【嗜好品とカフェイン(2)】


  カフェインの真実 マリー・カーペンター著 黒沢令子訳
-2017.8〜9月コラムより-

「カフェイン多量摂取・急性中毒」という小さな見出しの新聞記事が目に留まる。日本中毒学会の調査によると、カフェインを多量に含む眠気防止薬やエナジードリンクなどの清涼飲料水の急性中毒で、2011年度からの5年間に少なくとも101人が救急搬送され、7人が心停止となり、うち3人が死亡した。カフェインは、一度に1g以上を摂取すると、激しい吐き気やめまいなどの中毒症状を呈し心拍数があがる。心停止に至った7人はいずれも6g以上、中には53gを摂取したケースもあった。深夜勤務の人の服用例が多く、中には自殺目的もあった。カフェイン中毒患者は2013年度から急増しており、2012年のエナジードリンク発売とほぼ同時期だ。カフェインの摂取目安は成人1日あたり0.4gでマグカップコーヒ3杯程度、これにエナジードリンクや眠気防止薬をあわせて飲んだ人もいた。「カフェイン中毒の危険性が一般の人には十分知られておらず、行政も実態を把握できていない。一度に購入できる眠気防止薬の量を制限すべきだ」と記事は結ばれていた。

医薬品として用いるカフェインの常用量は成人1回100〜300mgで1日2〜3回、一度に200〜500mg摂取すると、イライラや神経過敏、不眠、めまい、不整脈、血圧上昇などの副作用が顕著になる。普段は飲食物として摂取するが、わずか32mgのカフェインで注意力や反射能力を大幅に向上させ、多くの人はこの半分でも効果が現れる。

カフェインには、力が出る、敏捷さが増す、頭の回転が速くなる、頭が冴えるなどの効用があるが、いいこと尽くめではない。カフェインを摂ると、強い不安感やパニック発作のような不快な心理反応が起きる人もいるのだ。カフェインの影響を受けやすい遺伝的変異を持つ人にこうした反応がよく見られる。

コーヒー、緑茶、紅茶、ココア、チョコレートなどの飲食物は主たる成分としてカフェイン及びテオブロミンを含有する。カフェインはキサンチン誘導体のひとつでテオブロミン、テオフィリンなどと同じ構造を有し、作用量と中毒量の差が小さく劇薬に指定されている。嗜好品であるコーヒーやお茶の功罪両面を熟知して利用する人は少ないように思う。

どの文化でもカフェインは乱用薬物とは考えられていないが、実際には乱用薬物の条件をすべて備えている。つまり、気分を変え、身体的依存を生み出し、使用を中止すると離脱(禁断)症状を引き起こし、依存状態になる人も出る。

カフェイン文化発祥の地はメキシコ合衆国南部チアパス州のソコヌスコ地方で雨が多く蒸し暑い。近くにあるパソ・デ・ラ・アマダ遺跡から3500年以上前に作られたチョコレートの痕跡が出土している。人類がチョコレートを利用した最古の記録になり、カフェイン利用の最古の証拠でもある。大航海時代にヨーロッパへ渡り宮廷で人気を博するようになった。カカオ含有率82%のダークチョコレート1gに約1mgのカフェインが含まれるが、ミルクチョコレートなど他の成分で薄まったチョコレートバーは43gで約9mgていど。

茶の文化は数千年にわたりアジアで発達した。古代中国で神農という伝説の皇帝が湯を沸かしているとき、茶葉が風で舞い込み、その湯を飲むと元気が出た。これが茶文化の始まりとされているが、風味などの嗜好性ではなく、カフェインの興奮効果によるものだった。神農は自ら一日70もの毒に当たって薬草の効果を確かめたという。紅茶は中国の茶の木から作られていたが、1823年にインドのアッサム地方で高木になる変種のアッサムチャが発見され、インドやスリランカでこの種の栽培が盛んになった。紅茶のティーバッグを1分間浸すと17mgのカフェインが抽出され、3分間で38mg、5分間で47mgだ。

コーヒーも原始的な精力剤として生のまま、あるいは煮たり、獣脂と丸めて利用された。北アフリカに生育するただの低木だが、カフェインが含まれていることで運命が変わった。この木の実をかじった山羊が突然踊り出し、不思議に思った山羊飼いが実を食べたところ気分が高揚し歌い出したという言い伝えがある。1819年頃、劇作家ゲーテが友人のフリードリーブ・ルンゲに頼んでコーヒーからカフェインを抽出した。ドイツ語のコーヒー(Kaffee)が語源となり、英語のカフェイン(caffeine)になった。コーヒーカップ150mlには60mgのカフェインが含まれる。

ここまでは伝統的なカフェイン飲料の話だが、著者はカフェインとともに台頭するカフェイン産業の脅威を次のように吐露する。

グアテマラ中部のコーヒー農園や中国にある世界最大の合成カフェイン工場、ニュージャージー州のエナジーショット製造工場などを訪れてみて、自分がカフェインをいかに見くびっていたか、思い知らされた。カフェインが人体や脳に及ぼす影響だけでなく、カフェイン産業の範囲や規模、さらに、身勝手に振る舞う業界を取り締まろうとする規制当局が数々の難題に直面していることも、私は過小評価していたのである。

1980年代、スターバックスの登場でグルメコーヒーの市場が広がり始めた。それまでアメリカ人の多くはパーコレーターで煮詰めたコーヒーやインスタントコーヒーを飲むくらいで、淹れたてのコーヒーを味わうことが少なかった。スターバックッスはマクドナルド方式の利便性、標準化、サイズの特大化を踏襲し現代のコーヒー革命を牽引していく。いまやコーヒーは生活の多くのシーンに登場し、起床時、仕事前、会議中、休憩、食事後..と欠かせないものになった。コーヒー、茶、ココア、ガラナなど各地の文化によって違いはあるが、習慣的飲用の目的は味わいよりカフェインの摂取にある。「美味いから」ではなく、カフェインの習慣性に依ることに気づいている人は少ない。

これまでに行われた研究の結果、カフェインを摂取するための手段は重要ではなく、コーヒーだろうが、清涼飲料だろうが、同じ結果」が得られることがわかっている。お目当てがカフェインであることは明らかだ。

カフェインを添加した清涼飲料のコカ・コーラは、フレーバーとして不可欠だからと説明するが、微妙なフレーバー効果より中枢神経に作用し、気分を変え身体的依存を引き起こす効果の方が高い。カフェイン入りとプラシーボのカプセルを用意し新奇な風味のジュースで飲ませたところ、カフェイン常用の被験者はカフェイン入りカプセルの方を選んだ。カフェインはフレーバーではなく依存性強化の重要な役割を果たしている。三大習慣性物質といわれるニコチンやアルコールにも共通することだ。カフェイン入り清涼飲料の先駆けとなったコカ・コーラは伝統的なコーヒや茶などと異なり、カフェインの粉末そのものが使われる。

1905年、セントルイスにある小さな化学会社が、コカ・コーラに混ぜるカフェインの生産を始めた。この小さな会社はやがてモンサント社という世界的大企業に成長するが、その基礎を築いたのがカフェインだ。茶殻、茶葉、マテ茶などからカフェインを抽出・精製し、炭酸飲料メーカーの需要を賄った。カフェイン製造業は1945年までに米国内で4社まで増えた。1975年には清涼飲料がコーヒーを抜き去り、好まれるカフェイン飲料のトップとなり、現在に至る。米国内で1〜2を争う炭酸飲料のコークとダイエットコークには合わせて約1560トンもの粉末カフェインが使われている。

アメリカは、コカ・コーラやペプシコ、ドクターペッパー・スナップルといった炭酸飲料製造会社の需要を満たすために、年に6800トンを超える粉末カフェインを輸入している。12メートルの船舶用コンテナ300個を満たす分量だ。向精神薬がギッシリ詰まった貨物列車が3キロもつながっている様子を思い浮かべてほしい。

1950年代までの粉末カフェインはコーヒーや茶、ガラナなどから抽出する方法で生産していた。天然物からの抽出では限度があり、需要に追いつかない。そこで他の物質からカフェインを合成しようという動きが生じ、モンサント社は1957年までに合成カフェインに切り替えた。しかし次第に廉価な輸入カフェインの圧力にさらされ、20世紀末には合成カフェインを製造する会社はアメリカに一社も残らなかった。

中国の河北省・石家荘市に製薬会社が集まり、ここに世界最大のカフェイン工場がある。2011年に2000トン以上のカフェインをアメリカに輸出している。この工場の他、中国の会社2社、インドの会社1社の計4社で、アメリカで消費されるカフェインの半分以上が合成される。関連企業、顧客などを通じて、4社の工場見学の依頼をするが、ことごとく断られ、コカ・コーラ社、ペプシコ社は口を利いてもくれなかった。そこで著者は思い切って中国へ渡り、自ら工場を訪ねることにした。しかし、拒否され見学は叶わず、後に知ったが、欧州医薬品監査官さえも拒否されていた。

合成カフェインは尿素から合成するため、カフェイン工場の周辺は猫の尿のような臭気が漂うという。尿素から生成したウラシルからテオフィリンを経て、側鎖に塩化メチルを結合させるとカフェインが出来上がる。天然でも合成でも純度100%なら、薬理学的にはまったく同じカフェインだが、天然、合成を問わずカフェインは不純物を含む可能性がある。不純物には健康に良いもの、悪いもの、不明なものがあるが、合成カフェインは蛍光を発する奇妙な特性を持つ。合成カフェインを使用する製品でも蛍光を発するため亜硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、クロロホルムなどで除去する。清涼飲料メーカーは製造原料が尿素であるというイメージを払拭するため天然カフェインに拘った。しかし、次第に安価な合成カフェインに席巻されていく。

-オーシャンスプレー社・フラヴァの宣伝広告より-

「炭酸飲料やエナジードリンクの多くは工場で製造された合成カフェインを使っていますが、合成された刺激剤は依存性をもたらす可能性があり、有害です。フラヴァはお客様の身体を大切に考えています。弊社がコーヒーの生豆から抽出した天然のカフェインを使うのはこうした理由からです。天然のカフェインは脳の機能と集中力を高めます。国内の一流選手も利用しています」

2011年、天然と合成を識別する精度の高い検査による調査で、天然カフェイン使用と表示した製品38種類のうち、4種類に合成カフェインが混ぜられていた。広告では合成カフェインは依存性があり有害、というが、同じ構造の天然カフェインにも依存性がある。天然が脳の機能と集中力を高めるなら、合成も同じである。しかし映像や音楽とともに流れる広告のフレーズはメーカーの思惑どおり記憶に焼き付く。カフェインは脳の機能と集中力を高めもするが、依存性をもたらし被害もあるというのが公平なところであろう。カフェインが脳の機能や集中力を高めるのは中枢興奮とともに、疲労物質のアデノシンを神経末端で阻害し、脳に伝えにくくするためだ。幸か不幸かドーピンング薬に指定されていないので、アスリートにとって安価で恰好の薬物だ。10キロマラソンでカフェインを摂らずに40分で走るランナーは、カフェインを摂ることで72秒短縮できる。自転車競技で1時間の記録を持つ選手はカフェインを摂ることで1分半短縮できる。個人差はあるがおおむね3%程度成績が向上する。カフェインの適正な分量は体重1kgあたり3〜6mgとしているが、体重80kgの選手が1kgあたり6mg摂るならば480mgだ。この量は濃いコーヒー4杯、レッドブルなら250ml入り6本で、これ以上摂っても成績は伸びない。別の研究ではレース後半に体重1kgあたり1.5mgのカフェインでも運動能力が向上した。持久力を必要とするアスリートのほとんどがカフェインを使っているという。

約1690kmを踏破する犬ぞりレースに参加した選手A氏は、レースの3週目に48時間ぶっ通しで走り続けることにした。夕食のとき270〜330mgのカフェインを摂ったが、2時間後、激しい眠気に襲われカフェイン錠400mgを摂り、さらに20分後400mgを摂った。3時間足らずで1000mg以上のカフェインを摂取したのだ。手が震え、耳鳴りが激しくなり、付けているヘッドランプの光が細い筋のように見え、丘への長いのぼり坂が白い星をちりばめた平原のように映った。その後、めまいが起こり、続けて2回も犬ぞりから転げ落ちた。レースに出場しているのが夢か現実かわからなくなり、一人でいることに恐怖を感じた。A氏の不快な症状は6時間続き、3日後にゴールした。市販のカフェイン錠は1錠に100〜200mgのカフェインを含み、1000mgは譫妄を引き起こす十分な量である。もっと少ない量でも知覚障害や運動障害を引き起こす恐れがあり、厄介なことに常用癖(依存症)をもたらす。カフェインに対する反応は個人差が大きく、紅茶1杯さえ飲めない人もいる。カフェインに過敏な人は運動能力が向上したとしても、動悸、神経過敏などの弊害が際立ち、差し引くとマイナスになり無自覚に過剰摂取すれば危険さえ招く。

睡眠障害はカフェインの副作用としてよく知られているが、個人差がとても大きい。床に就く直前にコーヒーを飲んでも、赤子のように眠れる人もいる。一方、昼前にカフェインを摂るのをやめないと、床に就いても歯軋りをしたり、心臓がドキドキしたり、さまざまな考えが頭の中を駆け巡ったりして、なかなか寝付かれない人もいる。

カフェインは眠気を覚ますが、そのことで自然な睡眠を阻害する。睡眠不足により眠気が蓄積し悪循環に陥る。兵士やパイロット、列車やバスの運転手などカフェインを眠気対策に利用はしても、十分睡眠をとることへの関心は薄い。朝、睡眠障害で疲労感を訴える青少年にカフェインが関わっていることが分かった。子供のカフェイン消費量について228人の親を対象にアンケート調査を行った結果、子供たちが摂っているカフェイン量は5〜7歳で1日平均52mg、8〜12歳で109mgほどでカフェインの摂取量の多い子供ほど睡眠時間が短かった。健康な被験者にカフェインを投与し脳波を記録すると、朝に摂ったカフェインの影響が、その日の就寝時まで残っていた。ストレスを受けやすい人ほどカフェインによる睡眠障害を受けやすい。

睡眠障害に影響を及ぼすもう一つの要因が朝型・夜型のライフスタイルだ。50人の大学生を被験者にして、カフェインを自由に摂ってもらい、手首に付けた動作検知装置で睡眠中の記録をとると、朝型の人がカフェインによる睡眠障害を最も受けやすかった。睡眠にはレム睡眠(浅眠)とノンレム睡眠(深眠)があり、ノンレム睡眠については4段階に分けられる。ノンレム睡眠の3〜4段階が睡眠時間の20%を占め、カフェインはレム睡眠を妨げないが、身体を休ませ体力を回復させる3〜4段階のノンレム睡眠を減少させる。昼間の疲労を取るべくカフェインに頼ると睡眠が減少し、より疲労が溜まる結果になりかねない。疲労は睡眠や休養でとるのが望ましい。

不眠は辛いかも知れないが、身体に衰弱をもたらすことはめったにない。しかし、カフェインに弱い人はカフェインを摂ると強い不安感が生じ、精神に及ぼすカフェインの副作用が不眠の弊害よりも深刻になる場合がある。

少量でもカフェインの影響を受けやすい人はいるが、そうでない人も大量摂取では不安障害と区別のつかない中毒症状を引き起こす。1日にコーヒー10杯以上飲むとカフェイン摂取量は1000mgを超え危険な領域に入る。不安や不眠、頭痛などを感じたら、向精神薬に頼るより、カフェインを止めるほうが有益かも知れない。不安や不眠に対するカフェインの作用は代謝速度で変化する。体内でのカフェインの半減期は4〜5時間で、この時間は人によって劇的に変わる。経口避妊薬を服用している女性は半減期が倍になり、妊娠中、とくに出産の4週間前にはさらに長くなる。逆に喫煙者はカフェインの代謝が2倍速くなるため、カフェインの刺激は半分で済む。例えば体重82kgの喫煙男性と体重61kgの経口避妊薬を服用している女性を比べると、女性は男性の5倍近くもカフェインの影響を受ける。

カフェインの代謝機能に影響を及ぼす遺伝子形質を受け継ぐと、カフェインに起因する不安とパニック障害の両方に関わってくる。パニック障害は1000人中15人ほどで、自制心を失い恐怖や不安の発作に繰り返し襲われる。研究では濃いコーヒーを飲んだ後、パニック障害患者の61%がパニック発作に襲われた。しかし、デカフェを飲んだ場合や対照群ではパニック発作を起こした被験者は皆無だった。また、精神障害の既往歴のある被験者で幻覚や幻臭の現れた例があった。パニック発作の疾患があればカフェイン摂取を禁ずるのが望ましい。医薬品としてのカフェインは次のような効能・効果が記載されている。ねむけ・けん怠感・血管拡張性及び脳圧亢進性頭痛(片頭痛、高血圧性頭痛、カフェイン禁断性頭痛など)、主に頭痛に用いるが、頭痛の原因がカフェインであることが珍しくない。カフェイン飲料で緩和される頭痛はカフェインの離脱症状と考えられる。

2013年、スカンジナビアの研究チームが「カフェイン摂取は、出生時の体重不足や不当軽量児(出生時の週数における平均体重よりもかなり小さく生まれた赤子)が生まれる可能性の増加と関連があった」という結果を発表した。しかも、カフェインの摂取量が多かったからそうなるわけではなかった。1日の摂取量が200mg以下でも、体重不足の子供が生まれる危険が高まる可能性があることがわかったのである。

妊婦に3大習慣性物質のカフェイン、ニコチン、アルコールを禁ずるのはいまや常識だ。妊娠の際、離脱症状に悩まないためにも常々依存性を抑える配慮が必要だ。業界側はコーヒー、緑茶、紅茶などで病気の予防や疾病のリスクを軽減する研究を多数報告する。疫学調査でコーヒーや緑茶を飲む人の疾病率や平均寿命をあげ、カフェインの負のイメージの払拭を図るが、疾病リスクの高い人は体質的にカフェインを摂らない傾向があるとも考えられる。業界の熱意と資金を以てすれば大概の事は思いどうりになる。ある茶の産地では、地域食材振興と称し小学生や園児にまで水代わりに緑茶を飲ませる。朝昼夕、のべつまくなしにお茶を飲ませた結果、ある母親から「子供の不眠や落ち着きのなさ」に困っているとの相談を受けた。お茶が原因と断定はできないが、お茶を止めてみてはどうかと助言した。危機感を膨らませすぎかも知れないが、ここで心理療法家が口をはさみ、手に負えなくなり医師へ渡されると、薬物治療が始まる。成長期の柔らかな脳をカフェインが暴れまわり、処方された薬がとどめを刺す。

2010年の秋にセントラルワシントン大学の学生が9名、救急治療室に運び込まれた。学生は「フォーロコ」という名のカフェイン入りのアルコール飲料を1缶飲んだあと、昏睡状態に陥ったのだ。ペンシルベニア州のランカスターでも12名以上が救急治療室へ運び込まれている。メリーランド州では21歳の女性がカフェイン入りアルコール飲料を2缶飲んだあと、ピックアップトラックを運転中に衝突事故を起こして死亡した。マンハッタンのベルヴューホスピタルセンターには飲みすぎの若者が何人も運び込まれ、1人は地下鉄の線路に転落した。アメリカ人の健康は突然、新しいタイプの脅威にさらされたようだ。

コークハイというカクテル酒があり、ジンやウイスキー、ウオッカなど、濃い酒をコーラで割ると酒を飲んだ感覚を失い、ついつい飲みすぎ悪酔いしてしまう。酒に弱い女性を警戒心なく酔わせるので、レディー・キラー・カクテルともいう。カフェインとアルコールの相互作用は予期せぬダメージがあり、栄養ドリンクは両方を意図的に配合し相互作用により疲労回復感をもたせる。2006年、ノースカロライナ州の大学10校の4000人を超える学生に対し行ったアンケート調査で、1/4近くの学生がアルコールにエナジードリンクを混ぜて飲んだことがあると回答している。カフェイン入りのアルコール飲料で酔うと、酔っている自覚が薄れ、疲労感も緩和されるため危険な行動に駆られ、治療を要するような事故の確率が高くなる。

宣伝とカフェインは切っても切れない関係にある。アメリカ人がカフェインを好きなのは確かだが、もう少し好きになれとコマーシャルで絶えずせきたてられているのだ。

健康や命に関わる企業は「善意と信頼が理念だ」と信じるのは無邪気な希望であって、企業はあくなき成長を遂げようとする。カフェイン入り製品の広告は主たる成分には触れず、その他のビタミン、タウリン、アミノ酸など無害無益な成分に言及しカフェインの問題をそらす。茶やコーヒー、チョコレートなど伝統的カフェイン飲食物もカテキン、ポリフェノールなど期待のもてる成分に言及するが、カフェインは語らない。カフェインの弊害を明らかにすれば売り上げは確実に減少するからだ。消費者は身を守るため、ラベルの表示を読み、カフェインの含有量や摂取量に注意を払う必要がある。FDA(アメリカ食品医薬品局)がカフェインの規制を怠っている頃、カナダの監督機関は責務を果たしていた。2013年に施行された法規は次のようなものだ。

1杯分の容器のエナジードリンクに含まれるカフェイン量は180mgを超えてはならないことが義務づけられた。さらに、エナジードリンクはカフェインの含有量を明記して、栄養補助食品ではなく食品として販売することも義務づけられている。また、アルコールと混ぜることに対する警告の表示、ならびに子供、妊娠中や授乳中の女性、カフェインの影響を受けやすい人には適していないことを明記した表示も義務づけられている。

コーラタイプの飲料に含まれるカフェイン量は200ppm(1Lあたり200mg)に、コーラ以外の清涼飲料では150ppmに制限されている。また、果汁や非炭酸飲料にカフェインを添加することは禁じられている。

さらに委員会の提言では、エナジードリンクの名称を「刺激薬物ドリンク」に改め、1杯分のカフェイン含有量を80mgに制限し、カフェイン飲料をアルコールと同様に成人に限定すべきとしている。「規制緩和、自由競争、経済原理.. 」と、もっともらしく語る評論家もいるが、消費者の健康や財産を守る規制は企業の利益より優先されなければならない。

カフェイン飲料は茶やコーヒーなど伝統的なものから、カフェイン含有の清涼飲料や食品にまで拡がりつつあり、業界は消費者を逃がさないように、最適なカフェイン量を追求する。「なぜコーヒーを毎日飲みたくなるのか?」、それはカフェインの薬理作用のひとつである習慣性と依存性に由来する。コーヒー粉末にカフェイン粉末を混合し、1杯80〜115mgのカフェインを含む飲料を作りだす。これを1人分飲むと、1L中に1.25mg以上の血中カフェイン濃度が最低2〜4時間持続する。カフェインを添加したコーヒー、逆にカフェインにコーヒーフレーバーを添加し清涼飲料を作る。コーヒー、抹茶、チョコレートを塗したクッキーや洋菓子.. 消費者は知らず知らずカフェインの荒海に翻弄される。伝統的な嗜好品のコーヒーや茶などのカフェインも注意を払うべきだが、いまは白い粉の合成カフェインが貨車を連ねて押し寄せる。知らずにいると向精神薬に等しい粉を取り込み、不調をきたす。

3大習慣性物質のニコチン(タバコ)、アルコール(酒)は未成年者に販売してはならないが、カフェインは野放しだ。子供にタバコや酒は与えないし、コーヒーやお茶がダメなことを知っている大人もいるが、チョコレートやケーキ、飴、クッキーは警戒なく与えている。5〜6歳、体重20kgの子供にコーラを1本持たせると、体重換算で60kgの大人3本分になる。チョコレート3個でも10個分の影響が考えれれる。子供は特にカフェインの感受性が高く成長期の脳へのダメージも大きい。近年スポーツの信仰すさまじく少年野球、サッカー、ラグビー.. と男女の別なく成人なみの練習や技能を要求する。ここにもエナージドリンクの危険が潜んでいる。飲料水を飲むかのように警戒心なく1本まるごと成人量を摂ってしまう。子供の死亡例も多数報告されている。

カフェインは複雑な働きをするため、定まった結論は出ていない。相反する研究や玉石混交の情報の中から業界は有益なものばかりを流布し、利益温存のため困った情報は隠し、ぼかす。しかし、カフェイン、アルコール、ニコチン、これらはまぎれもない3大習慣性物質であり、これに異論を差し挟む人はいないだろう。

>>嗜好品とカフェイン(1)

 

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