【八綱弁証】


陰陽五行説と一概に呼んでいるが、陰陽論と五行論は異なったものだ。漢方家によっては陰陽・五行を重んじる人と、陰陽は重んじても五行は空理空論とする人がある。しかし、陰陽論まで否定する人は極めて稀である。事物の観察を通して得た情報は分類によって認識の助けとなる。右か左か、大か小か、明か暗か、男か女か..これらを統一概念である陰陽に対置させていく。陰・陽には正気と病邪の状態を表す虚・実、病気の性質の一つである寒・熱、病気の部位を示す表・裏がある。

<陰> ― 裏 ― 寒 ― 虚

<陽> ― 表 ― 熱 ― 実

漢方薬局の店頭で先輩のアドバイスによって処方を覚えた。症状に対応する漢方処方をいかに適確に選べるかが治癒のための条件である。いま思うと、ドクダミやゲンノショウコを経験知によって用いる民間療法に等しいものだった。「症状=薬」、この明快な処方選択法は宿命的に漢方や医療につきまとう。病気をある規矩に沿って分類・認識していく最初のものが陰陽論であり、発展させたものが八綱弁証である。これによって「症状=病理=薬」という洞察を経た選択を可能ならしめた。陰陽の原典とされるものは占いで知られる「易経」で、万物の根源とされる太極から陰陽の両儀が生まれ、四象→八卦が構成される。卦は陰「」と陽「」の2つの記号で表現され8卦の組み合わせの総数は64卦になる。つまり天地自然の現象を64パターンで考えようというものだ。人生の途上で選択の迷いや困難が生じたとき、その解決を占いに求めることがある。そのとき独自で64ものパターンが浮かんでくるだろうか。漢方処方の選択についても似たようなことが起る。陰と見たものが陽の仮象だったり、熱と判断したものが寒の極みだったりする。真虚仮実、真実仮虚、真寒仮熱などの用語はこのことを示唆したものだ。正鵠を得るのが困難ならいっそうの事、64卦に漢方処方を配当して、筮竹で以って処方を決定しようという漢方家もかつては見受けられた。しかし、現実に生起する病態は複雑で、64パターンどころではなく、臓腑弁証が必須ものとなる。八綱弁証のトレーニングは弁証の基本として有益なものだ。とくに寒熱や虚実の弁別は処方決定に重要な情報を提供する。

【陰・陽】事物や現象をなどに用いるが、状況、状態によって変り、絶対的な分類ではない。例えば昼間は陽でも午前中は陽で午後は陰となり、腹部は陰でも上部は陽で下部は陰になる。

事物の陰陽分類

秋・冬 寒・涼
春・夏 熱・暖

人体の部位・組織・機能の陰陽分類

  部 位 組 織 機 能 病 証
裏・腹・下部 筋骨・五臓・血 抑制・静止 裏・虚・寒証 沈・遅・細
表・背・上部 皮毛・六腑・気 興奮・活動 表・実・熱証 浮・数・大

 

2項の対比は、しばしば電極のプラス「+」、マイナス「−」やコンピューターの演算の二進法を引き合いにして、科学的という衣が着せられるが、あまりに論理が飛躍しすぎであろう。漢方や医療が厳密に科学的である必要はないのだ。中医では人体を構成する気を陽気といい、血・津液・精を陰液という。陰・陽の不足をそれぞれ陰虚・陽虚、過剰を陰実・陽実とし、それぞれの組み合わせから陰虚陽実・陽虚陰実・陰実陽虚・陽実陰虚の関係が導かれる。陰虚陽実・陽実陰虚は陽の病証を示しこの原因となるものを陽邪とし、陽虚陰実・陰実陽虚は陰の病証を示すので陰邪とする。

陽証・陰証の症状

  寒 熱 精神 大小便 呼 吸 口 渇 舌 診 脈 診
虚寒・悪寒・四肢冷 萎縮 下痢・薄尿 息切・声小 なし・温飲 白・白苔 軟細・微弱
実熱・悪寒なし・悪熱 狂燥 便秘・濃尿 息荒・声大 あり・冷飲 紅・黄苔 滑実・洪数

 

陰陽は統一概念でもあり、臨床上、陰証・陽証という弁別はせず、他の2項概念と組み合わせた表現をとる。陰陽はバランスと過不足を想定し病証を分類するが、陽気の衰弱によるショック状態で起こる冷汗・チアノーゼ・四肢冷などを亡陽、陰液の喪失による発汗・四肢の熱感・口渇・呼吸促迫などを亡陰といい、いずれも高熱・発汗過多・激しい嘔吐や下痢・大出血などで陰陽が極まって起こる。

【表・裏】体の浅表部を「表」、深部・内臓を「裏」とし、疾病の部位を分類する。外感病の初期で病邪が体表近くにあるものを「表証」とし、やや進行し病邪が深部や内臓に及んだものを「裏証」とするが、病邪は表から裏へと徐々に進行するので、この間に半表半裏証を追加して区別する。

表証の分類・弁別

 

症 状

治 法

表寒 表実 悪寒・悪風・頭痛・関節痛・
舌苔は薄白で潤
無汗・脈浮緊 辛温解表 発汗
表虚 有汗・脈浮緩 調和営衛
表熱 熱感・微悪寒・咽の発赤疼痛・口渇・舌質紅・
舌苔やや乾燥・脈浮」数
辛涼解表

 

表証とは邪気を感受した初期、体表に見られる悪寒・発熱・頭痛・関節痛・脈浮などを言い、体表で病邪と正気が闘争することで発生する。表証は病邪の性質と体の抵抗力の違いによって、表寒・表熱・表実・表虚に分類される。表寒は寒の侵入によって起り、寒邪に対して体温を上昇させ熱の放散を防ぐ病理反応である。悪寒・悪風・頭痛・関節痛・無汗あるいは自汗・発熱・鼻閉・薄痰・鼻水などの防衛のため、体表血管の収縮・汗腺の閉塞・筋肉の緊張などの反応が起る。表寒実では病邪に対する抵抗力が十分なため無汗・脈浮緊・悪寒などの強い症状を呈する。一方、表寒虚では抵抗力が減衰しているため自汗・脈浮緩で、悪寒などは弱く悪風が見られる。寒邪を除くため、体表の血行を促し体表から邪を発散させる辛温解表法を用いる。表実には麻黄・桂枝を繁用するが、表虚はすでに自汗があるので、発汗をほどほどにするため麻黄は用いない。表熱は寒気はわずかで熱の症状が中心となり、微汗・頭痛・口乾・目の充血・咽痛・咽喉部発赤・高熱などが特徴で、脈浮数、舌質紅、舌苔乾燥し咳嗽・粘痰・黄痰の見られることもある。治法は主に解熱・消炎を図り、軽度の発汗を促す辛涼解表を行う。一般に表寒の病態は持続せず表熱や半表半裏、裏熱へと転変する。

裏証の分類・弁別

 

症 状

治 法

裏寒 顔面蒼白・寒がる・四肢冷・口渇ナシ・熱飲を欲す・腹部冷痛
尿量多・水様〜泥状便・舌質淡白・脈沈遅
温裏
裏虚 虚寒(陽虚):元気ナシ・無力感・声が弱い・食欲不振・下痢・脈微小

虚熱(陰虚):熱感・不眠・いらいら・口渇・寝汗・舌質深紅・脈細数

裏熱 顔面紅潮・悪熱・煩躁・口渇・冷飲を欲す・濃尿・便秘あるいは
悪臭下痢・舌苔黄・舌質紅・脈数
清熱
裏実 便秘・腹部膨満・腹痛・脈沈実

 

裏証とは臓腑の機能障害を指し、疾病のほとんどが裏証になる。外感病が表から裏へと進まず、直接、裏を犯したものを直中(じきちゅう)という。外感病以外の病因には精神的ストレス・疲労・性や飲食の不節制などの内傷病がある。裏寒には直中による裏実寒と陽虚による虚寒があり、普通、同時に見られることが多い。寒邪や熱邪によって陽気や陰液が消耗すると虚に乗じて裏虚(陽虚・陰虚)が発生する。裏熱は裏証の多くを占め、寒邪が化熱したものと熱邪が裏に入るものがあり、前者は経過が遅く、後者は早い。正気が強く熱邪も強いときは裏実熱を呈し、陰液が消耗すると実熱と虚熱がともに発生する。裏実は裏実熱・裏実寒の症状に加え便秘・腹部膨満・腹痛・脈沈実・舌苔黄で乾燥・熱結(炎症性腸管麻痺)を伴う。半表半裏証は裏証でも表証でもなく、悪寒と熱感が交互に起こる(往来寒熱)。これは病邪が正気に勝ると悪寒し、正気が病邪に勝ると熱感が現れる病態の移行型といえる。傷寒論では少陽病とされ、往来寒熱・胸脇苦満・口苦・咽乾・頭痛・悪心・食欲不振・胸焼け・脈弦・舌苔白又微黄などの炎症症状がみられる。瀉下や発表が難しい病位なので、治療は柴胡・黄今などで寒熱を調和する和解法を用いる。臨床では表裏同病という状態も起こってくる。少陽病の薬方である小柴胡湯に比べ、裏証傾向にあるものが大柴胡湯であり、表証を備えたものが柴胡桂枝湯になる。

【寒・熱】病気が示す症候の一つで、漢方では弁別上、重要なものである。自然界における寒冷や温熱現象と類似の症候を言い、寒証には温熱薬、熱証には寒涼薬を用い寒熱の偏性を調節する。

寒・熱証の分類・弁別

  病因 症 状 治 法
実寒 寒邪 悪寒・冷痛・顔面蒼白・便秘又は下痢・
舌(苔白)・脈(沈伏・弦緊)
去寒
虚寒 陽虚 寒がる・元気なし・四肢冷・不消化下痢・
尿量多・舌(白滑)・脈(遅細・無力)
温陽益気
実熱 熱邪 暑がる・口渇・多飲・顔面紅潮・咽痛・
腹痛・便秘又は硬い便・濃尿
舌(紅・苔黄色乾燥)・脈(洪数・滑実)
清熱瀉火解毒
虚熱 陰虚 のぼせ・イライラ・体の熱感(午後)・易
疲労・手足のほてり・咽口渇・寝汗
舌(深紅・苔少・鏡面舌・裂紋)・脈(細数)
滋陰清熱

 

寒証とは寒がる・悪寒・四肢の冷え・温熱を好み寒冷を嫌うなどの症候をいい、循環不全やエネルギー代謝の低下による熱量不足や寒邪の侵襲によって起こる。次でも述べるが、部位によって表裏の寒熱があり、表寒・裏寒・表熱・裏熱の症候が見られる。実感は寒邪の侵襲によって生じた寒(実)証で病原微生物・寒冷・飲食物など外因によって生じた感冒・疼痛・胃腸疾患などがある。悪寒・頭痛・関節痛・発熱・咳嗽などを表寒とし、急激に発生する腹痛・腹部の冷え・膨満感・嘔吐・下痢・顔面蒼白・チアノーゼなどを裏寒とする。表寒は辛温解表法で発汗させる。裏寒は温裏去寒法で裏を温めるが、もともと基礎体質として虚寒があるため補気・補血の薬物を配合することが多い。熱証は炎症や機能の過剰な亢進や脱水で生じ、原因や部位によって実熱・虚熱・表熱・裏熱に分類する。表熱は感染症の初期に見られ、軽度の悪寒あるいは熱感・頭痛・咽痛・目の充血・発熱などの症状を辛涼解表法で軽く発汗させて治す。裏熱は表寒が裏に入り化熱したり、表熱が裏に入り起る。熱感・悪熱・発汗・口渇多飲・冷飲食・顔面紅潮・口臭・濃尿・便秘・硬便ときには出血などが見られ、清熱瀉火解毒法で消炎・解毒・抗菌・鎮静・清熱する。虚熱は陰虚に伴い起り裏熱に分類する。慢性消耗性疾患・脱水による異化作用の亢進・自律神経系の機能亢進・脳の抑制過程の低下による熱証である。津液不足・乾燥という虚に伴い出現する熱の症候が特徴で、体の熱感・手足のほてり・のぼせ・いらいら・不眠・寝汗・口乾・咽唇舌の乾燥・皮膚枯燥・痩身・易疲労などが見られる。滋陰清熱法で栄養・滋潤し、鎮静・解熱する。寒熱においても錯雑する症候が見られ、上熱下寒・表寒裏熱や真熱仮寒・真寒仮熱など紛らわしい病証がある。

【虚・実】虚は「正気の虚」、実は「病邪の実」で人体の抵抗力と病気の強弱を弁別する。虚は補い、実は瀉することで正気を回復し、病気を制する。虚証は陰液(血・津液・精)や陽気が不足し、気虚・血虚・陰虚・陽虚が起こる。虚は先天的体質・慢性疾患による消耗・過度の疲労・飢餓・性不節制・出血・激しい発汗・嘔吐・下痢・精神的ストレス・病邪の侵入による病理反応などによって引き起こされる。

虚証の分類・弁別

  症 状(共通) 症 状(相異) 治法
気虚 顔白・易疲労・無力感・
無気力・消化不良・自汗
舌(淡白・胖大)
息切れ・無力感・弛緩性便秘・泥状便
脈(軟弱)
補気
陽虚 寒がる・四肢冷・顔蒼白・チアノーゼ
尿過多・泥〜水様便
脈(遅)
補陽
血虚 皮膚枯燥・痩せ・不眠
目がかすむ・動悸
舌(苔少)脈(細)
顔色不良・爪脆弱・手足のしびれ・
筋肉攣縮・月経不調
舌(淡白・紅)
補血
陰虚 顔面紅潮・のぼせ・寝汗・口渇・咽乾・
手足のほてり
舌(深紅・裂紋・剥苔・鏡面舌)・脈(数)
補陰

 

気虚・陽虚は陽気の不足で機能や抵抗力、元気の不足が生じ、陽虚は寒冷の症候をともなう。血虚・陰虚は陰液の不足で血、津液による栄養・滋潤作用が低下し、痩せて顔色が悪く、皮膚のつやを失い、陰虚はのぼせ、いらいら、ほてり、などの熱の症候をともなう。陰液と陽気は互いに密接な関係があるため、いずれかの不足は他方にも影響が及び、両症候が同時に見られることもあり、気血両虚・気陰両虚・陰陽両虚などの用語で弁別される。一方、「病邪の実」である実証は、病邪の存在による病理反応を指し、体の抵抗力が十分のときは脈も洪数で強く、全身的に興奮性・運動性・熱性の反応を示す。病邪とされるものは細菌、ウイルスなどの病原微生物の感染・暑熱、乾燥などの物理環境・暴飲暴食・偏食・不潔な飲食物・寄生虫・外傷・精神的ストレス・体内の機能低下や失調による病理産物(痰飲・水腫・於血・気滞..)が考えられる。虚に対する治法は補であったが、実に対しては攻・瀉を行う。しかし、臨床での病症は複雑で虚実が錯雑するものがあり、補法と瀉法を兼ねて行う攻補兼施や補して攻める先補後攻、攻めて補する先攻後補などを臨機応変に駆使する。また、臨床上の困難な問題として真虚仮実や真実仮虚がある。例えば炎症や熱が盛んな実にもかかわらず四肢が冷え、脈は深く潜行し、あたかも虚状を呈することがある。この逆も起りうるため弁別には経験を要し、誤治の際の対策にも無知であってはならない。

八綱による処方分類

麻杏甘石湯・越婢湯(発熱・咳) 表熱実証
白虎湯(発熱・発汗・口渇) 表熱虚証
麻黄湯・葛根湯・小青龍湯(悪寒・頭痛・喘) 表寒実証
桂枝湯・桂枝加朮附湯(悪風・自汗) 表寒虚証
大柴胡湯(胸脇苦満・腹満・便秘)
三黄瀉心湯・黄連解毒湯(のぼせ・出血)
調胃承気湯・桃核承気湯(腹満・便秘)
朱雀湯(腹満・便秘/吐瀉剤)
裏熱実証
小柴胡湯・加味逍遥散(胸脇苦満・往来寒熱)
半夏瀉心湯(胃痛・下痢)
白虎湯・麦門冬湯(口渇・燥)
五苓散・猪苓湯(口渇・湿)
裏熱虚証
桂枝加芍薬大黄湯(腹満・便秘) 裏寒実証
桂枝加芍薬湯・小建中湯(腹痛・下痢)
人参湯(胃腸虚弱・下痢)
八味丸(冷え・尿多・燥)
真武湯(玄武湯)(冷え・尿少・下痢・湿)
四物湯(貧血・燥)
当帰芍薬散(貧血・湿)
裏寒虚証

 

陰・陽にならい表・裏、熱・寒、虚・実で処方を分類したものである。太文字の処方はそれぞれ東・西・南・北を守る青龍・東(春・青)/白虎・西(秋・白)/朱雀・南(夏・朱)/玄武・北(冬・黒)の四神を意味し、小青龍湯は発汗、白虎湯は中和(解熱)、朱雀湯は現在ほとんど使われないが吐瀉、玄武は中和(温補)という4大治療原則に割り当てられる。一覧表にすると味気ないものだが、病態や時間軸に沿ってスパイラルに処方が運用される。発汗は病位が浅い表証の治法で、発散させることで病邪を除く。吐瀉は病位が裏にあるため、吐かせたり下したりして病邪を除く。中和は半表半裏に病邪があるため発汗も吐瀉もできず、熱を中和して治す。温補は虚証に対して、不足を補い回復の手助けをする。これらの治療には優先順位があり、(1)表証は裏証に優先する。(2)表裏とも存在すれば裏を治す:表証が軽度であれば裏を治すことで表証も治る。(3)急は緩に優先する:急性症状を先に除く。(4)湿証は燥証に優先する。(5)虚証に補薬を用いる。(6)熱証に寒(涼)薬を、寒証には温(熱)薬を用いる。臨床では寒熱が錯雑したものや上熱下寒などの病態があるので寒(涼)薬や温(熱)薬を巧みに配合する。これらの原則を念頭に「風邪」の治法を表にすると以下のようになる。無理な分類もあるが、八綱の考え方に沿ったものだ。

風邪の治療分類

麻杏甘石湯・五虎湯(発熱・咳)
銀翹散(発熱・咽喉痛)
表熱実証
白虎加人参湯(発熱・発汗・口渇) 表熱虚証
麻黄湯(悪寒・関節痛・無汗)
葛根湯(悪寒・頭痛・肩こり)
小青龍湯(悪寒・頭痛・鼻水・喘)
表寒実証
桂枝湯(悪風・自汗)
香蘇散(感冒・胃腸虚弱)
参蘇飲(感冒・咳・胃腸虚弱)
麻黄附子細辛湯(発熱しても悪寒が多い・鼻閉・喘)
表寒虚証
大柴胡湯(往来寒熱・胸脇苦満・腹満・便秘) 裏熱実証
小柴胡湯(往来寒熱・胸脇苦満)
柴胡桂枝湯(往来寒熱・胸脇苦満・悪寒・頭痛)
柴胡桂枝乾姜湯(往来寒熱・悪寒・動悸・下痢)
麦門冬湯(咽乾・乾咳・口渇)
裏熱虚証
桂枝加芍薬大黄湯(腹満・便秘) 裏寒実証
桂枝人参湯(頭痛・胃腸虚弱・下痢)
人参養栄湯(全身倦怠・咳)
補中益気湯(全身倦怠・食欲不振)
真武湯(悪寒・下痢・虚弱)
裏寒虚証

 

症状を2分類しながらカテゴリーを狭めていくことが八綱の特徴になる。表か裏かを判別したあと熱か寒を見極め、それぞれ実か虚を決定する。風邪には傷寒論という時間の経過に沿った治療の古典があるが、八綱とともに利用すれば有益な治療が可能となるだろう。風邪の初期は悪寒・発熱・頭痛・肩こり・関節痛などの表証から始まる。熱証には石膏・金銀花・連翹などで軽く冷やしつつ発散し、寒証には麻黄・桂枝で温めて発散させる。表寒実証では強い発汗を促す処方を用いるが、表寒虚証はすでに自汗があるので体表を温め汗の発散を促す。病邪が半表半裏へと進攻すると往来寒熱や胸脇苦満が見られ、柴胡などを用いて中和する。病邪が裏に進攻すると腹満や便秘ときには熱性下痢をともなう、大黄などで瀉下し病邪を排除する。裏寒虚証は冷えて疲労し食欲も低下しているので温めて抵抗力を補う。陰陽論で病態を述べてきたが、さらに燥・湿/升・降/収・散という2項分類を加えると64<128<256...というパターンが生まれてくる。4象<8卦<64卦..このくらいの分類が人智の及ぶ所であろう。私にとってはこれでも多すぎるくらいだ。実際のところ寒か熱、又は虚か実などの検討を飛び越えて処方が浮かんでくる。つまり、長年の習慣と「根拠なき勘」に頼っている次第だ。「根拠なき勘」はしばしば「職人技」といわれることがある。

 

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