【嗜好品とカフェイン(1)】


栄西禅師の「喫茶養生記」には「茶は養生の仙薬なり、延命の妙術なり」と書かれ、お茶さえ飲んでおけば、長生きも健康も間違いなし、かのような期待を抱く。これはお茶の業界にとって仕事を支える原典ともいえる。お茶のパンフレットやwebページでも「仙薬」の文字を頻繁にみかけるが、ここからお茶などの嗜好品について考えてみたい。仙薬とは、「飲むと不老不死の仙人になるという薬」、「非常によく効く薬、霊薬」という意味である。長い歴史の中で用いられてきた嗜好飲料だけに、茶に対する思いや信頼には絶大なものがある。しかし、薬であるからには正負の両面を備え、有益に働くと同時に負の働きも併せ持つ。私たちは普段、負の作用には無頓着で業界からそれを改めて言うことはない。薬に限らない、食物なども人に完全無欠というものはなく、ときには命を脅かすような選択もなくはないが、どこかに不都合を抱えながら利点を取っている。正負の情報が同時に提示されると葛藤は避けられない。歴史あるものについては文化との兼ね合いもあり、科学だけで論ずることはできないが、軽視するわけにもいかない。

茶の利点を語るとき、まずは文化的背景として古典の記述は欠かせない。次に科学的根拠として渋味成分であるカテキンと旨味成分であるテアニンで説明される事が多い。茶の利点ばかりが強調され、そのまま広告・宣伝になるため、負の面は殆ど知る事もなく嗜好品として利用されているのが現状である。wikipediaの「嗜好品」についての記事は以下のようなものだ。

嗜好品(しこうひん)とは、風味や味、摂取時の心身の高揚感などを楽しむため、および向精神作用を体験するために使用される物質のことである。ほとんどの場合、心理的あるいは薬理学的な機序により習慣性を有し、物質嗜癖の対象となりうる。この概念は日本で生まれたものである。嗜好品は、薬理学的依存形成作用の有無で二つに分けられる。すなわち、炭酸飲料や菓子のように向精神作用はないが味や香りなどによって心理的に習慣性を形成するものと、コーヒーや茶、アルコール、タバコなどのように薬理学的な依存性を有するものである。

栄養学的な利点より精神的な利点を有するのが、嗜好品の特徴ということになる。高濃度のカテキンやテアニンを動物に与えて薬理作用を検証したところで、すぐさま人に敷衍できるものではない。疫学的に効用を見出す場合でも、茶と他の要因(食事やライフスタイルなど..)との相互関係まで検証するのは困難を極める。古典の中には茶の正・負の性質が記述されているものもある。本草綱目では「少々元気があって胃の健康な人にとっては、酒食の毒を解し、爽して昏せず眠らざらしめる効果が期待できるが、虚寒で血の弱い人は、長期の服用により脾胃が悪寒し元気を損なう。特に中年以上の女性には害を受けやすい」また、別の書物では「熱服かつ少服すべきで、冷服すると痰を集め蓄飲し、また過量に飲用すると、不眠・動悸・悪心・めまい・耳鳴・膀胱の冷痛を引き起こし、早朝に飲むと腎気を損傷する」と書かれている。これに目を通した人であれば、「お茶を1日10杯飲めばガンにかからない」、「養生の仙薬だからどんどん飲みなさい」などとは絶対にいえない。お茶についての情報の殆どは、業界の宣伝に等しいものだ。

お茶と同じく、あるいはお茶以上に嗜まれるものがコーヒーであり、これらに共通する化学物質がカフェインである。カフェインはテオフィリンやテオブロミンとともにメチルキサンチンに類に分類され、化学構造も類似し、強度の差こそあれ薬理作用もほとんど同じ特徴を持っている。メチルキサンチン類を含む植物は28属、17科以上にもなるが、嗜好品として利用されるのはコーヒー、茶、カカオである。カフェインは最初、コーヒー(Cofee)から単離されたためカフェイン(Caffeine)と名付けられた。茶は加工法によって不発酵茶(緑茶)、半発酵茶(ウーロン茶)、発酵茶(紅茶)などに分類される。これらはカフェインを含有し渋味や苦味を演出している。カカオはTheobroma cocaと言いテオブロミンを含有し、ココアやチョコレートとして利用されている。このほかコーラやガラナなどにもカフェインやテオブロミンが含まれる。

私たちは一体どれくらいカフェインを摂取しているのだろう。カップ1杯のカフェイン量は種類や分量、抽出法(水の量・温度・時間..)などの条件があるため正確に知ることは難しいが、緑茶10gの一番茶で100mgが抽出される。栄養ドリンクが1本で50mg、眠気防止薬が1回分100〜200mg配合され、カフェイン中毒が起るとされる極量が1回500mgである。このことを記憶に置いて、飲食物などのカフェイン量を調べてみると以下のような値になる。

レギュラーコーヒー(約150ml)
   ドリップ:115mg
   パーコレート:80mg
   インスタント:65mg

紅茶(約150ml)
   ドリップ:50mg
   ティーパッグ:30mg

コカ・コーラ(約350ml):45.6mg
ペプシコーラ(約350ml):38.4mg
ダイエットコーク(約350ml):45.6mg

ココア(約150ml)にカフェインとテオブロミンが約50mg。板チョコ(約50g)にカフェインとテオブロミンが約60mg。他に、一般用医薬品のドリンク剤、解熱鎮痛薬、総合感冒薬、鎮咳薬、乗物酔防止薬、鼻炎薬など何百種類もの製品に1回分20〜50mgのカフェインが配合されている。たとえば、チョコレートを食べながら、立て続けにコーヒーを3杯以上飲む、同じ時間帯に鎮痛薬を服用した。こんな事が重なれば、たちまち極量を超え、カフェインの悪しき副作用に見舞われることになる。1日10杯のお茶でガンのリスクがいくらか減ったとしても、カフェインによって血圧は上がり、不眠・イライラなどが生じると、総体的リスクは上昇し、マイナスになる恐れが十分にある。多くの大人は、小児や子供にお茶やコーヒーが良くないことを知っているが、ココアやチョコレートまで考えが及んでいるだろうか。子供の脳は、知性・理性・創造・推理など高次の精神活動の中枢である前頭葉前野が猛烈なスピードで発達している。テオブロミンの薬理作用はカフェイン同様、脳に影響を及ぼし発達を阻害する薬物である。また、妊婦についても胎児への影響を考えると避けるべき飲食物である。以前、子供が「切れる」のはペットボトル症候群と言われ話題になったが、カフェインこそ恐れるに足る根拠がある。ここは、ひとつ不安を煽っておきたい。

経口摂取されたカフェイン類の一部は胃粘膜から吸収されるが、大部分は小腸粘膜から吸収される。効果発現は空腹時が早く、冷たいものより温かいものが吸収が早い。冷たいものは最高血中濃度に達するのが1〜2時間後になる。また、胃に内容物があったり、内容物に油脂や糖分など含めば腸への移行は遅れる。ラットの実験ではカフェインの経口投与後、5分以内でほぼ全身の組織で検出された。血液-脳関門を容易に通過し、中枢作用を発揮する。また血液-胎盤関門も通過するため妊婦がカフェイン類を摂取すると胎児にも容易に影響が及ぶ。血中カフェイン濃度は健康な成人の場合、2.5〜4.5時間で約50%が代謝され尿中へ排泄され、摂取後16〜20時間で約95%が体内から消失する。表現を変えるなら、これくらいの時間影響が及ぶといえよう。肝機能などに障害があれば、カフェイン代謝は著しく遅れ半減期も延長される。アルコール依存症の肝硬変患者で半減期が96時間もあった例が報告されている。また、肝臓の代謝酵素の活性を阻害するニューロキノン系の抗菌剤や胃潰瘍のH2ブロッカーなど服用中であれば、カフェインの代謝が遅延し、コーヒーやお茶を飲むことで神経過敏・不安・焦燥感・不眠などを引き起こすことがある。健康であっても妊娠中は胎児の排泄物の代謝に肝臓が酷使されるし、胎児も肝臓の代謝機能が未熟なため妊婦はカフェインを制限するのが望ましい。出産後もカフェインは乳汁中に排出され、その濃度は母体より10〜20%高い。カフェインの代謝・排泄機能が低い乳児への影響は避けられない。母親はコーヒー、茶、栄養ドリンク、医薬品、チョコレート、ココアなどの摂取は慎重に行うべきである。

カフェイン、テオブロミン系の薬理作用を見てみると、程度の差はあるが平滑筋の弛緩による血管拡張や気管支拡張作用、強心作用による利尿や骨格筋緊張作用、中枢刺激作用などがある。特に強心作用は顕著で、心機能が亢進するとともに血管平滑筋への弛緩作用が加わり、ほとんどの臓器で血流量が増加し、尿量に反映する。コーヒーやお茶の摂取後、トイレが近くなるのはこのためである。中枢作用については脳幹や大脳新皮質・辺縁系を刺激し思考や活動の上昇を促すため、一杯のお茶やコーヒーで眠気を解消したり、逆に就寝時に眠れなくなったりする。大脳皮質の運動野を刺激すると骨格筋が緊張し疲労への抵抗や運動能力が増大する。さらに大量を摂取すると胃への直接的な作用と脳幹の刺激によって悪心・嘔吐を引き起こす。

嗜好品とは、風味や味、摂取時の心身の高揚感などを楽しんだり向精神作用を体験するために使用される物質のことである。カフェインは大脳新皮質や辺縁系への刺激によって、気分の高揚をひきおこす。100〜200mg(コーヒー1〜2杯)のカフェインで集中力は高まり維持され、眠気は消失し、疲労感は減少する。ところがカフェイン摂取量が300mgを超えると、落ち着きの低下や不穏感を自覚するようになる。これは普遍的に起るわけではなく、性格や体質など個人を取り巻く状況によって著しい変動がある。薬物やヒトの生理作用を車に例えればブレーキとアクセルを同時に踏んで、相互に加減しながら走るようなものだ。減速はブレーキを強く踏むかアクセルを緩め、加速はブレーキを緩めるかアクセルを踏み込む。一杯のコーヒーやお茶が眠気を覚ますこともあれば、軽度の緊張状態にあれば精神安定をもたらすことがある。コーヒーやお茶を飲まなければ眠れなかった人も、年齢や状況によって逆に不眠の原因となることがある。一般にカフェインの興奮作用は外向的な人は午前中に、内向的な人は午後から夕方にかけて強く発現しやすいという。カフェインのみならず、精神作用を持つ薬物は、気分が低レベル状態にあるときは賦活効果があり、高レベル状態では抑制効果が発揮されやすい。

睡眠への影響を検討する二重盲検試験で、150〜200mgのカフェイン錠とプラシーボ錠を就寝1時間前に投与した。1日2杯以下の軽度コーヒー摂取者では74名中31名(42%)に入眠時の延長が見られ、1日5杯以上の重度コーヒー摂取者では28名中8名(29%)であった。この結果から、カフェインは睡眠障害を引き起こすがその効果については軽度の耐性を示すことが考えられる。入眠時間の延長は睡眠時間の短縮につながり、完全入眠までの平均時間はプラシーボ投与群で18分だったのに対し、カフェイン投与群では66分に延長した。重度コーヒー摂取者は慢性的に睡眠時間が不足気味になり、それに伴う気力低下や疲労感を解消するためさらにコーヒー摂取量を増やすという悪循環に陥っている可能性がある。また、睡眠時間だけでなく睡眠の質にも影響を及ぼすことが判明している。睡眠にはREM(Rapid Eye Moving)とnonREM(non Rapid Eye Moving)があり、REM睡眠の時は眼球が急速に動き、脳は覚醒傾向にあり夢を見ることが多いが、骨格筋は弛緩し休息状態にある。nonREM睡眠では急速な眼球運動は見られず脳は休息状態であるが、骨格筋は緊張している。nonREM睡眠とREM睡眠が交互に現れ、健康成人では6〜9時間の睡眠中に約90分周期で数回繰り返される。睡眠前半ではnonREM睡眠が深くて長いが、睡眠後半にはnonREM睡眠が浅くなり、REM睡眠が延長してくる。睡眠前半に深いnonREM睡眠が十分あり、総睡眠時間の15〜20%がREM睡眠で占められることが快適な睡眠の必要条件で、REM睡眠の途中で自然に目覚めると睡眠の満足度が高く、日中の気分も壮快になる。健康成人7人に就寝直前にカフェイン175mgを投与した実験では、総REM睡眠の時間にはほとんど変化がなかったが、5人が深いnonREM睡眠の減少を示した。カフェインが300mgになると、深いnonREM睡眠の減少だけでなく、REM睡眠も減少し、特に睡眠後半のREM睡眠の減少が顕著であった。カフェインの摂取で、うつらうつらした浅い睡眠の状態が一晩中続いたことになる。就寝前にコーヒーやお茶を飲まないと眠れないという人も居るが、本人の自覚の有無に関わらずカフェインによる睡眠時間の短縮と質の低下は確実に起っている。高齢者は一般にお茶を嗜む人が多く、同じく不眠や睡眠障害を訴える人も多い。先に小児や妊婦のカフェイン摂取について触れたが、高齢者は生理機能の全般的な低下で睡眠障害が起り易く、肝や腎機能の老化でカフェインの代謝・排泄能力も低い。カフェインが中枢を刺激し不眠を起こしたり、強心・利尿作用で尿量が増加することなど考えると、夕方以降のお茶やコーヒーは避けるほうが賢明であろう。

コーヒーやお茶の業界はカフェインが「眠気を覚まし、疲れをとり作業能率を向上させる」と利点だけを流布するが、夕方以降のカフェインは不眠や起床時の不満足感をもたらすし、作業能率向上についても必ずしも利点ばかりではない。単純作業においては作業後半の能率は改善するが、実は向上するのではなく興奮によって疲労をまぎらわすに他ならない。逆に複雑な思考を要する作業では、本人の思いと裏腹に思考のまとまりは欠け誤りは増加し、返って作業能率は低下する。コーヒーやお茶の効用や利点はそっくりそのまま短所にもなるのだ。まさにものは言いようである。

いままでコーヒーやお茶を例にあげたが、本質はカフェインやテオブロミンにあるわけで、程度の差こそあれ紅茶、烏龍茶、栄養ドリンク、医薬品、チョコレート、ココアなどにも通じる話である。苦いコーヒーや渋いお茶、チョコレートは甘いが砂糖によるもので、実は苦い。人はこれらをなぜ飲みかつ食べるのか?しかも、量に到っては私の知る限り、1日10杯も20杯も飲用する人が居る。最初にコーヒーを飲んだとき、苦いばかりで美味とは程遠いものであった。砂糖やミルクを入れ、やがてブラックで飲むようになるとその量も増えてくる。これらに含まれるカフェインやテオブロミンは脳に働き快感を引き起こすため、依存性を持っている。覚醒剤、麻薬、コカインなどの薬物やアルコール、ニコチンなどの嗜好品と共通するものだ。ただし、耽溺性や心身を破滅させるほどの危険は少ないため、嗜好品として生活の中に受け入れられてきた。カフェイン中毒を引き起こすとされる1回量は500mgである。立て続けに5杯のコーヒーを飲もうものならこの量は容易に超えるだろう。もし肝疾患やその他の疾患、体質、年齢などの条件が重なれば、中毒の出現が懸念される。カフェインの急性中毒は中枢神経と循環器を介して出現する。不眠、不穏、興奮、嘔吐、骨格筋の緊張や振戦、頻脈や期外収縮が起こり、呼吸は激しくなり、さらに大量では痙攣が起こり、呼吸麻痺で死亡する。慢性中毒については健常人での出現は稀であるが、肝臓や心臓疾患などがあればリスクが高まる。また胃液の分泌を促すので胃潰瘍や胃炎の発現率は高くなる。一杯のコーヒーやお茶でも不眠、不安などの薬理作用を示すため、いわゆる「心の病」についてはとりわけ摂取に注意を払うべきであろう。

毎日5杯以上飲んでいる人は、中止すると数時間後からイライラ・眠気・抑うつ・頭痛などの離脱症状が現れることがあり、毎日5〜10杯のコーヒーを飲み続けるとカフェイニズムと呼ばれる耳鳴り、閃光などの感覚障害、譫妄、痙攣などの症状が現れることがある。パニック障害の経験者にコーヒー5杯分のカフェインを与えると約半数の人でパニック発作が誘発され、経験のない人でもコーヒー7〜8杯分のカフェインを与えると14人中2名にパニック発作が誘発された。カフェインはパニック障害に高感度で反応し、健康な人でも誘発因子になるため精神状態が不安定であれば、コーヒーやお茶などの摂取を控えるのが賢明である。繰り返しになるが、他にも紅茶・緑茶・烏龍茶・プーアル茶・コーラ飲料・ソフトドリンク・強壮ドリンク剤・カフェイン配合の医薬品である解熱鎮痛薬・かぜ薬・総合感冒薬・鎮咳去痰薬やテオブロミン系のココアやチョコレートなど注意がいる。

カフェインは依存性を持ち、それが嗜好品たる大きな要素であろう。このほか茶やコーヒーにはカテキンやアミノ酸、ポリフェノール類などの成分を含有し、抗癌・抗菌・高脂血症・動脈硬化予防などの有用性の宣伝や研究が発表される。人々が茶やコーヒーを飲む理由の一つにこれらの効果を期待しての話がしばしば見受けられる。お茶を1日10杯飲むことを勧める研究者や業界は、カフェインの害を一言も語らない。偏った情報で浴びるように飲むことへの注意はいままで話したとうりである。茶は文化として定着し、多種の道具や芸術を生み、道を極めるまでになった。茶やコーヒーの利害を語るとき個人の生活の背景とともに文化も大きな検討課題であるが、それは以下の注意を留意したうえでのことだ。少量のカフェインでも摂取すべきではない疾患や時期があり、健常者でも摂取しないほうが好ましい時と量がある。それを除けばカフェインで著しい被害をこうむることはない。薬のように両刃の剣であり、利害の両面を知ることで「養生の仙薬」ともなりうるだろう。

【参考図書】カフェインの科学 栗原 久 学会出版センター

>>嗜好品とカフェイン(2)

 

【追記.1】カフェイン摂取について小児や妊婦はリスクが高いことを書いた。最近の研究でこれを裏付ける報告があった。2008年11月3日、英Leicester大学Justin C Konje氏らによる大規模な前向き研究によると、1日にコーヒー2杯程度(カフェイン含有量:約200mg)であっても、カフェイン摂取と胎児の発育遅延リスクの関係が有意になることが判った。

カフェインと煙草、酒などの競合するリスクを勘案して厳密な研究計画が立てられ、英国の2病院の産科で2003年9月〜2006年6月まで妊娠8〜12週の低リスク妊婦2635人について調査された。カフェイン摂取量の平均は妊娠前238mg/日、妊娠期間全体が159mg/日で、カフェイン摂取源としては、紅茶62%、コーヒー14%、コーラ12%、チョコレート8%、ソフトドリンク2%..などである。この結果、2635人の妊婦が出産した2635人の新生児のうち、発育遅延は343人(13%)だった。カフェイン摂取量100mg/日未満のグループに比べ、200mg/日以上摂取したグループでは、産児の体重が60〜70g少なかった。また、妊娠前のカフェイン摂取量が300mg/日以上だった妊婦で、妊娠5〜12週に50mg/日に摂取量を減らした妊婦109人と、300mg/日以上の摂取を続けた妊婦193人の産児の体重差は161gであった。喫煙と飲酒などを考慮し調整しても妊婦のカフェイン摂取は、胎児の発育遅延リスクの上昇と関係しており、この現象は妊娠全期間を通じて見られた。

摂取量の閾値は明確ではないが、100mg/日未満ではリスクは低いと考えられる。カフェインは胎盤を通過するので、英米では妊婦のカフェイン摂取量は300mg/日以下にすることを提言しているが、今回の研究ではそれより少ない摂取量でもリスクが高まる結果となった。母乳からもカフェインの影響が及ぶと考えられるので、妊娠、出産、育児の全期間を通してカフェインの摂取は可能なかぎり控えるべきである。

【追記.2】1日4杯超コーヒー飲む人は早死にする?という米国の研究が報告された。コーヒーが健康に及ぼす影響についてはさまざまな説があるが、米国の医学者らがこのほど、55歳未満の年齢層でコーヒーを大量に飲み続ける人は死亡率が高いとの研究結果を発表した。米ルイジアナ州ニューオーリンズの心臓専門医、カール・ラビー博士らが専門誌「メイヨー・クリニック紀要」に報告したところによると、同博士らは20〜87歳の男女4万人を16年間にわたって追跡調査した。その結果、55歳未満でコーヒーを1週間に28杯(1日平均4杯)より多く飲むグループは、飲まないグループに比べて死亡率が男性で56%高く、女性では2倍に上ることが分かったという。カップ1杯は8オンス(約240ミリリットル)。適量の場合や55歳以上の年齢層では有意な差はみられない。また、循環器系の病気による死亡率には、コーヒーとの関連がみられなかったという。ラビー博士らによれば、こうした数字から「コーヒーが早死にを招く」と結論付けることはできない。「強いストレスを抱えた人がコーヒーを毎日10杯も飲み続けて死亡したというような場合は、コーヒーのせいでなくストレスが原因と考えられる」と、同博士は説明する。コーヒーの効用についても、これまで多くの研究結果が報告されてきた。2007年には肝がん発症率との関係を指摘する説、09年には1日1杯ごとに糖尿病のリスクが減るとの説、さらに11年には1日6杯以上で前立腺がんの死亡率が低下するとの説が発表された。医学誌NEJMが昨年掲載した研究では、1日2杯以上飲む人は特定の病気で死亡する率が低くなるとされた。健康に良いコーヒーの量は人によって違うともいわれるが、ラビー博士は「高死亡率との関連が疑われる以上、私だったら1日4杯未満に抑える」と話している。(2013.8.24)

 

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