【今月のコラム】


【泰山木】

官僚国家日本の闇 泉 房穂  集英社新書

政治家・役人・企業・学校・芸能..人の居るところパワハラあり。報道のたびに暗澹たる気分が立ち込め、失望や怒りや嫌悪を催す。最近では、選挙で勝ったとして居座る知事の話題が絶えない。記者会見のたびに一言一句、同じコトバを繰り返し、「本日モ反省ノ色ナシ」。著者の泉氏はこの知事と同じ兵庫県明石市の元市長で、副市長など部下へのパワハラで自ら市長を辞任した。知事と違い居座ることなく潔く職を辞し、その後メディアでご意見番のような存在になった。直情タイプの人物で暴言・失言がしばしばみられるが、市政に至っては医療や福祉、子育て支援を充実させ支持者も多いという。本のタイトルは「わが恩師 石井光紘基が見破った官僚国家日本の闇」と書かれている。衆議院議員・石井紘基は2002年10月、右翼団体の男に刃物で襲撃され61歳で死亡した。爆弾級の国会質問を3日後に控えてのこと「暗殺説」も流れたが、犯人は「金銭トラブル」を主張した。泉房穂氏は石井紘基の最初の秘書を務め、師と仰ぎ遺志を引き継ぐべく奔走する。

石井さんの正義にはふたつの大義がありました。ひとつは不正を許さない「不正追及」の正義。もうひとつは弱者に寄り添う「弱者救済」の正義。このふたつを生涯通じて追い求めた信念の人、それが石井紘基であると今でも思っています。

死して四半世紀が過ぎようとしているが、なにが爆弾級の質問なのか、暗殺説が流れるほどの何があったのか、事件の背後にはいまも厳然と存在する社会の仕組みがある。

「特殊法人は1200社以上ある。丸投げするための子会社まで含めたらもっと多い。公益法人にしても職員51万人に対し役員49万人。これらが民間と同じビジネスを行っている。ここにメスを入れなければ、行革の意味がない!」と、官業による民業の圧迫、特殊法人と子会社の癒着、そこで起きている官僚の天下りを痛烈に批判しました。

「日本は官僚社会主義国家」と石井は喝破した。特殊法人は公共の利益または国の政策上の特殊な事業の遂行のため設立され、戦後復興のため道路、住宅、鉄道などの整備に一定の役割を果たした。1960年代からの高度成長で重工業主体の産業が推進され、民間企業が大きく成長した。この時点で特殊法人を解散し、経済を市場に委ねるべきところ、すでに政・官・財が癒着し、特殊法人は増殖を続けた。政官財のやりくちは「○○開発法」、「○○整備法」などの根拠法を後付けし、公共事業のための特別会計を増やし、行政指導の権限と規制を拡大していく。金融・建設・住宅・不動産・流通・保険などの事業分野、鉄道・空港・道路などの交通運輸産業、農業・漁業・林業などの一次産業、通信・電力など、ほとんどの産業分野で市場を寡占する。特殊法人の1200社は、石井が最後に調査した2001年の数字だ。これにファミリー企業まで含めると2000社以上、役職者数は少なくとも100万人、さらに特殊法人の公益事業や委託業務で生計を立てる民間企業や地方自治体まで含めると、実質就業者数は300万人規模になり、当時の日本の就業人口の5%を占める。石井の追求はここから「特別会計」に及び国会での爆弾発言へとつながる。

2001年に発足した小泉内閣の財務大臣・塩川正十郎氏は「母屋でおかゆをすすっているときに、離れですき焼きを食べている」と特別会計を批判した。「離れ」は特別会計を指すもので、複雑で一般には理解困難な予算である。国の借金が膨大であることの危機を煽り、「財源がない..」と予算を出し渋り、消費税を止めない。国民には一般会計という借金まみれの財布を見せ、裏では潤沢な特別会計の財布を使う。塩川氏の話で初めて国の予算のカラクリを知った人も多いと思う。

一般会計は14年度81兆円です。特別会計は382兆円。これを純計いたしますと、248兆円でございます。行ったり来たりしておりますからね。それで、さらにその中から内部で移転をするだけの会計の部分があるんですね。(中略)この部分約50兆円でありますから、これを除きますと、純粋の歳出は約200兆円であります。(中略)これはアメリカの連邦政府の予算にほぼ匹敵するというか、アメリカの連邦政府の予算よりちょっと多いくらいの規模でございます。

この数字は石井が亡くなる4カ月前、2002年6月12日の衆議院財務金融委員会での質問の一部である。一般会計を表向きの予算としてカモフラージュし「特別会計」という財布を別に持っていることを指摘した。本当の国家予算は純粋な歳出として200兆円だ。これが天下りや、そのすそ野を潤す原資になる。当時のGDPは名目で約510兆円で地方政府の分を含めた一般政府全体の歳出は約240兆円になり、GDPの47%を占める。権力が市場を支配し、市場経済を破壊している証左の数字だ。日本は市場の47%を特殊法人系列による「官制経済」が支配し、これにより民業が圧迫され市場経済が正常に機能しない。官制経済を支える国民負担率は現在48.4%とされているが、石井は20年前にそれより、もっと重いことを指摘した。

国民負担率というものは、もう60%に近づいているだろうというふうに考えられます。日本の不安定な社会保障の実態というものとあわせて考えると、これは6割近い国民負担率というものは非常に異常な状態であると言わざるを得ないと思います。
※国民負担率:租税負担及び社会保障負担を合わせた義務的な公的負担の国民所得に対する比率

小店を営んでいるが、所得税、消費税、地方税を柱にその他、あまた得体の知れぬ税金があり、これに地区の区費や班費、振興会費、氏子費、消防費などの負担金が加わる。1年の3〜4カ月はこれらの負担金のための「タダ働き」といって過言ではない。このことを知人に話すと概ね同意が得られる。税を取るならせめて使い方は適正でムダのないようにと願うのは当然のことで、その見張り役が会計検査院だ。

会計検査院には強制権限がなく、「該当する事業は不当である」との「指摘」しかできないということ。省庁などは、検査院から指摘を受けても、その事業を中止したり、責任をとる義務がないのです。そして検査の対象が一般会計に限られているため、お金が特別会計のほうに流れて、特殊法人から民間のファミリー企業まで行ってしまうと、お金の流れを追えないという致命的な欠点があります。

罰金や刑罰がなければちっとも怖くないし、存在の意味はない。そのうえ財務省が会計検査院の予算や定員を査定するため、「政府に対し独立の立場」という建前さえ怪しい。ムダな公共事業は税金を原資とし、使いみちは国会での審議も議決もなく閣議で決め、個別事業の予算は省庁や特殊法人などの事業主体が決める。まさに官僚と族議員の「やりたい放題」だ。会計検査院の指摘など、飼い犬の「甘噛み」に等しい。石井は100を超える特殊法人や公益法人について発注操作、放漫経営、ファミリー企業への天下りなどを調べ上げた。同時に政治資金の調査を行うことで、特殊法人全体における国会議員の利権の縄張りが見えてきた。「国会質問で日本がひっくり返るくらい重大なことを暴く」と語っていた。その資料を国会に提出する日に襲われ、遺品のカバンから資料は消えていた。

背後の勢力を彷彿とさせる事件であった。陰謀・謀略は一般の人がやることではなく、組織だった勢力の振舞いだ。それでいて陰謀論を信じるなというのが彼らの慣用句だ。陰謀には本物の陰謀といわゆる陰謀論がある。

もし政治家が盾突くようなことがあれば、官僚がその政治家のスキャンダルをリークして、潰します。中央省庁に君臨する財務省には、各省からの情報が集まるし、直下の国税庁も動かすことができます。政治家にしてみれば、財務省に頭を下げれば出世できて、怒らせると首が飛ぶ。財務省は与党と野党の首根っこを押さえて、政権がどちらに転んでも、盤石の体制を築いています。

民主党政権では鳩山総理の故人献金、幹事長だった小沢氏の陸山会事件など、火のない所に飼い慣らしたマスコミを動員して火を放つ。脅迫にも謀略にも長け、己の立場と利権を死守する。官僚の力が強すぎる弊害を防ぐため、2001年官僚優位の行政から政治家主導へ移行するよう中央省庁の再編が行われた。大蔵省は財務省へと名称を変えたが、さらにモンスター化する。現在、危機に駆られた人々による財務省解体運動が行われているが、「真摯に受け止め、本日モ反省ノ色ナシ」。政権交代はあった方が良いと思うが、与野党の首根っを押えているため、先の民主党政権のていたらくを繰り返す。選挙へ行かない有権者を責めるが、行っても無思慮な投票行動がある。選挙で本当に民主主義が成り立つのだろうか。民主党政権はマニュフェストを白昼堂々と破り消費税の増税を決め、マニュフェストのすべてが崩壊した。そのA級戦犯が、鵺(ヌエ)のごとく立憲民主党の代表に蘇った。与党議員を減らすためには戦略的に野党へ投票すべきと考えていたが、選挙へ行かない有権者は支持政党がないために「涙の棄権」をするのかも知れず、「涙の白票」もあるだろう。選挙に行かないのは怠慢ばかりか、苦渋の選択もある。

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