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財務省の秘密警察 大村大次郎 かや書房 |
ゆく年、くる年、一年の計は元旦にあり。商いには年末の計が欠かせず、新年を迎えると遠からずして確定申告が待ち受ける。包み隠さずに適正な帳簿を準備しても、なにやら憂鬱だ。著者はペンネームで元国税局調査官という以外の情報を明かさぬまま、税金関連の本を多数発表している。副題〜安倍首相が最も恐れた日本の闇〜。「森羅万象すべて担当..」と豪語した安倍氏が恐れた闇があるとは恐れ入る。忖度名人のテレビや新聞は報道しないが、今年は財務省解体デモが盛んにおこなわれた。物価上昇と生活苦が契機となり、国民の怒りに火が点いた。物価上昇を招いた原因はアベノミクスにもあるが、その張本人がなぜ財務省を恐れたのか。
日本の政治は建前は国会議員や内閣が行うことになっているが、政治家は細かい数字が分からず実務に疎いため、財務省が実質的に予算を仕切る。予算は国の運営に不可欠で、そのための税金を徴収する国税庁の幹部は財務官僚が占める。他にも金融庁、日銀、公正取引委員会、総理秘書官、官房副長官補、重要閣僚の秘書官など重要なポストも同様だ。一つの省庁にこれほど権力が集中するのは世界でも珍しく、独裁国家を例外とすれば日本しかない。さらに国際機関のOECD(経済協力開発機構)とIMF(国際通貨基金)も財務省官僚が占める。法律で権力を付与しているわけではなく、逆に法律は一つの省庁が他の省庁を支配も干渉も許さないよう規定している。権力の暴走から国民を守るため憲法があり、国家権力が一つに集中しないようにいくつもの省庁に分散させた。しかし、予算を仕切る財務省は力関係を背景に出向などの名目で職員を各省庁へ送り、幹部ポストを独占していく。次第に肥大化し日本の官庁を実質支配するまでになった。権力を持てば、持てるものを手放したくないのが人情であり執念だ。
「お金を持っているからこそ周りの奴らは言うことを聞く」という卑しい信条で動く。口惜しいが、それは本当だ。消費税は財務官僚にとって安定した財源で、いわば糧食でもある。財務省は電通を使い、「消費税は必要だ..」と喧伝してきたが、粗雑で世界的に最悪の税金だ。ダイヤモンドにもトイレットぺーパーにも同じ税率を課し、低所得者や零細企業への思いやりは全くない。国民を網羅して集めた消費税は大企業の減税や還付金になり、内部保留した金に官僚たちが群がるの構図だ。金に群がる餓鬼にしか見えないが、「有能なオレにはあたりまえだ」。
財務省事務次官、国税庁長官経験者らは生涯で8〜10億円を稼ぐという。彼らの本懐は国家公務員にあらず、退職後の燦然たる報酬にある。モラトリアム期間中にやるべきことは自由に使える金をかき集め、安全な場所に保管し、死守する。これを脅かすものは徹底的に排除し潰す。財務省のすそ野は広く肥大し、潰す手段や仕置人は多岐にわたる。著者はこれらを総称して財務省秘密警察という。本物の警察や検察、裁判も動かすことができる。象徴的な事件が衆議院議員・小沢一郎氏を巻き込んだ陸山会事件だ。民主党政権で消費税を10%に引き上げた元野田総理は選挙演説で財務省や官僚を「シロアリ」呼ばわりし、増税を固く否定したが、そのシロアリの軍門に下り政権まで奪われた。よほどヤバイ弱みを握られたのでは?との噂がささやかれた。安倍政権でも「モリ・カケ・サクラ」と呼ばれた醜聞は財務省が仕掛けた政権コントロールだという。
国税庁は税務調査権を武器に、全国民を監視する「秘密警察」の役割を担い財務官僚が指揮する。警察の取り調べは犯罪の疑いのある人に任意でおこない、国民は拒否する権利もある。しかし、国税調査官は税金について誰にでも質問する権利を有し、問われた者は真実の回答をするように定められ、国民に拒否権、黙秘権は認められないため、「最強の捜査機関」といわれる。
国税庁は所得税、法人税、消費税を徴収し、全国に11カ所ある国税局は、524の税務署を指導し税務行政に関する方針を決める。地方税は所得税を基に自治体が徴収する。いわゆる「税務調査」のほとんどは税務署が行うが、一定規模以上の業者や悪質で巨額な税逃れのある業者は国税庁が調査する。全国で5万人いる職員が日々税務調査に勤しみ、彼らの権力行使の範囲はすこぶる広く、冤罪を生むことさえある。たとえば「調査に入った」と新聞・テレビが騒ぐだけで大きなダメージを受け、社会的に抹殺されることもある。税務調査官の権限は脱税していなくても、抜き打ち調査や銀行・企業からの情報収集、違法な手段での調査が許される。「疑い」の段階で尾行や潜入捜査をおこなうため身に覚えがなくても油断ならない。しかし、政治家は例外で税務調査を行ったり脱税で摘発しないという。
自民党の裏金事件は一般人であれば脱税ということになるが、国税庁は動かなかった。しかし、マスコミを使って騒ぎ立て政治家に大きなダメージを与えた。権力を持つ政治家を怒らせるような税務調査はしないが、勢いの落ちた政治家やその秘書などを、見せしめの税務調査で国税庁の権威を誇示する。お互いに「ほどほどに..」という暗黙の了解があるのか、安部氏が総理在任中そして辞職後も逮捕はおろか事情聴収さえ免れたのは秘密警察をも凌駕する権力を掌握していたのだろう。安部夫人が大麻畑でほほ笑む写真が知られている。この事件について民主党の宮崎岳志議員が国会質問をしたが、国は「お答えすることは困難」と逃げた。一般人が一片の大麻でも所持すれば逮捕され刑務所行だ。芸能人やスポーツ選手に至っては仕事も信用も失い、人生が終わる。権力を持つものは警察も手が出せず、やりたい放題で放埓だ。羨ましくもあるが政治家になるのは困難でその中から選ばれる総理大臣は宝くじに当たるより難しい。国を動かすキャリア官僚は国家公務員の1%ほどだという。そのトップに君臨するのが財務官僚800人ほどになる。世襲でなれる政治家や大臣以上に困難な職業だ。自らを「選民」と勘違いするにふさわしい。 先にも述べたように彼らは退職後に始まる甘い生活のために大企業の手足となり貢献する。そのための消費税はどのようなカラクリで大企業が吸い盗るのか。日本の消費税は輸入品には課税されるが、輸出品には課税されず、さらに日本の輸出企業は国内で仕入れるとき支払った消費税を輸出時に還付される。その分が現在も将来も天下りする高級官僚の給料になる。消費税は社会保障の為というのは嘘で、実際は消費税が増税された分、法人税は下がる。消費税は官僚制度を維持するため欠くべからざる原資だ。財務省は国民の生活を見捨て、なりふり構わず消費税を死守する。
企業献金を貰う自民党と天下りで報酬を得る官僚は、この点でほぼ同衾の仲にある。法人税とは「儲かっている企業」に対し「儲かっている部分」に課せられる税金だ。おかげで2023年度末、日本企業は内部留保(利益剰余金)を約600兆9,857億円も貯めこんだ。一方消費税は子どもから大人まで国民全体が負担する税金である。「消費税を上げて法人税を下げろ」ということは「儲かっている企業の税金を国民が負担せよ」ということだ。 これを非難し叫ぶだけでは何も解決しない。作家は本が売れ、野党政治家は批判票を得るかもしれないが、長きにわたり築き上げた牙城が簡単に崩壊するだろうか。力のある政治家が改革を目指すと秘密警察を動員し、マスコミが騒ぎ闇に葬るか力を削ぐ。こんな国に居たくないと思っても理想郷はほぼない。身の安全が守られるだけマシなのかもしれない。物価高で苦渋を味わう国民をよそに彼らはいつまで栄華を極めるのか。 |