【今月のコラム】


【山茱萸】

改定・米国食品指針  (2026.1.7)

1980年、米国人のための食事指針が初めて公表された。1977年に出されたマクガバン報告を受けて、好ましい食生活のための食事ピラミッドを示し食材の種類と摂取割合を提言した。その後、5年ごとに見直しが行われ現在は2000年公表の第5版が用いられている。これによると穀物(炭水化物)を基本とし次に野菜・海藻(ミネラル・ビタミン)などは2〜3割ほど、肉や魚、大豆(蛋白質・脂肪)などは1〜2割ほど、甘味料や油脂、アルコールなどの嗜好性の高いものは控えめに、というのが読み取れる。乳製品や卵類も含む5〜10%のカテゴリーには異論があるかも知れない。このピラミッド図を作成するのに一部業界からの反発を招いたという。

日本の食養家が提言する伝統的食養が偶然にも、このピラミッドに一致し、発表されたときは「わが意を得たり」と喜んだ。伝統的食養では食摂取の割合を歯の構成と機能に求めた。大人の歯の合計32本、うち臼歯(奥歯)20本は穀類や豆類を磨り潰す。門歯(前歯)8本は野菜や海藻を噛切る。犬歯(糸切歯)4本は肉などを噛みちぎる。植物性食品に適応する歯28本に対し動物性食品は4本で7:1の比率になる。ゆえに植物性食品:動物性食品=7:1で摂取するのがヒトの生物的食性に叶うという理屈だ。栄養学的にもアミラーゼ活性が高く、穀物を主食とする食養が好ましいとされる。陰陽で食を論ずる玄米菜食派は、前歯と犬歯で肉や魚を噛切り、臼歯でも噛み砕くので、歯の役割分担を穀物:野菜:肉=5:3:1としている。日本の伝統食の構成に類似はしているが根拠は定かではない。

進化か退化かは知らないが食養が煮詰まるとベジタリアンという人々も現れ、卵・乳製品等を容認する傍流も生まれる。食に対する拘り、禁忌は無数にあり、文化の影響が大きく、栄養学だけで語ることはできない。現代栄養学を学んだ栄養士は穀物・野菜を推奨し肉や卵は控えるよう指導する。穀物と野菜は食養の優等生だが、蛋白・脂肪源である「肉・卵」と「魚・牛乳」との扱いには差異がある。

2000年の公表された第5版の食事ピラミッドは定着したかのように見えたが、今年の1/7に米国厚生省と農務省は連邦政府の食品指針の改定を発表した。

トランプ米政権は7日、国民が健康的な食生活を送るための新たな食事ガイドラインを発表した。従来指針よりも多くのタンパク質を摂取し、糖分を減らすほか、過度に加工された食品を避けるよう推奨する。

新しいピラミッドでは、たんぱく質や良質な脂肪を含む食品が食事の土台として位置づけられている。これらの食品や栄養素は人間にとって不可欠であるにもかかわらず、従来のガイドラインでは控えるべきものとして、誤って紹介されてきたとケネディは説明している。

従来のピラミッドと同じく炭水化物は全粒穀物を優先し果物・野菜、そして飽和脂肪の摂取を1日のカロリーの10%に抑えるというのは変わらないが、少ない比率だった肉・魚介類・大豆製品を増やすよう改定した。タンパク質は成人1日分を体重1Kgあたり0.8gとしていたが、1.2〜1.6gと倍量を推奨する。糖分については、とりわけ砂糖、シロップ合成甘味料を減らす。以前のガイドラインでは1日のカロリーの10%を超えない範囲とされていたが、1食あたり10gを超えてはならないとした。米国人の食事では砂糖と加工食品の摂取量が多く慢性疾患増加の一因と指摘されている。記者会見でケネディ厚生長官は「本日、政府は添加糖に宣戦布告する」と強い口調で表明した。世界保健機構(WHO)は平均的成人の砂糖摂取量を25g程度としている。長官は砂糖とともにスナック菓子や冷凍ピザなどの「超加工食品」を減らし、「リアルフード」を食べるよう訴えた。

超加工食品とは、2009年にブラジル・サンパウロ大学のカルロス・モンテイロ教授らが加工の程度によって食品を分類する「NOVA(ノバ)分類」の提唱から始まった。5種類以上の添加物を含む原料から工業的手順で作られ、すぐに食べられる食品と定義した。例えば、スナック菓子・菓子パン・クッキー・炭酸飲料・エナジードリンク・インスタント食品・カップ麺・冷凍ピザ・冷凍食品・加工肉(ウインナー、ハム、ナゲット)・味付きヨーグルト・シリアルバーなど様々な食品があり、摂取割合が増えると、糖尿病や肥満、高血圧、癌、心血管疾患のリスクが上昇し、心身への影響も大きい。米国やイギリスでは1日の総エネルギー摂取量の約6割を占め、日本では約3〜4割、特に若い世代の食生活に定着している。

この対極にあるのがリアルフード(本物の食品)と言い、健康リスクを減らすためにはシンプルで未加工か加工度の低い食品を主体とした食生活が望ましい。食品スーパーやコンビニで購入する食品のラベルには、まず原材料の表示があり、続いて添加物やアレルゲンが記載される。その種類たるや細かい字で10行を超えるものもある。多い分だけ加工度は高く、リアルフードから遠ざかる。

「率直に言うと、政府は企業の利益を守るために、国民に対して誤った説明を続けてきた。本来は食べ物とは言えないようなものを、公衆衛生に役立つかのように伝えてきた」と発言し、さらに、「今回の新しいガイドラインは、アメリカの食文化を根本から変えるものであり、アメリカを再び健康な国にすると、強調している。

新しいガイドラインではタンパク質・脂肪の摂取を増やすため、卵、鶏肉、魚介類、赤身肉、全脂肪の乳製品など動物由来の食品を推奨する。いままでは生活習慣病のリスク回避のため赤身肉を控え、鶏肉や魚などの脂肪の少ないたんぱく質や豆類、ナッツ、種子といった植物性食品を中心に摂取するよう推奨してきた。これについては専門家の見解が定まらず検討の余地はあるが、超加工食品は専門家もほぼ好ましくないとしており、「控えるべき食品」として明示したのは今回が初めてだ。米厚生省によると、米国の成人の70%以上が肥満か過体重で子どものカロリー摂取量の60〜70%は超加工食品に依存しているという。この依存を抜け出す手助けをするのがリアルフードだ。可能な限り新鮮かつ清浄で原材料以外の混じり気のない食品をいい、努めて食品のラベルを確認することだ。慣れると見なくても分かるようになる。

日本伝統食を提唱するマクロビオティックでは新鮮さと清浄さを追求する。物価高ゆえ安い食材が得られるなら輸入も加工も容認しがちだが、食物は自然が産み出すもので、培う環境なしには得られない。穀物であれば穀物を産みだす環境さえ金銭で輸入することになり、輸入した分の環境は日本から失われる。身土不二といい、食は私達が暮らす環境とともにあり、切り離しては成り立たない。

かつて食品添加物を忌避する本が出版され「買ってはいけない」現象が起きた。超加工食品には添加物が多く、原材料さえ正体不明なものがある。いままで清浄な食品と認定したものにオーガニック食品があった。最近は「クリーンラベル食品」という運動が注目されている。明確な定義はないが、着色料、香料、果物・野菜原料、でんぷん・甘味料、小麦粉、麦芽、その他食品添加物・原料のうち基本要因のいずれかまたはすべて、副次要因の少なくともひとつに適合したものがクリーンラベルとみなされる。基本要因は原料が少なくシンプルで人工的な添加物や物質が含まれない、副次的要因は天然、有機、非遺伝子組み換えなどが含まれる。パッケージにクリーンラベルの表示はないが、現在のラベルの表示から自分で要因を確認することになる。しかし、この取り組みには食品企業が参画しているので、どこまでが親切なのか、どこからが戦略なのか分らない。他に価値を求めるより、自ら原材料、添加物、加工度を図り、「考える食生活」が健やかに生きる支えになる。

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