【仕事周辺Q&A】


「漢方薬局は近づき難い」というのが、無視できないくらい頻繁に聞かれます。相談を受けて、漢方薬や薬草を購入いただいた後で「近づき難いと思っていたが、そうでもないですね」と感想をもらされると、ほっと一安心します。仕事周辺を語り始めると、鬱陶しい愚痴にもなりかねず躊躇されるところです。しかし、漢方薬局の正直な気持ちも伝えておきたいと思います。

野原や山に行けば容易に入手でき、かっては誰もが民間療法として使っていた薬草が、薬局の手に委ねられるようになり、その為に薬草への馴染みが薄くなったような気もします。「素人判断は危険」と言い薬草の使用をためらわせてはいないのか?その一方で「近づき難い」「高額な代金を請求されそう」「他の物まで買わされそう」...このような負のイメージも抱かせるなら薬局にも大きな責任があるのではないか?

医療現場の漢方と異なり薬局漢方は、医療行為を禁ずる規制のなかで行なわれるものです。病気のため、健康のためとはいえ商売でもあり、それが近づき難い遠因となっているのかも知れません。純粋にお客様の健康や利便を考えて商売を行なっているかどうか自信はありません。生活や利益に曇らされない理想は追い求めても、悩みや困難は伴います。

 

漢方専門薬局(1)
(専門の表示について)
漢方専門薬局(2)
(専門の中身について)
薬局での診察行為
漢方薬の値段(1)
(他業種との比較)
漢方薬の値段(2)
(小分けについて)
漢方薬の値段(3)
(保険は利くか)

 


漢方専門薬局(1)
(専門の表示について)

薬局は一種類しかありません。調剤薬局、一般販売、漢方専門と業態は異なっても都道府県知事の許可を受けて営業しています。現在では薬局の申請に漢方専門などの文字を入れるのは認められなくなっています。漢方専門とか薬草専門などは薬局が勝手に表示しているに過ぎません。これに対する規制は今のところありません。

さらに漢方薬剤師などという資格もありません。中薬師、中医師、漢方認定薬剤師、、、などのライセンスを表示しても、国が正しく認定しているものではありません。薬剤師であれば、一定の条件をみたすかぎり誰でも薬局を開く事ができます。そして薬局医薬品製造業の申請をすれば、400種近い製剤を製造し販売が出来ます。処方や分量が決められているので分量や配合を変える事は許されません。製造したものは製品として成分・分量、用法・用量、効能・効果、使用上の注意などを表示するように決められています。

この400種近い製剤の一部として漢方処方が180処方ほど認められ、薬局漢方はこの範囲で営業しています。特効薬や家伝薬、秘伝、加減合法などは一切認められていません。

漢方薬は安全、安心というイメージで一定の需要があるため、漢方薬を扱っていない薬局・薬店は殆どないと思われます。扱っているから専門薬局とは言いません。漢方専門を標榜する薬局は、薬局製剤の漢方薬を中心に据え営業を続けていますその中でも(1)煎じ薬のみ扱う薬局(2)煎じ薬もエキス製剤も扱う薬局、(3)他の医薬品や健康食品まで扱う薬局などがあります。

専門の表示は公的には認めらていませんが、黙認されています。専門とは言い難い内容にも関わらず標榜する例もあります。少なくとも私は生薬や煎じ薬を扱わない薬局を漢方専門とは言いません。

漢方専門薬局(2)
(専門の中身について)

6年程前出版された「はるかなる東洋医学へ」本多勝一 著に、インチキ東洋医学の特徴という項目があります。さすが辛口のジャーナリストだけあって厳しいものです。氏は薬剤師でもあります。インチキには最初から悪意のあるものと、悪意はなくむしろ善意さえあるのに結果的にインチキであるものに分けられる。悪意あるインチキ東洋医学には次のような特徴があるそうです。
  • 「何でも治る」とする型のもの。肩こりから始まってガンや
    リウマチにいたるまで、あらゆる難病が治る。
  • 異様に大金をとる。この点はインチキ宗教やカルトにも
    似ていて、治らないと「お布施が足りないから」に類する
    口実を使ったりする。
  • 異様に宣伝をする。東洋医学の欠点の一つは、治療を
    「合理化」して一度に多数の患者をみる事ができない。
    しかし、宣伝してまで「客」を集めようとする裏には魂胆
    がある。

インチキ東洋医学が医療機関で行なわれると、保険で検査、治療、投薬が出来るだけに、大規模になり、被害認識のないこともあります。気功や食養などを取り入れ代替医療を標榜する医療機関にしばしば見られます。ガンが治ると言った時点で「怪しい」と疑うべきでしょう。治ったというガンは、画像診断のミスや初期のポリープであったりする訳です。4人に1人がガンで死んでいるのが現状なのに、どうして「治る」などと言えましょうか。

薬局は規模が小さいので被害も少なく、被害が出る前に薬代が続かないことが幸いします。漢方薬局の中でも漢方薬の他に人参、牛黄などの高額な製品を抱き合わせて勧める薬局ヘ行くと、1日の薬代が1万円を超えるものになります。漢方薬局の常識的な薬代は1日分250〜500円なので異様に高額といわざるを得ません。体全体のバランスを調整すると説明しながら、何故漢方薬一本で出来ないのでしょ
うか?

専門薬局の中には漢方に関するかぎり医師に比肩するほど学習を続けている薬剤師が居ます。自信も相当なもので、これらの人々から西洋医学への批判がしばしば聞かれます。医師とは言えない、しかし薬剤師よりかは医療行為もどきに関わるので、治療師とでも呼ぶべきなのかも知れません。医師さながらにカルテ(相談表)に処方を書き込み「これを服みなさい」と代金を請求します。

万事、順風満帆に運んでいるうちには問題もないでしょう。しかし副作用に相当するもの、処方の不適合、元々漢方ではどうする事も出来ない病気に必ず遭遇します。自信満々に西洋医学を批判する建前上、「医師の診断を....」など口が裂けても言えません。ここが問題なのです。薬局での診断(正しくは相談)は問診だけしか許されていません。意欲ある人はベッドを用意し腹診や脈診に取り組みますが、これは違法行為です。鍼灸師の資格を取得してこれを行なう例もあります。いずれにしても腹診や脈診で診断できる範囲には限界があります。その限界は西洋医学の診断と比すべくもなく原始的で稚拙で、ひたすら熟練と勘と偶然の的中に頼るものです。

このことが漢方に熱心な専門薬局の注意点です。漢方薬で可能か不可能か、他の重篤な病気の恐れはないか、見逃しはないか、そして、いくらかでも気になる症状があれば、ためらうことなく医師の受診を勧める勇気が要求される所です。改善されない病状にも関わらず、いつまでも漢方薬に客を引き留めておくことは戒めたいものです。

薬局での診察行為

漢方では伝統的に四診(望・聞・問・切)という診断を行なってきました。検査機器のなかった頃の感覚と観察による経験の精華であろうと思います。これを生かす意義は十分にあります。医師漢方ではルーチン化され、最新の検査と共に診断の材料とされています。ここが薬局漢方との大きな違いです。

望診--目で見て診断、聞診--耳で聞いて診断、問診--質問して診断切診--体に触れて診断。医師でなければ診察は許されないので、薬局での相談の助けとなるのは問診までになります。必要があれば、切診で得られる情報を、問診として聞き出す事も出来ます。法律は厳しいものでサービスで血圧を測定するのも不自由です。これが薬の販売に結びつけば医療行為とみなされる事があります。

他には、代替医療の分野で繁用されるOリングテストがあります。正しくはバイ・ディジタルO-リングテストと呼ばれ、正式な研究会もあります。「なぜかよく当たる..」という驚嘆の声も聞かれますが、残念なことに医学界では全く評価されていません。一部の興味ある医師や治療家の間で試みられているに過ぎません。東洋医学会でさえこの手の研究発表を規制するくらい胡散臭いものがあります。道具も殆ど要らず簡単なのでスタイルを変えた亜種も出ています。波動計や経絡測定器などで擬似診断行為をする場合もありますが、いずれも一般の医師は用いないものです。

これらを予備検査として、再度通常の検査で検証するならまだしも、この診断?だけで肝臓が悪い、腎臓が悪い、ストレスが溜まっているなど言われても信じる訳にはいきません。しかし、普通の人であれば信じてしまうものです。医師の前で「肝臓が悪いと言われました」と訴え失笑をかう事もあります。Oリングや奇妙な器械などの情報を元に何らかの診断をするなら、正当で広く用いられる機器での再検証を怠ってはならないと思います。

他にも名前の画数や音韻による診断、筮竹によるもの、人相によるものなどあります。なんら検査の方策もなく、診断も許されないための苦肉の策といえなくもありません。

怪しい診断行為については医療無資格者のほうが野放し状態かも知れません。祈祷所の教祖は東洋医学の知識すらないのに、「お告げ」のみの情報で診断、治療の指示をします。これも無事解決しているうちは問題はおこりませんが、宗教と医療が結びつく事によって、社会問題へと発展する例は幾度となく繰り返されてきた事です

無資格者にも警戒はいりますが、影響の大きさを考えると有資格者には、更に厳しくあらねばならないし有資格者ならば一層襟を正して取り組むべきかと思います。

漢方薬の値段(1)
(他業種との比較)

いくらかためらいがちに質問されるのが漢方薬の値段です。金の事を話すのは慎みに欠けるという道徳があるのかどうか知りませんが、私は繰り返し費用対効果による薬の選択をお話ししています。医療経済学とでも言うべき内容の本も見受けられるようになりました。

「漢方薬は高い」という正直な意見には、もう少し耳を傾けなければならないと思います。同じ処方を同じ生薬問屋の薬草で調合しても薬局によって相当の価格差があります。これは、薬局がどれだけの利益を適正と見なすかの経営方針でもあるので、憶測で立ち入った話は出来ません。

「儲けのカラクリ」という一冊の文庫本を手にしています。最近はこのように内部事情を暴露する本も沢山出版されるようになりました。いくらか紹介してみます。コーヒー1杯の原価は20%、定価400円で80円になります。利益の320円は初期投資の償却費であったり、家賃、光熱費店舗改装費、従業員給料、、、など多くの経費の支払いに当てられ残った分が給料になります。ラーメンの原価率は25〜35%、カレー30%、、、ところがガソリンなどは100円のうちの粗利益は8円しかありません。130円のカップラーメンの粗利益は15円。酒のディスカウント店など原価を下回るビールを売って、他の利益のある酒を買って頂き帳尻を合わせるという商売もあります。ビールだけを買って帰る客がさぞ恨めしいことでしょう。クレームやサービス不足を訴えられようものなら逆上してしまいそうです。

本には美容室や理容室も書かれてありました。見出しには「パーマの原価は10%、残りは技術料とおしゃべり代?」と、、10%ならコーヒーに近いではないか、となりますがパーマ代10000円のうちの9000円が粗利益といえば驚きです。もう一つ、技術の関わる仕事で動物病院。これには診療料金を決める公的な基準がありません。犬猫の不妊手術で5000円未満から5万円以上まであるといいます。皮肉な解釈をするなら技術も低く薬品や設備の投資も低くして、5万円の請求をする事も考えられなくはありません。

薬品業界のうちスーパードラッグや薬のディスカウント店などは、ガソリンやカップラーメン、酒などと変わらないほどの利益率ではないかと思われます。しかし、漢方専門薬局は、間違いなく後に述べた美容室や動物病院のカテゴリーに分類されるでしょう。

原価から定価を決定する手続きの商売ばかりではありません。客数、経費、手間賃などから決定される定価もあります。その意味で漢方薬の代金は普通に言うところの定価ではありません。知識を売る商売で相談料を請求できるのは限られています。出来ないからその分を漢方薬の価格に転嫁します。相談料とでもいえる価格が1日分250〜500円なのです。この数字は、ネットで検索したり、問屋を通じて調査した最も一般的な価格帯です。保険診療を捨て、自由診療をしている医師の漢方薬でさえ500円くらいなので、これを超えるものはなんらかの特殊な事情が考えられます。

漢方薬の値段(2)
(小分けについて)

開業時から生薬の小分け販売をしているので当然だと思っていました。ところが、お客様からの話を伺うと、どうやら小分け販売をしないのが漢方薬局の常識らしい。「500g単位でしか販売できません」と言われ、わずか10gしか必要ないのに仕方なく500gを買った人、仕方なく諦める人様々です。調剤をしているならば封を開けたものがあるだろうに...「手元にあり、求められるものを、何故販売できないのでしょう?」このような質問を投げかけられるたびに、回答に窮します。

前項で述べたように、漢方薬は原価(卸値)から導かれる価格体系で販売するところが少ないのです。特に漢方専門を標榜していると、相談に相当の時間が割かれます。病院のように順番待ちの患者を3分でさばくようにはいかないし、そうしない事での存在意義があるのです。1日に応じることのできる客数は自ずと限界がみえてきます。生活の為、家賃の為、光熱費の為、税金支払いの為、従業員給料の為、広告宣伝費の為、店舗改装の為、、、この項目と額が増えるほど、収入を確保しなければなりません。そこから導かれる価格が漢方薬の代金になります。

だからといって法外な価格で良いとは思いません。常識的な価格帯でなければやがてお客様に淘汰されるでしょう。漢方薬は必要に応じて別途、薬草を追加したり、服用後、味や臭気の不快感、時には副作用の問題で変更、交換を余儀なくされます。このような対応も考慮に入れた価格なのです。従って返品や交換、多少の薬草の追加には殆どの薬局が無料で応じている事と思われます。

小分け販売は、この価格体系を破壊するのではないか?と薬局側が一方的に恐れているのではないでしょうか。お客様が自己責任で買い求められる以上、相談も販売後の心配も少なくて済みます。小分け販売に応じても、相談客が減るような事はまずありません。薬局の利用が増え、お客様を薬草療法に近づける足がかりになるのではないかと思います。専門薬局は漢方の普及を叫びながら、客を薬草から遠ざけていはしないか再考を要するところです。

漢方薬の値段(3)
(保険は利くか)

温心堂で煎じ薬7日分を調剤すると2100円になります。「薬代が高いので、保険は利きませんか?」この質問はよくあります。電話で、いきなり「保険が利くなら欲しい」と言われることもあります。保険は利きますがいくつかの条件をクリアしなければなりません。私はかって10年間ほど煎じ薬の保険調剤を行なっていました。保険制度の度重なる変更に頭がついていかず、又計算に調剤する以上の手間がかかるのに耐え切れず放棄しました。一人で細々と営業していると、他にも色々な事情が絡み切り捨てなければならない仕事も出てきます。

現在、保険薬価基準に200余種の生薬と生薬末が収載されています。収載されているものは医師の処方に基づいて調剤ができ、3割の負担で漢方薬が入手できます。しかし、医師の漢方は殆どがエキス顆粒や錠剤による処方です。このため煎じ薬の処方の出来る医師を探しだす必要があります。また求める生薬が薬価収載されていないものであれば保険は使えません。自分の求める漢方処方を医師に書いてもらうのが常識的なのかどうかも考慮に値します。

煎じ薬の処方のできる医師は自前の薬局や調剤薬局を利用し、既に煎じ薬での診療を行なっています。そのような医療機関を探すのが、最もお勧めの方法です。従って、煎じ薬も保険が利きますが、薬局に直行されても期待には添えない事になります。

 

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