【繁用生薬メモ(1)】
かって薬種問屋と言われた薬草専門の問屋(今は製薬会社)の扱う生薬は400〜500種類、中国で流通する生薬は5000〜10000種類といわれる。本場は桁違いの数である。日本語の出来る中医師と話す機会を得たので尋ねてみると。種類は多くても一人の中医が使う薬草の種類は300〜400種類くらいだという。日本で漢方エキス顆粒として出回っている成分生薬が約100種類である。漢方専門薬局を営むには200種類位の生薬は揃えておかなくてはならない。しかし実際繁用するのは100種類あれば充分である。さらに繁用する生薬は30種くらいに絞られる。それならこれで足りるのかと言われると、即答に窮する。たとえは悪いが10万円の資金で賭け事に興じるのと、100万円のうちの10万円で行なうのでは自ずと心構えが違ってくる。ここでは繁用生薬30種を、自分の資料整理も兼ねて書きとめています。 |
基 原 | マメ科(Leguminosae)のキバナオウギ(AstragalusmembranaceusBUNGEまたその他 同属植物の根 |
成 分 | でんぷん・糖・粘液・β-シトステロール・リノール酸・リノレン酸 |
薬 理 | 血圧降下作用・末梢血管拡張作用・抗アレルギー作用・利尿作用・強壮作用・ インターフェロン誘起作用 |
応 用 | 強壮・止汗・利尿・水腫・盗汗・口渇・四肢の痛みと麻痺 |
古 典 | 体表の水滞(異常発汗・浮腫)を治す。黄汗(関節炎や全身の浮腫のとき見られる)・ 盗汗・身体の腫れ・知覚麻痺 |
中 医 | 甘・微温/補気昇提・固表止汗・利水・消腫・托毒排膿 補気昇提:脳の興奮や筋緊張を促すため、気虚による疲労・内臓下垂脱肛・子宮脱/ 微温性のため熱証を助長するので、熱証に用いる場合は知母・玄参などを配合する |
処 方 | 黄耆建中湯・加味帰脾湯・帰耆建中湯・桂枝加黄耆湯・七物降下湯・十全大補湯・ 清心蓮子飲・人参養栄湯・半夏白朮天麻湯・防已黄耆湯・補中益気湯 |
基 原 | ミカン科(Rutaceae)のキハダPhellodendron amurense
RUPREC-HTまたはその他 同属植物の周皮を除いた樹皮 |
成 分 | ベルベリン・パルマチン・マグノフロリン・グアニジン・オバクノン・リモニン・フィトステロー ル・エステル |
薬 理 | 中枢抑制作用・鎮痙作用・健胃・抗消化性潰瘍作用・抗菌作用・止瀉作用・血圧降下 作用・抗炎症作用 |
応 用 | 苦味健胃整腸剤・打撲や炎症の鎮痛・消炎に外用(民間) |
古 典 | 殺虫作用・胃腸の炎症性病変・熱感を伴う下痢・熱性疾患による目の充血や痛みを治す |
中 医 | 苦・寒/清熱燥湿・瀉火解毒・清虚熱・涼血止血 清熱燥湿:苦寒沈降の作用により、主として下焦の湿熱に用いる。消炎・解熱・抗菌作用 寒証には用いない。黄柏は下焦、黄今は上焦、黄連は中焦の清熱 |
処 方 | 温清飲・黄連解毒湯・荊芥連翹湯・柴胡清肝湯・滋陰降火湯・七物降下湯・清暑益気湯・ 半夏白朮天麻湯・中黄膏(外用) |
黄連(オウレン)Coptidis Rhizoma | |
基 原 | キンポウゲ科(Ranunculaceae)のオウレンCoptis
japoncica MA-KINOまたはその他 同属植物の根をほとんど除いた根茎 |
成 分 | ベルベリン・コプチジン・パルマチン・マグノフロリン |
薬 理 | 鎮痛作用・鎮痙作用・健胃作用・止瀉作用・抗菌作用・抗消化性潰瘍作用・血圧降下 作用・動脈硬化予防作用・抗炎症作用・免疫賦活作用 |
応 用 | 苦味健胃整腸薬 |
古 典 | 胸苦しく、煩悶し動悸がするものを治す。みぞおちあたりの痞え嘔吐、下痢、腹部の疼痛 を治す |
中 医 | 苦・肝/清熱燥湿・瀉火解毒・涼血止血 清熱燥湿:苦味が強く強力な清熱燥湿作用があり、消炎・抗菌・解熱・鎮静し炎症性の 寒証には用いない。反佐として少量使うことがある。苦寒性が強いので、大量・長期の服用 |
処 方 | 温清飲・黄連湯・黄連解毒湯・荊芥連翹湯・柴胡清肝湯 三黄瀉心湯・清上防風湯・女神散・半夏瀉心湯 |
基 原 | マメ科(Leguminosae)のクズPueraria lobata OHWIの周皮を除いた根 |
成 分 | ダイジン・ダイゼイン・プエラリン・β-シトステロール |
薬 理 | 鎮痙作用・解熱作用・消化管運動亢進作用・降圧作用・血小板凝集阻害作用 |
応 用 | 発汗解熱剤・肩凝り・筋肉痛・葛粉の原料(食品) |
古 典 | 項や背中がこわばるものを治す |
中 医 | 甘・辛・平/解表・透疹・生津止渇・昇陽止瀉 解表:甘辛で発汗力は弱いが肌表に鬱した邪を除き解熱。胃気を高め津液を上行させる |
処 方 | 葛根湯・葛根湯加川弓辛夷・升麻葛根湯・参蘇飲 |
基 原 | マメ科(Leguminosae)のGlycyrrhiza
glabra L.var.glandulifera REGet HERDまたはその他 同属植物の根およびストロン |
成 分 | グリチルレチン酸・リクイリチン |
薬 理 | 鎮痛鎮痙作用・鎮咳作用・抗消化性潰瘍作用・胆汁排泄促進作用・肝保護作用・抗炎症 作用・抗アレルギー作用・ステロイドホルモン様作用・抗変異原性作用 |
応 用 | 矯味薬・鎮咳去痰薬・甘味料(食品) |
古 典 | 急迫症状を治す。腹部の拘攣、疼痛。手足の冷え、煩悶して落ち着かないものを治す |
中 医 | 甘・微温/補中益気・生津・緩急止痛・調和薬性・緩和薬効 補中益気:脾胃を補い食欲を益し元気をつける。大量では満中(腹満感)や浮腫の副作用 生津作用があるため、湿盛・水腫・湿熱には用いない。単独で長期使用すると浮腫を起こす |
処 方 | 諸薬との調和をとる為、殆どの漢方処方に配合される |
基 原 | バラ科(Rosaceae)のホンアンズPrunus
armeniaca L.およびアンズ P.armeniaca L.var.ansu MAXIM.またその近縁植物の種子 |
成 分 | アミグダリン・オレイン酸・エストロン・エムルシン |
薬 理 | 鎮咳作用・卵胞ホルモン様作用 |
応 用 | 鎮咳去痰薬(キョウニン水) |
古 典 | 胸に溜まった水分、痰などを治す。呼吸困難、喘息、咳を治す。息切れ、みぞおちが膨満し 痞え痛むものを治す。胸痛、浮腫を治す |
中 医 | 苦・甘・温・小毒/止咳平喘・化痰・潤腸通便 止咳平喘:肺経気分に入り辛散・苦泄・下気の働きで咳嗽・呼吸困難を改善する。有効成分 アミグダリンを含むため多量の服用でシアン中毒を起こすことがある。渋皮付きのほうが効果 |
処 方 | 桂麻各半湯・潤腸湯・神秘湯・麻黄湯・麻杏甘石湯・麻子仁丸・苓甘姜味辛夏仁湯 |
基 原 | クスノキ科(Lauraceae)のCinnamomum
cassia BLUMEまたはその他同属植物の樹皮 桂皮には幾つかの呼び名がある。中国では樹皮を肉桂としていたが現在では用いられて |
成 分 | シンナミックアルデヒド・シンナミルアセテート |
薬 理 | 解熱作用・鎮静鎮痙作用・末梢血管拡張作用・抗血栓作用・抗炎症作用・抗アレルギー 作用・抗菌作用・脂肪分解阻害作用・利尿作用 |
応 用 | 芳香性健胃薬・駆風薬・矯味薬・発汗解熱剤・鎮痛薬 |
古 典 | のぼせなど下からつき上げてくるような症状を治す。心悸亢進、頭痛、発熱、悪寒、 発汗して体の痛むものを治す |
中 医 | 辛・甘・温/辛温解表・通陽・散寒止痛 辛温解表:体表血管を拡張し発汗することで風寒表証の悪寒・頭痛・発熱・身体痛などを 陰虚・熱証には反佐として用いる以外は禁忌。発汗するので亡陽には禁忌。妊婦・出血時に |
処 方 | 葛根湯・桂枝湯・桂枝加芍薬湯・桂枝加朮附湯・桂枝加竜骨・牡蛎湯・桂枝茯苓丸・ 桂麻各半湯・五苓散・柴胡桂枝湯・十全大補湯・小建中湯・小青竜湯・桃核承気湯・ 麻黄湯・女神散・八味地黄丸・苓桂朮甘湯 |
基 原 | キク科(Compositae)のベニバナCarthamusu tinctorius L.の花期の管状花 |
成 分 | カーサミン・サフロールイエロー・脂肪油 |
薬 理 | 血圧降下作用・免疫賦活作用・抗炎症作用・子宮収縮作用 |
応 用 | 婦人病・冷え症・通経・色素(口紅) |
古 典 | オケツを除く。オケツによる痛みを治す |
中 医 | 辛・温/活血化於・通経・止痛 活血通経:微小循環を改善し、子宮筋に緊張性・律動性の収縮を起こし月経を促す。月経異常 妊婦に多量は禁忌。月経過多・出血傾向には用いない。桃仁はすべての血於に用いるが |
処 方 | 折衝飲・治頭瘡一方・通導散 |
基 原 | カヤツリグサ科(Cyperaceae)のハマスゲCyperus rotundus L.の球根 |
成 分 | シペレン・シペロル・シネオール |
薬 理 | プロスタグランディン生合成抑制作用 |
応 用 | 婦人神経症・胃腸薬 |
古 典 | 気が滞りみぞおちのあたりが痛み、膨満するものを治す |
中 医 | 辛・微苦・微甘・平/疏肝解鬱・理気止痛・調経 疏肝解鬱:肝気鬱結・気滞による憂鬱・情緒不安定・緊張・イライラ・ヒステリー・胸脇苦満・ 気陰を消耗する恐れがあるため、気虚・陰虚には単独で使用しない |
処 方 | 弓帰調血飲・香蘇散・参蘇飲・川弓茶調散・女神散 |
基 原 | セリ科(Umbelliferae)のミシマサイコBupleurum falcatum LINNEまたはその変種の根 |
成 分 | サイコサポニン・サポニゲン・オレイン酸・ステアリン酸 |
薬 理 | 中枢抑制作用・平滑筋弛緩作用・抗消化性潰瘍作用・肝障害改善作用・抗炎症作用・ 抗アレルギー作用・ステロイド様作用・脂質代謝改善作用・抗ストレス作用 |
応 用 | 往来寒熱するものの解熱剤 |
古 典 | 心窩部より胸脇部にかけて膨満感があり、抵抗・圧痛のあるものを治す。悪寒・熱が交互 に起る熱病 |
中 医 | 苦・平・微寒/疏肝解鬱・理気・清熱透表・昇発清陽 疏肝解鬱・理気:抑うつ・緊張状態を緩解し自律神経の機能を円滑にする。一般に芍薬を 寒証には用いない。陰虚には用いないが、必要なときは大量の滋陰補血薬を配合する。陰虚 |
処 方 | 乙字湯・加味逍遥散・荊芥連翹湯・柴胡桂枝湯・柴胡加竜骨・牡蛎湯・柴朴湯・四逆散・ 十味敗毒湯・小柴胡湯・神秘湯・大柴胡湯・補中益気湯・抑肝散 |
起 源 | アカネ科(Rubiaceae)のクチナシGardenia
jasminoides ELLIS.またはその他の同属植物 の果実 |
成 分 | ゲニポサイド・クロシン |
薬 理 | 鎮痛作用・瀉下作用・利胆作用・肝障害予防作用・血圧降下作用・抗動脈硬化作用・ 血液凝固抑制作用 |
応 用 | 黄疸・充血・出血・打撲に外用(民間)・着色料(食品) |
古 典 | 胸苦しいものを治す。黄疸を治す |
中 医 | 苦・寒/清熱瀉火・涼血止血・燥湿解毒・除煩 清熱瀉火:苦寒清降で心・肺・肝・三焦の火を冷ますので上・中・下全般の熱証に使用する/ 軽度の瀉下作用があるため、脾虚の軟便〜下痢には注意がいる。寒証には禁忌 |
処 方 | 茵陳蒿湯・温清飲・黄連解毒湯・加味逍遥散・五淋散・荊芥連翹湯・柴胡清肝湯・ 梔子柏皮湯・清上防風湯・清肺湯・防風通聖散・竜胆瀉肝湯 |
基 原 | ゴマノハグサ科(Scrophulariaceae)のアカヤジオウRehmanniaglutinosa
glutinosa LIBOSCH.var.purupurea MAKINO.またはその他同属植物の根をそのまま乾燥(乾地黄) または蒸した(熟地黄)もの 日本で流通する地黄には乾地黄と熟地黄があり、地黄とは主に乾(乾燥)地黄をさす。中薬 |
成 分 | スタキオース・マンニット・β-シトステロール |
薬 理 | 血糖降下作用・血液凝固抑制作用・利尿作用・緩下作用 |
応 用 | 補血・強壮・貧血・止血 |
古 典 | 血液に関連して起こる種々の症候を治す。水分代謝・循環障害を治す |
中 医 | 乾:甘・苦・寒/清熱滋陰・涼血・潤腸通便/熟地黄:甘・微温/補血滋陰・潤腸通便 <乾地黄> <熟地黄> 滋膩性のため消化管にもたれ吸収されにくいので、陳皮・縮砂など配合する。脾胃気虚・陽虚 |
処 方 | 温清飲・弓帰膠艾湯・荊芥連翹湯・牛膝腎気丸・五淋散・柴胡清肝湯・滋陰降火湯・ 七物降下湯・四物湯・炙甘草湯・十全大補湯・潤腸湯・消風散・疎経活血湯・当帰飲子・ 人参養栄湯・八味地黄丸・竜胆瀉肝湯・六味地黄丸 |
基 原 | ボタン科(Paeoniaceae)のシャクヤクPaeonia
lactiflora PALL.の根 芍薬に関して、日本漢方では産地を良品か否かの目安にするが、中薬では芍薬の根を赤芍、 |
成 分 | ペオニフロリン・モノテルペン・タンニン |
薬 理 | 鎮静鎮痙鎮痛作用・末梢血管拡張作用・抗炎症作用・抗アレルギー作用・免疫賦活作用・ 胃腸運動促進作用・抗胃潰瘍作用・抗菌作用 |
応 用 | 頭痛・神経痛・胃痙攣 |
古 典 | 筋肉が硬くなってひきつるものを治す。腹痛、頭痛、知覚麻痺、疼痛、腹部膨満、咳、 下痢、化膿性のできものを治す |
中 医 | 酸・苦・微寒/補血斂陰・調経・緩急止痛・柔肝・平肝 <白芍> 微寒性なので、陽虚には単独で用いない。寒証の腹痛には散寒薬と併用するか、酒炒りして <赤芍>苦・微寒/清熱涼血・活血散於・止痛・清肝明目 寒証の血於には、十分な量の散寒薬を併用する。補血が必要な場合は芍薬(白)と伴に |
処 方 | 温清飲・黄耆建中湯・葛根湯・加味逍遥散・弓帰膠艾湯・桂枝湯・桂枝加芍薬湯・ 桂枝加朮附湯・桂枝茯苓丸・桂麻各半湯・五積散・柴胡桂枝湯・柴胡清肝湯・四逆散・ 七物降下湯・四物湯・芍薬甘草湯・十全大補湯・小建中湯・小青竜湯・真武湯・大柴胡湯・ 当帰飲子・当帰芍薬散・人参養栄湯・排膿散・防風通聖散・麻子仁丸 |
基 原 | ドクダミ科(Saururaceae)のドクダミHouttuynia cordataTHUMBの花期の地上部 |
成 分 | デカノイルアセトアルデヒド・クエルチトリン |
薬 理 | 中枢抑制作用・利尿作用 |
応 用 | 緩下剤・利尿剤・毒下し(民間) |
古 典 | 熱毒を下し、腫れものを治す |
中 医 | 辛・微寒/清熱解毒・消癰腫・化湿(中薬では魚腥草という) 清熱解毒・消癰腫:消炎・排膿作用があり化膿症全般に使用する。肺化膿症には桔梗を、 長時間煎じてはならない。生は特有の臭気があるが、乾燥物は芳香があり苦味もなく服用 |
処 方 | 諸々の方剤に加方として用いる |
基 原 | ショウガ科(Zingiberaceae)のショウガZingiber
officinale ROSCOEの根茎 中国では生のひねしょうがを生姜というが、日本では乾燥したひねしょうがを含めて生姜と |
成 分 | ジンギベロール・ジンゲロン・ショウガオール |
薬 理 | 中枢抑制作用・解熱作用・鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用・鎮吐作用・鎮痙作用・唾液 分泌亢進作用・抗消化性潰瘍作用・腸管内輸送促進作用・抗炎症作用・強心作用 |
応 用 | 芳香性辛味健胃薬 |
古 典 | 吐気、嘔気するものを治す。乾嘔、おくび、しゃっくりなどを治す |
中 医 | 辛・微温/辛温解表・化痰燥湿・温中止嘔・解毒 辛温解表:表寒の悪寒・発熱・頭痛・身体痛・無汗又は自汗に麻黄・桂皮・紫蘇葉・白止・ 胃陰虚の乾嘔には禁忌。熱証には、通陽に少量用いる以外は禁忌。燥性があるため陰虚・ |
処 方 | 殆どの漢方処方に配合される |
【参考図書】 常用漢薬ハンドブック 神戸中医学研究会編 /生薬ハンドブック 津村順天堂/平成薬証論 渡辺 武 /生薬学 長沢元夫共著 |
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