【食の安全(1)】


食の安全 心配御無用!渡辺 宏 著 −2003年のコラムより−

食の危険を謳ったり、食によって健康を実現させようという意図の書物は巷に溢れ返っている。その対策や安全な食生活、食材の求め方、さらには安全対策のための薬や薬草サプリメント、さらに療法にまで言及するメディアまである。先月のコラムで「食を知り学びつつも、それに拘らない大らかさがあってもいい。」と結んだ。温心堂Webページでも、添加物や農薬、環境ホルモン(内分泌撹乱物質)、放射線、遺伝子組換え作物などの食生活を脅かすテーマを取りあげているが、拘る余り、生を養う筈の楽しい食生活が萎縮してはならない。

食の危機を主張するものと対極を為す本の題名であるが、著者は長年、生活共同組
合で仕入れを担当されたかたでもある。例えば、添加物についても、本当に危険なものとそうでない物がある。農薬や環境ホルモンなどに関しては完全に排除する事は不可能である。などと述べておられるのを読めば、妥協に満ちたものに感じられるかも知れない。しかし、科学と経験の目で見据えた著者の冷静な観察に納得させられる。流通に携わった人だけに、添加物や農薬の害より、直ちに危険が生じる食中毒の問題を警戒し、それこそ「本当の危険」と、終始一貫して主張されている。

○○は良いという情報によって行動に走る事は警戒を要するが、おなじく○○は危険という情報によって行動に走る事も警戒を要する。無添加とか無農薬、国産などという文言で、実態も把握しないまま空疎な消費に駆り立てられてはいないか、しばし立ち止まって考えて見たい。本は「インチキ情報にだまされるな」で始まる。危険や不安を煽り得をするのは誰か?危険や不安のネタはダイオキシン、環境ホルモン、遺伝子組換え作物、添加物、放射線、農薬、抗生物質等が多く、これらの排除を目指す価値はあるものの過度に煽り立て、表示だけ無農薬・国産を謳う。一部ではあろうが、自然派を標榜する食品店や料理教室、食の危険で脅し患者を集める代替医療、あるいは単にTVの視聴率や本の売り上げ部数を伸ばす人々が利益を手にする。

以前のコラムで取りあげた「食べるな、危険!」とつき合わせて読めば食を取り巻く陰陽の両面が見えてくる。

 

【食品添加物】

保存料の代表として取り上げられるソルビン酸のラットを使った半数致死量は10.5g/kg。50kgの動物で525gを食べると半数が死ぬ。ところが食塩は8.0〜10.0g/kg。50kgの動物で450g〜500gを食べると半数が死ぬ計算になる。ソルビン酸も食塩も毒性にそれほど差異はない。500gも一度に食べる筈もなく、実際は100gの製品に最大で0.2g使われるだけである。酢は15g、煙草のニコチンは1.5gが半数致死量。煙草を嗜む自然派がソルビン酸に怯えるのも滑稽な気がしないではない。

有名な春の山菜である「わらび」「フキノトウ」。これらには明らかな発癌物質が含まれている。これを危険だとして法律で禁じる動きはない。せいぜい食べ過ぎないようにの警告程度である。自然のものは伝統的に食べ続けて来たためその解毒機構が体に備わっているという議論があるが、毒物の9割以上が自然界由来のものである。化学合成された添加物とはいえ著しく構造が違うものでもなく、肝臓での解毒も行われる。むしろ根拠のない理屈で自然毒を容認する事こそ危険である。

夏、常温でも食品が腐らないとして使われたAF-2は発癌性の疑いで既に使用禁止になった。これらのものと比べるとソルビン酸は恐れるに足りない。化学物質を、人が怖がるであろう発癌性に結びつけるのは他の意図があるからに違いない。将来において発癌性が認められるかも知れないが、このように話を拡大してゆくと、完璧に安全なものなどひとつもない。ある程度の危険のなかで生きてゆくのが生物の運命だともいえる。

それより、食品を流通させる上で起こる変敗、腐敗こそがもっとも大事な課題なのである。家庭で調理したものは、夏場であれば直ちに傷みが始まる。冷蔵したとしてもそれほど長く持ちはしない。加工食品や惣菜など利用するには一定の保存料が力を発揮してくれる。食中毒で苦しむか、微量の保存料に恐れるかの選択である。無ければ無いに超した事のない添加物であるが...

添加物を使う問題のひとつは、粗悪な食材の偽装である。品質の劣化した食材の再利用に使われる事である。どんな業界にも困った人達がいるものである。

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添加物の中でも危険なのは、食肉やハムなどに使われる亜硝酸塩である。正しくは、摂取した体の中で二次的に発癌物質を作りだしてしまう。これは肉食文化圏で保存料としてボツリヌス中毒を防ぐ意味があったと言われている。いまは専ら見栄えの為の発色剤として使われる。この点で無添加ハムというのは有難いが、危険な亜硝酸塩だけが無添加であって、他の結着剤、防腐剤、調味料などの添加物は使ってある。

体で亜硝酸塩と同じ振る舞いをする野菜の硝酸塩についても記述がある。野菜1kgの硝酸塩・・・ほうれん草3560mg、ごぼう2350mg、白菜1040mgレタス634mg、キャベツ435mg、大根106mg等である。ハムの亜硝酸の使用基準値は最大で70mg/1kgである。いずれも食べる量を勘案し比較するなら、野菜のほうからはるかに多くの硝酸塩を摂取している事になる。自然、天然、という文字列が「善」で、化学、合成というのは「悪」という構図でのみ対処し続けて良いのだろうか?

無農薬野菜

中国野菜から使用してはいけない農薬が高濃度で検出され問題になった。しかし、一般に農産物を輸出する国は、色々な国の農薬基準を満たす必要があるため厳しい運用基準であるという。中国の場合は例外的な事件であった。一方、輸入のみの日本は自国の基準だけを考えればよい事になる。この点で、国産=安全とはいえない。無登録の農薬使用で作物が廃棄処分になるという勿体無い事件は記憶に新しい。

農薬が適正に使用されている保障のないことが多い、メーカーや指導者、個々の農家のどこが問題なのか定かではないが、200倍希釈の指示にも関わらず、よく効くように、1回で済むように、と100倍希釈で散布したり、厚く散布する事が実際に行われている。出荷直前の散布も良く聞く話である。消費者以上に農家も被害者なのである。ハウスという密室で防御措置も取らないままの作業は日常茶飯事に行われている。完全無農薬は困難でも、比較的毒性の緩和な農薬の適切な使用の啓蒙を、効果的に続けるべきである。

散布し続けられた農薬は環境中に拡散している為、もはや完全無農薬など夢のまた夢である。無農薬やオーガニックの作物からも農薬が検出される一因である。環境中に拡散した農薬、周囲で散布する農薬の働きでオーガニック農産物が成り立つという皮肉な意見もある。できればオーガニックに超したことはないが、作業に費やす労力や価格ほど意味があるのだろうか?無農薬作物には認証制度がないが、オーガニックには民間の認証団体がある。しかし認証にコストがかかるなどの理由で、今までより流通量は減少しているという。認証団体功成り万骨枯れるにならなければ良いが。

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農薬を使わないオーガニックでは、それに替わる木酢液というのをよく利用する。同じ物に竹酢液がある。炭を焼く時に出る煙の中の揮発成分を液体にしたもので、成分の中には毒性の強いホルマリンや発癌性のあるタールも含まれている。これが農薬より危険である。そして、目下これらは野放し状態である。アトピーに効くとして入浴剤に応用したり薄めて直接塗ったりするケースもあるが注意を喚起したいところである。

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遺伝子組換え作物は厳密な安全性のチェックをすれば安全だと述べてあるが私は、除草剤耐性を獲得し、強力な除草剤の散布された食物など飢えが目前に迫らない限り食べる気がしない。さらに、安全性のチェックにも不安がある。

しかし、著者が許せないのはこうしたことではないらしい。遺伝子組換え技術を一部の企業が独占することにより、企業による世界農業の支配という危ない事態をまねく可能性を恐れ、かつ作物の中に組み込まれた遺伝子が他の種へと、自然界へと、拡散するのを恐れるという。

自然食品

食物のイメージを高める言葉の数々がある。自然食品はその代表で、ほかに無農薬、有機、国産、天然、、少し詳しい人向けには、一番しぼり、長期熟成、本醸造、、、これらの語句を背負った商品を悪く言う人は少ない。高くても健康の為にとばかり、出費を惜しまない。しかし、これらの意味や内容を熟知している人は少なく、ただ言葉のみに反応し、時には無意味で無駄な消費に駆り立てられる事も少なくない。イメージだけの空虚なもので、単に高く売る為の広告の意味合いが強い。言葉を知らない人は当然解からないが、少し知識を持ち合わせた人達の知識を、逆手にとって欺く広告と言えなくもない。

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国産小麦は輸入小麦より安いのだが、自然食品店では輸入小麦の倍以上の値段である。生産者の保護の為政府が国産小麦を買い上げ、輸入小麦と抱き合わせて製粉業者に押し付けて来た為だという。国産の小麦は品質が悪く用途が限られているらしい。輸入物をメリケン粉、国産物をうどん粉と区別していたものの「うどん」でさえ現在国産は使われなくなった。これでパンを作るのは至難の業で、パンを膨らますため、別の小麦から取り出したグルテンを添加する。国産小麦とうたったラーメン、スパゲティ、、、などグルテンの添加なしには食べられるような物は出来ない。そのグルテンは輸入小麦から抽出されるのである。

輸入小麦が敬遠される理由はポストハーベストの問題であるが、基準値以下でも許せないのが自然派の常である。基準値があってもいずれ蹂躪され、数値の境界も曖昧になるという主張もある。この点ではゼロを目指すべき意義はあるが、現実に添加しているグルテンは既に輸入物を使っているのだから食生活上避けられない現実である。

「国産だから品質がいい」と言うのは単なる信仰に過ぎない。国産に拘るあまり偽装事件も発生している。そして今でも産地を偽る表示は堂々と横行している。グルメに珍重される国産霜降り肉など、実は80〜90%が脂肪のカロリーで健康に良いなどとは到底いえない。何の品質やらと言わねばならない。

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スローフードとは伝統の食や食材をライフスタイルにという動きである。私も大いに賛同するところだが、これも商利用されている。それがダメだというのではない。伝統も手放しで「善」とする訳にはいかない。伝統の食材であれば、先人が長く食べ続けて来たので安全性が確立しているという考えは根強くある。

ところが伝統的製法で作られ続けてきたものの中に危険なものが見つかったのだ。在来種のナタネ油に含まれる心臓を肥大させ心臓病を引き起すエルシン酸という物質である。科学技術の進歩がなければ害があるとも気づかず、伝統食は「善」として利用しつづけたのであろう。自然や伝統を最大限生かすためにも科学的な検証は欠かせない。現在は品種改良され危険性の少ないものが出回っている。

このナタネ油やごま油、大豆油などに「一番搾り」の表示を見かける。一番搾りは圧搾法で抽出し、まだ残っている油を二番搾りとして溶媒を使って抽出する。この一番搾りと二番搾りをブレンドして商品化するのだが、一番搾りだけだと二番搾りの油のロスの分価格に転嫁される事になる。そして商品価値を失った二番搾りの油が残るのである。自然食派と環境保護派は層として重なるのではないか?このように考えると資源の無駄を出しつつも環境の保護を訴える人々のエゴを感じてしまう。金を払って良いものを手に入れると言う行動には一考を要する。

同じく丸大豆醤油。普通に流通しているものは脱脂大豆を醸造して醤油を作るが丸大豆醤油はそのまま仕込む。すると油脂分が浮き発酵の邪魔をし発酵に時間もかかる。その上、油は産業廃棄物となってしまう。脱脂大豆=大豆油+醤油、丸大豆=産業廃棄物+醤油という図式になる。脱脂大豆醤油も味や製法の点でなんら変わりはないのだが、高価な丸大豆醤油を使い続けられる人はある種のグルメといえるかも知れない。そしてグルメとはある無駄の上に成り立っているのである。

リサイクル

リサイクルとは聞こえは良いが、コストを考慮すれば相当割高になるものがある。リサイクルできるという安心感で消費を促す企業戦略もあるくらいだ。また何でもリサイクルに適しているとは言えない。しかし嫌われているものの中でよくトレイの回収が行われている発泡スチロールは意外に有益である。これを燃やすと黒い煤が出てくるのでダイオキシンが発生するかのような錯覚を与えるが、スチロール樹脂は塩素を含まないので単独でダイオキシン発生の原因とはならない。だからどんどん燃やそうというのではない。これは殆どが空気でプラスチックの量はわずかで済む。その上リサイクルして再利用が簡単である。嫌われるのは環境ホルモン騒動のときの後遺症である。

これが消費者に嫌われ、カップラーメンの容器を紙に替える動きがあった。紙は天然という安心感があるが、紙を作る過程でかなり沢山の化学物質を使うのである。漂白剤などは塩素化合物であり、容器中に微量だが残留する。また、紙の表層にはポリエチレンのラミネートを施すので純粋に紙容器とは言えない。見かけばかりの紙容器である。著者は「専門家は素人以上によく考え問題解決のための努力をしています。」と記しておられる。だから「思い込みだけで批判するのはフェアでない。」と、、確かに、そのとうりだ。プロほど熟知し研究し検討している人々は居ない。だだし、善意のプロであれば、、、である。その知識が売上や利益に曇らされた場合、その知識は凶器ともなる。かって、食品を巡るいくつもの事件がプロの側から引き起こされている。

カーソンの「沈黙の春」以来の警世の書といわれたコルボーンの「奪われし未来」。これは環境ホルモンの恐怖を豊富な調査資料をもとに書かれている。環境ホルモンに関しては幾冊かの本を読んだが、その殆どが恐怖をもたらすものであった。この書物以降、環境ホルモンのリスト67種が環境省から発表された。これは疑わしいリストであって、環境ホルモンそのものではない。そし2002年11月現在では28種が残っている。28種がリスク評価に取り組むとされたもので、削除された物は研究を続ける意味のない物質だった事になる。あまりの恐怖に騒ぎすぎたのかも知れない

極々微量のナノマイクログラムといわれると、身の回りの全ての物質を疑わなくてはならない。化粧品や医薬品はじめ日常使うものに触れただけでナノミリグラムの取り込みは起こりうる。心配御無用の著者の記述では、化学物質が環境ホルモンとなったのではなく、ほとんどが尿にまじって河川などに排出された人畜由来の女性ホルモンの影響だったと、、、これに関しては私も充分な情報を持ち合わせていないし、学習も進んでいないので、なんとも言い難い。

食をめぐるデマ

黒砂糖はミネラル豊富で体に優しいと、よく聞かれる。食養の治療家までも黒砂糖は良いが白砂糖厳禁、せいぜい三温糖をと勧める。黒砂糖の90%は白砂糖なのだ、そして残りの不純物に健康に良いというほどの成分がある訳ではない。三温糖に到っては、白砂糖にカラメルという着色料を添加して作る。黒砂糖100gにカルシウム240mg。これがミネラル豊富の正体だが、元は製造途中で添加する石灰の残留物なのである。これが有効と仮定しても黒砂糖を100gも食べる人はいない。せいぜい10〜20g、これで24〜50mgのカルシウムである。甘味料の使用に健康的価値を求める必要があるのだろうか?料理の味を増すという理由なら、ある時は黒砂糖、またある時はグラニュー糖や蜂蜜などでも構わない。清涼飲料水などで著しく多くの砂糖を摂取しないかぎり、ただ味わいや好みだけで選んでも差し支えない。健康に良いからと豊富に取る事こそ注意しなくてはならない。

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自然塩も同じくミネラル豊富で・・・と言われる。しかし、そのミネラルが逆に、体に悪いと主張する人もいる。このように脅しておいて、ただの精製塩を高く売ったり、妙なサプリメントを勧めたりする。化学塩も自然塩も殆どNaCLであって、わずかな挟雑物のミネラルを含むのみである。それはより天然に近くてよさそうな気はする。しかし自然の海水そのままではない。ニガリ成分は本来取り除かれる不純物なのである。現在、日本の塩は殆ど外国の原塩を輸入し不純物を取り除いたものである。○○の塩と、、謳いあげても言葉やパッケージの違いほどもないのだ。しかし味はかなり違って感じられる。わずかでもニガリ成分が残留していると味覚に深みと旨みをもたらすが、それが自然で体によいとは言えない。あくまでも味覚が優れ自然の恵みを感じるだけなのである。一部に塩田法で製造する自然塩もなくはないが、海洋汚染のことを考えるとそこまで拘る気にはなれない。ミネラルを有効に摂取できるものを砂糖や自然塩に求める必要はない。

自然塩が体に良いという妄想のもと、自然塩をカプセルに詰めて服ませ続ける治療家がいる。やがて体に浮腫みが生じると、まだミネラルが足りないと、さらに多くの自然塩を強要する。

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私は牛乳に関して快く思っていない。食材のひとつではあるが、とりわけ優れた栄養素でもないものを蛋白源とかカルシウム源として、水代わりに飲ませようとする業界の宣伝は、暴力とさえ感じる。自然派の人々や食に意識の高い人々も同じ事を主張する。ところがその一部から、高温殺菌はダメだが、低温殺菌、ノンホモなら良いとか、低脂肪なら良いなどと言った声が聞かれる。

高温殺菌がダメという証拠はない、ただ蛋白質の立体構造が変わっただけで栄養上はまったく問題がない。低温殺菌、オーガニック作物で飼育した牛乳ならばアトピーにも大丈夫だと誤解をしている人もいる。低脂肪牛乳に関しては動脈硬化、心臓病予防のためという理由が多い。これは加工乳に分類される。生産地で脱脂粉乳やバターに変えて保存し、消費地で再調整する。油脂はバターではなく大豆油だったりするのだ。ただ「低脂肪」とつくだけで、質も悪く脂肪量も大して変わらない。漠然とした健康や安心感に対価を支払っているに過ぎない。これ以外にもカルシウム強化牛乳、アレルギー物質除去牛乳などがある。カルシウムを添加してまで飲まねばならない理由がどこにあるのだ。アレルギーなら牛乳に頼らずとも他の食物で間に合うではないか。

高温殺菌牛乳は蛋白が変性し焦げ臭く風味が良くないという事はある。低温殺菌こそが風味を温存するものだというのも解らないではないが、それはそのままで良いではないか。それを健康や安全という領域まで拡大するから怪しいものへと変質して行くのである。

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水も拘れば限がない、そこに付け込む水ビジネスも花盛りである。水道水の塩素が問題とされる。確かに塩素は危険だが、そこを利用し細菌の発生を抑えるため残留塩素の基準が決められている。このおかげで危険な微生物から身を守られるのである。微量の残留塩素の危険より伝染病などの被害がはるかに大きい。水ビジネスでは、この塩素を検出する試薬を加え茶褐色になった水道水を示す。そして何十万もする浄水器を通し塩素の除去効果を実演して見せる。飲む直前には水道管を流れる異物や塩素を除去できれば良いに越したことはない。中空糸膜と活性炭の組み合わせがあれば、ほぼ目的は達成できる。価格も2万円前後で入手できるので、これくらいは備えておいて良いと思う。何十万もする器械は断じて要らない。

山の湧き水にも人気があり、休日ごとに一週間分の水を求めて車を走らせる。しかし、これは無殺菌である。腐敗や雑菌の繁殖には警戒し必ず煮沸してから飲用に供するべきだ。霊水だから腐らないという誤った認識をもつ人もあるが、元気だから多少の雑菌で被害が起こらないだけなのである。

井戸水の飲用は地下水汚染のため避けたほうが良いが、水道水とミネラルウォーターはそれほど変わりはない。むしろミネラルウォーターのほうが衛生基準が緩いのだ。塩素殺菌が為されていないだけに雑菌に関しては注意がいる。カビや異物混入で回収されたという新聞記事をしばしば目にする。

本当の危険とは...

食物の現実的な危険を考えるなら、まず食中毒、次に食物毒である。これは食品衛生学として調理師、栄養士の必須科目になっている。フキンやまな板、包丁の洗い方まで、、、奥の深い学問である。

食を語るとき、食材の働きや味覚、そして添加物などの話はするが、食品の衛生については殆ど置き去りにされている。食中毒を防ぐことは身近で重大な問題である。この取り扱いをおろそかにすると死を招く危険さえ生じる。厚生労働省の統計では毎年5万人近くの患者を記録している。O-157で多くの死者が発生したが、添加物や農薬、環境ホルモンの害などと比較にならない恐怖がある。夏季6〜10月は食中毒の発生の頻度が最も高い。5万人の報告は集団発生の数で、氷山の一角にすぎない。家庭レベルでの発生頻度は膨大な数であろう。殆どが、腹痛、下痢を伴う胃腸炎で処理され、あるいはちょっとした食あたりで済まされてしまう。抵抗力の落ちた人にとっては重篤な危険を招くこともあるのだ。

新鮮なものを生で食べるのがもっとも高級で良い食べ方であるかのような錯覚を持つ人はおおい。私は刺身や肉を生で食べるのは苦手である。醤油やたれの味で食べるに過ぎない。魚や肉をそのまま食べて、どこに深い本物の味があるのだろうか?テレビの料理人が畑でとれたばかりの野菜を齧る。釣れたばかりの魚をその場でさばいてそのまま食べる。「やはり素材そのものが最高に美味い!」と、訳の解からないことを口走る。それなら料理の意味はないし、料理人も失業ではないか。余談はさておき、生食の中でも貝の毒には注意がいる。アサリ、カキ、ホタテなどの貝毒は加熱しても無くならない。店で販売されるもの以外、又潮干狩りへいく場合は貝毒に関する警戒情報をチェックして食べるほうが良い。このうちカキに関しては最近、小型球形ウイルス(SRSV)が知られるようになった。これによる患者数は2001年の患者数8000人に迫るもので腸炎ビブリオ、サルモネラを抜いてトップに立った。

カキに関しては貝毒と食中毒の両方で注意を要する。新鮮生食用と表示があっても中毒は発生している。産地偽装であった例もあるが、とにかくカキは生で食べない第一候補である。また、腸炎ビブリオの恐れのある刺身。特に夏期においては食べるのはやめた方がよい。特に肝炎の人にとっては命取りにもなりかねない。夏場の気温ではわずか10分で倍に増殖し、2〜3時間で食中毒発生レベルまでなる。スーパで刺身を買い、温室と化した車で帰宅中、危険は倍増するのである。幸い発生しないことが警戒感を薄くしている。刺身など夏食べて美味いとは思わないのだが、、、好きな人は居るものだ。この他生卵や鶏肉のサルモネラ。刺身や生肉での寄生虫の問題もある。凡そ、加熱しないで生で食べるということ自体、一種異様な食べ方なのである。

求道とも思えるほど食材を追求する。又禁欲的なまでに食の戒律を守る。このような人々がいるかと思えば、三食ともコンビニで済ます人もいる。食事から摂取できないとして、色とりどりのサプリメントを飲む人もいる。食生活はこのように多面な構造をもっている。食情報が色んなメディアから流れ、あるいは栄養の専門家の指導もあり、知人の体験談もある。いずれも何らかの食行動へと向かう契機となるであろう。しかし、知識や科学で読み解く食にも限度と限界がある。○○に良い、○○が含まれている、というものや、危険情報、安心情報など知るのも大切である。だからと言ってその価値観で食を論じ食べるのはいかにも味気ない。

食の楽しさや味わいを、健康や科学のフィルターで解釈するからこそ、奇妙な論理や食行動が起こってくる。美味いものは美味いままで、そのままで良いではないか。政治や経済は人任せで動いてゆくが、食に関する限り、人任せでは済まない自らの問題である。怪しい情報に迷わない為にも、食への素朴な思いを温め続けたい。

最後に、果たして簡単に食習慣を変えられるであろうか?食習慣とは長年かかって出来上がった牢固なものである。「へ〜っ、そうなのか。」と思いつつも、昨日もそして明日も似たような食生活を続けていくに違いない。

 

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