛争をお金の流れで見ると。2022年2月、ロシアの軍事侵攻が始まったとき、アメリカは即座に136憶ドル(1兆6000億円)のウクライナ支援予算を議会で通過させた。各国へも支援を要請し、1年でアメリカは10兆円もの武器を米国民の税金で発注した。
世界の武器セールスの3%を占めるイスラエルの現地新聞は、「ウクライナ紛争の最初の勝者は、イスラエルの防衛産業だ」との絶賛記事を書いた。日本も支援に踏み切り、国民にも思いやりがみなぎった。キエフをキーウ、チェルノブイリをチョルノビーリなど、ロシア語までも禁止して敵視が始まった。日本には防衛装備移転3原則があり、他国のように殺傷能力のある武器の供与はできない。そこで政府は、ウクライナは国連安保理の措置を受けている紛争当事国には当たらないからと、3原則の指針を改定し防弾チョッキとヘルメットを送った。軍事予算を使いすぎたアメリカは、実態経済がどんどん悪化し、野党(共和党)からの非難が起こり始めた。アメリカが困ったとき白羽の矢が立つのが日本だ。アメリカがライセンスを持つ武器を日本で造ることになり、このための防衛装備移転3原則のガイドライン見直しをおこなう。国会審議を経ることなく与党の12人の協議で決められ、議事録は全て非公開、国民は内容を一切知ることができない。
2023年11月、世界中のマスコミがウクライナからの武器横流し問題を取り上げた。イスラエル紛争で使われる米国製の武器はウクライナ経由の闇ルートで輸出され、もし日本製が転売されたとき日本の安全保障にどんな影響を及ぼすだろう。ウクライナを全力で支援し、プーチン大統領を侵略者、狂人とまで呼ぶ人々も居る。ウクライナの背後にはアメリカが、イスラエルの背後にもアメリカが居る。イスラエル紛争ではアメリカを非難するが、ウクライナ紛争ではロシアを非難する。アメリカは全世界40カ国に761カ所の軍事基地を有するが、ロシアは一カ所もない。アフガニスタン、イラク、リビア、シリアでアメリカがしてきたこと、そして日本で、とりわけ沖縄でしてきたことを私たちは見ている。ウクライナでアメリカがしてきたことは明日の日本かも知れない。プーチン大統領がなぜウクライナへ侵攻したのか少しは耳を傾けてもいい。
ウクライナが財政破綻しても日本は6850億円ほど肩代わりし、復興プロジェクトに参加する日本の企業へ政府が国民の税金から資金を回す。2024年2月19日、東京で開催された「日・ウクライナ経済復興推進会議」に日本から80社、ウクライナから50社ほどが参加した。ウクライナの復興ビジネスは桁違いに大きく、インフラ、住宅、経済、地雷撤去など10年で58兆円の予算が見込まれている。ウクライナは支援金を返せるアテがなく、復興ビジネスに群がる企業経由で税金が日本へ戻ってくるが、国民の財布には入らない。税金の中抜きが常態化した大企業、領収書のない札束が飛び交う政官業の実態が垣間見える。「裏金はけしからん」というが、もっとけしからんことは、貰って何を見返りとしたか?何の見返りを期待して裏金を渡したか?である。企業の莫大な利益を考えると政治家が受け取るお金などわずかなものだ。逆に企業にとっては政治家こそわずかな餌で大きな獲物を得る手足となる。 |