【食の安全(3)】


食の安全・その2では食中毒の中でも細菌によるものの話であった。細菌以外にも比較的発生率の多いものが腐敗や変敗また自然界の毒物によるものである。自然は懐が深く優しいと讃えていても、自然の負の面とも真剣に対峙しなくてはならい。化学薬品、合成添加物という表示と同じくらい、自然という表示にも注意を払わなくてはならない。自然を標榜する「漠然とした良質の....」イメージ戦略も行なわれている。この事と直接の関係はないが、ここでは、自然のなかに危険なものがあるという話である。

【アレルギー様食中毒】
特定の食物に対してアレルギーを持つ人に見られる食餌性アレルギーとよく似た症状であるが、アレルギー体質でない人にも起るので「アレルギー様食中毒」として区別される。原因食品はサンマ、サバ、イワシなどの赤身の魚や赤身の魚の干物、加工食品に限って起る。赤身の魚肉には多量のヒスチジンというアミノ酸が含有され、これがプロテウス菌に分解され、ヒスタミンというアレルギー性の物質に変化する。プロテウス菌は魚の肉に付着していてこれが充分にヒスチジンを分解できないためヒスタミンが蓄積し発症する。他の腐敗物質も関与し初期腐敗の段階で起るため気付かないうちに食べてしまう事になる。症状は5分〜5時間の潜伏期を経て顔面の紅潮、激しい頭痛、悪寒、灼熱感、蕁麻疹など呈し、おおよそ12時間以内に回復する。下痢や嘔吐、腹痛を伴う場合もあるが命に関わることはない。抗ヒスタミン剤の適用で症状は軽くなる。

【カビ毒・マイコトキシン】 【アフラトキシン】
味噌や醤油などの基本調味料は発酵によるものである。人に有益なものを発酵、有害のものを腐敗として微生物やカビの活動を分類している。カビを発酵に用いるがゆえにカビに無防備な面もみられる。餅に付いたカビを洗い落として食べたり、醤油の上に浮かぶカビを濾して使ったりすることもあるが、カビは有害で肝障害を引き起こすものもある。カビの毒素は熱に強いため加熱調理で防ぐ事はできない。カビが発生しないような食品の管理が望まれる。もしカビを確認したら、その食品は食べないよう心掛けたい。

カビで最も注意がいるのは、アスペルギルス属のカビ(Aspergillus flavus)のカビ毒・アフラトキシンである。輸入食品のナッツ類、とくにピーナッツから検出される。ラットでの実験で飼料1kgにアフラトキシン0.015mgを混ぜると1〜1.5年以内で100%に肝臓癌が発生した。この発癌性の強さは現在知られている全ての物質のなかで最高のものといわれている。Aspergillus flavusは高温多湿の亜熱帯・熱帯地域において、80〜90%にアフラトキシン産生能があるといわれる。日本や温帯地域では稀であるが、海外から輸入されたものからの汚染など皆無とはいえない。ビールのつまみのピーナッツなどは心して食べるべきかも知れない。輸入が自給をはるかに上回る日本は、水際で完全にチェック出来ない以上、少しでもカビの痕跡を認めたなら直ちに廃棄する方が良い。

【自然毒・動物性】
動物性の自然毒による食中毒は今でこそ2〜3%に落ち着いているが、昭和40年代の半ばまでは20〜25%の比率を占め死者数も多く、その殆どがフグ中毒であった。

 

フグ (テトロドトキシン)
内臓(とくに卵巣と肝臓)に毒を持っている。
口唇部のしびれ・嘔吐・言語障害・呼吸困難・
死亡例が多い。0.5〜5時間で発症。
発症後5分で死亡した例がある。
シガテラ・
 ウツボ・サメ・
    ヒラマサなど
(シガトキシン)
下痢・嘔吐・関節痛・倦怠寒・温度感覚異常
ソウシハギ・その
 他のさんご礁魚
(パリトキシン)
よだれ・四肢の麻痺・運動失調
フタツボシドクギョ
  ・ウツボなど
(シガテリン)
激しい嘔吐
オニカマス
(ドクカマス)
(脂溶性毒)
唇の麻痺・言語障害・歩行困難
アゴハタ・
  ヌノサラシ
(グラミスチン)
嘔吐・死亡、粘液毒で溶血・魚毒性有り
イシナギの肝臓 (過剰のビタミンA?)
0.5〜12時間で発症。激しい頭痛・嘔吐、
発熱・全身の皮膚が剥離。サメ、マグロなど
の大型魚の肝臓でも同様の中毒が報告さ
れている。
バイ貝 (テトロドトキシン)
1〜24時間で発症。めまい、頭痛、嘔吐、
口渇、腹痛、視力減退、唇のしびれ、手足の
痙攣、言語障害、呼吸困難
ヒメエゾボラ貝
(テトラミン)
この貝と一緒に飲酒すれば少量でも酩酊が
激しい。食後30分位で頭痛、めまい、視覚
異常、嘔吐
ボウシュウボラ貝 (テトロドトキシン)
貝の中腸腺に有毒性物質
アサリ・カキ
帆立貝などの
     二枚貝
(べネルピン)
24〜48時間で発症。悪寒、嘔吐、腹痛、
微熱を伴い、胸、肩甲、上膊、大腿などの
各所に赤色〜暗赤色の皮下血斑、鼻、歯茎
からの出血、肝障害のよる黄疸

(麻痺性貝中毒・サキシトキシン)
30分〜3時間で発症。唇、手指のしびれ
手足の運動麻痺
二枚貝は植物性プランクトンを餌にするが
時々、プロトゴニオラックス・カテネラと言う
有毒渦鞭毛藻が異常に増殖し、これを食
べた二枚貝が有毒化する。

(下痢性貝中毒・ディノフィシストキシン)
30分〜数時間で発症。下痢、悪心、嘔吐、
腹痛
渦鞭毛藻類の一種でディノフィシス・フォル
ティというプランクトンを食べた二枚貝が有
毒化する。

有毒カニ類
ウモレオウギガニ
ヒラアシオウギガニ
毒性はフグ毒に匹敵する。

 

【自然毒・植物性】
自然界の毒物の多くは植物由来である。軽い毒から猛毒まで様々なものがあり、軽度な毒であれば調理技術によって解毒・緩和して食材とするものもある。この植物毒の90%近くが毒キノコである。流通している野菜に関しては心配はいらないが、山菜狩りやキノコ狩りで採集したものを食する場合には、正確に鑑別の出来る指導者の助言が必要である。9〜10月が発生のピークである。日本には6000種以上のキノコがあり、食用となるものは約100種で、毒キノコとして約30種が知られている。キノコ中毒の発生は「無知」が原因の殆どを占める。当てにならない古い鑑別法や伝聞には頼ってはならない。毒成分はムスカリン、アマニタトキシン、ジロミトラトキシン等である。毒作用によって分類すると次のようになる。

 

有毒キノコ

ツキヨタケ
ドクベニタケ
カワラハツタケ
胃腸症状型
主に胃腸カタルを起し、口渇、嘔吐、腹痛、下痢、
胸内苦悶、虚脱。
タマゴテングタケ
ウラベニイグチ
シャグマ
  アミガサタケ
コレラ様症状型
初め激しい胃腸カタル症状で体重の減少と衰弱
をきたし、肝臓、腎臓、心臓、脳などの器官・組織
が冒され、うわごと、昏睡に陥り死亡することが
多い。
ベニテングタケ
テングタケ
アセタケ
神経系障害型
初めに激しい胃腸症状が見られ、発汗や涎を流
し、次いでうわごと、痙攣、昏睡に陥る。
シャグマ
  アミガサタケ
血液毒型
胃腸症状に次いで黄疸、貧血、ヘモグロビン尿
症を来たす。
ワライタケ
マグソタケ
脳症状型
一時的な興奮や幻覚が生じる。

その他の有毒植物

ジャガイモの芽 (ソラニン)
ジャガイモには0.005〜0.01%は含まれているが
発芽時の新芽には0.1%以上に達するものが
ある。除去して食べれば良い。症状は食後数時
間で発症し腹痛、胃腸障害虚脱、めまい、眠気、
軽度の意識障害。
青梅 (アミグダリン)
未熟な梅の核に含まれている青酸化合物。完熟
すると消失する。悪心・めまい・腹痛・呼吸困難。
綿実油 (ゴシポール)
アメリカでは広く食用に用いられる。精製が不充
分だと残留し、中毒を起す。また男性不妊症の
原因にもなると言われている。
ソテツ (サイカシン)
沖縄や南九州に自生する大きなソテツの実は
神経疾患を起す。強い発癌性も確認されている。
大豆 (トリプシンインヒビター)
消化酵素阻害作用がある。加熱によって破壊さ
れるので、必ず加熱調理する。
わらび アクに発癌性がある。重曹や木炭でアク抜きし
たり、塩漬けすることで発癌性は軽減されるが
少量の摂取にとどめておいた方が良い。春の
山菜では他にフキノトウにも発癌性がある。

山菜などと誤認されやすい有毒植物

ドクゼリ セリと誤認
チクロトキシンという痙攣を引き起こす毒のため
数分〜2時間以内に発症し、経過は早く最悪の
場合10〜20時間後に死亡。
ハシリドコロ ユキワリソウ・ヤマイモ(根)と誤認
ヒヨスチアミンを含有し、食べると興奮し狂ったよ
うに走り回る。
チョウセン朝顔
  の種子
ゴマと誤認、大豆、小豆に混入する事もある。
ヒヨスチアミン、スコポラミンなど含有し前記と
同じような中毒を起す。
シキミ 香辛料の八角と誤認
アニサチン、シキミン、ハナノミンなど含有し
嘔吐、痙攣を起す。

 

自然毒に関しては常識的な食生活を守っている限り、心配は要らない。しかし、山菜や珍食奇食グルメの無知や思い込みで事故が発生している。特にナス科の植物に関しては毒成分が多いので、普段食べる野菜でもナス科のものは沢山食べ過ぎないようにしたい。ナス科の野菜には次のようなものがある。ナス、トマト、ピーマン、唐辛子、シシトウ、ジャガイモなど。トマトジュースは噛む事もしないで、かなりの量を飲むので心配している。杞憂であればいいが....

 

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