【砂糖の話】


最も繁用される食品添加物として「砂糖」を位置付けても良いのではないか?砂糖の話はもっと早く書くべきだったが、なにぶん迷わせる研究や資料が多すぎて簡単にまとめることの出来ないものであった。医療関係、食関係のみならず一般の人々の間でも砂糖は否定的に語られることが多い。しかしその根拠となるものは砂糖の恐怖ばかりが煽られ、いまひとつ頼りにならない。砂糖で被害を被るほど摂取していない人から強引に楽しみを取りあげたり。意外に砂糖の多い清涼飲料水や栄養ドリンクを水分補給とか疲労回復として飲んでいたりする。

砂糖は生を養うための通常の食物とする事は出来ない。食の楽しみや味覚を引き立てるための添加物と考えると利点と欠点が見えてくる。広く普及し利益の絡んだ食品ほど賛否の意見が氾濫し交錯し、食行動に混乱をもたらす。健康に関わるだけに一方的情報だけで正しい評価はできない。砂糖はじめ甘味料を好まない人、信念の食行動に基づいて摂取しない人には関係のない問題であるが、少しでも甘味料を好みかつ利用する人にとっては食の問題のひとつとして検討されるべきであろう。

砂糖の本格的使用は7世紀ササン朝ペルシャで発明されてから始まった。シルクロード貿易の貴重な品物として中国に伝わり、8世紀の中ごろ中国(唐)からの贈物として日本にも伝えられた。砂糖貿易の中心的な役割を果たしたイギリスでは17世紀半ばから植民地での大量生産に取り組み利益を独占した。このため100年足らずのうちにイギリスの砂糖消費量は8〜10倍に増加している。砂糖が貴重品だった時代から比べると現代は安価で容易に入手できるようになった。そして砂糖を使うと言う直接の行為だけでなく、表示のないものも含め、多くの食品、嗜好品などに用いられるようになった。このため知らず知らずのうちに砂糖を相当量摂取している事も考えられる。少し以前の資料になるが10年間の砂糖消費量は以下のようになる。

 
  総消費量(1000t) 1人当たり消費量(kg)
S61年 2751 22.61
S62年 2777 22.71
S63年 2648 21.53
H元年 2633 21.34
H2年 2643 21.34
H3年 2611 21.03
H4年 2513 20.18  
H5年 2476 19.84
H6年 2471 19.75     
H7年 2435 19.38  
H8年 2389 18.9

精糖工業会「砂糖統計年鑑」

10年間の砂糖消費量は1人ほぼ20kg平均で推移している。これから1日の砂糖摂取量を計算すると50g位になる。平均値はさて置いて、一体どれほどの砂糖を使用し摂取しているのであろうか。例えば、特に砂糖含有量の多い清涼飲料水やジュース類は500mlのペットボトルに換算すると、サイダーで35g、ネクターで70g、キリンオレンジで60g、コーヒーで50g、コーラで60g、ファンタで70g、、水分補給にと、健康的なイメージを演出するスポーツドリンクでさえ30gの砂糖を含有している。炎天下の運動後なら到底ペットボトル500mlで済む筈もない量である。調査によれば糖度の平均値は天然果汁で9.9%、果汁入り飲料で9.5%、炭酸飲料で8.4%スポーツ飲料で5.2%と言う数字が出ている。これらの糖度は砂糖はじめ果糖・ブドウ糖液糖等も含む総量である。水で済む筈の水分補給を砂糖水で行い、果たして不都合はないのか?というのが正直な感想である。摂取量も半端ではないのだ。

次にお菓子類である。砂糖含有量と1回に食べる量から推定した砂糖摂取量は、汁粉で39g、練り羊羹で30g、チョコレートで20g、カステラで20g、ドーナッツで18gケーキで15g、おこしで18g、クッキーで13g、ドロップで8g、、となる。西洋では料理に砂糖はあまり用いないでデザートで取るが、日本では砂糖を使う場合が多い。これは料理の種類によって多くを要するものとそうでないものがあり、個人の嗜好によって変わってくる。

さて、この砂糖はどのような害をもたらすのであろうか?私が初期に読んだ砂糖の本はウイリアム・ダフティ著「砂糖病」1979刊、ビアトリスT・ハンター著「砂糖の罠」1983刊、ジョン・ユドキン著「純白、この恐ろしきもの」1983刊、、、日本では田村豊幸著「カルシウム欠乏症-砂糖の副作用-」など...この頃多くの砂糖告発の本が出版された。コカ・コーラでラットの歯や骨がボロボロになる衝撃の写真が公開された事もある。「甘い麻薬」という副題のついた砂糖病と言う本には説得させられるところが大いにあり、砂糖及び甘味料の完全排除を試みた時期があった。これらの書物の論点は、諸悪の根源である砂糖をきっぱりやめることで健康や幸福が訪れると言い、自然派や菜食を主張する食養家には恰好の聖典となった。彼らの間では今だもってこれらの書物からの引用が「砂糖の害」として語り続けられている。

砂糖健康学入門…おいしく安全一番/お砂糖プラスでもっと楽しい生活/あなたの脳にお砂糖は足りていますか?/あなたの“こころ”にお砂糖は足りていますか?…このような「お笑い」とも見間違う砂糖業界の広告より告発本のほうが消費者の利益に叶っている。牛乳業界の宣伝に似て、全ての利得を業界に収斂するような見え透いた手法に辟易させられる。

砂糖の害のひとつにカルシウム欠乏がある。ご存知の様にカルシウムは体を構成する骨や歯の基本物質であり、体という化学工場で必要不可欠な生理的役割を担っている。砂糖(蔗糖)を摂取するとブドウ糖や果糖のそれぞれ1分子に分解される。この後、ピルビン酸が生成され、これがアシドーシス(酸性症)を引き起こしカルシウムが体から抜け出て、さらにピルビン酸の代謝でビタミンB1を消費するためビタミンの欠乏まで起こるという。反応はそのように起るとしても、大量に、代謝不能になるほど摂取した時の話である。普通に摂取して起る可能性はないと、断定できないがほぼ心配の要らないものである。しかし、砂糖告発の論議はここから始まる。砂糖の害をカルシウムやビタミン欠乏による生理作用で脅迫する。

虫歯、骨折、胃腸の食物吸収への影響、血液の性状の変化、、、さらに動脈硬化、視力、皮膚、アレルギー、関節、筋肉への影響から、ついには「癌の発生」まで行き着く。砂糖の浸透圧を捉え胃潰瘍の原因としたり、腸内細菌への影響を論ずる本もある。インシュリンの作用による低血糖は有名であるが、この血糖による緊張・弛緩の繰り返しによって「切れる子供」「落ち着きのない子供」、、など、精神的な害にまで言及されるといくらか疑問も生じ始める。砂糖病からの文を抜粋すると...

  • 砂糖ほど体に悪いものはない。なぜなら砂糖が消化、解毒、
    除去されるためには、身体全体に蓄えられた貴重なビタミン類や
    ミネラル類が必要とされるからだ。砂糖はこれらの物質を使い
    果たし、吸い取るのである。
  • 砂糖摂取をやめることによって、糖尿病、癌、心臓病などの全
    世界に広まっている不治の病の諸症状が治癒してきた。
  • 砂糖に対して炭水化物という言葉を使用することは計画的な
    詐欺である。
  • 揺り篭から墓場まで続くわれわれの飲料中毒は、実のところ
    砂糖中毒なのだ。
  • 食べて間もなく睡魔が襲ってくるようだったら、必ず砂糖か蜂蜜
    が使われていたと断定してよい。
  • 家中の砂糖気のある食べ物を全部、ゴミ箱へ投げ捨てる、これ
    で戦いの火蓋が切られたことになる。
  • 砂糖が女性の代謝バランスに致命的な影響を及ぼすことを、
    多くの医者がすでに何十年も前から気付いていたことを知った。
  • 砂糖への依存と同様、合成甘味料への依存は、味覚をほとんど
    ゼロにまで鈍化させてしまうのである。

科学用語や統計資料を駆使して繰り返し、繰り返し恐怖を煽られる。数冊の関連書物を読み終える頃には、徐々に洗脳され、著者の目的とする自然食の虜囚へと一直線であるジャーナリストであったりTVキャスターであれば、注目を集めると言う別の意図があるのかも知れない。

中には噴飯ものの本もある「白の恐怖」と言う本には、、だから、白砂糖は止めて黒砂糖を使いなさいと...これには訂正がいる。白より三温糖、黒砂糖が優れているように勘違いしている人が多い。栄養成分表からの数字で示すと、糖質…黒砂糖89.7%三温糖98.0%、白砂糖99.2%となる。黒砂糖もほぼ9割は砂糖なのだ。さらにカルシウムが含まれるといわれるのは、精製過程で中和の為使われる石灰の残留物に過ぎない。カルシウムの100g中の含有量は…黒砂糖240mg、三温糖30mg、白砂糖1mgとなる。カルシウム摂取を目的に黒砂糖を100gも食べる人はおそらく居ないだろう。黒砂糖は他に蛋白質やビタミンも含まれているが、栄養成分とするにはほど遠い量である。ただし、挾雑物のある黒砂糖や逆に磨きをかけ、砂糖の芸術品といわれる和三盆などにはそのもの特有の味覚・風味がある。料理に合った使い方をすればいいのであって、健康の為とかカルシウムが含まれるとかの理由で摂取するものではない。これは「塩」についても同様である。ミネラル豊富で健康に良いという話は大した意味もなく、味覚や好みで利用すれば良いのだ。

砂糖を添加物に例えるのは異論を覚悟の上であるが、砂糖の食品への応用は多岐に渡っている。甘味料という用途の他、デンプンが劣化して固くなるのを防ぐ。ケーキやお菓子を作るときクリームの泡立ちを良くする。料理の表面に艶を出し外観を引きたてる。ジャムなど作るときペクチンと加熱することでゼリー状にする。パンを作るときイーストの発酵を助ける。肉類を柔かくする、、などがある。砂糖の濃度によっては食品の保存にも利用される。

砂糖の害でよく言われるものが「虫歯」である。歯科医の間でも砂糖が原因である事を支持する人は多い。ラットによる実験で、高濃度の砂糖液を口腔を介さず直接チューブで胃に流し込んでも虫歯の発生は見られなかったという。このことから砂糖が虫歯を誘発するのは、歯の表面に付着して引き起こすものと考えられる。ところが疫学的研究では、砂糖の摂取は明らかに虫歯を誘発するという。さらに砂糖が歯の表面に付着すれば誘発性が高まる。それぞれの研究で異なった結果が出た時、いずれを支持するかは単純に決めることが出来ない。業界関係者であればより損失の少ない研究を支持し、自然派であれば、最小限度の被害すら見逃さないだろう。私も迷う、迷ったときには調べ、考え、折り合いをつけるしかない。砂糖が著しく危険であれば、きっぱり止める。しかし、使い方によって被害を少なく留め、かつ使うだけの価値があれば使うであろう。

疫学的研究では、唾液の働きに注目する。唾液が歯の表面を洗い流すことによって歯垢の形成をさまたげ虫歯の誘発を防ぐという。このため食間ではなく食事中や食後のほうが砂糖の摂取には好都合である。また良く噛むという習慣が唾液の分泌を高めるので、その事も是非奨励したい。噛まずに飲み込むような柔かいお菓子やジュース類は出来るかぎり避けたい。しかし、噛むもので、キャラメルやチョコレート、キャンディー、ガムなど、歯に付着する菓子類は注意がいる。食べたあと歯や口腔を清浄に保つため、うがいや歯のブラッシングを心がける必要がある。砂糖は虫歯誘発性が最も高いが、次にブドウ糖、乳糖などの順になる。果汁100%のジュースといえば自然に近いような気がするが、果物の糖分も砂糖に順ずるものと考えなくてはならない。虫歯の発生には個人差があるが、ある一定の量を超えると発現する閾値がある。一説には小児の砂糖の適正摂取量は体重1kgにつき1gという。体重20kgの子供で20g。日本人の平均砂糖摂取量の凡そ半分になる。

また、砂糖は糖尿病や肥満、生活習慣病などの一翼を担っているという話がある。糖と言う文字を冠しているだけに糖尿病=砂糖の図式はあまりにも有名で、糖尿病=砂糖厳禁の養生は当然の事とされている。しかし、これにも幾つかの問題が孕んでいる。徹底的に砂糖だけ避ければ糖尿病が克服されるかのような錯覚を与えているのではないか?高血圧に食塩厳禁と同じく、糖尿病の本質を忘れてはならない。

厚生労働省の平成14年度糖尿病実態調査によれば、20歳以上の男女で予備軍を含め1620万人になるという。特に70歳代以上の罹患率が21.3%で前回6年前の調査より10ポイントも増えている。小児の糖尿病も見られ、糖尿病には心臓病、高血圧、脳卒中などを伴うことが多い。穀物などの多糖類(デンプン)と違い砂糖(二糖類)やブドウ糖、果糖(単糖類)は吸収の効率が良く、人の生理機能の限度を越え急速に大量に摂取すると、すぐさま抑制するためインシュリンの分泌が始まる。血糖降下剤で低血糖に陥った人が、砂糖摂取後、数分で回復するほど早い反応速度である。そのメカニズムは複雑であるが、消費カロリーを上回る摂取カロリーの余剰分が脂肪となって脂肪細胞に蓄えられる。それが、肥満や生活習慣病の原因の一つとなる。

しかし、実際は砂糖ばかりではなく、蛋白質や脂肪などの過剰な摂取や摂取バランスの崩れ、飲酒、喫煙なども影響してくる。穀物の摂取量は年々減少しているにも関わらず砂糖などの単糖類の消費は増加している。蛋白質や脂肪と一緒に摂取する砂糖が被害を大きなものにしているが、単に砂糖だけを減らせば良い訳ではない。まず全体のカロリーを減らして、穀物を基本とした食事構成に引き戻すことが肝要である。砂糖はじめ、穀物まで減らし、肉や魚、野菜を豊富に摂取し続けるのは誤りである。そして栄養士の指導のもと、多くの糖尿病患者が誤った食生活を実践し、治らないと言い、さらに厳しい穀物制限を課され心身ともに疲弊しているのではないか。味覚を増し美味しく食べる為にも砂糖や食塩はもっと許容されて良い。味気ない食事にどうして日々の楽しみを見い出せると言うのだ。

厳密なまでに戒律を設ける食養家が居る。その禁じるものの代表が砂糖である。禁じるものを守って食行動を行なうことで。治癒や健康への前向きな姿勢が生まれるのかも知れない。その説得の為に使われる科学知識や症例、体験例には充分な注意と懐疑を持って望まなければならない。厳しい食養指導のあまり、小児栄養失調が見られたり、気力も衰え、見るも無残な結果になる人々があとを断たない。

砂糖はじめ食材の中には、多量を継続して摂取すると被害の及ぶものがある。しかし、量を守るかぎり、食物として有用なものを摂取しないことは生命の維持が危ぶまれる。野菜や穀物の残留農薬、肉や魚の残留薬品、オーガニックといわれるものでも避けられない環境汚染、、、また食材そのものがもつ自然毒。これらが危険だとしても生きる為には、その利点を生かして被害のない程度に食べ続けなければならない。私は砂糖を奨励する訳でもなく禁ずるものでもない。食物の一つとして食生活に有効に生かして行こうと考えている。

「砂糖は控えなくては....」と言う声はしばしば聞かれる。しかし、知らず知らずのうちに...つい...という事が多い。お土産や、いただき物には菓子類が断然多い。贈り物として手軽で都合の良いものだ。捨てるのが勿体無いから食べる場合もある。また良くないと知りながら止められない人もいる。この意味で砂糖は「甘い麻薬」と言えなくもない。周囲の人々の観察や自らの経験から、甘党に虫歯が見られたり肥満が多い事は薄々気付いている。甘いものを食べると胃がもたれ通常の食が進まない事や胸焼けが起る事など身をもって知っている。砂糖は適量摂る分には害がないと言われても、いつの間にか適量をクリアし、それを越えてしまうものなのだ。

特に子供に与えるときは、与える大人が細心の思いやりを払わなくてはならない。体重で成人の1/3あるいは1/4の子供に、大人と同じ量のケーキを与えて良いのか?大人でも飲みきれない量の清涼飲料水を丸ごと1本与えて良いのか?体重20kgの子供の砂糖の適量は20gとされている。清涼飲料水や菓子類は1回で3〜4日分の砂糖を短時間で摂取することになる。他に料理からも...夕食後、もう1回デザートを与えると、一体どれ位の砂糖が体に入って行くのであろう?適量のレベルはとっくに越え、貯金ができる量である。私は、出来れば成人の適量も20gを目安にしたほうが良いと考えている。甘味の効いた食物は味覚にも曇りが生じる。甘味の嗜好を脱し、薄味へと志向する事で味覚の巾や深みや感度は格段に向上する。サジ一杯の砂糖をためらい、お菓子の一口を踏みとどまり、1本のジュースをお茶や水に代える事で野放図に増える砂糖を適量の域に納められないだろうか。

 

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