【食の安全(4)】


食の安全を脅かす細菌や自然毒、添加物や農薬などの危険は限定的で注意を払えば回避できる。しかし、放射能は広範に環境を汚染し生物に対し甚大かつ永続的危険を及ぼす。前者には許容量が存在し解毒も可能であるが、放射能被曝については安全値はない。いかに低線量であっても確実にDNAを損傷することを念頭に置くべきだ。「ただちに危険はない」という国のコメントに対して「やがて危険がある」という意味を察知しなければならない。彼らは短い役職期間を乗り切れば済むことだが、被害は終りがなく破滅的である。食中毒で死者や健康障害の発生が報告され、即発する危険への啓発は分かりやすいし対策の世論も盛り上がる。放射能も強力なら即死するほどだが薄まってただちに危険が生じないため、奇妙な言い回しが横行する。臭いも味も色もなく、かろうじて器機で検出される。原発推進のため最も危険な放射能の実体は隠蔽され、事故が起こってようやく万人の知るところとなった。「ただちに..」という言い回しで逃げ、短時間しか浴びないX線や自然放射線と比較し無害を強調する。国が嘘デタラメを言うことはいま始まったことではない。スリーマイルもチェルノブイリでもやはり国家は嘘や隠蔽に手を染めた。

五官で感知しえない放射能を検知する器械のあることは最低限の救いである。私たちは五官に代わって数値で被害の程度を知ることができるが、メートルやグラムなど馴染み深い単位に比べシーベルトやベクレルという放射能の単位は解りにくく混乱をもたらす。事故直後はマイクロからミリに変わり、やがてミリも外れ、垂れ流した放射能の量が兆を超え京の単位にまでなった。放射性物質が1秒に1個の原子を崩壊させ放射能を発する単位を1ベクレル(Bq)といい、人体への影響の強さを示す単位をグレイ(Gy)という。放射線はα、γ、β、中性子線などがありα線は人体の受ける影響が大きく1Gyが20シーベルト(Sv)、β・γ線は1Gyが1シーベルトで換算し、合算した被害の程度をシーベルトで算出する。報道を見聞きする限りベクレルとシーベルトがもっとも頻繁に使われている。医療機関で受けるCT検査で20〜7mSvくらいで、100mSvが原発作業員の限度とされている。これを超え250mSvで白血球の減少、500mSvでリンパ球の減少、1000mSvで嘔吐などの急性放射線障害がみられ、2000mSvで5%の人が死亡し、7000mSv以上で99%が死亡する。医療での被曝は治療に資する利点があり、時間も短時間であるが、同程度の放射線でも長時間さらされ、かつ内部被曝も考慮すると危険度は格段に増す。放射線は細胞内に活性酸素を発生させDNAを損傷するため、細胞分裂の速度が早い造血機能が最初に被害を受ける。細胞分裂が盛んな胎児を抱えた妊婦や、成長著しい乳児や小児は大人より深刻な被害を蒙ることになる。まず白血球の減少による免疫力の低下や貧血、それにともなう感染症の罹患、胎児であれば奇形、小児の甲状腺がんや白血病などが起こる。放射線のダメージは距離の二乗に反比例するので、現実問題として基準値などアテにしては身を守れない。距離2mから1mに近づくだけで被曝量は4倍になり、この要領で計算すると放射性物質が臓器に付着する内部被曝では一兆倍にもなる。低線量の内部被曝については国や電力会社は絶対言わないしメディアも十分な報道をしない。通常運転の原発からも常時放射能が漏れているのでこれを認めれば原発そのものが立ち行かない。

体内に入った放射性物質は崩壊する半減期と、代謝・排泄で減少する有効半減期がある。ヨウ素の半減期8日はよく知られ、被曝すると小児の甲状腺に集まりガンを引き起こす。その予防にヨウ素剤で飽和する対策がとられるが、被曝して24時間以内に服用しないと意味がない。2カ月後に「本当はメルト・ダウンしていました」と発表されても、もう遅い。他に、セシウムの半減期は30年だが排泄の半減期は3か月と早い。ところが骨に集まるストロンチウムは何十年も留まり、肝臓や骨に集まるプルトニウムは100年くらいになる。

いまのところ外部被曝の放射線量が取沙汰され、1mSvとか20mSvなどの数字が聞かれる。1mSvでも極めて危険な数値でスリーマイルの住民の最大被曝量に匹敵し、ガンの増加が報告されている。さらに吸引・飲食・付着などで体内に取り込む内部被曝は事の重大さが異なる。内部被曝はゼロでなければならない。過去いくつもの核実験が行われ、また原発や核施設の運転や事故で放射能は地球にまき散らされた。大雑把ではあるが放射性物質が環境に拡散し、直接そして廻り廻って人や生物に降り注ぐ図を書いてみた。濃淡はあっても私達が放射能のただ中に居るのは間違いない。

 

    風・浮遊

風・浮遊
(再浮遊)
   
    降雨沈着     降雨↓↑沈着    
水 源 海 洋
河 川
放射能 大 地 浸透
地下水

 
  直接吸入  
 
生活用水 プランクトン
・海藻
ヒ ト
生物
直接

吸入
砂・土壌 水 源

  濃縮蓄積
   
 

  |→

水産物
(魚・貝類)

食 物

農畜産物
(米・肉・野菜)
生活用水

     

     

飲料水

----------

水道
ボトル水

---------- 飲料水

 

内部被曝の問題は食生活に直結し、これからの重要な課題になる。たとえ農薬や添加物を排除しオーガニックを指向しようとも、放射能ひとつですべてムダになる。兆ベクレルの単位を超え京ベクレルで放出し続けるおびただしい放射能は、地球上に拡散し薄まっていくが、均等にはいかない。まず事故地を激しく汚染しそこから徐々に広がっていく。浮遊する放射能を直接吸引したり、土から傷口を経由し内部被曝する。海へ流れ魚介類や海藻を汚染し蓄積、濃縮する。海流や回遊魚に乗って汚染はひろがり、大型魚は濃縮によって危険が高まる。大地に降り注げは野菜や穀物を汚染し、地下水や河川に流れ水資源を犯す。そこで育てられた穀物、野菜はもちろん牛や豚、鶏、卵などことごとく汚染する。絶対安全な食などいままでもなかったが、これからは汚染のリスクのより少ないものを求めなくてはならない。原発事故のあと、水道水から放射性ヨウ素が検出され、続いて野菜や魚からも検出され出荷規制が行われた。後になって魚の内臓、頭を除き、身をすり潰して検査した事が判明した。できる限り基準値を超えないような検査方法がとられていたのだ。自分の身は自分で守るしかなく、いまだ国を信じる人は善人すぎて笑われるだろう。

原発事故が長期化するにつれ、300kmも離れた神奈川や静岡の茶葉から基準値を超えるセシウムが検出された。「風評被害の恐れあり」として、今度は生産者側が検査拒否の姿勢を示した。消費者にとっては不安の種がふえることになる。国は相変わらず健康に影響のないレベルと言い続けている。そして影響が出てきた5年、10年後には因果関係不明という屁理屈を振りかざすであろう。検査を拒否して出荷しないのなら構わないが、検査拒否した農産物や水産物が流通するようであれば、消費者は風評を信じるしかない。ふつう風評といえば悪しき意味で用いられ、辞書を調べると「存在しない原因・結果による噂被害」と書かれている。証拠も示さず風評だとあっさり決めつけ、汚染が懸念される地域の農産物を食べて見せたり、支援と称してバザーを開催する事が正しいとは思わない。ある県が復興支援で福島産の魚介類を買い上げ流通ルートに乗せると発表した。まことに心温まる支援ではあるが、京ベクレルもの放射能で汚染した海域の魚介類を食べようとは思わない。汚染地域および汚染が懸念される地域の農産物は国と電力会社が買い上げることで国民の健康を守らねばならない。汚染の心配で躊躇する人々を「風評」と言い捨て、放射能に身を晒させることこそやってはならない。実のところ風評は世界中で起こっている。日本製品というだけで放射能検査を求められたり、購買を控えたり。国やメディアは「正しい情報を..」といいながら嘘の安全宣言しか出さない。原発事故で風評は避けられない、風評と切り捨て被害の保障すらしない。そもそも風評というのは国や電力会社が責任逃れに流布する言葉だ。

いままで数々の食品偽装や食品犯罪がおこった。中国食品についてはにわかに信じがたい悪行の数々が曝露された。日本では廃棄すべきものを加工食品に混ぜたり、産地偽装のため別の土地を経由し販売する事件があった。いままでも、これからも人間が想像しうるすべての事が起こって不思議はない。福島から離れれば離れるほど直接被曝の被害は緩やかになる。しかし、九州でもヨウ素やセシウムが検出され、ほぼ日本全土が放射能で覆われた。そして放射線量のいかんにかかわらず懸念されるのが食物による内部被曝だ。内部被曝がゼロでなければならない事はすでに述べたが、基準値以下の食品は大手を振って流通する。時が経てば基準値をクリアするためのあらゆる偽装が横行するだろう。

原発の部品と成り果てた御用学者は、放射能は健康に良いだとか、塩や砂糖と変わらないと妄言を吐く。これを信じる人はおそらく皆無だと思うが、少数ながら安心を得る人々が居るのかも知れない。いっそうのこと手放しで信じたいような気分にさえなる。しかし、そうはいかない。ひも付きでない学者の食品汚染の対処法を紹介する。

  1. 食品汚染の実態を知ること。
  2. たとえ、放射能汚染が国の基準以下であっても、放射能が含まれている食品はあえて消費を勧めない。
  3. 汚染の実態はできるだけ公表し、消費者の選択の自由を保証する。
  4. 汚染食品、体内摂取に伴うリスク評価は、放射能の恐怖感に溺れず科学的な評価を踏まえる。
  5. 食品の放射能汚染に対する関心を持続し、供給者と好ましい緊張関係を保つ。

※原子力工学が専門で疑似科学を啓蒙する安斎育郎の「家族で語る食卓の放射能汚染」から抜粋。

これから放射能汚染は静かに浸透・横行していくだろう。目に見えず、臭いも味もなく、ただちに影響もないが、安全な基準値もない。食物連鎖による濃縮という避けがたい危険も考えられる。そしてさらなる危険は、危機感の喪失による慣れである。いまのところ検査は行われているが、すべての食物を漏れなく検査することはしないし、できない。長引けばやがて、基準値を上げたり、検査を怠り、あらゆる曖昧がまかり通るだろう。薄まらない危険に比べ危機感は次第に薄まっていく。汚染はいま始まったばかりで、これから100年続くことを忘れてはならない。原発の廃炉が完了するまで300年、そして放射性廃棄物は100万年の管理が必要だ。ほぼ永遠に続くと考えて間違いない。生きている限り降りかかる災厄である。

フランスは6月、日本へ渡航または在住のフランス人に対し次のような注意を促した。

汚染の影響を最も受けやすいのが茶葉を含む葉野菜と野菜を原料とした全ての食品、そして汚染された草や飼料を餌とする動物の乳で、生産地や放射線濃度が分からない生鮮食品(特に葉野菜、キノコ類、魚類、茶葉)については長期間の摂取を控える。福島、宮城の両県で生産された生乳や、生産地・放射線濃度が分からない生乳を長期間子どもに与えないこと。 乳児および幼い子どもの食事にはボトル入りミネラル・ウォーターを使用すること。海産物についても、海藻や海中生物が放射性物質に汚染にされている。

生産地も福島、宮城の他、栃木、茨城、群馬、埼玉、東京、神奈川、千葉まで言及している。わが国は注意を促すどころか、ただちに影響はない、風評だと切り捨て「ガンバロウ!」の連呼だ。少なからず汚染した食物が流通すれば、知らぬ間に口にするのは避けられない。注意を払い自らの五官六感を総動員して身を守る必要がある。また、中高年以上は放射能のリスクは低い、低い人が汚染を引き受け、リスクの高い小児、妊婦、若者に、より清浄なもの回し種を繋いでいかねばならない。少し想像力を働かせれば、これから起こることは明瞭だ。国や電力会社がどう責任逃れをするかも検討がつく。チェルノブイリで起こったことや続いていることは、日本でも起こり、続くだろう。「事故が起った事、汚染が続く事」を絶対に忘れてはならない。

 
【追記】原発事故から2年半が過ぎ、情報の隠ぺいや改竄、注意をそらそうとする動きが功を奏した。日本人より海外の人々のほうが日本の現状を恐れている。チェルノブイリの原発事故より早く、その影響が出始めたが、隠ぺいし、復興支援、絆、オリンピック、株価、円高などの情報に埋もれさせる。2013.10月の週刊朝日の記事は衝撃的なものだ。新聞とテレビしか見ない人々は到底信じられない記事であろう。以下記事の抄略である。

関東15市町で実施されている最新検査で、子どもたちの尿の7割からセシウムが検出されていたことがわかった。常総生活協同組合(茨城県守谷市)が、松戸、柏、つくば、取手など千葉、茨城の15市町に住む0歳〜18歳までの子どもを対象に実施した尿検査の結果、初めの10人を終えたとき、すでに9人からセシウム134か137を検出していた。予備検査を含めた最高値は1リットル当たり1.683Bq。(参考までに調べた大人は2.5Bqという高い数値だった)いまも検査は継続中だが、すでに測定を終えた85人中、約7割に相当する58人の尿から1Bq以下のセシウムが出ている。検査を始めたのは、原発事故から1年半が経過した昨年11月。検査対象全員の146人を終える来年明けごろには、セシウムが検出される子どもの数はさらに膨れ上がっているだろう。

セシウム134と137はウランの核分裂などにより生じ、自然界には存在しない物質だ。福島から近い関東の子どもたちが、原発事故で飛び散ったセシウムを体内に取り込んでいるのは間違いない。また食べ物から常時セシウムを摂取していることが明らかになった。例えば8歳の子どもの尿に1Bq含まれていると、1日に同じだけ取り込んでいると言われる。内部被曝にしきい値はないので、長い目で健康チェックをしていく必要がある。体内にセシウムを取り込むと、どういう影響が出るのか。内部被曝に詳しい琉球大学名誉教授の矢ケ崎克馬氏が解説する。「セシウムは体のあらゆる臓器に蓄積し、子どもの甲状腺も例外ではありません。体内で発する放射線は細胞組織のつながりを分断し、体の機能不全を起こします。震災後、福島や関東地方の子どもたちに鼻血や下血などが見られたり甲状腺がんが増えているのも、内部被曝が原因です。怖いのは、切断された遺伝子同士が元に戻ろうとして、間違ったつながり方をしてしまう『遺伝子組み換え』で、これが集積するとがんになる可能性があります」。尿中に含まれるセシウム137がガンマ線だけ勘定して1Bqだとすれば、ベータ線も考慮すると体内に大人でおよそ240Bqのセシウムが存在し、それに加えてストロンチウム90もセシウムの半分程度あるとみる。体に入ったセシウムは大人約80日、子ども約40日の半減期で排出されるが、食物摂取で体内被曝し、放射線を発する状態が続くことが危険だと言う。

関東だけではない。放射能汚染による体内被曝が、東海や東北地方にまで及んでいることも分かった。福島を中心に200人以上の子どもの尿検査を続けている「福島老朽原発を考える会」事務局長の青木一政氏が、実例を挙げて説明する。「昨年11月に静岡県伊東市在住の10歳の男児、一昨年9月には岩手県一関市在住の4歳の女児の尿からセシウムが出ました。この女児の場合、4.64Bqという高い数字が出たため食べ物を調べたところ、祖母の畑で採れた野菜を気にせずに食ベていました。試しに測ってみたら、干しシイタケから1キロ当たり1810Bqが検出されました」。(食品に含まれる放射性セシウムの基準値は、1キログラムあたり一般食品100Bq、牛乳と乳児用食品50Bq、飲料水と飲用茶10Bq)

常総生協が昨年度、食品1788品目を調査した結果、280品目からセシウムが検出されていた。米74%、きのこ63%、お茶50%、それに3割近い一般食品にもセシウムが含まれていた。(2013 Oct.)

 

 

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