【於血について】
於血(中医では血於とも言う)、正確な漢字は「病垂れに於」と書きます。これは漢方医学特有の考えかたです。血行障害は一般的に馴染みがあるし、西洋医学の現場や研究の分野で使用されますが、その血行障害より広く、深く、時間の経過や血液の性状なども考慮に入れた概念が漢方で言うところの「於血」です。別に血液停滞(local
blood stasis)という表現もあります。さらに於血を定義するなら.. 駆於血薬といわれるものを使って治る病態 −山本 巌− この表現が最も適確であろうかと考えます。於血は仮説かも知れず、応用し効果を確認する作業においてのみ検証されるからです。しかしこの定義は駆於血薬を知る人のみに有効で、一般にはなかなか理解し難いものです。漢方の於血の考え方を基に生理学の本を読んでゆくと新たな発見や深い理解が得られます。比較的大きな血管はスムーズな血流が確保されているでしょう。ところが髪の毛ほどに細く、さらにそれより細い微小血管になると血液の流量や性状、あるいは血管の状況次第で流れに変化が起ります。血流の停滞や滲むような出血、それがそのまま残留したりすることも考えられます。それが時間に伴い性状に変化をきたすと、流れる血はやがて粘度を益し、ついに固定的な於血となる事もあります。 血液は全身を循環している訳だから、全ての疾患に於血が関与すると断言しても過言ではありません。打撲や事故、産後、術後はじめ気血水の虚実、臓腑機能の失調など多くの複雑な原因が考えられます。詳しい原因、時間軸での於血は別の頁で説明しています。 一体どんな症状が見られるのか表に示します。これは1983年寺沢先生が於血をより客観的に把握するためのスコア法として提唱されたものです。 |
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寺沢による於血の診断基準(点数制・女性用)
スコア10点群 |
A.眼輪部の色素沈着 B.舌の暗赤色 C.皮下溢血 (2) D.臍傍圧痛・抵抗(右) E.月経障害 (0) |
スコア5点群 |
A.皮膚の甲錯(粗造) (2) B.歯肉の暗赤化 (10) C.細絡(血管拡張) D.手掌紅斑 (2) E.臍傍圧痛・抵抗(左) F. 〃 (正中) G.S状部圧痛・抵抗 H.季肋部圧痛・抵抗 T.痔疾患 (10) |
スコア2点群 |
A.顔面黒色 B.口唇の暗赤化 C.回盲部圧痛・抵抗 (5) |
判定:スコアの合計が20点以下 非於血病態 21〜39点 於血病態 40点以上 重度於血病態 但し、( )内は男性の点数 |
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【於血証チェックリスト】 |
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(1)問診 | 女 男 | |
A.痔 | (−・+) | (5 10) |
B.月経異常 | (−・+) | (5 −) |
(2)視診 | ||
A.顔面 | ||
1.眼輪部色素沈着 | (−・+) | (10 10) |
2.顔面部色素沈着 | (−・+) | (2 2) |
3.口唇・暗赤化 | (−・+) | (2 2) |
4.歯肉・暗赤化 | (−・+) | (5 10) |
5.舌・暗赤化 | (−・+) | (10 10) |
B.四肢・体 | ||
1.手掌紅斑 | (−・+) | (5 2) |
2.血管拡張 | (−・+) | (5 5) |
3.点状出血/紫斑 | (−・+) | (10 2) |
4.乾皮症/色素沈着 | (−・+) | (5 2) |
(3)触診 | ||
A.腹診 | ||
1.季肋部 圧痛・抵抗 | (−・+) | (5 5) |
2.臍傍(右) 〃 | (−・+) | (10 10) |
3.〃 (正中) 〃 | (−・+) | (5 5) |
4.〃 (左) 〃 | (−・+) | (5 5) |
5.S状部 〃 | (−・+) | (5 5) |
6.回盲部 〃 | (−・+) | (2 5) |
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【腹診図】
(数字は上表(3)A.腹診の数字)
車から排ガスが出るように、人も生きている限り於血が生じていると考えられます。若い頃は回復力が早く、於血の存在はそれほど気にならなくても、老化に伴い、あるいは若くても激しい労働や運動の後には、疲れや凝りという症状で於血を認識します。それが積み重なり、やがて重度の於血へと発展することもあります。よく経験するのは、盲腸は切除したのに盲腸あたりに圧痛があったり違和感があるというものです。腹診図の2、6、5番あたりや腰、右足ふくらはぎ、肩や首筋が痛んだり凝ったりすることも経験します。まずは於血を考え駆於血薬を使います。治れば於血の存在が証明される訳です。 しかし、現実には於血以外の諸々の要因が絡み容易には行きません。その病態に占める於血の影響力が大きいほど於血薬はよく反応する事になります。日本で現在繁用されている幾つかの於血薬を挙げてみます。
それぞれ持ち味があって諸々の於血の病態に単独または配合剤として応用されます。 |