【今月のコラム】


【サフラン】

薬のやめ方事典 浜六郎 三五館

16年後の2017年現在、次のように言い換えます。「コレステロールが高いことを理由に低下剤を処方されている人は、例外なく今すぐに、(低下剤を)やめよう。医者が何といおうと、学者が何と言おうと、厚生労働省が何と言おうと、メーカーが何と言おうと、マスコミ、タレント、マンガ、保健所、家族が何と言おうと、あなた自身がやめればよいのです」

著者の主張はコラムに何度かとりあげ、特にコレステロールや血圧等の数値の欺瞞と薬の服用について注意喚起してきた。著者は1999年頃、コレステロール値について徹底的に調べ上げた結果、「下げる必要がない」といい始めた。それから12年後の2012年まで多少の例外はあるかも知れないとの考えから「コレステロールが高い以外危険因子のない人は..」と、曖昧さを残していたが、2017年現在「例外なく今すぐ..」止めるよう断言している。

循環器学会や動脈硬化学会はコレステロールをやり玉にあげ、体に悪いものかのようなイメージを植え付けてきた。しかし、総コレステロール値が300mgを超えるような家族性高コレステロール血症の人でさえ強力なコレステロール低下剤で極端に下げると害のほうが大きい。いまもせっせと服み続けている人は製薬会社の宣伝にすっかり馴らされ抜け出せなくなっている。健康に関する広告は軽く不安をかきたて、重く暗示させることにある。薬の危険や副作用は理屈で理解できても、止めるには不安を乗り越えなくてはならない。「止めると不安」というだけで律儀に服用を続け、医師は止めさせることで悪化したら、他の原因であっても責任を問われかねないという不安で処方を続ける。脅迫ビジネスの代表が医療や宗教、保険、他にも教育、軍事、政府等、まだたくさんの業種がありそうだ。

2016年6月に出版された英国医師会雑誌によると、60歳以上の人を対象とした調査でコレステロール値が高い人のほうが長寿を示していた。欧米の調査でも60歳以降の人では例外なく悪玉コレステロールが高いほうの人が長寿であることが判明した。いままでコレステロールを悪者とみなし食品から摂るコレステロールも忌み避けてきた。厚生労働省は食事摂取基準を設け、食品から摂るコレステロールの上限値を決めていた。これに基づいて食品業界は「低コレステロール食品」、「コレステロール・ゼロ」などを謳いトクホ(特定保健食)の指定を取得し、食品や飲料を薬のごとく売り始めた。2010年、日本脂質栄養学会は日本での大規模な疫学調査の結果、コレステロールの高い人のほうが長寿だと認め、2013年には米国の心臓関係の学会が「コレステロールの摂取制限を設けない」見解をだした。厚生労働省は2014年3月、ついにコレステロールの食事摂取基準を廃止し、翌年の5月、日本動脈硬化学会もこれを認めるに至った。動脈硬化学会は「健常者において..」との枕詞を付しているが、言い訳がましい表現だと著者は喝破する。このことは大きく報道されたが、相変わらず処方され服み続ける人が多く、その後も薬の売り上げは増加した。

無害無益なら製薬会社への資金カンパで済むが、筋肉が溶けて強い痛みを起こす横紋筋融解症という副作用が知られている。他に末梢神経や中枢神経の障害、肝機能障害など多岐に及ぶ。これを「服まねば悪いことが起こる」という脅迫で服み続ける。私の薬局でも、服用中の薬の相談を受けることが多く、薬が不要であることの説明を切々とおこなっても、受け入れる人はほとんどいない。「止めると不安だから服み続ける」という。社交辞令で「止めてみます」と答える人も居るには居るが、「止めることの不安」を打ち破ることは難しい。

コレステロールは生命活動の基本を為す重要な成分で、副腎皮質ホルモン、性ホルモン、胆汁などの原料として必須のものだ。体内のコレステロールの7割以上が自身の体内で生産され、食物からの摂取は3割弱にすぎない。食物からコレステロール摂取が減ると体は蓄えた体脂肪やブドウ糖からコレステロールを生産するため体が重大な危機に陥る。コレステロールはLDL(低比重)とHDL(高比重)に分けられているが、日本動脈硬化学会はLDLを悪玉コレステーロールと呼んで、あたかも害毒かのように勘違いさせる。コレステロールは体に必要なもので悪玉も善玉もない。

1980年代末、折しもコレステロール低下剤が市場に出たころ、悪者扱いが始まった。続いてコレステロール低下剤の売り上げが足踏みし始めた2000〜2001年頃、コレステロール悪玉説がいっそう盛んになった。2016年にコレステロールの高い人が長寿であることが明らかになっても、ガイドラインの修正は見込めない。製薬会社の努力は目を見張るものがあり、彼らが繰り返しばら撒く嘘の情報に浸っていると嘘に慣れてくる。血液サラサラが良く、ドロドロが悪いという刷り込みで薬を服み、食事を制限し、ひたすら長寿を夢見るのは見当違いだ。血液ドロドロだから心筋梗塞になるのではなく、血液サラサラのほうが赤血球が壊れ心停止を引き起こす危険が大きい。「コレステロールを薬剤で下げるなど言語道断、健康な人をわざわざ不健康にする」とまで著者は言う。ではどうすればよいか、心筋梗塞などの要素があれば、食生活、運動などの養生で十分に対処できる。著書が勧めるチェック項目は以下のようなものだ。

【チェック項目】

  1. タバコを吸っていませんか?
  2. ストレスは溜っていませんか?過労や睡眠不足ではありませんか?
  3. 運動不足ではありませんか?
  4. 肥満しすぎ(BMI30以上)または、やせすぎ(BMI18未満)ではありませんか?
  5. 食べすぎていませんか?食事に偏りはありませんか?食事を制限しすぎではありませんか?
  6. 血圧は高めではありませんか?(160以上あるなら、ストレスの原因を考えてください)
  7. 糖尿病はありませんか?
  8. アルコールが過ぎることは?1日あたりビール500ml、または日本酒180mlを超えていませんか?
  9. 親が若くして(60歳以下で)狭心症や心筋梗塞になりませんでしたか?
  10. これまで狭心症や心筋梗塞になったことは?

それぞれのチェック項目の内容から、対策は推して知るべし。該当してもしなくても、コレステロールがどんなに高くても、薬で下げる必要はない。

7)の対策として、「糖尿病は、徹底した糖質制限食で無理なくコントロールが可能である」と助言されているが、5)食事に偏りがありませんか?のチェック項目と相矛盾しはしないか、と思い目次を見ると「食事と運動」の章を設け詳しく書かれていた。

本書でいう健康食とは、個々の体格と仕事や運動量に見合った必要なエネルギーの、約半分を脂質から摂り、良質のタンパク質を十分に摂り、糖質(炭水化物)は控えめにする、というものです。

最近、Evidenceを示し、確かで斬新な食養生として糖質制限食を推奨する風潮がある。著者は徹底的に調べあげたうえでの結論だと言う。道元の「赴粥飯法」に食をいただく際の5つの心がけがある。その4)、正に良薬を事とすることは形枯を療ぜんが為なり。「食は良薬であり体を養い健康のためにいただく」という意味で、科学的Evidence以前に誰一人として疑うことのないEvidenceだ。いままで習慣としてきた食生活を変えることは薬を止める理屈とは別だ。現代栄養学では栄養バランスの良い食事として糖質の割合を60%、脂質20〜25%、タンパク質15〜20%を推奨する。しかし、糖尿病患者では糖質摂取に伴い尿中の糖分が増えることから、糖分を抜き高脂肪・高タンパク食にして、糖尿病の治療に成功した。これは目新しことではなく18世紀終盤から19世紀初めに試みられ、現在の糖尿病の食事指導の原形となった。最近、復活している糖質制限食は糖尿病のみならず健康な人にも推奨し、「糖質を30〜40%に抑えるだけでも十分健康に良い」と書かれている。抑えるだけでも..というのは、言外にもっと減らせという意味が込められている。そして減らした分を脂質、タンパク質で補えという。

糖質を制限すれば、糖質を必要とする筋肉や脳の活動が維持できなくなり、命に関わる障害が出る。体にはそれを防ぐための機構が備わり、筋肉を分解し糖生成をおこなう。この反応は脳から分泌されるコルチゾールが関与し、このホルモンが働くときは相当の低血糖状態であり、人体にとって普通ではない。そこで糖生成と同時にインシュリンの働きを抑え血糖低下を防ごうとする。そうなると今度はインシュリンが効かなくなり、血糖値が下げられなくなる。糖質を制限する健康法や糖尿病治療が逆に糖尿病を誘発する。豪メルボルン大学のラモント教授が2016年、ネイチャーに発表した論文では「低炭水化物食」(糖質制限食)を与えたマウスは、インスリンを生成する「β細胞」の機能が減少していた。「糖質制限を始めるとインスリンの分泌が減り、生成元である「β細胞」の活動が低下する。使わないと衰える筋肉と同じように、ある程度の期間、糖質制限を継続すると、休み過ぎてβ細胞の機能低下を招く。そうなると、糖質を摂取した際に、インスリンを分泌できなくなり、高血糖状態になってしまう。

著者は「徹底的に調べあげ、糖質制限食を推奨するに至った」というが、なぜ糖質制限食のEvidenceが優れていると考えたのだろう。

脳は、ブドウ糖だけをエネルギー源にしていると考えられがちですが、じつは、脂質が分解されてできたケトン体もエネルギーとして使うことができるので、ブドウ糖は必ずしも必須ではありません。筋肉も、ブドウ糖だけでなく、ケトン体をエネルギー源として使います。

トリグリセリド(中性脂肪)は、脂肪酸とグリセリンに分かれます。そして、このグリセリンからブドウ糖が合成されますし、アミノ酸からもブドウ糖を作ることができます。つまり、糖質をまったく摂取しなくても、最低限のブドウ糖を私たちの体は別の手段で確保することができるのです。

必須の栄養素は脂質とタンパク質であり、代表的なモデルは「鶏卵」だという。カロリーでみると脂質が65%、タンパク質が34%、糖質は1%で他に骨に必要なカルシウムや必須ミネラル類、ビタミン類もすべて揃っている。なによりもこの卵から1羽のヒヨコが生まれるのだから、脂質とタンパク質は生命に重要な栄養素である。「脂質とタンパク質から糖質は作られる」と言うからには、いちおう糖質の役割や必要性は認識されているようだ。しかし、著者は糖毒といい、糖は毒であり健康を害するという。体の中の余分なタンパク質は、タンパク分解酵素によって分解され、無毒なアミノ酸やペプチドに変わるが、糖が結合し酸化したり濃縮するとタンパク分解酵素で分解できなくなる。これを最終糖化産物(AGEs)といい、これを排除するための免疫反応である炎症が起こり、繰り返す炎症で細胞が早く老化する。老化はあらゆる病気の原因になり、とくにアルツハイマーやパーキンソン氏病、認知症になりやすい。糖尿病の人ではインシュリンを分泌する膵臓のβ細胞が糖毒に侵され、インシュリンの分泌ができなくなり、ますます悪くなる。糖質を摂取すると糖を下げるため大量のインシュリンが必要で、膵臓のβ細胞は疲弊するが脂質や蛋白質なら糖毒の心配もなく、インシュリンをほとんど必要としない。いわゆる食事由来の2型糖尿病の人は糖質の摂取量を全エネルギーのうちの10%未満にするのが好ましく、減らした糖質の分を主に脂肪、次に蛋白質で補う。

関連書籍やネットで調べると、糖質制限食で糖尿病が治り、ダイエットにも成功した体験談があり、これを支持する専門家の説明もある。一方、糖質制限に警鐘を鳴らす意見もあり、いくつかまとめると、脳を動かすエネルギーは100%糖質であり、炭水化物を食べず脳を正常に保つには1日に数キロという大量のタンパク質や脂質を必要とし現実的ではない。糖エネルギーが不足すると筋肉を分解して糖生成をおこない脳へ送る。その時水分を使用するので体重は落ちるが、脂肪は減っておらずダイエットとはいえない。糖質制限ダイエットをしていると糖質不足で脳が極力エネルギーを使わないよう指示を出すため慢性的に眠気を催す。さらに筋肉を消費し糖質を動員するので筋力が落ち、骨もスカスカになり骨粗鬆症の危険がある。

2006年、ランセットなどの医学雑誌で糖質制限ダイエットを厳格に実行すると、体内に老廃物が溜まり、体が酸化し非常に危険な状態に陥るケースが報告されており、「死を招く恐れあり」との警告を発する医者もいる。また糖質制限ダイエットを体験した医者の話もあった。「あっとうまに15kgくらい痩せた」が次第に頭がぼ〜っとする状態が続き、ある朝目覚めると右半身が麻痺してまったく動かなかった。MRIを撮ると脳梗塞の一歩手前で、脂質やタンパク質の摂りすぎで脂肪が飽和状態になり、一時的に脳の微小血管が詰まったのが原因だった。

霞を食べて生きてはゆけない。食は命や健康を支えるため子々孫々培ってきたものだ。そこには食文化という知恵が脈々と流れている。短期間、糖質制限はできるかも知れないが、いままでと真逆の食習慣が根付くだろうか。糖質制限食を強く推奨するなら著者ご自身で長期に実践され、食の満足度や体調の変化など仔細な報告を待ちたい。賛否両論揺れるものは静観するほうがいい。

 

 
 

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