【今月のコラム】


【つわぶき】

日本が売られる 堤 未果 幻冬舎新書   

2018年師走、この年の世相を表す漢字に「災」が選ばれた。北海道や大阪の地震や西日本豪雨や台風等が理由とされた。報道があるや否やネットで「理由の一番が抜けている」との論調が流れた。安倍政府の閣僚、官僚一味のウソとデタラメが国に最大の「災」をもたらしている。入管法、水道法、農水産業の存立に関わる漁業法、種子法など、年末の臨時国会であわただしく強行採決された。これらすべてが「国をたたき売る」もので「災」と言わずしてなんと言おう。ゴーン氏の私生活を暴くような報道に隠され成立してしまった後で、「なんぞや?」と思った人が多数であろう。とりわけ「水」は光や空気、食とともに命を繋ぐ必須のもので、災いの度は極めて深刻だ。

水道事業を「民営化」しやすくする水道法改正案が4日、参院厚生労働委員会で与党などの賛成多数で可決され、週内にも成立する見通しとなった。(中略)争点の民営化の手法は、「コンセッション方式」と呼ばれ、自治体が施設や設備の所有権を持ったまま運営権を長期間、民間に売却できる制度。改正案では、導入を促すため、自治体が水道事業の認可を手放さずに導入できるようにする。海外では水道の民営化が広がる一方、水道料金の高騰や水質が悪化する問題が相次ぎ、近年は公営に戻す動きが加速している。(12/4:朝日新聞デジタル)

問題が起これば再公営化できるなど嘘だ。12/30にTPPが発効され、そこに盛り込まれたラチェット条項では「一度民営化されたものは再公営化に戻してはならない」ことになっている。

今私たちは、トランプや金正恩などのわかりやすい敵に目を奪われて、すぐ近くで息を潜めながら、大切なものを奪っていく別のものの存在を、見落としているのではないか。

本書の扉に「ドナドナ」の訳詞が掲げられていた。子牛が荷馬車に揺られ、市場へ売られていく歌である。本は3章からなり、「日本人の資産が売られる」、「日本人の未来が売られる」、「売られたものは取り返せ」で結ばれる。国土交通省が発表している水道水が飲める地域は、アジアでは日本とアラブ首長国連邦のみ、その他はドイツなど15か国だ。日本は水道普及率97.9%で「水と安全はタダ」といわれるほど金持ちも貧乏も関係なく蛇口をひねれば清浄な水が24時間出てくる。しかし昨夏の豪雨災害では20万戸以上が断水し、土砂やトイレが流せない、風呂に入れない等の過酷な二次災害に襲われ、水が飲めず熱中症で死亡する人も出た。「水がなければ生きられない」、命のインフラ「水道」は同時に巨大な金塊であり、ビジネスにすると驚異の利益を産み出す。「20世紀は石油を奪い合う戦争だったが、21世紀は水をめぐる戦争になるだろう」

水は21世紀の超優良投資商品となり、公営から民営になったとたん「値札のついた商品」になる。運営権を手に入れた民間企業がまずやることは料金の改定だ。世界の事例をみると民営化後の水道料金はボリビアが2年で35%、南アフリカが4年で140%、オーストラリアが4年で200%、フランスは24年で300%上昇している。民営化で米資本のベクテル社に運営を委託したボリビアでは採算の取れない貧困地区の水道工事は一切行われず、住民が井戸を掘ると「水源が一緒だから勝手に盗るな」とべクテル社が井戸使用料を請求する。水を求めて公園に行くと、ベクテル社が先回りし水飲み場の蛇口を使用禁止にする。バケツに汲んだ雨水にまで1杯ごとに数セントを徴収した。

株式会社の最大の役目は、株主に投資した分の見返りを手渡すことだ。与えられた使命を全力でこなすベクテル社に対する株主たちの信頼は厚い。追いつめられ汚れた川の水を飲んだ住民が感染症でバタバタ死亡する間も、運営権を持つベクテル社の役員や株主への報酬は、止まることなく確実に支払われていた。

多国間開発銀行は財源不足の水道を抱える国に対し、まず公共水道事業の一部を民間企業に委託させ、それから水道の所有権や運営権を企業に売却できるように法改正させる。水道だけではない、「民営化こそが解決策だ」とのキャンペーンを展開し医療、農業、教育などの民営化を世界各地へ広げる。水道法が可決されてわずか5日後に早速懸念される事態が報道された。

雫石町長山岩手山の住宅やペンションなど35軒に水道を供給するイーテックジャパン(仙台市青葉区)が、住民に新たな料金負担をしなければ水を供給しないと通知し、地域が混乱している。同社は経営悪化を理由に、井戸水をくみ上げるポンプの電気料金負担を住民に求める。生活に不可欠な水の危機に住民は困惑。国会では自治体の民間委託を可能にする改正水道法が成立したが、民間業者の対応が波紋を広げる。(2018.12.09:岩手日報社)

民営化を拒否する自治体もあるが、民営化を進める大阪市では二度に渡って市議会で否決された。それなら国政が後押ししようと、竹中平蔵氏や麻生太郎副総理の主導で法改正がどんどん進められた。2018年5月、企業に公共下水道の運営権を持たせるPFI法を促進する法律が可決する。自治体が水道を民営化しやすいよう、企業に運営権を売った自治体は、地方債の元本一括繰り上げ返済の際、利息が最大全額免除されるようにした。日本の自治体はどこも財政難で借金返済軽減というニンジンをぶら下げられると簡単に食いつく。水道料金は電気料金と同じく「原価総括方式」で、かかった経費をすべて水道料金に上乗せが可能だ。加えて水道はその地域を一社が独占できるため設備投資、維持費などあれこれ理由をつけて値上げされると、なすすべがない。驚くことに、「上下水道や公共施設の運営権を民間に売る際は、地方議会の承認不要」という特例も法律に盛り込まれた。

国政が水道民営化を後押しするこの法案の可決から1カ月後の2018年6月、大阪市は市内全域の水道メーター検針・計量審査と水道料金徴収業務を、仏ヴェオリア社の日本法人に委託した。宮城県も2020年から、県内の上下水道運営権を民間企業に渡す方針だ。静岡県浜松市は、2017年に国内初の下水道長期運営権を仏ヴェオリア社に売却し、20年の契約を結んでいる。熊本県合志市、栃木県小山市も後に続いた。今後この動きは、全国でスピーディに広がってゆくだろう。

マスコミは水道を巡る様々な法案が可決されるまで沈黙し、仕上げ法案の可決後に重い口を少し開き、語り始めた。水道料金回収率99.9%の日本の水道事業は30兆円の価値を持つ「日本の資産」だ。土が売られる、タネが売られる、ミツバチの命が売られる、食の選択肢が売られる、牛乳が売られる、農地が売られる、森が売られる、海が売られる、築地が売られる、労働者が売られる、日本人の仕事が売られる、ブラック企業対策が売られる、ギャンブルが売られる、学校が売られる、医療が売られる、老後が売られる、個人情報が売られる、すべて「そんなバカな!」と悲鳴をあげるような日本のたたき売りだ。売られていく日本の資産は山ほどあり、政治家や官僚、周辺に群れるシロアリはいかほどの余沢にあずかるのか。目先の利益でたたき売れば、やがて自分にも「災」が及ぶという想像力がない。

いまの内閣が粗暴で幼稚であったがために露見したが、遡れば戦後政治の本質ではなかったのか、地方議員に至るまで長いものに巻かれ、お仲間と目先の利益で国を売って利益を得る。こういった政治家を議会へ送り込むのは国民であり、「災」のもう一つは国民の政治に対する無気力と無関心にある。国民やマスコミの応援で今年予定される選挙も勝ち抜き、国がなくなるまで居座るつもりだ。

 

 
 

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