【今月のコラム】
【梅】 |
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原子力の終活--産業としての終焉 松久保 肇 地平社 |
| 2011年3月、東日本大震災による津波で、福島第一原発の1〜4号機が全電源を喪失した。続いて1・3号機が炉心溶融し、4号機は水素爆発を起こした。溶け落ちた核燃料から現在も放射性物質が空へ海へと漏れ続け、回収には300年かかるとも言われる。この事故を契機にドイツはエネルギー転換政策を推進し、脱原発を決定。2023年4月15日をもってドイツ国内の全ての原子力発電所が停止し脱原発を達成した。これから困難な廃炉作業と何万年かかるか知れない使用済み核燃料の管理が待ち受ける。 日本では原発事故の翌年の調査で原発すべて廃止24%、減らすべき42%、現状維持24%で当時は67%の人が原発への否定的意見を抱いていた。民主党政権は2012年9月、「2030年代に原発稼働ゼロ」をめざすとするエネルギー戦略を閣議決定した。しかし、12年12月の総選挙で自民党が政権復帰し、2014年4月には原発を重要なベースロード電源と位置づけるエネルギー基本計画を策定した。さらに2030年に原発の電源構成比率20〜22%を目指すとした。国民の原発忌避意識は高く達成の見通しは難しいが、エネルギー安全保障や電気料金高騰への懸念から、最近の調査では再稼働に「賛成」が4割超(約45%前後)、反対が2〜3割程度(約26%前後)という結果が出た。2025年2月、自民党は温暖化対策と抱き合わせて原発推進を明確にした。野党の立憲民主党は「新増設は認めない」とし日本維新の会、国民民主党、参政党、日本保守党は推進の立場だ。共産党、れいわ新選組、社民党は継続して原発反対を訴える。2024年元日の夜に起こった能登半島地震で、もし計画のあった珠洲原発が実現していたなら、日本は破滅的被害を受けたであろう。全国に満遍なく立地する原発の危険は誰もが恐るるに足るものだが、福一事故を忘れたかのように再稼働や増設の動きが進み、再稼働賛成が国民の4割を超えるまでになった。
「原発の電気代は安い」とのセールストークをまだ信じている人がいるかも知れない。失敗は許されないが失敗を想定した避難訓練を自治体に背負わせる。失敗したら、逃げる場所はなく、危険は誰にも平等に降り注ぐ。危険なため莫大な安全対策費が電気代に直結する。当初、原発の稼働期間は20年間くらいを想定していたが、採算がとれず10年延長、20年・・と次々にハードルを下げ最大60年達し事故の危険性は格段にあがった。福島第一原発の事故以来、再稼働ができない原発にも維持費はかかる。原発で全く発電しなかった電力会社の原発維持費は2011年度〜2023年度合計で14.8兆円だった。これを他の電源の利益と原子力支援費という税金で捻出する。1974年から2024年まで国はエネルギー種別研究開発費に総額17.6兆円支出しているが、原子力関連は11.3兆円と全体の63%にあたる。これほどコストがかかっても、あたかも原発の電気代が安いかのように偽る。原発の発電コストは安く見積もり、風力や太陽光などの変動再生エネルギーのコストは高く見積もる。火力発電による二酸化炭素の温暖化を針小棒大に指摘し、危険な原子力をクリーンエネルギーと言う。 原発は経済性を追い求め巨大化し、それに伴う安全対策も複雑で莫大な費用になる。原発の巨額なコストは電力会社だけでは負担が重く、国全体で費用を負担する制度を求めた。経済産業省は長期脱炭素電源オークションという制度を導入し、新設原発や既設原発の安全対策費を新電力顧客を含むすべての電力消費者に転嫁できるようにした。その見返りのひとつが「天下り」だ。東京新聞の記事によると、東京電力福島第一原発事故の後、電力会社や関連団体に天下りした国家公務員OBは少なくとも71人にのぼった。事故後、財政的に厳しく自粛すべき時でさえ、71人もの食客を抱えていた。 原発の必要性を温暖化防止として位置付ける動きがある。そのためには原発のCO2排出量が本当に少ないのか、仮に少なかったとして温暖化に急速かつ大幅な削減が可能かが問われる。原発のCO2は燃料の製造時のフロントエンドでの排出、原発建設時の排出、発電時の排出、使用済核燃料の処分や再処理などバックエンドでの排出、廃炉後の設備解体時の排出に大別される。
原発がクリーンとは、電力業界の希望と虹色の宣伝だ。放射性物質を燃やしてクリーンということは絶対にない。原発は計画から導入まで、稼働から廃炉までの期間が長く、出力調節に火力発電がセットになるので、いつまでも脱炭素電源への移行ができない。また、近年の気候変動で原発の停止回数が増加傾向にある。IAEAによれば1990〜1999年には計896回だった停止回数が、2010〜2019年には計3993回と4倍に増えた。台風の強大化も懸念され複数の原発で外部電源を失う事態も起こっている。また地震大国の日本の現状を考えると、危険は目前に迫っている。
1967年12月11日、国会で当時の佐藤栄作首相が「核は保有しない、核は製造もしない、核を持ち込まない」と表明し、非核三原則を国是としてきた。唯一の戦争被爆国として原発の保有はこれに触れるもので、「平和利用」との苦しい言い訳で濁してきた。日本は今、国内外に44.4トンものプルトニウムを保有する。国際的に非難されるプルトニウムを減らすために考えたのが核燃サイクルで、再処理によりウランとプルトニウムを混合したMOX燃料を原発で燃やすプルサーマル計画だ。福島第一原発事故で炉心溶融を起こした3号炉で行っていた。1993年、核燃サイクルのために青森県・六ヶ所村に使用済核燃料再処理工場を着工した。建設費は当初7600億円とされたが、2025年には3.74兆円、総事業費は15.62兆円と見積もられており、これは電気代に転嫁される。しかし、これだけの費用と30年の年月をかけてもいまだ竣工に至らず、英国やフランスに使用済核燃料の再処理を委託してきた。2010年度までに16〜18基の原発でプルサーマル発電を実施してプルトニウムを減らす計画だったが、4基に留まっている。経済性の点でプルトニウム発電から撤退する国もある。2021年、核兵器を完全に廃絶することを掲げた核兵器禁止条約が発効した。核燃サイクルは核兵器製造の基幹技術であり、再処理施設を持つ国は外国から核開発能力があると受け止められる。原子力の平和利用と詭弁を弄しても核は永遠に廃絶できない。軍事、原発問わず核物質の製造を禁止すべきだ。
ロシア・ククライナともに相手方が原発を攻撃していると非難したが、西側の情報に頼っているとロシアが非道の限りを尽くしているように錯覚する。ジュネーブ条約ではダムや原発など危険が文民たる住民に重大な損失を及ぼす攻撃を禁止している。ロシアもウクライナも共にこの条約を批准しているが、戦争が始まると双方とも相手にダメージの大きい戦略をとるだろう。日本には廃炉を決定した原発も含め60基ほどが点在し、他に六ケ所村再処理工場などの核施設もある。攻撃されずとも自ずから危険を孕むものだ。ひとつでも事故が起これば、海を越えて避難もできず阿鼻叫喚の地獄を見る。 立憲民主党の枝野氏は12/20、さいたま市内で原発のリプレース(建て替え)に理解を示す発言をした。古い原発より新しい原発が安全性が高い、基本的には動かさないのが一番だとも言った。その後、泉健太前代表もこれに同調する発言をした。立民は党の綱領に「原発ゼロ社会を一日も早く実現する」と明記している。先に懸念を示したが世論も再稼働へ傾き、政治勢力も原発容認や推進派が圧倒する。共産、れいわ、社民と立憲の一部だけで歯止めは大丈夫か?福一事故直後の恐怖と騒動をいつまでも忘れるな。年明け早々、中部電力の浜岡原発で地震データを捏造し、安全審査を受けようとしていた。審査の根底が揺らぐ不正で、原子力規制委員は安全審査を中断し中部電力に立ち入り検査を実施する方針を固めた。中部電力は「原子力事業の信頼を失墜させ、事業の根幹を揺るがしかねない事案である」と謝罪した。分かっていながら安易な不正に走り、他人事のように謝罪する。こうしなければ続けられないのが原発の宿命なのだ。そして、いずれ廃炉の日は来る。使用済核燃料の処理方法も保管場所も決まっていない。気の遠くなるほど長い期間をどう管理していくかの見通しもたたず、その費用は未来の世代へツケを回さねばならない。産業としての終焉は明らかだが、核を手にしたとき人類の終焉も見えていた。 |