(4)

みのりの部屋の中で、涼は「変身」するというみのりの兄の話に聞き入っていた。
「・・・兄は人と争うのが本当に嫌いな人なんです。でも、人が傷つくのを見るのはもっと嫌で・・・
だからこそ、未確認達が人間を襲い始めたとき、自ら戦う事を選んだんです。誰かの・・・笑顔のために。」
「笑顔・・・」
「私、戦士になって戦うようになった兄に尋ねた事があるんです。『もう戦うの平気になっちゃったのか』、って・・・
今思えばバカだったなぁ。戦士になっても兄は兄のまま・・・ただ自分に今できる事を精一杯やるんだ、って。」
「自分が・・・今できること・・・」
自ら異形の姿に変わる力を取り込み、それを他人のために使ったというみのりの兄。それに引き換え、今の自分はどうなのか・・・
自問してみた涼だったが、すぐに打ち消した。(そうだ。俺はこんな力なんて欲しくはなかったんだ!)
「だが、こんな力を持っていたら・・・気味悪がったり、妬む連中もいる。頭に来たりイヤになる事もあっただろう。」
言ってから、涼は自嘲気味に苦笑した。
「そうですね・・・」
その言葉に涼は驚いた。兄思いそうなみのりのこと、てっきりムキになって反論してくると思っていたのだ。
「兄も、憎しみに心を囚われそうになった時があったと思います。でも、兄はそんな気持ちに負けませんでした。
だって・・・兄は誰よりも悲しみと、その辛さを知ってる人だから。だから誰よりも優しくなれる人なんです。」
「悲しみを知っている・・・だから・・・優しくなれる・・・?」

「あはは、湿っぽくなっちゃいましたね。あ、そうだ!夕飯の支度しなきゃ。芦原さん何か食べたいものあります?」
「いや・・・俺はもう帰るから・・・」
「何言ってるんですか。それじゃ私の気が収まりませんよ。遠慮しないで食べていってください。」
「いや、本当に・・・グッ・・・!!」
慌てて
起き上がろうとした涼であったが、まだ体の痛みは抜けきっておらず、崩れ落ちた。
「ほらほら、まだ無理するなって事ですよ。ゆっくり寝ててください。」
子どもをあやすように涼をベッドに寝かしつけ、その額に手を置くみのり。
「あ・・・」
手のひらを通して、みのりの体温が伝わる。心地よい、なにか懐かしい感覚・・・。
「・・・それじゃ、大人しくしててくださいね。」
そう言って軽く頭をなでると、手早く身の回りを整理してみのりは買い物に出て行った。
「不思議な・・・女だ・・・」
まだ少し温もりの残る額に触れながら目を閉じると、涼は程なく眠りに落ちていった・・・

涼は夢を見ていた。深い闇の中を彷徨い、もがいている涼。だがその時、一筋の光が射し涼を照らし出す。
その光の先に立つ一人の女性、微笑むその女性の顔は・・・

(5)

風谷邸、翔一は居間のソファーに突っ伏していた。闘いのダメージが残っている事もあったが、それ以上に
翔一の関心はクウガ=五代雄介に向けられていた。自分以外にも「変身」して戦っている者が居る―――
それは驚くべき事であるが、同時に嬉しい事でもあった。もちろん、氷川誠=G3も共に戦う『同志』であるが、
「変身」して戦う、本当の意味での『同士』に、初めて出会えたのだ。

もぞもぞとポケットをまさぐり、手渡された名刺を見る。
「五代・・・雄介さん、か・・・。」
雄介の人懐っこい笑顔が思い出される。見ているだけで元気になれるような、とびきりの笑顔。
「どしたの翔一くん?さっきから唸ったりボ〜っとしたり。」
横からひょっこりと真魚が顔を覗かせる。
「え?ああ、うん・・・ちょっと考え事してたから。すぐ夕飯作るね。」
名刺をポケットに戻し、まだ傷みの残る腹をさすりながら立ち上がると、翔一は台所へ歩き出した。
「翔一くん・・・なにか良いコトあった?」
すれ違い様、不意に真魚が問い掛けた。
「ええ?真魚ちゃん、急に何よ!?」
「ん・・・なんか翔一くん嬉しそうかな、って思ったから。」
「そお?う〜ん、そうだな・・・良い出会いになってくれるといいんだけどね。」

真魚は台所の椅子に腰掛け、鼻歌まじりに慣れた手つきで料理する翔一を眺めていた。
「ねえね、そう言えば翔一くんのバイトって何やってるの?」
「あっ、そう言えば朝はバタバタしてて言い忘れてたね。『ポレポレ』っていう喫茶店だよ。」
料理の手を止めることなく、返答する翔一。
「ふ〜ん、喫茶店かぁ。あ、ねえねえ翔一くん。明日私も行っていいかな?」
「え?行くって・・・真魚ちゃんもバイトするの?」
「もぉ、違うよ。お客さんとして行っていいか、って言ってるの!」
「あ、そっかそっか。・・・うん、明日は俺も昼からだから、ランチに丁度いいね。」
「じゃ決まりだね。ねね、その御店のオススメメニューとかって何があるの?」
その真魚の言葉を待っていたかのように、翔一がクルリと向き直る。そして・・・
「オ〜リエンタルな味と、香り・・・カレー(辛え)カレーかな?」
一瞬にして周囲の気温が下がり、固まる真魚。翔一だけが一人得意そうに再び料理に取り掛かっていた・・・

(6)

城南大学の研究棟、蔦の絡まる古いレンガ造りの壁を一つの影がよじ登っている。
影は目的の部屋の窓が開いているのを確認し、ゆっくりと音を立てないように近づき、中を覗き込む。
部屋を見回すと、中では一人の女性がパソコンに向かって作業中のようであった。窓を背にしているため、
影の存在にはまだ気付いていない。
そっと部屋に忍び込んだ影は部屋の一角に飾られた不気味な面の一つを手に取ると、それを被り女性を振り向いた。
まだ気付いていない、そう判断した影は忍び足で女性の背後にまわる。今まさに襲い掛からんとした、その時・・・!

「!うわっ!!!」

くるっと椅子を回して振り返った女性に、影の方が驚きの声を上げ、そのまま後にひっくり返る。
女性もまた影と同じような仮面をしていたのだ。
「あははは、そう何度も同じパターンだと誰もひっかかんないよー。」
仮面を外しながら女性=沢渡桜子は可笑しそうに笑う。
「参ったな・・・」
影=雄介もバツが悪そうに仮面を外す。
「でも、なんで判ったの桜子さん?」
仮面を元の場所に戻しながら、雄介は当然の疑問を桜子に尋ねた。
「これだよこれ」
そう言いながら桜子は手にした携帯電話を見せる。
「五代君が来る前に、一条さんから電話もらったの。五代君がこっちに向かってる、いつもの登場するだろうから
『丁重に』お迎えしてやってくれ、ってね。」
「一条さぁん・・・」
雄介は苦笑いすると仮面を元の場所に戻すべく立ち上がった。

「これで良し、っと・・・ん?」
壁に仮面を戻していた雄介は突然背中に何かが当たる感覚を覚える。
「本当に・・・本当に五代君なんだよね・・・?帰って来て・・・くれたんだよね・・・?」
それは桜子だった。今にも零れ落ちそうな涙を必死にこらえ、雄介の存在を確認するようにしがみ付いていた。
「・・・うん。ただいま・・・桜子さん。」
「ゴメン・・・しばらく・・・こうしてても良いかな・・・?」
「ん・・・」
静かに、緩やかに、止まっていた二人の時間が動き出していた・・・

(7)

夜の帳が降りた街に暗躍する影が3つ・・・一つは蒼く、一つは紅く、そしてもう一つは白い影。
「感じる・・・感じるぞ!波動を、霊石の波動を!!ボクに傷を付けたアイツの波動を!!!」
「フフ、アタシは一度狙った獲物は逃がさない・・・待ってなさい!」
「今度こそ・・・今度こそケリをつける・・・クウガァ!!!」

そして運命の夜は明ける―

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