【グルメとヘルシー】


テレビや雑誌などのグルメ特集は耳目を集め、集めるがゆえに更に過熱を繰り返す。料理人を、芸術家や神様扱いするほどの時代になった。同じように健康番組や雑誌なども時流に乗り続けている。日本のカロリー自給率が40%といわれて10年になる。グルメの需要を満たすためには世界中から食材が集められ、また拘りの食材と呼ばれるものがグルメの垂涎の的となり食の蘊蓄を傾ける人々も増えた。2007年8/10日農林水産省は、2006年度の食糧自給率(カロリーベース)が前年度より1ポイント低い39%だったことを発表した。40%を下回ったのは、冷夏の影響でコメが大凶作だった1993年以来13年ぶりのことだ。もはや40%を切るまでになったのは生産量の減少と、コメの消費低下に歯止めが効かなくなったからだ。豊かな食事情はコメを主食の座から追いやり、副食のひとつに化してしまった。肉や魚を主食にし、ご飯を添え物としたグルメ食は、日常の食をも席巻しつつある。穀物はコメから小麦にシフトし、主食というより菓子に近いパンを、牛乳で流し込む。主食のコメ離れが進み、いまやコメの消費量は戦後最低のレベルで推移している。日本人の食の多様化や女性の社会進出により、パンやパスタなど調理のより簡単な食事が好まれるようになったことが、コメ離れの原因と考えられている。このことが健康を語る上で欠かせないものになった。日々の食が健康を支え、病気の予防に資するという考えは根強い。しかし、美食に舌を染めると、日本型食生活の長所は分かっていても、よほどのことがない限りもとには戻り難い。

2005年のコメ生産量は907万tで、ピーク時(1967年)の1445万tに比べ37%減となった。このコメが2005年には98万t輸入されている。コメは100%自給しているものと思っていたが、1割は輸入されていたのだ。農家の戸数はここ10年で60万戸減の285万戸。人数で184万人減で556万人。作付面積は51万ha減で360万haとなった。食料は工業製品で稼いだ金で買えば済むではないかという議論も承知している。危機が訪れるかどうかはその時にならないと分からない。不安を煽り続けるより、快楽を謳歌するほうが有意義なのかも知れない。アリとキリギリスの寓話のようにいつの世にも愚民と賢人がいて、実のところどちらが賢人かは誰にもわからない。建物の耐震偽装から原発のデータ改竄、そして食の業界にも偽装や改竄が広がった。世が成熟し、危険の警鐘もなされるなら、食の安全はある程度確保されていると考えていた。しかし、中国の輸入食品に端を発した食の問題は深く広く、心胆寒からしめる事態となった。世界では飢で死ぬ人がいるというのに、食材を選べる民は幸福で贅沢なのだ。その負い目を感じても飢餓に耐えることはいまのところない。しかし、このまま変わらず続く保障は揺らぎ始めている。国は自給率の回復を叫び始め、国産の食材への希求は高まっている。未解決であるが中国の毒餃子事件は、おおよその背景があぶり出された。高濃度の農薬で汚染するなど、食を扱うという常識すら欠けるものだ。それでも中国に依存せざるをえないほど日本の自給率は惨憺たる状況にある。そして、不安を抱えながらグルメを謳歌し、一方では健康のためにとヘルシー食を志向する。この境は人の価値観によって異なる。希少な肉や魚を一流の料理人に提供してもらうことをグルメとする人もあれば、清浄かつ新鮮な食材をグルメとする人、自ら手がけた物しか信じない人など様々であろう。

食で健康を得ようとする思想は根強く意識にあるが、食からもたらされるリスクは思いのほか少ない。中西準子「環境リスク学」の資料によると喫煙の損失余命は数年〜数10年でトップであるが、ダイオキシン、メチル水銀、残留農薬などは合わせても1週間ていどである。添加物や残留農薬に神経質になっても味気ないほど役に立たないことになる。しかし、現実に起こる食中毒や農薬での死亡例や添加物などによる健康被害を考えると、切実な問題として迫ってくる。統計というのは死亡や被害の件数を人口で薄めた結果のものだ、ここに現実との違和感が生じる。統計は対策の方向性や重点項目を検討するためには欠かせないが、ある個人の上に降りかかる災いは自ら守るしかない。食の摂取や食材の選択で治る病気も現実に存在する以上、嗜好のおもむくまま野放図でいることはできない。食について仔細かつ執拗に追及する人は、損失余命1週間の数値に手を緩め、あまりにも危機意識の欠如した人は、残留農薬や添加物などの警告に身を正すべきであろう。都合の良い話であるが、統計にも現実にも根拠はあり、双方とも信じるに値し、拘るに値しないと思っている。

毒餃子事件が教訓とするように、管理が徹底されても、現場の一人の人間の不心得で水泡に帰し、危険にさらされる事を痛感した。本当に恐ろしいことだ。テロリストとなんら違いがあるだろうか。事件以降、中国製品に対する偏見や恐怖が蔓延しているが、仕方なく利用せざるを得ないのが現実だ。そして何につけ国産を連呼するようになり、自給率向上のかけ声も喧しい。20年も前、国際分業論を唱え農業壊滅に一役買った評論家もご健在だと思う。その結果が目前に迫っても、現実のものとならない限り、動きだすことはしない。金さえあれば物は買えるが、金持ちが買ったツケは国内、国外に関わらず貧者にしわ寄せが及ぶ。さて、国産とて至上のものであろうか?現場の一人の人間の不心得で危険にさらされるなら、それは日本であっても例外ではない。食品を巡る偽装は満腹になるほど聞かされた。先頃、「ニューヨークタイムズ紙が報じたアメリカFDAが輸入拒否した日本産食品508件」と書かれたある週刊誌の記事を目にする。食品のリストの主なものが挙げられていた。ブリ、冷凍イカ、冷凍タコ、さば、太刀魚、冷凍まぐろ、イサキ、鯛、カンパチ、冷凍ホタテ、冷凍オイスター、サヨリ、ホウボウ、巻き貝、かに、冷凍野菜、乾燥フルーツ、揚げ餅、チョコレートムース、あずきケーキ、ウーロン茶、アンチョビー、調理済みナス、スパゲッティ、ミルクコーヒー、あられ、ビスケット、ふりかけ、釜飯の素、味付けたけのこ、味付け大根、グミタイプキャンディー、たくあん、味付け大豆、大根漬け物・・・日常食べているありふれたものだ。

時を同じくして一冊の本が出た。郡司和夫著:「これを食べてはいけない」。著者は添加物警告の草分けだった郡司篤孝氏の子息である。10年ほど前に社会現象ともなった「買ってはいけない」本と同列のものに違いないが、多数の読者を獲得する背景には、不安なものは排除したい」、「より良いものを食べたい」という素朴な願望があるものと思う。郡司(父)氏の頃の添加物はAF-2など、危険なものが使われたが、現在は随分改善され、農薬についても毒劇物の数は激減している。このことと、先に書いた損失余命、一週間を重ね合わせ、心配無用という識者も見受けられる。食品の中味が得体知れずであれば、気持ち悪い。この気持ち悪さこそ注視、注意すべき食行動ではないだろうか。郡司(子)氏の本から例をあげて、その自衛策を紹介する。

 

食  品

心配される点

自 衛 策

古米1kgあたり防腐として5gほどの添加物が
使われる。PH調整剤・氷酢酸・ポリリン酸Na・
グリシン
産地・産年・品種を見る。偽装が多い
ので、ブランドには拘らない。確かな
産地直送を選ぶ。
コンビニの
おにぎり
古米を新米の味に近づけるための品質改良
剤を噴霧する。グリセリン脂肪酸エステル・
プロピレングリコール・グリシン
アミノ酸等の表示のないものを選ぶ。
刺身のツマ パック入りの刺身の大根は次亜塩素酸Naで
殺菌漂白、シソは残留農薬が心配される。
盛り合わせバックを避け、塩素の
臭いがしたら食べない。
マーガリン かつては植物油でつくられヘルシーとされた
が、トランス脂肪酸を含む有害食品である。
マーガリンは避け、バターを用いる。
ギョーザ 具材に使われるものが、得体不明。 原材料を揃え、手作りする。
ペットボトル茶 家庭で飲むお茶と別物。緑茶抽出物を用い
たものもあり、添加物のVitCは酸化防止剤。
手作りするか、ミネラルウォーターを
選ぶ。
コンビニ弁当 食材のコストを切り詰めるため白身魚は得体
の知れない魚や汚染したものがある。
白身魚や切り身魚は避ける。
黒豚肉 黒豚は4%しか流通していないので、偽装
が多い。
黒豚は稀であると納得して食べる。
イチゴ 皮がなく、まっすぐ果肉なので残留農薬の
心配がある。
農薬の散布状況を尋ね、よく洗って
から食べる。
ロングライフ
牛乳
本当の製造日は不明、中には一か月も前
に搾乳されたものもある。
低温殺菌やパスチャライズド牛乳を
選ぶ。
清涼飲料水 色素・香料・保存料・糖類などを多種含有。 出来るだけ飲まない。カフェインを
含むものは小児には飲ませない。
鯨 肉 イルカ肉が混ざったものがあり、食物連鎖
により水銀などで高濃度に汚染されている。
妊婦は食べないほうが良い。
おでん 練り製品にはリン酸塩や乳化剤が含まれる。 練り製品を避けて選ぶ。
パ ン 大手メーカのパンには発がん性の疑いが
ある臭素酸Kが使われているものがある。
添加物の表示を確認する。
ウナギ蒲焼 六割が中国産で違法な抗菌剤であるマラ
カイトグリーンなどが使用されている。
身がでこぼこな蒲焼は中国産。
ハ ム 水と脱脂大豆に発色剤、結着剤、保存料
など多数の添加物を使用する。
表示を確認し、添加物の多すぎる
ものは避ける。
山 菜 多くが中国産で港に雨ざらしのまま野積み
され出荷時に洗う。化学調味料や強力な
防腐剤や漂白剤が使用される。
お土産物屋の山菜は要注意。特に
注意するのは中国産のキノコ類。
冷凍コロッケ コストを下げるため質の悪い肉や偽装肉を
使うことがある。腐敗防止に亜硝酸塩や
ソルビン酸Kなどを使う。
冷凍食品はできるだけ避ける。
焼き鳥 ブロイラーや豚の内臓には抗生物質や
添加物が残留する。
地鶏専門店を探す。
サンドイッチ 保存料・合成着色料不使用と書かれてい
ても保存のためPH調整剤は使用される。
具の多いミックスサンドは避け、
シンプルなものを選ぶ。
成型ステーキ 屑肉、得体知れずの肉、脂肪、多種の添
加物で作られている。
本物と見分けがつかないので、あ
まりに安いステーキは疑う。
そ ば そば粉の7割は中国産で、これを長野で
そばにすれば信州そばになる。
産地を正しく表示したものを食べる。
インスタント
ラーメン
食品添加物の歴史が凝縮している。 インスタントラーメンは食べない。
ゆで麺・生麺 生ほど添加物の役割が大きい。乳化剤、
リン酸塩、酸味料、つゆには着色料を使う
こともある。
手作りする。外食のとき、つゆは
吸わない。
イ カ イカそうめんは東南アジア産が多い。イカフ
ライはスケソウダラのすり身とデンプン、各
種調味料で作る。
イカ加工食品は避ける。
輸入冷凍エビ 抗生物質、抗菌剤が残留し、酸化防止剤
も添加される。
むき身エビは避ける。中国産より
ベトナム、インドネシア、タイが少し
は安全。
卵製品 添加物の集合体。 コンビニ弁当など注意。
カット野菜 殺菌、洗浄方法やその薬剤が不明。 原産地表示のあるものを選ぶ。
ポテトチップス 発がん性が確認されたアクリルアミドを多
量に含む。
塩分に注意。複雑な味にはその分
添加物も多い。
生 姜 回転すしのガリには、人工甘味料、保存料
が、紅生姜には着色料などが含まれる。
産地も加工も国産を選ぶ。
魚フライ ナマズ、ブラックバスなど、得体の知れない
魚が使用される。
魚の名前を確認する。
タラバガニ 食べ放題ツアーは、アブラガニであることが
多い。
食用カニは6000種以上もあるので
名前にこだわると騙される。
関サバ・アジ 偽装防止公認シールそのものが偽装され
流通する。ノルゥエー産が暗躍する。
サバは傷みやすいので、新鮮な
ものを選ぶ。
アサリ・シジミ
・ハマグリ
1回日本の浜に撒けば国産に変身。 純国産は希少価値。
キノコ類 中国は菌床栽培のため農薬や重金属や
殺菌・殺虫剤で汚染される。国産と見分け
がつかないため偽装も多い。
産地表示とともに栽培方法も見る。
原木栽培が好ましい。
とんかつ コンンビニ弁当は脂肪が多く、衣に添加物
が多く使われる。
赤身の多いものを選ぶ。冷凍の
とんかつは避ける。
ミートボール 鶏のトサカなど原材料不明のものが使用
され、アニメの包装紙で宣伝する。
子供が好むので、表示に注意。
手作りする。
和牛しゃぶ 食べ放題肉は米国産に和牛の脂を注入し
たもの。米国産はサルモネラ菌に汚染され

ホルモン剤、農薬、抗生物質が残留する。
十分煮て、お湯は頻繁に替える。
牛 丼 牛の下腹肉で、脂身が多く安価な肉を大量
に買う。並牛丼の牛肉の原価¥51。
安い商品にはそれなりのリスクを
覚悟しておく。
健康茶 中国産が多く、衛生管理が劣悪なものが
多い。
原産地を確かめ、異物混入がない
か注意する。
健康油 ジアシルグリセロールを含むものは発がん
性がある。
花王の「健康エコナ」の油、マヨネ
ーズは注意。
カレーライス ルーには多くの添加物が使われる。 表示を見て、添加物の少ないもの
を選ぶ。
ペットフード 酸化防止剤などの添加物が使われる。 小動物はヒト以上に添加物の影響
を受けるので、表示を確認する。
チョコレート 枯葉剤残留のカカオ豆が使用されている
ことがある。
有機栽培されたカカオ豆を選ぶ。
ガ ム 酢酸ビニール樹脂を原料にした工業製品。 噛むのは短時間にしておく。
レバ刺し 飼料の添加物、汚染物質などが濃縮し
蓄積されている
出来るだけ避け、食べるときはよく
火を通す。
缶コーヒー 糖分やカフェインの取りすぎで肥満、不眠
になりやすい。
完全無糖を選び、たくさん飲まない。
アイスクリーム 脂肪や糖分が多く、添加物、着色料が使わ
れる。
植物油を使ったものは添加物も多
い。着色されたものは避ける。
肉まん 半分はラードや大豆カスが使われる。 コンビニの豚マンは表示がないの
で注意。
豆乳 大豆カスを使った加工豆乳がほとんどで、
植物油、糖類、塩、乳化剤、香料、着色料
、酸味料、強化剤などが添加される。
豆乳とだけ表示されたものを選ぶ。
フライドチキン 発がん性が確認されたアクリルアミドを多
量に含む。
チキンナゲットも同様に注意。
ウインナー
ソーセージ
中国から輸入した兎の肉を使う業者が多い。
雑多な肉が使われ、添加物も多い。
国産豚肉100%で添加物の少ない
ものを選ぶ。
醤 油 ダシ醤油などは新式醸造方式、混合方式
でつくられ、脱脂大豆を用い2〜3週間で
で出荷する。糖類や化学調味料、カラメル、
保存料が使われる。
丸大豆、小麦、食塩のみの原材料
で作られた本醸造を選ぶ。
焼肉のタレ 高温で焼くと、化学調味料が熱で発がん性
物質に変わる。
タレをつけて焼かない。
ビール 麦芽の割合が異なるだけで、ほとんどが
発泡酒同然。製造段階で使用する添加物
の数が多い。
麦芽・ホップのみ表示された
地ビールを選ぶ。
日本酒 醸造アルコール、糖類、酸味料を使った
合成酒がある。
米、米麹のみの純米酒を選ぶ。
漬 物 原料は中国産が多く、添加物、着色料など
用い、売れん残りは再利用する。
道の駅で販売されるものも注意
する。地元産かどうか確かめる。

 

「添加物は安全が確立され、少量使う分には肝臓の解毒機能が働く。それより添加物を使わないことで発生する食中毒が危険だ」という考えがある。主に食品業界の理論である。添加物はなにを隠そう企業側の都合によって利用されるものだ。自然界には存在せず、使う必要もなかった薬品を混ぜて作りあげる食品がどのようなものか想像してみよう。新鮮な食材か傷んだ食材かは不明だが、これに白い粉や色の着いた粉を加えていく。一度に食べたら健康を害する量だ。そして日本人は年間平均4kgを腹に収めているという。食品で薄められた添加物は安全かも知れないが、薄気味悪くはないだろうか。食は栄養学だけでするものではなく、人の生きざまが関わる文化でもある。危険を煽って商売に繋げようとする人々の存在もあるが、折に触れて添加物の啓蒙が発せられることもあり、無添加への根強い支持がある。これを一笑に付することは出来ない。

食事の準備に手間と時間がかからなくなった分、自ら作らないことの弊害が生じる。食を得るためにお金を稼ぎ、そのお金で世界中から食糧を買い集める。人まかせの食事情によって食品偽装や汚染の不安が現実のものとなった。多種多彩な食品を選んでいるのではない、選ばされているのだ。高級料亭で高級食材を食べる。これ以外にグルメと言えるものがあるだろうか。おおよそ金で解決できるものを私たちはグルメと呼んでいるのではないか。しかし命や健康はお金では買えない。農家には今年も減反の割り当てが来た。転作の大豆をつくっても外国の作物との競争にさらされる。自給率を上げることは農家だけの努力では不可能だ。漁業も同じく廃業寸前に追い込まれつつある。勝ち組はこれを自己責任というのかも知れないが、国?消費者?、誰が彼らの生活を補償してくれるだろう。大企業は空前の利益を手にしているというのに、何かが狂っている。需要あるところに供給あり、お金を出し続けるかぎり今のところ食は満たされる。しかし、じわじわと値を上げる食品の数々。貧富の差が開きつつある現状を考えると、やがてお金を払えない人々が淘汰されていく。すでに世界には先進国の豊かさの影を背負った人々がいる。

戦いに病み飢えし子が画面にいるせめて酒盃を置きたまえ父よ

食を語るとき、決まってこの歌が脳裏をかすめる。テレビ画面に悲惨なニュースが流れると反射的に盃や箸を置く。殺人や虐待、地震や災害によるおびただしい数の死者...
..いまだこれほど心に迫る歌を知らない。

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【追記】中国毒餃子事件は解決を見ないまま、新たな食品事件が次々と発生した。その都度騒ぎ立てるものの、やがて賞味期限が切れたかのように記憶の彼方へ遠ざかってしまう。盆が過ぎ9月に入ると、農薬やカビによる汚染米の事件が伝えられた。日に日に事件は拡大し、思わぬところに波及し、いまも収まる気配がない。たぶん、近年稀に見る食品事件に発展するものと思う。一人の不心得者やそれに同調したり流される者の居る限り、国産でも危険にさらされることを痛感した。その上、検査体制が十分ではなく、検査する側と業者に馴れ合いにも似た構図があると事実上防波堤は失われる。農水大臣は「健康になんら影響がない量だから心配はいらない..」と言うような発言をし、非難を浴びた。確かにそのとうりである。これが食品汚染を啓蒙する市民団体や学者からの言であれば、それほど違和感はなかったであろう。そもそも工業用の汚染米を食用に使用することが信じがたい。また、汚染が明らかな食物を白昼堂々と国が輸入し、業者に引き渡していたことに不信や不安が広がった。その当事者たる大臣が「心配はいらない・・」で済むはずがない。来たる選挙を考えてのことか?結局、早期の辞任に追い込まれた。辞任、辞任と騒いでいた人々は、いざ辞任すると今度は無責任、無責任といいだす始末。一部の人々であろうが、集団ヒステリー状態だ。情動に駆られて反応すると、いつの日か自分の身に振りかかることがある。いつまで続き、どう展開し、決着を迎える日はいつになるだろうか?忘却が決着であっては困る。

汚染米は何ヶ所も転々とするうちに、価格が10倍にもはねあがった。これを買わされた老舗の食品会社は、青天の霹靂であろう。長年培ったはずの、食材を吟味する職人の舌や技はほとんど機能していない。あるいは、職人の舌や技は、もともとメディアや客が作りあげた妄想なのかもしれない。純国産と表示し価格も相当なら、それを信じるのが通例であろう。以前、コラムで中国の食品事情を取り上げたが、中国では「金儲けのためなら後先を考えない」のが実状らしい。これは同じく日本でもいえることで、偽装や不正の多くは「儲かるから」やるのだ。金には代えられない信義や理念を重んじた時代もあったというのに。ひとつは、食の工業化と分業化が進み、生産者と消費者の互いの顔が見えなくなった事もある。身土不二というのは産直や自然派の用語であるが、自らの足元で育ったものが貴重な時代になった。農薬や添加物などの警告を発し続けた人々の心配が、いま顕現し始めたといって良い。「微量・少量なら健康に影響はない」と、語る識者も居るが、国や企業側から聞かされたのでは違和感は拭えない。

汚染米事件を追うように、中国でメラミン添加の粉ミルクによる乳児の健康被害が報告された。驚くことに北京オリンピックのため発表を遅らせたというのだ。5万人もの患者を出し、これは今後さらに増加するものと思われる。当初、「対岸の火事」と静観していたが、日本に輸入された原料からもメラミンが検出され、各地で製品が回収される事態へ発展した。汚染米事件に比べ実際に健康被害が出ていることが深刻である。検査体制は性善説を以て組まれているのではないか。「儲けよう」と思う者が居れば、国を問わず起りうる事件である。加工された食品の原料は、ほとんど履歴を失い、複雑な流通を経るうちに粗悪品から最高級品へ、中国産から純国産へと変貌し、食の安全を犯すものとなった。貝原益軒は養生訓で「異国より来る酒、のむべからず、性しれず、いぶかし」と書いている。酒だけではなく、異国より来る食物も「いぶかしい」ものだ。身土不二、今まさに新しい意匠を目指して語られる時が来た。(2008.Sep.)

 

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