【今月のコラム】


【雪の下】

新幹線と温泉

2022年9月23日、西九州新幹線が開業した。博多と長崎の鉄道区間151.5Kmのうち69.64Kmが新幹線であとは従来の線路である。博多〜武雄温泉の従来区間は普通特急が走り、武雄温泉駅で新幹線に乗り換えるリレー方式の新幹線だ。新幹線の区間で69.64Kmは日本一短い。博多〜長崎は従来特急で約2時間、リレー式特急では1時間30分、30分早く着くために約6200億円の巨費が投じられた。従来特急が走っていた地域は寂れ、客も列車の数も激減した。新幹線には光と影が伴い、光の地域にも影が生じる。2025年、年明けの1月21日、NHK佐賀は嬉野温泉のNEWSを伝えた。

日本三大美肌の湯」として知られる佐賀県嬉野市の嬉野温泉で、去年、源泉の水位が一時的にこれまでで最も低くなり、県はくみ上げる温泉の量の上限を数値目標として示して地元の旅館などに要請していたことが分かりました。県によりますと、嬉野温泉の源泉の水位は、4年前は年平均でおよそ50メートルありましたが、去年は一時的に39.6メートルにまで低下し、記録が残る昭和35年以降で最も低くなりました。

これを受けて県は、温泉資源を保護するため、去年8月、源泉を所有する地元の旅館や事業者などに対し、くみ上げる温泉の量を抑制するよう文書で要請しました。また先月12月には、くみ上げる量の上限を温泉地全体で1日当たり2800トンとするなど、初めて数値目標を示したということです。このため地元の温泉旅館組合では、午前0時から5時までの温泉の利用を控えるよう利用客に求めたり、一部では日帰り入浴を休止したりする対策を取っているとしています。県は、西九州新幹線の開業に伴う新しい駅の設置で観光客が増加し、くみ上げる温泉の量が増えたことなどが背景にあると分析しています。

西日本新聞は「尋常ではない、源泉水位低下」と見出しを付けた。水位低下の原因は「新幹線開業で客が増え汲みあげる温泉の量が増えた」とされている。コロナ前、2019年の観光客は32000人、2022年に新幹線開業後は44000人と1.3倍に増えた。しかし、10Kmほど離れた同じ規模の武雄温泉の水位低下は聞かない。武雄も新幹線が開通しその効果で客数は1.33倍に増えている。「嬉野温泉 水位低下」と入力し検索すると、記事のすべてが客増加による汲みあげ量の増加とされており、汲みあげ抑制や、営業時間の短縮、入湯税の引きあげなどの対策がとられている。悲願の新幹線を誘致し、訪れる客に存分に温泉を愉しんでもらいたいところ、青天の霹靂であろう。

客が増えて汲みすぎたのが原因であれば、使用制限でなんとかなるかも知れないが、他の原因も想定しておかないと大きな禍根を残す。少し前の2024年5月20日、これに類するNEWSをNHKが伝えていた。

岐阜県瑞浪市にあるリニア中央新幹線のトンネル工事現場の周辺で、井戸などの水位が低下している問題で、JR東海は、代わりの水源を確保するための井戸を掘ることにしていて、その準備作業を20日から始めました。

瑞浪市大湫町では、個人の井戸やため池など14か所で水位の低下が確認され、JR東海は、近くのリニアのトンネル工事現場で水が湧き出ている影響とみています。町内では30戸以上の住民に水を供給している共同の水源も枯渇していて、JR東海は、代わりの水源を確保するため2つの井戸を掘ることを決め、このうちの1つの予定地で、樹木を伐採する作業などを20日から始めました。この場所では、深さ約150メートルの井戸を掘ることにしていますが、水の供給までには3ヶ月以上かかる見込みだということです。

また、トンネルのルートが今後、水田が広がる盆地の地下を通ることから、JR東海は、先週から深さ15メートルほどの観測用の井戸も掘っていて、水田の水位が下がった場合は、代わりの水源を確保する方針です。JR東海は、トンネルの工事をいったん中断する方針も示していますが、住民からは対応の遅れを指摘する声が出ていて、70代の男性は「工事の中断は当然だ。これまでも住民向けの説明会で工事の中断を訴える声が出ていたので遅いと思う」と話していました。瑞浪市は先週、JR東海に対し、工事を即時中断し早急な原因究明などを求める意見書を提出しています。

リニア新幹線については、前静岡県知事が大井川の水が枯渇するとして頑なに反対を貫いていたが、暴言で自ら職を辞した。その後、懸念されたことが隣県で起きたのだ。

佐賀県・嬉野温泉の源泉枯渇もトンネル工事が一因ではないかと思い調べると、それらしき資料が出てきた。資料は40頁余りの、いわゆる環境アセスメントと呼ばれるもので、工事前と工事後の環境への影響を評価・考察したものだ。2017〜2019年の調査結果が2020年8月に報告されていた。九州新幹線(武雄温泉・新大村(仮称)間)環境影響評価に係る事後調査報告(H29年度〜令和元年度)と記された資料は「独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構九州新幹線建設局」によるものだ。44頁の「予測結果及び環境保全のための措置」でトンネル工事について書かれている。

武雄温泉の温泉井戸周辺には計画路線のトンネル部はないため、影響はないものと予想される。奥嬉野温泉については、計画路線周辺に3箇所の泉源がある。計画路線に最も近い泉源は計画路線から約200m離れており、直接的な影響はないと考えられるが、断層もしくは亀裂によって透水性が良くなっている場合には、トンネル掘削によって温泉井戸の湧出量に影響を及ぼす恐れがある。

調査結果の考察では「すべての調査地点(9地点)とも、工事開始前、工事中、工事終了後の水位に大きな変化はなく、ほぼ横ばいであり、工事による影響はなかったものと考える」とのこと。武雄温泉で水位低下の話が聞かれない理由も分かる。影響はすぐにでるものと、徐々にそしてある日突然でるものがある。影響がなかったとされたのは2020年8月の時点でのこと。報告書には次の記載もある。

なお、万一、影響が認められた場合には、その原因究明に努めるとともに、「公共事業に係る工事の施工に起因する水枯渇等に生ずる損害等に係る事務処理について」に基づき適切な措置を講じるものとする。

報告書はここまで言及している。「温泉客が増えたから..」だけでいいのか?客の増加による汲みすぎではなく、トンネル工事による泉源の破壊を疑うに足る報告書だ。温泉使用の制限をかけるとともに泉源の調査も必要であろう。水位低下と使用制限のニュースは地元のみならず観光客の不安をも掻き立てる。温泉に使用制限をかけると客数に影響が出るのは必至だ。すでに報告書で触れられていたので、関係者は「ついに来たか」と対策のため秘かに奔走しているかもしれない。妄想を膨らませたコタツ記事に過ぎないが、そうであれば幸いである。

 

 
 

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